2012年12月号
特集
特集
Case study 外食チェーン リンガーハット──野菜や麺用小麦の全国産化を断行
DECEMBER 2012 42
安全・安心と味を追求
長ちゃんぽんやとんかつ店などを全国展開す
るリンガーハットは、二〇〇九年一〇月にグループ
の全店舗で、年間一万トン以上使用している野菜
の国産化に踏み切った。
それまでは品目によって 国内産と輸入品が分かれていたが、すべて国内で の調達に切り替えた。
一九六二年の創業当初から野菜の品質にはこだ わってきた。
ちゃんぽんやとんかつに欠かせない キャベツは八六年から、熊本・天草を振り出しに、 契約農家からの直接調達を拡大。
現在は年間約六 五〇〇トンを仕入れているが、原則としてすべて を農薬や化学肥料の減量を依頼している契約農家 の収穫分で賄っている。
契約先は北海道から九州まで、三〇余り。
商社 や仲卸業者と連携しながら、全国の産地を季節ご とにリレーして調達し、安定的に鮮度の良いキャベ ツが手に入るよう努めている。
一方、もやしは八八年、自社栽培を開始した。
消費期限が早い上に、使う量が多いため、外部か ら調達するより自ら育てたほうが効率的と判断。
富 士小山(静岡県)、鳥栖(佐賀県)の二工場内で 年間四〇〇〇トン程度を栽培している。
ただし、〇九年までは、リンガーハットが主力 商品のちゃんぽんに使っていた定番七品目のうち、 国産はキャベツともやしのみ。
残るにんじんとき ぬさやえんどう、きくらげは中国、コーンはタイ、 たまねぎはアメリカからの輸入冷凍品だった。
〇八年、中国で加工された冷凍ギョーザに毒物が 混入し、それを食べた日本の消費者が中毒を起こす 事件が発生。
食の安全への信頼が大きく揺らいだ。
外食チェーンが 中国からの輸入 品に大きく依存 することは厳し くなり、同社も 対応を迫られた。
これを受けて同年四月、ギョーザの具材に用いる 野菜を国産化したのに続き、同年九月にはすべて の野菜を国産化するプロジェクトを本格的に始動。
同社が速やかに「全国産化」へ転換できた背景の 一つには、既にキャベツやもやしを通じて、二〇 年以上にわたり、生産者との協力関係構築や農産 品生育などに関するノウハウを培ってきたからだ。
全国産化に際して、ちゃんぽんのスープの味に 合う新たな国産野菜を探し、年間を通じた定番の 品目として、キャベツともやし、にんじん、たま ねぎ、コーン、オランダきぬさや、青ネギの七つを 採用。
調達担当者が全国を駆け回って交渉し、北 海道から沖縄まで、協力を得られる複数の産地を 見つけた。
現在はいずれの野菜もキャベツと同様、 各地をリレーして調達する方式を採用している。
野菜の全国産化は、外食チェーンの本来の使命 である、おいしさを追求したいとの狙いもあった。
自らも当時、農家を探して全国を回ったというマ ーチャンダイジンググループの山口雅彦執行役員は 「冷凍の輸入品は炒めた時に、生のものに比べてど うしてもシャキシャキした食感が出しづらい。
安 全・安心を担保するのに加え、もっとちゃんぽん や皿うどんの味に磨きをかけていきたい、おいし くしたいとの思いがあった」と振り返る。
しかし野菜の全国産化は、年間八億〜九億円の コストアップを招いた。
野菜のカット作業の効率化 リンガーハット ──野菜や麺用小麦の全国産化を断行 野菜や麺用の小麦を輸入品から切り替えて、すべて国産に 変更した。
野菜は年間8 億〜9 億円のコストアップとなり、 若干の値上げを余儀なくされたが、消費者には受け入れられ た。
物流面ではエリア拡大に対応したネットワークの構築が 課題だ。
ただし、大型投資は避けたい。
協力物流会社とのパー トナーシップに期待している。
(藤原秀行) 山口雅彦 執行役員(マ ーチャンダイジンググルー プ) Case study 外食チェーン 43 DECEMBER 2012 などを図ったが、すべては吸収できず、ちゃんぽ んの値上げに踏み切った。
同時に従来より野菜の量を二倍程度に増やした 「野菜たっぷりちゃんぽん」を発売するなど、消費 者に受け入れられやすいよう配慮。
デフレ下の厳し い状況ではあったが、こうした施策も奏功し、リ ンガーハットの既存店売上高が、〇九年十二月に は一年七カ月ぶりのプラスに転じた。
