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2012年8月号
グローバル物流市場の実像

第2回 Part 2 欧米市場の発展と日本

AUGUST 2012  70 Part 2 欧米市場の発展と日本  9・ 11 事件以降、国際輸送を巡る環境は大 きく変化した。
アメリカの主導によって貿易の セキュリティ強化が進められた。
これは過去半 世紀にわたる運輸行政の世界的な方向性と逆行 するものであった。
 従来、欧米諸国では「輸送は公共サービスに つき差別化は排除すべし」との思想に基づき、 物流分野の新規参入や運賃設定が厳しく規制さ れていた。
業者間の過当競争による影響を避け るため、運賃などのカルテル行為も容認されて きた。
 しかし、今や環境は一変し、競争原理の導入 による直接的な経済効果が求められるようにな っている。
それはグローバル市場におけるロジ スティクスの効率化とサプライチェーンの最適 化であり、端的に言えば、リードタイムの短縮 によるコスト削減だ。
 実際、FTAの活発化に見られるように、貿 易の自由化による経済効果への要求は日増しに 大きくなっている。
そのために、輸出入貨物の セキュリティ確保と貿易の円滑化を両立させる ことが当面の大きな課題となっているのである。
 本稿では一九七〇年代後半から実施されたア メリカの経済規制廃止と九〇年代初頭のEU 統合で、当時の欧米市場がどのように発展した か、そして日本の市場はどのように変化したか、 その軌跡を辿ってみる。
アメリカ市場 ──インテグレーターと3PLが誕生  一九七七年の「航空貨物規制緩和法」に始 まるアメリカの航空輸送分野における規制廃止 の動きは、長年にわたり「運行権」と「公定 タリフ(運賃表)」によって保護されてきた業 界に驚くべき変革をもたらした。
 ?トラック会社は航空会社を所有できない? などとする、輸送モード間の所有権規制が解除 され、新たなビジネスモデルが続々と誕生した。
トラックと貨物航空の連結によるドア・ツウ・ ドアの輸送サービス──インテグレーテッド・キ ャリアはその一つである。
 シカゴの事務所で午後四時にピックアップさ れた書類が翌朝十時までにニューヨークの弁護 士事務所に届くといった、従来の常識では信じ られないスピードを誇るサービスが「ハブ&ス ポーク」のネットワークによって実現した。
 このようなアメリカという広大な単一市場を ベースとするエクスプレスビジネスの誕生を主 導したのは、フレデリック・スミス率いるフェ デックスと、当時一個五〇ポンド以下の小口貨 物の輸送を全米で専属的に取扱っていたUPS であった。
 さらには、行政が民間のニーズを予見し、競 争原理を導入する方向へ政策のかじを切ったこ とを背景に、輸送や倉庫運営の効率化を手がけ る3PL(サード・パーティ・ロジスティクス) が登場した。
 当初、3PLの担い手として名乗りをあげた のはトラック会社を斡旋する輸送ブローカーた ちであった。
しかし、その多くは期待された水 準のサービスを提供できず淘汰された。
 彼等に変わって、ライダーやペンスキーなど のトラックリース会社、フリッツやAEIなど のフォワーダー、付加価値倉庫サービスを提供  運輸業の規制緩和と自由化はインテグレーターや 3PLなどの新業態を生み、物流業の発展をもたらした。
アメリカでは輸送キャリア、ヨーロッパではフォワーダ ーがその主役となった。
果敢なM&Aを実施すること で彼等はそのスコープをグローバルに拡大させた。
グローバル物流市場の実像 〜新たな可能性の探求に向けて〜 平田義章 国際ロジスティクスアドバイザー 第2 回 71  AUGUST 2012 するキャリバーやメンロー、そしてアメリカ市 場へ進出してきたイギリスのエクセルなどがシ ェアを握ることになった。
 3PLのソリューションは国際輸送を含む輸 送の効率化と付加価値倉庫サービスに大別され る。
そのうち、前者に軸足を置く業者の比率が 高いのがアメリカの3PL市場の特徴だ。
 その後、アメリカの国内フレイトフォワーダ ーはトラックとの競争に敗れ、混載業務から撤 退した。
国際フォワーディングは輸出のフォワ ーディング、輸入通関が業務の主体となり、N VOCCはフォワーディング業務に関与しない 専属NVO市場へ積極的に進出している。
ま た、多くのフォワーダーがUPSやフェデック ス、ドイツポストなどに買収されたことに注目 したい。
