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2011年11月号
特集

第8部 目的別:物流M&Aトレンド分析青山ロジスティクス総合研究所 刈屋大輔 代表

 九〇年代後半以降に日本で実行された物流M& Aは、その目的別におおよそ以下の七つのパターン に分類できる。
すなわち、?ローコストオペレーシ ョン志向型、?3PL化志向型、?経営多角化志 向型、?市場内シェア拡大志向型、?グローバルビ ジネス志向型、?事業承継志向型、?異業種参入 志向型――である。
本稿では、これら七パターン の特徴を整理するとともに、今後の日本における 物流M&Aの方向性を示唆することにしたい。
 ローコストオペレーション志向型  乱立した子会社の再編に一服感  ローコストオペレーション志向型は、同じ機能を 有していたり、同じサービスを提供している同一グ ループ内の会社(子会社など)をM&Aを通じて統 合し、重複業務などを解消することによって、管 理コストの低減などを実現して企業としての競争力 向上を図ろうというものである。
物流M&Aでの 代表例としては、?メーカー系物流子会社による 「グループ内」M&A、?物流専業者による「グル ープ内」M&Aなどが挙げられる。
 ?メーカー系物流子会社による「グループ内」 M&Aは、生産・販売拠点や商圏の拡大などに伴 いエリアごとに乱立することになった複数の物流子 会社を、合併などを通じて全国一本化、あるいは エリア統合していくというもので、特に九〇年代 後半に盛んに行われた。
その目的は、前述した通 り、重複業務などの解消によるコスト競争力向上 にあるものの、統合を機に、親会社向けの物流業 務のみならず、外部顧客からの業務受託(外販獲 得)の強化を親会社から求められるようになった 点が特徴の一つと言えよう。
 ?メーカー系物流子会社による「グループ内」 M&Aの具体例としては、武田薬品工業による十 三武田サービスと湘南武田サービスの合併(一九 九六年)、サッポロビールによる東部サッポロ物流、 西部サッポロ物流、北海道サッポロ物流の三社合併 (九七年)、味の素によるサンミックス、三宝運輸、 三福の三社合併(九九年)、雪印乳業による東京 雪印物流など五社の合併(九九年)、マツダによる マツダ物流など五社の合併(九九年)などがある。
同時期には、このほかにも食品から自動車まで幅 広い分野で物流子会社の再編が加速した。
 一方、?物流専業者による「グループ内」M& Aは、グループ傘下に収めている地域子会社や作 業子会社を親会社が吸収していくというものであ る。
例えば、特別積み合わせ事業者(=路線トラ ック業者)の場合、地場で免許を保有している中 堅クラス以下の路線トラック業者を資本参加や買 収を通じてグループ内に組み入れるかたちで、全国 ネットワーク網を構築してきたという経緯がある。
しかしながら、九〇年の規制緩和で特積み事業へ の参入障壁が低くなったため、地域子会社を複数 抱えておく必要性がなくなり、重複業務の解消な どを目的としたM&Aが活発に行われるようにな った。
 こうして九〇年代後半以降、日本の物流市場に おいてローコストオペレーション志向型のM&Aが 数多く実行されてきたが、今後は下火となってい く可能性が高い。
すでに物流子会社においてはグ ループ傘下にある複数子会社の統合が行われ、それ が一段落しているためである。
しかしながら、親 会社が属する業界で再編の動きが見られるケースで は、親会社同士のM&Aを受けて、それぞれの傘 NOVEMBER 2011  32 目的別:物流M&Aトレンド分析  過去20年間の日本における物流M&Aは、企業グループ 内でのコスト競争力向上を目的とした“内向き”な取り 組みが主流だった。
しかし、今後は市場シェアの拡大や 海外進出を目指す“攻め”のM&Aが中心となっていく。