ギョーザも全国産化に挑戦 ちゃんぽんや皿うどんの麺に使う小麦も、一〇年 一月から全量を国産化。
外国産の小麦に比べ、も ちもちした食感を出せることなどから、おいしさ を高められると判断した。
こうした国産小麦麺の 増量無料サービスも実施し、消費者にアピール。
安 全・安心と味を同時に追求する試みを続けている。
新たなチャレンジとして、二年ほど前に、主要 メニューのギョーザについても、全面的に国産化計 画に着手した。
現在、ギョーザの皮はオーストラリ ア、アメリカ産の小麦と国産の米粉を、具の野菜 は国産、豚肉はカナダ産のものをそれぞれ用いて いる。
将来は皮に使う小麦と、具の豚肉をともに 国産に変えることが目標だ。
原料を切り替えた新 たなギョーザの開発に取り組んでいる。
ただ、同社のギョーザは皮が薄いのが特徴だが、 国産の小麦を用いると破れやすくなる。
豚肉も海 外産から切り替えればコストアップが見込まれ、実 現までのハードルは高そうだ。
山口執行役員は「国 産でもおいしくなければ受け入れられるはずがな い。
肉はお金をかければ国産にできるが、皮の問 題をクリアしなければ前進できない。
その点で四 苦八苦しているが、おいしくて適切な価格で提供 したい」と、国産化実現に強い意欲を見せる。
物流コストの適正化が現在の課題の一つだ。
これ までにも、委託先の物流事業者らと協力し、来店 者数が増える休日の物量増加に備え、平日のうち にあらかじめDC(在庫型)センターに冷凍食材を 運んでおき、週末のトラック増車回避に努める、と いった平準化の取り組みなどを展開してきた。
さらに一一〜一三年度を対象期間とする中期経 営計画では、高収益化の一環として、生産・物流 体制の見直しを 掲げている。
食 材の鮮度を保つ ため、同社は工 場から各店舗へ の当日配送が原 則。
しかし出店エリアの拡大に伴い、拠点の物流 センターから遠く離れた場所に店舗を置くケースが 増え、到着が翌日早朝とならざるを得ない場所も 出てきている。
エリア拡大に対応した物流網の構 築が大きなテーマの一つと言える。
このため、麺やギョーザの生産、野菜や肉のカッ トなどを手がける富士小山、佐賀(佐賀県)の主 力二工場に関し、今年一〇月に担当地域を一部変 更。
関西地方の所管は富士小山工場から佐賀工場 に移した。
富士小山工場がより東日本の店舗への 生産、配送に集中できるようにする狙いだ。
もともと長崎発祥のリンガーハットは九州地方で の出店が早くから進んだほか、人口密集地の関東 でも積極的に店舗を広げてきた。
今後は北海道や 東北などへの進出も加速させる。
マーチャンダイジ ンググループ生産管理チームの坂本吉行部長は「新 たなエリアに進出する際は、まとまった規模ではな く、一、二店舗ずつオープンするため、適正な物 流網構築に苦心している。
TCセンターを中継拠 点として活用し、店舗まで混載便を使って運ぶな どしており、混載率をもう少し高めたい」と語る。
また従来は、郊外のロードサイド店舗が主流だっ たが、数年前から大型ショッピングセンター内のフ ードコート、都心の駅前や繁華街のビル内への出店 に本腰を入れている。
こうした場所では開店時の 初期投資をロードサイド型より抑えられるなどのメ リットがある半面、食材搬入の時間制限が厳しい といった課題もあり、対応が求められている。
坂本部長は「物流拠点は大規模な投資をせず、 店舗網に応じてその都度見直していく方針。
協力 物流業者の力を借りながら総合的な改革を進めて いきたい」と知恵を絞る毎日だ。
キャベツの契約農家(2012 年) 出所:リンガーハットホームページより 真生野菜村 熊本愛菜会 JA 八代地域 佐伊津有機農法研究会 年間約600t JA 阿蘇 年間約200t 石動農産 JAからつ 糸島野菜研究会 バルーンキャベツ JA 北九 年間約600t JA 上益城 藤農産 九州自然の会 山都プランニング スズランファーム 古林農園 年間約900t 柴生農園 大幸食品 アドバンス農産 年間約200t JAあいち知多 渥美出荷組合 年間約900t 北杜あぐり 年間約150t JA 鳴沢村 年間約220t 新鮮組 年間約800t JAさがみ JAいせはら JA 湘南 年間約630t 茨城中央園芸農業協同組合 茨城県西VF 近代有機農業研究会 年間約800t オジマスカイサービス 年間約150t アラキファーム 年間約200t 坂本吉行 マーチャンダ イジンググループ生産管 理チーム部長 勝つのは誰だ 食品SCM 特集
