2012年1月号
特集
特集
第5部 米ソニー・エレクトロニクスの挑戦
JANUARY 2012 32
米ソニー・エレクトロニクスの挑戦
CPFRの課題
そのイノベーションの歴史とともに、ソニーは長く
世界の家電市場に君臨してきた。
だが二〇〇九年半 ば、ますます競争が激しくなる中でその地位を維持 するため、ソニーは変革を余儀なくされることにな った。
テレビ製造業界では、それまでの五年間に液晶デ ィスプレイ技術が革命をもたらしていた。
技術力や品 質より、組み立て・スピード・コスト管理などに長け た新興勢力が市場で台頭した。
また〇八年終わりには、リーマン・ショックをきっ かけとする世界同時不況が起こり、メーカーと小売 りはいずれもキャッシュフローの改善と在庫圧縮に力 を入れるようになった。
そして北米第二位の家電量 販店サーキット・シティが経営破綻し、ソニー・エレ クトロニクス(SEL)は目先の対応策だけではなく 販売チャネルの大幅な見直しを迫られた。
そうした状況下で今後も競争力を維持していくに は、SCMの改革が必要不可欠であることをソニー の経営陣は認識した。
そしてもっとも急を要するグ ローバルレベルでのサプライチェーンの課題に直ちに 着手した。
製造・物流・調達・CSを担当する中川裕副社長 は、サプライヤーの数を五割以上削減し、さらにプロ セス改善と支払条件の適正化によって二〇一〇年度 の調達コストを二割減らすという目標を定めた。
製 造委託先を確保したうえで複数の生産設備も売却し た。
こうしたコスト削減策はほんの手始めに過ぎなかっ た。
直接の顧客である大手小売りとの、一層緊密な 協力関係を築く方法を発見する必要があった。
ここ からサプライチェーン・パフォーマンスを最適化する ための探求が始まった。
その点でソニーの米国における販売会社であるS ELは、イニシアティブをとるのにふさわしい存在だ った。
SELは長年にわたって小売りとの良好な関 係を培い、多くの小売りとEDI(電子データ交換) で結ばれていた。
小売店舗レベルのPOS情報まで 得ているケースもあった。
だが、解決すべき課題もあった。
たとえば、集め たデータをすべて活用しているわけではなかった。
せ っかく入手した情報を、それを役立てることのでき る担当部門に適切に提供できずにいた。
膨大なファ イルから有益な情報を選り分けること自体にも難儀 していた。
そのためサプライチェーンの計画・予測プ ロセスは、その場しのぎの対応に終始しがちだった。
既に当時からSELは大手小売りとの「CPF R( Collaborative Planning Forecasting and Replenishment)」に取り組んでいた。
しかし、さま ざまなグループがどのようにCPFRプロセスを実行 するかについては統一がとれていなかった。
たとえば、小売各社に割り当てる製品と数量を決 める権限を持つ本社のチャネル・マネジメント・チー ムでさえ、CPFRの会議(カンファレンスコール) に常に参加しているわけではなかった。
CPFR会議で何を討議し、そのためにどんなデ ータを準備する必要があるのかもはっきりとは決まっ ていなかった。
前もって議題が決まっていないと往々 にして、次の四半期の予測よりも先週の結果を議論 する方に時間を費やすことになってしまう。
また海外のサプライヤーに正確な予測を伝えるため には、すべての顧客からの需要情報を取りまとめて 整理するという、人手による膨大な作業が必要とさ 米ソニー・エレクトロニクスは2009年に「S&OP」と「CPFR」 の統合を実施した。
大手小売りとのコラボレーションによって、 予測精度の向上と在庫オペレーションの最適化を図った。
そ の結果、メーカーと小売り双方の期待を大きく上回る成果を 上げることができた。
特 集 33 JANUARY 2012 れる。
そのためにサプライヤーは週次の状況変化に対 応することができずにいた。
