2011年12月号
特集
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第4部 タイ洪水に見る3PLの危機対応
DECEMBER 2011 34
タイ洪水に見る3PLの危機対応
日通は三〇人規模の支援チームを派遣
日本通運はタイに、タイ日通、タイ日通倉庫、タイ
日通エンジニアリング、タイ日通商事の五つの現地法
人を置いている。
そのうち今回の洪水により、ロジャ ナ、ハイテク、ワンノイの三工業団地にあるタイ日通 倉庫およびタイ日通商事の倉庫計六棟が冠水した。
日通は洪水発生の報を受けると、ただちに本社に 海外危機管理委員会を立ち上げている。
同時に、南 アジアを統括するシンガポールに地域の対策本部を設 置、現地への支援体制を整えた。
また洪水がタイ現 法の本社があるバンコク市内にまで迫った場合には南 方のレムチャバンにその機能を移すことを確認するな どの基本方針を固めた。
現地では社員やその家族の安否確認・保護を急ぐ とともに、倉庫内の荷物の保全に力を注いだ。
日通 の佐藤泰直海外企画部専任部長は「洪水が到達する までの間に荷主と話し合い、了解を得た上でレムチ ャバンや一部バンコクの倉庫へと移した。
冠水した倉 庫面積はタイに持つ倉庫面積全体のうちの一割ほど に過ぎなかったので、代替スペースは十分にあった」 と振り返る。
もっとも遠隔地への在庫の移動を拒む荷主もあっ た。
その場合には、倉庫の二階部分に荷物を上げる ことで何とか対応したという。
まずは荷主から預かっている荷物の保全を先行させ て、次に自社のトラックや事務所のパソコンなどの保 全活動を進めた。
工場と違い、物流倉庫には搬出の 困難な大型生産設備などは置かれていないため、幸 い大きな損害を出すことはなかった。
洪水被害を免れた地域での既存サービスの継続に も務めた。
日通はタイにおいて各現地法人が連携し、 陸海空の全てのモードを用いた複合サービスを荷主に 提供している。
そのオペレーションを止めることは許 されなかった。
現場は洪水被害への対応と合わせてスクランブル体 制を強いられた。
必要に応じて迂回ルートや代替ル ートを確保し、サービスを続行した。
これまでの間、 一部エリアの遅延などを除いて大きなトラブルは発生 していない。
ただし、荷動きは停滞している。
佐藤専任部長は 「まだ調査中なので詳しい数字は明らかにできないが、 今年一〇月のタイの荷動きは対前年比でかなり減少し ている。
タイの荷動きはこれまで基本的に右肩上がり を続けてきており、対前年比で減少に転じること自 体が異例。
荷主の生産拠点が回復するまで、この流 れは止まらないだろう」とその影響の大きさを語る。
一部の荷主からは代替輸送や代替保管の要請や引 き合いが来ているものの、全体の声に占める割合は まだ小さい。
大半の荷主は、まだ当面の危機に対し て具体的なアクションを検討している段階だという。
従来通りの荷動きが戻るまでには、まず洪水が引き、 被災したインフラが復興し、生産拠点が機能を取り戻 し、サプライチェーンを再構築するというプロセスを 踏む必要がある。
それまでに、少なくとも半年から 一年ほどの期間を要すると佐藤専任部長は見ている。
それでも、復興に向けて手は打っている。
今後の 需要発生に応じて、三〇人規模の復興支援チームを 現地に派遣することを決定した。
チームのミッション は顧客対応・情報システム・安全対策の三つで、日 本とシンガポールの経験豊富な社員で構成される。
「洪水が引けば、復興に伴う物流需要や荷主のサプ ライチェーンの再構築のニーズが一気に噴出する。
し かもその内容はバラバラで、多岐にわたるだろう。
当 タイの洪水に直面した日系物流企業が、荷主のサプライ チェーン維持に奔走している。
各荷主のニーズは一律ではな く、3PLとして各社に最適なサービスを提供する必要がある。
災害収束の兆しが見えない混乱の中で、複雑かつ失敗の許 されないオペレーションが続いている。
(梶原幸絵、石鍋 圭) 1 1 2 3 4 5 6 2 1 4 2 5 6 3 4 5 6 第 1 部 第 2 部 資 料 第3 部 第4 部 第5 部 第6 部 第7 部 第8 部 特集 サプライチェーン寸断 35 DECEMBER 2011 社は、その一つ一つにハンドメードのサービスを可能 な限り迅速に提供しなければならない。
