ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年9号
現場改善
第104回オーナー系倉庫会社M社の二五年目の夏

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

87  SEPTEMBER 2011 徒手空拳で倉庫事業に参入  
夕劼賄賈未頬楴劼鮹屬オーナー経営の倉庫 会社である。
年商は一〇億円に満たないが、単 純なスペース貸しの他に、一部、営業倉庫事業 も手掛けている。
 社長のS氏はM社の二代目だが、先代の時 代までは倉庫業ではなく別の事業を営んでいた。
S氏は大学院卒のインテリで、他の道を選択す ることもできたのだが、父親の懸命に働く後ろ 姿を見て跡を継ぐ決意をした。
 ただし、先代の手がけていた事業は自分には 不向きで、将来性もないと考えた。
そこで先代 とも相談のうえ、事業を売却し、その資金で先 ずは一棟目となる延べ床二〇〇〇坪の倉庫を建 設したのであった。
 倉庫事業に活かせるような人脈や知識を持ち 合わせていたわけではなかった。
アパート経営 のような感覚で見知らぬ業界に飛び込んだ。
今 になって振り返れば無謀な賭けではあった。
そ れでもS氏の人なつこい性格と勤勉さが奏功し て、徐々にではあったが倉庫経営の基礎を修得 していったのであった。
 それから今年で二五年になる。
ここに至るま でに様々な壁にぶちあたった。
最初は「営業」 の問題であった。
立地の良い場所に倉庫を建て れば、自然と店子も集まるだろうと、当初は甘 く考えていた。
しかし、とてもそんなものでは なかった。
 
夕劼料匕砲亙流拠点として申し分のないエ リアに立地していたが、その分、周辺には競合 となる倉庫が多くあった。
S氏自ら飛び込み営業 を行い、倉庫の空きを埋めようと懸命に働いた。
しかし、「よそと比べて賃料が高い」、「おたくの ?売り?は何なの」、「そんな倉庫会社は聞いた こともない」と、にべもなかった。
 それでも三年続けた飛び込み営業で、多くの ことをS氏は学んだ。
貸倉庫と言えどもソフト がなければ客はつかないこと。
そのためには単 純なスペース貸しと並行して倉庫業務も請け負 う必要があること。
さらにはスペース貸しと業 務請け負いのバランスが重要であること。
その 割合は五〇対五〇程度が適切であること等々、 営業面で多くの苦汁を舐めた経験が現在のM社 の運営ノウハウの一つとなっている。
 営業の次に直面した壁は、「人と組織」の問 題であった。
素人のS氏には、物流人材、物流 現場に求められる人物像を描くことができなか 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  先代から引き継いだ事業を売却し、その資金で倉庫事業 に参入した。
しかし、世間は甘くなかった。
いくつもの壁に ぶつかり、そのたびに辛酸をなめながら四半世紀を何とか 生き抜いてきた。
そこにリーマンショック、そして東日本大 震災が襲った。
経営の現実を直視できなくなった経営者は酒 と女に溺れていった。
オーナー系倉庫会社M社の二五年目の夏 第104 回 SEPTEMBER 2011  88 った。
採用しては辞めていく。
その繰り返しが 長く続いた。
 そんなある日、知人の紹介でT氏が入社して きた。
物流経験は数年足らずということだった が、それまで採用した人物とは一味違っていた。
実直な人柄で、毎日夜遅くまで黙々と働く。
こ のT氏が定着するようになって、磁石のように 現場の人材が固まってきた。
組織らしくなって きたのであった。
酒と女に溺れ現実逃避  延べ床二〇〇〇坪の八割が埋まり、うち約一 三〇〇坪が賃貸、残り約三〇〇坪が自社運営と いうバランスになった頃であった。
それまで現 場は正社員だけで回していた。
しかし残業が毎 日続き、スタッフは疲弊しきっていた。
 庫内作業にパート・アルバイトを投入するた め、新聞チラシによる募集を行った。
ところが、 何度広告を出しても、問合せの電話すら鳴らな い。
調べて見ると、募集賃金(時給)が周辺倉 庫に比べて五〇円安く、業務内容の表示も「作 業全般」とわかりにくかったことなどが原因で あった。
 募集広告を修正したが、時既に遅かった。
現 場作業に当たっていた二名のスタッフがダウン。
急遽、派遣スタッフを投入したが、すぐに作業 をこなせるわけもない。
出荷できない状態に陥 り、荷主に大きな迷惑をかけた。
 多額のペナルティの支払いを余儀なくされた。
そのうえ大量に派遣スタッフを使ったことで採 算割れに陥り、それから三カ月後にはその業務 から撤退せざるを得なくなった。
S氏はクレー ム対応、派遣契約解除などの後始末に追われた。
ダウンした二名の社員も結局、「こんな会社に はついて行けない」と退社してしまった。
 満身創痍のS氏に追い打ちをかけるように、 三番目の壁、「カネ」の問題が浮上した。
 一般に倉庫会社は賃料という安定収入に加 え、担保となる不動産を所有しているため、資 金調達は他の業種よりも容易だ。
金融機関が設 定する売上高に対する貸付限度額も他の業種よ り高い。
そのため中小中堅倉庫会社のなかには、 年間売上高と同等か、それ以上の借入金のある ところが珍しくない。
 
