2011年11月号
ケース
ケース
富士通ゼネラル SCM
NOVEMBER 2011 40
コストダウンから「GDM」へ
富士通グループの電気機器メーカーでエア
コンを主力とする富士通ゼネラルは、海外売
上比率が約六割となるグローバル企業だ。
同 社は、経営トップが自ら推進本部長を務める サプライチェーン改革に、二〇〇六年から本 格的に取り組んでいる。
それ以前からSCMには着手しており、受 注から生産に至るリードタイムの短縮や在庫 削減などを進めていた(本誌〇四年六月号既 報)。
その結果、〇二年三月期末に二・六八 カ月分あった在庫(連結棚卸資産)を、その 後の四年間で一・二二カ月まで削減すること に成功している。
ただし〇六年までの活動は、〇一年度の経 営危機をきっかけにスタートしたプロジェクト 的な意味合いの強いものだった。
情報システ ムは未整備だったし、活動を牽引する「SC M推進統括部」はメンバーが五人程度の小所 帯にすぎなかった。
同部が中心になって業務プロセスの見直し を進めると同時に、SCMを本格化していく ための枠組みを検討していった。
その活動を 通じてITを活用することの重要性を改めて 認識し、〇五年に新たなシステムの構築に着 手した。
新システムが本稼働した〇六年六月、SC Mを本格化するための実務部隊として「GD M(グローバル・デマンドチェーン・マネジメ ント)推進本部」を発足させた。
これに伴って大幅な組織改革を実施した。
既存のSCM推進統括部を解散する一方で、 GDM推進本部のなかにサプライチェーン改 革のまとめ役として「GDM推進統括部」を 新設。
生産部門で生産管理を担っていた人材 や、営業部門でPSI(購入・販売・在庫) 計画の策定に携わっていた人材などをここに 集めた。
さらに調達や物流については、既存の部門 を丸ごとGDM推進本部に組み入れた。
その 結果、同本部は総勢およそ九〇人が所属する 一大セクションとなった。
組織図上も生産や 営業と並ぶポジションに位置づけられた。
初代のGDM推進本部長には大石弘社 長(現会長)が就任。
二代目本部長には村嶋 純一副社長(現社長)が就いた。
三代目とな る現在は、本部長こそ佐藤幸夫専務に交替し たが、月に一度の本会議にはいまだに大石会 長と村嶋社長が出席している。
その意味を、経営情報システム担当兼GD M推進本部長代理(物流・調達担当)の松本 清二経営執行役常務はこう説明する。
経営トップが本部長を兼務し、自ら需給調整の判 断を下す「GDM推進本部」を2006年に設立した。
部 門ごとに異なる計画をもつ従来の体制を改め、“ワン ナンバー”の下に全社が足並みを揃えた。
その一方 で、工場へのトヨタ生産方式の導入も推進。
今や景 気変動に揺るがない企業体質を獲得しつつある。
SCM 富士通ゼネラル 経営トップを本部長にサプライチェーン改革 “ワンナンバー”の計画数値で製配販を統合 経営情報システム担当兼 GDM推進本部長代理(物 流・調達担当)の松本清二 経営執行役常務 41 NOVEMBER 2011 「いろいろなことを検討するなかで、結局、 『ワンナンバー』というのが大きなテーマにな った。
そこに向けて生産や営業ががんばって いく一つの数字を決める必要があった。
この ような決定は社長にしかできない」 トップの強いリーダーシップの下で決定する 数字だからこそ、その数字に向かって各部門 が一丸になれる。
そうすることで、需給調整 にありがちな部門間の腹の探り合いを排除し てきた。
「とにかくそれぞれの思惑で動くことをや める。
GDM推進本部長が決めたワンナンバ ーに対して、各部門がどのような思惑を抱え ているのかまで皆がわかるようにする。
それ が、この活動の原点になっている」と松本常 務は強調する。
需要を予測できないエアコン こうしてデマンド(需要)に基づくサプラ イチェーン管理に本腰を入れた富士通ゼネラ ルだが、IT活用の考え方は一般的なSCM の事例とは大きく異なっている。
同社は需要 予測システムを一切導入していない。
この姿 勢は五年前にGDMシステムを構築したとき から一貫しており、今後も少なくとも製品の 売れ行きを予測するためのシステムを採用す る予定はない。
その最大の理由は、エアコンの商品特性に ある。
富士通ゼネラルにとってエアコンは総 売上高の八割超を占める主力製品だが、その 売れ行きは天候に大きく左右される。
同社の 地域別販売実績の推移には、振れ幅の大きさ が顕著に表れている。
気象状況によって極端 に乱高下する需要を過去の実績などから機械 的に予測するのは、いかに高度なシステムで あっても難しい。
主力市場である欧州の需要変動がとくに大 きい。
同社は〇一年に生産拠点を中国(上海) とタイの二カ所に集約しており、欧州までの 輸送リードタイムは長い。
その製品供給には、 経済環境の変化や市場特性をにらみながらの 柔軟かつ戦略的な判断が求められる。
そのうえで何より重要になるのが関係部門 の情報共有だ。
それが〇六年に稼働したGD Mシステムの狙いでもあった。
必要な情報を 世界中から効率よく集め、意思決定に生かせ る情報インフラが必要だった。
「システム化の大きなポイントは、サプライ チェーンをどうやってつなぐかにあった。
た とえば営業の情報と調達の情報はどのように つながっているのか。
MRP(資材所要量計 画)の入力情報と出力情報にはどういう関係 にあるのか。
そういったことを見えるように してハッキリさせる必要があった」と松本常 務は振り返る。
実は同社がSCMに着手するきっかけとな った〇一年度の業績の悪化も、主因は天候 不順に見舞われた欧州での販売不振にあった。
二〇〇〇年度に五四〇億円(エアコン以外も 含む)あった欧州での販売金額が、翌〇一年 度は二一四億円に急落。
同時期の富士通ゼネ ラル全体の棚卸資産回転期間も、一・九四カ 月から二・六八カ月へと悪化した。
当時は欧州の販売会社や代理店の注文を受 けてから、実際に製品を納入するまでに五カ 月近くを要していた。
トータルリードタイムの 長さが在庫を膨らませる一因になり、刻々と 変化する事業環境への対応を鈍らせていたの は明らかだった。
この危機に対応するために〇三年に立ち上 げたのが「トータルコストダウン推進本部」と いうセクションで、冒頭で触れた「SCM統 括推進部」は同本部の傘下にあった。
こうし た経緯から同社のSCMは、まずはリードタ イムの短縮をめざした。
リードタイムを短縮 すれば、自ずと在庫も減ると考えた。
空調機器の地域別売上高(連結)の推移 《とりわけ欧州市場の変動が大きい》 07 年 3 月 08年 3月 09 年 3月 10 年 3月 11 年 3月 (月期) 234 264 215 189 213 178 198 256 348 139 191 333 417 185 418 242 119 298 158 (単位:億円) 2,000 1,500 1,000 500 0 118 690 232 443 117 414 213 164 504 200 242 欧州 米州 オセアニア その他 日本 中東・ アフリカ NOVEMBER 2011 42 当時、富士通ゼネラルが取引先に部材を発 注してから、タイと中国の工場で製品を出荷 するまでに九〇〜一二〇日を要していた。
ま ずはこの生産リードタイムを半減させること をめざし、各領域の業務プロセスにメスを入 れた。
その過程で生産計画のサイクルを月次 から週次に改めた。
将来的には調達をジャス ト・イン・タイム(JIT)にすることで、 生産リードタイムを十二日間まで縮めるとい う最終目標も掲げた。
現在、生産リードタイムは二〇日程度まで 短縮できた。
「しかし、まだあまり効果がな い。
やはり、できることなら一週間でまかな えるようにしたい。
そのためには調達である 程度のストック・オペレーションをしていく必 要がある。
じゃあ、どういうかたちで在庫を 持つのか。
それが現時点での課題になってい る」と松本常務は説明する。
トヨタ生産方式を工場に導入 富士通ゼネラルは需給調整のための「GD M会議」を毎週開いている。
重要な意思決定 のために毎月一回開く本会議には、経営トッ プ以下、国内外の営業の責任者など約一五人 が顔を揃える。
関係者が一堂に会して、役員 レベルで活動方針を擦り合わせて、月次の生 産台数などを決定する。
他方、本会議以外の週次の会議では、より 実務に近い案件を検討している。
こちらの会 議の主な役割は、月次で決めた数値をできる が高まる。
オペレーションに内在するムダを 高いレベルで排除していくことにもつながる。
たとえば一週間に一度、コンテナ単位でまと めて顧客に出荷している製品を、顧客の要望 に細かく合わせて納品するといったことが可 能になるはずだ。
