ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年10号
ケース
米ゼネラル・ケーブル 欧米SCM会議?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2011  48 ITバブル崩壊が契機に  米ゼネラル・ケーブルは、一九二〇年代に 創業したワイヤーとケーブルの製造業者です。
国際化の流れは我々の業界でも顕著で、当社 においても九〇年代後半までは北米三国(カ ナダ・アメリカ・メキシコ)での売り上げがほ ぼ一〇〇%だったものが、現在ではその比率 が三〇%台まで低下し、代わって世界二五カ 国に四七カ所の工場を持つようになりました。
 私自身は、アメリカ中西部の大学を卒業し た後、GEエアクラフト・エンジンというG Eの子会社で二年働き、二〇〇一年に当社に 転職しました(筆者注・GEとゼネラル・ケ ーブルは全くの別会社)。
キャリアは工場のマ ネジャーから始まって、次にビジネス・ユニ ットのマネジャー、サプライチェーン部門のマ ネジャーとなり、〇九年秋から現職の北米サ プライチェーン担当副社長に就きました。
 私が転職してきた〇一年は、当社にとって 大きな転機となった年でした。
この年に?I Tバブル?が弾けたことで、当社は極めて厳 しい経営環境に立たされました。
当社は売上 高のおよそ六〇%を情報通信産業に依存して いました。
それだけに当社の〇二年の資産回 転率は前年から大きく落ち込みました。
在庫 が滞留し、現金の流れが目詰まりを起こした のです(図1)。
 その結果、当社は主力の北米二五工場(当 時)において、生産体制の効率化を図り、運 転資金の水準を抑制する必要に迫られました。
ワイヤーおよびケーブルの製造業者にとって、 最も大きな支出は、銅やアルミニウムなどの 原材料で、全体の七五%を占めています。
こ の原材料をどのように効率的に製品に換えて いくのか、工場での無駄な時間をどうやって 削減していくのか、という課題に取り組んだ のです。
 工場の効率化を図って競争力を取り戻すた めに、我々は十二項目の指標を設定しました。
安全性や整理整頓、生産の品質、配送、意 思疎通──などです。
項目ごとにスコアカー ドを作り、本社の工場担当者が、全工場を回 って、指標の進捗の度合いを確かめていくと いう方法をとりました。
 当社には、経営の効率化に向けた強い動機 がありました。
そして管理の基準となる指標 も用意しました。
しかし、効率化を進めるに  業績悪化に直面し、「シックスシグマ」を使って財 務体質の改善に取り組んだ。
まずは自社工場の効率 化に着手。
それが一定の成果を上げると、顧客とサ プライヤーを巻き込んだサプライチェーンの全体最適 化へと改善の対象を拡大した。
同社の北米サプライ チェーン担当副社長のカール・ジーマ氏が、その取り 組みを解説する。
欧米SCM会議? 米ゼネラル・ケーブル 財務体質の改善にシックスシグマを採用 工場から着手しサプライチェーンに拡大 会社名 ゼネラル・ケーブル 創業 1927年 本社 ケンタッキー州ハイランド・ハイツ 最高経営責任者 グレゴリーB・ケニー 株式上場 ニューヨーク証券市場(1997年) 売上高 48 億6490万ドル (3745 億8960万円) 最終利益 6920万ドル (53 億2840万円) 従業員数 1万1700人 (注1)いずれも2010 年度の数字 (注2)1ドル=77円で換算 米ゼネラル・ケーブル組織概要 49  OCTOBER 2011 は、もう一つ必要なものがありました。
それ は、一つひとつの指標の改善を具体的に達成 していくための方法論でした。
 その方法に我々は「シックスシグマ」を選び ました。
私はGE時代に、シックスシグマを 使って生産現場をリーン(Lean:贅肉のな い状態)にする方法を学んでいました。
この 方法は当社にも通用するはずだと考えました。
 シックスシグマとは、問題の原因を根本ま でさかのぼり、その原因を潰していくことで、 生産現場で生まれる不良品率をできるだけゼ ロに近づけていくというアプローチを取りま す。
そして問題の原因をさかのぼるためには、 各種のデータをそろえることが不可欠となり ます。
 作業工程の標準化も必要です。
ある製品は これまで完成まで四カ月かかっていたものを 一カ月に短縮し、別の製品ではこれまで一〇 週間かかっていたものを三週間に短縮すると いう具合に、製品ごとに完成するまでの時間 短縮を進めていく場合にも、同じタイプの作 業工程をまとめ、標準化しないと精度は高ま っていきません。
