2012年11月号
現場改善

第118回 資材メーカーR社のセンター運営外注化

NOVEMBER 2012  76 物流自営化に踏み切ったが‥‥  R社は東海地区に本社を構える年商約八〇 億円の園芸資材メーカーだ。
取扱い品目は約四 五〇〇。
メーカーの品目数としてはやや多いが、 このうち約九〇〇アイテムは東南アジアからの 仕入れ品で、これらをホームセンターやディスカ ウントストアと取引する全国の卸売業者に販売 している。
 以前は東日本と西日本の二カ所に物流拠点 を設置していた。
しかし、コストダウンのため、 現在は本社から一五?ほどの距離にある一カ所 に集約している。
拠点集約によってリードタイ ムが伸びてしまう地域では、卸売業者の協力を 得て、最終納品先となる小売業者の拠点に卸在 庫を置くかたちでサービスレベルの低下を回避 した。
しかし、これが返品の増加を招き悩みの 種となっている。
 R社の物流センターは保管機能を備えたDC (ディストリビューションセンター)型で、土地、 建物共に自前であった。
建物は延床約八〇〇〇 坪の四階建て。
トラックバースが五つ、コンテ ナバースが一つ設けられており、各階のフロア は高さ八mを確保していた。
 広々としたスペースでの運営が設計時点では 期待されていたのだが、荷物用のリフト一基以 外に垂直搬送機(バーチレータ)が一カ所にし か設置されていなかったため、荷物の上げ下げ で渋滞が発生し、せっかくのスペースを上手く 活かせないでいた。
 R社のセンター運営については過去に紆余曲 折があった。
年商約二五億円の頃までは本社工 場に隣接した倉庫で、工場作業員が保管・出荷 作業に当たっていた。
事業の拡大によってそれ が手狭になり、現在の物流センターを立ち上げ たタイミングで、庫内作業を地場の物流会社に 委託した。
 ところが稼働して半年も経たないうちに協力 物流会社から値上げの要請を受けた。
侃侃諤々 のやり取りの末、R社としては「今、撤退され ては困る」と仕方なしに値上げを呑んだ。
この 段階で既にR社と協力会社の関係にはヒビが入 っていたのだが、さらに半年後、二度目の値上 げ要請を受けた。
値上げに応じなければ即日撤 退するという脅しに近いものであった。
 R社の社長をはじめ経営陣もさすがに堪忍袋 の緒が切れた。
啖呵を切って協力物流会社を追 い出したまでは良かったが、今度は現場が回ら 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  過去に物流の外注化で手痛い失敗を経験していた。
センタ ーの運営を任せていた協力会社から理不尽な値上げ要求を突 き付けられて喧嘩別れになり、現場が大混乱に陥った。
そ れから時を経て、改めて外注化の検討に乗り出した。
しかし、 当時のトラウマはまだ癒えていないようだ。
資材メーカーR社のセンター運営外注化 第118 回 77  NOVEMBER 2012 ない。
営業や総務など社員総出でセンター業務 に当たるハメに陥った。
結局、この時は事態の 収拾まで約二カ月間にわたり徹夜状態が続いた という。
 これを機に、若き二代目社長は物流の自前主 義を決断した。
当時は人材も揃っていなかった こともあって、営業部長のY氏を責任者に据え、 パート・アルバイトの直接雇用によるセンター の自社運営に乗り出した。
その後、一部のフロ アを業務請負会社に任せたこともあったが、こ れもまたシステムトラブルとも重なって大混乱 に陥り、再び自社運営に戻すといった失敗を経 験していた。
 それから二年半余りが経過し、R社は再び センター運営の外注化の検討を開始した。
デフ レで単価の下落に拍車がかかり、物流コスト削 減が改めて経営の重要課題になってきたことが 理由である。
これをサポートすることが今回の 我々日本ロジファクトリー(NLF)の役どこ ろであった。
 R社の現場運営は先述のスペースの有効活用 の問題はあるものの、及第点といえるレベルで あった。
バーコード管理による入出荷と検品、棚 番地管理、整理整頓、少数での運営など、うま く機能していた。
 それでも課題は散見できた。
ロケーションメ ンテナンスを行っていないことによる長い作業 動線、現場リーダー(旗振り役)の不在による 不明瞭な役割分担と作業手順の未徹底、レイバ ーコントロールが出来ていないことによる作業 費の固定費化などである。
提案を受ける前に目標値を設定する  センター運営の委託先はコンペ方式で選考す ることになっていた。
我々NLFがサポートに 入った時点で既に、従来から配車業務の一部を 委託していた協力物流会社A社のほか、中堅物 流会社B社、路線会社C社の三社に声をかけて いた。
 R社の実情を知る協力会社のA社がコンペで は有利になるかと思われたが、調べてみると A社はセンター運営の実績に乏しかった。
一方、 中堅物流会社のB社は、R社の物流拠点周辺に 地の利がないため、パート・アルバイトの募集 や他拠点からの応援体制が効かないという点に 懸念があった。
また路線会社C社は高コストな 提案が出てくることが予想された。
 他にも候補が欲しいところであったが、既に 三社への情報開示を済ませ、協議も進んでいた ため、新たな物流会社を推薦できる段階ではな かった。
