2012年12月号
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第81回 全日本空輸 新たなステージへ足を踏み入れたANA復活したJALとの競争に積極策で挑む
DECEMBER 2012 60
過去最高益更新目指す
足元、世界の航空業界を取り巻く環境は厳し
い。
十月に国際航空運送協会(IATA)が公 表した二〇一二年収益見通しによると、世界の 航空会社の当期純利益は一〇年の一九二億ユー ロ(約二兆円)を直近のピークとして減少に転 じ、一一年は八四億ユーロ、今年一二年は四一 億ユーロ(約四二〇〇億円)に半減する見通し である。
一三年には七五億ユーロへ回復が見込 まれているが、欧州金融危機や原油価格動向な ど外部環境の不透明感は拭えず、決して楽観で きる状況とは言えないだろう。
このような環境の中、全日本空輸(以下「A NA」)の営業損益は、〇九年度五四二億円の 営業赤字から一〇年度は六七八億円の営業黒字 へV字回復を果たした後、一一年度は九七〇億 円と過去最高益を更新、一二年度も会社側は一 一〇〇億円へと連続増益を予想している。
好調な業績の背景には、国際線事業における 積極的な規模拡大策と円高などを背景とする堅 調な海外旅行需要の伸びに加え、LCC(格安 航空会社)の本格参入や最大のライバル日本航 空(以下「JAL」)復活に伴う競争激化に備 えるための徹底的なコスト削減努力がある。
国際線の規模拡大に関しては、JALが一〇 年一月の会社更生法適用申請以降、その再建過 程において不採算路線からの撤退を推し進める なか、ANAは一〇年度から年率二桁ペースで 供給拡大を積極的に進め、JALとの国際線事 業規模の格差を一気に詰めた。
JAL更生法申請前の〇八年度決算比較で はANAの国際線旅客数はJALの四〇%に 満たなかったが、直近一一年度決算ではJAL の八六%となり、ほぼ肩を並べる状況となった。
JALは同時に国内線の事業規模も大幅に圧縮 したことから、国内・国際旅客収入合計では一 一年度、JAL八六六四億円に対しANA九七 一六億円と逆転し、売上規模で日本最大の航空 会社となった。
コスト削減については、「二〇一二〜一三年度 ANAグループ経営戦略」(以下「中計」)にお いて、期間中に累計五五〇億円、さらに一四年 度には累計で一〇〇〇億円のコスト削減策を打 ち出している。
JALが更生期間中のリストラ によりコスト体質を様変わりさせており、AN Aも可能な限り前倒しでの実現を迫られている。
一一年度は中計期間入りを前に八〇億円の費用 削減効果を取り込み、過去最高益実現を後押し した。
一方、LCCとの競合激化に備えるため、自 らピーチ・アビエーション(以下「ピーチ」)、エ アアジア・ジャパン(以下「AAJ」)のLC C二社を共同出資で設立するなど、積極姿勢を 全日本空輸 新たなステージへ足を踏み入れたANA 復活したJALとの競争に積極策で挑む 積極的な規模拡大、円高による海外旅行需要 拡大、徹底的なコスト削減などにより大きく利 益を伸ばし、国内トップに躍り出たANAの前に、 会社更生で体質が様変わりした「最大のライバ ル」JALが立ちはだかる。
LCCも存在感を 増しており、競争は激化する一方だ。
第81回 板崎王亮 SMBC日興証券 シニアアナリスト 61 DECEMBER 2012 打ち出している。
特にAAJはANAが六七% (無議決権を含めると五一%)のマジョリティを 出資しており、グループ収益拡大の一つのドラ イバーとしての位置付けは明確だ。
また、一三年四月以降は持株会社制への移行 を予定しており、フルサービスキャリア(FSC) であるANA事業会社とLCCのAAJ、ピー チを持株会社の傘下に並列配置する。
変化する マーケットに機動的に対応できる経営体制の構 築が目的である。
