2012年8月号
特集
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第5部 レイバーマネジメントで差別化する 「登録アルバイト制度」で日雇い脱却──アール・ケイ・トラック
AUGUST 2012 30
人材派遣会社の機能を内製化
アール・ケイ・トラック(RK)は「無印」ブラ
ンドを展開する良品計画の物流子会社だ。
基盤とす る新潟エリアでは約二万坪の倉庫を活用し、無印商 品の調達や店舗供給、ネット通販対応などを行って いる。
新潟エリアで扱う荷物は、良品計画全体の物 量のほぼ半分を占める。
このほか、一部外販荷主 からの仕事も受注している。
同社は二〇一〇年四月に「登録アルバイト制度」 と呼ぶ独自の直接雇用体制を確立した。
短期での就 業希望者の登録をあらかじめ募り、仕事を都度発注 する仕組みだ。
契約期間は週単位が基本で、就業 日初日に契約書を締結する。
時給は一律八〇〇円。
給料は働いた翌週の金曜日に支払う。
現在、二〇〇人以上が同制度に登録している。
そ れとは別に、決まった曜日や時間帯で働く「レギュ ラースタッフ」が約三〇〇人在籍している。
レギュ ラースタッフだけでは捌ききれない物量が発生した 時に、登録アルバイトへの応援を仰ぐ。
RKの柴嶺哲社長は「繁忙期にはほぼ全員に声 をかけることもあるし、逆に閑散期には全く依頼し ないこともある。
業務波動に合わせて人員調整で きるのが登録アルバイト制度の特徴。
登録スタッフ にしても自分の都合が良い時だけ働けばいいので、 双方にとって魅力がある」と説明する。
登録アルバイト 制度を始める以前 は、波動調整は一 〇〇%日雇い派遣 に依存していた。
R Kの取り扱う商材 はアパレル関連がメインで、週波動やシーズン波動が 極めて大きい。
店舗別の仕分け業務を例にとると、 多い日は二〇万ボール(※ケースを一定個数梱包し た包装単位)の取り扱いがあるのに対し、少ない日 は三万ボールという高低差だ。
そのため、電話一本でスタッフを動員してくれる 日雇い派遣は、同社のオペレーションにとって欠か せない存在だった。
当時は六社もの人材派遣会社と 付き合いがあり、繁忙期には一日一〇〇人以上の 派遣スタッフを受け入れていた。
転機が訪れたのは〇九年。
派遣法の改正議論が 一気に高まり、日雇い派遣の禁止が現実味を帯びて きた。
当時はまだ法案の行方には不透明な部分もあ ったが、日雇い派遣が使えなくなる可能性があると いう事実は、RKにとって看過できないリスクだっ た。
さらに切実な問題もあった。
一〇年末から一一年 末にかけて、親会社向けの主要センターや外販顧客 向けセンターが、順次、派遣の抵触日を迎えること になっていた。
仮に改正法案が実らなかったとして も、抵触日問題は避けようがない。
何の手も打たないまま派遣が使えなくなれば、現 場はパンクする。
それを避けるためにレギュラーの スタッフを波動の上限に合わせて現場に投入すれ ば、経営が傾くほどのコスト増を強いられる。
日 雇い派遣に代わる波動調整体制を早急に整備する 必要があった。
人材派遣会社に意見を求めたところ、一様に現場 の請負化を提案された。
しかし、柴嶺社長は納得 できなかった。
コンプライアンス面での懸念に加え、 作業ラインがブラックボックス化して、全体の意思 疎通が図れなくなってしまう恐れがあったからだ。
「登録アルバイト制度」で日雇い脱却 ──アール・ケイ・トラック 派遣法改正議論の高まりや抵触日問題を受けて、日雇い 派遣からの脱却を決断。
人材派遣会社のビジネスにヒント を得て、独自の直接雇用体制を築いた。
派遣スタッフはピー ク時の半分にまで減少。
人件費は下がり、生産性は向上した。
法改正までの残り2 カ月で、派遣ゼロ体制を整える。
(石鍋 圭) RKトラックの 柴嶺哲社長 5 レイバーマネジメントで差別化する 物流現場のコンプライアンス 特 集 日雇い派遣禁止 31 AUGUST 2012 派遣会社や関係者との議論を重ねていくうちに、 ある発想が柴嶺社長の脳裏に浮かんだ。
「派遣会社 がやっていることを自分でやればいい。
派遣会社で はなくRKに登録しておいてもらい、働ける時にだ け来てもらう。
もちろん業務を依頼するときは直接 雇用契約を結ぶ。
そういったスタッフが一定数集ま れば、波動に対応できるはずだ」と考えた。
問題は人を集められるかどうかだった。
従業員の 家族や知人、元パート社員など七〇人ほどにアンケ ートを実施し、反応を探った。
結果は柴嶺社長の予 想を上回った。
回答者の大半は好意的な反応を示 し、なかには、「こんな制度があるなら私も利用し たい」という声も多く、実際に三〇人ほどが登録を 申請してきた。
これを受けて、登録アルバイト制度 の導入を決断した。
本格運用までに、RKは大きく四つのステップを 踏んでいる。
第一ステップとして、外部専門家によ る調査・診断を受けた。
弁護士や社会保険労務士 に相談して「登録アルバイト制度」にコンプライア ンス上の問題が無いことを確認した。
その上で、懸 念される労務上の課題点を抽出し、解決の方向性 までを含めて議論を深めた。
第二ステップではロードマップを策定した。
キッ クオフミーティングから本格運用後のフォローまで の全行程を三つのフェーズに区切り、緻密にスケジ ュールを組んだ。
続く第三ステップで社内にプロジェクトチームを 結成。
管理部を中心とする全社横断的な組織を発 足させて、月次の定例会を実施。
登録アルバイト制 度の基本的な運営方針などを詰めた。
そして最後のステップとして、プロジェクトのP DCAサイクル化を推し進めた。
ボトルネックを継 続的に抽出し、迅速に改善策を実行できる体制を整 えた。
主婦層をメインターゲットとした独自の募集 ルートの開発や、スタッフ管理システムの機能強化 などもこの段階で実施した。
こうして一〇年四月に、登録アルバイト制度はス タートを切った。
事前の募集戦略や「無印」ブラン ドなどが奏功し、登録者は想定以上のペースで増え 続けた。
それと比例するように、RKの日雇い派遣 への依存度は徐々に低下していった。
繁忙期には以 前と変わらず一〇〇人規模のスポット人員が必要に なるが、現在ではその半分を自社採用の登録アルバ イトで対応できるようになっている。
「改正派遣法が施行される今年一〇月までには、 派遣スタッフがゼロになっても波動に対応できる体 制を確立する。
現在の登録スタッフは約二〇〇人だ が、これが四〇〇〜五〇〇人程度になれば可能にな る。
残り二カ月だが、十分間に合う見通しだ」と柴 嶺社長は自信をみせる。
庫内作業の生産性が大幅に向上 登録アルバイト制度の効果は、派遣依存からの脱 却だけに留まらなかった。
まず人件費が減少した。
派遣スタッフと自社採用の登録アルバイトの単価に は大きな開きがあるためだ。
庫内作業の生産性にも大きな影響が出た。
派遣の 場合はRKの現場が初めてというスタッフも多く、 作業に慣れたベテランスタッフが一定時間つき切り で指導する必要がある。
作業効率の低い派遣スタッ フのために、効率の高いベテランスタッフの時間が 取られてしまう。
しかも、その派遣スタッフが次回 も来るという保障はどこにもない。
初回の指導が必要という点では登録スタッフも同 じだが、リピート率が派遣とは全く違う。
二回、三 回と同じ現場に入るうちに熟練度は上がり、時間を 要せずレギュラースタッフと同等の生産性を発揮で きるようになる。
実際、自社パートとスポット派遣 の生産性を比較すると、自社パートの方がピッキン グ作業で二五%、梱包作業で六〇%も上回ってい るという。
RKが登録アルバイト制度の導入を比較的スムー ズに進めることができたのは、親会社のブランド力 に加え、従来からの管理方針によるところが大き い。
それまでも同社は質の高い現場作りを志向し、 レギュラースタッフは必ず自社雇用してきた。
その ため数百人規模の募集や労務管理という業務に慣れ ていた。
給与の支払いについては従来の月払いとは 別に週払い体制を用意する必要があったが、最大で 一〇〇人規模なので、そう大きな負担にはならな かったという。
柴嶺社長は「物流業の基本はどこまでいっても 『人』。
スタッフが働きやすい環境を徹底的に追求す ることが、結果として生産性の向上に繋がる。
すべ てのスタッフを直接雇用化することで、その環境を さらに実現しやすくなる」と判断している。
現場には見学希望が絶えない 大半の女性パートがフォークリフトを 操縦できる
基盤とす る新潟エリアでは約二万坪の倉庫を活用し、無印商 品の調達や店舗供給、ネット通販対応などを行って いる。
新潟エリアで扱う荷物は、良品計画全体の物 量のほぼ半分を占める。
このほか、一部外販荷主 からの仕事も受注している。
同社は二〇一〇年四月に「登録アルバイト制度」 と呼ぶ独自の直接雇用体制を確立した。
短期での就 業希望者の登録をあらかじめ募り、仕事を都度発注 する仕組みだ。
契約期間は週単位が基本で、就業 日初日に契約書を締結する。
時給は一律八〇〇円。
給料は働いた翌週の金曜日に支払う。
現在、二〇〇人以上が同制度に登録している。
そ れとは別に、決まった曜日や時間帯で働く「レギュ ラースタッフ」が約三〇〇人在籍している。
レギュ ラースタッフだけでは捌ききれない物量が発生した 時に、登録アルバイトへの応援を仰ぐ。
RKの柴嶺哲社長は「繁忙期にはほぼ全員に声 をかけることもあるし、逆に閑散期には全く依頼し ないこともある。
業務波動に合わせて人員調整で きるのが登録アルバイト制度の特徴。
登録スタッフ にしても自分の都合が良い時だけ働けばいいので、 双方にとって魅力がある」と説明する。
登録アルバイト 制度を始める以前 は、波動調整は一 〇〇%日雇い派遣 に依存していた。
R Kの取り扱う商材 はアパレル関連がメインで、週波動やシーズン波動が 極めて大きい。
店舗別の仕分け業務を例にとると、 多い日は二〇万ボール(※ケースを一定個数梱包し た包装単位)の取り扱いがあるのに対し、少ない日 は三万ボールという高低差だ。
そのため、電話一本でスタッフを動員してくれる 日雇い派遣は、同社のオペレーションにとって欠か せない存在だった。
当時は六社もの人材派遣会社と 付き合いがあり、繁忙期には一日一〇〇人以上の 派遣スタッフを受け入れていた。
転機が訪れたのは〇九年。
派遣法の改正議論が 一気に高まり、日雇い派遣の禁止が現実味を帯びて きた。
当時はまだ法案の行方には不透明な部分もあ ったが、日雇い派遣が使えなくなる可能性があると いう事実は、RKにとって看過できないリスクだっ た。
さらに切実な問題もあった。
一〇年末から一一年 末にかけて、親会社向けの主要センターや外販顧客 向けセンターが、順次、派遣の抵触日を迎えること になっていた。
仮に改正法案が実らなかったとして も、抵触日問題は避けようがない。
何の手も打たないまま派遣が使えなくなれば、現 場はパンクする。
それを避けるためにレギュラーの スタッフを波動の上限に合わせて現場に投入すれ ば、経営が傾くほどのコスト増を強いられる。
日 雇い派遣に代わる波動調整体制を早急に整備する 必要があった。
人材派遣会社に意見を求めたところ、一様に現場 の請負化を提案された。
しかし、柴嶺社長は納得 できなかった。
コンプライアンス面での懸念に加え、 作業ラインがブラックボックス化して、全体の意思 疎通が図れなくなってしまう恐れがあったからだ。
「登録アルバイト制度」で日雇い脱却 ──アール・ケイ・トラック 派遣法改正議論の高まりや抵触日問題を受けて、日雇い 派遣からの脱却を決断。
人材派遣会社のビジネスにヒント を得て、独自の直接雇用体制を築いた。
派遣スタッフはピー ク時の半分にまで減少。
人件費は下がり、生産性は向上した。
法改正までの残り2 カ月で、派遣ゼロ体制を整える。
(石鍋 圭) RKトラックの 柴嶺哲社長 5 レイバーマネジメントで差別化する 物流現場のコンプライアンス 特 集 日雇い派遣禁止 31 AUGUST 2012 派遣会社や関係者との議論を重ねていくうちに、 ある発想が柴嶺社長の脳裏に浮かんだ。
「派遣会社 がやっていることを自分でやればいい。
派遣会社で はなくRKに登録しておいてもらい、働ける時にだ け来てもらう。
もちろん業務を依頼するときは直接 雇用契約を結ぶ。
そういったスタッフが一定数集ま れば、波動に対応できるはずだ」と考えた。
問題は人を集められるかどうかだった。
従業員の 家族や知人、元パート社員など七〇人ほどにアンケ ートを実施し、反応を探った。
結果は柴嶺社長の予 想を上回った。
回答者の大半は好意的な反応を示 し、なかには、「こんな制度があるなら私も利用し たい」という声も多く、実際に三〇人ほどが登録を 申請してきた。
これを受けて、登録アルバイト制度 の導入を決断した。
本格運用までに、RKは大きく四つのステップを 踏んでいる。
第一ステップとして、外部専門家によ る調査・診断を受けた。
弁護士や社会保険労務士 に相談して「登録アルバイト制度」にコンプライア ンス上の問題が無いことを確認した。
その上で、懸 念される労務上の課題点を抽出し、解決の方向性 までを含めて議論を深めた。
第二ステップではロードマップを策定した。
キッ クオフミーティングから本格運用後のフォローまで の全行程を三つのフェーズに区切り、緻密にスケジ ュールを組んだ。
続く第三ステップで社内にプロジェクトチームを 結成。
管理部を中心とする全社横断的な組織を発 足させて、月次の定例会を実施。
登録アルバイト制 度の基本的な運営方針などを詰めた。
そして最後のステップとして、プロジェクトのP DCAサイクル化を推し進めた。
ボトルネックを継 続的に抽出し、迅速に改善策を実行できる体制を整 えた。
主婦層をメインターゲットとした独自の募集 ルートの開発や、スタッフ管理システムの機能強化 などもこの段階で実施した。
こうして一〇年四月に、登録アルバイト制度はス タートを切った。
事前の募集戦略や「無印」ブラン ドなどが奏功し、登録者は想定以上のペースで増え 続けた。
それと比例するように、RKの日雇い派遣 への依存度は徐々に低下していった。
繁忙期には以 前と変わらず一〇〇人規模のスポット人員が必要に なるが、現在ではその半分を自社採用の登録アルバ イトで対応できるようになっている。
「改正派遣法が施行される今年一〇月までには、 派遣スタッフがゼロになっても波動に対応できる体 制を確立する。
現在の登録スタッフは約二〇〇人だ が、これが四〇〇〜五〇〇人程度になれば可能にな る。
残り二カ月だが、十分間に合う見通しだ」と柴 嶺社長は自信をみせる。
庫内作業の生産性が大幅に向上 登録アルバイト制度の効果は、派遣依存からの脱 却だけに留まらなかった。
まず人件費が減少した。
派遣スタッフと自社採用の登録アルバイトの単価に は大きな開きがあるためだ。
庫内作業の生産性にも大きな影響が出た。
派遣の 場合はRKの現場が初めてというスタッフも多く、 作業に慣れたベテランスタッフが一定時間つき切り で指導する必要がある。
作業効率の低い派遣スタッ フのために、効率の高いベテランスタッフの時間が 取られてしまう。
しかも、その派遣スタッフが次回 も来るという保障はどこにもない。
初回の指導が必要という点では登録スタッフも同 じだが、リピート率が派遣とは全く違う。
二回、三 回と同じ現場に入るうちに熟練度は上がり、時間を 要せずレギュラースタッフと同等の生産性を発揮で きるようになる。
実際、自社パートとスポット派遣 の生産性を比較すると、自社パートの方がピッキン グ作業で二五%、梱包作業で六〇%も上回ってい るという。
RKが登録アルバイト制度の導入を比較的スムー ズに進めることができたのは、親会社のブランド力 に加え、従来からの管理方針によるところが大き い。
それまでも同社は質の高い現場作りを志向し、 レギュラースタッフは必ず自社雇用してきた。
その ため数百人規模の募集や労務管理という業務に慣れ ていた。
給与の支払いについては従来の月払いとは 別に週払い体制を用意する必要があったが、最大で 一〇〇人規模なので、そう大きな負担にはならな かったという。
柴嶺社長は「物流業の基本はどこまでいっても 『人』。
スタッフが働きやすい環境を徹底的に追求す ることが、結果として生産性の向上に繋がる。
すべ てのスタッフを直接雇用化することで、その環境を さらに実現しやすくなる」と判断している。
現場には見学希望が絶えない 大半の女性パートがフォークリフトを 操縦できる