そこで正式に三社への提案依頼を行い、 そのフィードバックを待つ一カ月の間にR社側 の体制を整えることにした。
 R社として物流の外注化のあるべき姿を明確 にして、それに向けた対策を協議して事前にコ ンペの方針を固めておこうという考えだ。
それ によって三社からの提案内容を単に比較するだ けでなく、提案内容とR社の考えに大きなギャ ップが出た場合などには、二次提案を依頼する ことも視野に置いた体制を整えようという狙い である。
 この事前協議の結果、以下の六点が外注化に あたっての重要ポイントとして整理された。
?コストダウン目標の設定 ?スムーズな業務移管 ?物流会社との役割分担の明確化 ?配送業務の見直し ?棚卸し頻度の見直し ?WMS(倉庫管理システム)の所有権のあり方  このうち「?コストダウン目標の設定」は、実 際に物流会社から提案を受ける前に目標額を決 めておくことが肝要である。
コンペに参加した 物流会社は七〜十二%の幅でコストダウンを提 案してくることが多い。
しかし、それが妥当か どうかは分からない。
 元々の運営に大きなムダがあり、もっと大き な改善効果が期待できるケースもあるし、その 逆もある。
また立ち上げ期には一時的にコスト は上昇することが多く、安定稼働後も提案し た通りにコストが下がらないことが珍しくない。
そのことをR社のY物流部長もよく理解してお り、「今回のコンペでは安かろう悪かろうだけ は避けなければならない」とプロジェクトメン バーに念を押していた。
 検討の結果、現状のオペレーションにそれほ ど大きなムダがないことを考慮して、立上げ〜 安定運営までの期間は現状のコストを維持でき れば合格、安定稼働後のコストダウン目標も五 %に抑えることにした。
 そしてセンター運営の委託料は変動費にする ことを条件にした。
その料金体系としては、R NOVEMBER 2012  78 社の場合、「料率」、「伝票行数当たり料金」、「ピ ース当たり料金」の三つの選択肢が考えられた。
このうち「料率」はセンターを通過した商品の 価格に一定のパーセンテージを掛けて委託料を 計算する方法だが、やり方に慣れていないR社 には戸惑いがあった。
また「伝票行数当たり料 金」は現行のシステムでは正確なデータの把握 に制約があることから、「ピース当たり料金」を 採用することにして、コンペに参加する三社に その旨を伝えた。
 ちなみにR社の物流センターは土地・建物が 自社所有であるため、外注化は厳密には?業 務委託?ではなく、「入荷」、「格納」、「ピッキ ング」、「ライン補充」、「検品」、「梱包」、「出 荷」という一連のプロセスの?作業委託?であ り、「保管」は対象外となる。
既存スタッフの処遇問題が浮上  「?スムーズな業務移管」は六つの重要ポイン トのなかでも特に慎重に詰めておかなければな らない点であった。
とりわけR社は過去に物流 の外注化で手痛い失敗をしているだけに、?同 じ轍を踏まない?ことが至上命題であった。
 新体制の立ち上げから安定稼働までのトライ アル期間として、二カ月は必要だろうとR社と して判断した。
これに対してコンペで各物流会 社がそれぞれどんな提案をしてくるか。
トライ アル期間の設定の有無、そのスケジューリング、 内容を選考のチェックポイントの一つとして位 置付けた。
 またR社のセンター運営には、社員十二人、 直接雇用のパート一八人、派遣スタッフ四一人 の計七一人が携わっていて、その扱いも重要で あった。
スムーズな業務移管のためには、R社 の業務と商品を知る熟練者たちをできるだけ多 く残しておきたい。
 派遣会社の担当者に話を聞いたところ、運営 委託先の物流会社が派遣スタッフを継続して利 用することに問題はなさそうだった。
問題はパ ートの再雇用である。
これも委託先にそのまま 引き取ってもらうことが望ましい。
しかし、そ れには時給単価に加え、パートたちの気持ちの 問題もある。
 パートのなかには現社長が学生時代に旧セン ターでアルバイトをしていた頃からのベテラン も含まれている。
当然、社長とは顔見知りで名 前も覚えられている。
R社の直接雇用から物流 会社に所属が変わることで、愛社精神の強い四、 五人が退職してしまう恐れがあった。
 正社員十二人の処遇にも不安があった。
外部 委託後も引き続き物流管理を担当する三人を除 く九人は、営業や購買部署に異動となる方針が 出ていた。
しかし、Y物流部長は「他部署に行 っても使い物にならず、また物流に戻ってくる のではないか。
それならむしろ最初から委託物 流会社に出向させたほうが本人のためだ」と考 えていた。
 これらの問題は労務管理を管轄する総務部と の調整が必要であったため、ひとまず物流部門 の意向を伝え、総務部で検討してもらうことに なった。
また、総務部での検討や調整が長引き、 なし崩しにならないように、取締役会において もプロジェクトの懸案事項としてY部長から発 表が成された。
 「?物流会社との役割分担の明確化」では、あ くまで「管理」はR社、「運営」は物流会社で あることを基本に据えて、過去に一覧表にまと めてあった業務分担表をリニューアルし、これ を物流会社と共有して相互認識を深める手はず をとった。
