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2012年8月号
特集

第2部 「日々紹介」とどう向き合うか ロジラテジー 栃本 浩昭 コンサルタント

AUGUST 2012  20 物流現場の“脱法ドラッグ”  今年十月の改正労働者派遣法の施行によって、 物流現場では「日雇い派遣」が事実上使えなくな る。
それに変わって「日々紹介」という新しいサ ービスが登場している。
日々紹介は「必要なとき に、必要なだけ」の労働力を確保できる点で、従 来の日雇い派遣と同じニーズを満たす。
 ただし、誤解を招かぬよう最初に伝えておかな ければならないことがある。
結論から述べると、 日々紹介を日雇い派遣からの“バラ色”の代替手 段と勘違いしてはならない。
むしろ日々紹介は多 くの課題を抱えており、関係者の間でもその賛否 は大きく分かれている。
 筆者は日々紹介を、残り二カ月に迫った改正派 遣法に対応するために、直接雇用化の準備ができ ていない物流現場がやむを得ず利用する“脱法ド ラッグ”のようなものだととらえている。
 実際、今回の法改正を一過性のイベントと割り 切って、日々紹介のような場当たり的な対応で急 場をしのごうとする物流現場がある一方で、物流 の原点に立ち返り、“人”に根差した真の現場力を 希求する企業もある。
前者と後者の間には、そう 遠くない将来、歴然たる差が生じるだろう。
 本来、人の問題、レイバーマネジメントは、現場 力の裏付けとなる物流管理の“胆”であるはずだ。
それを是とするならば、法改正への正しい対応策 は現場の「完全自社運営」である。
直接雇用のパ ート・アルバイトを管理し、その日の物量に合わせ て適切な人数を現場に投入する仕組みを自ら構築・ 運用するのである。
 しかし、そのハードルは高く、実現への道のり は遠い。
 原因の一つは、常用固定勤務を主とした既存の 雇用形態にある。
短期労働の主な担い手となって いる労働者層は「日払い」もしくは「週払い」で の給与受取を希望する。
常用雇用が前提の場合、 支払サイクルを短くして給与を払う仕組みがない。
 また、直接雇用化によって現場作業員に対する 給与の支払いサイトは、日雇い派遣を使っていた時 よりも短縮することになる。
財務基盤が弱く、金 融機関からの追加融資が難しい中小零細の物流現 場は、キャッシュフローを圧迫されてしまう。
 二つ目の問題点は、業務波動に応じてシフト調 整を行う機能そのものを欠いていることだ。
その 現場が日雇い派遣に依存し、物流業の本領たるレ イバーマネジメントを放棄してきたことを示すもの だが、これを短期間で改善するのは極めて困難だ。
 そうした物流現場にとって、日々紹介はいわば “必要悪”だ。
日々紹介を利用することで、人材会 社の提案内容によっては、コンプライアンスの問題 は残るものの、日雇い派遣を利用するのと同様の 現場運用が可能になる。
 従って“場当たり的”ではあるが“現実的”な 対応策として、日雇い派遣を日々紹介にキチンと切 り替えることが、当面の取るべき施策となる。
二 ヵ月あれば、その準備を整えることができる。
 そこで日々紹介への対応方法を「STEP1」 として、続く「STEP2」で事実上の常用雇用 となっている労働者を自社雇用に切り替えること を主軸とした「直接雇用切替」を進める。
そして 最終段階の「STEP3」で全労働者を自社管理 する「完全自社運営」を目指す、というアプロー チを筆者は推奨している(図1)。
(とちもと・ひろあき)  1992年、早稲田大学教育学部卒業。
日 産火災海上保険株式会社(現損保ジャパ ン)入社。
その後、ベンチャー系人材派遣 会社の立ち上げから上場までを経験し、現 在に至る。
物流現場の労働者プロフェッ ショナルの第一人者として、約300カ所の 物流現場の労務相談を受ける。
派遣法改正 問題、現場労働力活用をテーマに、定期的 にセミナーを開催中(※詳細は「ロジラテ ジー(http://logirategy.co.jp)」で検索)。
2 「日々紹介」とどう向き合うか  日雇い派遣の禁止を受けて「日々紹介」と呼ばれる サービスが登場している。
これまで通り、必要な時に必 要な数の作業員を電話一本で調達することができる。
2 カ月もあればサービスを利用する準備は整う。
直接雇用 化へのはじめの一歩だ。
ただし、その“副作用”に注 意する必要がある。
ロジラテジー 栃本 浩昭 コンサルタント 21  AUGUST 2012 物流現場のコンプライアンス 特 集 日雇い派遣禁止  以降、各STEPのポイントを述べていきたい。
