2012年5月号
特集
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第1部 “打倒アマゾン”楽天の次の一手
MAY 2012 12
“打倒アマゾン”楽天の次の一手
独自モデルでネットスーパー事業に本格参入する。
半径 10?圏をカバーする物流センターを都内各所に設置、ラス トワンマイルの自社配送網を整備する。
打倒アマゾンを目 指した通販向けフルフィルメント機能の強化も急ぐ。
2つ の物流インフラは、いずれ統合されることになる。
(大矢昌浩) 都内各所に専用センターを設置 今年七月、楽天はネットスーパー事業を本格的に開 始する。
そのために東京都板橋区高島平に延べ床約 三〇〇〇平方メートルの物流センターを確保した。
半 径約一〇?圏内の豊島区、北区、板橋区、練馬区を 対象に、加工食品、生鮮品、飲料、日用雑貨品など 約五〇〇〇アイテムを販売する。
楽天の武田和徳取締役常務執行役員は「高島平の 他にも同様の物流センターを都内数カ所に設置し、来 年前半にも二三区全域をカバーする体制を整えたい。
販売量を確保することで量販店や食品スーパーに負け ない購買力を手に入れる」という。
従来から楽天は、各地の食品スーパーをテナントと するマーケットプレイス型のネットスーパーを展開して きた。
その経験から店頭在庫をピッキングして店舗か ら配送する従来のやり方では効率化に限界があること を悟ったという。
ネットスーパーの運営会社となる楽天マートの橘田 尚彦社長は、「スーパーの店長や店舗のスタッフにとっ て、現在のネットスーパーは手間がかかるだけで儲か らない仕事になっている。
店の売り上げに占める比率 はせいぜい数%。
運営が後回しにされるのも仕方が ない」と指摘する。
一般客に混じって棚からピッキングする作業は、ど うしても遠慮がちになる。
梱包作業用のスペースは動 線を無視した建物の隅しか与えられない。
出荷バー スでも店舗に納品に来た車両が優先され、ネットスー パー用の車両は積み込みを待たされる。
ネットスーパーの収益性は、商品のハンドリングと 配送効率にかかっている。
生産性を向上させるには オーダーごとに店頭在庫をピッキングするよりも、専 用ラインで集中処理した方がずっと効率がいい。
都心 の物流センターは賃料が割高だが、店舗コストがない ので十分吸収できる。
しかしながら、店舗出荷型のネットスーパーと同様 に、店舗を持たないネットスーパー専業も、今のとこ ろ成功事例には乏しい。
最大の課題は顧客獲得コスト にあるとされる。
既存のスーパーはもともと固定客を 持っている。
それに対してネット専業はゼロから顧客 を獲得しなければならない。
その点で楽天は日本人の二人に一人以上、七〇〇 〇万人以上のユーザー会員を擁している。
ネット通販 に慣れたユーザーをローコストでネットスーパーの顧客 として取り込める。
消費者の利便性を考えれば、ネッ トスーパーが社会インフラの一つとして定着していく のは明らかで、勝算はあると判断した。
これに先立ち、楽天は二〇一〇年五月に「楽天 24 」 と呼ぶ日用雑貨品の一括配送サービスも開始してい る。
各テナントが販売する商品のフルフィルメントを 楽天が取りまとめ、一緒に届ける。
リードタイムは正 午までの注文が即日発送、最短翌日納品だ。
配送料 は購入金額三九〇〇円以上で無料、それ以下でも一 回二四〇円という低価格に抑えた。
この楽天 24 の前線基地としても、ネットスーパー用 の物流センターを機能させる。
ネットスーパー以外の 荷物も取り込むことでラストワンマイルの配送密度を 高める。
武田常務は「将来は楽天市場や楽天ブックス の商品も含め、様々なものをそこに乗せることができ るはず。
太くて早い、楽天ブランドのラストワンマイ ル配送網を作る」と意気込む。
楽天 24 のオペレーションは現在、千葉県市川市の 「RFC(楽天・フルフィルメント・センター)」で処 理している。
楽天の一〇〇%子会社の楽天物流が、マ 13 MAY 2012 ルチテナント型の大型物流施設「プロロジスパーク1」 に延べ床約八〇〇〇坪を賃借し、昨年三月に本格稼 働させた戦略拠点だ。
RFCの役割は大きく二つ。
一つは楽天自身が小 売業者として運営する「楽天ブックス」のフルフィル メント。
そのオペレーションには、大量の定型作業を 高速処理する自動化機器を投入している。
そして、もう一つが楽天 24 および楽天市場に出店 する大口テナントから楽天物流が在庫の委託を受けた 商品のフルフィルメントサービスだ。
こちらは様々な 荷姿の商品を扱い、流通加工も発生するため、パー ト主体のオペレーションとなっている。
稼働から一年が経過したRFCの現在の状況を、楽 天物流の社長を兼務する楽天の宮田啓友執行役員物 流事業管掌は「運営は順調で計画通りに物量も増え ている」という。
当面は楽天 24 および大口テナント向 けのフルフィルメントサービスの強化を最優先のテー マとして位置付け、市川と同様のRFCを全国各地 に展開していく計画だ。
独自のラストワンマイル配送網 念頭にあるのは、もちろんアマゾンの積極的な物流 拠点展開だ。
宮田執行役員は「楽天のテナントが個店 でアマゾンの物流に対抗しようとしても太刀打ちはで きない。
競争力のある物流機能を我々が整備するこ とで、テナントを支援していく」という。
大口テナントに対しては、RFCのセンターに在庫 を移管することを提案している。
リードタイムの短縮 と、他のテナントとの物流共同化によるローコスト化 を支援できる。
一方で、中小のテナント向けには、R FCへの持ち込みなど、楽天のネットワーク経由での 出荷を呼びかける。
市場調査によると「配送無料」は現在、消費者が ネット通販の購入を選択する上で最も重視する条件と なっている。
しかし、配送コストは当然ながら無料に はならない。
「物量をまとめて運賃を叩くやり方も長続 きはしない。
我々は共同化を切り口として、コスト構 造の抜本的な改革を目指す」と宮田執行役員はいう。
同梱、混載を徹底し、できる限りまとめて届ける。
そのために自社で直接コントロールする配送網の整備 に踏み切った。
消費地に置いた物流センターを基地 として一周一〜二時間のルート配送を繰り返すネット スーパーの配送網を利用すれば、既存の宅配便以上の スピード納品も可能になる。
しかも、自分で荷物を持つ事業者が自ら配送網を 運営することで、物流専業者にはできないサービスを 実施できる。
その一つとして例えば、通い箱に複数 の商品を詰め合わせて納品する方法を検討している。
通い箱による納品を承諾した顧客に対しては、楽天で 買い物ができる「エコポイント」を付与する。
梱包費 の削減によってその原資を得る。
楽天のビジネスモデルは厳密にはB2Cではなく、 テナントと消費者をモールで結ぶマーケットプレイス型 の「B2B2C」だ。
在庫が日本全土に小規模に分 散するため、アマゾンのようなシンプルな物流モデル は馴染まない。
無数のテナントが様々なかたちで利用する物流イン フラを、楽天は「ハイブリッド型」と称して、その構 築に挑んでいる。
取り組みはまだ始まったばかりで、 課題は山積している。
しかし、武田常務は「そこで 効率的な汎用プラットフォームを組み立てることがで きれば、当社は誰にも負けない競争力を持つことにな る。
一切、妥協するつもりはない」と覚悟を決めて いる。
楽天の宮田啓友 執行役員物流事業管掌 楽天の「RFC(Rakuten Fulfillment Center)」。
千葉県市 川市の大型物流複合施設「プロロジスパーク?」に延べ床約 8000坪を確保した 楽天の武田和徳 取締役常務執行役員 楽天マートの 橘田尚彦社長 特 集
半径 10?圏をカバーする物流センターを都内各所に設置、ラス トワンマイルの自社配送網を整備する。
打倒アマゾンを目 指した通販向けフルフィルメント機能の強化も急ぐ。
2つ の物流インフラは、いずれ統合されることになる。
(大矢昌浩) 都内各所に専用センターを設置 今年七月、楽天はネットスーパー事業を本格的に開 始する。
そのために東京都板橋区高島平に延べ床約 三〇〇〇平方メートルの物流センターを確保した。
半 径約一〇?圏内の豊島区、北区、板橋区、練馬区を 対象に、加工食品、生鮮品、飲料、日用雑貨品など 約五〇〇〇アイテムを販売する。
楽天の武田和徳取締役常務執行役員は「高島平の 他にも同様の物流センターを都内数カ所に設置し、来 年前半にも二三区全域をカバーする体制を整えたい。
販売量を確保することで量販店や食品スーパーに負け ない購買力を手に入れる」という。
従来から楽天は、各地の食品スーパーをテナントと するマーケットプレイス型のネットスーパーを展開して きた。
その経験から店頭在庫をピッキングして店舗か ら配送する従来のやり方では効率化に限界があること を悟ったという。
ネットスーパーの運営会社となる楽天マートの橘田 尚彦社長は、「スーパーの店長や店舗のスタッフにとっ て、現在のネットスーパーは手間がかかるだけで儲か らない仕事になっている。
店の売り上げに占める比率 はせいぜい数%。
運営が後回しにされるのも仕方が ない」と指摘する。
一般客に混じって棚からピッキングする作業は、ど うしても遠慮がちになる。
梱包作業用のスペースは動 線を無視した建物の隅しか与えられない。
出荷バー スでも店舗に納品に来た車両が優先され、ネットスー パー用の車両は積み込みを待たされる。
ネットスーパーの収益性は、商品のハンドリングと 配送効率にかかっている。
生産性を向上させるには オーダーごとに店頭在庫をピッキングするよりも、専 用ラインで集中処理した方がずっと効率がいい。
都心 の物流センターは賃料が割高だが、店舗コストがない ので十分吸収できる。
しかしながら、店舗出荷型のネットスーパーと同様 に、店舗を持たないネットスーパー専業も、今のとこ ろ成功事例には乏しい。
最大の課題は顧客獲得コスト にあるとされる。
既存のスーパーはもともと固定客を 持っている。
それに対してネット専業はゼロから顧客 を獲得しなければならない。
その点で楽天は日本人の二人に一人以上、七〇〇 〇万人以上のユーザー会員を擁している。
ネット通販 に慣れたユーザーをローコストでネットスーパーの顧客 として取り込める。
消費者の利便性を考えれば、ネッ トスーパーが社会インフラの一つとして定着していく のは明らかで、勝算はあると判断した。
これに先立ち、楽天は二〇一〇年五月に「楽天 24 」 と呼ぶ日用雑貨品の一括配送サービスも開始してい る。
各テナントが販売する商品のフルフィルメントを 楽天が取りまとめ、一緒に届ける。
リードタイムは正 午までの注文が即日発送、最短翌日納品だ。
配送料 は購入金額三九〇〇円以上で無料、それ以下でも一 回二四〇円という低価格に抑えた。
この楽天 24 の前線基地としても、ネットスーパー用 の物流センターを機能させる。
ネットスーパー以外の 荷物も取り込むことでラストワンマイルの配送密度を 高める。
武田常務は「将来は楽天市場や楽天ブックス の商品も含め、様々なものをそこに乗せることができ るはず。
太くて早い、楽天ブランドのラストワンマイ ル配送網を作る」と意気込む。
楽天 24 のオペレーションは現在、千葉県市川市の 「RFC(楽天・フルフィルメント・センター)」で処 理している。
楽天の一〇〇%子会社の楽天物流が、マ 13 MAY 2012 ルチテナント型の大型物流施設「プロロジスパーク1」 に延べ床約八〇〇〇坪を賃借し、昨年三月に本格稼 働させた戦略拠点だ。
RFCの役割は大きく二つ。
一つは楽天自身が小 売業者として運営する「楽天ブックス」のフルフィル メント。
そのオペレーションには、大量の定型作業を 高速処理する自動化機器を投入している。
そして、もう一つが楽天 24 および楽天市場に出店 する大口テナントから楽天物流が在庫の委託を受けた 商品のフルフィルメントサービスだ。
こちらは様々な 荷姿の商品を扱い、流通加工も発生するため、パー ト主体のオペレーションとなっている。
稼働から一年が経過したRFCの現在の状況を、楽 天物流の社長を兼務する楽天の宮田啓友執行役員物 流事業管掌は「運営は順調で計画通りに物量も増え ている」という。
当面は楽天 24 および大口テナント向 けのフルフィルメントサービスの強化を最優先のテー マとして位置付け、市川と同様のRFCを全国各地 に展開していく計画だ。
独自のラストワンマイル配送網 念頭にあるのは、もちろんアマゾンの積極的な物流 拠点展開だ。
宮田執行役員は「楽天のテナントが個店 でアマゾンの物流に対抗しようとしても太刀打ちはで きない。
競争力のある物流機能を我々が整備するこ とで、テナントを支援していく」という。
大口テナントに対しては、RFCのセンターに在庫 を移管することを提案している。
リードタイムの短縮 と、他のテナントとの物流共同化によるローコスト化 を支援できる。
一方で、中小のテナント向けには、R FCへの持ち込みなど、楽天のネットワーク経由での 出荷を呼びかける。
市場調査によると「配送無料」は現在、消費者が ネット通販の購入を選択する上で最も重視する条件と なっている。
しかし、配送コストは当然ながら無料に はならない。
「物量をまとめて運賃を叩くやり方も長続 きはしない。
我々は共同化を切り口として、コスト構 造の抜本的な改革を目指す」と宮田執行役員はいう。
同梱、混載を徹底し、できる限りまとめて届ける。
そのために自社で直接コントロールする配送網の整備 に踏み切った。
消費地に置いた物流センターを基地 として一周一〜二時間のルート配送を繰り返すネット スーパーの配送網を利用すれば、既存の宅配便以上の スピード納品も可能になる。
しかも、自分で荷物を持つ事業者が自ら配送網を 運営することで、物流専業者にはできないサービスを 実施できる。
その一つとして例えば、通い箱に複数 の商品を詰め合わせて納品する方法を検討している。
通い箱による納品を承諾した顧客に対しては、楽天で 買い物ができる「エコポイント」を付与する。
梱包費 の削減によってその原資を得る。
楽天のビジネスモデルは厳密にはB2Cではなく、 テナントと消費者をモールで結ぶマーケットプレイス型 の「B2B2C」だ。
在庫が日本全土に小規模に分 散するため、アマゾンのようなシンプルな物流モデル は馴染まない。
無数のテナントが様々なかたちで利用する物流イン フラを、楽天は「ハイブリッド型」と称して、その構 築に挑んでいる。
取り組みはまだ始まったばかりで、 課題は山積している。
しかし、武田常務は「そこで 効率的な汎用プラットフォームを組み立てることがで きれば、当社は誰にも負けない競争力を持つことにな る。
一切、妥協するつもりはない」と覚悟を決めて いる。
楽天の宮田啓友 執行役員物流事業管掌 楽天の「RFC(Rakuten Fulfillment Center)」。
千葉県市 川市の大型物流複合施設「プロロジスパーク?」に延べ床約 8000坪を確保した 楽天の武田和徳 取締役常務執行役員 楽天マートの 橘田尚彦社長 特 集
