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2011年12月号
特集

第3部 リスクと闘うロジスティクス部門 リコー──計画停電に対応し小ロット生産

DECEMBER 2011  28 リコー ──計画停電に対応し小ロット生産 小ロット生産で計画停電に対応  リコーの生産するトナーには、新型の「PxPトナ ー」と、従来型の「粉砕トナー」の二種類がある。
こ のうちPxPトナーは、画質に優れ、従来より低い温 度で紙に定着するため、消費電力を従来型の約半分 に抑えられるというメリットがある。
業務用を中心に 需要が広がっている。
 これに対応してリコーはPxPトナーの生産能力を 急ピッチで増強してきた。
二〇〇六年に静岡県沼津 市の沼津事業所で量産体制を整え、〇八年には同事 業所内に新工場を建設した。
さらに一〇年六月には、 グループの東北リコーが約二〇〇億円を投じて宮城県 柴田郡に新工場を立ち上げた。
 PxPトナーの国内二番目の生産拠点に東北を選ん だのは、災害に対するリスクヘッジのためだった。
今 後予想される東海・東南海地震で沼津事業所が被災 しても、PxPトナーの供給を継続しようという狙い だ。
しかし皮肉にも、新工場が本格的に量産体制に 入った矢先に東日本大震災が発生した。
 東北リコーの新工場では、人的被害こそなかったも のの、強い揺れのために純水の貯蔵タンクが破断する など、設備面で大きな被害を受けた。
震災直後は停 電のために工場内部の詳細な点検はできなかったが、 現地のエンジニアは復旧には最低でも二カ月はかかる との見込みを立てた。
 三月一四日、その一報を受けたリコーの沼津事業所 では、トナーなどのサプライ品を生産するRS事業部 に、事業部長を筆頭とする会議体を立ち上げ、即座 に代替生産の検討に入った。
PxPトナーの主力生産 拠点である沼津事業所の工場は、東北リコーの工場の 倍以上の生産能力を持ち、生産する品種も多い。
人 員と原材料さえ確保できれば代替生産は可能だった。
 そこで操業を完全に停止していた東北リコーのPx Pトナー工場から、生産ラインのオペレーターとして 二三人の応援を呼び寄せた。
原材料についてはサプラ イヤーと密に連絡を取り、調達に支障の出る品種を特 定、在庫状況の確認を進めながら国内外から使用可 能なものをかき集めた。
東北リコーにあった原材料の 一部も引き揚げた。
 何とか代替生産の準備を整えようとしているとこ ろを、計画停電が襲った。
化学品であるトナーの生産 ラインは、加工の途中で止めることができない。
組立 型の機械製品よりずっと条件が悪い。
三時間の停電で あっても設備の停止と再稼働のための準備時間を含め れば、五時間以上は工場を動かせない。
 シミュレーションの結果、計画停電が実施されれば 沼津事業所のトナー工場の生産能力は最大能力の三 〇%程度にまで落ち込むことが判明した。
その時点 でのPxPトナーの在庫は、国内では仕掛品や流通 在庫を含めて概ね一〜一・五カ月分、海外は洋上在 庫も含めて二カ月超。
生産能力を引き上げなければ、 五月以降に在庫切れが起こり出すのは明らかだった。
 リコーの小出恒太生産事業本部RS事業部生産 企画室室長は「沼津事業所で東北の操業停止をどれ だけリカバリーできるかというところに計画停電がき た。
当初は生産を継続することすらおぼつかず、絶 望的ともいえる状況だった」と振り返る。
 それでも毎日対策会議を重ねたところ、生産技術 の担当部署からアイデアが出た。
生産ロットの小型化 だ。
一度に作る量を減らせば各工程のサイクルタイム を短縮できる。
計画停電以外の限られた時間を効率 的に活用できる。
設備の一部と制御系のシステムを改 修すれば技術的には可能だという。
 東日本大震災で、宮城県のグループ会社、東北リコーの トナー生産工場が2カ月間の操業停止を余儀なくされた。
こ れを受け、同型のトナーを生産するリコーの沼津事業所が代 替生産を実施。
計画停電時にも生産ロットを変更してリー ドタイムを短縮し、限られた時間の中で最大限の生産を行 うことで、トナーの供給を継続した。
     (梶原幸絵) 3 リスクと闘うロジスティクス部門 29  DECEMBER 2011 特集 サプライチェーン寸断  ただし、小ロット化によって生産コストは大幅に上 がる。
対策会議は、サプライ品の供給は何よりも優先 されると判断し、小ロット生産にゴーサインを出した。
綿密なシミュレーションを行い、限られた時間で最大 量のトナーが仕上がるよう体制を組み上げた。
その結 果、計画停電が起きても工場の生産能力を五〇%程 度は確保できるメドをつけた。
 実際に計画停電が行われたのは数回だったが、停電 の有無は直前にならなければわからない。
このため小 ロット生産は開始後、一週間ほど継続した。
その後、 四月に入って計画停電のリスクはほとんどないと判断 し通常稼働に戻した。
五月一〇日には、東北リコー のPxPトナー工場が全面的に操業を再開した。
 以降、東北リコーと沼津事業所のトナー工場はフル 生産を続け、在庫水準の回復に取り組んだ。
一時は 流通在庫がほとんどなくなる品種も出たが、利用者 への供給を継続することができた。
 物流面では子会社のリコーロジスティクスが活躍し た。
リコーロジは沼津から北海道までの輸送に使って いた鉄道輸送が寸断されたことに対応し、新潟、福井 発のフェリー輸送を手配。
無事、納品を継続させた。
そして迂回ルートによって鉄道輸送が復旧すると、い ち早くスペースを確保した。
“危機管理在庫”は必要経費  現在、沼津事業所では震災の教訓を踏まえてSC Mの見直しを進めている。
まずは在庫水準を見直す。
これまでのSCM活動は在庫削減を主眼としていた が、危機管理のために最低限必要な在庫は持つこと にした。
ただし対象品種は限定する。
 小出室長は「まず、サプライ品を切らすことは許さ れない。
沼津事業所でしか作れない品種など、必要 性の高いもので在庫の積み増しを検討する。
そのた めのコストは必要経費だと考えている。
ただし、“危 機管理在庫”の量は、代替生産を行う拠点があれば その分圧縮できる。
他の関連会社などでの代替生産 の可能性も考えながら、品種ごとにシミュレーション を行い、サプライチェーン上のどこで在庫を持てば総 在庫量を抑えながら供給を確保できるか探っていく」 と話す。
 震災では二次、三次も含めたサプライヤーの工場や 倉庫の一部が被災したため、原材料の調達にも支障 が出た。
このため、主要サプライヤーを対象に仕入れ 先の調査を実施し、二次以降のサプライヤー情報を収 集して調達を見える化しようとしている。
 しかし、仕入れ先情報は企業機密に関わる部分も あるため、サプライヤーは情報提供には消極的だ。
こ のため、二次サプライヤーの工場と在庫拠点のある都 道府県だけでも開示するよう依頼している。
今年度 中には調査を完了して調達面のリスクを洗い出し、複 数の在庫拠点を持つサプライヤーであれば在庫配置の 見直しなどについて協議するなど、原材料のリスク管 理を強化していく。
 工場構内の自動倉庫についても災害対策を進める。
沼津事業所の倉庫では、今回の震災やその後の地震で も貨物の落下がまったくなかった。
東海・東南海地震 に備えてラックとラックの間を結んで耐震仕様にした り、ラックの棚に貨物のストッパーを付けるなど、一 昨年までに地震対策を終えていたためだ。
 しかし、震災ではサプライヤーの自動倉庫の出荷が 止まり、原材料の調達が遅れるという事態を目の当た りにした。
沼津事業所の災害ノウハウをサプライチェ ーンに展開すると同時に、自動倉庫の耐震について情 報収集を続けて行く考えだ。
リコーの小出恒太 生産事業本部RS事業部 生産企画室室長

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