それまでは品目によって 国内産と輸入品が分かれていたが、すべて国内で の調達に切り替えた。
一九六二年の創業当初から野菜の品質にはこだ わってきた。
ちゃんぽんやとんかつに欠かせない キャベツは八六年から、熊本・天草を振り出しに、 契約農家からの直接調達を拡大。
現在は年間約六 五〇〇トンを仕入れているが、原則としてすべて を農薬や化学肥料の減量を依頼している契約農家 の収穫分で賄っている。
契約先は北海道から九州まで、三〇余り。
商社 や仲卸業者と連携しながら、全国の産地を季節ご とにリレーして調達し、安定的に鮮度の良いキャベ ツが手に入るよう努めている。
一方、もやしは八八年、自社栽培を開始した。
消費期限が早い上に、使う量が多いため、外部か ら調達するより自ら育てたほうが効率的と判断。
富 士小山(静岡県)、鳥栖(佐賀県)の二工場内で 年間四〇〇〇トン程度を栽培している。
ただし、〇九年までは、リンガーハットが主力 商品のちゃんぽんに使っていた定番七品目のうち、 国産はキャベツともやしのみ。
残るにんじんとき ぬさやえんどう、きくらげは中国、コーンはタイ、 たまねぎはアメリカからの輸入冷凍品だった。
〇八年、中国で加工された冷凍ギョーザに毒物が 混入し、それを食べた日本の消費者が中毒を起こす 事件が発生。
食の安全への信頼が大きく揺らいだ。
外食チェーンが 中国からの輸入 品に大きく依存 することは厳し くなり、同社も 対応を迫られた。
これを受けて同年四月、ギョーザの具材に用いる 野菜を国産化したのに続き、同年九月にはすべて の野菜を国産化するプロジェクトを本格的に始動。
同社が速やかに「全国産化」へ転換できた背景の 一つには、既にキャベツやもやしを通じて、二〇 年以上にわたり、生産者との協力関係構築や農産 品生育などに関するノウハウを培ってきたからだ。
全国産化に際して、ちゃんぽんのスープの味に 合う新たな国産野菜を探し、年間を通じた定番の 品目として、キャベツともやし、にんじん、たま ねぎ、コーン、オランダきぬさや、青ネギの七つを 採用。
調達担当者が全国を駆け回って交渉し、北 海道から沖縄まで、協力を得られる複数の産地を 見つけた。
現在はいずれの野菜もキャベツと同様、 各地をリレーして調達する方式を採用している。
野菜の全国産化は、外食チェーンの本来の使命 である、おいしさを追求したいとの狙いもあった。
自らも当時、農家を探して全国を回ったというマ ーチャンダイジンググループの山口雅彦執行役員は 「冷凍の輸入品は炒めた時に、生のものに比べてど うしてもシャキシャキした食感が出しづらい。
安 全・安心を担保するのに加え、もっとちゃんぽん や皿うどんの味に磨きをかけていきたい、おいし くしたいとの思いがあった」と振り返る。
しかし野菜の全国産化は、年間八億〜九億円の コストアップを招いた。
野菜のカット作業の効率化 リンガーハット ──野菜や麺用小麦の全国産化を断行 野菜や麺用の小麦を輸入品から切り替えて、すべて国産に 変更した。
野菜は年間8 億〜9 億円のコストアップとなり、 若干の値上げを余儀なくされたが、消費者には受け入れられ た。
物流面ではエリア拡大に対応したネットワークの構築が 課題だ。
ただし、大型投資は避けたい。
協力物流会社とのパー トナーシップに期待している。
(藤原秀行) 山口雅彦 執行役員(マ ーチャンダイジンググルー プ) Case study 外食チェーン 43 DECEMBER 2012 などを図ったが、すべては吸収できず、ちゃんぽ んの値上げに踏み切った。
同時に従来より野菜の量を二倍程度に増やした 「野菜たっぷりちゃんぽん」を発売するなど、消費 者に受け入れられやすいよう配慮。
デフレ下の厳し い状況ではあったが、こうした施策も奏功し、リ ンガーハットの既存店売上高が、〇九年十二月に は一年七カ月ぶりのプラスに転じた。
ギョーザも全国産化に挑戦 ちゃんぽんや皿うどんの麺に使う小麦も、一〇年 一月から全量を国産化。
外国産の小麦に比べ、も ちもちした食感を出せることなどから、おいしさ を高められると判断した。