月次で動くしかないた めに、需要と供給のギャップが発生してしまうことが あった。
こうしたプロセスを最適化するため、SELでサプ ライチェーン・オペレーション部門の責任者を務める ユカ・ユウVP( Vice President)は、計画と予測 の改善策を研究する専門チームを組織した。
この組織横断型のチームには販売、ビジネス・プラ ンニング、チャネル・マネジメント、サプライチェー ンの各部門からメンバーが集められた。
チームはこれ までのCPFRのレビューを、標準化された指標を 用いて厳密に管理運営する週次会議として定義し直 した。
その指標とは、チャネルごとの「週単位在庫 計画」や、「オーダー・トゥ・コミットメント(ソニ ーが顧客の需要予測に対してコミットした量に対して 顧客が実際に発注した量)達成度」などである。
さらに、会議のプロセス、役割、参加規則などの 標準的運営手順を定め、会議における各人の役割と 責任を明確化した。
会議の話し手には、アカウント・ セールス・チーム、デマンド・プランナー、チャネル・ マネジャー等、データにいちばん近い担当者が任命さ れ、事情に疎い聞き手が無闇に説明や究明を求めて 話を脱線させることは禁止された。
聞き手からの質問には、必要に応じて話し手が会 議以外の場で回答するというルールだ。
これによって 会議がうまく軌道に乗るようになり、説明が必要な 人間はその問題の担当者の部屋に行って直接情報を 聴き、適切な判断を下す体制が整った。
この最初のステップでCPFRにおけるパートナー シップのあり方が明確化され、小売りとのコラボレー ションに新たな視覚が加わることになった。
それまでいくつかのカテゴリーにおいては、主に “セル・イン”の量(ソニーが小売り向けに売った量) をベースに議論が行われていた。
これを改め、“セル・ スルー”の量(小売りが消費者に売った量──エン ドユーザーの需要をより正確に表す)、および販売予 測に基づいて週単位で決めるチャネル在庫の問題に力 点を移すことになった。
CPFR会議の運営方法を定めたことにより、ソ ニーとその顧客の双方がそれぞれのコミットメントを 達成するという目標がはっきりと定まった。
コラボレ ーションがしっかり確立されたことで、実態に基づい たS&OPに取り組む体制が整ったのである。
ただひとつの計画 次のステップで、CPFR会議での分析とパート ナーシップを一段と深いレベルに落とし込んだ。
ソニ ーは小売りに対してより長期的な“セル・イン”と “セル・スルー”の予測を要求する代わり、今後の製 品とプロモーションの計画を一層オープンにした。
加 えて、CPFR会議でやり取りされる情報を新たな 共通のプラットフォームに流し込んだ。
これによって、さまざまな機能を担う多様なステー クホルダーが、最新の販売・予測情報を閲覧できる ようになった。
統合された計画プラットフォームによ って、ソニーとパートナーたちは、全員が承認した需 要計画を得ることができるようになったのである。
そして最終的には、それを統合されたビジネス・ユ ニット予測に流し込むことで、S&OPに必要とさ れる“ただひとつの”計画ができあがる。
ソニーの 事業所へ納入するサプライヤーはこの計画を毎週参照 し、生産と配送のスケジュールを立てるわけである。
またプロダクト・グループは、最新の顧客需要と小 新旧製品の顧客指向型マーケティングプランをサプライチェーンのマネジメントに 導入することで、競争力獲得を目的として戦略的に経営を行う能力を培う継続的な プロセスをいう。
このプロセスにより、すべてのビジネスプラン(販売、マーケティング、 開発、生産、調達、財務)は統合された一つのプランにまとめ上げられる。
各プロ セスは最低限月に一度行われ、累計レベル(製品ファミリー単位)のマネジメントチー ムによる検討会が実施される。
また、供給・需要・新製品のプランが各製品と製 品ファミリー両方のレベルで首尾一貫し、ビジネスプランとも一致するよう運営され る。
