2011年7月号
SOLE

民間航空機の整備計画策定と実践耐空性、安全性、信頼性の確保に向けて

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics JULY 2011  78  五月度のフォーラムでは、JAL エアロ・コンサルティングの小林哲也 専務取締役が「民間航空機の整備計 画策定と実践(民間航空機における 整備方式とその運用方法)」について 講演を行った。
民間航空機の整備プ ログラムは航空当局、航空機メーカ ー、航空会社の三者により設定され、 運用開始後も改善が施される。
その プロセスの概要を説明いただき、以下 の文章の寄稿もしていただいた。
(企画担当:SOLE日本支部幹事 川上 智) 1.民間機整備の歴史と目的  民間航空機の整備は戦争と事故に よって発展してきたと言える。
その歴 史はライト兄弟が一九〇三年に初飛 行した時から始まったが、二度の世界 大戦と人員物資の航空輸送の始まり により、安全性の確保、信頼性の向 上が整備に求められるようになった。
 その後、ジェット機時代が到来し 航空機が高高度を飛行するようにな り、航空機内が与圧され、その繰り 返し圧力によって疲労破壊されると いう、それまでには経験もしなかっ た事故が相次いだ(コメット機事故)。
このため、航空機の設計はもとより、 整備にも疲労に対応する仕組みが求め られるようになった。
更にジャンボジ ェット機の到来と共に航空機の大量輸 送時代が始まり、それまで以上に信 頼性の向上が求められたため、信頼 性管理に関する理論の構築が進んだ。
 整備についても理論的な考え方に 基づいて、異なるメーカーであっても、 或いは異なる型式の航空機であって も、同じ理論に基づいて整備は実施 されるべきだとの考え方から、後述 するMSG(Maintenance Steering Group)という機関が設立され、整備 理論の確立がなされた。
 民間航空機における整備の目的は 勿論、航空法第一〇条に定められて いる耐空性の維持であるが、更に航 空会社としては快適性と定時性を常 に提供できるよう、航空機及びその 部品の機能、信頼性の維持向上を目 指している。
 民間航空機の耐空性を維持する 仕組みは、まず航空機の製造の段階 で、その設計が安全基準を満たして いるかが証明され(型式証明:Type Certificate)、また設計通りに何機 でも製造できる能力を持っているこ との証明( 製造証明:Production Certificate)を保有する航空機メーカ ーが製造し、その製造した航空機が、 安全に飛行できることの証明(耐空 証明:Airworthiness Certificate)が なされることにより耐空性のある航 空機を受領するところから始まる。
 航空会社は、航空機を受領する 際に、航空機メーカーより渡される 耐空性を継続するための指示書(I C A :Instruction for Continued Airworthiness)に基づいて、社内規 程(整備規程及び業務規程)を作成 しなければならない。
それぞれの航 空会社が、それの規程に従い整備す ることによって耐空性が維持されてい る。
航空会社の整備作業には、 ●耐空性があることの確認作業(検 査、点検、試験等)→定例作業 ●耐空性を回復する作業(所謂修理) →修理作業 ●耐空の基準のフォロー(向上)→改 修作業 がある。
それらの作業を恒常的に行っ ていくためには、それを可能とする能 力や体制(Air Carrier Maintenance Program)を持った組織(整備部門 や個別の整備会社)が必要で、更に、 PDCA(Plan, Do, Check, Action) によって、常にその能力や体制の改 善に努めることが重要である。
2.整備計画書の策定と運用 整備計画書の策定  航空機の不安全領域をカバーする ために、最低限必要な安全基準が法 律(航空法)で定められ、航空機メ ーカーはその安全基準を十分に満たす 設計を行い、航空会社は航空機の信 頼性を維持向上させるため、各航空 会社独自の信頼性目標を設定し整備 を実施している。
 しかし、不安全領域は必ずしも同 じところに留まらず、時に航空会社 の信頼性目標をも脅かすことになる。
従って、常にその状況をモニターし、 不安全領域が表に出ないよう、日常 的な活動によって信頼性目標を設定 し直し、整備を実施することが重要 となる。
つまり、一度設定された整 備プログラムを常に見直し、航空機を 受領し退役するまで改善し続けるこ とが求められている。
民間航空機の整備計画策定と実践 耐空性、安全性、信頼性の確保に向けて 79  JULY 2011 ジック(理論)は、一九六八年にボ ーイング社が設計した747型機にM SG─1として初めて採用され、一九 七〇年に他機種にも適用できるよう、 MSG─2となった。