そのための 準備を進めておくことに、早過ぎるということはな い」と佐藤専任部長は先を見据えている。
YLKタイ現法は独自のBCPを整備 郵船ロジスティクス(YLK)のタイ現地法人、郵 船ロジスティクス(タイランド)(以下、YLKタイ) は、洪水発生後も通常営業を続けている。
二〇〇八 年のスワンナプーム国際空港の封鎖など、タイでは昔 から政変が絶えない。
そのため、YLKタイでは独 自のBCPを作成し、アクシデントで得た経験を活か してその内容を磨いてきた。
一〇月一九日、タイ中部のナワナコン工業団地が水 没したときの対応も早かった。
避難指示が出る前に いち早く貨物を他の倉庫に移し、難を逃れた。
YL Kタイはナワナコンのほか、タイ国内の十三カ所に倉 庫を持つ。
大部分は南部に立地するため、ほとんど 被害を受けていないことも幸いした。
YLKタイは、旧郵船航空サービスの現地法人と、 日本郵船のNYKロジスティクス(タイランド)など の物流事業会社二社が一〇月一日に統合して発足し た。
YLKタイの一四カ所の倉庫のうち、多くはN YKロジに由来する。
NYKロジは自動車関連の物流に大きな強みを持 つ。
タイでも自動車産業の集積する南部を中心に、陸 送も含めた一大ネットワークを築いている。
そのネッ トワークを活かして工場や倉庫が被災した荷主の一時 保管需要を吸収している。
タイ政府や赤十字に協力 し、無償の救援物資輸送も行っているという。
YLKの川島利夫総合開発営業部部長は「YLK タイは地場に根ざした力を持っている。
それだけに 緊急の保管需要にもまだまだ対応できる。
洪水を受 けての代替輸送や緊急輸送も同様だ。
他のフォワー ダーで断られた案件を、荷主が当社グループに持ち込 むケースも増えている」と胸を張る。
ただし、荷主の需要は一律ではない。
タイにはさ まざまなタイプの工場が集積している。
被災した工 場の代替生産は中国やインドネシア、日本などアジア 各地に分散している。
このため、特に調達物流が複 雑になっている。
そうした状況に対応するため、YLKは十一月二 日、総合開発営業部とYLKタイ、シンガポールなど の人員から成るプロジェクトチームを立ち上げた。
そ こに荷主の要望を集約し、グループ各社が連携してY LKタイをバックアップする狙いだ。
YLKは〇五年に災害対策の基本マニュアルを策 定し、危機管理体制を本格的に整えている。
〇九年 には全社的なBCPも策定した。
それに基づき、各 事業所で個別にBCPや災害対策マニュアルを作り、 見直しを続けている。
今後は危機管理体制をさらに強化する。
現在、日 本本社では東日本大震災後の反省点を洗い出す作業 を進めている。
社内アンケートも実施してBCPを改 善し、広域災害を想定したシミュレーションや実地訓 練を行う計画だ。
YLKの渡辺聡CSR・リスク管理室室長は「最 も重要なのは、BCPの指針を全社に浸透させるこ とだ。
震災後、業務を復旧できたのは現場の力によ るところが大きかった。
設備の復旧に主眼を置く製 造業とは違って物流業のBCPの基本は“人”。
指針 が隅々にまで浸透していれば、想定外のことにも一 人ひとりがより効果的に対処できるようになる」と 考えている。
YLKの渡辺聡CSR・ リスク管理室室長 日通の佐藤泰直 海外企画部専任部長 YLKの川島利夫 総合開発営業部部長 タイ日通 タイ日通本社 (バンコク海運貨物支店/引越支店) バンコク航空貨物支店 バンコク海運貨物支店CFS バンコク海運貨物支店ロジスティクス倉庫 バンコク空港支店 バンコク航空貨物支店 空港FZ 倉庫 イースタンシーボード支店 タイ日通倉庫 アユタヤ支店ロジャナ倉庫(冠水) アユタヤ支店ハイテク倉庫(冠水・3棟) タイ日通倉庫本社 バンコク・ロジスティクス・センター レムチャバン支店 タイ日通エンジニアリング タイ日通商事 ハイテク工業団地内の倉庫(冠水) ファクトリーランド (ワンノイ)工業団地内の倉庫(冠水) 日通のタイ洪水による影響について MN A BCDEFG HIJKL H I J K L B A G M N アユタヤ パトムタニ バンコク チョンブリ スワンナプーム 国際空港 洪水の被害の 出た地域 サムットプラカン チャチェンサオ C D E F 10月31日現在 (10月31日現在) 日通資料より本誌作成