直 近の事例からはその兆候を窺い知ることができる。
青山ロジスティクス総合研究所 刈屋大輔 代表 第 8 部 特 集 33  NOVEMBER 2011 表1 物流M&Aのパターン別トレンド 物流業M&Aのタイプ 一般的な分類名 過去20 年の傾向 将来の展望 このタイプのM&Aはその取り組みが一段落した感がある。
ただ し、物流子会社については、親会社の再編劇を受けて、再 度事例数が拡大していく可能性がある。
90年代後半以降、メーカーや総合商社がグ ループ傘下の物流子会社を重複業務の解消 などを目的としてM&Aを加速。
物流専業者は 地域子会社の統廃合に動いた。
顧客企業の3PLニーズは依然として旺盛。
3PL市場も拡大が 続いていることから、このタイプのM&Aは今後も引き続き事例 数が伸びていく可能性がある。
機能補完やサービス提供エリアの拡大を目的 としたM&Aが増加した。
顧客企業がワンス トップでのサービス提供を求めていることが増 加の背景にある。
左記のような理由から多角化志向型M&Aは今後もさほど活発 化していかないことが予想される。
規制緩和によって参入障壁が低くなったため、 M&Aによって新規事業に参入しようとする物 流企業は少ない。
新たな収益基盤を確立す るために、他事業に強い会社をM&Aするの ではなく、サービスメニューを拡充するために M&Aに踏み切る企業が多い。
今後、このタイプのM&Aは活発化していくことが予想される。
航空貨物フォワーディング業と、トラック運送業のうち特別積み 合わせ事業の領域ではすでにそのような動きが出始めている。
ただし、トラック運送業については、事業者数が多い(約6万社) ため、再編が起こっても大きなシェア変動につながるとは考え にくい。
海運業についてはその方向性を確認できた が、その他の業態では市場シェアが大きく変 動するような業界再編型M&Aは起こっていな い。
ただし、トラック運送業についてはその萌 芽が見られた。
日本国内の物流需要(輸送需要など)が減少傾向にあり、中 長期的にも成長が見込めないことから、海外市場に活路を見 出そうとするプレーヤーは増加することが予想される。
ただし、 海外進出にはリスクが伴うため、当初は「資本参加」のような 緩やかな形態が志向され、その後事業が軌道に乗った時点で 「買収」などに踏み切るといった手法が取られる可能性がある。
2000年代半ば以降、このタイプのM&Aは 増加傾向にある。
とくに積極的なのは海運業 と航空貨物フォワーディング業。
近年はトラッ ク運送業での動きも活発化しつつある。
対象 エリアは欧米から中国をはじめとするアジア諸 国へとシフトしている。
大手と中小零細の「二極化」が鮮明となる中、中小零細にお いては将来の事業の成長性や収益の安定確保が見込めない ことを理由に、このタイプのM&Aが拡大していくことが予想さ れる。
また、団塊世代の定年退職などに伴い後継者難の問 題が顕在化することも件数増加を後押しすると考えられる。
市場全体として、このタイプのM&Aに対する ニーズと実行例が拡大しているものの、これ まで大手による中小零細のM&Aは救済色が 濃い。
引き続き件数は増加していくことが予想されるが、その目的に は変化が生じることが予想される。
新たな収益基盤の確保で はなく、物流需要が減少する中、卸売業を対象にするなど自 らで貨物を生み出すためのM&Aが活発化していくと見られる。
異業種企業を対象にしたM&Aは増加傾向に ある。
ただし、物流事業とまったく無関係な業 種ではなく、いわゆる周辺事業を展開する企 業が対象になっているケースが多い。
