2011年12月号
ケース
ケース
大陽日酸 トレーサビリティ 業界標準のICタグでガス容器を追跡製品価格と容器使用料を分離し回収促進
DECEMBER 2011 46
複雑な流通経路で容器が混在
大陽日酸は二〇〇四年に日本酸素と大陽東
洋酸素の合併により発足した国内最大手、世
界第五位の産業用ガスメーカーだ。
二〇一一 年三月期の連結売上高は四八三六億円。
主 に酸素・窒素・アルゴンなどの産業ガスや、 LPガス、医療用ガスなどを取り扱っている。
大陽日酸が産業ガスを供給する方法は、ユ ーザーの使用量に応じて三通りある。
製鉄所 や石油化学コンビナート、半導体工場などの 大口ユーザー向けは、ユーザーの敷地内にガ スの製造設備を設けてパイプラインで供給す る。
「オンサイトプラント方式」と呼ばれる。
二つ目は、液化プラントからタンクローリ ーで輸送する方法だ。
輸送効率を上げるため プラントで気体のガスをマイナス二〇〇度近 くまで冷やし、気体よりも容積の小さい液化 ガスにして運ぶ。
三つ目は小口ユーザー向けで、各地の充填 所のタンクに液化ガスを貯蔵し、注文に応じ て高圧ガス容器に小分けして配送する。
液化 ガスを気化させ、圧縮ガスにしてシリンダー (ボンベ)に充填する方法と、液化ガスのまま LGC(可搬式超低温容器)に詰めて販売す る方法がある。
空になった容器はユーザーか ら充填所に回収して繰り返し使用する。
小口ユーザーへの配送は主にディーラー(販 売店)が行う。
メーカーは容器に充填したガ スをディーラーのプラットフォーム(容器置き 場)まで運ぶ。
ディーラーがメーカーの充填 所に容器を持ち込み、充填だけ委託して引き 取る形態もある。
この場合、容器もディーラ ーが自前で用意するケースが多い。
高度成長 期に建設ラッシュで酸素ガスの需要が一気に 増え、販路拡大のためにディーラーが自ら容 器を保有して供給を行っていた名残りだ。
ディーラーの数は、販売店の全国組織であ る全国高圧ガス溶材組合連合会への加盟数だ けでも一五〇〇社に上る。
その大半は複数の メーカーと取引がある。
このためディーラー のプラットフォームや配送先には様々な容器が 混在し、スムーズな容器の回収を難しくして いる。
高圧ガス容器は一本数万円もするため、 長期滞留や放置はメーカーにとって見過ごす ことのできない問題だ。
保安面でのリスクもある。
容器が出荷先か らきちんと回収されず、長い間放置されると 劣化によって破裂する恐れがある。
このため 高圧ガス保安法は、容器の出荷・回収のたび に受け渡し記録をとることを義務付けている。
メーカーやディーラーは保有する容器一本一 本にユニークな記号・番号を刻印し、メーカ ー〜ディーラー間、ディーラー〜ユーザー間で 記号・番号により厳密な受け渡し管理を行わ なければならない。
大陽日酸を始めとする産業ガスメーカーは、 この管理業務を効率化するために二〇年ほど 前からバーコードシステムを導入している。
そ れ以前は目視で刻印を確認し、手書きで受け 2010年夏から高圧ガス容器に業界標準規格のIC タグを装着し、ガスを充填・出荷して回収するまで の履歴を管理している。
流通先での長期滞留や放置 を防ぐために、タグが収集する情報を活用し、滞留 期間に応じて容器の使用料を徴収する新たな取引制 度の導入をめざしている。
トレーサビリティ 大陽日酸 業界標準のICタグでガス容器を追跡 製品価格と容器使用料を分離し回収促進 47 DECEMBER 2011 払い台帳を作成するやり方だった。
効率が悪 くミスが起こりやすかった。
そこで容器の記 号・番号やガスの種類をバーコードラベルで 表示して容器に貼り、充填所で出荷・回収す る際にバーコードを読んで受け渡し記録を作 成する方法に変えた。
このバーコード化によって充填所での出 荷・回収については情報を正確に把握できる ようになった。
ただし、ディーラーから先は、 その後も目視と手書きによる管理方法がとら れていて、実態の把握が難しかった。
大陽日酸は帳簿上、工業用の高圧ガス容器 を三〇万本保有している。
だが出荷先で長期 滞留している容器や紛失したものも相当数あ ると見られ、実際にどれだけの本数が流通し ているのか、正確には把握できていないのが 実情だ。
