2011年12月号
特集
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第6部 テロ対策「AEO」で差別化する
DECEMBER 2011 40
テロ対策「AEO」で差別化する
AEO運送者はわずか三社
商船三井ロジスティクス(MLG)で保安関連業務
を担当する佐藤文夫氏は数年前のある日、大手荷主
からの入札に関する質問書を見て驚いた。
──「AE O」の承認を受けているか、申請をしているか、申 請する予定はあるか──と書かれていた。
もちろんA EOについての知識は持っていた。
しかし、荷主か らそうした質問を投げかけられたのは初めてだった。
AEOとはAuthorized Economic Operatorの略 で、コンプライアンスとセキュリティの管理体制の基 準を満たした事業者を税関が承認し、その事業者に対 して貨物の検査率低減や輸出入手続きの簡素化など のベネフィット(優遇措置)を与えるという制度だ。
二〇〇一年の同時多発テロ以降、米国の働きかけ によって、世界中に国際貨物に対するセキュリティ規 制が広がっている。
しかし、単にセキュリティを強化 するだけでは、企業の貿易活動が阻害されてしまう。
このため、〇二年に米国が輸入を対象に開始した セキュリティ・プログラム「C─TPAT(Customs- Trade Partnership Against Terrorism)」をもとに、 世界税関機構(WCO)は〇六年、AEO制度に関 するガイドラインを採択した。
各国はそれに従ってそ れぞれAEO制度の構築に取り組んでおり、現在、 EU、韓国、シンガポール、カナダ、ニュージーラン ド、中国、マレーシアなどが同制度を運用している。
日本でAEO制度が本格的にスタートしたのは〇六 年のこと。
当初、その対象は輸出入業者に限られて いたが、物流業者も追加され、現在は主に荷主向け の「AEO輸入者」、「AEO輸出者」のほか、「AE O倉庫業者」、「AEO通関業者」、「AEO運送者」 といった業種ごとに資格が設けられ、輸出入手続き の簡素化措置などが講じられている(図)。
このうちAEO輸出者の貨物は書類審査や現品検 査の対象にならず、申告後、即時に輸出が許可され ていると言われる。
これでリードタイムは半日〜一日 程度短縮されるため、大手企業を中心に資格の取得 が進んでいる。
税関の審査・検査に対応する必要性 も薄れたために、通関業者に業務を委託せず、自社 通関を行ってコストを削減する荷主企業も出てきた。
こうしたことから、AEO輸出者の承認者数はA EOの中でも最多の二四二社となっている。
しかし、 物流業者への普及は遅れている。
AEO倉庫業者は 九四社が承認を受けているものの、AEO通関業者 は四一社、AEO運送者ともなると三社に過ぎない。
AEOの承認審査では、社内のコンプライアンス体 制とセキュリティの管理体制が厳しくチェックされる。
承認取得後も、税関から基準に合わないと見なされ れば資格を取り消される可能性がある。
また、AEO倉庫業者は任意の倉庫ごとに承認が 得られるのに対して、AEO通関業者とAEO運送 者は事業所全体で審査を受けなければならない。
そ のための体制を全社的に整える必要がある。
承認後 も、どこかの事業所で違反があれば、会社全体とし てAEOの資格を失うことになる。
大手事業者ほど 負担が重く、時間もかかる制度設計になっている。
そのハードルの高さに対してメリットは少ない。
A EO倉庫業者には保税蔵置場の許可手数料の免除と いう直接的なメリットがある。
しかしAEO通関業 者、AEO運送者にはそうしたメリットはほとんど ない。
ある大手航空フォワーダーの通関担当者は「コ ストと手間をかけて承認を得るにはリスクが大きい」 と指摘する。
欧米のAEO制度では業種ごとの区別がなく、荷 セキュリティとコンプライアンスに優れた企業を税 関が認定し、通関手続きを優遇する「AEO制度」が 世界的に広がっている。
日本でも大手荷主企業を中 心に取得が進んでいる。
ところが物流会社は今のと ころ及び腰だ。
(梶原幸絵) 1 1 2 3 4 5 6 2 1 4 2 5 6 3 4 5 6 第 1 部 第 2 部 資 料 第3 部 第4 部 第5 部 第6 部 第7 部 第8 部 財務省関税局と税関は、 AEO 普及のためシンボ ルマークも制定 特集 サプライチェーン寸断 41 DECEMBER 2011 主も物流事業者も等しくベネフィットが与えられてい る。
そのため米国のC─TPATの参加者数は約一万 社、EUのAEO事業者数は約三五〇〇社に上って いる。