EU市場 ──伝統的フォワーダーがシェア拡大  ヨーロッパでは一九九三年のEU発足以降、 共通運輸政策の下で物流業の規制緩和が段階 的に進められた。
とりわけ、加盟国内の輸送 業務はその国の輸送業者のみが取り扱えるとす るカボタージュ規制の撤廃によって、市場の自 由化が大きく進んだ。
 その機を確実にとらえたのが、経営コンサル タント出身のクラウス・ツムヴィンケル率いるド イツポストだった。
同社は欧米のフォワーダー やエクスプレス、さらにロジスティクス企業を積 極果敢に買収し、コアビジネスの郵便以外の新 分野へ参入を果たした。
 一方、キューネ+ナーゲルなど伝統的な大陸 のフォワーダーは、域内各国間の通関手続きが 不要となって収入が大きく減少するという逆境 に直面したが、域内輸送とロジスティクスの効 率化にかかわる新たなビジネスの開発に取り組 み、逆にシェアを拡大した。
 市場統合でコントラクト・ロジスティクス(3 PL)のビジネス展開にも新たな可能性が創出 された。
イギリスのエクセルなどの専業企業が 域内市場を含め、グローバルな事業展開に踏み 出した。
 EUは現在も関税法改正など、域内ロジステ ィクスの効率化に向けて現実的な施策を打ち出 している。
また、鉄道などEU域内を結ぶ輸送 インフラの整備も進められている。
フォワーダ ーはさらなるシェアの拡大が期待できる。
 EUにおける現場オペレーションは、域内の 自由化が進んでいるとはいえ、言葉や労務管理 などの点から実際には加盟国単位にならざるを 得ない。
そのためアメリカで鉄道や航空機、ト ラックなどの輸送キャリアが市場の中心的プレ ーヤーとなっているのとは対照的に、EUでは 今後もフォワーダーの機能が不可欠となる。
グローバル市場 ──国境を超えたM&Aが活発化  輸送とロジスティクス市場のグローバル化が 急速に進むなか、ドイツポストやUPS、フェ デックスなどの主要企業を中心に、迅速なシェ ア拡大の手法として、M&A(企業買収)が一 つの潮流となった。
自力での規模拡大は時間が かかるため、時代の流れに合わず、商機を逸す るとの危機感が根底にある。
ドイツポスト  物流業界における大型M&Aの先鞭をつけた のがドイツポストだ。
エクスプレス部門はDH Lとエアボーン、フォワーディング部門はスイス のダンザス、スウェーデンのASGとアメリカ のAEI、そしてロジスティクス部門はイギリ スのエクセルと、各分野の主要企業を続々と傘 下に収めていった(表1)。
エクセルに至って は、買収額が五六億ユーロ(約七五八四億円) という超大型買収案件だった。
これらの買収に は、コアビジネスの郵便事業を補完するのでは なく、他企業買収を通じて各分野に素早く新規 参入し、 No. 1になるとの思惑がある。
UPS  一方、UPSの基盤は小口貨物の陸上輸送 であり、その成長戦略はパッケージビジネスを コアとしたサプライチェーンソリューションの開 発である。
この戦略に基づき、〇一年にアメリ カの輸入通関・フォワーダー業界の最大手フリ ッツを買収し、サプライチェーン市場に参入し た。
ロジスティクスビジネス補完のために融資 銀行ファースト・インターナショナル、LTL (小口)トラック部門強化に向けオーバーナイト をそれぞれ買収。
さらに、以前から取りざたさ れていたTNTエクスプレスとの経営統合に踏 み切った(表2)。
 UPSは買収した企業を、時間をかけて組織 に融合させることを重視しているという。
TN TエクスプレスをどのようにしてUPSの企業 文化に融け込ませるかが当面の課題だ。
AUGUST 2012  72 フェデックス  フェデックスの買収は九八年の米輸送大手キ ャリバーシステムに端を発している。
UPSに 対抗するため、キャリバーの傘下にあった小口 パッケージ会社RPSをフェデックスに組み入れ た。
その後、3PL業界参入に向け、当時同業 界の最先端を行っていたキャリバー・ロジスティ クスを、通関とフォワーディングの分野へ進出す るためにタワー・グループをそれぞれ統合した。
 〇四年には二四億ドル(約二五七四億円)で ビジネスコンビニのキンコーズを買収、貨物の受 け渡し窓口としても機能するビジネスソリューシ ョン部門の自営化に動いた(表3)。
貨物航空 子会社のフェデックス・エクスプレスを軸とした 総合的なサービス体制確立と、利益効果が期待 できるエクスプレス・ネットワークの拡大へ着々 と布石を打っている。
欧米フォワーダー  主要フォワーダーの主だったM&A(表4)を 見ると、同種・同レベルのフォワーダー同士が合 併する例は少ないのが特色だ。
例えば、キュー ネが買収したUSCOとACRはともに倉庫系 3PLであり、キューネはコントラクト・ロジス ティクスの基盤を拡大するため、的を絞り実行 した。
 また、フリッツやサークル・インターナショナ ル、シェンカー、バルトランスなどのように、国 際フォワーダーはむしろ買収される側にある。
買 収者はUPSやドイツ鉄道、フランス鉄道、ト ール・ホールディングスなどの総合物流企業に 加え、TNTロジスティクスを買収したアポロ・ マネジメントなどの投資会社だ。
現在アメリカを 代表する国際フォワーダーといわれるエクスペダ イターズ・インターナショナルは、企業買収によ る規模の拡大は行っていない。
 アメリカの国際フレイトフォワーダーは国内輸 送には関与せず、3PLは国内ビジネスが主体 だ。
国際輸送市場ではインテグレーターである UPS、フェデックスの二大巨人のシェアが強 大である。
 一方、ヨーロッパのフォワーダーのサービスは 基本的にEU域内の輸送サービスを含む。
アメ リカの州際輸送がヨーロッパでは国際輸送に相 当する。
市場統合に伴い、在庫・配送業務のニ ーズが増加し、エクセルなどのイギリス系ロジス ティクス企業がシェアを増やしていった。
ヨーロ ッパではフォワーディング、ロジスティクスと域 内輸送のサービスは分離されておらず、特にメ ガフォワーダーはこの三つのサービスを総合的に 取り扱っている。
表1 ドイツポストの主要M&A 表2 UPSの主要M&A 表3 フェデックスの主要M&A 買収企業国籍買収年買収価格業種 (単位:100 万ユーロ) (単位:100 万USドル) (単位:100 万USドル) ダンザス DHL ASG AEI エアボーン・エクスプレス エクセル スイス バミューダ スウェーデン アメリカ アメリカ イギリス 1998 1998/2002 1999 1999 2003 2005 1,300 2,440 374 1,197 1,050 5,600 国際フォワーダー インテグレーター/エクスプレス 国際フォワーダー 航空国際フォワーダー キャリア/フォワーダー コントラクト・ロジスティクス 出所:ドイツポストおよびトランスポート・インテリジェンス社資料より作成 出所:UPSおよびアームストロング&アソシエイツ社資料より作成 出所:フェデックスおよびアームストロング&アソシエイツ社資料より作成 フリッツ・カンパニーズ ファースト・インタ−ナショナル・ バンコープ メンロー・フォワーディング オーバーナイト・コーポレーション TNT エクスプレス アメリカ アメリカ アメリカ アメリカ オランダ 2001 2001 2004 2005 2012 450 78 現金150+ 負債引受110 1,250 6,770 通関・フォワーダー 融資銀行 フォワーダー/キャリア (旧エメリー) LTLキャリア インテグレーター キャリバー・システム タワー・グループ アメリカン・フレイトウェイズ キンコーズ アメリカ アメリカ アメリカ アメリカ 1998 2000 2001 2004 キャリバー株1対 フェデックス株8 140 1,200 2,400 小口貨物 RPS、キャリバー ・ロジスティクスを含む 通関、フォワーダー LTL トラック ビジネスソリューション 買収企業国籍買収年買収価格業種 買収企業国籍買収年買収価格業種 73  AUGUST 2012 日系フォワーダー  わが国のフォワーダーは一九六〇年代から欧 米そしてアジアに進出を始め、日系荷主の海外 事業拡大とともに成長してきた。
ロシア鉄道を 利用するシベリア経由の複合輸送(SLB)で も実績をあげ、中近東のプラントビジネスにも関 与した。
しかし、バブル崩壊後に荷主企業の一 部が海外市場から撤退し始めると、日系フォワ ーダーの海外ネットワークも縮小に転じた。
 一時は海外の投資会社が日系フォワーダーの 買収を模索していた時期もあった。
しかし、国 際市場の重点はその後、中国を始めとするアジ ア、さらに新興国へと急速にシフトした。
欧米 のメガフォワーダー、ロジスティクス企業ならび にインテグレーターなどが新興国における拠点拡 充や地域フォワーダーの買収を積極的に進めた。
 欧米勢だけでなく、アジア勢でもオーストラリ アの総合物流企業トールグループは、シンガポー ルのセムコープ・ロジスティクスや香港のバルト ランス、そして日本のフットワークエクスプレス などを買収している(表4)。
 わが国のフォワーダーや物流企業も荷主企業 のグローバル化が再び本格化したことで、海外 ネットワークの拡充、アジア地域でのオペレーシ ョンの自営化に取り組んでいる。
しかし、海外 のメジャープレーヤーと比較すると影は薄い。
 本誌二〇一二年三月号に掲載された「世界の トップ 25 フレイトフォワーダー」では日本通運が 十一位、郵船ロジスティクスが十三位、近鉄エク スプレスが一五位、山九が二五位にそれぞれラ ンクされている。
海外アナリストからは、これ ひらた・よしあき 1956年大阪外国語大 学卒業、日本通運国際輸送事業部長、米国 日通副社長などを経て独立。
在米十六年、 現在、JIFFA(国際フレイトフォワーダーズ 協会)「国際複合輸送士資格認定講座」講師、 日本機械輸出組合国際電子商取引円滑化委 員会アドバイザーなど。
著書に「21世紀の 国際物流」(文真堂・共著)、その他国際輸 送とロジスティクス関連論文、研究報告書多 数。
日本貿易学会、日本港湾経済学会会員。
PROFILE 表4 主要フォワーダーのM&A (単位:100万USドル) 買収企業国名被買収企業国名買収年買収額 EGL キューネ+ナーゲル ドイツ鉄道 PWCロジスティクス キューネ+ナーゲル ドィツ鉄道 トール・ホールディングス アポロ・マネジメント ジオディス アポロ・マネジメント トール・ホールディングス SNCF(フランス鉄道) トール・ホールディングス 米国日本通運 アメリカ スイス ドイツ クウェート スイス ドイツ オーストラリア アメリカ フランス アメリカ オーストラリア フランス オーストラリア アメリカ アメリカ アメリカ ドイツ アメリカ イギリス アメリカ シンガポール アメリカ オランダ アメリカ ホンコン フランス 日本 アメリカ 2000 2001 2002 2005 2005 2006 2006 2006 2006 2007 2008 2008 2009 2012 543 300 3,225 454 588 1,210 765 1,884 606 2,200 306 1,735 95Aドル* − サークル・インターナショナル USCO シェンカー(スティネス) ジオ・ロジスティクス ACRロジスティクス BAXグローバル セムコープ・ロジスティクス TNTロジスティクス TNTフレイト・マネジメント EGL バルトランス ジオディス フットワークエクスプレス アソシエイテッド・グローバル ・システム(AGS) EGLは国内航空フォワーダー USCOは倉庫3PL ドイツ国鉄の子会社であったことから再買収 PWCロジスティクスはアジリィティに改名 ACRは英大手コントラクト・ロジスティクス 航空フォワーダーBAXをシェンカーに統合 トールは総合物流企業で企業買収が活発 アポロは投資会社、TNTロジはCEVAに改名 ジオディスはフランスの大手フォワーダー EGLをCEVAに統合 バルトランスはホンコンのフォワーダー フランス鉄道によるジオディスの買収 日本市場への参入 AGSは中堅ロジスティクス企業 出所:アーム注:*95 100万オーストラリアドル(約70億円) ストロング&アソシエイツ社 および各社資料より作成 らの有力フォワーダーに対して、より積極的なグ ローバル市場への参入を期待する声が出ている。
 日本の国内市場が縮小していくなか、日系フ ォワーダーが成長する道は、さらなる海外ネッ トワークの拡充と新たなサービスの開発以外には ない。
M&Aによる現地体制の強化はその有効 な手段となるはずだが、これまでのところ必ず しも機能していない。
 ただし、変化の兆しはある。
現在、アメリカ では特定の地域で専門的な能力を提供する中小 3PLが大手3PLや投資家にとって絶好の買 収目標となっている。
その一つ、ニューヨーク の中堅3PLアソシエイテッド・グローバル・シ ステムを、先頃、米国日通が一〇〇%子会社化 した。
この先の動きを注目したい。
注 ⑴ Revenues and Profitability by 3PL Segment – 2011, Armstrong Associates.総売上では国内 輸送四一三億ドル、専属契約輸送一一一億ドル、国 際輸送四六一億ドル、付加価値倉庫三四〇億ドル。
⑵ David Biederman, Mergers' Logistics Complexity, The Journal of Commerce, April 30, 2012.

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