2012年11月号
ケース

キリンビール コスト削減 平準化に向け取引に“SCMメニュー”全工場で出荷プロセスの改革を推進

NOVEMBER 2012  50 ?増トン車で発注?を呼びかける  キリンビールは二〇〇九年から取引制度に 物流コストの削減を目的とする新しいサービ ス基準を導入している。
発注時間を繰り上げ たり、発注数量を大型車両の積載重量単位に まとめるなど、出荷業務の平準化や輸送の効 率化につながる?SCMメニュー?を提示し、 これに応じた取引先に対しメリットを還元す る内容だ。
 同社は受注の締め切り時間を原則として正 午に設定している。
だが従来は追加や取り消 しなどのオーダー変更がしばしばあり、受注 が確定するまで倉庫のピッキング作業を開始 できなかった。
倉庫では手待ち時間が発生し て作業が夕方以降の時間帯に集中するケース が多く、コストアップ要因になっていた。
 この問題を改善するため取引制度にメスを 入れた。
受注時間を繰り上げることによって どれだけ作業の開始時間が早まり、平準化を 実現できるか分析したうえで、取引先に協力 を求めた。
 発注数量の見直しも提案した。
キリンビー ルでは工場内の倉庫を取引先への出荷拠点 として、大型車で直送する体制をとっている。
取引先からのオーダーは従来から車両一台あ たりの積載重量を基準にしてきた。
しかし昨 今はビール輸送の主流が従来の十トン積み車 両から十二〜十三トン積みの増トン車へ変わ ってきていることから、増トン車の積載重量 に合わせた発注数量を取引の新メニューに加 えた。
 キリンビールの工場は、同社の製品以外に 飲料メーカーのキリンビバレッジが酒類系問 屋向けに出荷する製品の物流拠点を兼ねてい る。
取引内容によっては(酒類系の問屋が飲 料も扱う場合は)ビールだけでなく、飲料も 含め発注数量が一定の範囲内で増トン車の積 載重量単位になるよう取引先に工夫してもら う。
その結果、発注の頻度が減るケースもあ る。
これによって輸送コストが下がる分を取 引先にも還元する。
 同社は〇七年から営業や生産部門との連携 によって物流コストの削減をめざす「TCR (Total Cost Reform)活動」に取り組ん でいる。
新取引制度の導入は営業部門による TCR活動の中心となるもので、キリンビー ルの営業部門(一二年一月からはキリンマー チャンダイジングと統合した「キリンビールマ ーケティング」)と物流子会社のキリン物流の 担当者が地域ごとに連携して活動を進めてい る。
 新取引制度の導入によってこれまでに出 荷量の八割について受注時間が繰り上がった。
また増トン車による輸送も全体の六割強を占 めるまでになっている。
 こうした取引内容の改善を物流業務の効率 化につなげるため、一一年に全工場で「出荷 プロセス改革」を本格的にスタートした。
S CM本部傘下の物流部が主導し、工場の出荷  2011年から全工場で出荷プロセス改革を進めて いる。
受注時間を繰り上げて作業を平準化したり、 外部倉庫での保管を減らすなど、営業・生産部門 と連携して物流コストの削減に成果を上げてきた。
今年の7月には工場内にメルシャンの物流拠点を 集約し、グループの物流機能統合戦略を大きく前 進させた。
コスト削減 キリンビール 平準化に向け取引に“SCMメニュー” 全工場で出荷プロセスの改革を推進 51  NOVEMBER 2012 業務を担当するキリン物流のメンバーといっし ょに取り組んでいる。
新情報システムで“セル方式”へ転換  プロセス改革の主な狙いは、一〇年一月 に稼働した新物流情報システム「L 10 」の 運用を通して、従来のバッチによる作業から ?セル方式?と呼ぶ作業形態へ転換を図るこ とにある(図表)。
 L 10 は同社がキリンビバレッジと共同開発 した物流関連業務の基幹システムで、工場倉 庫のWMSと連携して受注・出荷・運賃計 算・棚卸し資産管理・請求管理などを処理す る。
