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2012年6月号
物流行政を斬る

第15回 列車と乗客の接触事故を防ぐホームドアへのニーズが拡大、普及の鍵を握る費用負担の分配

JUNE 2012  72 現在約五〇〇駅に配備  今回は物流から少し離れ、鉄道旅客のサービスに ついて考察したい。
とり分け、近年設置が進んで いる「ホームドア」に焦点を当てる。
ホームドアは 「スクリーンドア」とも呼ばれ、駅のホームの線路に 面する部分に設置される可動式の開口部を持つ柵の ことである。
ホームの天井までを覆うタイプや、腰 の位置の高さまでのタイプなどがあるが、基本構造 としては、電車が到着すると柵が開き、発車すると 再び閉じるようになっている。
 JRや私鉄など、旅客を運ぶ列車はしばしば遅 延する。
お読み頂いている読者の方々も、列車が 遅れて迷惑を被った経験が一度や二度はおありだろ う。
遅延の要因は、台風、暴風、積雪といった悪 天候、ポイントや信号機故障など機械や設備のトラ ブル、列車内に急病人が出たことによるもの、ラッ シュ時の混雑など様々だ。
 なかでも特に多いのが、線路内への立ち入りや 人身事故だろう。
ホームドアを設置することにより、 乗客の転落や列車との接触事故を防ぐことができる。
実際、ホームドアを設置した駅では、その多くで電 列車と乗客の接触事故を防ぐ ホームドアへのニーズが拡大、 普及の鍵を握る費用負担の分配  列車はしばしば遅延する。
その要因として特に多い のが、線路内への立ち入りや人身事故だ。
これを防ぐ ための有効手段として、近年「ホームドア」への需要 が拡大している。
しかし、国の定めた設置目標駅数 にはまだまだほど遠いのが現状だ。
一駅当たり数十億 円とされる導入コストを、鉄道事業者、乗客、国の三 者でどう負担するかが、普及への鍵を握っている。
第15 回 車との接触事故がゼロになっている。
 ホームドア設置の動きは世の中の流れであると言 えるだろう。
東京メトロでは、南北線、丸の内線、 副都心線の全駅でホームドアが設置されている。
有 楽町線も二〇一二年度には設置が完了する。
さらに 銀座線は今後二〇億円を投じて一六年度から全駅に ホームドアを設置することを決めた。
JR線に関し ても、山手線が一七年度までに、大規模改良を予 定する四駅を除く全駅への設置を計画している。
設 置駅数の推移をみると増加基調にあることが確認で きる(図参照)。
 ただし、まだまだ十分とは言い難い。
一一年度末 に五一九駅というのは、国土交通省が「一日一〇 万人以上が利用する駅には原則としてホームドアを 設置する」という目標(約二八〇〇駅)には依然 としてほど遠い。
乗客・鉄道事業者の双方にメリット  ホームドアの設置を促す法律に、バリアフリー新 法がある。
これは「高齢者、障害者等の移動等の 円滑化の促進に関する法律」であり、〇六年に公 布・施行された。
その目的は次の通りだ。
「高齢者、 障害者、妊婦、けが人などの移動や、施設利用の 利便性・安全性の向上を促進する為に、公共交通 機関、建築物、公共施設のバリアフリー化を推進す るとともに、駅を中心とした地区や、高齢者、障害 者などが利用する施設が集まった地区において、重 点的かつ一体的なバリアフリー化を推進する。
また バリアフリー化のためのソフト施策も充実する」。
 日本盲人会連合の調査によると、目が不自由な 人の六割が「ホームから転落しそうになった経験が ある」としている。
さらに四割近くは「ホームに転 落したことがある」と回答している。
こういった事 態を防ぐためにも、ホームドア設置へのニーズは高 まっている。
 高齢者や障害者に加え、一般乗客からの要望も強 い。
利用者全体を対象にした国土交通省のアンケー ト調査を見ても、八割の人が「ホームドア設置に賛 成」とし、四人に一人が「電車と接触しそうにな るなど危険を感じた経験がある」と回答している。
線路内への人の立ち入り(転落事故、自殺等)が 発生し、電車が遅延することで、乗客は車内に閉じ 込められる。
これによる機会費用は甚大なものにな ろう。
物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚 73  JUNE 2012   この場合の機会費用とは電車内に閉じ込められず に外で働いたとしたら稼げたであろう金額を指すが、 これを影響を受けた人数分足し合わせれば実に莫大 だ。
しかも遅れは一台に止まらず、一台前、一台後、 他の路線といった具合に影響は拡大していく。
こう した遅延が鉄道事業者によるホームドア設置で激減 するのであれば、行政担当者としては鉄道事業者 に対し、ホームドアの設置を早急に促すべきと言え る。
 ホームドア設置は、鉄道事業者にとってもメリ ットが大きい。
運転手のワンマン運転が可能にな り、乗客の安全確認も容易になる。
また天井まで の高さのあるホームドアを設置すれば、冷暖房を 効率的に行うことができ、光熱費を削減すること も可能だ。
そして何より、前述したとおり乗客の 線路内立ち入りや人と列車の接触と言った人身事 故を防ぐことで、それへの対応コストを削減する ことができる。
 このように需要サイド、供給サイドの両面から、 ホームドア設置のメリットは確認できる。
より詳細な情報公開が必要  ホームドア設置に対する課題は、何よりコスト を誰が負担するか、という問題に集約できる。
設 置には一駅で数十億円かかるとされ、それが全駅 となれば莫大なコストになる。
コスト以外にも障 壁は存在する。
他社との乗り入れが進む路線では、 車両によってドアの数や位置が異なっている。
ま た設置のための工事は乗客のいない深夜に行わざ るを得ず、どのように効率的に行うかも重要な問 題になる。
 ホームドア設置に関しては、コスト(費用)と ベネフィット(便益)の関連を見て判断すること が重要だ。
乗降客の少ない駅では、当然ホームド アを設置する必要はない。
前述したように国土交 通省ではホームドア設置の基準を乗降客一日一〇 万人以上の駅としているが、果たして一〇万人が 適正水準なのかどうか、これについてもより深い 議論が必要になろう。
 こうした議論を行う上で不可欠なのは、鉄道事業 者による詳細な情報公開である。
交通安全白書を みると「鉄道交通事故の動向」が書かれているが、 これはあくまでも事故に関するであり、自殺等の人 身事故者がどれくらいあるかまでは把握できない。
また電車そのものの運行がどうであるか、何時台・ どの曜日・どの駅で遅延がおき、それがどれくらい の人数の乗客に被害や影響を与えたかなども知る由 もない。
本来、期待された運行サービスを提供でき なかったのであるから、その原因や実態を明らかに する必要があるのは言うまでもない。
 その上でホームドア設置によるベネフィットがコス トを上回るのであれば(間違いなくそうなると推測 されるが)、このコストを誰が負担するのかという議 論に進む。
言うまでもなく、全額そのまま乗客負担 とし、単に運賃値上げをするのに止まってしまって はならないだろう。
国土交通省内部では現在、「可 動式ホーム柵の整備促進等に関する検討会」が設置 され、専門家による議論を進められている。
ホーム ドア設置が望ましいことは言うまでもないが、?鉄 道事業者の負担、?利用者の負担(運賃値上げの 形を通じて)、?行政の負担(補助金等の形で税金 を投入する)、がどうあるべきか議論し、早急に主 要駅におけるホームドア設置が実現されることを期 待したい。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの研究会「ロジスティクス&チャ ネル戦略研究会」を主宰。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。
ホームドア設置駅数の推移(単位:駅) 600 500 400 300 200 100 0 01 年度末 02 年度末 03 年度末 04 年度末 05 年度末 06 年度末 07 年度末 08 年度末 09 年度末 10 年度末 11 年度末 180 196 230 273 306 318 394 424 441 484 519 (資料)国土交通省

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