さらに今年七月、総額一七三〇億円規模の公 募増資を実施した。
財務体質が大幅改善したJ ALとの相対的格差を縮小する防衛的側面もあ るが、新鋭機材の購入やアジア航空会社への出 資など攻めの経営戦略の原資確保という攻守両 面の意味合いがある。
実際、公募増資実施後の 九月、ANAは戦略機材B787を十一機追加 発注すると公表し、同社の同機確定発注機数は 六六機(既に一五機は導入済み)となった。
以上のように体制を整え、ANAは改めて成 長機会と競争リスクの併存する次のステージの スタート地点に立つ。
一三年から一五年にかけて、我が国の航空市 場は、羽田・成田の首都圏空港発着枠拡大とい う大きなイベントを控えている。
都心からの利便 性が高い羽田空港は一三年度末までに昼間発着 枠が現状の年三万回から六万回に倍増(一日約 四一便の増便余地に相当)する予定のほか、成 田空港でも一三年夏に一日二万回、一四年度末 にかけて更に三万回、計五万回(一日約六八便 に相当)拡張される見通しである。
ANAは中計において、一二年度十二・一% (一一年度決算発表時点で十一・九%に微修正 されている)、一三年度一五・〇%と引き続き 二桁ペースでの国際線供給量(ASK:有効座 席キロ)拡大を計画している。
更生期間中新機 材発注を停止していたJALに対して機材面で の増便余力が大きいということもあるが、発着 枠拡大のタイミングを最大限活用して成長につ なげたいという積極性が目立つ。
増便に際しては、北米ではユナイテッド・コン チネンタル、欧州ではルフトハンザ航空、スイス インターナショナルエアラインズ、オーストリア 航空との独禁法適用除外(ATI)のジョイン トベンチャーを活用し、顧客利便性を高め、過 度な競争を抑制しつつ規模拡大のメリットを追 求するものとみられる。
トップの求心力が成長の鍵 一三年度以降は、事業規模拡大に加え、競争 激化に対する危機感を社内で共有し、累計一〇 〇〇億円規模のコスト削減を完遂することで利 益成長の継続を目指している。
ただ、規模拡大やコスト抑制を過度に追求す れば相応にリスクも大きくなる。
昨今における 対中韓関係悪化による旅客減少懸念など、特に 国際線ビジネスでは収益変動リスクが大きい。
か つて米国の同時多発テロやSARS(重症急性 呼吸器症候群)流行など大きな需要減少を伴う イベントの多発を契機に、機材小型化によるダ ウンサイジングへ大きく舵を切ったことなど、A NAの迅速かつ的確な経営判断には一定の評価 がある。
今後も、LCCの存在感が高まるにつ れて、FSCとの最適な路線配分など、迅速な 経営判断はより重要となるだろう。
コスト面では、累計一〇〇〇億円のコスト抑 制策のうち半分近い四八五億円が人件費関連 (外部委託費を含む)となっている。
当然、達 成に向けて一定数の人員スリム化や給与体系変 更は避けられないだろう。
ANA躍進の背景として、あらゆる部署単位 で顧客ニーズを吸い上げ、それを的確にサービ ス向上にフィードバックさせることでANAを 積極的に選んでくれるファンを着実に増加させ たことも大きいと思われる。
このような努力は、 サービス業的色彩の強い航空ビジネスにおいて、 経営を支える非常に重要な戦略であり、こうし た取り組みを真に継続するには従業員のモチベ ーション維持・向上が必須である。
ANAが我が国の代表的エアラインとして成 長を続けるには、攻めの姿勢と迅速かつ的確な 判断を下せる経営姿勢の柔軟性維持、さらに従 業員の意欲に特に深くかかわる制度変更等の遂 行にあたって毅然とした対応をしつつも、十分 な説明を尽くすというスタンスが必要だろう。
最 も重要なのは経営トップの求心力と言えるかも しれない。
いたざき おおすけ 一九八八年三月神戸市外国語大 学卒業、同年四月岡三証券入社。