異業種参入志向型 垂直型 製品拡大型 製品拡大型 水平型 市場拡大型 出典)筆者作成 その他 コングロマリット型 ローコスト オペレーション志向型 3PL化志向型 経営多角化志向型 市場シェア拡大 志向型 グローバルビジネス 志向型 事業承継志向型 表2 日本の物流マーケットと物流業によるM&A戦略の変遷 1995-1999 2000-2005 2006-2010 2010- バブル経済崩壊に伴う国 内景気の低迷 日本企業の海外進出加 速と国際競争の激化 金融不安に伴う国内景気の低 迷と国際競争の激化 国内景気低迷の長期化とアジ ア地域での国際競争激化 出典)筆者作成 SCM の高度化 SCM 事業者数減少 減少 横ばい SCM 事業者数頭打ち 減少 横ばい 3PL、SCM 事業者数伸び率鈍化 減少 拡大 企業内の部分最適 ロジスティクス 新規参入の増加 減少 拡大 経済環境の変化 顧客の物流ニーズの変化 物流キーワード 物流市場の構造変化 物流需要(国内) 物流需要(国際) ローコストオペレーション 志向型M&A 3PL 志向型M&A 3PL 志向型M&A グローバルビジネス志向型M&A 異業種参入志向型M&A グローバルビジネス志向型M&A 異業種参入志向型M&A 事業承継志向型M&A 市場シェア拡大型M&A 物流業のM&A 戦略の トレンド変化 SCM による全体最適 (グローバル) SCM による全体最適 (国内) NOVEMBER 2011  34 今後は「買収」や「合併」といった、もう一歩踏 み込んだかたちでのM&Aを実行する物流企業が 増えていくのではないだろうか。
    経営多角化志向型   規制緩和で薄れるM&Aメリット  経営多角化志向型とは、従来軸足を置いてきた 事業だけでは、いずれ安定した収益の確保や成長性 の維持が困難になると判断し、新たな収益基盤の 確立を目指して、物流領域の他事業への進出(新 規参入)を目指す際にM&Aを活用するパターンで ある。
例えば、トラック運送事業者が倉庫業に参 入する、またはトラック運送事業者が港湾運送事 業に参入するといったケースを指す。
 九〇年代後半以降の物流M&A事例を見るかぎ り、物流領域の他事業への進出に、これまでM& Aが積極的に活用されてきたとは言い難い。
3P L化志向型の部分で触れた通り、「機能補完」を 目的としたM&Aは増加傾向にあり、それを「他 事業への進出(新規参入)」であると解釈すれば、 方向性を確認できたと言い切れるのかもしれない。
しかしながら、?経営不振の企業をM&Aによっ て傘下に収める“救済型”が多く、業績の良い他 業態の物流企業を取り込もうとするケースは少な い、?例えばトラック運送業が港湾運送業や海運 業をM&Aするなどドラスティックな再編劇は起こ っていない。
 M&Aを活用した「物流領域の他事業への進出 (新規参入)」がさほど進展してこなかった理由の 一つに、「規制緩和の推進」が挙げられる。
繰り返 しになるが、日本では九〇年以降、物流業の各業 態において、その進展度合いに濃淡はあるものの、 特筆すべきは、近年になって「営業譲渡」や「資 本参加」の事例が拡大しつつあるという点である。
「営業譲渡」の場合は、経営不振に陥った企業から 会社を丸ごと、あるいは特定事業だけを切り離すか たちで譲り受けて、それをきっかけに「機能補完」 や「サービス提供対象エリア拡大」を図る“救済 型M&A”が増えている。
一方の「資本参加」に ついては、株式の持ち合いなど緩やかなM&Aを 通じたアライアンス(戦略的提携)関係の構築で、 「機能補完」や「サービス提供対象エリア拡大」を 実現していく動きが広がっている。
 機能補完やサービス対象エリア拡大を目的とした 「3PL化志向型」M&Aは今後も引き続き事例数 が増加していくことが予想される。
その根拠とし ては、?顧客企業サイドのワンストップサービス提 供に対するニーズが依然として旺盛なこと、?その ニーズを捉えようと3PL化を目指す物流企業が 増えていること──などが挙げられる。
