2011年7月号
物流行政を斬る

第4回震災の影響で関連予算凍結高速道路料金の無料化より空港や港湾にこそ投資を

JULY 2011  76 流通コスト削減効果はわずか  東日本大震災の復旧・復興を主目的とした第一次 補正予算が、五月二日に可決・成立しました。
歳 出規模は四兆一五三億円で、災害対応公共事業関 連費(一兆二〇一九億円)、災害関連融資関連経費 (六四〇七億円)、災害救助等関係経費(四八二九 億円)等が主な支出項目です。
 そのうち国土交通省関係は一兆一四八九億円で、 全体のおよそ三割を占めています。
その内訳は、? 被災した河川、道路、港湾、空港、下水道等の災 害復旧等事業や各種施設の復旧、?被災者向けの住 宅の確保、?復旧・復興に向けた調査の三つで、? に九六六二億円、?に一六七六億円、?に一五一 億円が計上されました。
 ?についてさらに細かく見ると、中心的な項目は 「災害復旧等事業」の八九八四億円であり、そのう ち「公共土木施設等(河川、道路、港湾、下水道 等)」が七七五一億円です。
また東日本高速道路や 首都高速道路といった「有料道路の災害復旧」にも 四九二億円が充当されています。
いずれも緊急性の 高いもので、予算の付け方の方向性は高く評価でき 震災の影響で関連予算凍結 高速道路料金の無料化より 空港や港湾にこそ投資を  第一次補正予算で多額の復興予算が組まれた。
その一 方で、原資捻出のために高速道路料金無料化に関連した予算 が凍結されている。
二転三転する政府の方針は評価に値しない が、このタイミングで高速道路無料化の是非を再考すべきだ。
第 4 回 ます。
 一方で、予算を計上するには当然そのための歳入 が不可欠です。
今回の歳入の一部となる規定経費の 減額分は三兆七一〇二億円ですが、その主なものは 「基礎年金国庫負担の年金特別会計へ繰入の減額等 (二兆四八九七億円)」「経済危機対応・地域活性化 予備費の減額(八一〇〇億円)」等です。
 そしてよく見ると、「高速道路の原則無料化社会 実験の一時凍結に伴う道路交通円滑化推進費の減額 (一〇〇〇億円)」があります。
また税外収入として 計上されているものに「独立行政法人日本高速道路 保有・債務返済機構納付金(二五〇〇億円)」があ ります。
金額こそ大きくはありませんが、これらは わが国の物流に大きな影響を与えるものです。
 本欄の第一回目(今年四月号)で考察したよう に、民主党政権は二〇〇九年の衆議院議員選挙に おけるマニフェストで、「高速道路を原則無料化して 地域経済の活性化を図る」といった方針を掲げまし た。
そして一〇年六月には、実験のかたちで一部の 高速道路の無料化が実現しました。
 さらに一一年一月にはトラックの夜間無料区間が 新設され、本年四月からは一四九三?の区間に延伸 される予定になっていました。
全日全車の無料化社 会実験区間(一九八一?)と合わせると、トラック は、夜間に限れば東北地方及び日本海側のほぼ全域 で、無料で走れるようになるはずでした。
 今回の第一次補正予算は、こうした方向性を大き く変更するものと言えます。
「一時凍結」という表 現が使用された通り、高速道路の無料化にブレーキ がかかった格好です。
実際、夜間のトラックに限定 した長距離区間での無料化実験は実施が見送られる ことになりました(被災者を対象にした東北地方の 高速無料化は実施)。
今回は、そもそも高速道路の 無料化は必要なのか、一度立ち止まってその是非に ついて考えてみることにしましょう。
 民主党がマニフェストで掲げた高速道路料金の無 料化の目的の一つに、「流通コストの引き下げを通じ て、生活コストを引き下げる」があります。
確かに 高速道路料金が無料になれば、その分、最終消費者 が負担するコストは削減されるでしょう。
アメリカや ドイツなどの主要先進諸国はこの考えに基づき、高 速道路料金は原則無料となっています。
しかし、日 本においては高速道路の無料化は必ずしも必要無い というのが私の個人的な見解です。
物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚 77  JULY 2011  その根拠を説明するために、まずトラック事業者 の経費構造を見てみましょう。
全日本トラック協会 『経営分析報告書』によると、全体の費用のうち、運 送費は八六・七%、一般管理費は十三・三%です (いずれも〇八年度の数値)。
運送費のうち三七・三 %が人件費、一七・八%が燃料油脂費で、道路使 用料はわずか三・七%に過ぎません。
つまり、高速 道路使用料が無料化されたとしても四%弱の削減効 果しかないことが分かります。