AEOが貿易上の国際標準になりつつあり、A EO事業者間で取引を行おうとする傾向が見られる。
日本企業も当然、そこから弾き出されるわけには いかない。
影響は物流事業者にも及ぶ。
MLGはそ うした状況を想定し、〇八年に承認取得に向けた準 備作業に着手。
〇九年十二月にAEO運送者として 第一号の承認を取得した。
それに先立つ同年一〇月には、同社のグループ会 社で通関業務と保税蔵置場の運営などを行うエムオ ーエアロジスティックスもAEO倉庫業者の承認を受 けている。
今後、エムオーエアロジスティックスでは AEO通関業者の認定の取得も目指すという。
MLGの佐藤氏は「AEOの承認を受けないこと こそ、リスクだと考えている。
当社はAEOが将来 的にはグローバル・サプライチェーンで最も重要な資 格になるとトップレベルで判断し、全社を挙げて取得 に取り組んだ」と振り返る。
同様に、山九は二〇一一年六月にAEO通関業者 の認定を受けた。
山九の米子哲朗執行役員は「当社 はAEO通関業者の中でも数少ない大手業者で、全 国ネットワークを活かしたさまざまな提案ができる。
今後はそれが差別化要因になってくる」と期待する。
AEO制度の承認を受けるには業務手順が標準化 されていることが前提になる。
そのためAEOがサ ービス品質に対する“お墨付き”になることも、山 九にとっては認定取得の決め手になった。
同社は一 一年十一月、AEO倉庫業者の承認も取得した。
今 後はグループ会社でAEO運送者の承認に向けて取り 組む考えだ。
相互承認でメリットが拡大 現在、AEO制度の実効性を高めるため、各国は 二国間で制度の相互承認を進めている。
AEOの法 制度や運用は国によって異なる。
しかし、相互に承 認すれば、自国のAEOの承認企業は相手国でもベ ネフィットを受けられるようになる。
日本は〇八年五月から一一年六月にかけ、六カ国 と相互承認の取り決めに署名し、このうち米国、E Uなど四カ国と実施にこぎつけている。
このほか中 国など二カ国と協議・研究を進めている。
将来的に はアジア各国間での相互承認も進む見込みだ。
財務省は現在、アジアにおけるシームレスな物流を 実現するための「アジア・カーゴ・ハイウェイ構想」 を提唱している。
一一年四月にカンボジアで開催され た日本ASEAN関税局長・長官会合では、同構想 の実現に向け、ASEAN各国での通関手続きのI T化とAEOの導入、相互承認ネットワークの拡大を 目指すことが合意された。
アジア諸国の通関手続き は煩雑な上、マニュアルで行われるため税関担当者の 裁量が大きく、トラブルが起こりやすいのが現状だ。
アジア・カーゴ・ハイウェイ構想が進めば、日本荷主 と物流業者に大きなメリットが生まれる。
また財務省関税局はAEOに対する優遇措置を拡 充し、普及を促す考えだ。
「今後、輸出入手続きを緩 和する際には、まずAEOが対象になるだろう。
A EOに対しては一歩踏み込んだ手続きの緩和措置が 可能だと認識している」(業務課)という。
こうした情勢を受け、物流業者も重い腰を挙げよう としている。
日本ではAEOの承認までに一年近く時 間がかかる。
メリットが明らかになってから取得に動 いても、時既に遅しということになりかねない。
MLGの佐藤文夫氏 山九の米子哲朗執行役員 図 日本のAEO 制度の概要 税関資料等より作成。
承認者数は11月15日時点 ●貨物到着前の輸入申告および許可 ●納税申告前の貨物の引き取りと事 後の納税 ● 一 括( 一 月分)での納税申告が可能 ●コンプライアンスの反映による審 査・検査率の軽減 ●保税地域への貨物搬入前の輸出申 告および許可等 ●コンプライアンスの反映による審 査・検査率の軽減 ●要件を満たす場所を届出により保 税蔵置場とすることが可能 ●保税蔵置場の許可手数料の免除 ●コンプライアンスの反映による検査 率の軽減 ●納税申告前の貨物の引き取りと事 後の納税 ●特定保税運送者による運送等を要 件に、保税地域以外の場所にある 貨物について輸出申告を行い、許 可を受けることが可能等 ●保税運送について個々の承認が不 要 ●認定通関業者が保税地域外の場 所で輸出申告する貨物を積み込み 港等まで運送することが可能 ●認定製造業者が製造した貨物を取 得した輸出者が行う通関手続きに おいて、保税地域以外の場所で輸 出申告を行い、許可を受けること が可能 01 年3 月 06 年3 月 07 年10 月 08 年4 月 08 年4 月 09 年7 月 79 者 242 者 94 者 41 者 3 者 ─ 輸入者 (特例輸入 申告制度) 輸出者 (特定輸出 申告制度) 倉庫業者 (特定保税 承認制度) 通関業者 (認定通関 業者制度) 運送者 (特定保税 運送制度) 製造者 (認定製造者 制度) 制度 主な優遇措置 開始 時期 承認 者数
