2012年11月号
特集
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第2部 最前線の仕事、やりがい、人事制度 宅配便 支店長 ヤマト運輸ドライバーを「ヒーロー」に育てる
NOVEMBER 2012 28
SDたちの憧れのポジション
「宅急便」のセールスドライバー(SD)にとっ
て、複数のセンターを束ねる支店長は憧れのポジシ
ョンだ。
ヤマト運輸が全国約四〇〇〇拠点に展開 するセンター長が、制服を着てSDとチームリーダ ーを兼務するプレイングマネジャーであるのに対し、 支店長は一国一城の主。
マネジメントに専念する背 広組で、業績に対する責任と共に大きな裁量権を 持つ。
SDとして活躍し、センター長に昇進。
そこで 優れた実績を収め、自ら手を挙げて昇格候補者に なる。
SDのキャリアアップの王道だ。
今年十二月 で入社から丸一七年となる東京・大田支店の越石 潤支店長も、そうやってSDから支店長に上り詰 めた。
越石支店長は大手外食チェーンからの転職組だ。
友達から紹介されたことをきっかけに、充実した 福利厚生などに惹かれて一九九五年に契約社員の SDとしてヤマト運輸に入社した。
しかし、「実は 宅急便がどういう仕事なのか、よく分かっていな かった」と本人は言う。
配属は東京・赤坂のセンターだった。
センターが ある新東京主管支店内には約一八〇〇人のSDが いた。
とりあえず見よう見まねで汗をかいた。
体 力には自信があった。
その結果、ある物販キャンペ ーンでエリアトップの成績を収めた。
そこから徐々 にこの仕事の面白さに気付いていった。
雨の日も風の日も飽くことなく担当エリアを集 配に回る。
売り上げの確保などのプレッシャーもあ る。
それでも「つらいという記憶はない」と言い 切れるほど、仕事に打ち込むことができた。
その 真摯な仕事ぶりが認められて一年後の九六年には 無事正社員となり、二〇〇三年にはセンター長に 昇格した。
センターの顧客は法人がメインで、二〇〇社以上 の荷主を抱えていた。
SDの一人として自ら担当 エリアの集配に回る一方、自分なりに工夫して攻 勢をかけた。
ライバル社を利用していた大手企業 の発送担当者に積極的にサービスを売り込み、要 望に応じて配達時間を早めるなどして信頼を獲得。
宅急便に鞍替えさせた。
「この仕事はコミュニケーションが命だと身体で 学んでいった。
それが面白かった。
宅急便のこと を何も知らなかったからこそ、そう感じることが できたのかもしれない。
仲間や上司にも恵まれた」 と越石氏は振り返る。
センター長として実績を積み上げていくうち、「も う一段上へ行きたい。
もっと自分の力を上のステッ ヤマト運輸 ドライバーを「ヒーロー」に育てる 「宅急便」の主役は最前線で集配に当たる約7万人のセー ルスドライバー( SD)たちだ。
ただし、その組織は複数の センター(営業所)を統括する全国の支店長たちによって 支えられている。
SDとして活躍し、現場リーダーのセンター 長に昇進。
そこで優れた実績を収め、自ら手を挙げて支店 長への切符を手にするのがキャリアアップの王道だ。
宅配便 支店長 東京・大田支店の越石潤支店長 第 2部 最前線の仕事、やりがい、人事制度 29 NOVEMBER 2012 プで試してみたい」と考えるようになった。
思い 切って支店長への登用試験に挑戦した。
一回で見 事パス。
六本木支店で半年間、副支店長として経 験を積んだ後、〇八年に東京・芝支店で初めて支 店長となった。
支店長になると営業戦略立案などの面でセンタ ー長よりも格段に大きな権限を持ち、給与などの 待遇もグッとアップする。
責任は重いが魅力も大き い。
現場のSDたちを「褒めて育てる」のが越石流 だ。
「何かの分野で一位になることで、ドライバー たちをヒーローにし、やる気を感じさせる」ことを 支店長の役割として意識している。
自分がSDの時、キャンペーンの成績でトップに 立ち、上司からほめられたことが仕事を面白いと 感じる一因になった点が、その原体験だ。
SDが活 躍し、支店の業務目標を達成できたときが、支店 長として一番喜び、やりがいを感じる瞬間だ。
同 時に、それが自らの評価にもつながっていく。
支店長としては三カ所目となる現在の東京・大 田支店には昨年十月に着任した。
地域の複数の支 店にアドバイスする役割も兼務することになった。
地域内にある大田を含む六支店、三三センターを まとめる立場だ。
朝は七時前に出勤し、支店が置かれている南蒲 田センターに届いた荷物の仕分け状況の確認、朝 礼、SDの始業点呼をこなした後、前日の営業成 績を確認してセンター内に貼り出したり、自らセー ルスに出かけたりしている。
一日に同センターへ届 く荷物は約四〇〇〇個、同センターからの発送は 約二五〇〇個に上る。
ミスのないよう、仕分けな どの作業をチェックするのも重要な仕事だ。
これまで主に経験してきた法人がメインの地域と 異なり、個人や商店が顧客の中心で環境が大きく 変わった。
配達時間など地域のニーズを細かくくみ 取り、要望に添ったサービスを展開するのはもちろ ん、地元の商店街からの要請を受け、他の社員を 連れて約三〇〇〇人分の餅つきを手伝うなど、地 域社会への貢献活動が各支店やセンターの大切な 役割だ。
「昨年の震災以降は、ヤマトさんはよく頑張って いるとお褒めの言葉をいただくようになった」と いう。
地域住民との結びつきが支店長として励み になっている。
今後は、さらにキャリアアップを目指し、本社課 長や主管支店長の候補者になるための研修にチャ レンジする考えだ。
見事昇格がかなった場合、物 販などのキャンペーンの企画や、社員教育を担当し てみたいと夢を語る。
自ら手を挙げる人のみ昇格候補者に SDは最初、「キャリア」と呼ばれる契約社員と してスタートするのが一般的。
その後、希望者は 登用試験などで選抜され、一〜二年程度で正社員 「マネージ」となる例が多い。
現在はヤマト運輸の人事部門に所属し、自らも SD出身の田邉慎也人材育成課係長は「SDとし て必要な知識などを習熟するには最低半年、どう しても一年ぐらいはかかる。
お中元やお歳暮の時 期を乗り切るぐらいのスキルを身に付けるのが一人 前の条件だ。
非常に努力が必要」と指摘する。
SDら社員共通の評価の仕組みは、対象者の上 司や同僚、部下に対して定期的にアンケートを実施 する「三六〇度多面評価」と、本人が立てた一年 間の目標の達成度合いの二つが柱となっている。
ヤマト運輸の人事の大きな特徴の一つが、自ら 手を挙げて立候補する人のみが昇格の対象になる、 ということだ。
SDがエリアの支店長や、各都道 府県に一〜数カ所置かれている主管支店の課長に なるためには、営業成績や荷物を届ける時間帯の 順守など、仕事の実績を残した上で、業務役職の 候補者と認められることが必要だ。
名乗りを挙げ た希望者は面接などをパスすれば候補者のリストに 加えられる。
リーダーシップやマネジメントなどの 能力が問われることになる。
さらに上の本社課長や主管支店長を目指す場合 も同様に、支店の収支改善などで実績を残した上 で、役員面接などを経て、経営役職の候補者にな ることが必須。
人事総務部の江原美江課長は「候 補者へ名乗りを挙げるよう人に勧めることはあっ ても、最終的には本人の意思次第。
本人が望まな いのに候補になることはない」と、あくまでキャ リアアップを自発的に望み、努力しようとする人材 だけを登用する方針を強調している。
