2011年10月号
特集
特集
リアル中国物流第1部 ネット通販が物流産業を規定する
リアル中国物流
特 集
ネット通販が物流産業を規定する
宅配便取扱個数は日中逆転へ
日本と中国の宅配便取扱個数が今年もしくは来年
には逆転する。
中国国家郵政局の統計によると、二 〇一〇年の中国の宅配便(快逓)の取扱件数は約二 三億四〇〇〇万件で前年から二五・九%増加した。
このところ年率二〇%以上のペースで拡大が続いて おり、一五年には現在の倍以上の六一億件に達する と予測されている。
既に昨年時点で一日当たりの取 扱個数は一〇〇〇万個を超えているとの報告もある。
それが事実だとすると、年間三二億個前後で横ばい が続く日本を上回り、中国が米国に次ぐ世界第二位 の宅配便大国にのし上がったことになる(図1)。
ネット通販市場の急激な成長がその原動力になっ ている。
中国の市場調査会社、アイリサーチ社の調べ によると、一〇年(暦年)の中国のネット通販市場 の規模は五兆五三二〇億円(四六一〇億元:一元= 十二円で換算)で前年から七五・三%増加した。
今 年は同六五・六%増の見込みだが、上半期の実績値 は予想を大幅に上回る約一〇〇%増を記録している。
宅配便の取扱個数と同様、ネット通販の市場規模で も、中国が日本を追い抜いた(図2)。
ただし、今後も順調に市場が拡大していくとは限 らない。
成長を阻害する様々な要因も指摘されてい る。
なかでも最も大きなボトルネックが物流だ。
物量 の爆発的な増加に処理能力が追いついていない。
と りわけ繁忙期となる春節前には大幅な配送の遅延が 恒例となっている。
そのまま春節に入ると、大量の 注文が未処理のまま放置される。
ネット通販モール最大手のタオバオ(陶宝網)や京 東商城のITパートナーを務める北京瑞金麟ネット技 術の王戒董事長は「これまで中国のネット通販会社 OCTOBER 2011 14 タオバオや京東商城など、中国の有力ネット通販 会社が一斉に全国配送網の構築に乗り出した。
一方、 中国の物流業界では国内競争を勝ち抜いた民間運送 会社が、日本を始めアジア全域に事業エリアを拡大、 グローバル市場で名乗りを上げようとしている。
日 本企業は果たしてどう動くべきか。
第1部 特 集リアル 中国物流 15 OCTOBER 2011 はどこも物流には目を向けてこなかった。
一日分の 倉庫スペースがあればいいという認識で、出荷作業 や配送は物流会社に任せきりにしてきた」という。
しかし、それが今や一変しようとしている。
大手 ネット通販会社が自ら全国規模の配送網構築に一斉 に乗り出した。
IPOやファンドから調達した巨額の 資金を物流整備に向ける投資ラッシュが起きている。
「ネット通販会社間の競争が、ラストワンマイルの勝 負になってきた」と王董事長はいう。
その先頭を走るのが通販サイト「360buy」を 運営する京東商城だ。
向こう三カ年で総額一二〇〇 億円を物流に投じる計画で、北京、上海、広州、成 都などの七大都市に、それぞれ七〇億円〜一〇〇億 円を投じた大規模センターを建設する。
その一つ、上海市嘉定区に年内にも稼働予定の「ア ジア一号」は、敷地面積約二六万平米、延べ床面積 約一五万平米の規模で、完成すればアジア最大の物 流拠点になるという。
庫内には立体自動倉庫や自動 仕分け機などの最新設備をふんだんに導入し、高速 処理による納品リードタイムの短縮を図る。
同社の馬松副総裁は「昨年は一・五億米ドル(一 二〇億円、一ドル=八〇円換算)、今年は一五億米ド ルをファンドから調達した。
この資金を使って消費者 の手に確実に商品が届く物流ネットワークを作り上げ る。
当社が中国ナンバー1、世界でもトップ5に入る EC企業になるためには必要な投資だ」という。
九八年に家電販売店として出発した同社は、〇四 年にネット通販に本格参入。
家電やパソコン、携帯電 話をメーカーから大量に仕入れ、本物を安値で販売す る低価格路線で急成長を遂げた。
今では書籍やアパ レル雑貨、加工食品などにも取扱品目を広げ、B to C通販サイトとしては最大手と自負している。
同社の一〇年の売上高は一〇二億元。
前年の約四 〇億元から二倍以上に増えた。
今年も二五〇%前後 の売上増が見込まれている。
その時価総額はグリー ンシート市場(非上場株式の売買制度)において一 〇〇億ドルとの評価を受けており、来年は米国市場 への株式の上場が予定されている。