これはある企業の計画を明確に表す、つまりリソース計画と年次のビジネス計 画プロセスの中間の範囲をカバーすることばである。
適切に運用されれば、販売・ オペレーションの計画プロセスによって戦略的計画が実行に移され、継続的改善 に役立つ業績評価の見直しもつながる。
セールス・アンド・オペレーションズ・プランニング(S&OP)とは? 昨今S&OPという概念は広く認知されている。
しかしそれを導入してい る企業はまだ少ないうえ、意味するところを誰もが正確に把握しているわ けではない。
ソニー・エレクトロニクスは『APICS Dictionary』第九版に 以下の定義を見つけたので引用する。
JANUARY 2012 34 売市場のトレンドも含む統合的事業予測に基づいて、 供給計画と販売チャネルへの製品割り当てに関して、 より戦略的な決定を下すことができるようになった。
あるテレビセットのシリーズが大型量販店チャネル ではよく売れるが、中小規模のローカル店チャネルで はそれほどでもないという場合、プロダクト・グルー プは事業所に対して大型量販店向けモデルを増産す るよう指示を出すといった調整が可能になった。
こうして関係者がそろって合意した需要予測を提 供することは、とりわけ競争の激しい液晶ディスプレ イ市場においてグローバルに需給をコントロールする うえで、必要不可欠なことだった。
実際、薄型テレ ビやラップトップパソコンに使われる液晶パネルは価 格変動の激しいコンポーネントで、それだけ厳密な管 理を必要とする。
すべての地域を網羅する需要計画ができたことで、 アジアにあるソニーの主要調達先である液晶パネル工 場では、部品調達と生産計画を効率的に行えるよう になった。
データベースを共有することで、実行管理とコラボ レーション促進のどちらにも活用できるKPIも得ら れた。
セル・イン、セル・スルー予測の正確さ、チ ャネルにおける週単位の在庫計画、オーダー・トゥ・ コミットメントの達成度、顧客の在庫率などである。
こうしたデータを集めてレポートする作業に、それ までは非常に人手がかかっていた。
必要なデータをい くつもの異なるシステムから引っ張ってこなければな らなかったからだ。
それが共通のデータベースを持つ ことで自動化され、一層タイムリーなレポートが可能 になった。
SELはシステムに取り込むデータを改善するため に、データがカバーする範囲の拡大とEDIで受け 取るPOS情報の質の向上にも、小売りと一緒に取 り組んだ。
そのためにモデルネームの微妙な間違いな どの、よくあるマッピング・エラーを見つけ出して修 正する「データクオリティ・マネジメント(DQM)」 のソフトウエアも導入した。
ウォルマートが取り組みを賞賛 次にSELは小売大手に低リスクの提案をした── CPFRの対象領域を、すでに提供してもらってい るセル・スルー量の総計に加え、各店舗レベルのデー タ解析にまで試験的に広げさせてもらえないだろう か?──と打診したのである。
この提案には、小売りの配送センター在庫が店舗レ ベルの需要に応じたものになっているか、あるいは ある特定の店舗のセル・スルーが平均を常に上回った り下回ったりしていないか、などといった事項に関 するSELからのフィードバック情報の提供も含まれ ていた。
このパイロット・プログラムは、四〜六週間の実施 期間を区切ったものだった。
パイロット・プログラム が終了した時点で、小売りはそのまま取り組みを続 けるか、あるいは追加情報の供与にメリットを感じな いのであれば止めるかを選択できた。
ソニーはこの情報処理のため、米国時間の夜間に 店舗レベルのデータ解析をするチームを、JDAソフ トウエアと共同でインドに設立した。
これにより翌朝 のCPFR会議で最新の分析結果を参照できるよう になった。
小売りの配送センター向けセル・インのオーダーが、 店舗レベルのセル・スルー量と足並みを揃えていない という分析結果が出れば、その情報は即座にCPF R会議で俎上に載せられる。