問題解決には、流通全体をカバーす る精度の高い履歴管理が不可欠だ。
本来ならバーコードを導入した際に、メー カーとディーラーとの共通利用を実現してい れば、ユーザーへの出荷・回収まで一貫管理 することもできたはずだった。
だが同じ時期 に同社を含む複数のメーカーがそれぞれ独自 仕様でバーコードシステムを導入したために、 業界内に複数のシステムが乱立する状況を招 いてしまった。
大陽日酸自身、合併時に二社のバーコード の規格や情報の中身が異なっていたため、容 器保有数の多い旧日本酸素の規格に一本化し たという経緯がある。
ディーラーが複数のメ ーカーのシステムに個別に対応するのは困難 で、バーコードの共通利用は進まなかった。
バーコード管理の限界 そこで大陽日酸は、バーコードに代わる新 たな履歴管理ツールとしてICタグに着目し た。
もともとバーコードには情報の書き換え ができないという欠点があった。
表示できる のは記号・番号・ガスの種類などの固定情報 に限られていた。
ICタグならば充填日や出 荷・回収日などを随時タグに記録して情報を 更新することができるため、運用面のメリッ トは大きい。
一括読み取りによって棚卸しな どの作業効率も飛躍的に高まる。
ただし、バーコードを単独で導入した時の 失敗を繰り返すことは避けなければならない。
ディーラーとの共同利用を前提に、ICタグ 導入の検討を始めた。
そこに追い風が吹いた。
メーカー、ディー ラーが加盟する業界団体の日本産業・医療ガ ス協会(=JIMGA、一一一二社加盟)が、 保安強化や流通効率化のために、共通のルー ルでICタグによる容器の履歴管理をめざし てタグの規格標準化に乗り出したのだ。
JIMGAは〇七年九月に規格検討委員 会を設置して標準化作業を開始した。
まず会 員へのアンケート調査をもとに、ICタグで 管理する情報を二七項目に絞り込んだ。
容器 の記号・番号、容量、ガスの種類、所有者 の連絡先などの基本(固定)情報と、充填 日・出荷日・回収日など製造(充填)・流通 工程で更新される(可変)情報からなる。
工業用ガス容器は鉄製で頑丈だが最長でも 五年に一度は耐圧検査を受ける必要がある。
また医療用のFRP(繊維強化プラスチック 製)容器は法律で使用期限が定められている。
これに対応して基本情報の項目には検査の実 施年月や使用期限なども加えた。
ICタグの運用には、サーバーにICタグ の情報を集めネットワークを通じて情報を可 視化する?ネットワーク型?と、ICタグに 必要な情報をすべて記録してICタグをデー タキャリアとして運用する?データキャリア 型?がある。
前者はデータキャリアの記録容 量が小さくて済むため、タグの単価を抑える ことができる。
一方、後者はサーバーがなく ても運用が可能でスタート時のハードルが比較 的低い。
JIMGAはディーラーの数が多く 裾野の広い業界での普及を考慮して後者を選 択した。
データキャリア型ならリーダーでタグを読め ば、その場で中身や充填した日付などの情報 がわかる。
ガス名などの情報は容器自体にも 柳田裕久 パッケージガス事業部長 DECEMBER 2011 48 情報を活用して同社は、滞留期間の長い出荷 先へ容器の返却を促していく考えだ。
その具 体策として商慣行の見直しを検討している。
産業ガス業界では従来、ガスの販売に伴っ て貸与する容器の使用料をガスの販売価格に 含める取引制度をとってきた。
このことは容 器の長期滞留を招く一因となってきた。
一年 種類を設定して いる(写真1)。
大陽日酸は容器 の形状によって、 この二つを使い 分けている。
運用フローは 図1の通り。
基 本情報をICタ グに記録(初期 化)して運用を 開始。
充填所で ガスを充填する 際にリーダーラ イターで容器の タグを読み、タ グに充填日を書 き込む(写真2)。
基本情報のガス の種類とは異な るラインで充填 しようとすると 警報が鳴りミス を防ぐ仕掛けになっている。
充填した容器をディーラーへ出荷し、次に ディーラーがユーザーへ納品して、空容器を ユーザーから回収する際にもそれぞれタグを 読んで日付けを記録する(写真3)。
これに よって容器の正確な履歴管理が可能になる。
こうしてICタグによって取得される移動 刻印されているが、長い間放置されると汚れ やさびで見えにくくなることもある。