自社配送網で先行する京東商城の実力 同社は大量の在庫を自社で抱えるモデルであるた め、当初から物流インフラを備えていた。
しかし、年 率三〇〇%のペースで物量は増え続け、キャパオー バーが常態化していた。
そのため馬副総裁は「これ まで我々は有力3PLや民間宅配会社と、提携や買 収の交渉を何度も繰り返しきた。
しかし、当社が求 める物流サービスレベルを実現できるパートナーは見 当たらなかった。
それならば自分たちでゼロから作 り上げるしかないと判断した」という。
同社の急成長に突き上げられるかたちで、中国の 家電量販店で“二強”とされる国美電器と蘇寧電器 もネット通販の強化に動いている。
両社の売上高は それぞれ約二兆円(一〇年度)に上り、京東商城と は桁違いに大きい。
しかし、ネット通販事業ではこ れまで大きく出遅れていた。
国美と蘇寧の二社は既に中国全土をカバーする物 流網を備えている。
しかし、「店舗販売用の物流網を ネット通販と併用するのは無理がある。
しかも、家 電量販店は末端配送のかなりの部分をメーカーに依存 してきた。
本格的にネット通販に乗り出すには専用 の物流網を新たに作る必要がある」と物流業界関係 者は説明する。
そのため両社は改めて物流の整備に乗り出してい る。
現地の報道によると、蘇寧は国内四カ所の在庫 北京瑞金麟ネット 技術の王戒董事長 図2 日本と中国のネット通販市場規模推移 (兆円) 0.6732 5.3000 6.1000 6.7000 5.5320 7.8000 9.1609 3.1560 1.5382 図1 日本と中国の宅配便取扱量の推移 35 30 25 20 15 10 5 0 (日本:億個、中国:億件) 32.3 32.1 31.4 18.6 32.2 23.4 15.1 12.0 中国国家郵政局、国土交通省の統計をもとに作成。
※日本は年度、中国は暦年 2007 年2008 年2009 年2010 年 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 2007年2008 年2009 年2010 年2011 年 (予測) 出所)日本:経済産業省「平成22 年度電子商取引に関する市場 調査(BtoC EC市場)」、中国:iReserch(公表数値を1 元 =12円換算で算出・表記) ※日本は年度、中国は暦年 日本 中国 日本 中国 中国(予測) 拠点を一四年末までに六〇カ所まで拡大する計画だ。
国美も向こう三カ年で、全国一六カ所の在庫拠点を 中核として、一一二カ所の白物家電用センター、六 二〇カ所の配送センターから構成する全国ネットワー クを構築するという。
アリババ&タオバオは巨額投資で追走 さらには今年一月、タオバオを運営するアリババ (阿里巴巴)集団は、投資総額が一〇〇〇億元を超 える未曾有の物流整備計画を発表した。
その初期投 資としてアリババは一〇〇億元を投資、パートナーか らも資金を募り、まずは二〇〇〜三〇〇億元を投じ て、主要都市七カ所に大規模な物流センターを建設 する計画だ。
京東商城とアリババは、いずれも巨費を投じた物 流インフラを外部の一般荷主にも開放していく方針 だ。
昨年一〇月、京東商城は他の荷主の在庫を京東 商城が預かり、あるいは購入し、受注から納品、決 済までのフルフィルメントを代行する「オープン・プ ラットフォーム戦略」を打ち出した。
一方のアリババ は、有力物流会社への出資にも動いている。
その一つ は宅配便の「宅急送」の創業者の陳平元総裁が、社 内紛争で同社を追われた後に設立した「北京星晨急 便速逓(Stars Express)」。
もう一つは物流センター 運営の「百世物流科技(Best Logistics)」だ。
これまで中国のネット通販物流は民間宅配会社と 中国郵政(中国郵政速逓物流:EMS)が担ってき た。
ネット通販の普及によるB to C貨物の増加は、「宅 急送」や「順豊速運」、“四通一達”(中通速逓、申 通快逓、圓通速逓、匯通速逓、韻達快運)と呼ばれ る民間宅配会社の急成長をもたらした。
需要の拡大に応えるため、これらの民間宅配会社 は各地にフランチャイズ契約の代理店を置くかたち で、短期間のうちに全国ネットワークを整備した。
し かし、そのことが結果として、サービス品質面での制 約になった。
中央の指示が末端まで徹底されず、地 域によって品質がバラつく。
改善の必要性を繰り返 し指摘されながら、有効な対策を打ち出せなかった。
EMSにしても事情はそれほど変わらない。
民間 宅配便と違って一社で全国を網羅しているものの、自 治体によって運営方針に違いがあり、統制がとれて いない。
サービスの評判も芳しくない。
EMSの作 業員が乱暴に荷物を放り投げる画像がネットに流出 し、社会問題化したことさえあった。
ネット通販会社は物流企業の成長を待てなかった。
有り余る資金力をバックに自ら物流オペレーションの 運営に乗り出した。
現地の物流業界はこれから強力 な異業種参入の洗礼を受けることになる。
北京物資学院で物流論を専門とする鄔躍教授は「中 国の物流業界、少なくとも宅配業界の行方は大手ネッ ト通販会社が握っている。
ネット通販業界の産業と しての在り方が、物流業界の在り方を規定していく ことになる。
物流産業の発展形態が、日本とは違っ たかたちになる」と指摘する。
日本では宅配便の普及が、ネット通販の普及に先行 した。
C to Cを対象に設計されたヤマト運輸の「宅急 便」と、佐川急便のB to Bの宅配便が、ネット通販 の成長を促すプラットフォームとなった。
しかし、中 国では宅配便が未成熟なままネット通販が先に普及し た。
この違いが物流業の発展のシナリオに影響するこ とになる。
今後、中国ではネット通販会社による物流事業が本 格化し、既存の物流会社の系列下や淘汰が進んでい くだろう。
当面の対象はB to C物流だ。
しかし、い OCTOBER 2011 16 京東商城の 馬松副総裁 アリババが出資した百世物流(Best Logistics) の庫内作業風景 特 集リアル 中国物流 ずれはB to Cの覇者がB to Bの宅配便、また中ロッ トの路線便にも触手を伸ばしていく。
日本で物流業 界の近代化が、路線便から始まり宅配便へと進んだ のとは逆の道筋を辿る。
物流投資は不動産バブルに乗って 中国の物流市場を牛耳った企業は、アジア市場の主 導権を手にする。
それでは誰が覇者になるのか。
中 国に進出している外資系物流企業や現地系大手と並 び、右に出てきたネット通販会社が、その候補とし て挙げられる。
ただし、大きな落とし穴も潜んでい る。
バブル崩壊だ。
ファンドから巨額の資金を引き出している京東商城 は、まだ赤字体質を脱してない。
タオバオ全体では 四〇〇〇億元の取引額を誇るアリババも、会社とし ての売上高は五六億元に満たない(一〇年度)。
彼等の身の丈を超える物流投資にも、投機の側面 が見え隠れする。
中国の産業用不動産の相場は基本 的には右肩上がりで推移してきた。
その元締めは地 方政府だ。
中国の地方政府の歳入の大部分は不動産 開発によるものだと言われる。
この官製バブルに、こ れまで物流会社は大いに恩恵を受けてきた。
物流目 的の用地(使用権)取得は、国家の経済開発計画に 合致するため、政府から優遇される。
購入した土地 は確実に含み益を生み出したので、どんなに無謀な 先行投資も帳尻が合った。
持てあますほどの資金を 手にしたネット通販にとって、物流不動産の取得は 格好の資金運用法だ。
しかし、株や不動産に暴落は付き物。
バブルが弾 ければ全てが崩れる。
後には呆れるほど巨大な物流 インフラが残される。
日系企業はその時を睨んでお くべきかも知れない。
(大矢昌浩) 17 OCTOBER 2011 凡客誠品(北京)科技 P&G、ロレアル、アディダス、 レノボ、ユニクロなど大手企 業も含め4 万店が出店する 通販モール。
登録ユーザー 数は4 億以上(C to Cの淘 宝網を含む)。
淘宝網の昨 年の取引額は4000 億元、 12 年の目標取引額は1 兆 元 ?淘宝商城(タオバオモール) ?総合 ?300 億元 ?48.5% ?08 年 ?京東商城(360buy) ?総合 ?102 億元 ?18.1% ?04 年 ?卓越亜馬遜 (joyo amazon) ?総合 ?30 億元 ?2.4% ?00 年 ?当当網(dangdang) ?総合 ?22 億6000 万元 ?2.2% ?99 年 ?凡客誠品(VANCL) ?アパレル・小物 ?18 億5000 万元 ?2.0% ?07 年 北京、上海、深圳に配送センターを置き、 「淘宝物流」として出店者の貨物の保 管・出荷業務を行っている。
配送には中 国郵政、圓通速逓、中通速逓、宅急送、 韻達快運、天天快逓、フェデックスなど 十数社の利用を推奨。
親会社のアリバ バグループは昨年、北京星辰急便速逓 と百世物流、グローバル・ロジスティック・ プロパティーズに出資している アリババグループとして、他のe コマース企業とも協力して1000 億元規模の物流投資を行う方 針。
東北、華北、華東、華南、 華中、西南、西北の中心都市 に倉庫を設置する計画で、まず 北京・天津地域、長江デルタ 地域、珠江デルタ地域に計 300 万?の倉庫を建設する 登録ユーザー数は2000万。
家電・通信機器の通販から 出発して取り扱いカテゴリーを 拡大した。
今年4月、ロシア や米国の投資ファンドなどか ら計15億ドルの資金調達を 完了。
来年には米国で株式 を公開し40〜50 億ドルを調 達する計画と伝えられている 09 年に200 万元を投資し物流子会社 の上海園邁快逓を設立。
物流網の整 備に着手した。
北京、上海、広州、成都、 武漢などに物流センターを持ち、総床面 積は40 万?。
全国70 都市に置く配 送拠点により、自社配送を行っている。
主要17 都市を対象に午前11 時まで の注文品の当日配送も実施 今後3 年間で100 億元を物流 分野に投資する方針。
現在、 主要都市で自社大型物流セン ターの建設を進めており、そのう ち上海では26 万?の物流セン ターを建設している。
北京でも 30 万?規模の物流センターが 来年竣工する予定 00 年に卓越網として設立さ れ、書籍やCD、DVD な どのネット通販を行っていた が、04 年にアマゾンが 7500 万ドルで買収。
取り 扱いカテゴリーを拡大してき た。
07 年にサイト名を卓越 亜馬遜に変更 北京、上海、広州、蘇州など約10 カ 所に物流センターを設置。
配送は自社 配送と外部委託を併用している。
今年 7 月、出店者と消費者間で売買を行う 場「マーケットプレイス」を開設し、自 社の物流プラットフォームを出店者向け に「卓越亜馬遜物流」として提供する サービスを正式に開始した この数年物流への投資を活発化 しており、昨年だけでも5 センター を開設した。
今年9 月には江蘇 省・昆山で敷地面積10 万? の新センターが全面稼働する予 定 書籍のネット販売が中心で 「中国版アマゾン」と言われ ていたが、08 年に総合ショッ ピングサイトにリニューアルし た。
アクティブ会員数は 4600 万(11 年第2 四半 期)。
昨年12 月、米ニュー ヨーク証券取引所に上場。
北京、上海、広州、深圳、成都など 主要13 都市に物流センターを置いてい る。
今年は瀋陽と広州にフルフィルメン ト・センターを開設した。
両センターの 総床面積は21 万?。
現在、750 都 市を対象に代引配送を実施している。
4 月、7 都市を対象に当日配送を開始し、 6 月末には対象都市を14 都市に拡大、 年内に50 都市に広げる計画 少なくとも2 つのセンターを年内 に設置する予定。
また、天津に 新たなセンターを建設するために 用地を取得した。
今年2 月、総 合物流子会社を設立し、既存の 宅配業者を組織して物流プラット フォームを構築すると発表。
他の e コマース企業に物流サービスを 提供する方針 10 年の売上高は09 年の 約3 倍に達するなど、急成 長している。
アパレルのB to C 通販最大手で自社ブ ランドを中心に販売。
これま で数度にわたって投資ファン ドなどから資金を調達してい る。
年内には米国で上場す る計画 設立当初から自社物流網の構築を進め てきた。
北京、上海、広州、武漢、成都、 西安、済南、瀋陽などに物流センター を置いている。
センターの周辺では物流 子会社が配送を行う。
09 年4 月、午 前中の注文は当日午後、午後の注文 は翌日午前中に配送する「24 時間配 送」を開始。
配達時に試着し、その場 で返品することも可能とした 今後、青島、南京、寧波など 19 都市に物流拠点を設置し、 年内にも物流センターを28 拠 点・総面積50 万?として24 時間配送の対象エリアを拡大す る方針 企業名 物流インフラへの投資計画 ?サイト名、?取扱品目、?10 年売上総額、?B to C 通販 市場のシェア(11 年第2 四半 期)、?設立/ネット販売開始 事業概要物流インフラ 浙江淘宝網絡 図3 中国の大手B to C 通販の物流戦略 北京京東世紀貿易 北京世紀卓越信息技術 北京當當網信息技術 アイリサーチ統計、各社ホームページ・発表資料、各種報道等をもとに作成
中国国家郵政局の統計によると、二 〇一〇年の中国の宅配便(快逓)の取扱件数は約二 三億四〇〇〇万件で前年から二五・九%増加した。
このところ年率二〇%以上のペースで拡大が続いて おり、一五年には現在の倍以上の六一億件に達する と予測されている。
既に昨年時点で一日当たりの取 扱個数は一〇〇〇万個を超えているとの報告もある。
それが事実だとすると、年間三二億個前後で横ばい が続く日本を上回り、中国が米国に次ぐ世界第二位 の宅配便大国にのし上がったことになる(図1)。
ネット通販市場の急激な成長がその原動力になっ ている。
中国の市場調査会社、アイリサーチ社の調べ によると、一〇年(暦年)の中国のネット通販市場 の規模は五兆五三二〇億円(四六一〇億元:一元= 十二円で換算)で前年から七五・三%増加した。
今 年は同六五・六%増の見込みだが、上半期の実績値 は予想を大幅に上回る約一〇〇%増を記録している。
宅配便の取扱個数と同様、ネット通販の市場規模で も、中国が日本を追い抜いた(図2)。
ただし、今後も順調に市場が拡大していくとは限 らない。
成長を阻害する様々な要因も指摘されてい る。
なかでも最も大きなボトルネックが物流だ。
物量 の爆発的な増加に処理能力が追いついていない。
と りわけ繁忙期となる春節前には大幅な配送の遅延が 恒例となっている。
そのまま春節に入ると、大量の 注文が未処理のまま放置される。
ネット通販モール最大手のタオバオ(陶宝網)や京 東商城のITパートナーを務める北京瑞金麟ネット技 術の王戒董事長は「これまで中国のネット通販会社 OCTOBER 2011 14 タオバオや京東商城など、中国の有力ネット通販 会社が一斉に全国配送網の構築に乗り出した。
一方、 中国の物流業界では国内競争を勝ち抜いた民間運送 会社が、日本を始めアジア全域に事業エリアを拡大、 グローバル市場で名乗りを上げようとしている。
日 本企業は果たしてどう動くべきか。
第1部 特 集リアル 中国物流 15 OCTOBER 2011 はどこも物流には目を向けてこなかった。
一日分の 倉庫スペースがあればいいという認識で、出荷作業 や配送は物流会社に任せきりにしてきた」という。
しかし、それが今や一変しようとしている。
大手 ネット通販会社が自ら全国規模の配送網構築に一斉 に乗り出した。
IPOやファンドから調達した巨額の 資金を物流整備に向ける投資ラッシュが起きている。
「ネット通販会社間の競争が、ラストワンマイルの勝 負になってきた」と王董事長はいう。
その先頭を走るのが通販サイト「360buy」を 運営する京東商城だ。
向こう三カ年で総額一二〇〇 億円を物流に投じる計画で、北京、上海、広州、成 都などの七大都市に、それぞれ七〇億円〜一〇〇億 円を投じた大規模センターを建設する。
その一つ、上海市嘉定区に年内にも稼働予定の「ア ジア一号」は、敷地面積約二六万平米、延べ床面積 約一五万平米の規模で、完成すればアジア最大の物 流拠点になるという。
庫内には立体自動倉庫や自動 仕分け機などの最新設備をふんだんに導入し、高速 処理による納品リードタイムの短縮を図る。
同社の馬松副総裁は「昨年は一・五億米ドル(一 二〇億円、一ドル=八〇円換算)、今年は一五億米ド ルをファンドから調達した。
この資金を使って消費者 の手に確実に商品が届く物流ネットワークを作り上げ る。
当社が中国ナンバー1、世界でもトップ5に入る EC企業になるためには必要な投資だ」という。
九八年に家電販売店として出発した同社は、〇四 年にネット通販に本格参入。
家電やパソコン、携帯電 話をメーカーから大量に仕入れ、本物を安値で販売す る低価格路線で急成長を遂げた。
今では書籍やアパ レル雑貨、加工食品などにも取扱品目を広げ、B to C通販サイトとしては最大手と自負している。
同社の一〇年の売上高は一〇二億元。
前年の約四 〇億元から二倍以上に増えた。
今年も二五〇%前後 の売上増が見込まれている。
その時価総額はグリー ンシート市場(非上場株式の売買制度)において一 〇〇億ドルとの評価を受けており、来年は米国市場 への株式の上場が予定されている。
自社配送網で先行する京東商城の実力 同社は大量の在庫を自社で抱えるモデルであるた め、当初から物流インフラを備えていた。
しかし、年 率三〇〇%のペースで物量は増え続け、キャパオー バーが常態化していた。
そのため馬副総裁は「これ まで我々は有力3PLや民間宅配会社と、提携や買 収の交渉を何度も繰り返しきた。
しかし、当社が求 める物流サービスレベルを実現できるパートナーは見 当たらなかった。
それならば自分たちでゼロから作 り上げるしかないと判断した」という。
同社の急成長に突き上げられるかたちで、中国の 家電量販店で“二強”とされる国美電器と蘇寧電器 もネット通販の強化に動いている。
両社の売上高は それぞれ約二兆円(一〇年度)に上り、京東商城と は桁違いに大きい。
しかし、ネット通販事業ではこ れまで大きく出遅れていた。
国美と蘇寧の二社は既に中国全土をカバーする物 流網を備えている。
しかし、「店舗販売用の物流網を ネット通販と併用するのは無理がある。
しかも、家 電量販店は末端配送のかなりの部分をメーカーに依存 してきた。
本格的にネット通販に乗り出すには専用 の物流網を新たに作る必要がある」と物流業界関係 者は説明する。
そのため両社は改めて物流の整備に乗り出してい る。
現地の報道によると、蘇寧は国内四カ所の在庫 北京瑞金麟ネット 技術の王戒董事長 図2 日本と中国のネット通販市場規模推移 (兆円) 0.6732 5.3000 6.1000 6.7000 5.5320 7.8000 9.1609 3.1560 1.5382 図1 日本と中国の宅配便取扱量の推移 35 30 25 20 15 10 5 0 (日本:億個、中国:億件) 32.3 32.1 31.4 18.6 32.2 23.4 15.1 12.0 中国国家郵政局、国土交通省の統計をもとに作成。
※日本は年度、中国は暦年 2007 年2008 年2009 年2010 年 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 2007年2008 年2009 年2010 年2011 年 (予測) 出所)日本:経済産業省「平成22 年度電子商取引に関する市場 調査(BtoC EC市場)」、中国:iReserch(公表数値を1 元 =12円換算で算出・表記) ※日本は年度、中国は暦年 日本 中国 日本 中国 中国(予測) 拠点を一四年末までに六〇カ所まで拡大する計画だ。
国美も向こう三カ年で、全国一六カ所の在庫拠点を 中核として、一一二カ所の白物家電用センター、六 二〇カ所の配送センターから構成する全国ネットワー クを構築するという。
アリババ&タオバオは巨額投資で追走 さらには今年一月、タオバオを運営するアリババ (阿里巴巴)集団は、投資総額が一〇〇〇億元を超 える未曾有の物流整備計画を発表した。
その初期投 資としてアリババは一〇〇億元を投資、パートナーか らも資金を募り、まずは二〇〇〜三〇〇億元を投じ て、主要都市七カ所に大規模な物流センターを建設 する計画だ。
京東商城とアリババは、いずれも巨費を投じた物 流インフラを外部の一般荷主にも開放していく方針 だ。
昨年一〇月、京東商城は他の荷主の在庫を京東 商城が預かり、あるいは購入し、受注から納品、決 済までのフルフィルメントを代行する「オープン・プ ラットフォーム戦略」を打ち出した。
一方のアリババ は、有力物流会社への出資にも動いている。
その一つ は宅配便の「宅急送」の創業者の陳平元総裁が、社 内紛争で同社を追われた後に設立した「北京星晨急 便速逓(Stars Express)」。
もう一つは物流センター 運営の「百世物流科技(Best Logistics)」だ。
これまで中国のネット通販物流は民間宅配会社と 中国郵政(中国郵政速逓物流:EMS)が担ってき た。
ネット通販の普及によるB to C貨物の増加は、「宅 急送」や「順豊速運」、“四通一達”(中通速逓、申 通快逓、圓通速逓、匯通速逓、韻達快運)と呼ばれ る民間宅配会社の急成長をもたらした。
需要の拡大に応えるため、これらの民間宅配会社 は各地にフランチャイズ契約の代理店を置くかたち で、短期間のうちに全国ネットワークを整備した。
し かし、そのことが結果として、サービス品質面での制 約になった。
中央の指示が末端まで徹底されず、地 域によって品質がバラつく。
改善の必要性を繰り返 し指摘されながら、有効な対策を打ち出せなかった。
EMSにしても事情はそれほど変わらない。
民間 宅配便と違って一社で全国を網羅しているものの、自 治体によって運営方針に違いがあり、統制がとれて いない。
サービスの評判も芳しくない。
EMSの作 業員が乱暴に荷物を放り投げる画像がネットに流出 し、社会問題化したことさえあった。
ネット通販会社は物流企業の成長を待てなかった。
有り余る資金力をバックに自ら物流オペレーションの 運営に乗り出した。
現地の物流業界はこれから強力 な異業種参入の洗礼を受けることになる。
北京物資学院で物流論を専門とする鄔躍教授は「中 国の物流業界、少なくとも宅配業界の行方は大手ネッ ト通販会社が握っている。
ネット通販業界の産業と しての在り方が、物流業界の在り方を規定していく ことになる。
物流産業の発展形態が、日本とは違っ たかたちになる」と指摘する。
日本では宅配便の普及が、ネット通販の普及に先行 した。
C to Cを対象に設計されたヤマト運輸の「宅急 便」と、佐川急便のB to Bの宅配便が、ネット通販 の成長を促すプラットフォームとなった。
しかし、中 国では宅配便が未成熟なままネット通販が先に普及し た。
この違いが物流業の発展のシナリオに影響するこ とになる。
今後、中国ではネット通販会社による物流事業が本 格化し、既存の物流会社の系列下や淘汰が進んでい くだろう。
当面の対象はB to C物流だ。
しかし、い OCTOBER 2011 16 京東商城の 馬松副総裁 アリババが出資した百世物流(Best Logistics) の庫内作業風景 特 集リアル 中国物流 ずれはB to Cの覇者がB to Bの宅配便、また中ロッ トの路線便にも触手を伸ばしていく。
日本で物流業 界の近代化が、路線便から始まり宅配便へと進んだ のとは逆の道筋を辿る。
物流投資は不動産バブルに乗って 中国の物流市場を牛耳った企業は、アジア市場の主 導権を手にする。
それでは誰が覇者になるのか。
中 国に進出している外資系物流企業や現地系大手と並 び、右に出てきたネット通販会社が、その候補とし て挙げられる。
ただし、大きな落とし穴も潜んでい る。
バブル崩壊だ。
ファンドから巨額の資金を引き出している京東商城 は、まだ赤字体質を脱してない。
タオバオ全体では 四〇〇〇億元の取引額を誇るアリババも、会社とし ての売上高は五六億元に満たない(一〇年度)。
彼等の身の丈を超える物流投資にも、投機の側面 が見え隠れする。
中国の産業用不動産の相場は基本 的には右肩上がりで推移してきた。
その元締めは地 方政府だ。
中国の地方政府の歳入の大部分は不動産 開発によるものだと言われる。
この官製バブルに、こ れまで物流会社は大いに恩恵を受けてきた。
物流目 的の用地(使用権)取得は、国家の経済開発計画に 合致するため、政府から優遇される。
購入した土地 は確実に含み益を生み出したので、どんなに無謀な 先行投資も帳尻が合った。
持てあますほどの資金を 手にしたネット通販にとって、物流不動産の取得は 格好の資金運用法だ。
しかし、株や不動産に暴落は付き物。
バブルが弾 ければ全てが崩れる。
後には呆れるほど巨大な物流 インフラが残される。
日系企業はその時を睨んでお くべきかも知れない。
(大矢昌浩) 17 OCTOBER 2011 凡客誠品(北京)科技 P&G、ロレアル、アディダス、 レノボ、ユニクロなど大手企 業も含め4 万店が出店する 通販モール。
登録ユーザー 数は4 億以上(C to Cの淘 宝網を含む)。
淘宝網の昨 年の取引額は4000 億元、 12 年の目標取引額は1 兆 元 ?淘宝商城(タオバオモール) ?総合 ?300 億元 ?48.5% ?08 年 ?京東商城(360buy) ?総合 ?102 億元 ?18.1% ?04 年 ?卓越亜馬遜 (joyo amazon) ?総合 ?30 億元 ?2.4% ?00 年 ?当当網(dangdang) ?総合 ?22 億6000 万元 ?2.2% ?99 年 ?凡客誠品(VANCL) ?アパレル・小物 ?18 億5000 万元 ?2.0% ?07 年 北京、上海、深圳に配送センターを置き、 「淘宝物流」として出店者の貨物の保 管・出荷業務を行っている。
配送には中 国郵政、圓通速逓、中通速逓、宅急送、 韻達快運、天天快逓、フェデックスなど 十数社の利用を推奨。
親会社のアリバ バグループは昨年、北京星辰急便速逓 と百世物流、グローバル・ロジスティック・ プロパティーズに出資している アリババグループとして、他のe コマース企業とも協力して1000 億元規模の物流投資を行う方 針。
東北、華北、華東、華南、 華中、西南、西北の中心都市 に倉庫を設置する計画で、まず 北京・天津地域、長江デルタ 地域、珠江デルタ地域に計 300 万?の倉庫を建設する 登録ユーザー数は2000万。
家電・通信機器の通販から 出発して取り扱いカテゴリーを 拡大した。
今年4月、ロシア や米国の投資ファンドなどか ら計15億ドルの資金調達を 完了。
来年には米国で株式 を公開し40〜50 億ドルを調 達する計画と伝えられている 09 年に200 万元を投資し物流子会社 の上海園邁快逓を設立。
物流網の整 備に着手した。
北京、上海、広州、成都、 武漢などに物流センターを持ち、総床面 積は40 万?。
全国70 都市に置く配 送拠点により、自社配送を行っている。
主要17 都市を対象に午前11 時まで の注文品の当日配送も実施 今後3 年間で100 億元を物流 分野に投資する方針。
現在、 主要都市で自社大型物流セン ターの建設を進めており、そのう ち上海では26 万?の物流セン ターを建設している。
北京でも 30 万?規模の物流センターが 来年竣工する予定 00 年に卓越網として設立さ れ、書籍やCD、DVD な どのネット通販を行っていた が、04 年にアマゾンが 7500 万ドルで買収。
取り 扱いカテゴリーを拡大してき た。
07 年にサイト名を卓越 亜馬遜に変更 北京、上海、広州、蘇州など約10 カ 所に物流センターを設置。
配送は自社 配送と外部委託を併用している。
今年 7 月、出店者と消費者間で売買を行う 場「マーケットプレイス」を開設し、自 社の物流プラットフォームを出店者向け に「卓越亜馬遜物流」として提供する サービスを正式に開始した この数年物流への投資を活発化 しており、昨年だけでも5 センター を開設した。
今年9 月には江蘇 省・昆山で敷地面積10 万? の新センターが全面稼働する予 定 書籍のネット販売が中心で 「中国版アマゾン」と言われ ていたが、08 年に総合ショッ ピングサイトにリニューアルし た。
アクティブ会員数は 4600 万(11 年第2 四半 期)。
昨年12 月、米ニュー ヨーク証券取引所に上場。
北京、上海、広州、深圳、成都など 主要13 都市に物流センターを置いてい る。
今年は瀋陽と広州にフルフィルメン ト・センターを開設した。
両センターの 総床面積は21 万?。
現在、750 都 市を対象に代引配送を実施している。
4 月、7 都市を対象に当日配送を開始し、 6 月末には対象都市を14 都市に拡大、 年内に50 都市に広げる計画 少なくとも2 つのセンターを年内 に設置する予定。
また、天津に 新たなセンターを建設するために 用地を取得した。
今年2 月、総 合物流子会社を設立し、既存の 宅配業者を組織して物流プラット フォームを構築すると発表。
他の e コマース企業に物流サービスを 提供する方針 10 年の売上高は09 年の 約3 倍に達するなど、急成 長している。
アパレルのB to C 通販最大手で自社ブ ランドを中心に販売。
これま で数度にわたって投資ファン ドなどから資金を調達してい る。
年内には米国で上場す る計画 設立当初から自社物流網の構築を進め てきた。
北京、上海、広州、武漢、成都、 西安、済南、瀋陽などに物流センター を置いている。
センターの周辺では物流 子会社が配送を行う。
09 年4 月、午 前中の注文は当日午後、午後の注文 は翌日午前中に配送する「24 時間配 送」を開始。
配達時に試着し、その場 で返品することも可能とした 今後、青島、南京、寧波など 19 都市に物流拠点を設置し、 年内にも物流センターを28 拠 点・総面積50 万?として24 時間配送の対象エリアを拡大す る方針 企業名 物流インフラへの投資計画 ?サイト名、?取扱品目、?10 年売上総額、?B to C 通販 市場のシェア(11 年第2 四半 期)、?設立/ネット販売開始 事業概要物流インフラ 浙江淘宝網絡 図3 中国の大手B to C 通販の物流戦略 北京京東世紀貿易 北京世紀卓越信息技術 北京當當網信息技術 アイリサーチ統計、各社ホームページ・発表資料、各種報道等をもとに作成