 またシックスシグマを実行に移すには、十 分な社員教育が欠かせません。
実際、当社で は工場の生産にかかわる役員クラスから時給 で働くアルバイトまで、幅広い従業員に対し て、シックスシグマを使ってどのように現場 を改善していくのかというトレーニングに多 くの時間を割きました。
 〇二年に三カ年計画を作り、「工場の不良 品率」「原材料からの廃棄物」「原材料の回転 率」の三つについて具体的な改善目標を立て ました。
 結果から言えば「工場の不良品率」の目標 は九〇%減でしたが、達成できたのは七一% 減でした。
「原材料からの廃棄物」の目標は五 〇%減でしたが、これは三〇%減でした。
金 額にして一八二〇万ドルの運転資金が不要に なりました。
 「原材料の回転率」の目標は一〇〇%増で したが、実際は六五%増止まりでした。
しか し、これも金額にすると一七九〇万ドルの運 転資金が不要になったことになります。
 当初掲げた高い目標を完全に達成すること はできませんでした。
しかし生産コストで見 ると、計画初年度の〇二年こそいったん増加 しましたが、その後は〇三年、〇四年とコス トを削減することができました。
これは当社 の経営の効率化にとって大事な第一歩となり ました(図2)。
顧客からのクレームを業務改善に  この三年間の取り組みで、製造業者の効率 化にはいくつかの誤解のあることがわかって きました。
それは以下のような誤解です。
?効率化は工場にだけ適応されるものだ ?顧客へのサービスレベルを上げるには多く の在庫を抱える必要がある 図1 2002 年に大きく指標が悪化 2001年2002 年 在庫全額 資産回転率 サービスレベル 図2 三カ年計画の目標と結果 2002 年2003 年2004 年 工場の不良品 原材料からの廃棄物 原材料の回転率 目標結果 90%削減 50%削減 100%増加 71%削減 30%削減 65%増加 ←1820万ドル相当 ←1790万ドル相当 生産コストの削減率 OCTOBER 2011  50 ?社内の評価基準を一本化することはできな い(たとえば、生産現場と営業部門では、 評価基準が各々異なる) ?需要予測の精度を上げることよりも、目の 前の注文を出荷することの方が大事だ ?効率化はITシステムを導入しさえすれば 達成できる  このうち最初に挙げた「効率化は工場に だけ適応される」という考え方が誤解であり、 効率化は工場のカベを超えてサプライチェーン 全体に広げることができるということを証明 するために、我々は〇四年から新たな行動を 起こしました。
 この動きの背景にあったのは、自社の工場 を効率化するだけでは、本当の競争優位には つながらないのではないかという疑念でした。
より幅広いSCMの観点から業務の改善に取 り組む必要があると考えたのです。
 まずは、SCMの改善の手段として顧客か らのクレームを集計し、クレームの内容をも とにして業務を改善していくことにしました。
それまでは当社中心だった業務内容の判断基 準を、顧客からのクレームを減らすという外 向きの基準に方向転換したのです。
 顧客にとっては、当社がどれだけ運転資金 を減らそうが、工場の効率化を図ろうが、自 分たちには関係ありません。
彼らにとってよ り重要なのは、当社のサービスにどれだけ満 足できるかという点です。
は分析しています。
 クレームの集計を開始した当初、当社には クレームを受け取っても、それを元に行動を 起こすという意識が根付いていませんでした。
それまで当社は、良い製品を作りさえすれば、 自然に売れていくものだという気持ちでやっ てきていました。
顧客のクレームに対応して、 自分たちの製造工程や他の工程を変えるとい う考えは希薄でした。
 複数の顧客にヒアリングを重ねた結果、顧 客の方では、そうした当社の意識の低さを初 めから勘定に入れて、クレームを報告しても 改善されるはずがないと諦め、クレームの報 告自体を見送ることが、当社が活動を開始し た当初は少なくなかったことがわかりました。
サプライヤーと情報共有  図3から判断すると、当社が顧客からのク レームにきちんと向き合うようになるまでに は、二〜三年の時間を要したことがわかりま す。
しかし、当社がクレームを業務の改善に つなげることに本気になっていることが分か ると、顧客も積極的にクレームを出すように なりました。
それが〇六年、〇七年のクレー ムの急増です。
 そして、当社が顧客のそうした声を受け止 めることで、競争力が高まるという好循環が 生まれてくるようになりました。
それが〇八 年と〇九年のクレーム件数の減少へとつなが っています。