 業務分担の詳細を詰めるプロジェクトミーテ ィングでは、イレギュラー対応において責任の 所在があいまいになり、トラブルの原因になっ た実例がメンバーの一人から挙げられた。
そこ から口火を切ったように各メンバーから声が上 がり「○○の場合はどうするのか」といった意 見が多く出された。
 繰り返しになるがR社の場合、土地・建物を R社が所有し、それを物流会社が使用する?作 業委託?となるため、システムやマテハン機器 のトラブルに掛かるコストや、入・退出のセキ ュリティ、駐車場使用枠の確保など、明確なル ール作りが不可欠であった。
 そこでこれらを「SLA(サービス・レベル・ アグリーメント:提供するサービスの内容や範 囲、品質水準等を、荷主と物流会社の間で事前 に取り決めた合意書)」に反映させて明文化す ることにした。
 「?配送業務の見直し」については、その具 体策を三社の物流会社にそれぞれ提案してもら うことになっていた。
従ってコンペではセンタ ー運営費と配送費のトータルコストを比較する ことになる。
79  NOVEMBER 2012 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチーフを務める。
96年、 独立。
日本ロジファクトリーを設立し代表に 就任。
現在に至る。
主な著書に『経営のテコ 入れは物流改善から』(明日香出版社)、『物 流のしくみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE  しかし、従来から配送は自社運営ではなく既 存協力会社のA社に委託してきた。
A社には配 車業務の一部も任せていた。
配車まで含めた配 送と、センター運営をまとめて外注することが、 重要ポイントの一つである「スムーズな業務移 管」の妨げにならないかとの危惧がメンバーか ら挙がった。
 協議の末、配送の本格的な見直しは改革の第 二ステップとなる来春以降のテーマに先送りし、 第一ステップでは現状のA社による配車・配送 を委託物流会社のアンダーに使うかたちで、そ のまま移管したほうが得策であるという結論に 至った。
 これは、それまでR社で配車を管理してきた 正社員スタッフが、R社の将来の物流を担うこ とを期待されている有望株で、彼の人事面での 調整に時間を稼ぐ必要があったことも一因であ った。
 「?棚卸し頻度の見直し」は、管理会計上も 必要な施策だった。
これまで上期末と下期末の 年二回しか棚卸しを行っていなかった。
そのた めR社の月次損益の精度は、お世辞にも高いと は言えないレベルであった。
年二回の棚卸し作 業は全社総動員の大イベントで、大きな負担に もなっていた。
 今回、センター運営を外注化するのに伴い在 庫差異が発生した時の責任の所在を明確にする 必要があり、場合によっては物流会社の弁済が 発生する可能性があることも考慮して、委託先 の物流会社には月一回の循環棚卸しを依頼し、 この業務については追加料金の発生も念頭に置 くことにした。
立ち上げ時の混乱を避ける  「?WMSの所有権のあり方」は、既存のWM Sを委託先がそのまま運用する場合に検討が必 要になるテーマだ。
他社の事例では荷主が協力 物流会社に対してWMSの使用料を請求し、そ れを作業委託料と相殺するケースなどが見受け られる。
 しかし、R社の場合はWMSのシステムベン ダーとの契約が既に終了し、リース料の支払い が発生していなかったため、物流会社に無償貸 与することにした。
それによって物流会社がR 社のWMSを有効利用し、作業品質や生産性の 向上、コストダウンに役立ててもらうことを期 待するというスタンスだ。
 こうして事前の準備を済ませた後、我々は選 考に入っていった。
結局、二次提案を各社から 提出してもらうことになったが、最終的には配 送を委託してきた既存協力会社のA社にセンタ ー運営を任せることに決まった。
 現在はトライアル期間に入っているが、今の ところ大きな問題は発生していない。
計画では 後一〇日ほどでトライアル期間を終了し、安定 稼働に入る。
物量が増える火曜日と金曜日をそ れぞれ一回ずつクリアできれば第一ステップは 終了する。
 センターの立上げに失敗する理由の九割は伝 票発行などのシステムの不備に起因している。
そ の点で今回は既存システムをそのまま利用して いるためリスクは低かった。
しかも、これまで 社内でWMSの運用に当たってきたシステム担 当者に加え、外部のシステム会社の力も借りて、 A社スタッフの教育・トレーニングに万全を期 したことが功を奏した。
 次の第二ステップでは配送改革がテーマにな る。
しかし、物流会社三社からの提案内容はい ずれも一長一短で、むしろR社が自社で構築し た既存の配送ネットワークの方が、コスト・品 質とも勝っている。
そのため、第二ステップは 省略される公算が大きくなっている。
あとはR 社の物流外注化の?トラウマ?が解消されたこ とを確認できれば、我々NLFの任務はひとま ず完了である。

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