2012年12月号
keyperson
keyperson
「消費税増税がメーカーをふるいに掛ける」 川島孝夫 川島ロジスティクス研究所 代表
DECEMBER 2012 6
メーカーのSCMの実力が改めて試さ
れることになる」
──どういうことですか?
「増税のタイミングで小売業は必ず消
費税還元セールをしかけてきます。
こ れにはメーカーが製造原価を下げて吸 収し、乗り切っていくしかありません。
具体的にはSCMの管理対象を農産物 の生産プロセスにまで広げる必要があ ります。
日本国内だけ、しかも加工だ けしか手掛けていないメーカーが消費 税増税による負担の拡大に対応するの は相当に厳しい。
結果的に加工メーカ ーの多くが淘汰されることになると思 います」 ──加工だけと言うと? 「食品メーカーのビジネスモデルは大 きく二つに分けられます。
食品衛生法 でも、農水産物を直接使って自社製品 を作る『食品製造業』と、中間品を購 入して加工する『食品加工業』に区分 されている。
日本の食品メーカーはN Bも含めて大部分が後者、つまり材料 を他社から仕入れる加工メーカーなん です。
これは日本の特徴で、寡占化が 進んだ欧米では大手メーカーで加工業 だけをやっているということはまずあ りません」 ──メーカーが産地からサプライチェ ーンを管理しているわけですね。
「しかも約四万社にも上ると言われる 本格的なコスト競争へ ──PB商品が拡大しています。
しか もNB(ナショナルブランド)の有力 メーカーがPBの生産を請け負ってい ます。
「ブランドを大事にしたいのであれ ば、NBメーカーはPB生産に手を出 すべきではありません。
世界規模でブ ランド展開しようと考えているメーカ ーであればなおさらです。
実際、私が かつて在籍していたAGF(味の素ゼ ネラルフーヅ)をはじめ味の素グルー プは、メーカー名が前に出るダブルチ ョップ(ダブルブランドPB)を例外 として、大手小売りからPBを作って ほしいと再三要請されても対応してい ません」 「欧米のように大手の流通業者数社 で市場が寡占化している場合には、無 下に小売りの要請を断るわけにはいか ないかもしれない。
しかし、日本の場 合、大手小売り業が小売り市場全体 に占める割合はまだ低いのが実情です。
欧米にしても、トップメーカーが自社 ブランドと同じ品質の商品をPBに流 したりはしていません。
例えば、クラ フトの場合、中小メーカーを買収して、 ウォルマートのような大手小売りから の要望に対応した商品作りを進めてい ます」 ──ウォルマートの要請をメーカーが 断れるものでしょうか。
「ウォルマートの要請にどう対応して いるのか、米大手NBメーカーの担当 者に聞いたことがあります。
するとデ ィスカウンター向けのPBを提供する ことはあっても、自社ブランドと同じ 品質の商品を提供することはしないと 言い切っていました。
ウォルマートの 店頭でもNBはNBとして売られてい ます」 ──日本の小売業もメーカーを傘下に 収めてPBの生産を自社で手がけると ころまで行きますか。
「一部の大手は明らかにそういう方 向に進んでいます。
食品メーカーへの 資本参加を始めている。
それが成功す るかどうかは、どれだけPBが拡大す るかにかかっています。
大きな賭けに 出ています」 ──日本のPBは今後も拡大すると予 想しますか。
「いずれ頭打ちになるはずです。
今 は、どうすれば勝ち残れるかという戦 略を持たないメーカーが消耗戦をやっ ているだけで、長続きはしません。
二 〇一四年、一五年に実施される消費税 の増税が一つのきっかけになると見て います。
本格的なコスト競争になって、 川島孝夫 川島ロジスティクス研究所 代表 「消費税増税がメーカーをふるいに掛ける」 来る消費税の増税は、食品メーカーにもう一段の原価低減 を迫る。
調達を食材メーカーや商社に依存し、中間品を加工 販売するだけのメーカーはこれに対応できない。
本格的なコ スト競争を迎え、SCMの実力が改めて試されることになる。
(聞き手・大矢昌浩、藤原秀行) 7 DECEMBER 2012 日本の加工食品メーカーは外に目を向 けず、国内の戦いばかりやってきまし た。
日本企業でも自動車メーカーや家 電メーカーはもちろん、グローサリー 分野でも資生堂などは今や海外売上比 率が五〇%近くに達するほどグローバ ル化している。
