2012年1月号
特集

第2部 グローバル競争のSCM戦略 「経営スピードの圧倒的な違いに気付け」 野村総合研究所 藤野直明 上席コンサルタントビジネスイノベーション事業部長

JANUARY 2012  20  世界のエクセレントカンパニーはS&OPプロセスを従来か ら愚直に運用してきた。
長期の計画と短期のオペレーショ ン計画を統合するために、18カ月先までの事業計画のロー リングを毎月繰り返してきた。
その仕組みを持たない限り、 複雑なサプライチェーン問題の意思決定は下せない。
(聞き手・大矢昌浩) 野村総合研究所 藤野直明 上席コンサルタント ビジネスイノベーション事業部長 エクセレントカンパニーは実行している ──S&OPは、一八カ月先までの事業計画を立案 し、毎月調整してローリングさせるというプロセスを 採ります。
しかし日本企業はこれまで年度単位か四 半期単位で動いてきました。
一八カ月という時間軸 には馴染みがない。
これは海外の企業も同じだと思 います。
本当に彼等は一八カ月で計画を回すという 面倒な作業を行っているのでしょうか。
 「実は私も同じ疑問を感じて欧米の企業を調べたこ とがあります。
その結果、一部のエクセレントカンパ ニーでは本当にやっていた。
金額計画と数量計画の 整合性がとれた事業計画を組織横断型で立案し、毎 月ローリングするというプロセスを従来から運用して いることがわかりました」  「当初は現在のような計画系ソフトもなかったので、 それこそ表計算ソフトを使って計画の調整を図って いたようです。
それでは調整負荷の限界があるため、 計画単位としては製品群レベルでした。
それが現在 は統合型の計画系ソフトが導入されて、製品やコア部 品レベルにまで落とし込まれている。
その結果、事 業計画が日常のサプライチェーンのオペレーションと も結びつくようになってきた」  「いわゆる三階層の計画が完全に統合できる段階ま で進化してきたといえるでしょう。
三階層の計画と いうのは、一つは最上層の三年〜五年スパンの年次メ ッシュの長期経営計画です。
そしてもう一方に、三 カ月スパン、週次単位、週次サイクルのオペレーショ ン計画がある。
この二つの中間に、一八カ月から二 四カ月スパンで、月次メッシュ、月次でローリングす るS&OPの組織横断型統合事業計画が置かれてい るわけです」 ──その結果、何が違ってくるのでしょうか。
 「経営のスピードです。
めまぐるしく変化する環境 変化への適応力、特に投資領域での意思決定の迅速 さが圧倒的に違ってきます。
例えばリーマンショック 後の対応でも、需要が急減したことを受けて、その 一カ月後には拠点を売却するといった動きに出たグロ ーバルメーカーがありました。
それを見た日本企業は 皆、呆然とした。
“ウチは一カ月経って、ようやく在 庫が見えてきたところなのに、彼等はなぜそんな経 営判断ができるのだ。
ウチだったら逆立ちしたって 無理だ”と」  「そうしたグローバルメーカーの素早い経営判断を S&OPのプロセスが支えています。
S&OPは在庫 や物流だけの話ではありません。
そこで志向されて いるのは単なる製販の連携ではなく、製品開発、マ ーケティング、財務を含めた全ての機能別組織の連携 です。
それによって経営そのものが変わってくる」 ──どう変わるのですか。
 「例えば、製品開発部門が新しい技術を発明したと します。
新製品にその技術を組み込めば、コストが 下がり、品質も向上する。
しかし、そうするには新 製品のリリースを二カ月遅らせなければならない。
こ うした場合、日本企業が従来から行ってきた年度単 位、あるいは四半期単位の経営会議では、計画の変 更に対応できません」  「リリースを遅らせるには、マーケティング部門、営 業部門、生産部門、財務部門など計画を全て変更し なければなりません。
しかし、その調整は次の経営 会議まで待たなくてはならない。
結局“その話は来 期から対応することにしよう。
今からでは調整が間 に合わない”となってしまう」 ──S&OPがそれほど重要であるなら、なぜ日本 「経営スピードの圧倒的な違いに気付け」 グローバル競争のSCM戦略 特集 企業はこれまで軽視してきたのでしょうか。
 「これまで日本では、経営計画とは現場の努力に よって達成するものだという考え方が中心的でした。
そのやり方でもこれまでは成功していた。
日本市場 や米国市場の安定的な成長という恵まれた環境があ ったからです」 ──しかし、今はそんな環境にありません。
 「今でも日本の経営者の多くが、“ウチは現場力が 強いから任せていれば大丈夫です”と言います。
製 品開発技術者もプライドを持っている。
“我々は決し て技術では負けていない。
しかし、経営力では負け ている気がする。
これはトップのリーダーシップの問 題かもしれない”と陰口を叩いている。
しかしなが ら、厳密にはそうではありません。
問題は、機能別 組織を跨った組織横断型の調整力が弱いのです」  「それをトップのリーダーシップのせいだと言えば、 そう言えないこともありませんが、トップが号令を かけるというイメージとは異なります。
そこで求め られているのは、ボードメンバーが計画調整に基づく 意思決定を、環境変化に適応しつつ継続的に行い続 ける、という冷静で緻密な調整活動です。
“ものづく り”を誇る日本企業に共通の弱点かもしれません」 ──しかし、既に日本メーカーは広く海外に拠点を展 開しています。
S&OPの仕組みを持たない状態で、 これまでどうやって投資判断してきたと考えれば良 いのでしょう。
どこにいくら投資すれば、どれだけ のリターンが回収できるのか、S&OPの仕組みがな ければ判断できないはずです。
 「一概にはいえませんが、サプライチェーンが地域 内で閉じていた時代には、その地域の地域本社に権 限を持たせ、その地域内で投資が行われてきました。
地域本社が全社的に見て最適な投資なのかを考える 必要はなかった。
また、設備投資は長期間の償却を 伴う不可逆投資ですが、若干の過剰投資になっても、 現地市場が成長してくれていたので大きな問題には ならなかった」 地域本社には任せられない ──日本企業もS&OPを導入する必要はあります か。
 「グローバル企業にとってS&OPは必須の機能で す。
今やサプライチェーンは世界中に広がっています。
国や地域を跨って製品や部品が行き交い、製造工程 も複雑に分散・連携しています。
もはや地域本社に サプライチェーンネットワークの設計を任せることは 難しくなりました」  「今日のグローバル経営においては、当該市場での 自社製品のポジショニング、競合商品の状況、チャネ ル別の販促方法、六カ月後の製品販売戦略、商品投 入の時期、商品の調達ルート、生産設備の状況、拠 点投資、ライン投資の必要性といった様々な項目が、 国や地域を跨いで展開されています。
需要変動だけ でなく、為替変動や人件費の変動などもそこに絡ん できます。
組織化されていない現場レベルの調整活 動でこうしたサプライチェーンの効率化を図ろうとし ても対応は難しい」  「しかも環境の変化はどんどん激しくなっています。
将来のことなど誰も予測できないなどといって、何 の備えもせず、必要に迫られてから情報を集めてい ているのでは遅すぎます。
競争に勝ち残っていくに は、グローバルに広がったサプライチェーンネットワー ク全体の環境変化を洞察し、整合した計画を立案し、 かつ機敏に、柔軟に変化させていく能力が必要なの です」 21  JANUARY 2012

月刊ロジスティクス・ビジネス

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