「日々紹介」にキチンと切り替える  日々紹介とは、正確には短期の有料職業紹介事 業のことを指す。
日々の物量の波動に対応して労 働力を供給するサービスである点では、従来、物流 現場で多用されてきた日雇い派遣と同じだが、そ の仕組みや元になる免許(「派遣業」と「紹介業」) は別ものである。
さらには、サービスを利用する 企業側の雇用主責任やコンプライアンスリスクも大 きく異なる。
 ポイントを掻い摘んで説明しよう。
日雇い派遣の 雇用主はあくまで派遣会社である。
「人材手配(募 集・採用)」、「就業管理」、「給与支払」まで、労 働者の雇用管理の全てを派遣会社が行う。
ゆえに、 労働者を受け入れる物流現場側では、雇用管理を 考える必要がない。
 これに対して、日々紹介は、スタッフを受け入 れる物流現場側が雇用主となる。
つまり、労働者 の雇用管理を自分で行う必要がある。
労働者一人 一人と一日単位で労働契約を締結し、就業管理を 行い、給与支払いを行わなければならない。
 日雇い派遣を日々紹介に切り替えることで、物 流現場の雇用管理の負荷は著しく上昇することに なる。
後述するように、この“負荷”を肩代わり するサービスも登場している。
完全に違法とまでは 言い切れないが、法律の隙を突いたグレーなサービ スであり、利用には注意が必要だ。
 実は日々紹介という事業の妥当性に対する行政 の評価自体が、現時点では定まっていない。
改正 派遣法を前に、監督官庁の厚生労働省は日雇い派 遣から日々紹介への切り替えを推奨している。
とこ ろが、厚労省の出先機関である労働局は、監督・ 運用面から事業の建て付けに否定的な本音を吐露 する向きもある。
 さらにはブルーカラーの労務管理領域の専門家や 識者もこぞって日々紹介の意義を懐疑的にみてい る。
その問題点をここで整理しておきたい。
 サービスの利用者から見たときの日々紹介の問題 点は第一に労働生産性の低下である。
日々紹介で 働く労働者は「日払い」だから働く層である。
教 育やスキルアップの機会を持たず、作業品質やモラ ールの点では多くを期待することができない。
日 雇い派遣と同様に、日々紹介に過度に依存すれば 現場力は低下していくことになる。
 コスト面でも負担が大きい。
これまでの日雇い 派遣と比較すると、日々紹介会社が手にするマー ジンは、その役割が減る分だけ薄くはなる。
筆者 の試算では、派遣費用に占めるマージン率は現状の 約二五%から約一五%程度、時給換算で約一五〇 〜二〇〇円程度に圧縮される。
 しかし、ユーザー側ではマージンの差額以上に間 接的な人件費、労務管理の負荷が発生する。
コス トアップに加え、雇用の当事者として労働トラブル やクレーマー対応、ユニオン対策などの雇用リスク やコンプライアンスリスクにも配慮する必要がある。
 一方、労働者の側に立つならば、不安定性は日 雇い派遣よりも日々紹介のほうが増す。
毎日違う 現場に送られるという点では日々紹介も日雇い派 遣も同じだが、雇用主が同一である日雇い派遣の 場合、一定条件を満たせば社会保険加入・有休取 得は可能である。
 一方、雇用主が都度変わる日々紹介の場合、一 定条件を満たさず、雇用主に社会保険加入・有給 休暇付与の義務が発生しないケースが多いためだ。
なおかつ日々紹介は給与受取が複雑になる。
紹介 先の企業ごとに給料受け取り口座を準備する必要 性が生じる恐れがある。
 さらには、労働規制の強化は、就労の機会自体 の減少を招きかねない。
その結果、社会保険加入 率のいっそうの低下や、生活保護者の増加を懸念 する声もある。
日々紹介を利用する上での注意書 きとして知っておいて欲しい。
図1 直接雇用化の3STEP 現 状 STEP1 STEP2 STEP3 日雇い派遣 日々紹介 直接雇用切替 完全自社運営 業務波動は外部労働力対応常用派遣→直雇バイト切替業務波動を自社労働力対応 期 限2012年10月1日? ? 目 的日雇い派遣禁止対策外注費の削減現場収益の向上 課 題給与支払インフラ整備 雇用管理負荷の軽減 転籍ノウハウ 募集採用ノウハウ 雇用制度見直し シフト制・登録型運用 「日雇い派遣」 →「 完全自社運営」には、高いハードルがある 現場労働力活用について、会社全体として取り組みが求められる! AUGUST 2012  22 ポイントは「給与支払」と「雇用管理」  以下に日々紹介の具体的な導入手順を示す。
そのポ イントは「給与支払」と「雇用管理」である(図2)。
