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JANUARY 2012 40
日立物流、佐川急便と合弁で子会社
大手スポーツ用品卸のゼットは二〇〇九年
四月、物流専業者三社との合弁で共同物流
運営会社のジャスプロを設立した。 資本金六
〇〇〇万円のうち八〇%をゼットが出資し、
一四%を日立物流、五%を佐川急便、一%
を物流コンサルティングのイー・ロジットが
拠出した。
「ゼット野球用品」をはじめ、ゼットはスポ
ーツ用品メーカーとしての顔も持つ。 だが主
業はあくまで連結売上高の約七五パーセント
を占める卸売事業。 同社は中間流通の担い手
として物流をコア機能の一つと位置付けてお
り、グループ内にはゼットが一〇〇%出資す
る物流子会社のザイロも擁している。
一九九〇年に設立されたザイロは一時期、
外販の拡大を志向して、スポーツ用品以外の
物流にも手を広げていた。 しかし大きくは育
たず、現在はグループの物流業務に特化して
いる。 これに対してジャスプロは、スポーツ
用品の業界物流プラットフォーム構築をめざ
している。 そのために、ザイロとは明確に一
線を引いた枠組みを構築した。
ザイロの社長も兼務しているジャスプロの
太田達男社長は、「ザイロとジャスプロでは
事業の目的が違う。 この事業では、物流を共
同化することでスポーツ用品業界としてコス
トダウンを図っていくことが重要だ。 ジャス
プロにも若干の手数料は入ってくるが、単に
われわれの利益だけを求めてやっているわけ
ではない」という。
実際、ザイロが全国三カ所(東京・大阪・
福井)に構えている自社保有の物流センター
は、ジャスプロの事業ではまったく利用して
いない。 「ゼットの物流と一緒に扱うという
ことになれば、やはりメーカーさんはジャス
プロの利用を躊躇してしまう」(太田社長)と
の考えからだ。
ジャスプロの姿勢を外部にわかりやすい形
で発信するためにも、物流専業者と共同で運
営する合弁会社のほうがいいと判断した。 そ
してパートナー企業との協業を円滑に進める
狙いから、物流コンサルのイー・ロジットに
も、いわば「議長役」として参加してもらう
ことにした。
今回の構想の発端はゼットが〇六年に社
内で発足させた「SLプロジェクト」に遡る。
「S」はシステム、「L」はロジスティクスの
頭文字で、これら二つの機能を軸にオペレー
ションを高度化していこうとする社内プロジ
ェクトである。
競技の数だけ製品があるスポーツ用品は、
スポーツ用品業界の物流共同化を目的に、大手卸
のゼットと日立物流など物流専業者3社との合弁で
2009年4月に設立された。 当初は参加メーカーが現
れず、苦戦を強いられていたが、有力量販チェーン
から一括物流センターの運営を受託したことで突破
口が開けた。
物流共同化
ジャスプロ
大手卸が物流専業者と合弁会社を設立し
スポーツ用品の物流プラットフォーム構築
ジャスプロの太田達男社長
41 JANUARY 2012
業界の裾野がきわめて広い。 一部の世界的ブ
ランドを除けば、メーカーはほとんどが中小
で、小売店も専門店が中心だ。 中間流通の
寡占化も進んでいない。 市場規模は一兆三
〇〇〇億円程度とされているが、大手卸のゼ
ットといえど直近の連結売上高は三八二億円
(二〇一一年三月期)に過ぎない。
にもかかわらず、この業界の中間流通に
は、非常に多品種少量の品揃えが求められる。