すでに成 熟期を迎えていると言われるものの、3PLは我 が国の物流マーケットにおいて数少ない成長分野で あることも、「3PL化志向型」M&Aの拡大を後 押しすると考えられる。
 前述したとおり、「3PL化志向型」M&Aでは その手法として「資本参加」を利用するケースが 増えている。
しかしながら、「資本参加」において “緩やかな”M&Aであるという点はメリットでも あり、デメリットでもあると言える。
悪い面は“緩 やかな”M&Aであるが故に、相手方と掲げた目 標の達成に向けたアクションが曖昧な状態のまま時 間だけが過ぎていき、大きな成果を上げていない ケースも見受けられるという点である。
いわゆる アライアンスに関するこうした実態を反面教師に、 下にある物流子会社同士を対象にした、再度のロ ーコストオペレーション志向型M&Aが繰り広げら れる可能性はある。
 一方、物流専業者によるローコストオペレーショ ン志向型M&Aも大手については現在までに一巡 した感があり、事業免許の関係で乱立することに なった地域子会社の統廃合をすでに終えている会 社が少なくない。
もっとも、関東・関西・東北と いった具合に地域ブロック単位での集約にとどまっ ているケースでは、「東日本」や「西日本」なども う少し大きな括りでの集約化に乗り出すことが予 想される。
 3PL化志向型  緩やかなM&Aで機能補完  3PL化志向型とは、顧客企業の「物流を一括 でアウトソーシングしたい」というニーズを背景と した、足りない機能の補完や、サービス提供対象 エリアの拡大などを目的とした物流M&Aを指す。
過去の事例を紐解くと、このうち「機能補完」に ついては、トラック運送業が倉庫業をM&Aする ことによって倉庫機能を補完する、あるいはその 逆、または海運業が陸上サービス(トラック運送や 倉庫)の機能を補完することを目的としているな ど、そのパターンは様々であった。
一方、「サービ ス対象エリア拡大」については、国内のネットワー ク拡充を目的とした事例はもちろんのこと、近年 は海外ネットワークの構築(新規マーケットへの進 出)および拡充に向けたM&A事例が増加傾向に ある。
 「機能補完」や「サービス提供対象エリア拡大」 を実現するために実行されるM&Aの形態について 特 集 35  NOVEMBER 2011 参入規制や運賃・料 金規制の緩和が進め られてきた。
それによ って新規参入のハー ドルが低くなったこと が、「物流領域の他事 業への進出」を目的と したM&A発生件数 の伸び悩みにつながっ ていると考えられる。
 今後も、経営多角 化志向型M&Aを通 じて物流領域の他事 業に乗り出す物流企 業にとっての主目的 は、新たな収益基盤 の確立というよりも、 むしろ3 P Lニーズ の拡大などを踏まえ たサービスメニューの 拡充にシフトしてい くことが予想される。
 日本の物流マーケ ットでは、多くの業態 において中長期的に 需要が縮小していく ことが確実視されて おり、それを受けて、 今後は多角化戦略で はなく「選択と集中」 を迫られるようになる はずである。
過去の 表3 日系物流企業が海外物流企業をM&Aしたケース(主要な事例) 物発表年 M&A実施企業 被M&A企業 形態 1996 1996 1996 1996 1997 1998 1998 2000 2000 2000 2001 2001 2001 2001 2002 2002 2002 2003 2003 2003 2004 2004 2004 2005 2005 2006 2006 2006 2006 2007 2007 2007 2007 2007 2008 2008 2008 2008 近鉄エクスプレス 日本郵船 日本郵船 近鉄エクスプレス 近鉄エクスプレス 近鉄エクスプレス 商船三井、日商岩井 日本郵船 山九 日本トランスシティ 三井倉庫 日本郵船 丸全AEI 郵船航空サービス 西濃運輸 日立物流 バンテック 日新 日本郵船 商船三井ロジスティクス(MLG) 日本郵船 ヤマト運輸 佐川急便 日新 商船三井 日本郵船(香港)(日本郵船) 台湾日通(日本通運子会社) 川崎汽船 日本郵船 日本通運 日本ロジテム 日本郵船 日本郵船 日立物流 バンテック(バンテック・グループ・ホールディングス) 日本通運 川崎汽船 近鉄エクスプレス スーパー・エクスプレス・インターナショナル オリエント・コンソリデーション・サービス(OCS) ミラノ・ディストリビューション・センター(MCD) ナチュラル・フレクシパック・サービス フレイテック フレイトウエイ・インターナショナル バーマMOLトランスポート、バーマLNGシッピング、バーマインベストメント ノルディック・ウォーター・サプライ 太栄国際運送 PT ナディタマトランシー ロジスティクス インドネシア ベックスコムPte:日本法人 ETAトランスポーテーション ダンザス:日本法人 P.T.PUSAKA YUDHANUSA スティネス:日本法人 大航国際貨運 ジョンソン・コントロールズ:日本法人(池田運輸) シノトランス トランスポートトレーディンググループEdam(TTG-EDAM) 上海華加国際貨運代理 ガスオーシャン(フランスガス公社) 統一速達(統一集団グループ) CJ GLS 合力国際貨運服務(シノトランス子会社) P&Oネドロイドの欧州〜南アフリカ航路の営業権(APモラーマースクグループ) 大連港公司 立欧 韓進海運 セレス・コンテナターミナル・ヨーロッパ(CCTE) ジェイ・アイ・ロジスティクス グローバルロジスティクス ジェット・エイト ムルチマールグループ ESA ヴィア・ロジスティクス 天宇客貨運輸服務(中国現地企業) FLEX・LNG TKK Logistics(TKK) 買収 買収 買収 買収 買収 買収 買収 資本参加 資本参加 買収 資本参加 買収 合併 買収 資本参加 資本参加 買収 資本参加 買収 買収 資本参加 資本参加 資本参加 資本参加 営業譲渡 資本参加 事業譲渡 資本参加 買収 買収 買収 資本参加 買収 買収 買収 買収 資本参加 買収 出典)レコフデータを基に著者作成 NOVEMBER 2011  36 見出す際、自社およびグループでゼロベースから海 外事業を立ち上げていくのではなく、すでに事業 を展開している海外物流企業を傘下に収めるため にM&Aを活用するケースを指す。
過去の物流M& A事例を見ていくと、海外市場への進出でとくに 熱心なのは、海運業と航空貨物フォワーディング業 であり、近年、その動きを一段と加速させている ことがわかる。
「買収」によって現地(進出国)の 物流企業を丸呑みするケースもあれば、現地の物 流企業に「資本参加」することによって“緩やか に”当該マーケットへの進出を果たし、その後出資 比率の拡大や買収などを追加的に実行して事業を 広げていくケースも見受けられる。
 さらに、二〇〇〇年代に入ると、トラック運送 業による海外進出が拡大している様子も把握でき る。
佐川急便やヤマト運輸のように、進出国の一 部エリアを対象に「宅配便」事業を展開するため、 現地の物流企業を「買収」したり、「資本参加」す るケース、あるいは進出国の全エリアを対象にし た商業貨物のトラック輸送サービスを展開する目的 で、現地物流企業の「買収」や「資本参加」に乗 り出すトラック運送事業者が増えている。
 M&Aを通じて海外進出を果たす日系の物流企 業に共通しているのは、進出先として中国をはじ めとするアジア各国の比率が徐々に高まりつつある という点である。
これは今後アジア各国が高い経 済成長率を見込まれており、それに伴い、物流需 要の拡大が期待できるからにほかならない。
 これまでグローバルビジネス志向型M&Aは、海 運業と航空貨物フォワーディング業を中心に展開さ れてきたが、今後はこの二つの業態に加えて、ト ラック運送業によるM&Aが拡大を見せることが予 航海運業を除く業態、とくにトラック運送業や航 空貨物フォワーディング業においては、この市場シ ェア拡大志向型M&Aが活発に実行されることが 予想される。
 とくに、トラック運送業では特積み事業者の再 編が動き出す可能性が高い。
同事業においては市 場での需要に対し供給量が上回る「供給過多」の 状態が長らく続いている。
それに伴い、市場では 運賃の値下げ競争が激化し、その影響で事業者の 収益性は悪化の一途を辿っている。
とくに売上高 一〇〇〇億円以下の中堅クラスの業績低迷は深刻 さを増しており、大手がこれらをM&Aによって 吸収するかたちで市場シェアの拡大と価格コント ロール力の増強に乗り出すと考えられる。
 一方、航空貨物フォワーディング業では、長らく 中心的プレーヤーとして活躍してきた鉄道会社系 の事業者が再編の波に飲み込まれる可能性がある。
鉄道会社系の航空貨物フォワーダーは、同じグルー プ企業内で展開してきた旅行代理店ビジネスから派 生した付帯事業として貨物の取り扱いを開始した 経緯のある会社が多いが、彼らにとって貨物事業 はそもそもの本業(鉄道事業や旅行代理店業)と のシナジー効果が薄いため、他社への会社譲渡や事 業譲渡を検討し始めている。
すでに実行に移して いるケースも見受けられ、その流れは今後も継続 することが予想される。
  グローバルビジネス志向型   アジア市場をターゲットに加速  グローバルビジネス志向型とは、物流需要が減少 傾向にある日本市場での事業展開だけでなく、将 来の成長が見込める諸外国の市場に新たな活路を 事例数の推移を見ても、経営多角化志向型M&A はさほど活発には行われてこなかった様子を確認 できるが、その傾向はこの先も続くだろう。
  市場シェア拡大志向型   ようやく動き出すM&Aの本丸  市場シェア拡大志向型とは、主力とする物流事 業の領域における競合相手の数を減らして、自社 のマーケットシェアを高めることで価格交渉力の増 強を図り、市場での競争を優位に進めていくため のM&Aである。
過去の物流M&Aの事例を見て いくと、まず、海運セクターでは外航海運業がM& Aを通じてプレーヤー数の削減に動き、それによっ て国内および海外の市場におけるマーケットシェア 拡大と価格交渉力アップを実現した。
また、物流 子会社というカテゴリーにおいては、貨物の供給先 の共通度合いが高い企業同士が物流のプラットフォ ーム化を目指して「合併」に踏み切る事例が出始 めた。
 もっとも、他の物流業の業態において、マーケ ットシェアが激変するようなドラスティックな再編 劇が見受けられたかといえば、答えはノーである。
とりわけトラック運送業について言及すれば、日本 と同様に規制緩和が実行され、マーケットにおけ る供給過多の状態が続いた米国や欧州では、M& Aによる事業者の再編が加速しているという実態 を鑑みれば、日本ではその動きがやや遅れている という感が否めない。
 しかしながら、西濃運輸による西武運輸の買収 (二〇〇九年)、福山通運による王子運送の買収(〇 九年)といった事例からは、その萌芽を確認する ことができる。
今後はすでに再編が済んでいる外 特 集 37  NOVEMBER 2011 想される。
 繰り返しになるが、我が国の国内貨物輸送量は 減少傾向が続いており、その落ち込み幅は年を追 うごとに拡大していくと目されている。
日本国内 に軸足を置いたままではじり貧を免れないトラック 運送事業者は、新たな成長市場を目指して海外進 出を加速させるはずである。
その際、進出の対象 となるのは、経済成長の著しい中国をはじめとす るアジア諸国となるであろう。
経済成長とともに 貨物の輸送需要拡大が見込めるためである。
 しかしながら、海外進出にはリスクも伴う。
進 出先の政治情勢や経済政策の変化を受けて、当初 描いていた事業プラン通りにビジネスが前進してい かない可能性もある。
そのため、M&Aを通じて 海外進出を図る我が国の物流事業者は、「買収」や 「合併」といった強権的な手法ではなく、「資本参 加」などによって、しばらくは様子見を続け、期 が熟したタイミングで一気に資本を投下するといっ たM&A戦略を打ち出すことが考えられる。
  事業承継志向型   後継者難で今後は活発化  事業承継志向型とは、国内市場での物流需要の 減少、競争激化による収益力の低下などを背景に、 自力での将来の事業拡大を見込めないと判断する 中小零細規模の物流企業が、自社の資産や営業権 などを同業他社に譲り渡すM&Aを指す。
九〇年 代後半以降、中小零細規模のプレーヤーが圧倒的 に多い物流業界では、大手が中小零細をM&Aし たケース、または中小零細が中小零細をM&Aし たケースが見受けられるが、これまでその大半は、 事業承継というよりも、救済色が濃い。
表4 物流業による異業種をターゲットにしたM&Aの主要事例 発表年 M&A実施企業 被M&A企業 被M&A企業業種 1998 2001 2002 2003 2003 2003 2004 2004 2004 2004 2004 2004 2005 2005 2006 2006 2006 2006 2006 2006 2007 2007 2008 アートコーポレーション 東海造船運輸 トランコム 鈴与シンワート キムラユニティ トナミ運輸 鴻池メディカル(鴻池運輸) エスビーエス 商船三井 鈴与 ヤマト運輸 西濃運輸 ワールド・ロジ エスビーエス 辰巳商会 軽貨急配 住友倉庫 ワールド・ロジ 伊予商運 鴻池運輸 明治海運グループ アートコーポレーション ゼロ エイビーシージャパン 米喜バルブ シー・アンド・シー、シーシーケー ロジック、ロジック興産 スズケン整備(スズケン) けいしんシステムリサーチ メディカル・システム・サービス東北(泰東製綱) ビッグバン ダイビル ロジック(鈴与シンワート) ファインクレジット、ワールドコンピューターセンター トヨタカローラ岐阜、岐阜日野自動車、ネッツトヨタセントロ岐阜、ネッツトヨタ岐阜 友栄産業、友栄フードデリバリーズ、友栄フード ぱむ 大阪港振興 直方ショッピングセンター(九州日本信販) アイスター エム・アイ・ケー はと観光(ダイキ) ハリマメディカル(ハリマ化成) ホテル日航アンヌプリ(日本航空 孫会社) コティ(コムスン子会社)、グレース(コムスン) ドライバースタッフ(ジャパン・リリーフ持株会社) 建設 機械 サービス 電機 サービス ソフト・情報 サービス ソフト・情報 不動産・ホテル ソフト・情報 その他金融 その他小売 外食 サービス 不動産・ホテル その他金融 ソフト・情報 その他小売 サービス サービス 不動産・ホテル サービス サービス 出典)レコフデータを基に著者作成 NOVEMBER 2011  38 特 集 中堅クラス以下の卸を傘下に収めていく公算が大 きい。
運賃や料金の値下げといった手段を使って 同業他社から貨物を奪うよりも、M&Aを通じて 荷主(卸)を取り込んでしまったほうが手っ取り 早いうえに、高い収益性の確保を見込めるからで ある。
 もともと「物流機能を有した卸」は数多く存在 していたが、それとは逆にM&Aを通じて「卸機 能を有した物流会社」が次々と誕生していくとい う点に着目すべきであろう。
双方とも「商流機能 と物流機能」を有しているという点では変わりは ないが、軸足の置き方が大きく異なっている。
メー カーと小売業、またはメーカーと消費者の直接取引 が拡大し“卸不要論”が叫ばれる中、今後は「物 流機能を有した卸」よりも「商流(決済)機能を 有した物流会社」のほうが市場で重宝されていく 可能性もある。
みでの成長性の維持が困難であると判断した物流 企業が異業種への進出の手段としてM&Aを活用 するケースである。
この異業種参入志向型のM&A は年を追うごとに発生件数が増加する傾向にあり、 その目的は「新たな収益基盤の確立」に重点が置 かれている。
ただし、M&Aによって手中に収め た新事業は、物流とはまったく無関係な事業とい うよりも、物流業務の周辺事業であるケースが多 く、そのことから「新たな収益基盤の確立」と同 時に、本業である物流業の収益増大など波及効果 を狙った取り組みであることがわかる。
 日本の物流市場のパイが縮小しているのを受け て、安定した収益の確保と成長性の維持を目的と した「異業種参入志向型」M&Aの拡大傾向は今 後も続くであろうが、M&Aの対象となる業種に は若干の変化が生じることが予想される。
これま でに実行された「異業種参入志向型」M&A事例 と同様、M&Aの対象は物流業務の周辺事業が中 心となることに変わりはないが、新たなターゲット の一つとして卸売業が挙げられ、その比率が高ま っていく可能性があるという点である。
 直近のM&A事例からもその兆候は確認できる。
「センコーによる丸藤の買収」(二〇〇九年)はそ の代表例である。
丸藤は神戸に本社を置く中堅日 雑卸であり、センコーは同社を取り込むことによっ て、日雑品に関する仕入れ、メーカーからの商品 調達、決済、小売業向け物流業務(センター運営 と配送)といったサービスを一括で提供できる体制 を構築していくという。
 資本力のある物流企業は今後、センコーのよう にもともと業務経験やノウハウのある特定のカテゴ リーを対象に、その分野でビジネスを展開している  しかしながら、日本の物流市場の構造変化など を勘案すれば、今後は最も件数が増えそうなパタ ーンであると言えよう。
すでに本稿の各所で触れ ている通り、日本の物流市場では規制緩和が実施 されて以降、トラック運送業、倉庫業、内航海運 業、港湾運送業といった業態において、プレーヤ ーの構成が大手と中小零細に二分される「二極化」 が鮮明になりつつある。
 このうち、中小零細は市場での競争激化の影響 で厳しい経営環境下に置かれている。
そのため、 当該事業の将来性、他社の競争力などを勘案した 結果、これ以上単独で事業を継続していくことが 望ましくないと判断する事業者(この場合は経営 者=企業オーナー)は、今後、M&Aを通じて自 社を同業他社に譲渡していくことが予想される。
 さらに、事業の将来性だけではなく、後継者不 足という事情からも、この「事業承継志向型」M& Aは増加していく可能性が高い。
改めて言うまで もなく、物流業は労働集約型産業であり、その職 場は3K(きつい、汚い、危険)であるため、他 産業に比べて若年労働力を確保しにくい。
その結 果、労働人口の構成に歪みが生じ、全体に占める 年配者の割合は年々高まっているというのが実情 である。
しがたって、たとえ業績が堅調に推移し ていても、会社を引き継いでくれる部下や親族が いないため、やむを得ず、会社を第三者に譲り渡 す、といった後継者難を背景した「事業承継志向 型」M&Aが拡大していくことが考えられる。
  異業種参入志向型   卸売業が主要ターゲットに  異業種参入志向型とは、本業である物流事業の ※本稿は、著者論文「我が国物流業のM&A戦略の変遷 に関する研究」(青山学院大学大学院経営学研究科博 士前期課程、二〇一〇年三月)を大幅に加筆・修正し、 再構成したものです。
(かりや・だいすけ) 1973年生まれ。
青 山学院大学大学院経営学研究科博士前 期課程修了(経営学修士)。
物流業界紙 「輸送経済」記者、月刊誌「流通設計」副 編集長、月刊誌「ロジスティクス・ビジネ ス( LOGI-BIZ)」の編集記者、副編集長 などを経て、2008年4月に青山ロジステ ィクス総合研究所(ALI)を設立。

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