キリンビールの工場やキリンビバレッジが 食品系問屋向けの出荷拠点として各地に設け ている物流センターで運用している。
 従来、倉庫の作業に手待ち時間が発生した のは、受注データをバッチで処理して倉庫へ 出荷指示を出す方法をとっていたことも一因 だった。
これに対しL 10 はデータを溜めずに 作業を進める仕組みになっている。
 取引先からオーダーが入るたびに一件ずつ 受注データを処理して出荷指示データを作成 し、WMSへ送る。
取引先からは車両単位で 注文が入るため、倉庫では取引先のオーダー 一件ごとに車両一台分(数量によっては車両 数台分)のピッキング・出荷準備を完結させ るかたちで作業を進められる。
手待ち時間が 解消し作業を平準化しやすくなった。
 現在はWMSをL 10 とインタフェースして 運用しているが、年内にもWMSをリニュー アルし、L 10 からWMSへ出荷指示データの 送受信をせずに一体で運用する仕組みを整え る。
倉庫への作業指示をさらにスピードアッ プする。
 新取引制度によって取引先の受注時間は早 まり、およその発注数量を事前に把握できる ようになった。
倉庫では時間帯ごとの出荷台 数を想定して作業計画を立てることが可能に なった。
例えば午前十時に受注した分のうち 最も遠方の取引先への出荷準備を午後一時ま でに完了する、という具合にタイムスケジュ ールを組む。
 ビール工場は積み込み車両の構内滞留時間 が長く、以前から改善点として指摘されてき たが、このタイムスケジュールに沿って事前に 協力運送会社に出荷予定時間を伝えておけば、 ドライバーの待ち時間無しでバースへ誘導し て積み込み作業を開始することもできる。
 各工場では日々の出荷数量を予測し、繁忙 期と閑散期のそれぞれについて、「一時間に 車両何台分を出荷する」という指標を設けて 管理している。
指標をもとに時間ごとの作業 計画を立て、L 10 を運用して計画を実行する。
 計画した台数分を時間内に出荷できないと その日の出荷作業全体が滞り、工場構内に待 機する車両の数も増える。
出荷能力が目標に 届かない工場はL 10 の収集するデータをもと にその原因を分析し、出荷作業の生産性を上 げるための対策を検討する。
フォークリフト の動線が長すぎることが問題ならば倉庫のレ イアウトを見直す。
ピッキングシステムがネッ クになっていると判断すれば設備の改善を考 える。
こうした取り組み全般を同社ではプロ セス改革として位置づけている。
 工場によってバラツキはあるが、モデル工 場として改革をスタートした横浜工場や、滋 賀・岡山工場では、これまでに出荷能力が二 割以上もアップした。
物流部の吉田雅哉物流 企画担当主幹は「?L 10 の思想?を現場の作 図表 L10 の狙い ◆プロセス改革【セル方式への転換】 【L10 前】【L10 後】 全データ確定後の作業開始【バッチ式】データ受信ごとの作業開始【セル式】 ● ピークにあわせた人員の確保/深夜作業増 ● 構内における車輌待機増/回転率悪化 ● 人の判断業務によるミスの発生 ● 作業の平準化による作業員の有効活用 ● 構内待機時間の削減/車輌回転向上 ● 情報システムの判断補助によるミス削減 状況を都度確認必要データの可視化 受注・ 車単位調整 配車・ 車単位の 同時調整 出荷・配車 受注 出荷 データの バッチ送信 ・手作業 ・人の判断 ・手作業 ・人の判断システム補助 逐次送信 逐次送信 NOVEMBER 2012  52 業に落とし込んでいろいろ分析しながら改革 を進めている。
少しずつだが着実にコスト削 減効果は出ている」と話す。
 プロセス改革では輸送効率の向上も目標の 一つに加えている。
工場から取引先へ商品を 運んだ大型車がそのまま空車で戻らずに、復 路に別の貨物を輸送して実車率を高めるよう 工夫している。
 そのためにキリン物流の配車担当者にでき るだけ早くキリングループの貨物情報を送り、 余裕を持って車両の運行計画を組めるよう支 援している。
「当社の貨物を協力運送会社に とって魅力ある貨物として提供できるように することも改革の重要なテーマだ」と吉田主 幹は強調する。
将来的には最適な運行ルート をシミュレーションする機能をL 10 に追加する ことも検討課題にしている。
生産部門と連携し転送減らす  TCR活動ではこのほか、生産部門との連 携によって工場間の転送を少なくしたり、外 部倉庫の利用を減らすといった切り口でも物 流コストの削減に取り組んでいる。
 キリンビールは以前から全国を七ブロックに 分けて需給管理を行っている。
ただし近年は 生産拠点再編とともにブロック内需給の中身 が変わってきた。
かつてはビール工場が全国 に一五カ所あった。
一つのブロックに複数の 工場があり、各工場が自分の工場で製造して いないアイテムや、生産していても数量が不 のため工場では設備管理上の都合だけでなく、 転送や外部倉庫の利用による物流費の上昇を 考慮に入れて、需要動向によっては修理の工 期をずらしたり、外部倉庫での保管を少なく できるよう生産調整を行う。
 こうした生産部門のTCR活動の結果、二 〇一一年度は外部倉庫への委託費用が〇八年 度のおよそ五分の一に減るなどの成果が出て いる。
 物流部門の生産性を上げる取り組みでキ リンビールがもう一つの大きな柱に位置づけ ているのが、グループの物流を統合してシナ ジー効果を上げる?グループロジスティクス? だ。
二〇〇〇年の物流子会社統合(キリン物 流の発足)を皮切りに、キリンビバレッジの 物流関連部門をいったんキリンビールに統合 した上で、両社の業務をキリン物流へ移管す るという流れで進めてきた。
〇三年にまず両 社の受注業務をキリン物流へ移管。
続いて〇 九年三月に、それまでキリンビールのSCM 本部物流部が担当していた両社の地域需給・ 物流管理業務をキリン物流へ移した。
 これによって、キリンビールとキリンビバレ ッジの物流部門の役割は、自社製品の需要を 予測して工場別に生産計画を立案するところ までになった。
その後工程で、キリン物流が 各工場の日別の生産計画と各地域の需要をも とに転送や物流センターへの在庫配分を判断 し、各出荷拠点における受注・配車・出荷ま でのすべての業務を運営する。
足するものをブロック内のほかの工場から転 送(調達)して?ブロック内需給?を行って いた。
 だが、二〇〇〇年代の初頭に四工場を廃 止、一〇年には栃木・北陸の二工場を廃止し て、工場は全国で九カ所に集約された。
その 結果、一ブロックに複数の工場があるのは関 東と関西の二ブロックだけになった。
どの工 場でも主要なアイテムをすべて生産し、他工 場から転送せずに各ブロック内の需要に応じ るかたちが基本となり、事実上の?一工場に よるブロック内需給?へと変貌した。
 ただし、予想外の需要変動が発生した場合 など、他工場からの転送が避けられないこと もある。
そうしたケースを最小限に抑えるた めに、工場では転送率について指標を設けて 管理し、キリン物流の地域需給の担当者と出 荷状況や在庫状況を検証して調整を行ってい る。
 工場の定期補修で製造ラインを止める際に も一時的に他工場からの転送が必要になる。
事前に造り溜めして外部倉庫に保管しておく 方法もあるが、コストアップにつながる。
こ 物流部の吉田雅哉物流企画 担当主幹 53  NOVEMBER 2012 の需給担当が工場から必要な数量を引き取る 形ではなく、本社が地域別に在庫配分を決め る?送り込み方式?をとっていた。
 一方、メルシャンはワインや焼酎を藤沢・ 八代の二工場でアイテムごとに集中生産し、 北海道から九州まで全国六カ所に設けた物流 センター(外部倉庫と一部自社倉庫)から取 引先へ出荷していた。
キリンのワイン・洋酒 とほぼ同じ物流体制で、需給管理の考え方も 共通していた。
 このためワインなど多品種少量型の和洋酒 カテゴリーの出荷機能については、キリンが 倉庫会社から借りていた拠点から、メルシャ ンの物流センターに統合した。
 その後、ビール市場の規模縮小で出荷量が 減ったことや、プロセス改革を通じて保管効 率が向上したことなどから、キリンビールの 工場の倉庫スペースに余裕が生まれた。
そこ で空いたスペースを活用し、メルシャンが管 轄していた和洋酒カテゴリーの出荷機能をビ ール工場へ統合することにした。
 今年の一月から統合をスタートし、七月ま でに焼酎・洋酒・梅酒・ワインの保管・出荷 基地を首都圏と近畿圏を除くエリアの五カ所 のビール工場(千歳・仙台・名古屋・岡山・ 福岡工場)へ移した。
これに伴い藤沢工場内 のセンターを除きメルシャンの物流センターを 全廃した。
 首都圏と近畿圏の工場は出荷量が多く和洋 酒を扱う余力がないため、東京と大阪にそれ ぞれ物流センターを一カ所設けて対応してい る。
もともとキリンビバレッジなどグループの 拠点としてキリン物流が運営していたセンタ ーを、共同物流センターに転用した。
飲料と 和洋酒のほかに、業務用酒販店などへビール を小口配送するための拠点も兼ねている。
 物流拠点の統合にあわせて組織の統合も行 った。
メルシャンの物流部門が担当していた 受注業務と、工場の製品を各地の物流センタ ーへ配分する?送り込み業務?を七月からキ リン物流への委託に切り替えた。
これにより キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャ ンのグループ三社の地域需給・在庫配置・受 注出荷業務をキリン物流が一手に引き受ける ことになった。
 情報システムも一本化した。
L 10 でメルシ ャンの物流も一元管理できるようにし、多品 種少量型の和洋酒カテゴリーに対応するため に必要な機能をWMSに追加した。
これまで キリンビールとキリンビバレッジはそれぞれ別 のWMSを運用していたが、WMSをリニュ ーアルした後は三社のシステムをすべて共通 にする計画だ。
 メルシャンの拠点・組織・システムの統合 によってグループロジスティクス戦略は大きく 前進した。
ビール工場のなかで出荷単位やピ ッキング形態の異なる商品とのオペレーション の統合をいかに効率よく実現するかが、プロ セス改革の次のテーマになる。
(フリージャーナリスト・内田三知代)  さらに一〇年にはキリン物流の組織を七支 社から四支社へ集約して地域需給・物流管理 業務を四カ所に統合、受注センターも七カ所 から二カ所へ集約するなど組織のスリム化を 進めている。
工場内にメルシャンの物流拠点を統合  今年はメルシャンの物流拠点および物流組 織の全面統合に踏み切った。
〇六年十二月に メルシャンがキリングループ入りした際、キリ ンビールとメルシャンは相互に事業移管を行 い、キリンのワイン事業をメルシャンへ、メ ルシャンのRTD(缶チューハイなどの低ア ルコール飲料)、焼酎、洋酒、梅酒事業をキ リンへ移した(今年の七月に焼酎と梅酒の販 売をキリンから再びメルシャンへ移管)。
 この時、物流については事業区分とは別に、 出荷ロットの大きい商品と多品種少量型の商 品とに分けてそれぞれの物流網を一本化する 方法をとった。
具体的には、RTDをキリン のビール工場から出荷し、ワイン・焼酎・洋 酒・梅酒をメルシャンの物流センターから出 荷する形にした。
 もともとキリンの洋酒・ワインは生産拠点 がビール工場とは別の場所にあり、輸入品も 多かった。
多品種少量型でビールとは物流特 性が異なるため物流拠点を別に設け、湾岸地 区の倉庫会社の拠点から全国へ出荷していた。
 洋酒・ワインは需給管理のやり方もビール とは大きく違っていた。
ビールのように地域

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから