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2012年8月号
SOLE

アセットマネジメントと保全革新プラントビジネスの新たな展開

83  AUGUST 2012  工業プラントはサプライチェーンの 欠くべからざる要素であると共に、そ の建設、運用、保全は高度なロジス ティクスに支えられるものである。
本 稿ではプラントビジネスの概要と特徴 について、日本企業の今後のビジネ ス展開に重点を置いて解説する。
(プラントアルファ代表 菅伸介) システムとしてのプラント  ここでいうプラントとは、主として 素材産業における製造設備、電力・ 石油・燃料ガスなどを生産加工する エネルギー設備、排水・廃棄物など を処理する環境設備などのことであ る。
大型の機械装置や電気装置が高 度に集約されたシステムであり、建設 された後は二〇年から五〇年程度に わたって継続的に運用される。
 プラントは複雑な要素が密に結合さ れている大規模設備なので、完成後 に当初の目的以外への転用や改造を 行う余地は小さく、プロジェクトの当 初よりライフサイクル全体を見渡した 構想と計画が求められる。
 昨今の工場見学ブームによって一 部の注目が集まっているとは言え、プ ラントはあくまで社会と経済を支え る「縁の下の力持ち」である。
しか し、事故などでプラントが停止した際 は、火災や有害物質の漏洩による直 接的な被害もさることながら、サプ ライチェーンを経由して思わぬ業界に 資材不足などの影響を与えることが 往々にしてある。
失われてはじめて 重要性が世に知られることの多い設 備といえる。
 世界的に見るとプラント建設ビジネ スは現在、活況を呈している。
グロ ーバルな経済発展に伴って新興国や資 源国における新規プラント建設の案件 は目白押しの状態にある。
なかでも 石油、天然ガスなどの資源開発と資 源加工設備への投資が活発だ。
 このような案件は、従来は先進工 業国での立地が多かったが、昨今は資 源生産地近くへのシフトが顕著である。
また新興国、特に都市部においては 経済発展にともなって社会インフラの 整備についての強いニーズが生じ、そ れが活発な投資を呼び込んでいる。
 日本を含む先進国では新規プラント への投資が減少しているものの、既 存のプラント設備の膨大な蓄積があ る。
これらを維持管理し、設備ごと のニーズや状態に基づいて更新、延命、 改造、廃却などを適切に行っていく ことは重要な課題であり、これもま た経済的な規模の大きい活動である。
プラントエンジニアリング会社の ビジネスモデル  プラントの設計建設においては、 基本設計、機械、電気、配管、土木 建築、計測制御システムなどの各分 野が、設計から工事に至るまでの各 段階において緊密なすりあわせを行 い、全体の品質、コスト、スケジュ ールを最適化する高度なプロジェクト マネジメントが求められる。
そのよう なサービスを提供する会社は「プラン トエンジニアリング会社」と呼ばれる。
 大規模なプラントの設計建設を 効率よく行うための契約形態とし て「EPC契約」がある。
EPC はEngineering, Procurement and Constructionの頭文字による呼称で、 その名の通り設計、調達、建設の活 動を一体として契約する方法である。
 この形態を取ることによって、発 注者は相互に密接な関連性を持つ業 務の総合調整をプラントエンジニアリ ング会社に委ねて建設プロジェクトを 効率よく遂行することができる。
「新 設プラントの引き渡しを受けてキーを 回せばすぐに運転を開始できる」と いう含意で「ターンキー契約」という 用語もあるが、これもEPC契約と おおむね同義であると考えて良い。
 プラントのEPC契約は、その金 額が数百億円から数千億円に上るこ とも珍しくない大規模なものであるが、 その契約額の決め方については大き く分けて二種類の考え方がある。
一 つは契約時点で金額を決定する「ラ ンプサム契約」であり、もう一つは実 際に発生したコストに連動させて発注 元の支払額を決める「コストレインバ ース契約」(コストプラスフィー契約と も言う)である。
 ランプサム契約は当初から投資額が 確定することが発注者に好まれるこ とが多いが、これはプロジェクト開始 後のコスト変動のリスクを受注側が負 うことを意味する。
そのため、ランプ サム契約で業務を行う場合、プラント エンジニアリング会社にはとりわけ慎 重なリスクマネジメントが求められる。
 このEPCランプサム契約によるプ ラント建設は日本のエンジニアリング 会社の「お家芸」ともいうべきもの SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics アセットマネジメントと保全革新 プラントビジネスの新たな展開 AUGUST 2012  84 の頭文字を取ってO&Mと記す)の段 階は、プラントライフサイクルの中で 期間的に最も長くビジネスとして取り 組む場合の業務ボリュームが期待でき ること、EPC契約ビジネスで培っ てきた技術力が生かせること、O& Mへの関与で得られる技術やノウハウ をEPCビジネスにも生かして行ける ことなどの理由から業界での注目が 高まっている。
 従来はEPC案件の受注戦略の一 環として、あるいは付帯的サービスと してO&Mに取り組む色合いが強かっ たが、近年は独立したビジネスの領域 としてO&Mを捉える認識が広がって きている。
 O&M領域でのサービスを展開する にあたって一つのコアとなる技術分 野に「Maintenance and Reliability」 (以下M&R)がある。
これは、所定 の作業をこなすことに主眼が置かれて きた「保全(Maintenance)」を、設 備の「信頼性(Reliability)」の維持 と向上を実現するための積極的な取 り組みとして捉え直そうという思想で ある。
そのために重要な技術的手法 をいくつか挙げる。
■■RAM解析  RAMとはReliability, Availability & Maintainability Analysisのことで、 プラントシステムについて可用性や保  「系統的かつ協調の取れた活動と実 践によって、資産および資産からなる システム、それに関わるパフォーマン ス、リスク、組織の戦略計画を達成 するための資産ライフサイクル全体で の支出を、組織が最適かつ持続可能 な方法で管理すること」(筆者訳)  ここに述べられているように「ラ イフサイクル全体」に注目すること が重要である。
設備のライフサイクル は、例えば「JIS C5750─3─ 3(ライフサイクルコスティング)」に よれば以下の段階からなる。
●構想および定義 ●設計および開発 ●製造 ●据付け ●運用および保全 ●廃棄  この中でEPCビジネスモデルが カバーするのは、「設計および開発」 (Engineering)、「製造」(Procurement)、 「据付け」(Construction)の三段階で ある。
プラントエンジニアリング会社 がアセットマネジメントの立場から事 業の再構築を図るとすれば、残され た各段階に目を向けることは当然で ある。
 その中でも特に「運用および保全」 (以下、Operation and Maintenance であり、日本企業の国際市場におけ る地位を築く基礎となったビジネスモ デルであると言って良い。
 ちなみにランプサム契約においては 「契約に書いていないことはタダでは やらない」ことがビジネス上重要であ る。
これは「余計な」ことをやるコ ストはそのまま受注者の損失になるか らである。
これを実現するためには 強力な契約管理と交渉能力が求めら れる。
このような能力を身につける のは大変なことであるが、海外での プラントビジネスで成功するための必 須条件と言える。
 かつては高いコスト競争力を誇って いた日本のエンジニアリング会社であ ったが、長年にわたる円高傾向によ って国際市場におけるコスト競争を制 するのは難しくなってきた。
その一方 で、実力と実績を身に付けつつある 新興国のエンジニアリング会社がロー コストを武器に国際市場での存在感 を増しており、日本企業は厳しい競 争環境にさらされている。
 先進国のエンジニアリング会社はい ずれもグローバルオペレーションによ るコストダウンを志向しており、資材 調達や工事において高品質と低コスト を兼ね備えた業者を世界中から探す のみならず、設計作業のうち特にマ ンパワーを要する詳細設計などの部分 については本国外の低コストリソース の起用を進めている。
 このような、たゆまぬ努力によっ て現在でも競争力と利益確保を両立 させているのが日本のプラントエンジ ニアリング会社の現状である。
 プラント市場のコストダウン傾向は、 プラントエンジニアリングの「コモデ ィティ化」の表れといって良い。
その ような市場での消耗戦を避けるため に新たな市場を開拓する取り組みが日 本企業によって進められている。
具 体的には以下の通りである。
●新興企業には参入が困難な先端 的テクノロジーの追究 ●従来取り組んできたプラントと は異なる新市場の開拓 ●長年にわたる実績に裏付けられ た信頼性に基づく顧客とのパー トナーシップの強化 ●EPCの枠を越える業務の開拓 「運用および保全」への注目高まる  プラントなどの人工物の管理につい て考察する場合、アセットマネジメン トの考え方を基礎におくことが最近で は一般的となっている。
アセットマネ ジメントの標準的なフレームワークと されている 英国規格協会(BSI) の「PAS─ 55 」ではアセットマネジ メントを次のように定義している。
85  AUGUST 2012 全性を含むトータルの信頼性を信頼性 工学の手法によって解析するものであ る。
■■リスクアセスメント  個別のリスク要因を同定し、その 発生確率と影響を評価してリスクの大 きさを体系的に評価する方法である。
リスクの種別に応じた各種の手法が開 発されている。
■■リスクマネジメント  リスクアセスメントに基づいて、個 別のリスクへの対応方針を決定し、 設備の運用を通じたリスク管理を行っ ていくための手法である。
■■RCM (Reliability Centered Maintenance)  信頼性維持を基軸においた保全方 法の決定手法である。
経験的に決定 されることの多かった保全作業の方針 や実施頻度について、故障リスク評 価に基づいた合理的根拠のある決定 を行うものである。
■■RBI (Risk Based Inspection )  構造物、とりわけ耐圧部の健全性 を維持するための点検について、リ スク評価と実測データに基づいて合理 的根拠のある点検の内容とタイミング を決定するものである。
■■EAM (Enterprise Asset Management)  設備管理業務のための統合的業務 管理システムのことであり、プラント 設備運用におけるM&R管理の基盤 となる情報システムである。
■■信頼性データ管理システム  設備信頼性に関わる情報と統合管 理する情報システムである。
 EPC業務においても、この種の M&Rスタディや関連システム構築が 付帯的役務として求められることが 増える傾向にあり、プラントの固有技 術とM&R関連技術の両方に通じた 技術者を育成していくことが課題と なっている。
 そして既設プラントの信頼性を維持 管理していくという、プラントの新規 建設に勝るとも劣らない重要性を持つ 業務においてはM&R技術は基軸的 な役割を果たす。
アセットマネジメントの時代  アセットマネジメントへの注目が高 まっているのはもちろんプラント業界 だけではない。
例えば日本の総務省に よる勧告「社会資本の維持管理および 更新に関する行政評価・監視」(二〇 一二年二月)〈↓http://www.soumu. go.jp/menu_news/s-news/54058. html〉は、港湾施設、空港施設、上 下水道施設、河川管理施設などにつ いて、老朽化と財政的な制約という 条件の下で長期的な維持管理や更新 をいかに実施するかという問題意識 に基づくものである。
 具体的には、台帳の整備が不十分 であること、定期点検の実施が不十 分であること、長寿命化計画等の策 定およびそれによる効果の把握・検 証が不十分となっていることが課題 として挙げられている。
これらの領 域は、まさにM&R技術を生かした 取り組みが求められるアセットマネジ メントの課題である。
 このような社会的、経済的な要求 は「建設からアセットマネジメントへ の転換」ということに集約できる。
こ れには二重の意味がある、すなわち、 一、既存設備の維持管理、更新、延 命、改造、廃却などが、新規建 設以上に大きな課題となっている 二、設備の新規建設においても、ラ イフサイクル全体のパフォーマン スとコストの最適化を志向しなけ ればならない  このような事情を背景にPAS─ 55 をベースとしてアセットマネジメン トのISO規格化の動きが進んでい る。
マネジメントシステム規格の導入 は、ISO9000/14000シ リーズの導入経験などから、とにかく 面倒に捉えられがちであるが、ライ フサイクル全体を見渡したアセットマ ネジメントは、往々にして新規建設に ばかり目が向きがちなエンジニアリン グ会社と建設会社に対して注目点の 転換を迫るものでもある。
規格化の 動きを、アセットマネジメントへの取 り組みを強化していくための契機と して捉えていきたいと考える。
※ S O L E(The International Society of Logistics: 国際ロジスティクス学会) は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・三〇〇 〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎月 「フォーラム」を開催し、講演、研究発表、現 場見学などを通じてロジスティクス・マネジメ ントに関する活発な意見交換、議論を行って いる。
次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは8月8日(水)、 東京・霞ヶ関の商工会館で、「DAG 米国防衛省調達ガイド」と「グロー バルチェーン再構築」をテーマとし た講演を予定している。
同フォーラ ムは会員制で年間計画に基づいて運 営しているが、単月のみの参加も可 能。
1回の参加費は6000円。
ご希 望の方は事務局(s-sogabe@mbb. nifty.ne.jp)までお問い合わせを。
執筆者プロフィール 菅伸介(すが・しんすけ) SOLE日本 支部会員。
国内エンジニアリング会社にてプ ラントの設計・プロジェクト業務などに携わ った後、米国系コンサルティング会社を経て、 二〇〇五年八月にプラントアルファを設立。
同社取締役社長としてプラントのライフサイ クル全般にわたるコンサルティング、技術サ ービスを提供している。

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