 当初は時間限界(Hard Time)を 決め、航空機や部品の状態に係わら ず取卸して整備を行う整備方式(オ ーバーホール)が主流となっていた が、航空機や部品の状態をある一定 の時間で点検した上で必要な整備を 行うOC(On Condition)や、不具 合が起きるまでモニターし、不具合が 起きた場合に必要な整備を行うCM (Condition Monitoring)という考え 方が取り入れられた。
 その後一九八〇年になって、航空 機技術の進歩に伴い、損傷許容設計 の採用や、信頼性管理手法に基づい た整備方式理論(RCM:Reliability Centered Maintenance)の検討ロジ ックが取り入れられ、現在のMSG─ 3理論が確立され、ボーイング社の7 57、767、747─400等の 整備プログラム策定に採用された。
 MSG─3による整備の考え方は、 その航空機が本来所有している安全 性・信頼性を?確保し、?それが損 なわれたら元に戻し、?またそれを 改善するための情報を集めるための 作業(Task)を、?もしそのTask を放置した場合にもたらされるコスト  策定された整備プログラムは監督官 庁の承認を得た後、MRB Reportとい う報告書として航空会社に提供され る。
航空会社はそのMRB Reportと、 航空機メーカーから提供されるMPD (Maintenance Planning Document :アクセス条件やスキル、工数等が記 載されている)に基づいて、国によっ て異なる運航要件や運航環境を加味 した、その航空会社独自の整備要目、 整備プログラムを策定する(図3)。
MSGの歴史  MSGによる整備プログラム策定ロ  民間航空機では、新型航空機の製 造を決めてから(プログラム・ローン チという)一号機が就航するまで少な くとも五年が必要であり、整備プログ ラムの検討・策定は新型航空機の設 計と同時に行われる。
整備プログラム の策定が困難と判断される場合には、 必要な設計変更を行い、再度整備プ ログラムの検討が行われる(図1)。
 民間航空機の就航から退役までは 約二〇年といわれているが、その根 拠は経済的な理由による。
航空機は 経年化と共に整備費が増大し、整備 機会が増え、また競合機の出現によ り競争力を失うため収益も減ること になる。
退役までの間、航空会社は 自社の運航経験や航空機メーカーの 指示、航空当局の指導に基づいて整 備作業を実施し、その航空機の安全 性と信頼性、更には快適性・定時性 の向上を目指している(図2)。
 一方、航空機メーカーは初号機が 就航するまでに、その航空機の耐空 性を維持していくためにどのような整 備を実施すべきなのかを策定すること を航空当局より求められる。
そのため、 航空機メーカーは、ローンチングオペ レーター(最初にその航空機の導入 を決めた航空会社)と監督官庁(航 空当局)と共に整備プログラムを検討 する会議体(MRB:Maintenance Review Board)を組織し、MSG─ 3という整備プログラム策定ロジック (理論)に基づき、最初の最低限必要 な整備プログラムを策定する。
図1 民間航空機の一生(Delivery まで) メーカーエアライン マーケットリサーチ 製造開始 マニュアル類設定 試験飛行開始 型式証明取得 量産体制 整備プログラム策定 エアライン要求の反映 整備プログラム検討開始 ローンチングへの参加 初号機デリバリー 設計への要求 整備プログラム 検討 新型機への欲求 ワーキング・トギャーザー 設計開始 -5 -3 -1 0 出所:JAL エアロ・コンサルティング(以下、すべて同じ) 図2 民間航空機の一生(Delivery から退役まで) メーカーエアライン 初号機デリバリー 退役 自社の運航経験 国内法による規制 SB 発行 ICA 改定 改修 エアラインの運航経験 法による規制 運航経験と改修の蓄積によ る安全性/信頼性の向上 メーカーの役割は航空機を売ること だけではなく、退役まで耐空性を維 持できるよう、サポートすること。
エアラインの安全性・信頼性 向上の努力は退役まで続く 新鋭機の開発による競争力低下 経年化による品質低下、整備費増 協調 図3 整備要目の決め方 INDUSTRY FAA MANUFACTURER OPERATOR W/G MSG Logicによ る整備要目設定 (各グループ) ISC FAA Policy 基本検討方針設定 MPB Report 原案と りまとめ Design Data Failure Analysis Maint. Manual Access Condition Man-Hour Data 等 Program Packaging Maint. Requirement Manual MPD MRB Report 原案 MRB Report (FAA 承認) 監督官庁 の承認 (注)但し、Makerが 発行するICAの一部 路線構成 運航環境 JULY 2011  80 標のモニター方法としては、以下があ る(図6)。