タグで 情報を補うことで保安を強化できる。
使用するICタグは周波数帯がUHF帯で、 ユーザーメモリー容量が五一二ビットのタイプ を採用した。
通信時に金属による電波の吸収 を防ぎ、マイナス二〇度の寒冷地や炎天下で 容器の表面温度が七〇度まで上昇する建設現 場でも耐えられる仕様にした。
共通のミドルウエアを利用する JIMGAはタグの規格統一と並行してデ ータを読み書きするためのミドルウエアの開 発も行った。
ICタグのユーザーが個別にア プリケーション(容器管理システム)を導入 しても、JIMGAの開発した共通のミドル ウエアを使うことで情報を共有化できる。
ミ ドルウエアにはセキュリティーの確保や耐圧検 査実施年月などのデータ改ざんを防ぐ仕掛け も盛り込んだ。
一連の標準化作業に大陽日酸は検討委にメ ンバーを送り込んで直接加わった。
そしてJ IMGAの規格制定後は、これに準拠して グループで容器管理システムの開発を行った。
〇九年にJIMGAによるミドルウエアの実 証実験に参加するかたちでトライアルを行い、 翌一〇年の夏から本格的な運用を開始した。
JIMGAは標準ICタグとして、容器に 直接貼るタイプとプラスチック製の枠にタグを つけて容器の首にかけるネックリング型の二 図1 RFタグ 運用イメージ NHA-2895 O2 14.7MPa ?メーカー出荷日 : 2010/8/2 ?ディーラー出荷日 : ?納入日 : ?回収日(1) : ?回収日(2) : 西海総合 ガスセンターディーラーお客様 納入 回収 NHA-2895 O2 14.7MPa ?メーカー出荷日 : 2010/8/2 ?ディーラー出荷日 : ?納入日 : 2010/8/2 ?回収日(1) : ?回収日(2) : NHA-2895 O2 14.7MPa ?メーカー出荷日 : 2010/8/2 ?ディーラー出荷日 : 2010/8/5 ?納入日 : 2010/8/5 ?回収日(1) : ?回収日(2) : NHA-2895 O2 14.7MPa ?メーカー出荷日 : 2010/8/2 ?ディーラー出荷日 : 2010/8/5 ?納入日 : 2010/8/5 ?回収日(1) : 2010/9/1 ?回収日(2) : 2010/9/3 NHA-2895 O2 14.7MPa ?メーカー出荷日 : 2010/8/2 ?ディーラー出荷日 : 2010/8/5 ?納入日 : 2010/8/5 ?回収日(1) : 2010/9/1 ?回収日(2) : 納入 回収 容器・製造情報な どの共通情報は充 填時にタグに書込 写真1 写真2 写真3 49 DECEMBER 2011 ント方式で地域ごとにICタグの装着率を上 げていく方針をとっている。
大陽日酸は全国に三〇カ所ある充填所の うち現在、四カ所にICタグを導入している。
数年後をめどに全充填所への導入を目指す。
同社はグループ全体で、工業用のほか医療用 や半導体向け特殊ガスの容器を合わせて計一 四〇万本の容器を保有している。
そのすべて にICタグを装着する計画だ。
産業ガスの容器は国内全体一五〇〇万本 と推測されていて、同社の保有率はその一割 に近い。
「ICタグの導入は改革への第一歩。
我々が業界のリーダーシップをとって導入を進 める覚悟だ」と柳田部長は言う。
大手メーカーの主導でガス容器へのICタ グの装着率が高まれば、ユーザー側にもさま ざまなメリットが生まれる。
たとえばタグ自 体が持つ情報によって容器ごとに利用日数が わかるため、これをもとに次に発注するタイ ミングを管理しやすくなる。
沼田博美システ ム開発部長は「ユーザーは発注を適正化して 無駄な在庫をなくせる。
容器が短い期間で回 転するようになり、我々にとっても望ましい」 と指摘する。
産業ガスのICタグ情報は国際標準化団体 の「EPCグローバル」の基準に則って書か れているため相互利用がしやすい。
EPC基 準で自社の在庫管理システムを構築するユー ザーは、ICタグをそのまま識別子として利 用できる。
これとは逆にユーザー側で装着したEPC のICタグを、メーカー側で利用するという 事例も既に現実化している。
ガスのユーザー には高圧ガス容器を自ら保有して運用してい るところもある。