【日々紹介の導入手順】 1.給与支払インフラ整備(約1ヶ月)  1)?給与日払い・週払い?制度の検討  ※給与月払いのみで「日々紹介」受入は困難  2)自社対応 or 外部サービス活用の検討(給与 仮払い手続代行サービス)  3)社内部門間調整(現場部門、財務経理部門) 2.人材会社との連携(約2週間)  1)人材会社の選定(サービス内容、コンプライ アンス対応、費用)  2)雇用管理サポート範囲の調整(労働条件通 知書発行、勤怠管理、給与計算)  3)運用フロー確立(人材会社、給与代行会社、 現場部門、経理部門) 3.運用準備(約2週間)  1)社内勉強会の実施(日々紹介制度概要、運 用フロー、業務上の留意点等)  2)テスト運用(モデル現場)  3)問題点抽出、改善策検討・実行 4.本格運用開始  日雇い派遣において派遣会社がスポット労働力 を確保できていたのは、“給与日払い”制度の存在 が大きかった。
とある大手派遣会社の調査による と、スポット派遣労働者のうち、「週一回以上」給 与を受け取っている労働者は約七六%に上る。
そ の内訳は就業毎の「日払い」が約四五%で、「週一 〜二回」が約三六%である。
 こうした「日払い」「週払い」に対するニーズは 日々紹介においても変わらない。
人材を受け入れ る物流現場側が、正規雇用の社員と同じ「月払い」 のままでは、右から左に労働者を送り込むことは 困難となる。
ゆえに、日々紹介への切り替えでは、 給与支払制度が重要なポイントとなる。
 原則として、日々紹介を利用する物流現場は労 働者に直接給与を支払う必要がある。
一部には雇 用者に代わって給与の立て替え払いを行う人材会社 も見受けられるが、労働基準法第二四条には「給 与直接払いの原則」が謳われており、法的に認め られた行為とはいえない。
改正法の施行を前にし て、労働局は日々紹介に付随する形で、人材会社 が不正な給与の立て替え払いを行わないか、厳し く監督指導する方針だとも言われている。
 とはいえ、給与支払い制度の変更は一朝一夕に はいかない。
その実施には本社の財務経理と現場 サイドとの連携が必要であり、小規模ながらもビジ ネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)を 迫られることになる。
 本件に関連して筆者はこれまで約三〇〇カ所の 物流現場を廻ってきた。
その経験から、日払い、 もしくは週払いを、法令を順守する形で即座に実 行できる現場は限りなくゼロに近いことを知ってい る。
引越しやイベントなど、日払い手渡しが長年 の慣習として根付いている業界しか対応できない といっても過言ではない。
 従って、給与支払のインフラを即座に用意しよう とすれば、給与計算などを通じユーザーの直接払い をサポートする「給与仮払い業務代行サービス」の ような外部の専門サービスの活用が現実的となる。
 次に、「雇用管理サポート」について述べる。
厄 介なことに日々紹介を提供する人材会社によって、 雇用管理サービスの対象範囲は異なっている。
単 に、労働者を右から左に流すだけの会社もあれば、 雇用管理サポート(労務管理代行)として、「労働 条件通知書発行」、「勤怠管理」、「給与計算」など の一部もしくは全部を手掛ける会社もある。
 前者を利用する場合には、受け入れ側で膨大な 雇用管理(労務管理)業務が発生する。
後者は前 述の通り、雇用管理サポートの対象範囲に「給与 支払い代行」が含まれていると実質的な労働者の 「支配」にあたると見なされ、脱法行為だと指摘す る専門家もいる。
 この点は、今のところ労働局の摘発事例が無い だけに、判断の厄介な不透明な問題として残って いる。
現時点においては、最寄りの労働局に相談 して利用する予定のサービスの順法性を確認するほ かない。
「直接雇用切替」に着手する  日々紹介で働く労働者は、優秀な人材から常用 雇用に切り替わっていく。
受け入れ先に引き抜か れていくのである。
そのため、日々紹介で働く人 材の質は、時間の経過と共に低下していくことに なる。
それに伴い、日々紹介に依存する割合の大 きな現場の生産性も低下を免れない。
筆者が日々 紹介を暫定的な手段と位置付けている理由の一つ である。
 現場力が負のスパイラルに陥ることを避けるに は、日々紹介を利用して法改正に対応すると同時 に、「直接雇用切替」に着手すべきだ。
先行して対 応を進めている企業の多くは、日雇い派遣や日々 物流現場のコンプライアンス 特 集 日雇い派遣禁止 23  AUGUST 2012 紹介の労働者の中から自社の現場に馴染む労働者 を選び、直接雇用に切り替えるかたちで内製化に 動いている。
 ただし、「常用労働力」と「波動労働力」のう ち、先に内製化に着手すべきは常用労働力である。
波動労働力の内製化は、会社全体の雇用制度の抜 本的な見直しが必要となり、ハードルが高いため、 STEP3の「完全自社運営」のフェーズで着手 することを推奨したい。
 常用労働力の内製化は、比較的容易で、かつそ の効果が大きい。
効果とはもちろんコスト削減であ る。
先行して取り組む一例を紹介したい。
ある首 都圏の物流センターでは、荷役人件費の約九〇% を占めていた人材派遣を直接雇用(パート・アルバ イトの自社化)に切替えた。
派遣に依存していた 常用労働者を自社に転籍したことで、荷役人件費 が約二四%減り、収益率が十一・五%増加した。
 コストが下がった理由は三つある。
一つは、「自 社アルバイト」と「派遣費用」の時給の違いだ。
派 遣会社のマージン分が無くなるため、それだけで約 八%のコスト削減効果がある。
しかも、この削減幅 は、派遣会社が未加入だった社会保険・有給休暇・ 交通費等の法定福利費を吸収した上での数字であ る。
法定福利費を除くと削減効果は二〇%近い。
 二つ目は、「労働生産性の向上」だ。
直接雇用 により、労働者のモチベーションと現場への帰属意 識が高まった。
その結果として、定着化が高まり、 労働生産性が約二二%向上した。
 三つ目は、初期教育の業務負荷低減だ。
定着化 は、新人労働者が減ることを意味する。
つまり、 現場社員が初期教育に費やす時間が大幅に削減さ れ、本来の業務である現場運営管理に専念できる ようになった。
 ちなみに、ここに出てくる労働者の「定着率」 と社員の「初期教育業務負荷」の二つは、物流現 場管理において見落とされがちだが、普遍的な価 値を持ったKPIであることを指摘しておきたい。
法改正が物流現場に問いかけるもの  この事例が労働力の内製化に成功した背景には、 もともと同社に労働者を大切にする風土や文化が あったことも大きい。
そのため労働者は派遣会社 で明日が見えないまま働き続けることを止めて、同 じ現場で働き続けられる安心感を選択したのであ る。
つまり“選ばれる”のは、労働者だけでなく、 物流現場(企業)も同じなのだ。
 また、派遣社員を自社で直接雇用するには、当 然ながら派遣労働者に対する勧誘・説得と、派遣 会社との折衝が必要になってくる。
円滑な転籍は 直接雇用切替における最大の関門といえる。
 派遣会社によっては、不当な紹介マージンを請 求してきたり、現場のボイコットを示唆するなど、 強硬姿勢をとることも少なくはない。
そのことが 壁になって直接雇用に舵を切ることのできない物 流現場を筆者は数多く目にしてきた。
 しかし、最大のポイントとなるのは、やはり労 働者との関係性だ。
「労働者の横のつながり」に着 目する必要がある。
どの現場にもリーダー格の労働 者がいる。
まずは、そのリーダー格と腹を割って話 し、転籍の声をかける順番のアドバイスをもらった り、根回しを依頼するのである。
かなり属人的な スキルになるが、ここを蔑ろにしてはならない。
 しかし、派遣会社への電話一本で波動に対応し てきた労務管理者や担当社員は、そうした能力を欠 いていることが多い。
その場合には、製造現場など で台頭し始めている「業務管理代行サービス」を活 用し、そのパートナー会社にいる専門家に交渉に同 席してもらったり、あるいはノウハウや知識がある 派遣会社の社員をスタッフとして受け入れるなどし て、「完全自社運営」を目指していくことになる。
 これまで「物流と人」に拘り続けてきた筆者は、 今回の派遣法の改正を、物流現場が今一度、「物流 の原点は“人”である」ことを再認識する良い機 会だと考えている。
労働者と真摯に向きあい、労 働者に選ばれる現場を目指すべきである。
不景気 が続く今は、市場に流出した優秀な労働者を採用 できるまたとない好機である。
「物流とは何か?」、 「現場力とは何か?」という物流の原点に改めて回 帰されることを期待したい。
図2 日々紹介 導入スケジュール例 給与日払い・ 週払い制度の検討 自社対応or 外部サービス検討 社内部門間調整 人材会社の選定 社内勉強会の実施 テスト運用 問題点抽出、 改善策検討・実行 雇用管理サポート 範囲の調整 運用フロー確立 給与インフラの整備 人材会社との連携 運用準備 本格運用開始 1month 2month 3month

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