2004年3月号
ケース
ケース
ブックワン――ビジネスモデル
MARCH 2004 36
大幅に狂った事業計画
「今年一月に芥川賞が発表された後、ブッ
クワンの売り上げは落ちてしまった」。
中堅 オンライン書店、ブックワンの石井昭社長の 言葉は、にわかには信じがたいものだった。
本来、文学界で最も著名な芥川賞・直木 賞の発表は、書店にとって?恵みの雨〞とも いうべきイベントだ。
需要予測の難しい本と いう商品を扱う上で、これらの賞の受賞作品 は別格の存在。
最近は昔ほどではないようだ が、賞を獲った本はある程度まで必ず売れる。
しかも賞の選考過程で出版社もそれなりの在 庫を用意するため、取次による割り当てなど は厳しくても、書店にとっては確実に利益に つながる。
その芥川賞の発表を受けて書店の売り上げ が減るなどという話は、出版業界の常識に照 らせば考えにくい。
たとえ受賞作品が売り切 れてしまったとしても、これを目当てに来店 客が増える効果は、書店にとってプラスにこ そなれ、マイナスには働きようがない。
にも かかわらず、ブックワンの売り上げは落ちて しまったという。
理由は単純だった。
「現在のシステムの性 能があまりにも悪すぎる。
サイトが重いため、 お客さんが集中したとき、『買い物カゴ』に 商品を放り込むところまで進みながら結局は 買わないといったケースが出てきてしまう。
お客が増えれば増えるほど販売効率が悪化し 動かないシステムを抜本的に修正 自社在庫の強み活かして捲土重来 縮小を続ける書籍市場で、オンライン書 店の成長が加速している。
一方でライバル 同士の優勝劣敗も明らかになってきた。
中 堅オンライン書店のブックワンは単月黒字 を計上できる一歩手前までこぎつけたが、 情報システム面の課題に直面している。
今 後半年をかけてシステムを再構築し、物流 の優位を武器に再び攻勢に転じる方針だ。
ブックワン ――ビジネスモデル 37 MARCH 2004 クレームばかりが増える」(石井社長)とい う悪循環に陥ってしまったのである。
インターネットを使って本を販売するオン ライン書店でありながら、肝心のシステム面 に弱点を抱えてしまったことはブックワンに とって大きな誤算だった。
現在の同社は、売 上高ベースでみるとオンライン書店の上位四 社に大きく水をあけられている(下表)。
約 二〇億円という現在の年商は、創業した二〇 〇〇年三月の記者会見で石井社長が言った 「採算分岐点は売上高五〇億円」という数値 にも遠く及ばない。
実際、ブックワンの業績はまだ黒字化して いない。
コスト構造の見直しなどを進めたこ とで、単月黒字化の一歩手前まではきた。
し かし、今後の半年間でシステムへの投資を予 定しているため、採算ラインは再び遠のく。
評判通りの強さを見せたアマゾン 日本で九〇年代の後半から二〇〇〇年にか けて乱立したオンライン書店の生き残り競争 が、新たな段階に入ろうとしている。
ITバ ブルの崩壊が誰の目にも明らかになった二〇〇一年には、早くもオンライン書店の撤退ラ ッシュが始まった。
アスクルはオフィス向けの書籍需要を取り 込もうと立ち上げた「ブックカフェ」を二〇〇 一年二月に文具サイトに統合し、書籍の取り 扱いを大幅に縮小した。
世界市場でアマゾン と競い合っている独BOLも、同年一〇月にブ ックワンに販売業務を移管。
事実上、日本市 場から撤退した。
同じ頃、三省堂書店もネット 販売業務の大半をブックワンに委託した。
ヤマト運輸の子会社であるブックサービス や、紀伊國屋書店が運営する紀伊國屋ブック ウェブなど一部の例外を除けば、日本のオン ライン書店の多くは、九五年に米シアトルで 創業したアマゾンドットコムの成長物語を後 追いしてきた。
早くから日本進出の噂が絶え なかったアマゾンに日本市場を席巻される前 に、ビジネスチャンスを掌中に収めようと多 くの起業家が事業化を急いだ。
書籍がネット通販に適する商材であること は間違いない。