「そうなれば、お客さんも喜んでくれるし、 われわれもあまり手間をかけずに効率的なオ ペレーションをできるようになる」と松本常 務はいう。
一連の活動の結果、富士通ゼネラルの連結 棚卸資産はほぼ一貫して減り続けている。
冒 頭でも述べた通り、GDMをスタートした〇 だけ平準化して週単位で実務に落とし込んで いくというもの。
関連部署の役員など実務の 責任者が出席して、一週間で生じた変化に応 じて数字を微調整していく。
仮に経営トップ の承認を必要とするような事態が生じた場合 は、次の本会議に諮るか、緊急であれば臨時 の会議を招集することになる。
SCMに着手する以前の需給調整の会議で は、営業と生産管理部門が互いに思惑を抱え ながら生産数量を決定していた。
これが「G DM会議」になってからは、生産台数の合意 を経営レベルにまで共有するだけでなく、サ プライチェーンに関する活動方針をより幅広 く検討する場へと進化した。
変わったのは生販会議のあり方だけではな い。
計画サイクルを月次から週次に改めたの に伴い、工場における生産革新も求められた。
そこで〇四年に工場へのトヨタ生産方式の導 入に踏み切った。
外部のコンサルタントの支 援も受けながら活動を展開している。
松本常務は、「計画を週次でこなせる体制 が整っても、実際の生産活動はなかなか週次 にはできない。
われわれにとって小ロットの 生産を実現するための一つの手段がトヨタ生 産方式だ。
今後も『一台流し』を追求してい き、本当の意味での週次生産を実現していき たい。
もっと言えば、日次の生産ができるよ うになればフレキシビリティは非常に高まる」 と考えている。
生産を小ロット化すれば、変化への対応力 連結業績と棚卸資産回転期間の推移 《10 年前の危機を糧にリーマン・ショックを乗り切った》 売上高(億円)・営業利益(千万円) 棚卸資産回転期間(カ月) 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 ▲ 500 ▲ 1,000 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 連結売上高(億円) 営業利益(千万円) 棚卸資産回転期間(カ月) 01 年3月 02 年3月 03 年3月 04 年3月 05 年3月 06 年3月 07 年3月 08 年3月 09 年3月 10 年3月 11 年3月 1.94 2.68 2.28 1.51 1.27 1.22 1.25 1.11 1.11 0.99 1.05 1,917 369 186 857 877 713 425 1,021 825 943 1,103 1,517 1,586 1,6871,706 1,799 1,893 2,227 1,871 1,642 1,821 ▲626 ※期首・期末の平均棚卸資産から回転期間を算出 43 NOVEMBER 2011 とを物語っている。
GDMによってSCMを本格化する以前は、 結果が出てしまった後で振り回されていた面 があった。
それが今では、営業から伝えられ る変化の徴候などをGDMの仕組みを使って 素早く共有し、ある程度まで事前に手を打て るようになった。
先手を打てれば、経営判断 の選択肢は大きく広がる。
グローバル化の一層の進展も、業績の安定 に寄与している。
富士通ゼネラルの世界各地 への販売の依存度は、近年になって均される 傾向にある。
エアコンの繁忙期が逆転する北 半球と南半球でバランスよく商圏を確保して きたことなどが、特定の地域の天候不順など に左右されない対応力につながっている。
三年後に在庫半減をめざす とは言え、SCMを高度化していくうえで の課題はまだ山積している。
調達分野のさら なる改革も必須だ。
富士通ゼネラルにとって、 自ら在庫リスクを背負ってでも確保しなけれ ばならない基幹部品は限られている。
外部か ら購入しているモーターやコンプレッサー、一 部の半導体などがそうだ。
こうした基幹部品については、調達先メー カーとの信頼関係に基づく協働を深化させて いく必要がある。
場合によっては商品開発に まで踏み込んで、特殊な部品を一般化してい く必要性も視野に入れている。
IT化の余地も残っている。
週次で計画サ イクルを回していくのは、現実問題として大 変な作業負担を伴う。
GDMの本来の仕事は 集まってきた情報に基づいて適切な判断を下 すことだ。
データの集計作業に追われて対応 が後手に回るようでは意味がない。
そして、残された最も大きなテーマの一つ が、もう一段の在庫削減だ。
同社はGDMに よる管理とは別に、販売サイドの流通在庫を 主にウォッチする「棚卸資産圧縮委員会」と いう会議を催している。
この委員会では「三 年後に在庫日数を一五日程度に引き下げる」 という目標を掲げている。
これを需給調整の側面から後押しする立場 にあるGDMとしては、まずは「売れる在 庫」と「売れない在庫」の峻別が必要と考え ている。
まず営業に販売数量を予測してもら い、引き当てまでしてもらう。
ここで引き当てられない製品については「売 れない在庫」とみなし、問題として顕在化す る前に手を打つ。
一方、「売れる在庫」につ いては、販売先への納期回答の厳格化や、さ らなるムダの排除によって削減していこうと している。
松本常務は、「いずれにしてもGDMで全 社がコミットした数字を持っている意味は大 きい。
これが社外とのコラボレーションに必 要なツールにもなる。
これまでに実現してき たことを応用していけば、さまざまな戦略的 な展開につながる」と期待している。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 七年三月期の時点で、すでに在庫水準は大幅 に改善していた。
その後もじわじわと減少す る傾向にあり、最近の棚卸資産回転期間はほ ぼ一カ月程度で推移している。
一一年三月期 こそ特殊要因で一時的に増えてしまっている が、オペレーションの効率が悪化したわけで はない。
とくに注目すべきはリーマン・ショック後 の業績だ。
このとき同社の欧州での売上高は、 〇一年度ほどではなかったものの、再び四割 近く落ち込んでしまった。
しかし、その後の 業績の推移は対照的で、在庫水準と営業利益 が致命的な影響を受けることはなかった。
こ の違いは、現在の同社の企業体質が、事業環 境の変化に対応できるようになりつつあるこ 2010 年度の製品別・地域別売上高(連結)の構成比(%) その他 2% 売上高合計 1,821 億円 売上高合計 1,821 億円 情報通信部門 12% 空調機器部門 86% 日本 41% その他 11% 中東・アフリカ 13% オセアニア 13% 9% 米州 9% 欧州 17%
同 社は、経営トップが自ら推進本部長を務める サプライチェーン改革に、二〇〇六年から本 格的に取り組んでいる。
それ以前からSCMには着手しており、受 注から生産に至るリードタイムの短縮や在庫 削減などを進めていた(本誌〇四年六月号既 報)。
その結果、〇二年三月期末に二・六八 カ月分あった在庫(連結棚卸資産)を、その 後の四年間で一・二二カ月まで削減すること に成功している。
ただし〇六年までの活動は、〇一年度の経 営危機をきっかけにスタートしたプロジェクト 的な意味合いの強いものだった。
情報システ ムは未整備だったし、活動を牽引する「SC M推進統括部」はメンバーが五人程度の小所 帯にすぎなかった。
同部が中心になって業務プロセスの見直し を進めると同時に、SCMを本格化していく ための枠組みを検討していった。
その活動を 通じてITを活用することの重要性を改めて 認識し、〇五年に新たなシステムの構築に着 手した。
新システムが本稼働した〇六年六月、SC Mを本格化するための実務部隊として「GD M(グローバル・デマンドチェーン・マネジメ ント)推進本部」を発足させた。
これに伴って大幅な組織改革を実施した。
既存のSCM推進統括部を解散する一方で、 GDM推進本部のなかにサプライチェーン改 革のまとめ役として「GDM推進統括部」を 新設。
生産部門で生産管理を担っていた人材 や、営業部門でPSI(購入・販売・在庫) 計画の策定に携わっていた人材などをここに 集めた。
さらに調達や物流については、既存の部門 を丸ごとGDM推進本部に組み入れた。
その 結果、同本部は総勢およそ九〇人が所属する 一大セクションとなった。
組織図上も生産や 営業と並ぶポジションに位置づけられた。
初代のGDM推進本部長には大石弘社 長(現会長)が就任。
二代目本部長には村嶋 純一副社長(現社長)が就いた。
三代目とな る現在は、本部長こそ佐藤幸夫専務に交替し たが、月に一度の本会議にはいまだに大石会 長と村嶋社長が出席している。