ビールメーカーがその一つ で、生ビールの注入に必要な炭酸ガスを充填 所で容器に詰めてもらい飲食店へ販売してい る。
アサヒビールはガスメーカーに先行して三年 前に容器にICタグを付け、容器の個体管理 を開始した。
これに伴い充填所でも出荷・回 収時にアサヒのタグを読んで発着管理を行って きた。
さらに現在はアサヒビールが装着したタ グのユーザー領域を使って、ガスメーカー側で 充填日などの情報を記入し、相互利用するこ とが検討されている。
タグの装着によって情 報共有を広げるモデルケースとなりそうだ。
また医療用ガスは薬事法で医薬品として扱 われるため、高圧ガス保安法だけでなく薬事 法に対応したバーコード表示が必要で、容器 には様々なバーコードラベルが貼付されている。
院内で処理する際にどのバーコードを読んだ らいいか戸惑うことがしばしばある。
ICタ グならば情報を一度に読み込めるためオペレ ーションを簡素化できる。
沼田部長は「医療機関のなかにはこうした メリットに着目しているところもあり、今後、 ユーザー側からICタグの導入を求める声が 上がる可能性もある」と見ている。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 以上も返却されないことも珍しくなかったと いう。
製品価格と容器使用料を分離 そこで同社は長年の商慣行を見直し、販売 価格から容器使用料を切り離して別途請求す る取引形態に変えることで、早期回収につな げていく道筋を描いている。
「そのためには 請求の根拠となる正確なデータをとって相手 に納得してもらわなければならない。
ICタ グがその有効なツールになる」と柳田裕久パ ッケージガス事業部長はいう。
ここ数年、建設不況などの影響で産業ガス の小口需要は低迷している。
容器を新規に投 入する余裕はない。
既存容器の回転率を上げ て供給手段を安定的に確保していくことは同 社のみならず、メーカー各社が共通して抱え る課題だ。
同業界でICタグの標準化活動が 短期間で実を結んだ理由もそこにある。
これまでに大陽日酸を含めメーカー七社が 九州・中四国・北関東地区でICタグの導入 を開始している。
ディーラーが利用しやすい 環境を整えるために、各社が協調してドミナ 沼田博美システム開発部長
二〇一一 年三月期の連結売上高は四八三六億円。
主 に酸素・窒素・アルゴンなどの産業ガスや、 LPガス、医療用ガスなどを取り扱っている。
大陽日酸が産業ガスを供給する方法は、ユ ーザーの使用量に応じて三通りある。
製鉄所 や石油化学コンビナート、半導体工場などの 大口ユーザー向けは、ユーザーの敷地内にガ スの製造設備を設けてパイプラインで供給す る。
「オンサイトプラント方式」と呼ばれる。
二つ目は、液化プラントからタンクローリ ーで輸送する方法だ。
輸送効率を上げるため プラントで気体のガスをマイナス二〇〇度近 くまで冷やし、気体よりも容積の小さい液化 ガスにして運ぶ。
三つ目は小口ユーザー向けで、各地の充填 所のタンクに液化ガスを貯蔵し、注文に応じ て高圧ガス容器に小分けして配送する。
液化 ガスを気化させ、圧縮ガスにしてシリンダー (ボンベ)に充填する方法と、液化ガスのまま LGC(可搬式超低温容器)に詰めて販売す る方法がある。
空になった容器はユーザーか ら充填所に回収して繰り返し使用する。
小口ユーザーへの配送は主にディーラー(販 売店)が行う。
メーカーは容器に充填したガ スをディーラーのプラットフォーム(容器置き 場)まで運ぶ。
ディーラーがメーカーの充填 所に容器を持ち込み、充填だけ委託して引き 取る形態もある。
この場合、容器もディーラ ーが自前で用意するケースが多い。
高度成長 期に建設ラッシュで酸素ガスの需要が一気に 増え、販路拡大のためにディーラーが自ら容 器を保有して供給を行っていた名残りだ。
ディーラーの数は、販売店の全国組織であ る全国高圧ガス溶材組合連合会への加盟数だ けでも一五〇〇社に上る。
その大半は複数の メーカーと取引がある。
このためディーラー のプラットフォームや配送先には様々な容器が 混在し、スムーズな容器の回収を難しくして いる。
高圧ガス容器は一本数万円もするため、 長期滞留や放置はメーカーにとって見過ごす ことのできない問題だ。
保安面でのリスクもある。
容器が出荷先か らきちんと回収されず、長い間放置されると 劣化によって破裂する恐れがある。
このため 高圧ガス保安法は、容器の出荷・回収のたび に受け渡し記録をとることを義務付けている。
メーカーやディーラーは保有する容器一本一 本にユニークな記号・番号を刻印し、メーカ ー〜ディーラー間、ディーラー〜ユーザー間で 記号・番号により厳密な受け渡し管理を行わ なければならない。
大陽日酸を始めとする産業ガスメーカーは、 この管理業務を効率化するために二〇年ほど 前からバーコードシステムを導入している。
そ れ以前は目視で刻印を確認し、手書きで受け 2010年夏から高圧ガス容器に業界標準規格のIC タグを装着し、ガスを充填・出荷して回収するまで の履歴を管理している。
流通先での長期滞留や放置 を防ぐために、タグが収集する情報を活用し、滞留 期間に応じて容器の使用料を徴収する新たな取引制 度の導入をめざしている。
トレーサビリティ 大陽日酸 業界標準のICタグでガス容器を追跡 製品価格と容器使用料を分離し回収促進 47 DECEMBER 2011 払い台帳を作成するやり方だった。
効率が悪 くミスが起こりやすかった。
そこで容器の記 号・番号やガスの種類をバーコードラベルで 表示して容器に貼り、充填所で出荷・回収す る際にバーコードを読んで受け渡し記録を作 成する方法に変えた。
このバーコード化によって充填所での出 荷・回収については情報を正確に把握できる ようになった。
ただし、ディーラーから先は、 その後も目視と手書きによる管理方法がとら れていて、実態の把握が難しかった。
大陽日酸は帳簿上、工業用の高圧ガス容器 を三〇万本保有している。
だが出荷先で長期 滞留している容器や紛失したものも相当数あ ると見られ、実際にどれだけの本数が流通し ているのか、正確には把握できていないのが 実情だ。
問題解決には、流通全体をカバーす る精度の高い履歴管理が不可欠だ。
本来ならバーコードを導入した際に、メー カーとディーラーとの共通利用を実現してい れば、ユーザーへの出荷・回収まで一貫管理 することもできたはずだった。
だが同じ時期 に同社を含む複数のメーカーがそれぞれ独自 仕様でバーコードシステムを導入したために、 業界内に複数のシステムが乱立する状況を招 いてしまった。
大陽日酸自身、合併時に二社のバーコード の規格や情報の中身が異なっていたため、容 器保有数の多い旧日本酸素の規格に一本化し たという経緯がある。
ディーラーが複数のメ ーカーのシステムに個別に対応するのは困難 で、バーコードの共通利用は進まなかった。
バーコード管理の限界 そこで大陽日酸は、バーコードに代わる新 たな履歴管理ツールとしてICタグに着目し た。
もともとバーコードには情報の書き換え ができないという欠点があった。
表示できる のは記号・番号・ガスの種類などの固定情報 に限られていた。
ICタグならば充填日や出 荷・回収日などを随時タグに記録して情報を 更新することができるため、運用面のメリッ トは大きい。
一括読み取りによって棚卸しな どの作業効率も飛躍的に高まる。
ただし、バーコードを単独で導入した時の 失敗を繰り返すことは避けなければならない。
ディーラーとの共同利用を前提に、ICタグ 導入の検討を始めた。
そこに追い風が吹いた。
メーカー、ディー ラーが加盟する業界団体の日本産業・医療ガ ス協会(=JIMGA、一一一二社加盟)が、 保安強化や流通効率化のために、共通のルー ルでICタグによる容器の履歴管理をめざし てタグの規格標準化に乗り出したのだ。
JIMGAは〇七年九月に規格検討委員 会を設置して標準化作業を開始した。
まず会 員へのアンケート調査をもとに、ICタグで 管理する情報を二七項目に絞り込んだ。
容器 の記号・番号、容量、ガスの種類、所有者 の連絡先などの基本(固定)情報と、充填 日・出荷日・回収日など製造(充填)・流通 工程で更新される(可変)情報からなる。
工業用ガス容器は鉄製で頑丈だが最長でも 五年に一度は耐圧検査を受ける必要がある。
また医療用のFRP(繊維強化プラスチック 製)容器は法律で使用期限が定められている。
これに対応して基本情報の項目には検査の実 施年月や使用期限なども加えた。
ICタグの運用には、サーバーにICタグ の情報を集めネットワークを通じて情報を可 視化する?ネットワーク型?と、ICタグに 必要な情報をすべて記録してICタグをデー タキャリアとして運用する?データキャリア 型?がある。
前者はデータキャリアの記録容 量が小さくて済むため、タグの単価を抑える ことができる。
一方、後者はサーバーがなく ても運用が可能でスタート時のハードルが比較 的低い。
JIMGAはディーラーの数が多く 裾野の広い業界での普及を考慮して後者を選 択した。
データキャリア型ならリーダーでタグを読め ば、その場で中身や充填した日付などの情報 がわかる。
ガス名などの情報は容器自体にも 柳田裕久 パッケージガス事業部長 DECEMBER 2011 48 情報を活用して同社は、滞留期間の長い出荷 先へ容器の返却を促していく考えだ。
その具 体策として商慣行の見直しを検討している。
産業ガス業界では従来、ガスの販売に伴っ て貸与する容器の使用料をガスの販売価格に 含める取引制度をとってきた。
このことは容 器の長期滞留を招く一因となってきた。
一年 種類を設定して いる(写真1)。
大陽日酸は容器 の形状によって、 この二つを使い 分けている。
運用フローは 図1の通り。
基 本情報をICタ グに記録(初期 化)して運用を 開始。
充填所で ガスを充填する 際にリーダーラ イターで容器の タグを読み、タ グに充填日を書 き込む(写真2)。
基本情報のガス の種類とは異な るラインで充填 しようとすると 警報が鳴りミス を防ぐ仕掛けになっている。
充填した容器をディーラーへ出荷し、次に ディーラーがユーザーへ納品して、空容器を ユーザーから回収する際にもそれぞれタグを 読んで日付けを記録する(写真3)。
これに よって容器の正確な履歴管理が可能になる。
こうしてICタグによって取得される移動 刻印されているが、長い間放置されると汚れ やさびで見えにくくなることもある。
タグで 情報を補うことで保安を強化できる。
使用するICタグは周波数帯がUHF帯で、 ユーザーメモリー容量が五一二ビットのタイプ を採用した。
通信時に金属による電波の吸収 を防ぎ、マイナス二〇度の寒冷地や炎天下で 容器の表面温度が七〇度まで上昇する建設現 場でも耐えられる仕様にした。
共通のミドルウエアを利用する JIMGAはタグの規格統一と並行してデ ータを読み書きするためのミドルウエアの開 発も行った。
ICタグのユーザーが個別にア プリケーション(容器管理システム)を導入 しても、JIMGAの開発した共通のミドル ウエアを使うことで情報を共有化できる。
ミ ドルウエアにはセキュリティーの確保や耐圧検 査実施年月などのデータ改ざんを防ぐ仕掛け も盛り込んだ。
一連の標準化作業に大陽日酸は検討委にメ ンバーを送り込んで直接加わった。
そしてJ IMGAの規格制定後は、これに準拠して グループで容器管理システムの開発を行った。
〇九年にJIMGAによるミドルウエアの実 証実験に参加するかたちでトライアルを行い、 翌一〇年の夏から本格的な運用を開始した。
JIMGAは標準ICタグとして、容器に 直接貼るタイプとプラスチック製の枠にタグを つけて容器の首にかけるネックリング型の二 図1 RFタグ 運用イメージ NHA-2895 O2 14.7MPa ?メーカー出荷日 : 2010/8/2 ?ディーラー出荷日 : ?納入日 : ?回収日(1) : ?回収日(2) : 西海総合 ガスセンターディーラーお客様 納入 回収 NHA-2895 O2 14.7MPa ?メーカー出荷日 : 2010/8/2 ?ディーラー出荷日 : ?納入日 : 2010/8/2 ?回収日(1) : ?回収日(2) : NHA-2895 O2 14.7MPa ?メーカー出荷日 : 2010/8/2 ?ディーラー出荷日 : 2010/8/5 ?納入日 : 2010/8/5 ?回収日(1) : ?回収日(2) : NHA-2895 O2 14.7MPa ?メーカー出荷日 : 2010/8/2 ?ディーラー出荷日 : 2010/8/5 ?納入日 : 2010/8/5 ?回収日(1) : 2010/9/1 ?回収日(2) : 2010/9/3 NHA-2895 O2 14.7MPa ?メーカー出荷日 : 2010/8/2 ?ディーラー出荷日 : 2010/8/5 ?納入日 : 2010/8/5 ?回収日(1) : 2010/9/1 ?回収日(2) : 納入 回収 容器・製造情報な どの共通情報は充 填時にタグに書込 写真1 写真2 写真3 49 DECEMBER 2011 ント方式で地域ごとにICタグの装着率を上 げていく方針をとっている。