タイトルと価格、表紙の写真、 内容情報などをサイトで閲覧できるようにし さえすれば、オンライン書店の開設そのもの は比較的容易だ。
中小書店が経営難でどんど ん潰れている日本の書籍市場では、ネット通 販の入りこむ余地が大きかったという判断も 理解できる。
しかし、現実にオンライン書店の経営を軌 道に乗せるためには、多くの課題をクリアす ブックワンの社長と図書館流通 センター(TRC)の会長を兼務 する石井昭氏 アマゾンジャパン (Amazon.co.jp) ブックサービス (ブックサービス) 紀伊國屋本店 (紀伊國屋BooKWeb) イー・ショッピング・ブックス (イーエスブックス) ブックワン (bk1) 楽天ブックス (楽天ブックス) 日本出版販売 (本やタウン) トーハン (e-hon) 59億円 推定50億円 推定40億円 約20億円 推定20億円前後 − − 指定書店までの配送料は無料。
参加書店が独自に設定している宅 配サービスはまちまち。
トーハンの在庫を使える点が売り。
指定書店までの配送料は無料。
参加書店が独自に設定している宅 配サービスはまちまち。
日販の在庫を使える点が売り。
2000年10月設立。
日販のネット倉庫の在庫を活用。
配送業者は 日本通運。
2000年7月から。
図書館流通センターの出荷機能、在庫を共同で 利用。
配送業者は設立以来、ヤマト運輸を利用。
1999年8月から。
トーハンの専用倉庫を主に利用。
セブン―イレ ブンの店舗での受け取りの場合、送料無料が売り文句 1996年から。
大型書店として著名な自社店舗の店頭在庫をその まま活用。
リアル書店の補完機能として位置づけ。
1986年から。
在庫がなければ出版社に自ら集荷するサービスが 特徴。
配送業者は親会社であるヤマト運輸。
2000年11月から。
2003年からは家電製品も扱うなど、現在で 1件につき240円、1500円以上無料 は書籍の扱いは半分程度。
配送業者は日本通運。
無料。
代引きの場合のみ1回200円 1件につき380円、代引き手数料は 200円、無料扱いはなし 10冊ごとに240円、1500円以上無 料、セブンの店舗での受け取り無料 メール便なら無料、宅配指定250円 1500円以上無料、代引きは300円 1件につき210円、1500円以上無料、 料、代引き手数料は210円 書店引き渡しの場合は無料、宅配料 金は別途 書店引き渡しの場合は無料、宅配料 金は別途 有力オンライン書店のサービス比較 企業名、カッコ内はサイト名 事業規模(年商) 配送料 特徴と概要 書籍だけで 推定200億円 LOGI-BIZ調べ る必要がある。
安定した商品調達ルートの確 保、顧客ニーズを満足させられるバックヤー ド(在庫管理体制)の整備、安くて正確な配 送体制の構築、そして当然のことながら優れ た情報システムも欠かせない。
成功のカギは、消費者にとって便利で、オ ンライン書店側にとっては競合企業よりコス トパフォーマンスのいい「情報」と「物流」 の仕組みを構築できるかどうかに尽きる。
そ して、恐らく、この点を誰よりも深く理解し ていたのが米アマゾンだった。
創業以来、アマゾンはシステム開発と物流 の整備に先行投資を続けてきた。
各地に自前 の物流拠点を構え、膨大な自社在庫を保有す ることで顧客の利便性を高めようと躍起にな った。
今になって振り返れば、こうした姿勢 は、アマゾンのネット通販への確かな理解の 裏返しだったことが分かる。
現に二〇〇〇年十一月に日本進出を果た したアマゾンは、後発でありながら瞬く間に 業界トップの座に駆け上がった。
音楽CDや DVD、家電製品などの売り上げも大きい同 社を、他のオンライン書店と同列に扱うのは 無理がある。
だがアマゾンの日本法人は、す でに書籍だけでも年商約二〇〇億円を売り上 げている模様だ。
売上高ベースで二位以下の オンライン書店を引き離すトップ企業である と同時に、日本有数の巨大書店であることは 間違いない。