これによって小売りの S&OPプロセスの流れ 期間プロセスステップ 1. 市場・顧客 情報収集 需要レビュー 4 週目1 週目2〜3 週目4 週目 新製品 レビュー供給レビュー需給バランス調整財務計画エグゼクティブ・ ミーティング 2. 地域別需要 計画の レビュー 3. グローバル 需要計画の レビュー 4. 段階的導入 と廃番 5. 供給計画 レビュー 6. 需給バラン スとその シナリオ 7. 財務との 調整 8.( プレ)エグ ゼクティブ・ ミーティング 9. モニター・測定・修正 特 集 35 JANUARY 2012 バイヤーやプランナーにはそれ以後のオーダー量で齟 齬を調整する余裕ができる。
あるいは、ある店で特定モデルのセル・スルーが異 常に低下した場合、そのモデルが正しく陳列・値付 けされているか、その店舗で本当に販売しているか などをチェックすることができるようになった。
分析結果に素早くアクセスできるようになったこと の成果はすぐに現れた。
チャネルの在庫水準が同等 かそれ以下だったにもかかわらず、店舗での在庫レ ベルは最大一八%向上し、予測精度も最大四〇%改 善した。
いうまでもなく小売りはこれを歓迎した。
二〇〇 九年末に開かれたパイロット・プログラムの検討会議 では、ソニーがCPFRの議論に力を注いで店舗レベ ルでの改善に有益な助言を与えてくれたことへ、小 売各社の需要計画担当者から賞賛の声があがった。
試験段階を経てプラグラムを継続する包括的なアグ リーメントが締結され、小売側からは、いつどのよ うにしてカテゴリー・助言・情報共有などの面でいっ そう踏み込んだものにしていくのかについて質問が 出た。
この取り組みの成功を受けて、ウォルマートはSE Lを〇九年のサプライヤー・オブ・ザ・イヤーに認定 した。
この賞が評価対象とするのは対前年比の業績、 市場シェアの伸び、新技術と革新的デザインを提案す る能力、ウォルマートのオンライン部門へのサポート などである。
これら評価対象からもわかるように、この賞によ ってS&OPプログラムの価値、つまりサプライチェ ーンの改善と小売りとの密接な協力関係が、競争力 獲得と収益改善へ貢献することが認められたわけで ある。
「収益性を重視した意思決定」へ SELのS&OP探求は今もなお継続し、小売りと のコラボレーションは進展し続けている。
顧客のバイヤ ーや需要計画担当者との週次のCPFR会議に加え、 管理職レベルとの検討会議を四半期毎に開き、経営ク ラスの会議も半年に一度のペースで開催している。
ユカ・ユウVPは、こうしたコラボレーションへの 注力を、単純な“サプライチェーン”ではなく、“ト ラステッドチェーン”という言葉を使って説明してい る。
この言葉はソニーとそのパートナーたちの強い絆 が相互の信頼とコミュニケーションに基づくものであ ることを表している。
ソニーのトラステッドチェーンが次に目指すのは何 か? S&OPの次なる進化は“収益性を重視した 意思決定”である、とユウVPはいう。
つまり販売 とオペレーションの意志決定は、ソニーの売り上げと 利益だけではなく、小売りの「GMROI(商品投 下資本粗利益率)」をも最大化するものであるべきだ ということだ。
ただ単に注文・発送・販売数量といった目先の実 務的な指標について議論するだけではなく、その小 売りの顧客層をベースに、どのような組み合わせがそ の小売りにとってもっとも利益が上がり効果的なの か、あるいは利益も加味した多様な視点から見てど んな値付けが妥当なのか、といった話題にまで話が 及ぶようになるだろう。
こうしてソニーと小売りとのコラボレーションはオ ーダー・フローだけでなく、ビジネス・プラン、顧客 セグメンテーション戦略、長期的ビジョンにまで及ぶ。
それにより、ソニーは今後も家電市場で大きな存在 感を確保し続けることができるだろう。
