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2012年5月号
ケース

米CATロジスティクス(キャタピラー・ロジスティクス・サービシーズ) 欧米SCM会議?

MAY 2012  52 補修部品の九九%を世界翌日配送  米キャタピラー・ロジスティクス・サービ シーズ(CATロジ)は、建設機械世界最大 手の米キャタピラー社の一〇〇%物流子会社 として一九八七年に誕生しました。
キャタピ ラー向けの補修部品のSCM業務を主業に出 発しましたが、その後は一般荷主向けの外販 を進め、現在では自動車産業や工業用機械メ ーカーを中心に五〇社超の荷主にサービスを 提供しています。
 現在、CATロジは親会社と外販分を合わ せて、世界二三カ国に一一九カ所の物流セン ターを構えています。
その総延べ床面積は二 九〇〇万平方フィート(二六一万平方メート ル)強に上ります。
従業員数は約一万二〇〇 〇人。
年間の受注件数は一億六〇〇〇万件 超、取り扱っている部品数は二〇〇〇万SK U(最小在庫単位)です。
 今回のプレゼンテーションでは、親会社キ ャタピラーのSCM業務に関する近年のトレ ンドに加え、CATロジと外部荷主との取り 組みについてもお話したいと思います。
 まずは、キャタピラーにとって、どれだけ 補修部品のSCM業務が大切かをお伝えする ため、一枚の写真を見ていただきます。
(写 真)これはユタ州にある銅の採掘所で撮影し た写真です。
深さ一・二キロ、幅八キロにわ たる巨大な採掘所で、一日当たりの採掘量は 四五万トンに上ります。
その四五万トンの銅 を運んでいるのが、写真の超大型トラックで す。
最大積載量は二五〇トンで七〇台を投入 しています。
 このキャタピラー製のトラックが毎日、採 掘所と精銅工場との間を二〇〜三〇往復する ことで、この採掘所の仕事は成り立っていま す。
このトラックが一台でも故障すれば、現 場作業が滞って、そこで働く一八〇〇人の労 働者の仕事に大きく支障を来すことになりま す。
従ってキャタピラーのような重機メーカー にとっては、補修部品の迅速な供給が競争力 のある製品を作ることと同じくらい、大変に 重要な要素となります。
 二〇一一年のキャタピラーの売上高は六〇 〇億ドル超となる見込みですが、そのうち補  親会社のキャタピラー向け補修部品ネットワー クの強化に総額10億ドルを投資。
新興国需要の 増大に対応して物流拠点を分散し、世界翌日配 送を維持する。
親会社向け業務で培ったノウハウ は外販獲得の武器にもなっている。
同社グローバ ル・サプライチェーン・ソリューション部門のパス カル・ボーン部長が解説する。
欧米SCM会議? 米CATロジスティクス (キャタピラー・ロジスティクス・サービシーズ) 10億ドル投じて補修部品ネットワーク強化 親会社向け業務で蓄積したノウハウを外販 米キャタピラー社の250 トン車 53  MAY 2012 修部品の売り上げは九〇億ドル前後を占めて います。
そしてキャタピラーの取り扱ってい る部品点数は、六万五〇〇〇SKUに上りま す。
CATロジは、この補修部品の九九%ま でを、発注の翌日までに世界中のディーラー に配送する体制を整えてきました。
 キャタピラーの売上高の推移を見ると、二 〇〇〇年から〇八年まではきれいな右肩上が りの成長を続けています。
しかし、世界同時 不況の影響を受けた〇九年には、売上高が前 年比三七%減と大幅に落ち込みます。
翌一〇 年は同三一%増、一一年には〇八年時点を回 復する見込みです。
 数字的に見れば、三年間で元の水準に戻っ たわけですが、その中身はこの間に大きく変 化しています。
配送先の地域や輸送する製品、 輸送ロットのサイズ、製品の利益率など、す べてが変わりました。
 そして、CATロジが運営するキャタピラ ー向けの既存のサプライチェーン・ネットワー クは、新しい需要に対応する能力が不足して いました。
各センターは大きなストレスを課 せられた状態となり、早急に新しい物流セン ターを作ることが求められました。
社内に混 在する?レガシーシステム?を、全社統一の 新しいシステムに移行する必要もありました。
 また、世界同時不況を境に、補修部品を扱 う各国の物流会社が力をつけ、当社の牙城を 脅かすようになってきたことも、見逃すこと のできない点でした。
拠点を分散してリードタイムを維持  CATロジは従来、本社を置くイリノイ州 モートンの物流センターから、キャタピラーの 全補修部品の九〇%を出荷していました。
ま た、残りの九%をベルギーのグリムベルゲン にある欧州のハブセンターでさばいていまし た。
そのほかにも北米数カ所とシンガポール やオーストラリアに小さなデポを置いていまし たが、それらは合わせても全体の一%程度に 過ぎませんでした。
 このままでは早晩、サプライチェーンのオ ペレーションが行き詰まってしまうことを見 越して、我々は同時不況前の〇七年から、総 額一〇億ドルをかけて、補修部品のサプライ チェーンの大幅な改修に取り組んできました。
それまでの勢いで物量が増え続ければ、いず れ物流の処理能力を上回ってしまうことが明 らかだったからです。
その後の同時不況によ って、キャタピラーの物流には変化したとこ ろもありますが、業務の改善が必要だという 根幹の部分は変わっていません。
 一連の取り組みをCATロジでは「CPS (キャタピラー・プロダクション・システム) & Value Stream Transformation」と呼んで います。
ネットワークを進化させて、「補修部 品管理(Service Parts Management:SP M)」を向上することがその狙いです。
具体 的には次の六つを目的としています。
1.ディーラーと協調して、顧客のニーズに 焦点を合わせる 2.今後の売上高の増加に伴う物量増に対応 する 3.部品サプライヤーや輸送業者の下請けの 無駄をなくす 4.地域的な変化に対応する 5.業界ナンバーワンの位置を保持する 6.二〇二〇年までの明確なビジョンを作る  システムに関しては、フォード・モーター とSAPと共同で、サプライヤーから最終の 顧客までつながる独自のシステムを開発し、 それを使っています。
最初は、市販のソフト を購入することも検討したのですが、いずれ も当社の要求のすべてを満たすものではなく、 共同で独自のシステムの開発を手掛けること になったのです。
 このシステムでは例えば、同じエンジンバ ルブを一〇〇〇個販売するのであっても、一 回の注文で一〇〇〇個の場合と、一〇〇〇回 の注文で一〇〇〇個の場合を、区別して分析 できるようになっています。
同様に一日一〇 個という注文でも、それが一個一〇〇ドルす るエンジンバルブなのか、一個一〇ドルのガ スケットなのかを分けて管理する仕組みです。
さらには、一年後から三年後までの需要予測 を立案し、それを一日ごとの予測に落とし込 むことができる機能も持っています。
 親会社のキャタピラー向けのサプライチェ ーンは、二〇一七年には、従来とは全く異な る様相を呈しているだろうと我々は予測して MAY 2012  54 います。
北米ではCATロジが本社を置くモ ートンの物流センターに大きく依存する体勢 が変わり、拠点が分散されるようになります。
モートンへの依存率はそれまでの約九〇%か ら四〇%台にまで下がり、米国内に関しては、 オハイオ州やペンシルバニア州、テキサス州の センターでも補修部品を取り扱うようになり ます(図1)。
 一方でEAME(ヨーロッパ、アフリカ、 中東)に目をやれば、それまで、ベルギーの グリムベルゲンに集中していた物量を、ロシ る同社の補修部品のSCM業務を受注した後、 業務範囲を拡大し、現在では二輪完成車の輸 送も手掛けています。
 一般荷主向けの業務においても、我々CA Tロジは独自に開発したソフトウエアやノウハ ウを駆使して、その荷主にとっての全体最適 を実現することに努めています。
 ある荷主の物流コストを、センター費、在 庫費、輸送費の三つの要素から分析したのが 図2です。
この荷主の場合、物流コストを最 小限に抑えたいのなら、物流センターの数を 五〜六カ所にするのがいいことがわかります。
 しかしSCM業務では常に、コストと業務 内容のバランスをとることが必要となってき ます。
コストは下がったけれども、欠品が大 幅に増えたというのでは、荷主の日々の業務 に支障を来すことになりかねません。
アや南アフリカのヨハネスブルグ、アラブ首長 国連邦のドバイなどに分散させます。
 物流センターの数を増やす背景には、キャ タピラーのエリア別売上比率の変化がありま す。
新興国需要の増大によって〇七年時点で 全体の五五%を占めていた北米の売上高比率 が、一五年には四二%まで下がる見込みです。
そのため物流センターを各地に設置すること で、補修部品の九九%を受注翌日までに配送 という現在の体制を維持しようと考えている のです。
選択肢を荷主に提示  次に、キャタピラー以外の、一般荷主に対 する取り組みについて話します。
 当社の主要荷主としては、自動車産業で は、フォード・モーター、ゼネラルモーター ズ、マツダ、ボルボ、スカニアなど。
産業 用機械では、マニトワック、三菱キャタピラ ー・フォークリフトなどが挙げられます。
ま た、家電・ハイテク・その他産業では、US セルラー、東芝、ハーレー・ダビットソンと いったメーカーを顧客としています。
 外販においても当社のメーンのサービスは、 親会社向け業務で培った補修部品のSCMで す。
また特定の国やエリアだけで請け負うこ ともありますが、完成品まで含めたその企業 のすべてのSCM業務を一括して請け負うケ ースも出てきています。
ハーレー・ダビット ソンの案件がそうです。
〇一年に欧州におけ 図1 2017 年の調達物流センターと物量予測 現在のセンター将来のセンター配送デポ ブラジル ピラシカバ ヨハネスブルグ ドバイ メルボルン モスクワ 上海 ベルギー グリムベルゲン シンガポール イリノイ州 モートン オハイオ州 西海岸 テキサス州 ウェーコ ペンシルベニア州 ヨーク 図2 外部の荷主に対するSCMコストの分析 4500 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 3カ所 6カ所 9カ所 12 カ所 15 カ所 (単位:万ドル) (センターの数) 総コスト センターのコスト 在庫の コスト 輸送コスト 55  MAY 2012 ることができる、といった選択肢を示しまし た。
最終的にこの荷主が選んだのは、その中 間にある在庫額を四〇〇〇万ドルに減らして、 フィル・レートを九五%に引き上げるという 図の「C」の選択肢でした。
 このように、SCMにおいては、コストと パフォーマンスのバランスをどこで折り合いを つけるのかという判断が常に必要となります。
CATロジは、これまでに蓄積したノウハウ を基に、親会社や外部の荷主に選択肢や判断 の基となる材料を提供し、荷主の決断に基づ いて行動しています。
現場からの改善提案が年間三九万件  このように話せば、いたって進んだ職場を 想像されるかもしれませんが、物流の現場は、 どこも泥臭い作業の積み重ねで成り立ってお り、CATロジの業務もまた同じです。
当社 が無駄のない日々の業務を実行するために大 切にしていることは、「業務上のシステム」と、 「社内文化としてのシステム」、「管理手法と してのシステム」です。
 その中で最も大切にしている「管理手法と してのシステム」には、四つの要素がありま す。
(a)現場の声を最大限に吸収すること、 (b)現場作業の進捗や問題点を誰の目にも 分かるようにすること、(c)全体の目標を 一致させること、(d)決定したことは断固 として行動することです。
 現場の声を吸収する最大の方法は、現場の 作業員からの業務改善提案です。
昨年一年間 で三九万件の改善提案が寄せられ、そのうち の八二%を採用しました。
作業員からの改善 提案が寄せられたら、現場の管理者は、一カ 月以内に、採用するのか不採用とするのかを 決定するという決まりがあり、もし不採用な らその理由を説明しなければいけません。
紙 とペンを使った、いたってマニュアルな作業で すが、最も効果のある方法の一つだと思って います。
 また、CATロジが運営している一一九カ 所の物流センターは、親会社向けであろうと、 外部荷主のセンターであろうと、同じKPI (重要業績評価指標)、同じ判断基準を用い ています。
KPIは従業員、品質、スピード、 コストの四つに分かれており、それぞれの項 目を三つの色分けで示しています。
「緑」な ら去年の数値以上で、かつ目標値を上回って いる、「オレンジ」なら去年の数値は上回って いるが、目標値には届いていない「赤」なら 去年の数値と目標値のいずれにも達していな いという具合です。
 こうして、作業に関わる全員が情報を共有 することで、より効率のいい職場になると考 えています。
  (ジャーナリスト 横田増生)  図3は、ある外部の荷主の業務を三年間請 け負った後で、CATロジが提示した、業務 改善提案です。
それまでこの荷主は、五六 〇〇万ドル強の在庫を抱えていました。
フィ ル・レート(注文した時に引き落とせる在庫 の比率)は九二%でした。
それを踏まえたう えで、当社は、いくつかの提案をしました。
 これまでのようにフィル・レートが九二% でいいのならば、在庫の金額を二九〇〇万ド ルにまで落とせるという提案や、これまでの ように五六〇〇万ドル強の在庫を抱えるのな ら、フィル・レートを九六%にまで引き上げ 編集部注・このプレゼンテーションの約三カ月前、親会社 のキャタピラーは二〇一一年三月二三日付のプレスリリー スで、CATロジを売却する検討をはじめた、と発表し たが、このプレゼンテーションはその点について触れてい ない。
図3 サービスレベルと在庫のトレードオフ 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 70% 75% 80% 85% 90% 95% 100% (単位:万ドル) フィルレート(納品数量÷注文数量) A B C 92% $5,659 現状 シミュレーション 在庫金額

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