アマゾンが日本で急成長できた理由は、知 名度の高さと、誰もが認める使い勝手の良さにある。
一方、競合するオンライン書店の多 くは、ブックワンと同じようにサイトの反応 が遅いなど使い勝手の悪さが目立つ。
リアル 書店にない利便性や楽しさを実現しようとし たサイトほど、システムの反応が遅くなる傾 向がある。
盛り込む情報が多いほど、実際の 購買活動とは関係のない部分でシステムに負 荷がかかってしまうためだ。
情報システムでつまずいた理由 三年半前に創業したときブックワンは、「豊 富な書籍情報」と「独自の配送網」の二つを 最大の売り文句に、ライバル企業との差別化 を図ろうとした。
実際、サービス開始時には 一万冊分の書評を用意し、日経BP社などと 設立した書評専門会社を使って書籍情報を提 供する体制も整えた。
サイトの作り手として、 リアル書店で実績のあった人材も招き入れた。
こうした姿勢が本好きの消費者から好意的に 受けとめられたことは事実だ。
しかし、豊富な書評などによるブックワン の優位性は、他のオンライン書店が似たよう なサービスを拡充したことで、ほどなく薄れ てしまった。
アマゾンの日本法人が先陣を切 った他サイトとの販売提携や、読者が書き込 む「カスタマーレビュー」などがそれだ。
誕生から五、六年しか経っていなかったネ ット通販のビジネスモデルの急速な変化が、 ブックワンの想定した優位性を吹き飛ばして しまった。
さらには単にアドバンテージを失 ったばかりか、ブックワンが他社と同様にビ ジネスモデルを変革しようとすると、システ ムへの負荷が想定外に大きくなるという前述 の悪循環にはまってしまった。
石井社長は失敗の原因を次のように振り返 る。
「我々は会社を二〇〇〇年三月に発足し、 その年の七月にはサービスを開始した。
実質 的にはわずか三カ月間でサイトを立ち上げた わけだ。
当社への出資企業でもある富士通が システムを構築してくれたのだが、そもそも ここから間違っていた」 富士通ほど大規模な企業になると、三カ月 という短期間で複雑なシステムを作ることが できる。
日本中から技術者を集めてパーツを 作り、最終的にそれを組み合わせて全体で動 くようにしたのである。
ところが、こうした システム構築の結果、「あるパーツを手直し すると、いちいち全体として動くかをテスト MARCH 2004 38 ブックワンのサイト「bk1」 39 MARCH 2004 しなければならなくなってしまった。
システ ムの開発コストが常にバカ高くなり、うっか り手直しもできない」(同) その窮状を象徴しているのが、芥川賞の発 表を受けて売り上げが減少したり、一日のう ちで売り上げがピークになる時間帯が、利用 者の本来のニーズに応えられないためにどん どずれていくという事態だった。
石井社長は、 「今さら遅いと言われるかもしれないが、まず はシステムを再構築するしかない。
そうしな ければ、在庫の面で当社が持っている優位性 すら有効にきかない」という。
在庫と配送で持つ独自の強み 情報システムさえ再構築すれば、まだ勝ち 目はあるという石井社長の自信には裏付けが ある。
オンライン書店にとって柱の一つであ る物流上の強みがそれだ。
確かにブックワン の持つ物流の仕組みは、トップのアマゾンといえども簡単には凌駕できそうにない。
現在のブックワンは、同社の筆頭株主でも ある図書館流通センター(TRC)と、在庫 機能と出荷機能をほぼ完全に共有している。
実はこのことこそが発足時のブックワンが注 目を集めた理由の一つなのだが、石井社長は TRCの会長職を兼務している。
そして、実 質的に石井社長が育て上げてきたTRCとい う会社は、全国の公共図書館の約七割に本を 供給する出版流通業界の有力企業だ。
一九七九年に設立されたTRCは、図書館 に押し寄せた情報化の波に乗って成長した。
かつて図書館で行われていたカードによる書 籍検索は、時代とともに徐々にコンピュータ に置き換えられてきたわけだが、そのために は情報を検索する仕組みが不可欠だった。