そのうち今回の洪水により、ロジャ ナ、ハイテク、ワンノイの三工業団地にあるタイ日通 倉庫およびタイ日通商事の倉庫計六棟が冠水した。
日通は洪水発生の報を受けると、ただちに本社に 海外危機管理委員会を立ち上げている。
同時に、南 アジアを統括するシンガポールに地域の対策本部を設 置、現地への支援体制を整えた。
また洪水がタイ現 法の本社があるバンコク市内にまで迫った場合には南 方のレムチャバンにその機能を移すことを確認するな どの基本方針を固めた。
現地では社員やその家族の安否確認・保護を急ぐ とともに、倉庫内の荷物の保全に力を注いだ。
日通 の佐藤泰直海外企画部専任部長は「洪水が到達する までの間に荷主と話し合い、了解を得た上でレムチ ャバンや一部バンコクの倉庫へと移した。
冠水した倉 庫面積はタイに持つ倉庫面積全体のうちの一割ほど に過ぎなかったので、代替スペースは十分にあった」 と振り返る。
もっとも遠隔地への在庫の移動を拒む荷主もあっ た。
その場合には、倉庫の二階部分に荷物を上げる ことで何とか対応したという。
まずは荷主から預かっている荷物の保全を先行させ て、次に自社のトラックや事務所のパソコンなどの保 全活動を進めた。
工場と違い、物流倉庫には搬出の 困難な大型生産設備などは置かれていないため、幸 い大きな損害を出すことはなかった。
洪水被害を免れた地域での既存サービスの継続に も務めた。
日通はタイにおいて各現地法人が連携し、 陸海空の全てのモードを用いた複合サービスを荷主に 提供している。
そのオペレーションを止めることは許 されなかった。
現場は洪水被害への対応と合わせてスクランブル体 制を強いられた。
必要に応じて迂回ルートや代替ル ートを確保し、サービスを続行した。
これまでの間、 一部エリアの遅延などを除いて大きなトラブルは発生 していない。
ただし、荷動きは停滞している。
佐藤専任部長は 「まだ調査中なので詳しい数字は明らかにできないが、 今年一〇月のタイの荷動きは対前年比でかなり減少し ている。
タイの荷動きはこれまで基本的に右肩上がり を続けてきており、対前年比で減少に転じること自 体が異例。
荷主の生産拠点が回復するまで、この流 れは止まらないだろう」とその影響の大きさを語る。
一部の荷主からは代替輸送や代替保管の要請や引 き合いが来ているものの、全体の声に占める割合は まだ小さい。
大半の荷主は、まだ当面の危機に対し て具体的なアクションを検討している段階だという。
従来通りの荷動きが戻るまでには、まず洪水が引き、 被災したインフラが復興し、生産拠点が機能を取り戻 し、サプライチェーンを再構築するというプロセスを 踏む必要がある。
それまでに、少なくとも半年から 一年ほどの期間を要すると佐藤専任部長は見ている。
それでも、復興に向けて手は打っている。
今後の 需要発生に応じて、三〇人規模の復興支援チームを 現地に派遣することを決定した。
チームのミッション は顧客対応・情報システム・安全対策の三つで、日 本とシンガポールの経験豊富な社員で構成される。
「洪水が引けば、復興に伴う物流需要や荷主のサプ ライチェーンの再構築のニーズが一気に噴出する。
し かもその内容はバラバラで、多岐にわたるだろう。
当 タイの洪水に直面した日系物流企業が、荷主のサプライ チェーン維持に奔走している。
各荷主のニーズは一律ではな く、3PLとして各社に最適なサービスを提供する必要がある。
災害収束の兆しが見えない混乱の中で、複雑かつ失敗の許 されないオペレーションが続いている。
(梶原幸絵、石鍋 圭) 1 1 2 3 4 5 6 2 1 4 2 5 6 3 4 5 6 第 1 部 第 2 部 資 料 第3 部 第4 部 第5 部 第6 部 第7 部 第8 部 特集 サプライチェーン寸断 35 DECEMBER 2011 社は、その一つ一つにハンドメードのサービスを可能 な限り迅速に提供しなければならない。
そのための 準備を進めておくことに、早過ぎるということはな い」と佐藤専任部長は先を見据えている。
