2012年1月号
値段

第73回 全日本空輸 営業利益目標一五〇〇億円の達成へLCC戦略と沖縄貨物ハブの拡大に注目

JANUARY 2012  52 LCCは両刃の剣  全日本空輸(ANA)は、二〇一一年二月に 発表した二〇一一─一二経営計画で経営目標に 「一〇〇〇億円を超える営業利益の安定的な確保、 収益基盤の確立と財務体質の改善」を掲げ、数値 目標を一二年三期営業利益一一〇〇億円、一三 年三月期同一三〇〇億円に設定した。
一二年三 月期は残念ながら、東日本大震災の影響等により 目標の達成は困難な状況にあるが、旅客需要が想 定を上回るペースで回復した他、コスト対策や需 要喚起策が奏功し、前期比三・二%増の七〇〇 億円程度を見込んでいる。
 このような中、注目されるのが年度内にも発表 される予定の次期中期経営計画である。
現段階 では同社は中長期的な営業利益レベルとして一五 〇〇億円を念頭に置いているようだ。
 現在、航空業界は新たな競争環境を迎えようと している。
こうした状況を踏まえてANAの次期 中計における注目点を旅客事業、貨物事業から 各々一点ずつ挙げるならば、?LCC(ローコス トキャリア)戦略、?ASEAN・中国の経済成 長を取り込むための貨物事業戦略、にあると三菱 UFJモルガン・スタンレー証券(MUMSS) では考えている。
 まずLCC戦略については、同社は一一年二月 に発足したLCCのピーチ・アビエーションに出資 し、同八月にはマレーシアのLCC、エアアジアと 共同出資でエアアジア・ジャパンを設立している。
 LCC戦略の推進で期待されるのは新規需要の 獲得だが、その一方でANA本体からLCC二社 への需要シフトも想定されるため、ANAグルー プ全体の路線ネットワークをいかに構築していく かが課題である。
ANA本体─エアアジア・ジャ パン─ピーチの全体最適を図り、グループ全体で 収益最大化へつなげることがポイントになるだろ う。
 また、LCC二社のうち、連結子会社として いるエアアジア・ジャパンがどこまでプレゼンスを 発揮できるか。
あくまで子会社であるため、中計 におけるメインテーマになるかどうかはわからな いが、株式マーケットからの注目度は高い。
 エアアジア・ジャパンは成田空港を拠点に、一 二年八月より札幌、福岡、沖縄線、同一〇月よ りソウル、釜山線に就航し、以降、国内線、国際 線を順次展開する予定である。
運航初年度から黒 字化させる計画で、将来的には売上高二〇〇〇 億円、営業利益率一〇%台、機材数約三〇機体 制を目指す。
 航空市場の規制緩和の進展により、日本におけ るLCCの参入機会は拡大している。
国交省は〇 八年三月、日本発着路線での正規割引運賃の下 限をIATA(国際航空運送協会)の正規割引 運賃の三〇%とする「三〇%ルール」を廃止。
加 全日本空輸 営業利益目標一五〇〇億円の達成へ LCC戦略と沖縄貨物ハブの拡大に注目  中長期的な営業利益目標を一五〇〇億円に 設定した。
現在の営業利益水準は七〇〇億円 に過ぎず、意欲的な目標といえる。
目標達成 のための具体的な筋道は近々発表予定の次期 中期経営計画で明らかにされるが、旅客事業 ではLCC戦略、貨物事業では沖縄貨物ハブ 事業の拡大戦略の行方に注目している。
姫野良太 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 エクイティリサーチ部エクイティリサーチ課 シニアアナリスト 第73回 53  JANUARY 2012 えて二国間の航空路線や運賃の規制を撤廃するオ ープンスカイ(航空自由化)を進めている。
 今後は成田空港の発着枠の拡大に合わせて海外 勢のさらなる進出が予想される。
成田空港の年間 発着枠は一〇年度末時点の年間二二万回から段 階的に引き上げられ、早ければ一四年度に三〇万 回となる見込みである。
 増枠分の八万回の割り当ては未定だが、八万回 を一年三六五日で割れば、一日当たり二一九回 (一便=一往復のため、一一〇便)。
一一〇便/ 日のうち、半分は日本の航空会社、半分は外国 航空会社に配分されよう。
日本の航空会社への 配分がANAと日本航空(JAL)でほぼ二分 されるとすれば、 ANAへの配分 は三〇便弱/日 ということにな る。
この三〇便 弱の配分をグル ープ内でどう行 うか、LCC子 会社に配分した 枠をどのような 都市に就航させ るか、という点 が競合他社との 差別化要因にな ってこよう。
 また、LCC の低コスト・低 価格化をどう図 るかにも注目したい。
LCCのコスト削減方法は、 単一機種への統一、高密度の座席仕様、二地点 間直行路線の運航、折り返し時間の短縮、機材の 稼働率向上、無料の機内サービス廃止、航空券の Web販売等が挙げられる。
 ANAはそうした施策によってエアアジア・ジ ャパンの運航にかかわるコストを本体の半分以下 に抑える方針で、ユニットコスト(一座席を一キ ロメートル運ぶための費用)をANAの約十三円 から六円にまで圧縮したい考えだ。
日本は人件費 や着陸料がかさむため、この六円というのはエア アジアの約三円に比べ割高となるが、同じ日本の スカイマークの約八円を下回る。
沖縄ハブの路線網を拡張  次に、貨物事業戦略を見ていきたい。
ANAは 一二年三月期、航空運送事業で営業利益六七〇 億円を計画しているが、MUMSSでは同事業の うち、旅客部門(国内線、国際線)は七〇〇億 円強の黒字、貨物専用機(フレイター)部門では 赤字計上と予想する。
このフレイター部門の収益 改善のポイントとなるのが、沖縄貨物ハブ事業の 拡大である。
 沖縄ハブは〇九年一〇月に開業した。
羽田、成 田、関西の国内三空港、およびソウル、上海、香 港、台北、バンコクの海外五都市の計八空港と那 覇空港との間で貨物便を一日一往復(日曜を除 く)運航するハブ&スポーク方式で運用している。
アジアの主要都市を網羅する輸送ネットワークに よって、アジア経済圏の成長を取り込む戦略だ。
 沖縄ハブ事業での取扱貨物は半導体、電子部 品、自動車部品や緊急輸送貨物等。
機材コストが 低く運航効率の高い中型フレイターによる九機体 制で展開している。
一一年十二月からは沖縄─成 田便の運航頻度を週六便から週十二便に倍増させ る。
更に、ベトナム、シンガポール、インドネシ アに路線を拡大する計画もある。
 中国、インドを含めたアジア十一カ国の一〇年 の経済成長率は九・〇%となっており、MUMS Sでは一一年の成長率は四・三%、一二年は四・ 六%と引き続き堅調に推移すると予想している。
 一方、ANAの国際貨物収入の方面別構成比 は、一二年三月期第2四半期実績で中国が三七・ 八%(前年同期比〇・一ポイント減)、アジアが 一九・三%(同二・三ポイント増)とアジア方面 での収入拡大が顕著になっている。
アジアを面で とらえ、沖縄貨物ハブを軸にアジアの需要を取り 込んでいくことができれば貨物事業の利益貢献も 大きくなる。
 以上、ANAのLCC事業と貨物事業を注目 点として挙げたが、これら以外にも来年度に上場 予定のJALとの競争展開、最新鋭の旅客機「ボ ーイング787」を含めた戦略的機材運用、更な るコスト削減等、興味深い。
営業利益一五〇〇億 円の達成へ向けての戦略、道筋が次期中計におい てクリアになれば、同社の評価は高まろう。
《出来高》 過去10年間の株価推移 ひめの・りょうた 二〇〇四年慶應義塾大学経済学 部卒業、同年三菱証券(現三菱U FJモルガン・スタンレー証券)入 社。
〇五年から明治ドレスナー・ アセットマネジメントで建設、不動 産、運輸、公益セクターのアナリ ストを務め、〇八年二月より現職。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから