2012年6月号
現場改善

外食チェーンM社のセンター機能強化

JUNE 2012  66 二つの物流子会社  M社は東京、大阪を中心に約一五〇店舗を 展開している中堅外食チェーンである。
チェー ンオペレーション理論に基づく規格化された店 舗展開にはこだわらず、個店主義による地域 密着型のきめ細かな顧客ニーズへの対応と、店 長教育の徹底によって大手と棲み分けてきた。
 出店エリアは国内全域を対象としているが、 地方はフランチャイズ店をメーンにする考えで、 各地でオーナーを募っている。
かつては地方の ロードサイドに直営店を展開した時期もあった が、少子高齢化や飲酒運転の規制強化などを 受けて、繁華街へのドミナント出店に大きく舵 を切った。
ちなみに、このような出店戦略の変 更は必ずしもM社に限ったことではなく、最近 の外食業界にはよく見られる傾向である。
 我々日本ロジファクトリー(NLF)に最初 にコンタクトをとってきたのは、M社の物流課 長で物流センター長を兼務するL氏であった。
その肩書きから担当者レベルの相談かと思いき や、センターの老朽化対策を含めたコストダウ ン、そして物流子会社の再編がテーマだという。
 M社は、麺やカット野菜、豆腐、惣菜など のメーンとなる食材については、それぞれ別会 社化したグループ工場で処理していた。
物流イ ンフラとしては全国に二つのDC(保管型物流 センター)と、四つのTC(通過型物流センタ ー)を構えていた。
 物流のオペレーションは二つの物流子会社に 委託していた。
そのうちのA社はM社の一〇〇 %子会社で各地の自社工場からセンター納品ま でを担当している。
もう一つの物流子会社B社 はセンター運営と店舗配送の担当で、これも当 初は一〇〇%出資だったが、その後の外販拡大 に伴い出資比率を段階的に引き下げてきた。
 B社の現在の外販比率は九〇%近くに達して おり、M社に依存しない体制が既にできあがっ ている。
その結果として、B社にとってM社は 一般荷主と変わらない存在となり、またM社と してもB社にグループ企業としての役割を期待 することはできなくなっているという。
 これらの物流子会社の再編まで含めて改革を 行うとなれば、多大な工数と時間が必要になる。
経営全体に影響を及ぼす大手術になることを、 我々はL氏に伝えた。
それでもL氏は「我々も 三年はかかると考えている。
今回、私が相談に 伺ったのもトップからの直接の指示だ」という。
事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  物流センターが老朽化し移転の必要に迫られていた。
物流 子会社二社の扱いも懸案となっていた。
長期にわたるプロジ ェクトを覚悟して物流改革に乗り出した。
物流子会社二社の うち外販の進んでいる一社は出資を引き上げ完全に独立させ た。
しかし、残る一社が問題だった。
外食チェーンM社のセンター機能強化 第113 回 67  JUNE 2012 覚悟はできているようだった。
こうしてM社の 大がかりなプロジェクトがカットオーバーした。
 通常、我々NLFのコンサルティングは物流 現場の視察からスタートする。
しかし、今回は 物流現場ではなく、店舗の視察から始めること にした。
筆者が一人の客として店を訪れ、実際 に食事をとることで、食材の鮮度や味、サービ スレベル、コストパフォーマンスを知ろうと考 えた。
物の流れを最下流から遡って課題を見出 そうというアプローチである。
 M社のように、それが容易な業態であれば、 余計なロジックや先入観は棄て、素直に顧客満 足から入り、それをローコストオペレーション へ繋げていくというやり方のほうが、間違いは 少ない。
 店舗タイプ、エリアが異なる五店舗を回って みた。
そのうち同業他社よりも平均客単価が 二〇〇円ほど高いハイグレード店で気になるこ とがあった。
顧客ターゲットに合わせてメニュ ーや内装を工夫しているのは分かるのだが、肝 心の料理の質がどうもしっくりこない。
生野菜 などの生鮮品は規格がバラバラ、チルドものの 惣菜も決しておいしいとは言えなかった。
 後日、物流センターを視察して、その謎が解 けた。
チルド庫や前室(ドッグシェルターと荷 捌き場の間)が老朽化し、冷却が十分に効いて いない。
温度計を持ち込んで調べたところ、五 ℃〜七℃を維持しなければならないチルドの総 菜が、牛乳・豆腐レベルの八・七℃で扱われて いた。
また野菜に関してはセンターを通過させ ず、グループ工場や各地元の業者から直接店舗 に納品させているとのことであった。
 さらに、入荷・格納・ピッキング・シール貼 り・検品・店別仕分け・積込みの一連のセンタ ー内作業と店舗配送の横乗り調査を実施した。
これと並行して関係者へのヒアリング、データ 収集、資料チェックなどを行い、仮説の検証と 問題点の整理に注力した。
新DCの物件探しに苦労  こうして抽出された改善課題は二〇〇近く にも上った。
優先順位の設定に難儀するほどで、 L氏そしてM社のプロジェクト担当役員のT氏 と協議の末、システムの見直しや他部門との連 携などは二年目以降のテーマに先送りし、まず は以下の項目を初年度に実施することになった。
(1) 物流拠点のプロフィットセンター化に向けた センター機能の見直し (2) 食材の品質を維持できる新センターへの移転 (3) 物流パートナーの選定 (4) 物流子会社の再編 (5) 新センターにおける運営の安定化  このうち (1) 物流拠点のプロフィットセンター 化に向けたセンター機能の見直しは、「?物流 センター収支の見直しと改善」、「?アウトパッ ク化の検討」の二つを柱としている。
 当初我々NLFは、物流子会社が運営する 物流センターのコストは割高だろうと予想して いた。
しかし、その業務範囲と請求額・契約 料率をチェックしたところ、決して割高とは言 えず、店舗からの売れ残り品や不要品の回収業 務やカゴ車の追加投入にかかるイニシャルコス トまで考慮すれば、一般の物流会社よりもむし ろ安く収まっていることが分かった。
 それでも、M社の物流コスト負担は、同業他 社に比べて大きかった。
その理由はベンダーか らセンターフィーをほとんど徴収できていない ことにあった。
センターフィーを払う習慣がな い地方の名産品や小規模な食材店との取引が多 いという事情もあるが、大手ベンダーとの取引 でもセンターフィーが相場よりも低く抑えられ ていた。
 現在、M社のセンター通過金額はトータルで、 約二四〇億円に上っている。
しかし、通過額 が一〇〇億円以下だった時代からベンダーとの センターフィー交渉を行っていなかった。
改善 の余地があるのは明らかだった。
 もう一方の「?アウトパック化の検討」の 「アウトパック」とは、外食チェーンのほか食品 スーパー業界などでもよく用いられている言葉 で、店舗外、いわゆるセントラルキッチンやプ ロセスセンターなどで最終商品化することをい う。
これに対して「インパック」は店舗内での 最終商品化を指す。
 M社における「アウトパック化の検討」とは、 従来はグループ工場および店舗で行っていた食 品の加工処理を、新設する物流センターに移管 することで、コストも含めてどのような効果・ 影響が出るのか、そのメリットとデメリットを 見極めようということであった。
 カット野菜と総菜がその対象だった。
それぞ れグループ会社の工場で加工していたが、最終 商品化前の中間処理に留まっていたうえ、コス JUNE 2012  68 トは他社よりも割高で、かつ工場としての採算 もとれていなかった。
この二つのグループ工場 の扱いについては、物流と並ぶM社の悩みの種 でもあった。
 そこで新設するDCにカット野菜と総菜の加 工機能を取り込み、プロセスセンターとして機 能させるというプランを立案した。
実現すれば 不採算の二工場が不要になり、輸送費も削減 することができる。
ただし、それには設備投資 が必要で、またDCで取り扱っている他の食材 に臭いが付いてしまう恐れもあった。
 検討の結果、後に述べるように、DCの加工 設備については長期契約を条件に、新DCの 運営委託先が投資してくれることになった。
臭 いの問題も、それぞれ別室を設けることで対応 可能であった。
加えてL氏の提案により、従来 は専門業者に委託していた専用オリコンと盤重 (食品用の運搬容器)の洗浄処理もDCで行う ことにした。
 初年度のテーマの二つ目に挙げた「 (2) 食材 の品質を維持できる新センターへの移転」とは、 この新DCを探す作業のことであった。
M社 の出店計画と、カット野菜・総菜以外のグルー プ工場の立地から最適エリアを分析したところ、 旧センターの近隣が適当であるという結論に至 った。
 しかし、条件を満たす既存物件は見つから なかった。
そこで新DCの運営を委託する3P Lにセンターを新設してもらう前提で、「RF P(提案依頼書)」を作成し、物流コンペを開 催することにした。
これが「 (3) 物流パートナー の選定」である。
土地探しも、センター運営を 手掛ける当事者に決めてもらうことにした。
高 速道路へのアクセス、隣接道路の幅などの使い 勝手を運営者の目で吟味してもらう方が得策で あると考えた。
 外食業界での実績、そして新センターの建設 条件をクリアできることを条件に候補を絞り込 み、最終選考に二社が残った。
そのうち新セン ターを他社荷主との汎用センターとして運営す る案を提示した一社が、コスト面で優り、内定 となった。
 新DCの建設はすんなりとはいかなかった。
結 局、理想とするエリアには適当な土地は見つか らず、旧センターから直線距離で一五?ほど離 れた場所に建設することになった。
センターの 二階部分に入庫・出庫するためのスロープの建 設許可、惣菜加工室の消防許可等の取得にも時 間を要した。
繁忙期を避ける必要もあって、稼 働開始は計画より三カ月延びてしまった。
3PLに物流子会社を売却  「 (4) 物流子会社の再編」では、既に自立し外 販がメーンとなっているB社については、双方 の合意のうえ、出資を全額引き上げることにな った。
今回のコンペでもB社は、落選はしたも のの、一般の物流会社として参加した。
 問題は一〇〇%子会社のA社であった。
A 社の存在が物流コスト削減の足かせとなってい るのは明白だった。
担当役員のT氏は物流会社 への売却を提案した。
しかし、我々NLFには、 A社に買収価値があるとは思えなかった。
A社 は売り上げのほとんどをM社に依存し、なおか つ年商の三割以上の借入金を抱えていた。
 それほど期待はせずに、新DCの運営を委託 することになった3PLにA社の売却を打診し た。
既存スタッフと車両ごと譲渡できないかと いう相談である。
すると、意外にも早期に快諾 を得ることができた。
筆者の思っている以上に、 3PLによる物流子会社のM&Aが活発化し ていることを痛感させられた。
 「 (5) 新センターにおける運営の安定化」は本 稿を作成している時点では、まだ着手したばか りである。
しかし、本号が読者のお手元に届く 頃には安定稼働を実現していなければならない。
新センターの安定運営は?三〇日?が業界の暗 黙の了解である。
 こうして振り返ると、M社のプロジェクト初 年度はかなりハードな一年であった。
それでも 山登りに例えると現状はまだ三合目付近であ る。
これから初年度の実績を精査・反省して、 次年度以降の実施事項およびスケジュールを修 正する必要がある。
次年度に向け欲を言えば、 M社から改革のコアになるメンバーが、もう一 人出てきて欲しいところである。
あ お き ・し ょ う い ち  1964年生まれ。
京都産業大 学経済学部卒業。
大手運送業者 のセールスドライバーを経て、89 年に船井総合研究所入社。
物流 開発チーム・トラックチームチーフ を務める。
96年、独立。
日本ロジフ ァクトリーを設立し代表に就任。
現 在に至る。
主な著書に『経営のテ コ入れは物流改善から』明日香出 版社、『物流のしくみ』(同文館出 版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp

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