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2011年12月号
判断学

第115回 拡がる反ウォール街デモ

奥村宏 経済評論家 DECEMBER 2011  62         金融機関に対する不満  OWS(オキュパイ・ウォール・ストリート=ウォール街を占 拠せよ)というデモが始まったのは今年九月一七日のことだっ た。
それがワシントンやシアトルに波及し、さらにロンドン、フ ランクフルト、マドリードなどヨーロッパから、台北、東京へと 広がっていき、一〇月一五日には世界八二カ国九五一もの都市 でデモが行われた。
 「一%の富裕層に富が集中している」として、世界中の人び とが立ち上がっているのだが、これまでのデモと違って、特定 のグループが主導するのではなく、それぞれ階層も異なる人た ち、そして意見の違う人たちが?一%の富裕層?に反対して立 ち上がっている。
 一九八〇年代からの新自由主義政策の下で富が一%の富裕 層に集中するようになり、それを象徴しているのがウォール・ ストリートである、というわけだ。
 ここでウォール・ストリートというのは、言うまでもなく銀 行や証券会社のことだが、二〇〇八年のリーマン・ショックで はアメリカを始めヨーロッパの大銀行や大証券会社が国民の税 金を投入することで救済された。
 それにもかかわらず、これら巨大金融機関の経営者たちは巨 額の給料やボーナスを得ている。
一方、国民の多くは所得が減 り、借金が増え、そして失業者は増える一方である。
 貧富の格差がこれほど拡大したことは今までになく、それに 対する不満が?反ウォール街デモ?として爆発したのである。
 それも単に富裕層というのでなく、大銀行や大証券会社の経 営者に対する不満という形で爆発しているところに特色がある。
 昔から金持ちに対する不満はどこの国にもあったが、このよ うに銀行や証券会社という金融機関の経営者たちに不満の矛先 が向けられることはなかった。
 いったい、なぜ銀行や証券会社という金融機関がこれほど攻 撃されるようになったのか。
金融機関のどこに問題があるのか。
     世論、学者も支持  このようなウォール街占拠(OWS)デモに対する世論の 見方はこれまでのデモと異なる。
なによりアメリカのオバマ 大統領やバーナンキFRB(連邦準備制度理事会)議長がこ のデモに一定の理解を表明しており、アメリカを始めとする 各国のマスコミもそれに同調している。
 ノーベル経済学賞をもらったポール・クルーグマンは「ニュ ーヨーク・タイムズ」のコラムで、ウォール街の金融機関は複 雑な金融商品を売ることで巨額の利益を得ていたが、それに よって金融危機を引き起こしたため、国民の税金によって救 済された。
それにもかかわらず、これらの金融機関の経営者 たちがいまだに巨額のボーナスや給料を得ているのはけしか らん、と指摘している(『ニューヨーク・タイムズ』一〇月一 〇日付)。
 そしてクリントン政権でCEA(大統領経済諮問委員会) の委員長を務めていたコロンビア大学教授J・スティグリッ ツは一〇月初め、デモ現場で「ウォール街は損失を社会に負 わせ、利益を独り占めした。
これは資本主義ではない」と演 説したという。
 そして、これは何よりもアメリカ政府の政策の誤りだと指 摘して、次のように言う。
 「金融規制緩和を筆頭に企業や銀行の利益を優先した政策 が相次ぎ、税制面でも富裕層が収入を依存するキャピタルゲ インへの減税で経済格差はさらに広がった。
競争による格差 拡大は仕方がないという声がある。
だが、それは公正な制度 のもと新たな価値を生み出して富を築くことが前提。
金融危 機を招いた銀行経営者の巨額報酬や不当なカード手数料の引 き上げ、政府への影響力行使などで差がつくようでは話は別 だ」(『日本経済新聞』一〇月二五日付)。
 このように有名な経済学者たちもこの反ウォール街デモに 理解を示し、それを支持、応援しているのである。
 1%の富裕層、特に金融機関の経営者に反発する人びとが世界中 でデモを行っている。
この運動は反資本主義、さらにはファシズムへ と発展していく危険性をも孕んでいる。
第115回 拡がる反ウォール街デモ 63  DECEMBER 2011         R・ドーアの提言  反ウォール街デモはやがて発展して反資本主義デモになっ ていくかもしれない。
 おそらくオバマ大統領もバーナンキFRB議長もそれを恐 れているものと思われるが、同時にこのような反資本主義 の感情はファシズムへ行く危険もある。
 一九二九年の世界大恐慌のあと、左翼による政府批判と 同時に右翼からはヒトラーやムッソリーニによるファシズム運 動が高まっていった。
 そして現在でもアメリカでは右翼による「ティーパーティー」 運動が起こっており、共和党の右翼がそれを推進している。
 国民の不満が高まると、それを利用して右翼が動き出す、 というのは以前からあったことである。
 そこで今回の反ウォール街デモもそういう方向へつながっ ていくことが考えられる。
 これに対してデモの運動家たちはどう対処するのか。
 それには何より、はっきりした政策を打ち出すことが必要 である。
それがなければデモは変な方向に行ってしまう危険 がある。
 その点で興味を惹かれるのはR・ドーアの意見である。
ド ーアは日本学(ジャパノロジー)の大家として有名で、筆者 も親しいが、最近『金融が乗っ取る世界経済』という本を 中公新書として出している。
 その中でドーアは金融制度の改革を提言しており、そして 『朝日新聞』(一〇月二五日付)で、「世界規模で金融取引に 課税せよ」と主張している。
 かつてルーズベルト大統領が行った銀行と証券業務を分離 するというような政策を打ち出していくことを、政府は求め られているのである。
 反ウォール街デモはそういう方向に向かうことが必要なの ではないか‥‥。
      経済の金融化がもたらした危機  「金融資本」という言葉があるように、金融機関に対する 世論の反発はこれまでにもあった。
しかし、金融機関に対す る攻撃がこれほど盛んになることはこれまでなかった。
 銀行と証券会社がこれほど巨大化したのは一九八〇年代か らで、それが格差を拡大し、国民の反発を買うようになった のである。
 第二次大戦後、世界経済は黄金時代を迎えたが、一九七 〇年代になるとそれが大きな壁に突き当たった。
?石油危機? はそのひとつのあらわれであり、金融機関を含めて大企業が 利潤圧縮に悩むようになった。
 そこで打ち出されたのが新自由主義政策で、これによって 国有企業の私有化(民営化)と規制緩和が行われた。
アメリ カではレーガン政権がこの規制緩和政策を大々的に行い、銀 行と証券の垣根が取り払われた。
 一九二九年の世界大恐慌のあと、ルーズベルト大統領の下 で、銀行は証券業務をしてはならないということになったの だが、それが元通りになっていった。
 そこで銀行は再び投資活動を活発に行うようになり、金融 新商品を次から次へと開発して一般に売り出していった。
 こうしてアメリカ経済が投機化していったのだが、それが やがて行き詰まり、リーマン・ショックを引き起こし、大銀 行や大証券会社が経営危機に陥り、国民の税金で救済される ということになった。
 そこで先に示したようにクルーグマンやスティグリッツのよ うな経済学者たちは銀行や証券会社に対して厳しい批判をす るようになり、大統領やFRB議長もそれに耳を貸さざるを えなくなったのである。
金融機関に対する批判がアメリカだ けでなく、全世界に広がって、それが反ウォール・ストリー ト・デモという形で爆発しているのである。
 問題はそれほど深刻である。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『経済学は死んだのか』 (平凡社新書)。

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