2012年1月号
特集

第4部 日本のS&OPはどこまで来たか ハウス食品──市場対応型の生産供給体制を構築

JANUARY 2012  28 ハウス食品 ──市場対応型の生産供給体制を構築 欠品と過剰在庫を同時に削減  ハウス食品の一〇年越しのサプライチェーン改革 が、着実に成果を挙げている。
二〇〇一年度から一 一年度上期までの間に、過剰在庫の発生に伴う「商 品廃棄コスト」は六三%削減された。
売れ残り商品 を処理するための「消化コスト」は六九%、「資材廃 棄コスト」は一九%減少した。
直近の三年分だけで、 この三つのコストの累計削減額は約四億五〇〇〇万 円にのぼる。
 欠品率も改善している。
かつては欠品で有名だった 同社だが、この数年は〇・五%を切る低水準で推移 している。
山口守世執行役員SCM部長は「需給管 理の精度を高めることで、過剰在庫の削減と欠品率 の改善を同時に進めてきた。
まだまだ道半ばではある が、一定の効果は上がっている」と胸を張る。
 同社の改革は、物流部を廃止し、新たにSCM部 を立ち上げた〇三年から本格化した。
それ以前も過 剰在庫や欠品に対する危機意識は強く持っていたが、 生産や販売をはじめとする各部門の責任者が顔をつ きあわせて話し合っても、互いの利害や感情が障壁と なり、明確な解決法を導き出すことはできなかった。
 当時のハウスの需給体制は、営業部が立てた売上予 算を食品部が集約して需要計画を立て、それをもと に生産部が生産計画を立てるというものだった。
各 支店の営業マンは得意先への欠品を恐れるあまり、実 際の需要よりも多めに売り上げを見積もるのが常で、 結果的に過剰在庫が発生しても、営業部の責任が問 われることはなかった。
需要計画を立てていた食品 部も、メーンの役割はマーケティングや商品開発で、 詳細な需要分析を行う習慣は無かった。
 需要計画の確度は低い。
その通りに商品を作れば、 多くの過剰在庫が生まれることを経験則から学んで いる生産部は、独自の生産計画を立てていた。
しか し、その基になるデータの取り方は属人的で、需要 を読み違えたり、特売やキャンペーン等の大事な営業 情報が抜け落ちていることが多く、欠品や過剰在庫 の要因になっていた。
 欠品が発生すれば営業からクレームが付く。
しか し、計画通りに作れば過剰在庫が発生する。
需給に 関する互いの信頼関係は強固とは呼べなかった。
そ れぞれが部門最適を優先させる状態が続いていた。
 そこで、経営トップの強いコミットメントの下、全 社の需給管理を一元的に統括し、在庫に対する責任 と権限を負うSCM部門を〇三年七月に発足させた。
物流部を母体として、そこに生産、販売、情報シス テムなどから人材を送り込み、クロス・ファンクショ ナルな部隊を組織した。
 SCM部はまず、それまで食品部が担当していた 需要計画と生産部が担当していた生産計画の立案機 能を取り込んだ。
SCM部が発信する数値に基づいて 全部門が動く体制に移行した。
さらに、在庫計画と 各地のデポへの補充計画を連動させることで、適正な 数量の商品を安定的に供給できる仕組みを目指した。
 需要計画や生産計画の精度やスピードを上げるた め、発足から一年後の〇四年四月にはSCMシステム の導入にも踏み切っている。
約五億円を投じて、米 マニュジスティックス社(現JDAソフトウェア)の ソフトを導入。
過去数期分のデータに基づき、取り扱 うアイテムすべての需要予測ができる体制を整えた。
需要予測のサイクルはアイテムによって異なるが、そ れまで担当者がエクセルや帳票で需給調整を行ってい た頃に比べると、圧倒的な効率化を実現した。
 しかし、稼働当初は苦労も絶えなかった。
組織と  部門最適から脱し、市場対応型の生産供給体制を構築す るため、2003年7月にSCM部を設立。
以降、需給計画業務 の統合や精度向上に努めてきた。
さらに2009年からはサプ ライチェーンのオペレーションを経営レベルの事業計画と結 びつける取り組みもスタート。
コスト削減を越えた貢献を目 指している。
                (石鍋 圭) 日本のS&OPはどこまで来たか 特 集 29  JANUARY 2012 ITインフラを整えたものの、営業から上がってきた 情報を分析して精度の高い計画を作り出す能力がS CM部に十分備わっていなかった。
若狭秀岳SCM 部SCM一課長は「特に最初の一、二年の間の精度 はひどかった。
当然、欠品も過剰在庫も生まれるこ とになり、関係部署には迷惑をかけた。
必要な情報 の収拾や選別、的確な分析などができるようになる まで三年ほどかかった」と振り返る。
 欠品が出た場合には、営業部からの激しい反発に あった。
それでもSCM部は強権的な態度は取らず、 あくまで社内コンセンサスの形成に務めた。
営業部の 支店を回り、SCMの目的、内容、役割を粘り強く 説明し、責任所在と各部門間のルールの明確化に務 めた。
こうした努力は、現在でも継続している。
情報メッシュを週次から日次に  SCMの概念が浸透していくことで、営業サイド の態度も変わっていった。
例えば、新たな体制では 特売などをはじめとする必要な情報をSCM部に提 供しなければ、必要な商品が自分達に回って来ない。
このため、それまでは得意先への売り上げが第一で 情報や在庫には興味が無かった営業も、積極的にS CM部に必要な情報を上げるようになっていった。
こ うしたことが、結果的に需要予測精度の向上、さら には営業との信頼構築に繋がっているという。
 SCM部が運用に慣れはじめ、計画の精度も上が ってくると、目に見えて過剰在庫と欠品は減ってい った。
〇九年には資材の調達機能も統合し、需給調 整に携わる機能は全て統合し終えた。
さらに二〇一 〇年には、SCMシステムのバージョンアップのタイ ミングに合わせて、さらなる効率化に着手している。
 まず特売をはじめとする営業関連の情報を日次で取 り込めるよう変更した。
「それまでは週次で取り込ん でいたが、急な企画などが入ると対応できずに、需 給に乖離が生じてしまっていた。
日次で取り込み、そ れを在庫の補充計画と紐付けることでそのギャップに 対応できるようにした」と若狭SCM一課長は言う。
 生産計画の確定から実際の生産開始までの期間に もメスを入れた。
従来は立案した生産計画が実行に 移されるのは翌々週だったが、これを翌週に早めるこ とで、市場対応型の生産供給体制を構築している。
 移行には半年間の準備期間を設けた。
工場の人員 計画やラインのスケジュールはあらかじめ決められて いる。
資材のサプライヤーとの調整も必要だった。
そ のため条件の整ったアイテムやラインを選んで順次、 適用を進めていった。
 さらに、SCM開始時には数量ベースでの管理が 基本だったが、これを金額ベースに置き換えて、経 営レベルの事業計画と連動させる取り組みも〇九年 から開始している。
これによってサプライチェーンの 業務が、事業計画のどの数字に、どれだけのインパ クトを与えているのかが把握できるようになった。
 山口SCM部長は「これまでの取り組みは主にオ ペレーションを効率化することによるコスト削減がメ ーンテーマだった。
今後はそれに加えて、ハウス全体 のビジネスプロセスの革新に繋がるような貢献をして いきたい。
そのためには、自分達の仕事を金額ベー スで示す必要がある」と説明する。
 SCM部が経営陣に提案して、生産ラインへの設 備投資を実現するといった実績も既に上がっている。
具体的な金額で投資対効果を明確に示すことでそれ が可能になった。
ハウスが社内で「S&OP」とい う言葉を使っているわけではない。
しかし同社は既 にその入口に立っている。
若狭秀岳SCM部 SCM一課長 山口守世執行役員 SCM部長 SCMの業務連携イメージ クロスファンクショナルな部門を設置し、 全社最適の観点での需給計画立案&調整&評価 ※ハウス食品資料より SCM部(計画業務の精度アップ・短期生販在) 計画立案と精度に責任を持つ! 需要予測&需要計画 ・需要トレンド、季節要因の織込み ・受動/能動イベント要因の織込み 在庫計画(在庫水準と配置) ・予測誤差を吸収する安全在庫 ・供給能力逼迫に備えた備蓄在庫 補充計画 生産所要計画(必要量) 需要計画と在庫計画を満たす為に必要な生産所要 生産計画(実行計画) 生産に必要な各種資源制約を勘案した実行可能計画 資材調達 機能 食品部・FS 事業部・支店 売上目標 配車計画 輸送 原包材生産 販促企画 ・販促情報 ・CM ・、、、 (最終政策決定) 生産部(中・長期の生産計画、人員体制策定) サプライヤー 生産 協力会社 製造日程計画 生産順序等を加味した実行計画 生産 原料 360 社 包材  80社 協力会社(工場) 65 社 ハウス物流 サービス 資材部 原包材調達計画 (資材政策決定) 購買 要員計画 工事計画 ライン能力

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