その意味を、経営情報システム担当兼GD M推進本部長代理(物流・調達担当)の松本 清二経営執行役常務はこう説明する。
経営トップが本部長を兼務し、自ら需給調整の判 断を下す「GDM推進本部」を2006年に設立した。
部 門ごとに異なる計画をもつ従来の体制を改め、“ワン ナンバー”の下に全社が足並みを揃えた。
その一方 で、工場へのトヨタ生産方式の導入も推進。
今や景 気変動に揺るがない企業体質を獲得しつつある。
SCM 富士通ゼネラル 経営トップを本部長にサプライチェーン改革 “ワンナンバー”の計画数値で製配販を統合 経営情報システム担当兼 GDM推進本部長代理(物 流・調達担当)の松本清二 経営執行役常務 41 NOVEMBER 2011 「いろいろなことを検討するなかで、結局、 『ワンナンバー』というのが大きなテーマにな った。
そこに向けて生産や営業ががんばって いく一つの数字を決める必要があった。
この ような決定は社長にしかできない」 トップの強いリーダーシップの下で決定する 数字だからこそ、その数字に向かって各部門 が一丸になれる。
そうすることで、需給調整 にありがちな部門間の腹の探り合いを排除し てきた。
「とにかくそれぞれの思惑で動くことをや める。
GDM推進本部長が決めたワンナンバ ーに対して、各部門がどのような思惑を抱え ているのかまで皆がわかるようにする。
それ が、この活動の原点になっている」と松本常 務は強調する。
需要を予測できないエアコン こうしてデマンド(需要)に基づくサプラ イチェーン管理に本腰を入れた富士通ゼネラ ルだが、IT活用の考え方は一般的なSCM の事例とは大きく異なっている。
同社は需要 予測システムを一切導入していない。
この姿 勢は五年前にGDMシステムを構築したとき から一貫しており、今後も少なくとも製品の 売れ行きを予測するためのシステムを採用す る予定はない。
その最大の理由は、エアコンの商品特性に ある。
富士通ゼネラルにとってエアコンは総 売上高の八割超を占める主力製品だが、その 売れ行きは天候に大きく左右される。
同社の 地域別販売実績の推移には、振れ幅の大きさ が顕著に表れている。
気象状況によって極端 に乱高下する需要を過去の実績などから機械 的に予測するのは、いかに高度なシステムで あっても難しい。
主力市場である欧州の需要変動がとくに大 きい。
同社は〇一年に生産拠点を中国(上海) とタイの二カ所に集約しており、欧州までの 輸送リードタイムは長い。
その製品供給には、 経済環境の変化や市場特性をにらみながらの 柔軟かつ戦略的な判断が求められる。
そのうえで何より重要になるのが関係部門 の情報共有だ。
それが〇六年に稼働したGD Mシステムの狙いでもあった。
必要な情報を 世界中から効率よく集め、意思決定に生かせ る情報インフラが必要だった。
「システム化の大きなポイントは、サプライ チェーンをどうやってつなぐかにあった。
た とえば営業の情報と調達の情報はどのように つながっているのか。
MRP(資材所要量計 画)の入力情報と出力情報にはどういう関係 にあるのか。
そういったことを見えるように してハッキリさせる必要があった」と松本常 務は振り返る。
実は同社がSCMに着手するきっかけとな った〇一年度の業績の悪化も、主因は天候 不順に見舞われた欧州での販売不振にあった。
二〇〇〇年度に五四〇億円(エアコン以外も 含む)あった欧州での販売金額が、翌〇一年 度は二一四億円に急落。
同時期の富士通ゼネ ラル全体の棚卸資産回転期間も、一・九四カ 月から二・六八カ月へと悪化した。
当時は欧州の販売会社や代理店の注文を受 けてから、実際に製品を納入するまでに五カ 月近くを要していた。
トータルリードタイムの 長さが在庫を膨らませる一因になり、刻々と 変化する事業環境への対応を鈍らせていたの は明らかだった。
この危機に対応するために〇三年に立ち上 げたのが「トータルコストダウン推進本部」と いうセクションで、冒頭で触れた「SCM統 括推進部」は同本部の傘下にあった。
こうし た経緯から同社のSCMは、まずはリードタ イムの短縮をめざした。
リードタイムを短縮 すれば、自ずと在庫も減ると考えた。
空調機器の地域別売上高(連結)の推移 《とりわけ欧州市場の変動が大きい》 07 年 3 月 08年 3月 09 年 3月 10 年 3月 11 年 3月 (月期) 234 264 215 189 213 178 198 256 348 139 191 333 417 185 418 242 119 298 158 (単位:億円) 2,000 1,500 1,000 500 0 118 690 232 443 117 414 213 164 504 200 242 欧州 米州 オセアニア その他 日本 中東・ アフリカ NOVEMBER 2011 42 当時、富士通ゼネラルが取引先に部材を発 注してから、タイと中国の工場で製品を出荷 するまでに九〇〜一二〇日を要していた。
ま ずはこの生産リードタイムを半減させること をめざし、各領域の業務プロセスにメスを入 れた。
その過程で生産計画のサイクルを月次 から週次に改めた。
将来的には調達をジャス ト・イン・タイム(JIT)にすることで、 生産リードタイムを十二日間まで縮めるとい う最終目標も掲げた。
現在、生産リードタイムは二〇日程度まで 短縮できた。
「しかし、まだあまり効果がな い。
やはり、できることなら一週間でまかな えるようにしたい。
そのためには調達である 程度のストック・オペレーションをしていく必 要がある。
じゃあ、どういうかたちで在庫を 持つのか。
それが現時点での課題になってい る」と松本常務は説明する。
トヨタ生産方式を工場に導入 富士通ゼネラルは需給調整のための「GD M会議」を毎週開いている。
重要な意思決定 のために毎月一回開く本会議には、経営トッ プ以下、国内外の営業の責任者など約一五人 が顔を揃える。
関係者が一堂に会して、役員 レベルで活動方針を擦り合わせて、月次の生 産台数などを決定する。
他方、本会議以外の週次の会議では、より 実務に近い案件を検討している。
こちらの会 議の主な役割は、月次で決めた数値をできる が高まる。
オペレーションに内在するムダを 高いレベルで排除していくことにもつながる。
たとえば一週間に一度、コンテナ単位でまと めて顧客に出荷している製品を、顧客の要望 に細かく合わせて納品するといったことが可 能になるはずだ。
「そうなれば、お客さんも喜んでくれるし、 われわれもあまり手間をかけずに効率的なオ ペレーションをできるようになる」と松本常 務はいう。
一連の活動の結果、富士通ゼネラルの連結 棚卸資産はほぼ一貫して減り続けている。
冒 頭でも述べた通り、GDMをスタートした〇 だけ平準化して週単位で実務に落とし込んで いくというもの。
関連部署の役員など実務の 責任者が出席して、一週間で生じた変化に応 じて数字を微調整していく。
仮に経営トップ の承認を必要とするような事態が生じた場合 は、次の本会議に諮るか、緊急であれば臨時 の会議を招集することになる。
SCMに着手する以前の需給調整の会議で は、営業と生産管理部門が互いに思惑を抱え ながら生産数量を決定していた。
これが「G DM会議」になってからは、生産台数の合意 を経営レベルにまで共有するだけでなく、サ プライチェーンに関する活動方針をより幅広 く検討する場へと進化した。
変わったのは生販会議のあり方だけではな い。
計画サイクルを月次から週次に改めたの に伴い、工場における生産革新も求められた。
そこで〇四年に工場へのトヨタ生産方式の導 入に踏み切った。
外部のコンサルタントの支 援も受けながら活動を展開している。
松本常務は、「計画を週次でこなせる体制 が整っても、実際の生産活動はなかなか週次 にはできない。
われわれにとって小ロットの 生産を実現するための一つの手段がトヨタ生 産方式だ。
今後も『一台流し』を追求してい き、本当の意味での週次生産を実現していき たい。
もっと言えば、日次の生産ができるよ うになればフレキシビリティは非常に高まる」 と考えている。
生産を小ロット化すれば、変化への対応力 連結業績と棚卸資産回転期間の推移 《10 年前の危機を糧にリーマン・ショックを乗り切った》 売上高(億円)・営業利益(千万円) 棚卸資産回転期間(カ月) 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 ▲ 500 ▲ 1,000 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 連結売上高(億円) 営業利益(千万円) 棚卸資産回転期間(カ月) 01 年3月 02 年3月 03 年3月 04 年3月 05 年3月 06 年3月 07 年3月 08 年3月 09 年3月 10 年3月 11 年3月 1.94 2.68 2.28 1.51 1.27 1.22 1.25 1.11 1.11 0.99 1.05 1,917 369 186 857 877 713 425 1,021 825 943 1,103 1,517 1,586 1,6871,706 1,799 1,893 2,227 1,871 1,642 1,821 ▲626 ※期首・期末の平均棚卸資産から回転期間を算出 43 NOVEMBER 2011 とを物語っている。