T RCは八〇年代初めに大手取次のトーハンと 組んで「TRC MARC」という書誌デー タベースを開発、これを全国の図書館に普及 させることに成功した。
現在のTRCは、トーハンや日本出版販売 (日販)、大阪屋などの取次五社から仕入れた 本を、全国の図書館に通信販売している。
出 版社が新刊書を発売するのとほぼ同時に、T RCが発行する『週刊新刊全点案内』という 通販カタログで、新刊書の表紙写真や価格、 版型、内容などを図書館に紹介する。
利用者 である図書館は、このカタログにあるバーコ ードをスキャンするだけで必要な新刊を購入 できる仕組みだ。
さらにTRCは、図書館に納品する書籍に 特有の作業として、透明ビニールのカバーを かけたり、図書館で利用するバーコードシー ルを事前に添付する業務も手掛けている。
書 籍を購入した図書館が、すぐに書架に並べら れるように流通加工を施しているわけだ。
従来はそれぞれの図書館が手掛けていたこ うした作業を集約し、効率化したことで、T RCは図書館向け書籍販売の世界の独占企 業になった。
業界プラットフォーム事業の典 型的な成功事例といえる。
TRCの二〇〇三 年三月期の業績は、売上高二五〇億円に対 して経常利益一八億円。
薄利多売が当たり前 の出版流通の世界では、かなり高い利益率を 確保している。
もはや多くの図書館がTRC なくして成り立たないと言われるほど、この 分野での存在感は大きい。
TRCには累計で二二〇万タイトルに及ぶ 書誌データベースと、ブックワンの発足時に 改めて強化した出荷機能がある。
そして埼玉 県の志木(新刊用)と新座(旧刊用)の二つ の倉庫には、合計で五万タイトル、一二〇万 冊の自社在庫を持つ。
他に取次のバックヤー ドも利用しており、こうした機能を一方的に 他者に頼らざるをえないオンライン書店に比 べたブックワンのアドバンテージは歴然とし ている。
というのも、自社物流センターと自社在庫 を前提にグローバル展開を続けてきたアマゾ TRCの「志木ブックナリー」 MARCH 2004 40 ンだが、日本ではこの原則を曲げている。
物 流の現場作業には日本通運を使い、自社在庫 の品揃えについても現状ではまだ限定的なレ ベルにとどまっている。
購読者の六割がメール便を利用 注文を受けてから届けるまでのリードタイ ムの長短は、オンライン書店が顧客の支持を 獲得するうえで重要な要素だ。
短いリードタ イムを望む顧客ニーズに応るためには、出荷 機能まで備えた物流センターを構え、そこに 市場ニーズにあった品揃えの自社在庫を持つ ことが必須条件になる。
通常、オンライン書店は、商品の在庫状況 を三〜五段階程度に分けてサイト上で告知し ている。
ブックワンの場合は、本の?発送時 間〞として「二四時間」、「二〜三日」、「一〜 二週間」の三段階で表示している。
「二四時 間」というのは自社在庫があって即座に出荷 できる本、「二〜三日」は提携している取次 に在庫がある本、「一〜二週間」というのは 確認できる在庫がないため新たに出版社に発 注する本を指す。
ブックワンの配送パートナーはスタート時 からヤマト運輸だが、宅配便を使った有料配 送と、二〜三日後にメール便で届ける無料配 送を使い分けている。
創業時から強くこだわ ってきた当日配送では、関東地域(一都六 県)の利用者から午前一〇時三〇分までに受 注した分を、その日のうちに宅配便(送料二 五〇円)で届けている。
当日配送分については、志木の物流センタ ーで十一時までにピッキングと梱包を済ませ た商品を、自らヤマト運輸の東京主管支店 (有明)に持ち込む。
「志木の周辺にもヤマト の拠点はあるが、そこに持ち込むとかえって 締め時間が早くなってしまう。
当日配送便の 出発の最も遅い有明であれば、十三時くらい までに持ち込めば一四時出発の便に間に合 う」と、ブックワンの運用チームで出荷管理 を担当している森俊輔さんは説明する。
一見、何のことはないサービスだが、豊富 な自社在庫と自前の出荷機能を持っているブ ックワンならではの差別化戦略といえる。
宅 配コストについても、ヤマトにとって最重要 顧客の一社である日経BP社がブックワンに 出資している関係もあって、かなり有利な条 件を引き出すことに成功している模様だ。
オンライン書店にとって商品を届ける配送 コストは、経営に大きなインパクトを与える 要因だ。
すべての荷物に対して発生するため 売上高にほぼ比例して負担が増え、システム 投資のようなスケールメリットは働きにくい。
こうした事情があるにもかかわらず、再販 制があるために本の値引き販売をしない日本 では、オンライン書店が消費者から収受する 配送料の安さを競い合ってきた。
二〇〇〇年 くらいまで本の宅配コストは、ブックサービ スが当時掲げていた一回三八〇円というのが 一つの目安になっていた。
ところがブックワ ンがスタート時に会員獲得のために二カ月間 の送料無料キャンペーンを張ったことで風向 きが変わった。
その後は体力勝負ともいえる 値下げ競争を繰り広げることになった。
現在のオンライン書店の宅配料金は、一回 当たり二〇〇〜二五〇円、購入金額が一五 〇〇円以上であれば無料、代引き手数料は別 途二〇〇〜三〇〇円程度というのが一般的だ。
宅配便とメール便を使い分けているブックワ ンでは、当日もしくは翌日配送の宅配便を指 定すれば二五〇円。
とくに宅配便利用の指定 がなければメール便で無料配送している。
創業当初のブックワンは宅配便しか使って いなかった。
だが前掲の値下げ競争に加え、 メール便のサービスレベルが急速に拡充され て、しかも不在時にポストに投函して欲しい という利用者からの要望も増えてきたことか ら、二〇〇二年一〇月からは宅配便を指定し てこない限りメール便で対応するように方針 を変えた。
現状ではヤマトのメール便の規格 (縦横厚さの合計が七〇センチ以内。
重量一 キロ以内)に納まる本は、すべてこの配送網 ブックワンで出荷管理を担当す る森俊輔さん 41 MARCH 2004 を使って届けている。
「当初はクレームもあった。
一番の問題は 宅配便と違って、メール便はいつ到着するか 明確な回答をできないこと。
ヤマトの配達完 了データに不備があって、実際には届いてい ないのに表示上は配送済みとなっていたこと も過去にはあった。
基本的には専用袋をドア ノブに引っかけるのだが、配送員の方への認 知も徹底していなかったため、ポストに入ら ない商品を立てかけて置いてきたりしたこと がトラブルになった」(森さん) こうしたトラブルは現在はほとんどなくな った。
全出荷実績に占めるメール便の割合は、 すでに約六割に上る。
商品を手渡さないメー ル便では紛失事故も発生するが、その確率は 極めて低い。
紛失時に商品を再発送すること まで考えても、メール便の方がコストパフォ ーマンスが高いのだという。
システム修正後のスピードが勝負 日本のオンライン書店は現在、リアル書店 のシェアを侵食しながら全体としては急成長 している。
システム面の問題を抱えるブック ワンでさえ、前年比三割増の勢いで売り上げ を伸ばしている。
首位のアマゾンがより急速 に拡大していることもあって、オンライン書 店全体では前年比五割増を越すペースで成長 しているとみられる。
七年連続で市場の縮小 が続いている書籍業界では出色の存在だ。
ただ現在のオンライン書店の市場規模を推 定四〇〇億円としても、約九〇〇〇億円の書籍市場に締めるシェアはまだ五%にも満たな い。
ここに日本のオンライン書店が直面してい る厳しい現実がある。
五%程度のシェアでは、日販やトーハンな どの大手取次がオンライン書店専用に設置し ている物流センターの生産性向上には限界が ある。
しかも書籍全体の返品率が相変わらず 四割前後で高止まりしている状況では、オン ライン書店の返品率が格段に低いことも大し た意味を持たない。