シュローダー証券、INGベアリ ング証券、クレディ・スイス証券 を経て現職。
八八年以来、運輸セ クターを中心にアナリスト活動を 展開している。
十月に国際航空運送協会(IATA)が公 表した二〇一二年収益見通しによると、世界の 航空会社の当期純利益は一〇年の一九二億ユー ロ(約二兆円)を直近のピークとして減少に転 じ、一一年は八四億ユーロ、今年一二年は四一 億ユーロ(約四二〇〇億円)に半減する見通し である。
一三年には七五億ユーロへ回復が見込 まれているが、欧州金融危機や原油価格動向な ど外部環境の不透明感は拭えず、決して楽観で きる状況とは言えないだろう。
このような環境の中、全日本空輸(以下「A NA」)の営業損益は、〇九年度五四二億円の 営業赤字から一〇年度は六七八億円の営業黒字 へV字回復を果たした後、一一年度は九七〇億 円と過去最高益を更新、一二年度も会社側は一 一〇〇億円へと連続増益を予想している。
好調な業績の背景には、国際線事業における 積極的な規模拡大策と円高などを背景とする堅 調な海外旅行需要の伸びに加え、LCC(格安 航空会社)の本格参入や最大のライバル日本航 空(以下「JAL」)復活に伴う競争激化に備 えるための徹底的なコスト削減努力がある。
国際線の規模拡大に関しては、JALが一〇 年一月の会社更生法適用申請以降、その再建過 程において不採算路線からの撤退を推し進める なか、ANAは一〇年度から年率二桁ペースで 供給拡大を積極的に進め、JALとの国際線事 業規模の格差を一気に詰めた。
JAL更生法申請前の〇八年度決算比較で はANAの国際線旅客数はJALの四〇%に 満たなかったが、直近一一年度決算ではJAL の八六%となり、ほぼ肩を並べる状況となった。
JALは同時に国内線の事業規模も大幅に圧縮 したことから、国内・国際旅客収入合計では一 一年度、JAL八六六四億円に対しANA九七 一六億円と逆転し、売上規模で日本最大の航空 会社となった。
コスト削減については、「二〇一二〜一三年度 ANAグループ経営戦略」(以下「中計」)にお いて、期間中に累計五五〇億円、さらに一四年 度には累計で一〇〇〇億円のコスト削減策を打 ち出している。
JALが更生期間中のリストラ によりコスト体質を様変わりさせており、AN Aも可能な限り前倒しでの実現を迫られている。
一一年度は中計期間入りを前に八〇億円の費用 削減効果を取り込み、過去最高益実現を後押し した。
一方、LCCとの競合激化に備えるため、自 らピーチ・アビエーション(以下「ピーチ」)、エ アアジア・ジャパン(以下「AAJ」)のLC C二社を共同出資で設立するなど、積極姿勢を 全日本空輸 新たなステージへ足を踏み入れたANA 復活したJALとの競争に積極策で挑む 積極的な規模拡大、円高による海外旅行需要 拡大、徹底的なコスト削減などにより大きく利 益を伸ばし、国内トップに躍り出たANAの前に、 会社更生で体質が様変わりした「最大のライバ ル」JALが立ちはだかる。
LCCも存在感を 増しており、競争は激化する一方だ。
第81回 板崎王亮 SMBC日興証券 シニアアナリスト 61 DECEMBER 2012 打ち出している。
特にAAJはANAが六七% (無議決権を含めると五一%)のマジョリティを 出資しており、グループ収益拡大の一つのドラ イバーとしての位置付けは明確だ。
また、一三年四月以降は持株会社制への移行 を予定しており、フルサービスキャリア(FSC) であるANA事業会社とLCCのAAJ、ピー チを持株会社の傘下に並列配置する。
変化する マーケットに機動的に対応できる経営体制の構 築が目的である。
さらに今年七月、総額一七三〇億円規模の公 募増資を実施した。