夕劼發曚槐箴綛發防づ┐垢觴敍金を抱えて いた。
しかも業務運営での失敗が響き、運転資 金は常に枯渇気味で、借入金が一向に減らない 状況であった。
 現状を打開するために、S社長は勝負に出た。
二棟目となる三〇〇〇坪の倉庫を新設したの だ。
八年前のことだ。
荷主の当てがあっての投 資だったが、これによってM社の借入金は売上 高の三倍近くまで膨れあがった。
 二棟目の倉庫は当初は順調に稼働していた。
ところが、その後のリーマンショックで物量が 急減。
それもようやく回復してきたと思った矢 先に今度は東日本大震災に襲われた。
M社の倉 庫も被災を免れなかった。
 
啝瓩論鎔嫣喙詐態に陥った。
次第に会社 経営の現実から目を背けるようになってしまっ た。
社内には会合と言って毎晩やけ酒ならぬ 豪遊を続けた。
会社に出勤しない日もあった。
銀行からの借入金が飲み代と女遊びに消えて いく。
 代償は大きかった。
ついには現場の要であっ たT氏が退職、組織は崩壊した。
その結果、業 務運営の全ての仕事から撤退せざるを得なくな った。
残されたのは賃貸収入のみとなってしま った。
 
啝瓩斑者が出会ったのはこの頃であった。
ある勉強会の終了後、主催者がS氏を紹介して くれた。
その後、食事を共にしたり、勉強会で お会いしたり、時々、メールや電話で情報交換 をしていた。
 ある日、我々日本ロジファクトリー(NLF) の東京本社でS氏とお会いすることになった。
商 売に対するグチも見え隠れしていたが、何かを 掴むきっかけを探しているようだった。
様々な 質問への回答と情報交換を行なっていると、あ っという間に二時間が過ぎていた。
 後日、S氏からある分野の物流業務に本格的 に取り組みたいという連絡があった。
筆者も参 加して第一回目のプロジェクトミーティングを行 った。
そこには、新たにM社に入社した若手幹 部も同席していた。
明るく、聡明で優秀なスタ ッフであった。
 その人となりを見て、筆者はS氏が経営を改 めて直視し、困難に真っ正面から取り組み、再 起に向かって一歩を踏み出したかのように感じ た。
S氏の反省と決意が若手幹部の姿勢に反映 されているように見えたのであった。
生まれ変わった二代目 89  SEPTEMBER 2011  
啝瓩新たなターゲットとして狙っている分 野には、既に多くの物流会社が参入しており、 M社は後発となる。
M社の倉庫には必要な設備 も整備されておらず、苦戦を強いられるのは必 至だった。
そこでニッチ戦略をとり、小規模荷 主でも構わないので六カ月以内に最初の案件を 獲得することに目標を置いた。
 我々NLFからは次の六項目の攻略ポイント および選択肢をM社に対して提示した。
1.受注センター業務への対応 ?アウトソーシング ?M社運営 ?荷主運営によるオフィス貸し 2.対象分野で必要とされる   取扱免許の取得 ?特殊実務の代行 ?専用センターの設置 3.他社とのコラボレーション ?中堅同業者(倉庫業) ?システム関連会社 ?3PL会社 4.自社ホームページの改善   (SEO対策の見直し) ?解析ソフトの設置 ?適切な検索キーワードの設定 5.NLFホームページへのリンク 6.荷主候補の紹介  プロジェクトメンバーの反応は速かった。
S氏 自ら取扱免許の許認可申請の手続きに着手する と同時に、ホームページ改善委員会をすぐに別 プロジェクトで立ち上げた。
あるメンバーから は攻略先リストがメールで送られてきた。
S氏 からも頻繁に連絡が入り、質問や進捗が報告さ れる。
 始まったばかりのプロジェクトが凄まじい勢 いで動き出した。
受注こそまだ果たしていない が、見込案件が三社ほど発生している。
何より、 S氏がまるで別人のように生まれ変わろうとし ているのが大きい。
あおき・しょういち  1964 年生まれ。
京都産業大 学経済学部卒業。
大手運送業 者のセールスドライバーを経て、 89 年に船井総合研究所入社。
物流開発チーム・トラックチーム チーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代表 に就任。
現在に至る。
主な著書 に『経営のテコ入れは物流改善 から』明日香出版社、『物流のし くみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 2010年版 カサイ式 トラック実勢運賃調査 ■媒体名    「2010 年版 カサイ式トラック実勢運賃調査」 ■体裁 A4 判 無線綴じ 153 頁(CD-ROM 付) ■発行 2010 年9月13 日 ■監修 月刊ロジスティクス・ビジネス編集部 ■編集協力      ロジスティクス・サポート&パートナーズ ■発行元 ライノス・パブリケーションズ ■定価 1万500 円(税・送料込み) 業種別トラック運賃の実勢価格が分かる! 1985年以降の実勢運賃の推移が分かる! トラック運賃の仕組みと実態が分かる!

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