(藤原秀行) 人事戦略 ヤマト運輸の全国の組織図 本社 支社10 主管支店69 (数は非公表) 約4000 拠点 支店 センター(営業所) (各都道府県に1〜複数) 特集 物流のプロになる
ヤマト運輸が全国約四〇〇〇拠点に展開 するセンター長が、制服を着てSDとチームリーダ ーを兼務するプレイングマネジャーであるのに対し、 支店長は一国一城の主。
マネジメントに専念する背 広組で、業績に対する責任と共に大きな裁量権を 持つ。
SDとして活躍し、センター長に昇進。
そこで 優れた実績を収め、自ら手を挙げて昇格候補者に なる。
SDのキャリアアップの王道だ。
今年十二月 で入社から丸一七年となる東京・大田支店の越石 潤支店長も、そうやってSDから支店長に上り詰 めた。
越石支店長は大手外食チェーンからの転職組だ。
友達から紹介されたことをきっかけに、充実した 福利厚生などに惹かれて一九九五年に契約社員の SDとしてヤマト運輸に入社した。
しかし、「実は 宅急便がどういう仕事なのか、よく分かっていな かった」と本人は言う。
配属は東京・赤坂のセンターだった。
センターが ある新東京主管支店内には約一八〇〇人のSDが いた。
とりあえず見よう見まねで汗をかいた。
体 力には自信があった。
その結果、ある物販キャンペ ーンでエリアトップの成績を収めた。
そこから徐々 にこの仕事の面白さに気付いていった。
雨の日も風の日も飽くことなく担当エリアを集 配に回る。
売り上げの確保などのプレッシャーもあ る。
それでも「つらいという記憶はない」と言い 切れるほど、仕事に打ち込むことができた。
その 真摯な仕事ぶりが認められて一年後の九六年には 無事正社員となり、二〇〇三年にはセンター長に 昇格した。
センターの顧客は法人がメインで、二〇〇社以上 の荷主を抱えていた。
SDの一人として自ら担当 エリアの集配に回る一方、自分なりに工夫して攻 勢をかけた。
ライバル社を利用していた大手企業 の発送担当者に積極的にサービスを売り込み、要 望に応じて配達時間を早めるなどして信頼を獲得。
宅急便に鞍替えさせた。
「この仕事はコミュニケーションが命だと身体で 学んでいった。
それが面白かった。
宅急便のこと を何も知らなかったからこそ、そう感じることが できたのかもしれない。
仲間や上司にも恵まれた」 と越石氏は振り返る。
センター長として実績を積み上げていくうち、「も う一段上へ行きたい。
もっと自分の力を上のステッ ヤマト運輸 ドライバーを「ヒーロー」に育てる 「宅急便」の主役は最前線で集配に当たる約7万人のセー ルスドライバー( SD)たちだ。
ただし、その組織は複数の センター(営業所)を統括する全国の支店長たちによって 支えられている。
SDとして活躍し、現場リーダーのセンター 長に昇進。
そこで優れた実績を収め、自ら手を挙げて支店 長への切符を手にするのがキャリアアップの王道だ。
宅配便 支店長 東京・大田支店の越石潤支店長 第 2部 最前線の仕事、やりがい、人事制度 29 NOVEMBER 2012 プで試してみたい」と考えるようになった。
思い 切って支店長への登用試験に挑戦した。
一回で見 事パス。
六本木支店で半年間、副支店長として経 験を積んだ後、〇八年に東京・芝支店で初めて支 店長となった。
支店長になると営業戦略立案などの面でセンタ ー長よりも格段に大きな権限を持ち、給与などの 待遇もグッとアップする。
責任は重いが魅力も大き い。
現場のSDたちを「褒めて育てる」のが越石流 だ。
「何かの分野で一位になることで、ドライバー たちをヒーローにし、やる気を感じさせる」ことを 支店長の役割として意識している。
自分がSDの時、キャンペーンの成績でトップに 立ち、上司からほめられたことが仕事を面白いと 感じる一因になった点が、その原体験だ。
SDが活 躍し、支店の業務目標を達成できたときが、支店 長として一番喜び、やりがいを感じる瞬間だ。
同 時に、それが自らの評価にもつながっていく。
支店長としては三カ所目となる現在の東京・大 田支店には昨年十月に着任した。
地域の複数の支 店にアドバイスする役割も兼務することになった。
地域内にある大田を含む六支店、三三センターを まとめる立場だ。
朝は七時前に出勤し、支店が置かれている南蒲 田センターに届いた荷物の仕分け状況の確認、朝 礼、SDの始業点呼をこなした後、前日の営業成 績を確認してセンター内に貼り出したり、自らセー ルスに出かけたりしている。
一日に同センターへ届 く荷物は約四〇〇〇個、同センターからの発送は 約二五〇〇個に上る。
ミスのないよう、仕分けな どの作業をチェックするのも重要な仕事だ。
これまで主に経験してきた法人がメインの地域と 異なり、個人や商店が顧客の中心で環境が大きく 変わった。
配達時間など地域のニーズを細かくくみ 取り、要望に添ったサービスを展開するのはもちろ ん、地元の商店街からの要請を受け、他の社員を 連れて約三〇〇〇人分の餅つきを手伝うなど、地 域社会への貢献活動が各支店やセンターの大切な 役割だ。
「昨年の震災以降は、ヤマトさんはよく頑張って いるとお褒めの言葉をいただくようになった」と いう。
地域住民との結びつきが支店長として励み になっている。
今後は、さらにキャリアアップを目指し、本社課 長や主管支店長の候補者になるための研修にチャ レンジする考えだ。
見事昇格がかなった場合、物 販などのキャンペーンの企画や、社員教育を担当し てみたいと夢を語る。
自ら手を挙げる人のみ昇格候補者に SDは最初、「キャリア」と呼ばれる契約社員と してスタートするのが一般的。
その後、希望者は 登用試験などで選抜され、一〜二年程度で正社員 「マネージ」となる例が多い。
現在はヤマト運輸の人事部門に所属し、自らも SD出身の田邉慎也人材育成課係長は「SDとし て必要な知識などを習熟するには最低半年、どう しても一年ぐらいはかかる。
お中元やお歳暮の時 期を乗り切るぐらいのスキルを身に付けるのが一人 前の条件だ。
非常に努力が必要」と指摘する。
SDら社員共通の評価の仕組みは、対象者の上 司や同僚、部下に対して定期的にアンケートを実施 する「三六〇度多面評価」と、本人が立てた一年 間の目標の達成度合いの二つが柱となっている。
ヤマト運輸の人事の大きな特徴の一つが、自ら 手を挙げて立候補する人のみが昇格の対象になる、 ということだ。
SDがエリアの支店長や、各都道 府県に一〜数カ所置かれている主管支店の課長に なるためには、営業成績や荷物を届ける時間帯の 順守など、仕事の実績を残した上で、業務役職の 候補者と認められることが必要だ。
名乗りを挙げ た希望者は面接などをパスすれば候補者のリストに 加えられる。
リーダーシップやマネジメントなどの 能力が問われることになる。
さらに上の本社課長や主管支店長を目指す場合 も同様に、支店の収支改善などで実績を残した上 で、役員面接などを経て、経営役職の候補者にな ることが必須。
人事総務部の江原美江課長は「候 補者へ名乗りを挙げるよう人に勧めることはあっ ても、最終的には本人の意思次第。
本人が望まな いのに候補になることはない」と、あくまでキャ リアアップを自発的に望み、努力しようとする人材 だけを登用する方針を強調している。
(藤原秀行) 人事戦略 ヤマト運輸の全国の組織図 本社 支社10 主管支店69 (数は非公表) 約4000 拠点 支店 センター(営業所) (各都道府県に1〜複数) 特集 物流のプロになる