※この記事は米ソニー・エレクトロニクスのYumiko Kato 氏の論文「Sony Electronics’ S&OP journey」を著者 の許可を得て本誌が要約したものです。
だが二〇〇九年半 ば、ますます競争が激しくなる中でその地位を維持 するため、ソニーは変革を余儀なくされることにな った。
テレビ製造業界では、それまでの五年間に液晶デ ィスプレイ技術が革命をもたらしていた。
技術力や品 質より、組み立て・スピード・コスト管理などに長け た新興勢力が市場で台頭した。
また〇八年終わりには、リーマン・ショックをきっ かけとする世界同時不況が起こり、メーカーと小売 りはいずれもキャッシュフローの改善と在庫圧縮に力 を入れるようになった。
そして北米第二位の家電量 販店サーキット・シティが経営破綻し、ソニー・エレ クトロニクス(SEL)は目先の対応策だけではなく 販売チャネルの大幅な見直しを迫られた。
そうした状況下で今後も競争力を維持していくに は、SCMの改革が必要不可欠であることをソニー の経営陣は認識した。
そしてもっとも急を要するグ ローバルレベルでのサプライチェーンの課題に直ちに 着手した。
製造・物流・調達・CSを担当する中川裕副社長 は、サプライヤーの数を五割以上削減し、さらにプロ セス改善と支払条件の適正化によって二〇一〇年度 の調達コストを二割減らすという目標を定めた。
製 造委託先を確保したうえで複数の生産設備も売却し た。
こうしたコスト削減策はほんの手始めに過ぎなかっ た。
直接の顧客である大手小売りとの、一層緊密な 協力関係を築く方法を発見する必要があった。
ここ からサプライチェーン・パフォーマンスを最適化する ための探求が始まった。
その点でソニーの米国における販売会社であるS ELは、イニシアティブをとるのにふさわしい存在だ った。
SELは長年にわたって小売りとの良好な関 係を培い、多くの小売りとEDI(電子データ交換) で結ばれていた。
小売店舗レベルのPOS情報まで 得ているケースもあった。
だが、解決すべき課題もあった。
たとえば、集め たデータをすべて活用しているわけではなかった。
せ っかく入手した情報を、それを役立てることのでき る担当部門に適切に提供できずにいた。
膨大なファ イルから有益な情報を選り分けること自体にも難儀 していた。
そのためサプライチェーンの計画・予測プ ロセスは、その場しのぎの対応に終始しがちだった。
既に当時からSELは大手小売りとの「CPF R( Collaborative Planning Forecasting and Replenishment)」に取り組んでいた。
しかし、さま ざまなグループがどのようにCPFRプロセスを実行 するかについては統一がとれていなかった。
たとえば、小売各社に割り当てる製品と数量を決 める権限を持つ本社のチャネル・マネジメント・チー ムでさえ、CPFRの会議(カンファレンスコール) に常に参加しているわけではなかった。
CPFR会議で何を討議し、そのためにどんなデ ータを準備する必要があるのかもはっきりとは決まっ ていなかった。
前もって議題が決まっていないと往々 にして、次の四半期の予測よりも先週の結果を議論 する方に時間を費やすことになってしまう。
また海外のサプライヤーに正確な予測を伝えるため には、すべての顧客からの需要情報を取りまとめて 整理するという、人手による膨大な作業が必要とさ 米ソニー・エレクトロニクスは2009年に「S&OP」と「CPFR」 の統合を実施した。
大手小売りとのコラボレーションによって、 予測精度の向上と在庫オペレーションの最適化を図った。
そ の結果、メーカーと小売り双方の期待を大きく上回る成果を 上げることができた。
特 集 33 JANUARY 2012 れる。
そのためにサプライヤーは週次の状況変化に対 応することができずにいた。
月次で動くしかないた めに、需要と供給のギャップが発生してしまうことが あった。