──「AE O」の承認を受けているか、申請をしているか、申 請する予定はあるか──と書かれていた。
もちろんA EOについての知識は持っていた。
しかし、荷主か らそうした質問を投げかけられたのは初めてだった。
AEOとはAuthorized Economic Operatorの略 で、コンプライアンスとセキュリティの管理体制の基 準を満たした事業者を税関が承認し、その事業者に対 して貨物の検査率低減や輸出入手続きの簡素化など のベネフィット(優遇措置)を与えるという制度だ。
二〇〇一年の同時多発テロ以降、米国の働きかけ によって、世界中に国際貨物に対するセキュリティ規 制が広がっている。
しかし、単にセキュリティを強化 するだけでは、企業の貿易活動が阻害されてしまう。
このため、〇二年に米国が輸入を対象に開始した セキュリティ・プログラム「C─TPAT(Customs- Trade Partnership Against Terrorism)」をもとに、 世界税関機構(WCO)は〇六年、AEO制度に関 するガイドラインを採択した。
各国はそれに従ってそ れぞれAEO制度の構築に取り組んでおり、現在、 EU、韓国、シンガポール、カナダ、ニュージーラン ド、中国、マレーシアなどが同制度を運用している。
日本でAEO制度が本格的にスタートしたのは〇六 年のこと。
当初、その対象は輸出入業者に限られて いたが、物流業者も追加され、現在は主に荷主向け の「AEO輸入者」、「AEO輸出者」のほか、「AE O倉庫業者」、「AEO通関業者」、「AEO運送者」 といった業種ごとに資格が設けられ、輸出入手続き の簡素化措置などが講じられている(図)。
このうちAEO輸出者の貨物は書類審査や現品検 査の対象にならず、申告後、即時に輸出が許可され ていると言われる。
これでリードタイムは半日〜一日 程度短縮されるため、大手企業を中心に資格の取得 が進んでいる。
税関の審査・検査に対応する必要性 も薄れたために、通関業者に業務を委託せず、自社 通関を行ってコストを削減する荷主企業も出てきた。
こうしたことから、AEO輸出者の承認者数はA EOの中でも最多の二四二社となっている。
しかし、 物流業者への普及は遅れている。
AEO倉庫業者は 九四社が承認を受けているものの、AEO通関業者 は四一社、AEO運送者ともなると三社に過ぎない。
AEOの承認審査では、社内のコンプライアンス体 制とセキュリティの管理体制が厳しくチェックされる。
承認取得後も、税関から基準に合わないと見なされ れば資格を取り消される可能性がある。
また、AEO倉庫業者は任意の倉庫ごとに承認が 得られるのに対して、AEO通関業者とAEO運送 者は事業所全体で審査を受けなければならない。
そ のための体制を全社的に整える必要がある。
承認後 も、どこかの事業所で違反があれば、会社全体とし てAEOの資格を失うことになる。
大手事業者ほど 負担が重く、時間もかかる制度設計になっている。
そのハードルの高さに対してメリットは少ない。
A EO倉庫業者には保税蔵置場の許可手数料の免除と いう直接的なメリットがある。
しかしAEO通関業 者、AEO運送者にはそうしたメリットはほとんど ない。
ある大手航空フォワーダーの通関担当者は「コ ストと手間をかけて承認を得るにはリスクが大きい」 と指摘する。
欧米のAEO制度では業種ごとの区別がなく、荷 セキュリティとコンプライアンスに優れた企業を税 関が認定し、通関手続きを優遇する「AEO制度」が 世界的に広がっている。
日本でも大手荷主企業を中 心に取得が進んでいる。
ところが物流会社は今のと ころ及び腰だ。
(梶原幸絵) 1 1 2 3 4 5 6 2 1 4 2 5 6 3 4 5 6 第 1 部 第 2 部 資 料 第3 部 第4 部 第5 部 第6 部 第7 部 第8 部 財務省関税局と税関は、 AEO 普及のためシンボ ルマークも制定 特集 サプライチェーン寸断 41 DECEMBER 2011 主も物流事業者も等しくベネフィットが与えられてい る。
そのため米国のC─TPATの参加者数は約一万 社、EUのAEO事業者数は約三五〇〇社に上って いる。
AEOが貿易上の国際標準になりつつあり、A EO事業者間で取引を行おうとする傾向が見られる。
日本企業も当然、そこから弾き出されるわけには いかない。
影響は物流事業者にも及ぶ。