高速道路を使用せず 一般道路を通行することで、人件費や燃料費が増加 する可能性はありますが、それもさほど大きくはな いでしょう。
もちろん使用するトラックのサイズや 配送頻度、荷主との契約形態等により大きく異なる ため、平均で見ることの危険性には留意する必要 はありますが、高速道路料金の無料化にはあまり インパクトが無いことに間違いは無さそうです。
 次に、売上高物流コスト比率を日米で比較する と、〇九年段階で米国八・四八%に対し、日本は わずか四・七七%に留まっています(日本ロジス ティクスシステム協会「二〇〇九年度物流コスト調 査報告書」)。
低い人件費に加えて物流企業の絶え ざる合理化努力もあって、日本の物流コスト水準 は低く抑えられているのです。
高速道路料金を無 料化することで、さらなるコスト削減を推進する インセンティブは、欧米に比べて大きくないという のが実情です。
高速道路無料化再考の契機に  もちろん、高速道路が無料化されることで、(わ ずかとはいえ)流通コストが引き下がり、消費者 の生活コストを低減させることはメリットといえま す。
地域経済の活性化を促すと言った利点もある でしょう。
 しかし、一方ではそれ以上のデメリットもありま す。
高速道路を利用する車が増えることで渋滞や 交通事故が増えること、環境負荷が増すこと、内 航海運や鉄道といった他の輸送モードに影響が出る こと、さらに高速道路の維持管理費を賄えず税金 の投入が不可欠になること等があげられます。
 特に税金の投入については冷静な判断が必要に なります。
現在の逼迫した財政下では、本当に必 要な領域に限定して税金を投入していくことが求 められます。
得られるメリットの少ない高速道路 無料化よりもむしろ、諸外国との熾烈な競争下に 置かれる外航海運や航空等の分野に税金を投入する べきではないでしょうか。
 日本の空港や港湾の使用料水準は近隣諸国に比べ て高く、また利便性の面でも大きな遅れを取ってい ます。
このため、韓国、中国、シンガポールといっ た諸外国にハブ機能を奪われ、旅客や貨物が流出し ているのが現状です。
この分野にこそ積極的な税金 投入を検討して競争力を取り戻す必要があります。
 もちろん、高速道路料金が有料であり続ければ、 その物流費は最終的に製品価格に跳ね返るため、諸 外国の製品との競争力が低下する可能性はあります。
それでも先述したようにそのコスト上昇分はさほど 大きくはありません。
また、どうしてもコストが気 になるのであれば、輸送網を見直して極力高速道路 を使わないといった選択もあるでしょう。
 今回の第一次補正予算を通じて、高速道路の無料 化やトラックの長距離区間での夜間無料化は一時凍 結されました。
東日本大震災の発生に伴う復旧・復 興費用の捻出のためですが、見方によってはもう一 度、高速道路無料化について考え直すチャンスと捉 えることもできます。
より長期的な視点からメリッ トとデメリットを十二分に勘案し、その上でその方 向性を決定しなければなりません。
物流行政全体の 中で高速道路のあり方に関する議論がなされていく ことに期待したいところです。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの研究会「ロジスティクス&チャ ネル戦略研究会」を主宰。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。
トラック運送業界の総経費の構成(単位:%) 計 人件費 燃料油脂費 修繕費 減価償却費 保険料 施設使用料 自動車リース料 施設賦課税 事故賠償費 道路使用料 フェリーボート利用料 その他 計 人件費 その他 86.1 38.7 15.0 4.9 4.9 2.5 1.0 2.0 0.7 0.2 4.0 0.6 11.4 13.9 8.2 5.7 100.0 86.0 37.8 16.5 5.1 5.0 2.5 0.9 2.1 0.6 0.2 3.9 0.5 10.8 14.0 8.2 5.7 100.0 86.7 37.3 17.8 5.1 5.5 2.3 0.9 1.9 0.6 0.1 3.7 0.7 10.7 13.3 7.9 5.5 100.0 運送費 一般管理費 合計 項目 年度 平成18年度 平成19年 平成20年 資料:全日本トラック協会「経営分析報告書」より作成 (注):端数処理の関係で合計が一致しない場合がある

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