ところが日本の食品メ ーカーで海外展開に成功していると言 えるのは、味の素やキッコーマン、ヤ クルトなどごく一部に過ぎません」 「食品メーカーはグローバル化で他の 業界より大きく立ち後れ、SCMもモ ノが日本に到着してからしか見ていな い。
原料は商社などを通じて海外から 調達しているにも関わらず、調達先に ついて何も知らない。
食品メーカーの 物流担当者に、海外からの原料はどの 港に到着しているのか尋ねても、おそ らく一〇人中九人が答えられないでし ょう」 ──イオンはSCMの次のターゲット を、グローバル調達に定めています。
「その重要性をはっきりと理解してい るのでしょう。
原材料の主な調達先と なる農業国の物流コスト比率は先進国 よりも遙かに高い。
日本や欧米先進国 の対GDP物流コスト比率はどこも八 %前後ですが、東南アジアや中国では これが二〇〜三〇%もある。
そこにコ スト削減のオポチュニティ(好機)が あるのは明らかです」 却しました。
関係者は、あんなにコン サバティブな会社が子会社の売却を決 断したということにかなりのショック を受けています。
しかし、メーカーが 自分でIT部隊を抱えることがコスト 高についているのは明らかです。
技術 革新の激しいIT業界で、それを本業 としない会社が時代に追いつこうとす るのは無理がある」 「物流も同じです。
インハウスでは 技術革新についていけません。
やはり 『餅は餅屋』です。
日本の3PL市場 規模もいよいよ二兆円が見えてきたそ うですが、本来なら二〇兆〜三〇兆円 あってもおかしくないと個人的には考 えています。
メーカーがシステム開発 や物流のオペレーションに関わってい る余裕はないはずです。
本業への特化 を進めるべきだと思います」 ──一方、日本の国内市場では、総 合商社によって卸の系列下が進んでい ます。
「私がAGFで物流責任者を務めて いた一〇年前に比べると、上位五、六 社への集約化が進みました。
その理由 は何より物流コストを下げる必要があ ったからです」 「本業特化」を急げ 「最大手の三菱食品を例に挙げると、 九〇年代には『RKG』(系列の基幹 店)として全国に一九〇カ所以上あっ た拠点が今は一〇分の一ぐらいに集約 されました。
国内で高速道路を中心 に、道路網が格段に整備されたのに伴 い、大手卸の拠点の集約が進みました。
それにより、メーカーは工場直送で一 度に大量の商品をセンターに納品する ことができるようになった。
当然、物 流費は下がります」 「そうしなければ卸は存在意義を失 ってしまうところでした。
大手チェー ンとメーカーが直接取引したほうが効 率的であるなら、当然ながら皆そちら になびいてしまう。
卸の集約が大きく 進んだために、そのような事態を何と か回避することができた。
一部大手小 売りの直接取引が、実際には当初予想 されたほどには広がらなかったのはそ のためです」 ──中間流通の集約が進んだことでメ ーカーの戦略はどう変わっていくので しょうか。
「一つは取引制度改革ですが、これ は既に進んでいます。
味の素は一九九 五年に取引制度改革の一環として、い わゆるオープン価格制を導入しました。
過去三年間の取引実績をベースにして 卸への納価を決めるというやり方です。
そうなると大量に扱っているところの ほうが安く仕入れられるというボリュ ームディスカウントの理屈が利いてく る。
このやり方が他のメーカーにも広 がって、市場に完全に定着していくの ではないでしょうか」 「小売りもボリュームディスカウント を重視した取引を進めています。
大手 の大半は各カテゴリーの売れ筋アイテ ムをリストアップして、対象を絞り込 むことで競争力のある値段を引き出し ている。
そうなると商談相手の数は物 理的に十数社程度に絞られてきますの で、そこに入れないメーカーの商品は 棚に並ばないことになります。
それだ けブランド力、商品力が重要になって くる」 ──物流戦略も変わりますか。
「今年二月、味の素は野村総合研究 所(NRI)とITサービスの戦略的 業務提携を結び、子会社の味の素シス テムテクノの株式の過半をNRIに売 川島孝夫(かわしま・たかお) 1966年大阪外国語大学( 現大阪大学 外国語学部)卒業、ゼネラル・フーヅ(現 味の素ゼネラルフーヅ)入社。
ロジスティ クス部長兼情報システム部長などを経て、 2001〜05年常勤監査役。