ゼットの取扱アイテムは品番にして約五〇万、
サイズやカラーなどを別々にカウントすると
約三六〇万SKUにも上る。 これを同社は約
四〇〇弱ある取引メーカーから仕入れ、全国
の小売店に販売している。
近年はスポーツ用品業界でも大型小売りチ
ェーンの台頭が著しい。 だがマイナー競技の
用品については、依然として一部の中小メー
カーや専門店だけしか扱っていない。 社会的
にも貴重な存在であるこうした企業を取り巻
く環境は年々厳しさを増している。
スポーツ用品の市場規模は過去二〇年余り
縮小傾向が続いている。 商業統計によると、
九〇年代前半のピーク期に比べると、〇七年
の販売額は三割減り、事業者数も三割近く減
っている。 その一方で、大型店の台頭によっ
て総売場面積は拡大しつづけており、同じ期
間に五割以上も広くなっている。
一括物流センターの受託を突破口に
こうした事業環境を背景に、ゼットの「S
Lプロジェクト」は約一年半にわたって議論
を重ねた。 その結果、卸売業者として業界の
物流プラットフォームの構築をめざすという
方向性が打ち出され、事業をより円滑に進め
るために外部の
物流専業者と
新会社を設立
することが決ま
った。
この時点で、
新会社が発足
時に基盤とす
る業務として、
従来はザイロが
福井県武生の
物流拠点で処
理していた流通
加工業務を丸ごと新会社に移管する方針も固
まった。 これを受けてパートナー候補の3P
L各社に武生の物流現場を見てもらい、ゼッ
トがめざす業界プラットフォーム構想につい
て説明。 事業の将来性や意義を共有できるか
どうかを最大のポイントにしながら、事業パ
ートナーを選定していった。
熟慮の結果、庫内運営を担当するパートナ
ーには日立物流を選んだ。 日雑化粧品や医薬
品の「業界プラットフォーム事業」ですでに
実績を持ち、スポーツ用品業界でもこれを展
開していこうとする強い意思が決め手になっ
た。 配送パートナーについては、やはり趣旨
に賛同し、従来からの付き合いも深かった佐
川を選んだ。
その後は新会社への出資比率などについて
入念な調整を行った。 ゼットとしては、いず
れ荷主として共同物流に参加してくる企業が
ジャスプロへの出資を希望したら応じたいと
いう考えをもっていた。 このため、まずはゼ
ットが八〇%を出資することを前提に検討を
進めた。
残りの二〇%を事業パートナーに出資して
もらうなかで、日立と佐川の出資比率につ
いては、それぞれが手掛ける業務の規模など
を勘案しながら配分した。 その後、イー・ロ
ジットも出資することになり、出資比率を一
部見直した。 新会社の発足から二カ月後には、
千葉県で「ジャスプロ関東物流センター」を
稼働させることも決まった。
スポーツ用品小売業の業態別データ(2007 年)
過去20 年の販売額・売場面積・事業所数の推移
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
25
20
15
10
5
0
91
年
94
年
97
年
99
年
02
年
04
年
07
年
年間商品販売額(兆円)・売上面積(平方?)
事業所数(千カ所)
※91 年は94 年以降と対応するために修正された数値
※商業統計より作成 (上記業態以外のデータは割愛)
※下段は合計に占める比率
合計
専門店
専門
スーパー
その他の
スーパー
住関連
中心店
事業
所数
(カ所)
従業者数
(人)
売場面積
(?)
年間商品
販売額
(百万円)
15,165 73,232 1,302,551 2,959,805
11,824
78.0%
977
6.4%
669
4.4%
1,681
11.1%
47,366
64.7%
18,035
24.6%
2,536
3.5%
5,261
7.2%
900,512
69.1%
275,022
21.1%
47,414
3.6%
79,235
6.1%
1,749,345
59.1%
989,388
33.4%
82,391
2.8%
137,418
4.6%
年間商品販売額
売場面積
事業所数
JANUARY 2012 42
こうして〇九年二月三日、四社の経営ト
ップが列席する記者会見を開催した。 この
場でジャスプロ(Japan Associated Sports
Logistics)という社名に象徴される、新会社
の野心的な構想を説明。 まずは中小メーカー
などの物流業務を一括受託して、初年度に売
上高六億円、三年後には一〇億円をめざすと
表明した。
華やかなスタートを切ったジャスプロだっ
たが、思惑通りには進まなかった。 ジャスプ
ロから事業プランの説明を受けたメーカー各
社は、共同物流の主旨には賛同してくれる。
しかし実際に参加するとなると話は別だった。
業界物流プラットフォームを作るという活動
は簡単には軌道に乗らなかった。
突破口は意外なところから生まれた。 発足
から約一年後の一〇年三月、ジャスプロは愛
知県春日井市でスポーツ用品小売りチェーン
であるヒマラヤの一括物流センターを運営し
はじめた。 この協業がジャスプロの活動を大
きく前進させることなる。
共同物流の新たなモデル
ヒマラヤの案件は実は最初、ザイロに持ち
込まれたものだった。 スポーツ用品の物流に
関するザイロの豊富な経験を見込んだヒマラ
ヤが、物流を刷新するためのコンペへの参加
を打診してきたのだ。 しかし、この案件はザ
イロが単体で受託するには大きすぎた。 そこ
でまだ発足前ではあったが、ジャスプロが日
想に基づく中間流通の効率化モデルを、ジャ
スプロは共同物流の第二段階として位置付け
ることになった。
この提案が評価され、ジャスプロはヒマラ
立物流と連携するかたちでコンペに参加する
ことになった。
とは言え、ヒマラヤの専用物流センターの
運営だけを請け負うのでは、単なる3PL事
業でしかない。 業界プラットフォームの構築
による中間流通の合理化というジャスプロの
理念にも反する。 業界プラットフォームとは
別に小売りの専用センターが存在すれば、サ
プライチェーンの階層が一つ増えてしまうこ
とになる。
そこで案出したのが、「サプライ・フロン
ト」(SF)とジャスプロが呼ぶ機能だった。
ヒマラヤが新たに設置する専用物流センター
と同じ施設の中に、ジャスプロの共同物流拠
点であるSFを設置し、ここにヒマラヤの取
引先を含む中小メーカーを誘致しようという
ものだ。
「そうすればヒマラヤさんにとってはジャス
プロのSFが?門前倉庫?のように機能する
ことになる。 そしてジャスプロの共同化に参
加したメーカーさんにとっては、ヒマラヤさ
んに納品するための輸送費が不要になる。 大
きな解釈のなかでは、これも共同物流の一つ
のかたちになると考えた」と太田社長は説明
する。
メーカーの共同物流拠点と小売りの専用セ
ンターを同じ施設内に置くことによって、ム
ダな階層を増やさずに済む。 そして、メーカ
ーはジャスプロのSFから、ヒマラヤ以外の
販売先にも自由に出荷できる。 この新たな発
2009 年4 月のジャスプロ発足時に想定していた将来構想
最終目標
究極のSCM構築
(海外含む生産拠点への対応)
(環境物流にも貢献)
STEP1
メーカーと卸企業の共同物流
STEP2
メーカー・卸・小売企業の共同物流
〈現状〉 【スポーツ業界物流概要(イメージ)】
今後 【STEP1 イメージ】 【STEP2 イメージ】
メーカーA社
メーカーB社
卸企業C社
小売企業
(大型チェーン店・専門店)
物流センター
メーカーA社
メーカーB社
卸企業C社
小売企業
(大型チェーン店・専門店)
物流センター
小売企業
(大型チェーン店)
小売企業
(専門店)
卸企業
メーカー
A社・B社・C社‥‥
物流センター
店舗
店舗
店舗
店舗
店舗
店舗
ジャスプロ共同物流センター
〈ポイント〉
・共同保管(他社との共同運営により物量波動に対応)
・共同配送(最適な輸送手段を選択し配送費低減)
・流通加工(顧客別のニーズに対応) ・情報システム(同左)
ジャスプロ共同物流センター
〈ポイント〉
・メーカー〜小売企業への配送費削減
・メーカー〜小売企業への納品リードタイムの短縮
・梱包作業の簡素化、梱包資材の削減
43 JANUARY 2012
施設の一角に「中部物流センター」を設けた。
同センター内にはヒマラヤの専用センターであ
る「ヒマラヤ物流センター」と、ジャスプロ
の「中部SF」が併設されており、いずれも
運営は日立物流が担っている。
まずは共同物流への参加第一号として、ゼ
ットが千葉県の施設に保管していたヒマラヤ
向けの在庫をすべて中部SFに移管した。 こ
れをベースカーゴとしながら、新たな参加企
業を募ろうというわけだ。 稼働から二年近く
経って、ようやく中小メーカーが重い腰をあ
げつつある。 すでに数社が中部SFへの参加
を決めており、一二年の春から実務をスター
トする予定だ。
大手メーカー同士の共同配送が実現
この案件は副産物も生んだ。 メーカーが
「ヒマラヤ物流センター」の通過型拠点(T
C)に納品する商品を対象に、ジャスプロは
一一年四月から共同配送便の運行を開始した。
当初の荷主はミズノとデサント。 大阪市内に
ある両社の拠点をミルクランで集荷し、ヒマ
ラヤ物流センターに納品する。 数カ月後には
SRIスポーツも加わった。
前述した通り、ジャスプロが発足時に想定
していた事業プランでは、中小メーカーの物
流共同化を中核としていた。 しかし実際には、
大手小売りチェーンとの協業による新たなモ
デルと、大手メーカーを荷主とする共配事業
のほうが先に動き出したことになる。 これら
の事業によって、ジャスプロは発足時に表明
した「三年後に年間売上高一〇億円」とい
う事業計画をほぼ達成する見通しだ。
中部SFでの共同物流に参加しようとする
中小メーカーの動きも具体化してきた。 太田
社長は、「賛同していただける企業が何社か
でも出てきて、業界プラットフォーム事業を
軌道に乗せられればありがたい。 どこが得す
るとか損するとか言っているうちは共同物流
は上手くいかない。 その意味でも、できれば
将来はコストをオープンにするぐらいのつも
りでやっていきたい」と意気込む。
実際、前掲の共配事業では、あらかじめジ
ャスプロの取り分が比率で決まっており、赤
字になれば参加企業に補填してもらうし、必
要以上に利益が出れば還元するという運用ル
ールを採っている。 最終的には、メニュー・
プライシングのように合理的な考え方に基づ
いて、利用するサービスごとに関係者の利益
まで明らかにしながら中間流通を高度化して
いくことも視野に入れている。
ジャスプロに求められる物流サービスのメ
ニューは今後、返品物流や通販物流、さらに
は中国に関連する物流など多岐にわたってい
くと予想される。 そのためにも物流専業者と
の協働をさらに進めていく。
ただし、「あくまでもわれわれがリードし
ながらやっていく」と太田社長。 一連の取り
組みはゼットの卸としての生き残り戦略でも
ある。 (フリージャーナリスト・岡山宏之)
ヤの物流業務を一括受託することに成功した。
これによってヒマラヤは、中部地区の拠点を
マザーセンターとしながら、他に全国四カ所
(関東二カ所、関西、北九州)のサテライト
センター(中継拠点)も設置。 店舗に納品す
るための物流を高度化しながら、コスト削減
という成果を手にした。
一方、ジャスプロはヒマラヤ向けの事業の
ために、愛知県春日井市にある日立物流の
ヒマラヤの専用物流センターと「SF」を併設しサプライチェーンを効率化
マザーセンター :商品保管、仕分・発送機能を有したセンター
サテライトセンター:ルート配送車を使い中継配送するためのセンター
〈新物流システム〉
ヒマラヤ本部
・ヒマラヤ
PBメーカー
・海外メーカー
・国内メーカー
・国内問屋
ジャスプロ
中部物流センター(春日井市)
中部SF(2000 坪)
(メーカー在庫保管型センター)
サテライトセンター
路線配送
コンテナ配送
ルート配送
ヒマラヤ店舗
関東
関西
九州
中部
東北・関東
北陸・関西
中国・四国
九州
沖縄
※ヒマラヤの発表資料(2009 年12月17日)より
ヒマラヤ物流センター(4000 坪)
(マザーセンター)
DC
(保管型センター)
TC
(通過型センター)
関東(入間郡)
関東(千葉市)
関西(摂津市)
北九州(北九州市)
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