2011年11月号
特集
特集
第7部 買収・統合に至る9 ステップ
事業戦略の検討
M&Aは数ある事業戦略のうちの一つの手法に
過ぎない。
なぜM&Aという選択肢を採用するの か、なぜ他の選択肢ではダメなのか、それによっ て何を手に入れたいのか。
M&Aを検討する企業、 特に買収を検討する企業は、まずその点を明確に しておかなければならない。
M&Aはリターンが大きい一方で、リスクも存在 する。
思ったように統合効果が上がらず、かえっ て企業価値を毀損させて減損しなければならなく なったり、あるいは買収によって借入金が増え、財 務バランスが悪化してしまうケースも珍しくない。
「なんとなく」や「たまたま良い案件が浮上したか ら」といった曖昧な動機で着手すれば、後に手痛 いしっぺ返しを受けることになる。
アドバイザーの選定 現在のM&Aにおいては、買収企業・被買収企 業ともアドバイザーを起用することが一般的になっ ている。
対象企業の情報収集、精査、評価、交渉、 各種法的書類の作成など、M&Aに不可欠な作業 は、どれも経験のない素人にはハードルが高い。
一口にアドバイザーといっても、銀行系、証券会 社系、監査法人系、外資系、独立系などその種類 は豊富だ。
それぞれに特徴があるので、自社のニ ーズと案件の特質にマッチしたアドバイザーを選ぶ ことが求められる。
GCAサヴィアンの酒入和男エグゼクティブディ レクターは「過去にどれだけの実績があるかが、ア ドバイザーを選定する上で重要なポイントになる。
物流企業のM&Aであれば、特に物流業界におけ る実績を見るべきだろう。
また、近年ではコンペ 形式で複数の候補に提案を求めたうえでアドバイザ ーを決定する事例も増えている。
迷ったら複数社 に相談を持ちかけ、その中からパートナーを選ぶと いう選択肢もある」と説明する。
フィーについては、成功報酬型を基本として、 時間報酬型を組み合わせているケースなどがある。
成功報酬型のフィーのパーセンテージはM&A案件 の大きさにもよるが、買収企業価値の数%程度が 一つの目安になる。
時間報酬型はアドバイザーが実 際に働いた時間数に応じてフィーを支払う。
M&A戦略の企画・立案 まずM&Aの目的を明確化した上で、対象企業 を選定する。
日本では不特定多数の候補の中から、 どこを買うか、あるいはどこへ売るかを検討する ケースは少ない。
物流業界においては、日常業務 の中で付き合いのある企業などをピンポイントで対 象候補とするケースが多いようである。
買収企業であれば、対象候補との事業シナジー の初期的検討を行う。
この段階ではまだ詳細な情 報を入手できていないため、あくまで一般に開示 されている情報をベースとした見積もりを行う。
こ の時に、買収価格の目線をある程度持つための初 期的評価を行うのが一般的だ。
その他、最適な取 引ストラクチャーや相手企業・支配株主へのアプロ ーチ方法なども併せて検討する。
被買収企業であ れば、売却方法や価格などの諸条件を検討する。
秘密保持契約の締結 M&Aを打診し、相手が興味を示せば、秘密保 持契約を結んだ上で情報を開示、諸条件の交渉に NOVEMBER 2011 30 買収・統合に至る9 ステップ 多くの企業がM&Aに取り組んでいる。
しかし、そ の詳細な過程が表に出ることは少ない。
市場の水面下 で、どのような作業が行われているのか。
M&Aアド バイザーとして豊富な実績を持つGCA サヴィアンの 協力の下に、事業戦略の検討から買収、統合に至る M&A の典型的なプロセスを解説する。
(本誌編集部、編集協力=GCA サヴィアン) Step 2 Step 1 Step 4 Step 3 GCAサヴィアングループ株式会社 日米欧に加え、インド、中国に171人のプロフェッ ショナルを配置(2011年3月末時点)する独立系M&A アドバイザリーファーム。
グループ内にデューデリジェ ンス、メザニンファイナンスの機能を有する。
06年10 月東証マザーズ上場。
08年3月米国投資銀行サヴィア ン社と経営統合。
パナソニックによる三洋電機の公開 買付け、シティグループによる日興コーディアルの完全 子会社化、吉本興業の非公開化をはじめ、バンテック やSBSなど物流会社のM&A案件など豊富なアドバイザ リー実績を誇る。
www.gcasavvian.com 第 7 部 特 集 31 NOVEMBER 2011 当然、買収監査で問題が発覚した場合には、基 本合意していた価格や条件は引き下げられること になる。
問題があまりに重大だった場合には、そ こでM&Aが中止になることもある。
価格等の条 件に加え、所有権移動前の事象に起因する問題が 発生した際の将来の責任の取り決め等、最終条件 交渉で双方が納得すれば、法的な拘束力を持つ最 終契約を結ぶ。
取引のクロージング 必要に応じて、買収資金の調達や対外発表、監 督官庁への説明などを経て、買収代金と譲渡対象 株券等の交換が行われた時点でM&Aは完了(ク ロージング)となる。
PMIの実践 PMI(Post Merger Integration)とは、M& A後のシナジーを獲得するための統合プロセスとマ ネジメントを指す。
酒入エグゼクティブディレクタ ーは「最初の三カ月ほどの間にスタートダッシュを 切れるかどうかが、その後の統合が成功するか否 かの一つのポイントになる。
最終契約の締結を待っ てから統合準備を始めていたのでは間に合わない。
基本合意がなされた段階から並行してPMIを見 据えた準備を順次進めていく必要がある」と説明 する。
具体的には、統合委員会を立ち上げることが多 い。
組織や人事、営業、生産、IT、財務といっ た分野ごとにタスクフォースを設け、さらにその下 に分科会を設置する。
各レイヤーの責任者や担当 者が、全体最適の視点から統合後の企業の在り方 を議論することが重要になる。
通常一カ月〜二カ月程度だ。
その他、基本合意書には統合に向けたスケジュ ールや取引のストラクチャー、決済方法、実行後の 組織運営などが記載されている。
買収監査(デューデリジェンス)の実施 基本合意に至るまでの交渉は限定された情報を ベースにしていた。
それに対し、買収監査では詳 細な情報を被買収企業に求め、まだ見えなかったリ スクの洗い出しを行う。
弁護士や会計士、税理士 などの専門家を巻き込みながら、法務、財務、税 務など様々な視点から監査が行われる。
酒入エグゼクティブディレクターは「未上場の物 流企業のM&A案件で問題になりやすいのが、労 務関連だ。
ドライバーの過重労働や、未払い賃金 の問題を抱えているケースが散見される。
社会保 険未加入という事実が発覚することもあるし、財 務諸表の数字自体に信頼が置けないケースもある。
被買収企業に、こうした重大なリスクが潜んでいな いかを一カ月程度の間に徹底的に調べ上げる。
ま た、同時に、当初見込んでいた相乗効果が本当に 実現可能なものであるのかをこの段階で見極める ことも重要」と言う。
最終条件交渉・契約締結 買収監査で判明した事実を踏まえた上で、改め て被買収企業を最終評価する。
評価方法には様々 な手法があるが、代表的なものとして、?被買収 企業の収益に着目するインカム・アプローチ、?被 買収企業の市場での取引価格に着目するマーケッ ト・アプローチ、?被買収企業の再調達コストに着 目するコスト・アプローチなどがある。
入る。
ただし、この段階で被買収企業が全ての情 報を開示するわけではない。
M&A成立の蓋然性 が未だ見えない段階で、個別の顧客の単価や自社 の抱えているリスクをさらけ出すことにはどうし ても抵抗が生じる。
一般的には会社概要、株主構 成、過去数期分の決算報告書、税務申告書、組織 図などの開示に留まるケースが多い。
それを基に、 買収価格や取引形態を詰めていく。
「売り手がより詳細な情報を開示するのは、基本 合意書を交わした後の買収監査の時だ。
ただし、上 場企業の場合では事情が変わる。
上場企業は基本 合意書を締結した際に対外発表を行う。
株価にも 大きな影響を及ぼす可能性があるため、基本合意 書締結の前には重要な条件を相当程度詰めているこ とが望まれる」と酒入エグゼクティブディレクター。
基本合意書の締結 M&Aを進めていくという両社のコンセンサスが 得られたら、最終契約書の枠組みとなる基本合意 書を結ぶ。
基本合意書に記載される項目で特に重 要なのは、買収価格や独占交渉権などだ。
この段階では買収価格はレンジ(範囲)表記に なっていたり、一定条件を前提とした価格設定に なっているケースが多い。
独占交渉権は買収企業 のための条項だ。
買収監査にはコストも時間もか かるので、そ の期間は他社 と交渉しない ことを被買収 企業に約束さ せる。
独占交 渉権の期間は、 Step 7 Step 6 Step 5 Step 9 Step 8 GCAサヴィアンの酒入和男 エグゼクティブディレクター
なぜM&Aという選択肢を採用するの か、なぜ他の選択肢ではダメなのか、それによっ て何を手に入れたいのか。
M&Aを検討する企業、 特に買収を検討する企業は、まずその点を明確に しておかなければならない。
M&Aはリターンが大きい一方で、リスクも存在 する。
思ったように統合効果が上がらず、かえっ て企業価値を毀損させて減損しなければならなく なったり、あるいは買収によって借入金が増え、財 務バランスが悪化してしまうケースも珍しくない。
「なんとなく」や「たまたま良い案件が浮上したか ら」といった曖昧な動機で着手すれば、後に手痛 いしっぺ返しを受けることになる。
アドバイザーの選定 現在のM&Aにおいては、買収企業・被買収企 業ともアドバイザーを起用することが一般的になっ ている。
対象企業の情報収集、精査、評価、交渉、 各種法的書類の作成など、M&Aに不可欠な作業 は、どれも経験のない素人にはハードルが高い。
一口にアドバイザーといっても、銀行系、証券会 社系、監査法人系、外資系、独立系などその種類 は豊富だ。
それぞれに特徴があるので、自社のニ ーズと案件の特質にマッチしたアドバイザーを選ぶ ことが求められる。
GCAサヴィアンの酒入和男エグゼクティブディ レクターは「過去にどれだけの実績があるかが、ア ドバイザーを選定する上で重要なポイントになる。
物流企業のM&Aであれば、特に物流業界におけ る実績を見るべきだろう。
また、近年ではコンペ 形式で複数の候補に提案を求めたうえでアドバイザ ーを決定する事例も増えている。
迷ったら複数社 に相談を持ちかけ、その中からパートナーを選ぶと いう選択肢もある」と説明する。
フィーについては、成功報酬型を基本として、 時間報酬型を組み合わせているケースなどがある。
成功報酬型のフィーのパーセンテージはM&A案件 の大きさにもよるが、買収企業価値の数%程度が 一つの目安になる。
時間報酬型はアドバイザーが実 際に働いた時間数に応じてフィーを支払う。
M&A戦略の企画・立案 まずM&Aの目的を明確化した上で、対象企業 を選定する。
日本では不特定多数の候補の中から、 どこを買うか、あるいはどこへ売るかを検討する ケースは少ない。
物流業界においては、日常業務 の中で付き合いのある企業などをピンポイントで対 象候補とするケースが多いようである。
買収企業であれば、対象候補との事業シナジー の初期的検討を行う。
この段階ではまだ詳細な情 報を入手できていないため、あくまで一般に開示 されている情報をベースとした見積もりを行う。
こ の時に、買収価格の目線をある程度持つための初 期的評価を行うのが一般的だ。
その他、最適な取 引ストラクチャーや相手企業・支配株主へのアプロ ーチ方法なども併せて検討する。
被買収企業であ れば、売却方法や価格などの諸条件を検討する。
秘密保持契約の締結 M&Aを打診し、相手が興味を示せば、秘密保 持契約を結んだ上で情報を開示、諸条件の交渉に NOVEMBER 2011 30 買収・統合に至る9 ステップ 多くの企業がM&Aに取り組んでいる。
しかし、そ の詳細な過程が表に出ることは少ない。
市場の水面下 で、どのような作業が行われているのか。
M&Aアド バイザーとして豊富な実績を持つGCA サヴィアンの 協力の下に、事業戦略の検討から買収、統合に至る M&A の典型的なプロセスを解説する。
(本誌編集部、編集協力=GCA サヴィアン) Step 2 Step 1 Step 4 Step 3 GCAサヴィアングループ株式会社 日米欧に加え、インド、中国に171人のプロフェッ ショナルを配置(2011年3月末時点)する独立系M&A アドバイザリーファーム。
グループ内にデューデリジェ ンス、メザニンファイナンスの機能を有する。
06年10 月東証マザーズ上場。
08年3月米国投資銀行サヴィア ン社と経営統合。
パナソニックによる三洋電機の公開 買付け、シティグループによる日興コーディアルの完全 子会社化、吉本興業の非公開化をはじめ、バンテック やSBSなど物流会社のM&A案件など豊富なアドバイザ リー実績を誇る。
www.gcasavvian.com 第 7 部 特 集 31 NOVEMBER 2011 当然、買収監査で問題が発覚した場合には、基 本合意していた価格や条件は引き下げられること になる。