YLKタイ現法は独自のBCPを整備 郵船ロジスティクス(YLK)のタイ現地法人、郵 船ロジスティクス(タイランド)(以下、YLKタイ) は、洪水発生後も通常営業を続けている。
二〇〇八 年のスワンナプーム国際空港の封鎖など、タイでは昔 から政変が絶えない。
そのため、YLKタイでは独 自のBCPを作成し、アクシデントで得た経験を活か してその内容を磨いてきた。
一〇月一九日、タイ中部のナワナコン工業団地が水 没したときの対応も早かった。
避難指示が出る前に いち早く貨物を他の倉庫に移し、難を逃れた。
YL Kタイはナワナコンのほか、タイ国内の十三カ所に倉 庫を持つ。
大部分は南部に立地するため、ほとんど 被害を受けていないことも幸いした。
YLKタイは、旧郵船航空サービスの現地法人と、 日本郵船のNYKロジスティクス(タイランド)など の物流事業会社二社が一〇月一日に統合して発足し た。
YLKタイの一四カ所の倉庫のうち、多くはN YKロジに由来する。
NYKロジは自動車関連の物流に大きな強みを持 つ。
タイでも自動車産業の集積する南部を中心に、陸 送も含めた一大ネットワークを築いている。
そのネッ トワークを活かして工場や倉庫が被災した荷主の一時 保管需要を吸収している。
タイ政府や赤十字に協力 し、無償の救援物資輸送も行っているという。
YLKの川島利夫総合開発営業部部長は「YLK タイは地場に根ざした力を持っている。
それだけに 緊急の保管需要にもまだまだ対応できる。
洪水を受 けての代替輸送や緊急輸送も同様だ。
他のフォワー ダーで断られた案件を、荷主が当社グループに持ち込 むケースも増えている」と胸を張る。
ただし、荷主の需要は一律ではない。
タイにはさ まざまなタイプの工場が集積している。
被災した工 場の代替生産は中国やインドネシア、日本などアジア 各地に分散している。
このため、特に調達物流が複 雑になっている。
そうした状況に対応するため、YLKは十一月二 日、総合開発営業部とYLKタイ、シンガポールなど の人員から成るプロジェクトチームを立ち上げた。
そ こに荷主の要望を集約し、グループ各社が連携してY LKタイをバックアップする狙いだ。
YLKは〇五年に災害対策の基本マニュアルを策 定し、危機管理体制を本格的に整えている。
〇九年 には全社的なBCPも策定した。
それに基づき、各 事業所で個別にBCPや災害対策マニュアルを作り、 見直しを続けている。
今後は危機管理体制をさらに強化する。
現在、日 本本社では東日本大震災後の反省点を洗い出す作業 を進めている。
社内アンケートも実施してBCPを改 善し、広域災害を想定したシミュレーションや実地訓 練を行う計画だ。
YLKの渡辺聡CSR・リスク管理室室長は「最 も重要なのは、BCPの指針を全社に浸透させるこ とだ。
震災後、業務を復旧できたのは現場の力によ るところが大きかった。
設備の復旧に主眼を置く製 造業とは違って物流業のBCPの基本は“人”。
指針 が隅々にまで浸透していれば、想定外のことにも一 人ひとりがより効果的に対処できるようになる」と 考えている。
YLKの渡辺聡CSR・ リスク管理室室長 日通の佐藤泰直 海外企画部専任部長 YLKの川島利夫 総合開発営業部部長 タイ日通 タイ日通本社 (バンコク海運貨物支店/引越支店) バンコク航空貨物支店 バンコク海運貨物支店CFS バンコク海運貨物支店ロジスティクス倉庫 バンコク空港支店 バンコク航空貨物支店 空港FZ 倉庫 イースタンシーボード支店 タイ日通倉庫 アユタヤ支店ロジャナ倉庫(冠水) アユタヤ支店ハイテク倉庫(冠水・3棟) タイ日通倉庫本社 バンコク・ロジスティクス・センター レムチャバン支店 タイ日通エンジニアリング タイ日通商事 ハイテク工業団地内の倉庫(冠水) ファクトリーランド (ワンノイ)工業団地内の倉庫(冠水) 日通のタイ洪水による影響について MN A BCDEFG HIJKL H I J K L B A G M N アユタヤ パトムタニ バンコク チョンブリ スワンナプーム 国際空港 洪水の被害の 出た地域 サムットプラカン チャチェンサオ C D E F 10月31日現在 (10月31日現在) 日通資料より本誌作成