大陽日酸は全国に三〇カ所ある充填所の うち現在、四カ所にICタグを導入している。
数年後をめどに全充填所への導入を目指す。
同社はグループ全体で、工業用のほか医療用 や半導体向け特殊ガスの容器を合わせて計一 四〇万本の容器を保有している。
そのすべて にICタグを装着する計画だ。
産業ガスの容器は国内全体一五〇〇万本 と推測されていて、同社の保有率はその一割 に近い。
「ICタグの導入は改革への第一歩。
我々が業界のリーダーシップをとって導入を進 める覚悟だ」と柳田部長は言う。
大手メーカーの主導でガス容器へのICタ グの装着率が高まれば、ユーザー側にもさま ざまなメリットが生まれる。
たとえばタグ自 体が持つ情報によって容器ごとに利用日数が わかるため、これをもとに次に発注するタイ ミングを管理しやすくなる。
沼田博美システ ム開発部長は「ユーザーは発注を適正化して 無駄な在庫をなくせる。
容器が短い期間で回 転するようになり、我々にとっても望ましい」 と指摘する。
産業ガスのICタグ情報は国際標準化団体 の「EPCグローバル」の基準に則って書か れているため相互利用がしやすい。
EPC基 準で自社の在庫管理システムを構築するユー ザーは、ICタグをそのまま識別子として利 用できる。
これとは逆にユーザー側で装着したEPC のICタグを、メーカー側で利用するという 事例も既に現実化している。
ガスのユーザー には高圧ガス容器を自ら保有して運用してい るところもある。
ビールメーカーがその一つ で、生ビールの注入に必要な炭酸ガスを充填 所で容器に詰めてもらい飲食店へ販売してい る。
アサヒビールはガスメーカーに先行して三年 前に容器にICタグを付け、容器の個体管理 を開始した。
これに伴い充填所でも出荷・回 収時にアサヒのタグを読んで発着管理を行って きた。
さらに現在はアサヒビールが装着したタ グのユーザー領域を使って、ガスメーカー側で 充填日などの情報を記入し、相互利用するこ とが検討されている。
タグの装着によって情 報共有を広げるモデルケースとなりそうだ。
また医療用ガスは薬事法で医薬品として扱 われるため、高圧ガス保安法だけでなく薬事 法に対応したバーコード表示が必要で、容器 には様々なバーコードラベルが貼付されている。
院内で処理する際にどのバーコードを読んだ らいいか戸惑うことがしばしばある。
ICタ グならば情報を一度に読み込めるためオペレ ーションを簡素化できる。
沼田部長は「医療機関のなかにはこうした メリットに着目しているところもあり、今後、 ユーザー側からICタグの導入を求める声が 上がる可能性もある」と見ている。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 以上も返却されないことも珍しくなかったと いう。
製品価格と容器使用料を分離 そこで同社は長年の商慣行を見直し、販売 価格から容器使用料を切り離して別途請求す る取引形態に変えることで、早期回収につな げていく道筋を描いている。
「そのためには 請求の根拠となる正確なデータをとって相手 に納得してもらわなければならない。
ICタ グがその有効なツールになる」と柳田裕久パ ッケージガス事業部長はいう。
ここ数年、建設不況などの影響で産業ガス の小口需要は低迷している。
容器を新規に投 入する余裕はない。
既存容器の回転率を上げ て供給手段を安定的に確保していくことは同 社のみならず、メーカー各社が共通して抱え る課題だ。
同業界でICタグの標準化活動が 短期間で実を結んだ理由もそこにある。
これまでに大陽日酸を含めメーカー七社が 九州・中四国・北関東地区でICタグの導入 を開始している。
ディーラーが利用しやすい 環境を整えるために、各社が協調してドミナ 沼田博美システム開発部長