06年東京海 洋大学客員教授、07〜12年同大学院科 学技術研究科教授(食品流通安全管理専 攻)。
12年、川島ロジスティクス研究所設 立。
現在に至る。
12年10月タイ荷主協 議会(TNSC)日本代表就任。
こ れにはメーカーが製造原価を下げて吸 収し、乗り切っていくしかありません。
具体的にはSCMの管理対象を農産物 の生産プロセスにまで広げる必要があ ります。
日本国内だけ、しかも加工だ けしか手掛けていないメーカーが消費 税増税による負担の拡大に対応するの は相当に厳しい。
結果的に加工メーカ ーの多くが淘汰されることになると思 います」 ──加工だけと言うと? 「食品メーカーのビジネスモデルは大 きく二つに分けられます。
食品衛生法 でも、農水産物を直接使って自社製品 を作る『食品製造業』と、中間品を購 入して加工する『食品加工業』に区分 されている。
日本の食品メーカーはN Bも含めて大部分が後者、つまり材料 を他社から仕入れる加工メーカーなん です。
これは日本の特徴で、寡占化が 進んだ欧米では大手メーカーで加工業 だけをやっているということはまずあ りません」 ──メーカーが産地からサプライチェ ーンを管理しているわけですね。
「しかも約四万社にも上ると言われる 本格的なコスト競争へ ──PB商品が拡大しています。
しか もNB(ナショナルブランド)の有力 メーカーがPBの生産を請け負ってい ます。
「ブランドを大事にしたいのであれ ば、NBメーカーはPB生産に手を出 すべきではありません。
世界規模でブ ランド展開しようと考えているメーカ ーであればなおさらです。
実際、私が かつて在籍していたAGF(味の素ゼ ネラルフーヅ)をはじめ味の素グルー プは、メーカー名が前に出るダブルチ ョップ(ダブルブランドPB)を例外 として、大手小売りからPBを作って ほしいと再三要請されても対応してい ません」 「欧米のように大手の流通業者数社 で市場が寡占化している場合には、無 下に小売りの要請を断るわけにはいか ないかもしれない。
しかし、日本の場 合、大手小売り業が小売り市場全体 に占める割合はまだ低いのが実情です。
欧米にしても、トップメーカーが自社 ブランドと同じ品質の商品をPBに流 したりはしていません。
例えば、クラ フトの場合、中小メーカーを買収して、 ウォルマートのような大手小売りから の要望に対応した商品作りを進めてい ます」 ──ウォルマートの要請をメーカーが 断れるものでしょうか。
「ウォルマートの要請にどう対応して いるのか、米大手NBメーカーの担当 者に聞いたことがあります。
するとデ ィスカウンター向けのPBを提供する ことはあっても、自社ブランドと同じ 品質の商品を提供することはしないと 言い切っていました。
ウォルマートの 店頭でもNBはNBとして売られてい ます」 ──日本の小売業もメーカーを傘下に 収めてPBの生産を自社で手がけると ころまで行きますか。
「一部の大手は明らかにそういう方 向に進んでいます。
食品メーカーへの 資本参加を始めている。
それが成功す るかどうかは、どれだけPBが拡大す るかにかかっています。
大きな賭けに 出ています」 ──日本のPBは今後も拡大すると予 想しますか。
「いずれ頭打ちになるはずです。
今 は、どうすれば勝ち残れるかという戦 略を持たないメーカーが消耗戦をやっ ているだけで、長続きはしません。
二 〇一四年、一五年に実施される消費税 の増税が一つのきっかけになると見て います。
本格的なコスト競争になって、 川島孝夫 川島ロジスティクス研究所 代表 「消費税増税がメーカーをふるいに掛ける」 来る消費税の増税は、食品メーカーにもう一段の原価低減 を迫る。
調達を食材メーカーや商社に依存し、中間品を加工 販売するだけのメーカーはこれに対応できない。
本格的なコ スト競争を迎え、SCMの実力が改めて試されることになる。
(聞き手・大矢昌浩、藤原秀行) 7 DECEMBER 2012 日本の加工食品メーカーは外に目を向 けず、国内の戦いばかりやってきまし た。
日本企業でも自動車メーカーや家 電メーカーはもちろん、グローサリー 分野でも資生堂などは今や海外売上比 率が五〇%近くに達するほどグローバ ル化している。
ところが日本の食品メ ーカーで海外展開に成功していると言 えるのは、味の素やキッコーマン、ヤ クルトなどごく一部に過ぎません」 「食品メーカーはグローバル化で他の 業界より大きく立ち後れ、SCMもモ ノが日本に到着してからしか見ていな い。
原料は商社などを通じて海外から 調達しているにも関わらず、調達先に ついて何も知らない。
食品メーカーの 物流担当者に、海外からの原料はどの 港に到着しているのか尋ねても、おそ らく一〇人中九人が答えられないでし ょう」 ──イオンはSCMの次のターゲット を、グローバル調達に定めています。
「その重要性をはっきりと理解してい るのでしょう。
原材料の主な調達先と なる農業国の物流コスト比率は先進国 よりも遙かに高い。
日本や欧米先進国 の対GDP物流コスト比率はどこも八 %前後ですが、東南アジアや中国では これが二〇〜三〇%もある。
そこにコ スト削減のオポチュニティ(好機)が あるのは明らかです」 却しました。
関係者は、あんなにコン サバティブな会社が子会社の売却を決 断したということにかなりのショック を受けています。
しかし、メーカーが 自分でIT部隊を抱えることがコスト 高についているのは明らかです。
技術 革新の激しいIT業界で、それを本業 としない会社が時代に追いつこうとす るのは無理がある」 「物流も同じです。
インハウスでは 技術革新についていけません。
やはり 『餅は餅屋』です。
日本の3PL市場 規模もいよいよ二兆円が見えてきたそ うですが、本来なら二〇兆〜三〇兆円 あってもおかしくないと個人的には考 えています。
メーカーがシステム開発 や物流のオペレーションに関わってい る余裕はないはずです。
本業への特化 を進めるべきだと思います」 ──一方、日本の国内市場では、総 合商社によって卸の系列下が進んでい ます。
「私がAGFで物流責任者を務めて いた一〇年前に比べると、上位五、六 社への集約化が進みました。
その理由 は何より物流コストを下げる必要があ ったからです」 「本業特化」を急げ 「最大手の三菱食品を例に挙げると、 九〇年代には『RKG』(系列の基幹 店)として全国に一九〇カ所以上あっ た拠点が今は一〇分の一ぐらいに集約 されました。
国内で高速道路を中心 に、道路網が格段に整備されたのに伴 い、大手卸の拠点の集約が進みました。
それにより、メーカーは工場直送で一 度に大量の商品をセンターに納品する ことができるようになった。
当然、物 流費は下がります」 「そうしなければ卸は存在意義を失 ってしまうところでした。
大手チェー ンとメーカーが直接取引したほうが効 率的であるなら、当然ながら皆そちら になびいてしまう。
卸の集約が大きく 進んだために、そのような事態を何と か回避することができた。
一部大手小 売りの直接取引が、実際には当初予想 されたほどには広がらなかったのはそ のためです」 ──中間流通の集約が進んだことでメ ーカーの戦略はどう変わっていくので しょうか。
「一つは取引制度改革ですが、これ は既に進んでいます。
味の素は一九九 五年に取引制度改革の一環として、い わゆるオープン価格制を導入しました。
過去三年間の取引実績をベースにして 卸への納価を決めるというやり方です。
そうなると大量に扱っているところの ほうが安く仕入れられるというボリュ ームディスカウントの理屈が利いてく る。
このやり方が他のメーカーにも広 がって、市場に完全に定着していくの ではないでしょうか」 「小売りもボリュームディスカウント を重視した取引を進めています。
大手 の大半は各カテゴリーの売れ筋アイテ ムをリストアップして、対象を絞り込 むことで競争力のある値段を引き出し ている。
そうなると商談相手の数は物 理的に十数社程度に絞られてきますの で、そこに入れないメーカーの商品は 棚に並ばないことになります。
それだ けブランド力、商品力が重要になって くる」 ──物流戦略も変わりますか。
「今年二月、味の素は野村総合研究 所(NRI)とITサービスの戦略的 業務提携を結び、子会社の味の素シス テムテクノの株式の過半をNRIに売 川島孝夫(かわしま・たかお) 1966年大阪外国語大学( 現大阪大学 外国語学部)卒業、ゼネラル・フーヅ(現 味の素ゼネラルフーヅ)入社。
ロジスティ クス部長兼情報システム部長などを経て、 2001〜05年常勤監査役。
06年東京海 洋大学客員教授、07〜12年同大学院科 学技術研究科教授(食品流通安全管理専 攻)。
12年、川島ロジスティクス研究所設 立。
現在に至る。
12年10月タイ荷主協 議会(TNSC)日本代表就任。