アマゾンが海外でやって いるように、オンライン書店が版元から有利 な仕入れ条件を引き出すのは現状では簡単で はない。
こうした状況を考えていくと、日本の書籍 流通に風穴を空ける可能性を秘めているオン ライン書店は、圧倒的な勢いでシェアを拡大 しているアマゾンと、TRCと一体的に動く ブックワンの二社しか現状では見当たらない ことが分かる。
その他のオンライン書店の売 上高がブックワンの数倍あるとしても、バッ クヤードを取次に依存していたり、従来のビ ジネスモデルの延長線上にある限り、既存の 出版流通のあり方を左右できる可能性は小さ いはずだ。
石井社長は、「リアル書店とネット書店の 補完関係は八五対一五くらい、つまり現状の 書籍市場の規模から推定すると、ネット書店 全体の売上高は一三〇〇億円くらいでピーク になると見ている。
市場が飽和状態になる前 にブックワンとしては早くシステムを立て直 す必要がある。
そのうえで物流をもっと整備 し、広く適正在庫を持つことでアマゾンとも 勝負していきたい」と強調する。
その視線の 先には、既存の出版流通を変え得る能力を備 えたビジネスモデルが明確にある。
ただし、ブックワンに残された時間はそう 長くない。
二〇〇二年六月の株主総会で同社 は一五億以上の累積損失を一掃している。
資 本準備金一〇億円を取り崩し、創業時に一〇 億円だった資本金を五〇%減資することで資 金をひねり出した。
その後、再び五億円を増 資して現在に至っているが、このような経緯 を考えると更なる足踏みは許されまい。
また、アマゾンが日本で自社在庫を充実さ せられなかった最大の理由は、その前提とし て和書に関する購買データの蓄積がなかった ためと思われる。
だが進出から三年を経て、 それなりの経験は積んできた。
アマゾンが本 気で日本の書籍流通を変えるつもりなのであ れば、そろそろ買い取りによる自社在庫の強 化と、それによる出版社への値引き交渉を本 格化しても不思議はない。
オンライン書店は、もはや完全に日本の消 費者に受け入れられた。
一昔前のビジネスモ デルの優位性をめぐる空騒ぎとは異なる、本 質的なサプライチェーン競争の段階へと踏み 出しつつある。
この市場における勝者の動向 しだいで、日本の出版流通はかつてない変化 の波に襲われることになる。
(岡山宏之)
中堅 オンライン書店、ブックワンの石井昭社長の 言葉は、にわかには信じがたいものだった。
本来、文学界で最も著名な芥川賞・直木 賞の発表は、書店にとって?恵みの雨〞とも いうべきイベントだ。
需要予測の難しい本と いう商品を扱う上で、これらの賞の受賞作品 は別格の存在。
最近は昔ほどではないようだ が、賞を獲った本はある程度まで必ず売れる。
しかも賞の選考過程で出版社もそれなりの在 庫を用意するため、取次による割り当てなど は厳しくても、書店にとっては確実に利益に つながる。
その芥川賞の発表を受けて書店の売り上げ が減るなどという話は、出版業界の常識に照 らせば考えにくい。
たとえ受賞作品が売り切 れてしまったとしても、これを目当てに来店 客が増える効果は、書店にとってプラスにこ そなれ、マイナスには働きようがない。
にも かかわらず、ブックワンの売り上げは落ちて しまったという。
理由は単純だった。
「現在のシステムの性 能があまりにも悪すぎる。
サイトが重いため、 お客さんが集中したとき、『買い物カゴ』に 商品を放り込むところまで進みながら結局は 買わないといったケースが出てきてしまう。
お客が増えれば増えるほど販売効率が悪化し 動かないシステムを抜本的に修正 自社在庫の強み活かして捲土重来 縮小を続ける書籍市場で、オンライン書 店の成長が加速している。
一方でライバル 同士の優勝劣敗も明らかになってきた。
中 堅オンライン書店のブックワンは単月黒字 を計上できる一歩手前までこぎつけたが、 情報システム面の課題に直面している。
今 後半年をかけてシステムを再構築し、物流 の優位を武器に再び攻勢に転じる方針だ。
ブックワン ――ビジネスモデル 37 MARCH 2004 クレームばかりが増える」(石井社長)とい う悪循環に陥ってしまったのである。
インターネットを使って本を販売するオン ライン書店でありながら、肝心のシステム面 に弱点を抱えてしまったことはブックワンに とって大きな誤算だった。
現在の同社は、売 上高ベースでみるとオンライン書店の上位四 社に大きく水をあけられている(下表)。
約 二〇億円という現在の年商は、創業した二〇 〇〇年三月の記者会見で石井社長が言った 「採算分岐点は売上高五〇億円」という数値 にも遠く及ばない。
実際、ブックワンの業績はまだ黒字化して いない。
コスト構造の見直しなどを進めたこ とで、単月黒字化の一歩手前まではきた。
し かし、今後の半年間でシステムへの投資を予 定しているため、採算ラインは再び遠のく。
評判通りの強さを見せたアマゾン 日本で九〇年代の後半から二〇〇〇年にか けて乱立したオンライン書店の生き残り競争 が、新たな段階に入ろうとしている。
ITバ ブルの崩壊が誰の目にも明らかになった二〇〇一年には、早くもオンライン書店の撤退ラ ッシュが始まった。
アスクルはオフィス向けの書籍需要を取り 込もうと立ち上げた「ブックカフェ」を二〇〇 一年二月に文具サイトに統合し、書籍の取り 扱いを大幅に縮小した。
世界市場でアマゾン と競い合っている独BOLも、同年一〇月にブ ックワンに販売業務を移管。
事実上、日本市 場から撤退した。
同じ頃、三省堂書店もネット 販売業務の大半をブックワンに委託した。
ヤマト運輸の子会社であるブックサービス や、紀伊國屋書店が運営する紀伊國屋ブック ウェブなど一部の例外を除けば、日本のオン ライン書店の多くは、九五年に米シアトルで 創業したアマゾンドットコムの成長物語を後 追いしてきた。
早くから日本進出の噂が絶え なかったアマゾンに日本市場を席巻される前 に、ビジネスチャンスを掌中に収めようと多 くの起業家が事業化を急いだ。
書籍がネット通販に適する商材であること は間違いない。
タイトルと価格、表紙の写真、 内容情報などをサイトで閲覧できるようにし さえすれば、オンライン書店の開設そのもの は比較的容易だ。
中小書店が経営難でどんど ん潰れている日本の書籍市場では、ネット通 販の入りこむ余地が大きかったという判断も 理解できる。
しかし、現実にオンライン書店の経営を軌 道に乗せるためには、多くの課題をクリアす ブックワンの社長と図書館流通 センター(TRC)の会長を兼務 する石井昭氏 アマゾンジャパン (Amazon.co.jp) ブックサービス (ブックサービス) 紀伊國屋本店 (紀伊國屋BooKWeb) イー・ショッピング・ブックス (イーエスブックス) ブックワン (bk1) 楽天ブックス (楽天ブックス) 日本出版販売 (本やタウン) トーハン (e-hon) 59億円 推定50億円 推定40億円 約20億円 推定20億円前後 − − 指定書店までの配送料は無料。
参加書店が独自に設定している宅 配サービスはまちまち。
トーハンの在庫を使える点が売り。
指定書店までの配送料は無料。
参加書店が独自に設定している宅 配サービスはまちまち。
日販の在庫を使える点が売り。
2000年10月設立。
日販のネット倉庫の在庫を活用。
配送業者は 日本通運。
2000年7月から。
図書館流通センターの出荷機能、在庫を共同で 利用。
配送業者は設立以来、ヤマト運輸を利用。
1999年8月から。
トーハンの専用倉庫を主に利用。
セブン―イレ ブンの店舗での受け取りの場合、送料無料が売り文句 1996年から。
大型書店として著名な自社店舗の店頭在庫をその まま活用。
リアル書店の補完機能として位置づけ。
1986年から。
在庫がなければ出版社に自ら集荷するサービスが 特徴。
配送業者は親会社であるヤマト運輸。
2000年11月から。
2003年からは家電製品も扱うなど、現在で 1件につき240円、1500円以上無料 は書籍の扱いは半分程度。