MLGはそ うした状況を想定し、〇八年に承認取得に向けた準 備作業に着手。
〇九年十二月にAEO運送者として 第一号の承認を取得した。
それに先立つ同年一〇月には、同社のグループ会 社で通関業務と保税蔵置場の運営などを行うエムオ ーエアロジスティックスもAEO倉庫業者の承認を受 けている。
今後、エムオーエアロジスティックスでは AEO通関業者の認定の取得も目指すという。
MLGの佐藤氏は「AEOの承認を受けないこと こそ、リスクだと考えている。
当社はAEOが将来 的にはグローバル・サプライチェーンで最も重要な資 格になるとトップレベルで判断し、全社を挙げて取得 に取り組んだ」と振り返る。
同様に、山九は二〇一一年六月にAEO通関業者 の認定を受けた。
山九の米子哲朗執行役員は「当社 はAEO通関業者の中でも数少ない大手業者で、全 国ネットワークを活かしたさまざまな提案ができる。
今後はそれが差別化要因になってくる」と期待する。
AEO制度の承認を受けるには業務手順が標準化 されていることが前提になる。
そのためAEOがサ ービス品質に対する“お墨付き”になることも、山 九にとっては認定取得の決め手になった。
同社は一 一年十一月、AEO倉庫業者の承認も取得した。
今 後はグループ会社でAEO運送者の承認に向けて取り 組む考えだ。
相互承認でメリットが拡大 現在、AEO制度の実効性を高めるため、各国は 二国間で制度の相互承認を進めている。
AEOの法 制度や運用は国によって異なる。
しかし、相互に承 認すれば、自国のAEOの承認企業は相手国でもベ ネフィットを受けられるようになる。
日本は〇八年五月から一一年六月にかけ、六カ国 と相互承認の取り決めに署名し、このうち米国、E Uなど四カ国と実施にこぎつけている。
このほか中 国など二カ国と協議・研究を進めている。
将来的に はアジア各国間での相互承認も進む見込みだ。
財務省は現在、アジアにおけるシームレスな物流を 実現するための「アジア・カーゴ・ハイウェイ構想」 を提唱している。
一一年四月にカンボジアで開催され た日本ASEAN関税局長・長官会合では、同構想 の実現に向け、ASEAN各国での通関手続きのI T化とAEOの導入、相互承認ネットワークの拡大を 目指すことが合意された。
アジア諸国の通関手続き は煩雑な上、マニュアルで行われるため税関担当者の 裁量が大きく、トラブルが起こりやすいのが現状だ。
アジア・カーゴ・ハイウェイ構想が進めば、日本荷主 と物流業者に大きなメリットが生まれる。
また財務省関税局はAEOに対する優遇措置を拡 充し、普及を促す考えだ。
「今後、輸出入手続きを緩 和する際には、まずAEOが対象になるだろう。
A EOに対しては一歩踏み込んだ手続きの緩和措置が 可能だと認識している」(業務課)という。
こうした情勢を受け、物流業者も重い腰を挙げよう としている。
日本ではAEOの承認までに一年近く時 間がかかる。
メリットが明らかになってから取得に動 いても、時既に遅しということになりかねない。
MLGの佐藤文夫氏 山九の米子哲朗執行役員 図 日本のAEO 制度の概要 税関資料等より作成。
承認者数は11月15日時点 ●貨物到着前の輸入申告および許可 ●納税申告前の貨物の引き取りと事 後の納税 ● 一 括( 一 月分)での納税申告が可能 ●コンプライアンスの反映による審 査・検査率の軽減 ●保税地域への貨物搬入前の輸出申 告および許可等 ●コンプライアンスの反映による審 査・検査率の軽減 ●要件を満たす場所を届出により保 税蔵置場とすることが可能 ●保税蔵置場の許可手数料の免除 ●コンプライアンスの反映による検査 率の軽減 ●納税申告前の貨物の引き取りと事 後の納税 ●特定保税運送者による運送等を要 件に、保税地域以外の場所にある 貨物について輸出申告を行い、許 可を受けることが可能等 ●保税運送について個々の承認が不 要 ●認定通関業者が保税地域外の場 所で輸出申告する貨物を積み込み 港等まで運送することが可能 ●認定製造業者が製造した貨物を取 得した輸出者が行う通関手続きに おいて、保税地域以外の場所で輸 出申告を行い、許可を受けること が可能 01 年3 月 06 年3 月 07 年10 月 08 年4 月 08 年4 月 09 年7 月 79 者 242 者 94 者 41 者 3 者 ─ 輸入者 (特例輸入 申告制度) 輸出者 (特定輸出 申告制度) 倉庫業者 (特定保税 承認制度) 通関業者 (認定通関 業者制度) 運送者 (特定保税 運送制度) 製造者 (認定製造者 制度) 制度 主な優遇措置 開始 時期 承認 者数