こうしたプロセスを最適化するため、SELでサプ ライチェーン・オペレーション部門の責任者を務める ユカ・ユウVP( Vice President)は、計画と予測 の改善策を研究する専門チームを組織した。
この組織横断型のチームには販売、ビジネス・プラ ンニング、チャネル・マネジメント、サプライチェー ンの各部門からメンバーが集められた。
チームはこれ までのCPFRのレビューを、標準化された指標を 用いて厳密に管理運営する週次会議として定義し直 した。
その指標とは、チャネルごとの「週単位在庫 計画」や、「オーダー・トゥ・コミットメント(ソニ ーが顧客の需要予測に対してコミットした量に対して 顧客が実際に発注した量)達成度」などである。
さらに、会議のプロセス、役割、参加規則などの 標準的運営手順を定め、会議における各人の役割と 責任を明確化した。
会議の話し手には、アカウント・ セールス・チーム、デマンド・プランナー、チャネル・ マネジャー等、データにいちばん近い担当者が任命さ れ、事情に疎い聞き手が無闇に説明や究明を求めて 話を脱線させることは禁止された。
聞き手からの質問には、必要に応じて話し手が会 議以外の場で回答するというルールだ。
これによって 会議がうまく軌道に乗るようになり、説明が必要な 人間はその問題の担当者の部屋に行って直接情報を 聴き、適切な判断を下す体制が整った。
この最初のステップでCPFRにおけるパートナー シップのあり方が明確化され、小売りとのコラボレー ションに新たな視覚が加わることになった。
それまでいくつかのカテゴリーにおいては、主に “セル・イン”の量(ソニーが小売り向けに売った量) をベースに議論が行われていた。
これを改め、“セル・ スルー”の量(小売りが消費者に売った量──エン ドユーザーの需要をより正確に表す)、および販売予 測に基づいて週単位で決めるチャネル在庫の問題に力 点を移すことになった。
CPFR会議の運営方法を定めたことにより、ソ ニーとその顧客の双方がそれぞれのコミットメントを 達成するという目標がはっきりと定まった。
コラボレ ーションがしっかり確立されたことで、実態に基づい たS&OPに取り組む体制が整ったのである。
ただひとつの計画 次のステップで、CPFR会議での分析とパート ナーシップを一段と深いレベルに落とし込んだ。
ソニ ーは小売りに対してより長期的な“セル・イン”と “セル・スルー”の予測を要求する代わり、今後の製 品とプロモーションの計画を一層オープンにした。
加 えて、CPFR会議でやり取りされる情報を新たな 共通のプラットフォームに流し込んだ。
これによって、さまざまな機能を担う多様なステー クホルダーが、最新の販売・予測情報を閲覧できる ようになった。
統合された計画プラットフォームによ って、ソニーとパートナーたちは、全員が承認した需 要計画を得ることができるようになったのである。
そして最終的には、それを統合されたビジネス・ユ ニット予測に流し込むことで、S&OPに必要とさ れる“ただひとつの”計画ができあがる。
ソニーの 事業所へ納入するサプライヤーはこの計画を毎週参照 し、生産と配送のスケジュールを立てるわけである。
またプロダクト・グループは、最新の顧客需要と小 新旧製品の顧客指向型マーケティングプランをサプライチェーンのマネジメントに 導入することで、競争力獲得を目的として戦略的に経営を行う能力を培う継続的な プロセスをいう。
このプロセスにより、すべてのビジネスプラン(販売、マーケティング、 開発、生産、調達、財務)は統合された一つのプランにまとめ上げられる。
各プロ セスは最低限月に一度行われ、累計レベル(製品ファミリー単位)のマネジメントチー ムによる検討会が実施される。
また、供給・需要・新製品のプランが各製品と製 品ファミリー両方のレベルで首尾一貫し、ビジネスプランとも一致するよう運営され る。
これはある企業の計画を明確に表す、つまりリソース計画と年次のビジネス計 画プロセスの中間の範囲をカバーすることばである。
適切に運用されれば、販売・ オペレーションの計画プロセスによって戦略的計画が実行に移され、継続的改善 に役立つ業績評価の見直しもつながる。
セールス・アンド・オペレーションズ・プランニング(S&OP)とは? 昨今S&OPという概念は広く認知されている。
しかしそれを導入してい る企業はまだ少ないうえ、意味するところを誰もが正確に把握しているわ けではない。
ソニー・エレクトロニクスは『APICS Dictionary』第九版に 以下の定義を見つけたので引用する。
JANUARY 2012 34 売市場のトレンドも含む統合的事業予測に基づいて、 供給計画と販売チャネルへの製品割り当てに関して、 より戦略的な決定を下すことができるようになった。
あるテレビセットのシリーズが大型量販店チャネル ではよく売れるが、中小規模のローカル店チャネルで はそれほどでもないという場合、プロダクト・グルー プは事業所に対して大型量販店向けモデルを増産す るよう指示を出すといった調整が可能になった。
こうして関係者がそろって合意した需要予測を提 供することは、とりわけ競争の激しい液晶ディスプレ イ市場においてグローバルに需給をコントロールする うえで、必要不可欠なことだった。
実際、薄型テレ ビやラップトップパソコンに使われる液晶パネルは価 格変動の激しいコンポーネントで、それだけ厳密な管 理を必要とする。
すべての地域を網羅する需要計画ができたことで、 アジアにあるソニーの主要調達先である液晶パネル工 場では、部品調達と生産計画を効率的に行えるよう になった。
データベースを共有することで、実行管理とコラボ レーション促進のどちらにも活用できるKPIも得ら れた。
セル・イン、セル・スルー予測の正確さ、チ ャネルにおける週単位の在庫計画、オーダー・トゥ・ コミットメントの達成度、顧客の在庫率などである。
こうしたデータを集めてレポートする作業に、それ までは非常に人手がかかっていた。
必要なデータをい くつもの異なるシステムから引っ張ってこなければな らなかったからだ。
それが共通のデータベースを持つ ことで自動化され、一層タイムリーなレポートが可能 になった。
SELはシステムに取り込むデータを改善するため に、データがカバーする範囲の拡大とEDIで受け 取るPOS情報の質の向上にも、小売りと一緒に取 り組んだ。
そのためにモデルネームの微妙な間違いな どの、よくあるマッピング・エラーを見つけ出して修 正する「データクオリティ・マネジメント(DQM)」 のソフトウエアも導入した。
ウォルマートが取り組みを賞賛 次にSELは小売大手に低リスクの提案をした── CPFRの対象領域を、すでに提供してもらってい るセル・スルー量の総計に加え、各店舗レベルのデー タ解析にまで試験的に広げさせてもらえないだろう か?──と打診したのである。
この提案には、小売りの配送センター在庫が店舗レ ベルの需要に応じたものになっているか、あるいは ある特定の店舗のセル・スルーが平均を常に上回った り下回ったりしていないか、などといった事項に関 するSELからのフィードバック情報の提供も含まれ ていた。
このパイロット・プログラムは、四〜六週間の実施 期間を区切ったものだった。
パイロット・プログラム が終了した時点で、小売りはそのまま取り組みを続 けるか、あるいは追加情報の供与にメリットを感じな いのであれば止めるかを選択できた。
ソニーはこの情報処理のため、米国時間の夜間に 店舗レベルのデータ解析をするチームを、JDAソフ トウエアと共同でインドに設立した。
これにより翌朝 のCPFR会議で最新の分析結果を参照できるよう になった。
小売りの配送センター向けセル・インのオーダーが、 店舗レベルのセル・スルー量と足並みを揃えていない という分析結果が出れば、その情報は即座にCPF R会議で俎上に載せられる。