●重要事象管理(Event Monitoring) :重要な不具合事象の原因を解析 し他機への対策を実施する手法 ●傾向管理(Trend Monitoring): 部品の取卸しや、故障発生傾向を モニターし原因解析を行う手法 ● 特定管理(Specific Monitoring) :既に設定されたモニター方法によ り不具合を早期に発見する手法 ● 全体管理(Total Performance Monitoring):重要な不具合を機 種毎にモニターし、さらに詳細な解 析のトリガーとする手法。
遅延発 生率や引き返し発生率、エンジン  ?機材品質は、安全性、耐空性、 信頼性、定時性、快適性などがその 尺度であり、航空機、エンジン、装 備品やそれら構成部品の設計が影響 する。
?作業品質とは、航空機、エ ンジン、装備品やそれらの構成部品 の製造時、整備時の作業の品質を意 味し、ヒューマンファクター、設備 機材、作業環境が影響する。
整備作 業の品質を維持するためには、所謂 4M(Man, Machine, Method, Material) が重要であり、とりわけMethod(方 法)を規定している規程(定)類、マ ニュアルが重要である(図5)。
 Methodを規定している様々な規程 (定)類の中でも、定期航空運送事業 者として必要と航空法で定められてい る整備関連の規定としては、安全管 理規程(航空法第一〇三条の二)、整 備規程(同第一〇四条第一項)、業務 規程(同第二〇条)があり、今まで 述べた整備要目を定めているマニュア ルは整備規程に属している。
 機材品質を管理して行く上で重要 なことは、?目標の設定、?目標の モニター、?目標の評価、?目標の 見直しで、所謂PDCAである。
民 間航空機では、機材品質の目標とし て、定時出発率(スケジュール通り出 発できた割合)や部品の故障取卸率 (一定の飛行時間当たり故障で取卸さ れる部品の数)を使用する。
また目 航空会社の運航形態や整備体制など の条件を考慮しながら、整備プログラ ムを独自に策定する。
 整備Taskのパッケージングもそ の一つの考え方であり、整備要目と 整備プログラムは表裏一体の関係にあ る。
なお、パッケージングの考え方に は、大きく分けると以下の二つの考 え方がある。
●ブロックメンテナンス: 保有機数 (他機種も含め)が多い航空会社で は、整備Taskをまとめて実施す る方が効率的である。
整備用の予 備機を持つ(他機種と共用)必要 があるが、作業工数と作業日数を 効率化できる ●イコライズドメンテナンス:保有機 数が数機程度の航空会社では、で きるだけ小さなパッケージに平準化 して、運航していない時間(夜間) や期間(閑散期)を利用して頻繁 に実施する方が効率的である。
ト ータルの作業工数と作業時間は増 えるが、機材数の削減により効率 化が図れる 3.品質保証と信頼性管理 民間航空機の品質の維持  民間航空機の品質は?航空機機材 そのもののハードの面からの品質、? ソフト面での作業の品質、で保たれる。
を含め、最小限のコストで達成するこ とが目的となっている(図4)。
 MSG─3はその後も航空機技術 の発展(複合材の採用、SHM: Structure Health Monitoring、CPCP : Corrosion Preventive Control Programなど)や法的規制による進 化を続けており、現在の最新版はR ev.2009となっている。
整備要目と整備プログラム  民間航空機では、それぞれの型式 の航空機によって実施すべき作業の項 目、実施する時間間隔、Taskなどを 整備要目として定める。
 また、整備作業を効率よく行うた めに、作業を秩序立てて分類し、そ れぞれの整備要目の役割と相互の関 係を体系付け、生産管理上、航空機 の運航スケジュールを守りつつ、どの ように整備を組み立てるか、自らの 図4 MSG-3 による整備の考え方 航空機が本来保有している安全性・信頼性 ?確保 ?劣化(故障)したらもとに戻す ?改善するのに必要な情報を得る ?不具合によってもたらされるコストも含め、 最少費用で達成する が可能な整備プログラムを設定する 図5 整備規程 1. 整備の人員 2. 整備基地 3. 整備の方式 4. 整備の実施方法 5. 整備管理 6. 整備の記録及び報告 7. 運用許容基準等 8. 最近の整備経験並び に教育訓練及び審査 9. 整備の委託 マニュアル類(ICA) ・Maintenance System Manual ・Aircraft Maintenance Manual ・Powerplant Overhaul Manual ・Component Overhaul Manual ・Maintenance Requirement Manual ・Structure Repair Manual ・MEL/CDL Manual ・Illustrated Parts Catalogue 等々 本書付属書 81  JULY 2011 の注意点を追記したりして、出来る だけエラーを誘起しないような書き方 を心がけている。