こうした国産小麦麺の 増量無料サービスも実施し、消費者にアピール。
安 全・安心と味を同時に追求する試みを続けている。
新たなチャレンジとして、二年ほど前に、主要 メニューのギョーザについても、全面的に国産化計 画に着手した。
現在、ギョーザの皮はオーストラリ ア、アメリカ産の小麦と国産の米粉を、具の野菜 は国産、豚肉はカナダ産のものをそれぞれ用いて いる。
将来は皮に使う小麦と、具の豚肉をともに 国産に変えることが目標だ。
原料を切り替えた新 たなギョーザの開発に取り組んでいる。
ただ、同社のギョーザは皮が薄いのが特徴だが、 国産の小麦を用いると破れやすくなる。
豚肉も海 外産から切り替えればコストアップが見込まれ、実 現までのハードルは高そうだ。
山口執行役員は「国 産でもおいしくなければ受け入れられるはずがな い。
肉はお金をかければ国産にできるが、皮の問 題をクリアしなければ前進できない。
その点で四 苦八苦しているが、おいしくて適切な価格で提供 したい」と、国産化実現に強い意欲を見せる。
物流コストの適正化が現在の課題の一つだ。
これ までにも、委託先の物流事業者らと協力し、来店 者数が増える休日の物量増加に備え、平日のうち にあらかじめDC(在庫型)センターに冷凍食材を 運んでおき、週末のトラック増車回避に努める、と いった平準化の取り組みなどを展開してきた。
さらに一一〜一三年度を対象期間とする中期経 営計画では、高収益化の一環として、生産・物流 体制の見直しを 掲げている。
食 材の鮮度を保つ ため、同社は工 場から各店舗へ の当日配送が原 則。
しかし出店エリアの拡大に伴い、拠点の物流 センターから遠く離れた場所に店舗を置くケースが 増え、到着が翌日早朝とならざるを得ない場所も 出てきている。
エリア拡大に対応した物流網の構 築が大きなテーマの一つと言える。
このため、麺やギョーザの生産、野菜や肉のカッ トなどを手がける富士小山、佐賀(佐賀県)の主 力二工場に関し、今年一〇月に担当地域を一部変 更。
関西地方の所管は富士小山工場から佐賀工場 に移した。
富士小山工場がより東日本の店舗への 生産、配送に集中できるようにする狙いだ。
もともと長崎発祥のリンガーハットは九州地方で の出店が早くから進んだほか、人口密集地の関東 でも積極的に店舗を広げてきた。
今後は北海道や 東北などへの進出も加速させる。
マーチャンダイジ ンググループ生産管理チームの坂本吉行部長は「新 たなエリアに進出する際は、まとまった規模ではな く、一、二店舗ずつオープンするため、適正な物 流網構築に苦心している。
TCセンターを中継拠 点として活用し、店舗まで混載便を使って運ぶな どしており、混載率をもう少し高めたい」と語る。
また従来は、郊外のロードサイド店舗が主流だっ たが、数年前から大型ショッピングセンター内のフ ードコート、都心の駅前や繁華街のビル内への出店 に本腰を入れている。
こうした場所では開店時の 初期投資をロードサイド型より抑えられるなどのメ リットがある半面、食材搬入の時間制限が厳しい といった課題もあり、対応が求められている。
坂本部長は「物流拠点は大規模な投資をせず、 店舗網に応じてその都度見直していく方針。
協力 物流業者の力を借りながら総合的な改革を進めて いきたい」と知恵を絞る毎日だ。
キャベツの契約農家(2012 年) 出所:リンガーハットホームページより 真生野菜村 熊本愛菜会 JA 八代地域 佐伊津有機農法研究会 年間約600t JA 阿蘇 年間約200t 石動農産 JAからつ 糸島野菜研究会 バルーンキャベツ JA 北九 年間約600t JA 上益城 藤農産 九州自然の会 山都プランニング スズランファーム 古林農園 年間約900t 柴生農園 大幸食品 アドバンス農産 年間約200t JAあいち知多 渥美出荷組合 年間約900t 北杜あぐり 年間約150t JA 鳴沢村 年間約220t 新鮮組 年間約800t JAさがみ JAいせはら JA 湘南 年間約630t 茨城中央園芸農業協同組合 茨城県西VF 近代有機農業研究会 年間約800t オジマスカイサービス 年間約150t アラキファーム 年間約200t 坂本吉行 マーチャンダ イジンググループ生産管 理チーム部長 勝つのは誰だ 食品SCM 特集