財務体質が大幅改善したJ ALとの相対的格差を縮小する防衛的側面もあ るが、新鋭機材の購入やアジア航空会社への出 資など攻めの経営戦略の原資確保という攻守両 面の意味合いがある。
実際、公募増資実施後の 九月、ANAは戦略機材B787を十一機追加 発注すると公表し、同社の同機確定発注機数は 六六機(既に一五機は導入済み)となった。
以上のように体制を整え、ANAは改めて成 長機会と競争リスクの併存する次のステージの スタート地点に立つ。
一三年から一五年にかけて、我が国の航空市 場は、羽田・成田の首都圏空港発着枠拡大とい う大きなイベントを控えている。
都心からの利便 性が高い羽田空港は一三年度末までに昼間発着 枠が現状の年三万回から六万回に倍増(一日約 四一便の増便余地に相当)する予定のほか、成 田空港でも一三年夏に一日二万回、一四年度末 にかけて更に三万回、計五万回(一日約六八便 に相当)拡張される見通しである。
ANAは中計において、一二年度十二・一% (一一年度決算発表時点で十一・九%に微修正 されている)、一三年度一五・〇%と引き続き 二桁ペースでの国際線供給量(ASK:有効座 席キロ)拡大を計画している。
更生期間中新機 材発注を停止していたJALに対して機材面で の増便余力が大きいということもあるが、発着 枠拡大のタイミングを最大限活用して成長につ なげたいという積極性が目立つ。
増便に際しては、北米ではユナイテッド・コン チネンタル、欧州ではルフトハンザ航空、スイス インターナショナルエアラインズ、オーストリア 航空との独禁法適用除外(ATI)のジョイン トベンチャーを活用し、顧客利便性を高め、過 度な競争を抑制しつつ規模拡大のメリットを追 求するものとみられる。
トップの求心力が成長の鍵 一三年度以降は、事業規模拡大に加え、競争 激化に対する危機感を社内で共有し、累計一〇 〇〇億円規模のコスト削減を完遂することで利 益成長の継続を目指している。
ただ、規模拡大やコスト抑制を過度に追求す れば相応にリスクも大きくなる。
昨今における 対中韓関係悪化による旅客減少懸念など、特に 国際線ビジネスでは収益変動リスクが大きい。
か つて米国の同時多発テロやSARS(重症急性 呼吸器症候群)流行など大きな需要減少を伴う イベントの多発を契機に、機材小型化によるダ ウンサイジングへ大きく舵を切ったことなど、A NAの迅速かつ的確な経営判断には一定の評価 がある。
今後も、LCCの存在感が高まるにつ れて、FSCとの最適な路線配分など、迅速な 経営判断はより重要となるだろう。
コスト面では、累計一〇〇〇億円のコスト抑 制策のうち半分近い四八五億円が人件費関連 (外部委託費を含む)となっている。
当然、達 成に向けて一定数の人員スリム化や給与体系変 更は避けられないだろう。
ANA躍進の背景として、あらゆる部署単位 で顧客ニーズを吸い上げ、それを的確にサービ ス向上にフィードバックさせることでANAを 積極的に選んでくれるファンを着実に増加させ たことも大きいと思われる。
このような努力は、 サービス業的色彩の強い航空ビジネスにおいて、 経営を支える非常に重要な戦略であり、こうし た取り組みを真に継続するには従業員のモチベ ーション維持・向上が必須である。
ANAが我が国の代表的エアラインとして成 長を続けるには、攻めの姿勢と迅速かつ的確な 判断を下せる経営姿勢の柔軟性維持、さらに従 業員の意欲に特に深くかかわる制度変更等の遂 行にあたって毅然とした対応をしつつも、十分 な説明を尽くすというスタンスが必要だろう。
最 も重要なのは経営トップの求心力と言えるかも しれない。
いたざき おおすけ 一九八八年三月神戸市外国語大 学卒業、同年四月岡三証券入社。
シュローダー証券、INGベアリ ング証券、クレディ・スイス証券 を経て現職。
八八年以来、運輸セ クターを中心にアナリスト活動を 展開している。