 ヒューマンエラーへの対応としては、 従来からの施策 ● MRM : Maintenance Resource Management ●ヒヤリハット報告制度 ●技術の伝承・人材教育 ●間接部門のサポート に加え、 ●ヒューマンエラー管理プログラム (専門インタビュアー、アドバイザ ーの活用) ●確認会話事例集の作成活用 ●非懲罰制度 を導入している。
用実績等が存在しない状況において 作成されるため、保守的な要件とな る傾向がある。
このため、型式証明 の申請者が、就航後の運用実績等を 踏まえて定時整備の間隔を変更する 場合は、国際整備方式審査会方針検 討会議(International Maintenance Review Board Policy Board: I M RBPB)が発行するIssue Paper(I P) 44 の最新版に定める整備要目の 間隔の最適化手法に基づき、定時整 備の基本的な要件の変更案を作成す ること﹂と定められている。
 従って、故障情報の収集、及び情 報を航空機メーカー、監督官庁(航空 当局)、航空会社の間で共有すること が非常に重要となる(図7)。
作業品質の保証  作業品質を保証するには、?作 業手順、?整備士資格、?検査、 ?教育訓練、?監査、?企業文 化が重要であり、民間航空会社は、 それら一つひとつに対して自らの 整備体制(人員、機材、設備な ど)に合った制度を構築し運用す ることで、作業品質を維持する努 力を継続的に行っている。
 作業指示書であるWork Sheet やJob Cardについても、作業者 が誤解しないよう、作業の要点を 分かりやすく記載したり、作業上 (前述)により、機材故障を未然に防 止することにある。
そのためには、故 障が発生した場合は、原因を究明し 対策を設定・実施し同様な不具合の 発生を防止することである。
 整備要目の改善はその対策の中の 重要な項目であり、航 空会社は航空機メーカ ー、監督官庁(航空当 局)と協力し、常に整 備要目の改善に努めてい る。
日本の航空法のサー キュラー?1─317に は﹁整備の間隔の最適 化手法﹂として、﹁新規 型式の航空機の定時整 備の基本的な要件は、運 空中停止率などをモニターする 信頼性管理 民間航空機の信頼性管理の目的は 機材品質の維持向上であり、既に設 定されているモニタリングプログラム 図6 信頼性管理方式に基づく整備方式 運航の実施 航空機 乗務員 航空日誌 システム作動状況レポート (AIMS, AMCS) 整備の実施 定例作業 (信頼性の維持) 修理作業 (信頼性の回復) 改修作業 (信頼性の向上) 報告書 整備情報ネットワーク システム 毎朝のブリーフィング 改修仕様書の発行 規定の変更 技術指示書の発行 マニュアルの変更 その他 モニタリング ●イベントモニタリング 安全性に関わる事象 乗客のサービスに関わる事象 ●トレンドモニタリング 諸系統の故障率 装備品の計画外取り降ろし率 ●スペシフィック モニタリング ECM(エンジン・状態監視) SOAP(エンジン・オイル金属成分) OCM(エンジンオイル消費率) ●トータルパフォーマンスモニタリング 整備本部管理指標 (技術情報) 航空機製造メーカー エンジンメーカー 装備品メーカー 監督官庁 耐空性改善通報 サーキュラーなど 技術部門 ・解析及び評価 ・故障原因の究明 ・技術情報 ・改善通報 ・整備要目 ・運用許容基準 ・整備手順など 処置/対策の決定 ・改修作業 ・整備プログラムの改定 ・一斉点検 ・整備手順、リミット などの変更 図7 メーカー・監督官庁との品質情報の共有化 航空機メーカー 航空会社 監督官庁 (設計/製造/運航 /整備の審査) 改修通報 故障情報 特別検査通報 マニュアル改定 故障情報 設計変更通報 故障情報 耐空性改善通報 (設計/製造/プロダクト・サポート) (運航/整備) 次回フォーラムのお知らせ  7月度のフォーラムは、7月14 日(木)日本能率協会コンサル ティング( JMAC)の中森清美 氏による講演「非定常工程計画 と運用管理」を予定している。
このフォーラムは年間計画に基づ いて運用しているが、単月のみ の参加も可能。
1回の参加費は 6,000円。
ご希望の方は事務局 (s-sogabe@mbb.nifty.ne.jp) までお問い合わせ下さい。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから