ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年7号
現場改善
第114回 超高収益運送会社のさらなる挑戦

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2012  72 経常利益率三〇%の無名物流企業  先頃発表された全日本トラック協会の調査 「経営分析報告書 平成 22 年度決算版」による とトラック運送会社の約六割は赤字経営に陥っ ているとのことである。
赤字企業が八割を超 えている地方もあるようだ。
現在のトラック運 送業の実態であろう。
しかし、儲かっている会 社だって当然ながら存在する。
今回紹介するT 社は、その一つである。
年商は約一八億円と 中堅規模ながら、約五・五億円の経常利益を たたき出している。
 
埃劼世韻任呂覆ぁ
T社と同様に三〇%近 い経常利益率を誇る物流会社を筆者は他に二 社知っている。
いずれも我々日本ロジファクト リー(NLF)の過去の研修先、クライアント 先であるが、共通しているのはマスコミや物流 業界紙にも登場することのない無名の会社なが ら、付加価値の創出に注力している点である。
 そのうちの一社は二代目社長の異業種経験 を活かし、それを物流業に応用することで飛 躍を遂げた。
センター運営の少人化や傭車比率 の適正化を進め、提案営業に圧倒的な強みを 持ち、M&Aにも積極的である。
もう一社は 温度管理による差別化を図り、資本力を活か した積極的なセンター開発で他を圧倒し、コン ペで高い勝率を誇っている。
 
埃劼發海瞭鷦劼飽けを取らない高付加価 値サービスを荷主に提供している。
そして現在、 さらなる成長に向けた改革に挑んでいる。
我々 NLFはコンサルタントとしてそれを支援する 立場にあるわけだが、今回はその取り組みを 紹介すると同時に、今どき三〇%もの経営利 益を上げるトラック運送会社の経営とは果たし てどのようなものなのか、その秘密を探ってい くことにしよう。
 
埃劼亘楴劼鯡掌轍阿肪屬、商圏もこれま では東海地区に限定してきた。
元請け業務は意 外にも数社しかなく、大半の顧客は路線会社、 倉庫会社、フォワーダー、物流子会社といった 大手物流会社からの委託である。
?黒子?に徹 しているわけである。
 主な積み荷は、精密機械、電機、医薬など、 単価が高く、コストよりも品質を重視する製・ 商品が多い。
また、単純輸送のほかに情報端 末の廃棄物輸送や個人情報に関する媒体の輸配 送と保管、リサイクル品の回収、仕分け、リユ ース品の在庫管理、出荷、産業廃棄物の最終 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  経常利益率が三〇%にも達しているオーナー経営の地場物 流会社を筆者はいくつか知っている。
その一つを紹介する。
地方の下請け運送をメーンにしながら、付加価値のあるサー ビスを武器に堅実な経営を行っている。
なぜ、そんなことが 可能なのか。
詳しく見ていくことにしよう。
超高収益運送会社のさらなる挑戦 第114 回 73  JULY 2012 処分場までの輸送などを手掛けている。
つま り動脈物流から静脈物流に至る全領域を、そ れぞれ徹底して深堀りしている。
 経営陣は創業者夫婦を中心とする、いわゆ る「親族会社」である。
この点は高収益物流 企業として先ほど挙げた他の二社とも共通して いる。
必ずしも偶然ではないのかも知れない。
 初面談の日、我々NLFのメンバーが紹介者 を伴ってT社を訪れると社長夫婦が出迎えてく れた。
敷地内にはきれいに洗車された四t車 と増トン車が五、六台停車していた。
本社事務 所は三棟所有するセンター(倉庫)の一棟に隣 接して設けられていた。
 我々のことは紹介者から既に話が入っており、 NLFのホームページもチェック済みとのこと だったので、すぐさま本題に入った。
社長は 「東海地区での展開については、時間はかかっ たが、ある程度の果実を収穫したと思っている。
さらなる発展に向けた改革・改善に力を貸して 欲しい」という。
 
埃劼任△譴仟臠召里海箸論し遂げられるで あろうが、具体的に何をやりたいのかが分から ない。
社長夫婦からじっくり話を聞くことにし た。
やりたいこと、やれること、やってはい けないことを整理することが目的であった。
最 初に出されたお茶からコーヒー、そして紅茶へ とT社流のおもてなしを受けるうち、あっとい う間に時間が過ぎていた。
 社長夫婦は物流の専門知識やノウハウを持ち 合わせているわけではなかった。
しかし、ビジ ネスに関する嗅覚は並外れていることは話を聞 いていて感じられた。
T社が元請けを避ける理 由は、荷主との交渉や提案、要請、クレームな どの管理コストをリスクととらえているためだ った。
そのために、物量があり、運賃が比較 的高くても荷主からの支持を得られる大手物流 会社の仕事にターゲットを定めていた。
 荷物は市場規模の大きな業種、分野しか扱 わない方針であった。
的を絞って深掘りするこ とで他社にない付加価値を見つけ出すことを徹 底していた。
この夫婦ほど明確に事業コンセプ トとドメインを説明できる物流会社の経営者に 出会ったのは筆者にとっても久しぶりのことだ った。
 このインタビューを皮切りに、センターや現 場の視察、幹部ヒアリングなどの簡易的な調査 を実施し、T社のあるべき姿としての拡大戦 略を取りまとめ、後日、社長夫婦に提案した。
その骨子は以下の通りである。
?関東地区への進出 ?東海地区における新サービスの開発 ?輸・配送品質の更なる向上 ?既存荷主に対するコミュニケーションの強化 ?提案営業スキルの習得とツールの整備  売り上げ目標は現状の三倍を提案した。
売 上倍増は既に時間の問題で、外部に頼らなく とも自力で達成できるレベルにあると判断した からだ。
この提案を社長夫婦は了承した。
既存業務の前工程と後工程に着目  「?関東地区への進出」については、実施の 時期と、責任者に誰を据えるかの問題だけであ った。
かねてから既存荷主に関東進出を要請 されていたのである。
大手物流会社をはじめ、 首を長くして待っている人が少なくなかった。
 某大手倉庫会社のM所長もその一人だった。
名古屋支店時代にT社に助けられ、メーカーや サービス業などのコンペで大きな実績を残した 経験がある。
北関東支店へ異動になってから はT社のような協力会社が見つからないと嘆い ていた。
 
埃劼里茲Δ磨擇い箸海蹐房蠅届く対応と、 ワンストップで納品、回収、リサイクル、廃棄 まで請け負ってくれる会社はなかなかないとい う。
あっても割高であり、それを避けるには動 脈・静脈物流を細分化して、別々の会社に委 託しなければならないため管理負荷が大きいと のことであった。
 
埃劼牢愿貎塀个謀たり初年度からの黒字 化を目指していた。
そのためには、現地で新 規営業をかけるだけでなく、既存荷主からの 売り上げも担保しておきたいところだ。
そこ で名古屋から関東へ転勤した先の倉庫会社所 長や大手物流会社の名古屋支店から関東のキ ーマンを紹介してもらって事前セールスをかけ た。
さらにはT社の関東支社の事務所も、現 状で売上構成比が最も高い大手物流会社の自 社ビルにテナントとして入居することにした。
 「?東海地区における新サービスの開発」は 他地域の同業他社の取り組みを参考にするこ とができた。
 一つはリユースである。
静脈物流では回収か らリサイクル仕分けの従来工程で廃棄に回る商 JULY 2012  74 材と、中古品として輸出される商材がある。
こ のうち後者の中古品に関してT社はノータッチ であった。
そこで、中古品の個人情報を抹消 し簡単な修理を施すことでリユース品に復活さ せるサービスと、輸出業者向けのコンテナバン ニングサービスを開始した。
 また精密機械は納品後に据え付け・設置作 業が発生する。
これが荷主のエンジニアにとっ ては大きな負担となっていた。
据え付け・設置 作業をアウトソーシングできれば、荷主はエン ジニアを本来の業務であるソフトのセッティン グに集中させることができる。
 調べたところ、据え付け・設置はそれほど 難易度の高い作業ではなかった。
作業員の習熟 度によって作業品質に大きな差が生じることも ないと分かった。
そこで研修を実施してT社の ドライバーを教育し、納品だけでなく、据え付 け・設置作業まで、荷主のエンジニアに代わっ て請け負うことにした。
 新サービスの開発では、トップのアイデアや トレンドを重視するあまり、その会社にとって 必然性のないサービスに手を出してしまうケー スをよく見かけるが、上手くいくことは少ない。
T社のように既存業務の?前工程?と?後工 程?に着目して課金できるサービスを追求する スタイルのほうが成功の確率は高い。
徹底してサービス品質にこだわる  「?輸・配送品質の更なる向上」は、一〇〇 万分の一レベル(PPMレベル)の事故率を目 標に据えた。
製品事故、車両事故とも、従来 からT 社は少 なかったが、高 価かつ人の命に も関わる医療 関連や精密機 械などを積み荷 として取り扱う ことが多いこと から、社長夫 婦にとっては妥 協できないテー マであった。
 実態を調べ てみたところ自 社便での製品 事故・車両事 故はここ数年 間一件も発生 していなかった。
すべての事故は傭車先で発生 していた。
通常、高付加価値製品の荷主は再 委託を原則禁止しているが、繁忙期や災害時 など突発的な事象によって運行が困難と判断し た場合には申請ベースで傭車を承認することが あった。
そのことがT社のサービス品質の足を 引っ張っていた。
 我々は三カ月に一回の頻度で定期的に輸送品 質会議を行うことした。
実は過去にもT社は同 様の会議を開催したことがあった。
しかし、協 力会社に対する抑止力およびガバナンスは働か ず、成果を見ないまま中止になっていた。
 そこで今回は主催者として荷主であるメーカ ーL社の名前を借り、元請けの大手物流会社 とT社が会議を共同運営するかたちをとった。
傭車先へのアナウンスや案内文でも出席の重要 性を強調し、過去に行った会議とは意味合い が大きく異なることを訴えた。
 実際、会議の議題も、開催目的、作業工程 別事故発生状況、原因と対策、製品知識再確 認のためのT社センター視察、?良い例・悪い 例?を画像で表した作業手順の紹介、ルールの 再確認、協力会社各社からのコメント、メーカ ーL社からの要望事項、質疑応答と盛りだく さんである。
 第一回会議は対象となった傭車先六社中、依 頼頻度が最も少ない一社だけが欠席したが、残 りの各社は真剣にメモを取り、質問を行ってい た。
もっとも、問題はこの会議の内容を各社 がいかに末端のドライバーに伝え、徹底できる かである。
 そこで二回目以降の会議では会社別の事故 率を開示し、ランキング付けを行うことを伝え、 下位企業については見直しの可能性が出てく ることを示唆した。
この第一回会議を開催し た一カ月後の事故件数には残念ながら大きな変 化は見られなかった。
しかし、二カ月目から、 数値は大幅に減少したのであった。
 
埃劼汎瑛佑紡燭の荷主、物流会社が輸送 品質会議を開催しているが、具体的な成果に は結びついていないケースが少なくない。
T社 の場合は会議終了後も事故事例を定期的に送 付するなどして情報を各社と共有し、事故を未 然に防ぐように訴え続けたことが奏功した。
場 図1 分析表 原 因 惹起場所 件数(件) 割合(%) 荷捌き中積み付け不良その他 発送店運行店配達店運行店配達店配達完了後合計 22 14.4 34 22.4 42 27.6 23 15.2 14 9.2 17 11.2 152 100.0 荷 姿件数(件) 割合(%)ケース(個)割合(%) その他 ●● ※14ケース中●●、●●計●● ●● ●● 合計 12 132 8 152 7.9 86.8 5.3 100.0 14 237 10 261 5.4 90.8 3.8 100.0 75  JULY 2012 当たり的に品質を問題にするのではなく、常に ?うるさい会社?として認知されるようになっ たのである。
「納品カルテ」を活用  「?既存荷主に対するコミュニケーションの 強化」では、T社が営業責任者を設置してい ないこともあり、T社の配車担当者と元請け の配車担当者との?面通し?を実施した。
日 頃から仕事の依頼を受けているといっても、電 話かFAXによるものであるため、相手の声 を聞いたことはあるが名刺交換はしたこともな い、顔さえ知らないという状態であった。
 ただし、配車担当者は現場を離れることの できる時間が限られているため、土曜日と閑 散日を活用するしかない。
そこで向こう三カ月 のスケジュール表を作成し、そ れに基づいて訪問一カ月前まで に先方のアポイントメントを取 ることをルールにして、訪問先 を埋めていった。
 「?提案営業スキルの習得と ツールの整備」では、直荷主 とやり取りを行うことが少ない ため、営業管理ツールに重点を 置いた。
「納品カルテ」の作成、 「荷主別物流フロー」の作成な どである。
 このうち「納品カルテ」とは、 ドライバー変更時にも対応レベ ルを低下させないために、納品 条件要項をまとめたものであ る。
回収や据え付けなどの付帯 サービスを武器にするT社にと っては、とりわけ重要なツール になる。
 また「荷主別物流フロー」と は、図の中心に荷主を置き、そ の前後の調達物流や拠点間輸 送(横持ち)などのフローを整理したものであ る。
これを荷主別に作成することで、T社が 現在請け負っている仕事以外に、どれだけの 物流が発生しているのかが浮き彫りになる。
そ こからT社が対応できる業務を見つけ出し、元 請け会社の背中を押すかたちで荷主に共同提案 するのである。
 こうしてT社の売り上げを、一八億円から 四〇億円弱まで引き上げる道筋がついた。
残 りの十数億円は走りながら考えていくことにな る。
それを牽引する社長夫妻の経営能力には 不安はない。
課題は現状の三倍ものビジネスを 運営できるだけの組織作りである。
 人材の育成と中途採用の強化はもちろんのこ と、サービス品質の維持・向上を継続可能なプ ログラムに落とし込まなければならない。
元々 実力のある会社であり、それに見合った高い目 標を掲げているだけに、コンサルタントとして支 援も長丁場になると著者は肝に銘じている。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代 表に就任。
現在に至る。
主な著書に『経営 のテコ入れは物流改善から』(明日香出版社)、 『物流のしくみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE 図2 物流事故報告書 ?受付内容(受付者記入) ?処置と今後の対策担 当 確 認 発生日 納入先 品   名 事故種別 処理担当者 内   容 年 月 日( ) 時 分頃 天候( ) 破損・汚損・誤配送・納入遅れ・誤出荷・納入クレーム・荷役・その他(   ) 損害金額       円 営業部(   )販売支援室・受渡管理室・その他(   ) 出荷場所 受付担当者 個   数 ※?については、受付当日、即時提出して下さい。
※?については、処理終了後速やかに再度提出して下さい。
また、写真がある場合には、添付して下さい。
処   置月 日 月 日 月 日 破損品処理 費用負担 経理処理 所見・今後 の対策 受付工場購買営業名古屋支店・・・ ●●●● ○○○○運送

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