問題があまりに重大だった場合には、そ こでM&Aが中止になることもある。
価格等の条 件に加え、所有権移動前の事象に起因する問題が 発生した際の将来の責任の取り決め等、最終条件 交渉で双方が納得すれば、法的な拘束力を持つ最 終契約を結ぶ。
取引のクロージング 必要に応じて、買収資金の調達や対外発表、監 督官庁への説明などを経て、買収代金と譲渡対象 株券等の交換が行われた時点でM&Aは完了(ク ロージング)となる。
PMIの実践 PMI(Post Merger Integration)とは、M& A後のシナジーを獲得するための統合プロセスとマ ネジメントを指す。
酒入エグゼクティブディレクタ ーは「最初の三カ月ほどの間にスタートダッシュを 切れるかどうかが、その後の統合が成功するか否 かの一つのポイントになる。
最終契約の締結を待っ てから統合準備を始めていたのでは間に合わない。
基本合意がなされた段階から並行してPMIを見 据えた準備を順次進めていく必要がある」と説明 する。
具体的には、統合委員会を立ち上げることが多 い。
組織や人事、営業、生産、IT、財務といっ た分野ごとにタスクフォースを設け、さらにその下 に分科会を設置する。
各レイヤーの責任者や担当 者が、全体最適の視点から統合後の企業の在り方 を議論することが重要になる。
通常一カ月〜二カ月程度だ。
その他、基本合意書には統合に向けたスケジュ ールや取引のストラクチャー、決済方法、実行後の 組織運営などが記載されている。
買収監査(デューデリジェンス)の実施 基本合意に至るまでの交渉は限定された情報を ベースにしていた。
それに対し、買収監査では詳 細な情報を被買収企業に求め、まだ見えなかったリ スクの洗い出しを行う。
弁護士や会計士、税理士 などの専門家を巻き込みながら、法務、財務、税 務など様々な視点から監査が行われる。
酒入エグゼクティブディレクターは「未上場の物 流企業のM&A案件で問題になりやすいのが、労 務関連だ。
ドライバーの過重労働や、未払い賃金 の問題を抱えているケースが散見される。
社会保 険未加入という事実が発覚することもあるし、財 務諸表の数字自体に信頼が置けないケースもある。
被買収企業に、こうした重大なリスクが潜んでいな いかを一カ月程度の間に徹底的に調べ上げる。
ま た、同時に、当初見込んでいた相乗効果が本当に 実現可能なものであるのかをこの段階で見極める ことも重要」と言う。
最終条件交渉・契約締結 買収監査で判明した事実を踏まえた上で、改め て被買収企業を最終評価する。
評価方法には様々 な手法があるが、代表的なものとして、?被買収 企業の収益に着目するインカム・アプローチ、?被 買収企業の市場での取引価格に着目するマーケッ ト・アプローチ、?被買収企業の再調達コストに着 目するコスト・アプローチなどがある。
入る。
ただし、この段階で被買収企業が全ての情 報を開示するわけではない。
M&A成立の蓋然性 が未だ見えない段階で、個別の顧客の単価や自社 の抱えているリスクをさらけ出すことにはどうし ても抵抗が生じる。
一般的には会社概要、株主構 成、過去数期分の決算報告書、税務申告書、組織 図などの開示に留まるケースが多い。
それを基に、 買収価格や取引形態を詰めていく。
「売り手がより詳細な情報を開示するのは、基本 合意書を交わした後の買収監査の時だ。
ただし、上 場企業の場合では事情が変わる。
上場企業は基本 合意書を締結した際に対外発表を行う。
株価にも 大きな影響を及ぼす可能性があるため、基本合意 書締結の前には重要な条件を相当程度詰めているこ とが望まれる」と酒入エグゼクティブディレクター。
基本合意書の締結 M&Aを進めていくという両社のコンセンサスが 得られたら、最終契約書の枠組みとなる基本合意 書を結ぶ。
基本合意書に記載される項目で特に重 要なのは、買収価格や独占交渉権などだ。
この段階では買収価格はレンジ(範囲)表記に なっていたり、一定条件を前提とした価格設定に なっているケースが多い。
独占交渉権は買収企業 のための条項だ。
買収監査にはコストも時間もか かるので、そ の期間は他社 と交渉しない ことを被買収 企業に約束さ せる。
独占交 渉権の期間は、 Step 7 Step 6 Step 5 Step 9 Step 8 GCAサヴィアンの酒入和男 エグゼクティブディレクター
