2012年6月号
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グローバル競争がS&OPを迫っている

JUNE 2012  4 ところかも知れません」 ──日本のメーカーがS&OPの導入 に成功したとしても、ライバルに追いつ くだけで、追い抜くことはできません。
 「この先一〇年の競争は、これまで とはまた違ったかたちになります。
今 後の成功は、複数チャネルにわたって リアルタイムで収益性を最適化できる かどうかにかかっていると我々は考え ています」  「誰でも好きなように価格情報や商 品情報を手に入れられるようになった ことで、消費者の購買行動は劇的に変 化しました。
その結果として、店舗に 人を呼び寄せて店頭で購買意欲を刺激 するという伝統的な小売業のビジネス モデルは壊滅的な打撃を受けました」  「店舗を持たず、物流拠点も一カ所 しかないネット通販専業者に対し、店 舗と物流拠点を各地に展開しているチ ェーンストアは、単純な価格競争では 太刀打ちができません。
ただし、今後 も店舗チャネルがなくなるわけではな い。
消費者は複数のチャネルを使い続 けます。
同じ消費者がチャネルを渡り 歩くことになるわけです」  「問題は従来の顧客管理の枠組みで は、そうした消費者をカバーできない ことです。
複数のチャネルを利用する 消費者を一貫性のある視点でとらえ る必要があります。
そのうえでチャネ  米JDAソフトウェアは二〇〇〇 年代以降、積極的な買収攻勢に打っ て出た。
i2テクノロジーズやマニ ュジスティックスなどの有力SCP ベンダーを次々に傘下に収め、小売 業向けの中堅システム開発会社から SCMソリューションの世界的ベン ダーにのし上がった。
その立役者が 現在のブリューワーCEOだ。
小売 業向けソリューションに豊富な実績 を持ち、一〇年以上に渡り同社の経 営を指揮している。
──日本の家電メーカーが苦境に喘い でいます。
市場の主導権をサムスンに 奪われてしまいました。
 「サムスンは十二年前に戦略を抜本 的に改めました。
日本の家電メーカー のコピーでしかなかったそれまでのビ ジネスモデルから脱却し、消費者起点 のサプライチェーンを築き上げました。
その結果、サムスンは小売りの店頭に おけるゲリラ的な価格競争に勝利しま した。
需要の変化に即座に反応する俊 敏性(Agility)の点で日本のメーカー は遅れをとったように思います」  「家電製品のライフサイクルは今や月 単位から週単位に縮まっています。
市 場の変化のスピードが速くなったこと で、サプライチェーン全体をリアルタ イムで動かすことが決定的に重要にな りました。
そのために販売計画とオペ レーション計画を一つに統合する『S &OP』が必要になってくるわけです が、日本のメーカーはそこに高い優先 順位を付けてきませんでした」  「S&OPに必要なツールは既に用 意されています。
効果の十分に証明 されたツールを当社は提供しています。
ただし、導入が成功するかどうかは、 その会社のCEOの決断にかかってき ます。
S&OPはトップダウン型のマ ネジメントです。
実施するには、その 会社のCEOが複数の部門にまたがる 意思決定を下す権限を、S&OPの実 行部隊に与えなければなりません。
ボ トムアップ型の日本企業が苦手とする グローバル競争がS&OPを迫っている  グローバル競争を戦う企業にとって、販売活動とオペレーションを同 期化する「S&OP(Sales & Operations Planning)」の導入は既に 常識となっている。
しかし、日本企業の反応は鈍い。
経営層がその意 義を十分に理解していない。
欧米のS&OPのスペシャリストたちが 日本企業の課題を指摘する。
        (聞き手・大矢昌浩) 「マルチチャネル型への対応を急げ」 米JDAソフトウェア ヘーミッシュ・ブリューワー CEO 5  JUNE 2012 ルの特性に合わせた品揃えと、差別化 したサービスを提供することで、顧客 ロイヤリティを高めることができます。
そのための小売業向けのソリューショ ン『J D A“Consumer-Conected” Cloud』を当社は今年の秋に一般向け にリリースする予定です」 ──店舗型の小売業がどう変わってい くのですか。
 「例えば現在、ウォルマートはネット 通販を本格化させると同時に、店舗の サイズを従来よりも小型化し、ローカ ライズする方向で動いています。
そし て商品を販売するだけなく、商品にま つわるサービスも提供するようになっ ています。
その結果として当然ながら、 欠け、変化にスピーディに対応するこ とができませんでした」  「ちょうど時を同じくしてクラウド技 術の実用化が進みました。
クラウド技 術を使えば低コストで簡単に、素早く S&OPを実施することが可能でした。
つまり、経済環境の変化が激しさを増 し、またグローバルに伸びたサプライ チェーンが頻繁に寸断されるようにな ったのと同時に、サプライチェーンの 柔軟なコントロールを可能にする情報 技術の進化が起きたことで、S&OP が進化し、改めて注目されるようにな ったわけです」 ──既存のSCPとは恐らく、JDA に吸収されたi2テクノロジーズやマ ニュジスティックスを指しているはず ですが、それらはもう古い?  「それらのアプリケーションや、ま たBI(ビジネスインテリジェンス)に しても、一五年前にはベストなテクノ ロジーでした。
しかし、現在のクラウ ドベースのソリューションと比べると柔 軟性が低く、ソリューションごとにシ ステムが分かれているので活用が難し い。
導入やメンテナンスの費用も割高 です」  「SCPは現在、第二世代に入って います。
その特徴は低コストであるこ とに加え、導入や運用が簡単なことで す。
供給計画や需要計画、ビジネスパ 店員の役割や品揃えも変わってきてい ます。
これまでの小売業の枠組み自体 が抜本的に変わっていくことになりま す。
それによって店舗を負債ではなく、 改めて資産に変革していく必要がある のです」 ──小売業の変化にメーカーはどう対 応すべきですか。
 「マルチチャネルへの対応が必要なの はメーカーも同じです。
複数チャネル、 複数階層における在庫の最適化が求め られます。
そのためには従来の商品中 心のサプライチェーンから顧客中心の サプライチェーンに移行して、ダイナ ミックな需要の変動に即座に反応でき る体制を整える必要があります」  「米国でもS&OPを経営者が本当 に注目するようになったのは、ヨーロ ッパの交通網を完全に麻痺させた二〇 一〇年の火山爆発や、日本の東日本 大震災などを経験してからと言ってい いのかも知れません。
サプライチェー ンがグローバルに伸びると、それだけ リスクが高まることを、誰もが否応な く思い知らされました。
その結果、企 業経営層にフレキシビリティ(柔軟性) の重要性が改めて認識されました」  「サプライチェーンが寸断された場合 には、それを代替するサプライチェー ンにすぐに切り替える必要があります。
そうした柔軟性は実は、災害などの偶 発的なトラブルが発生した時だけに必 要になるわけではありません。
平時に おいても、とりわけ今日のグローバル サプライチェーンにおいては、市場の 変動に素早く反応することが決定的に 重要です」  「そのことが顕著に現れたのは二〇 〇八年のことでした。
この年には、二 つの大きな出来事がありました。
リー マンショックとクラウドコンピューティ ングの本格的な実用化です。
リーマン ショック後の急激な需要の落ち込みに 対応するため、企業はサプライチェー ン計画を素早く修正する必要に迫られ ました。
しかし、既存のSCP(サプ ライチェーン計画ソフト)は柔軟性に 「クラウドがSCPを新世代に導いた」 米スチールウエッジソフトウェア グレン・マルゴリス CEO  ERPやSCPの導入を数多く 手掛けてきた、エンジニア出身のマ ルゴリスCEOが二〇〇〇年に創業。
クラウドベースでS&OPソリュー ションを提供する新興勢力としてグ ローバル企業を中心にユーザーを増や している。
今年5月には日本法人を 設立。
EXEテクノロジーズやイン フォアで日本法人トップを歴任した 津村謙一氏をアジアパシフィック地 域のリーダーに任命した。
──今のところ日本の経営層は、S& OPをほとんど意識していません。
JUNE 2012  6 フォーマンスの分析など、すべての機 能をユーザーは、スマートフォンを使 うのと同じように、統合されたソリュ ーションとして利用できます。
そのた めに多くの企業が現在、第一世代のS CPを廃棄して、当社の統合されたソ リューションの利用に乗り換えている んです」 やリスクを分析し、問題が起きる前 (Proactive)に手を打つというアプロー チをとります。
サプライチェーン・パ ートナーとの協働によって、ネットワ ークのコスト構造を素早く柔軟に最適 化することでそれを可能にします」  「プランナーはその次に進んだやり 方です。
ビジョナリーの企業群と同様 にサプライチェーンの能力向上への投 資は行っているものの、S&OPの範 囲は一企業内にとどまり、可視化の対 象も主要パートナーに限られています。
SCMの狙いはコストの最適化であり、 需要の変動やリスクに対して供給計画 のレベルで対応します」  「そしてオペレーターは従来型のアプ ローチです。
最も多くの企業がここに 属しています。
旧来型の計画策定の仕 組み、コスト削減遍重、硬直化したコ スト構造と業務プロセス、統合されて いない製品フローにフォーカスを当て ていることなどがその特徴です」  「この三つのタイプの企業群の〇七年 度〜〇九年度の業績を比較すると、投 下資本利益率はビジョナリーが二七・ 一%増であるのに対し、プランナーは 一一・六%増、オペレーターは一・五 %増と、明確な違いがありました。
同 様に過去三年間の売上高はビジョナリ ーが二四・八%増、プランナーは一 一・〇%増、オペレーターは〇・七% 増でした。
SCMのアプローチの違い が企業業績に大きな影響を与えている ことが確認できました」 ──日本企業の収益性は海外の有力企 業に大きく見劣りがします。
日本のS CMがオペレーターの段階に留まって いるということでしょうか。
 「残念ながら、そうだと思います。
SCMで全てを説明できるわけではあ りませんが、問題の一端はそこにある はずです。
例えばサムスンがSCMと ロジスティクスに力を入れてきたのと 比べると、日本の家電メーカーのこれ までの対応は十分とは言えませんでし た。
日本のメーカーの多くは販売計画 とオペレーション計画が統合されてお らず、部門横断型の業務プロセスも確 立されていません。
それが業績や在庫 に影響しているはずです」  「アップルもまたSCMの先進企業 です。
彼等はサムスンと違ってオペレ ーションのほとんどをアウトソーシング していますが、それと同時にサプライ チェーン全体の可視性を徹底して追求 しています。
どうやって管理するかと いうことよりも、何を管理するか、サ プライチェーンで何が起こっているの かを注視することに力を注いでいるわ けです。
やはりSCMに高い優先順位 を置いているという点では、サムスン と共通しています」  米IBMのSCMコンサルティン グ部門のグローバルリーダー。
SC Mに関わる調査部門も管轄している。
製造業や運輸業を対象にしたコンサ ルティングに豊富な実績を持つ。
新 たなリスク対応策として、問題の発 覚後に対応を開始する従来のアプロ ーチに代え、事前に有効な手を打つ 「Predictive Analytics」を提唱して いる。
──従来のSCMは在庫削減やコスト 削減を目的としてきました。
 「S C Mのメーンテーマは今やコ ストから『需要の変動性(Demand Variability)』に移っています。
当社が 二〇一〇年に行った調査によると、企 業のSCM担当責任者が今日直面して いる最も大きな課題は、『需要の変動 性』(五三%)であり、『コストの最適 化』(四七%)や『在庫の最適化』(四三 %)を上回っています」  「実際、変動性に対応するために、 企業は様々な方法で需要の可視性、拡 張されたサプライチェーンの可視性の 向上に努めています。
そして、そのア プローチの違いによって、我々は企業 を三つのタイプに分類しています。
『ビ ジョナリー』『プランナー』『オペレータ ー』の三つです」  「そのうちビジョナリーは最も先進的 な企業です。
問題が発覚してから事後 的(Reactive)に対応するのではなく、 BIや分析ツールを使って需要の変動 「リスク対応力が企業業績を左右している」 米IBM デーブ・ルーボウ IBMグローバルビジネスサービス バイスプレジデント オペレーション&サプライチェーンコンサルティング グローバルリーダー

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