2012年10月号
判断学

第125回 第3次産業革命へ!

奥村宏 経済評論家 OCTOBER 2012  74       資本主義の危機とその診断  第二次大戦後の世界経済は戦後復興期を終えたあと、一九 五〇年代から六〇年代にかけて黄金時代を迎えたが、一九七 〇年代から危機に陥った。
 一九七〇年代の二度にわたる石油危機でそれが明確になっ たのだが、それ以後も一時的に回復したあと、さらに危機が 深刻化していった。
 そういうなかで日本経済は石油危機を乗り切ったところか ら、?ジャパン・アズ・ナンバーワン?と言われた。
やがて一 九八〇年代にはバブル経済となり、それが九〇年代に崩壊し たあと、二〇年以上も長期低迷し、?失われた二〇年?と言 われるようになった。
 アメリカ経済もITバブルが崩壊したあと金融危機に陥り、 二〇〇八年から?リーマン・ショック?にあえいでいる。
 そしてヨーロッパはいまユーロ危機に見舞われており、E U諸国は不況に陥っている。
 なぜこんなことになったのか?  「資本主義が行き詰まったのだ」という向きもあるが、で はこれからどうなるのかということになると、さっぱり見通 しがたたない。
こういうなかで経済学者はさまざまな見通し を述べているが、しかしいずれもあまり説得力がない。
 もしケインズが生きていたら、どのような見通しをたてた であろうかと思うが、いまケインズに匹敵するような経済学 者はどこにもいない。
?経済学不信?の声は以前からあった が、それはますます深刻になっている。
 ここで問題になるのは、なぜ世界経済がこんな状態に陥っ たのかということに対する診断である。
それには資本主義の これまでの歩みを歴史的に考察することが必要である。
 ところが、そのような歴史的な考察をする人がいない。
こ れほど困ったことはないと思っていたら、意外なところから そういう人が現れた。
       衝撃的なリフキンの主張  アメリカの文明批評家ジェレミー・リフキンがその人であ る。
彼が書いた『第三次産業革命』という本の日本語訳がイ ンターシフトから出版されたが、それはまさに現代の資本主 義の危機をとらえ、それをどのように突破していくかという 診断を下しており、すばらしい本である。
 偶然の機会からこの本を手にしたのだが、読み出したらや められなくなった。
 リフキンによると、一九世紀の第一次産業革命、二〇世紀 の第二次産業革命に次いで、現在は第三次産業革命への移行 期にある。
その過渡期にアメリカ、ヨーロッパ、そして日本 などの資本主義が危機に陥ったのだという。
 それを具体的に言うと、エネルギー源が石炭や石油などの 化石燃料から再生可能なエネルギーに転換していく過渡期に ある、ということである。
 石炭や石油、あるいは原子力による発展ではなく、各家の 屋根で太陽光発電を行い、自動車はガソリンでなく燃料電池 で走るようにする。
 これはすでにヨーロッパやアメリカではかなり行われてい るが、単にエネルギー源だけでなく、情報伝達もインターネ ットで行う。
 こうして産業構造、流通、さらに金融の構造まで変えてい くのが第三次産業革命であるとリフキンは言う。
 そのためには企業のあり方を根本的に変えていかねばなら ないが、それに対して現存の巨大企業は抵抗するし、政治家 もそれに協力する。
 そこからさまざまな混乱が生じるのだが、現在はまさにそ の混乱の中にある。
 それが世界的な資本主義の危機となって現れている、とい うことである。
このように診断すれば、そこから脱出する道 もひらけてくる。
 現在は第3次産業革命への移行期にある。
アメリカの文明批評家 ジェレミー・リフキンはそう主張する。
それは日本を覆う閉塞感を 吹き飛ばす可能性を秘めている。
第125回 第3次産業革命へ! 75  OCTOBER 2012           抵抗する大企業  東京電力の原発事故は、言うなれば第二次産業革命が起 こした事故である。
原子力というエネルギー源に頼ることで 垂直型、ピラミッド型の電力供給システムを作り上げていた が、それが大事故を起こし、人びとの生存を脅かすことにな った。
 ヨーロッパで再生可能エネルギーへの転換が進んでいるこ とがリフキンの本で詳しく書かれており、アメリカも遅れば せながらそれに追随している。
 ところが日本ではそれがもっとも遅れている。
それを遅ら せているのがほかならぬ電力会社であり、それに協力してい る政府である。
 私は一九八〇年代にカリフォルニアに住んでいたことがあ るが、その頃、近くの家の屋根に太陽光発電の装置がのせら れているのをたくさん見た。
ところが日本ではそれから二〇 年以上たってもそのような家を見ることはほとんどない。
 それというのも電力会社、そして重電メーカー、そして政 府がそのような再生可能エネルギーの普及を阻止してきたか らである。
最近になってやや姿勢を変えているが、それでも 再生可能エネルギーへの依存率は非常に低い。
 リフキンの言うような第三次産業革命が起こるためには、 このような抵抗勢力を排除しなければならないが、それがい かに難しいかということを、今回の東京電力の事故はまざま ざとわれわれに見せつけた。
 しかし、長期的にはリフキンの言うように日本も第三次産 業革命の波にさらわれることは間違いない。
 そうなれば日本の経済だけでなく、社会のあり方も変わる し、人びとの生き方も変わってくる。
そして教育のあり方も 変わってくる。
 そこに希望を見出して、われわれの社会を甦らせる。
 リフキンの本はそういう勇気をわれわれに与えてくれる。
        垂直型から水平型へ!  これまでの第一次産業革命、そして第二次産業革命はすべ て垂直型で、上から指令されて下部はそれに従うというシス テムであった。
 その典型的な例が鉄道だが、上からの指令通りに列車が運 行されなかったら事故が起こる。
そこで鉄道員は遠く離れた 中央の本部から発せられる指令に従わなければならない。
 工場においても同じで、上から指令された通りに工員は働 く。
そうしなければ工場は動かない。
このことは例えば自動 車工場などで典型的にみられるが、ここからフォード・シス テムが生まれた。
 さらにテイラー主義もこのような上からの一方的コントロ ールのシステムに工員が従うために開発されたものである。
 このような垂直型、ピラミッド構造のシステムはまさに第 二次産業革命の柱であったが、それが危機に陥った。
これが 二一世紀の現在の状況である。
 GMはこの第二次産業革命を代表する企業であるが、それ が倒産し、政府の援助によって救済されたということは、ま さにその危機を象徴している。
 これに対し第三次産業革命では垂直型から水平型に移行す る。
指令は上から一方的に下されるのではなく、参加者がお 互いに情報を出し合うという水平型である。
それにはインタ ーネットの役割が大きく、これによって参加者が情報を共有 し、お互いに協力し合うということになる。
 それがもっとも進んでいるのがヨーロッパであり、アメリ カはそれより遅れてはいるが、しかし目下進行中である。
 これに対してもっとも遅れているのが日本である。
リフキ ンは日本についてはあまり触れていないが、この本を読めば 日本がいかに遅れているか、ということがわかる。
 そのことを東京電力の福島第一原子力発電所事故が物語っ ている。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『東電解体 巨大株 式会社の終焉』(東洋経済新報社)。

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