 〇四年からクレームの集計を始めました。
クレームの項目としては大きく三つを設定し ました。
製造に関するもの、輸送時間に関す るもの、輸送品質(ピッキングミスによる誤 配など)に関するものです。
 〇四年から〇七年のその推移を見ると、〇 五年にいったん減ったクレームが、〇六年、 〇七年は逆に増加します。
そして〇八年、〇 九年に入り、ようやくクレームは減り始め、現 在の一〇年もこの傾向が続いています(図3)。
 どうしてクレームを減らすのに四年もかかっ たのか。
それは当社の企業文化を変えるのに それだけの時間が必要だったからだ、と我々 図3 2004 年から顧客の視点を導入 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 顧客からのクレーム件数 製造に関するクレーム 輸送品質に関するクレーム(ピッキングミスなど) 輸送時間に関するクレーム 51  OCTOBER 2011 なります。
実際、当社の注文に対応するた めに、早めに在庫を抱えたり、納期前になっ て急いで生産することが少なくありませんで した。
そうしたサプライヤーの無理や無駄は、 結局は納入コストの上昇という形で当社に跳 ね返ってきます。
 そこでサプライヤーに対して、「S&OP (Sales and Operation Planning=販売計画 および業務計画)」を開示することを始めまし た。
これも当社の従来の企業文化とは大きく 異なる行動パターンでした。
それ以前は、た とえ長年付き合いのあるサプライヤーであっ ても、社内のそうした情報を外部に公開する ことはありませんでした。
 それを改めて、サプライヤーには当社の S&OPに基づき、需要を予測して計画的に 生産してもらうようにしました。
 そして例えば、AとBという二つの材料を 納入しているサプライヤーで、Aの生産が納 期に間に合いそうにないことが事前に分かっ た場合は、先にBだけを納入してもらい、A を必要とする製品の製造を後回しにするとい ったスケジュール調整を行うようにしました。
生産が間に合わない材料の納期順守を無理強 いすれば、そのコストは最終的には当社に映 え返ってくるという考え方に変えたのです。
 またS&OPのデータをサプライヤーと共有 することで、当社がS&OPとして自動的に 上がってきたデータをそのまま加工せずに発 注に使っていることも判明しました。
S&O Pは過去のデータに基づく予測値に過ぎませ ん。
そのデータをそのまま使えば、過去の結 果に縛られることになります。
 例えば、ある工場のケーブルの生産量が 一〇〇万ポンドだったとしましょう。
しかし、 その一〇〇万ポンドのケーブルが全部売れた としても、それが本当の需要だったのかどう かは分かりません。
一五〇万ポンド作ってい たら、一五〇万ポンド売れた可能性だってあ るのです。
 そこで当社は、それまでシステム任せだっ たS&OPの数字を、叩き台と見ることにし ました。
そこに販売部門や営業部門、生産部 門の担当者がかかわって、数字に見直しをか けることで精度を上げていくようにしたので す。
 元々私自身、ITシステムに過度な期待は 寄せていませんでした。
当社はSCMの改善 に既に一〇年近く取り組んできましたが、I Tシステムを導入するのは〇九年に入っての ことです。
社内の業務プロセスが固まってい ない限り、どんな優れたITシステムを導入 しても大きな効果を上げることはできないと 考えていたからです。
 こうして精度を高めたS&OPの情報をサ プライヤーと共有することで、SCM全体に かかる負荷を減らすことができるようになり ました。
そのことが当社の利益にも大きく貢 献していると自負しています。
(ジャーナリスト 横田増生)  我々は顧客からのクレームを受け付けるの と並行して、サプライヤーとの関係改善にも 取り組みました。
ゼネラル・ケーブルが在庫 切れを起こさずに工場を稼働できるようにす ることが、サプライヤーにとっては負担とな っている側面がありました。
 ある工場におけるサプライヤーからの納品 を調べてみると、その月に必要になると見込 まれる原材料の大部分を月初にまとめて納品 していることがわかりました。
その後は生産 量に合わせて、追加分を発注していくという 方法です(図4)。
 サプライヤーから見ると、納品が一時に集 中するということは、業務の標準化の妨げと 図4 原材料の荷受けが月初に集中 発注量 時間軸 その月の第1週

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