これによって小売りの S&OPプロセスの流れ 期間プロセスステップ 1. 市場・顧客 情報収集 需要レビュー 4 週目1 週目2〜3 週目4 週目 新製品 レビュー供給レビュー需給バランス調整財務計画エグゼクティブ・ ミーティング 2. 地域別需要 計画の レビュー 3. グローバル 需要計画の レビュー 4. 段階的導入 と廃番 5. 供給計画 レビュー 6. 需給バラン スとその シナリオ 7. 財務との 調整 8.( プレ)エグ ゼクティブ・ ミーティング 9. モニター・測定・修正 特 集 35 JANUARY 2012 バイヤーやプランナーにはそれ以後のオーダー量で齟 齬を調整する余裕ができる。
あるいは、ある店で特定モデルのセル・スルーが異 常に低下した場合、そのモデルが正しく陳列・値付 けされているか、その店舗で本当に販売しているか などをチェックすることができるようになった。
分析結果に素早くアクセスできるようになったこと の成果はすぐに現れた。
チャネルの在庫水準が同等 かそれ以下だったにもかかわらず、店舗での在庫レ ベルは最大一八%向上し、予測精度も最大四〇%改 善した。
いうまでもなく小売りはこれを歓迎した。
二〇〇 九年末に開かれたパイロット・プログラムの検討会議 では、ソニーがCPFRの議論に力を注いで店舗レベ ルでの改善に有益な助言を与えてくれたことへ、小 売各社の需要計画担当者から賞賛の声があがった。
試験段階を経てプラグラムを継続する包括的なアグ リーメントが締結され、小売側からは、いつどのよ うにしてカテゴリー・助言・情報共有などの面でいっ そう踏み込んだものにしていくのかについて質問が 出た。
この取り組みの成功を受けて、ウォルマートはSE Lを〇九年のサプライヤー・オブ・ザ・イヤーに認定 した。
この賞が評価対象とするのは対前年比の業績、 市場シェアの伸び、新技術と革新的デザインを提案す る能力、ウォルマートのオンライン部門へのサポート などである。
これら評価対象からもわかるように、この賞によ ってS&OPプログラムの価値、つまりサプライチェ ーンの改善と小売りとの密接な協力関係が、競争力 獲得と収益改善へ貢献することが認められたわけで ある。
「収益性を重視した意思決定」へ SELのS&OP探求は今もなお継続し、小売りと のコラボレーションは進展し続けている。
顧客のバイヤ ーや需要計画担当者との週次のCPFR会議に加え、 管理職レベルとの検討会議を四半期毎に開き、経営ク ラスの会議も半年に一度のペースで開催している。
ユカ・ユウVPは、こうしたコラボレーションへの 注力を、単純な“サプライチェーン”ではなく、“ト ラステッドチェーン”という言葉を使って説明してい る。
この言葉はソニーとそのパートナーたちの強い絆 が相互の信頼とコミュニケーションに基づくものであ ることを表している。
ソニーのトラステッドチェーンが次に目指すのは何 か? S&OPの次なる進化は“収益性を重視した 意思決定”である、とユウVPはいう。
つまり販売 とオペレーションの意志決定は、ソニーの売り上げと 利益だけではなく、小売りの「GMROI(商品投 下資本粗利益率)」をも最大化するものであるべきだ ということだ。
ただ単に注文・発送・販売数量といった目先の実 務的な指標について議論するだけではなく、その小 売りの顧客層をベースに、どのような組み合わせがそ の小売りにとってもっとも利益が上がり効果的なの か、あるいは利益も加味した多様な視点から見てど んな値付けが妥当なのか、といった話題にまで話が 及ぶようになるだろう。
こうしてソニーと小売りとのコラボレーションはオ ーダー・フローだけでなく、ビジネス・プラン、顧客 セグメンテーション戦略、長期的ビジョンにまで及ぶ。
それにより、ソニーは今後も家電市場で大きな存在 感を確保し続けることができるだろう。
※この記事は米ソニー・エレクトロニクスのYumiko Kato 氏の論文「Sony Electronics’ S&OP journey」を著者 の許可を得て本誌が要約したものです。