GDMによってSCMを本格化する以前は、 結果が出てしまった後で振り回されていた面 があった。
それが今では、営業から伝えられ る変化の徴候などをGDMの仕組みを使って 素早く共有し、ある程度まで事前に手を打て るようになった。
先手を打てれば、経営判断 の選択肢は大きく広がる。
グローバル化の一層の進展も、業績の安定 に寄与している。
富士通ゼネラルの世界各地 への販売の依存度は、近年になって均される 傾向にある。
エアコンの繁忙期が逆転する北 半球と南半球でバランスよく商圏を確保して きたことなどが、特定の地域の天候不順など に左右されない対応力につながっている。
三年後に在庫半減をめざす とは言え、SCMを高度化していくうえで の課題はまだ山積している。
調達分野のさら なる改革も必須だ。
富士通ゼネラルにとって、 自ら在庫リスクを背負ってでも確保しなけれ ばならない基幹部品は限られている。
外部か ら購入しているモーターやコンプレッサー、一 部の半導体などがそうだ。
こうした基幹部品については、調達先メー カーとの信頼関係に基づく協働を深化させて いく必要がある。
場合によっては商品開発に まで踏み込んで、特殊な部品を一般化してい く必要性も視野に入れている。
IT化の余地も残っている。
週次で計画サ イクルを回していくのは、現実問題として大 変な作業負担を伴う。
GDMの本来の仕事は 集まってきた情報に基づいて適切な判断を下 すことだ。
データの集計作業に追われて対応 が後手に回るようでは意味がない。
そして、残された最も大きなテーマの一つ が、もう一段の在庫削減だ。
同社はGDMに よる管理とは別に、販売サイドの流通在庫を 主にウォッチする「棚卸資産圧縮委員会」と いう会議を催している。
この委員会では「三 年後に在庫日数を一五日程度に引き下げる」 という目標を掲げている。
これを需給調整の側面から後押しする立場 にあるGDMとしては、まずは「売れる在 庫」と「売れない在庫」の峻別が必要と考え ている。
まず営業に販売数量を予測してもら い、引き当てまでしてもらう。
ここで引き当てられない製品については「売 れない在庫」とみなし、問題として顕在化す る前に手を打つ。
一方、「売れる在庫」につ いては、販売先への納期回答の厳格化や、さ らなるムダの排除によって削減していこうと している。
松本常務は、「いずれにしてもGDMで全 社がコミットした数字を持っている意味は大 きい。
これが社外とのコラボレーションに必 要なツールにもなる。
これまでに実現してき たことを応用していけば、さまざまな戦略的 な展開につながる」と期待している。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 七年三月期の時点で、すでに在庫水準は大幅 に改善していた。
その後もじわじわと減少す る傾向にあり、最近の棚卸資産回転期間はほ ぼ一カ月程度で推移している。
一一年三月期 こそ特殊要因で一時的に増えてしまっている が、オペレーションの効率が悪化したわけで はない。
とくに注目すべきはリーマン・ショック後 の業績だ。
このとき同社の欧州での売上高は、 〇一年度ほどではなかったものの、再び四割 近く落ち込んでしまった。
しかし、その後の 業績の推移は対照的で、在庫水準と営業利益 が致命的な影響を受けることはなかった。
こ の違いは、現在の同社の企業体質が、事業環 境の変化に対応できるようになりつつあるこ 2010 年度の製品別・地域別売上高(連結)の構成比(%) その他 2% 売上高合計 1,821 億円 売上高合計 1,821 億円 情報通信部門 12% 空調機器部門 86% 日本 41% その他 11% 中東・アフリカ 13% オセアニア 13% 9% 米州 9% 欧州 17%