配送業者は日本通運。
無料。
代引きの場合のみ1回200円 1件につき380円、代引き手数料は 200円、無料扱いはなし 10冊ごとに240円、1500円以上無 料、セブンの店舗での受け取り無料 メール便なら無料、宅配指定250円 1500円以上無料、代引きは300円 1件につき210円、1500円以上無料、 料、代引き手数料は210円 書店引き渡しの場合は無料、宅配料 金は別途 書店引き渡しの場合は無料、宅配料 金は別途 有力オンライン書店のサービス比較 企業名、カッコ内はサイト名 事業規模(年商) 配送料 特徴と概要 書籍だけで 推定200億円 LOGI-BIZ調べ る必要がある。
安定した商品調達ルートの確 保、顧客ニーズを満足させられるバックヤー ド(在庫管理体制)の整備、安くて正確な配 送体制の構築、そして当然のことながら優れ た情報システムも欠かせない。
成功のカギは、消費者にとって便利で、オ ンライン書店側にとっては競合企業よりコス トパフォーマンスのいい「情報」と「物流」 の仕組みを構築できるかどうかに尽きる。
そ して、恐らく、この点を誰よりも深く理解し ていたのが米アマゾンだった。
創業以来、アマゾンはシステム開発と物流 の整備に先行投資を続けてきた。
各地に自前 の物流拠点を構え、膨大な自社在庫を保有す ることで顧客の利便性を高めようと躍起にな った。
今になって振り返れば、こうした姿勢 は、アマゾンのネット通販への確かな理解の 裏返しだったことが分かる。
現に二〇〇〇年十一月に日本進出を果た したアマゾンは、後発でありながら瞬く間に 業界トップの座に駆け上がった。
音楽CDや DVD、家電製品などの売り上げも大きい同 社を、他のオンライン書店と同列に扱うのは 無理がある。
だがアマゾンの日本法人は、す でに書籍だけでも年商約二〇〇億円を売り上 げている模様だ。
売上高ベースで二位以下の オンライン書店を引き離すトップ企業である と同時に、日本有数の巨大書店であることは 間違いない。
アマゾンが日本で急成長できた理由は、知 名度の高さと、誰もが認める使い勝手の良さにある。
一方、競合するオンライン書店の多 くは、ブックワンと同じようにサイトの反応 が遅いなど使い勝手の悪さが目立つ。
リアル 書店にない利便性や楽しさを実現しようとし たサイトほど、システムの反応が遅くなる傾 向がある。
盛り込む情報が多いほど、実際の 購買活動とは関係のない部分でシステムに負 荷がかかってしまうためだ。
情報システムでつまずいた理由 三年半前に創業したときブックワンは、「豊 富な書籍情報」と「独自の配送網」の二つを 最大の売り文句に、ライバル企業との差別化 を図ろうとした。
実際、サービス開始時には 一万冊分の書評を用意し、日経BP社などと 設立した書評専門会社を使って書籍情報を提 供する体制も整えた。
サイトの作り手として、 リアル書店で実績のあった人材も招き入れた。
こうした姿勢が本好きの消費者から好意的に 受けとめられたことは事実だ。
しかし、豊富な書評などによるブックワン の優位性は、他のオンライン書店が似たよう なサービスを拡充したことで、ほどなく薄れ てしまった。
アマゾンの日本法人が先陣を切 った他サイトとの販売提携や、読者が書き込 む「カスタマーレビュー」などがそれだ。
誕生から五、六年しか経っていなかったネ ット通販のビジネスモデルの急速な変化が、 ブックワンの想定した優位性を吹き飛ばして しまった。
さらには単にアドバンテージを失 ったばかりか、ブックワンが他社と同様にビ ジネスモデルを変革しようとすると、システ ムへの負荷が想定外に大きくなるという前述 の悪循環にはまってしまった。
石井社長は失敗の原因を次のように振り返 る。
「我々は会社を二〇〇〇年三月に発足し、 その年の七月にはサービスを開始した。
実質 的にはわずか三カ月間でサイトを立ち上げた わけだ。
当社への出資企業でもある富士通が システムを構築してくれたのだが、そもそも ここから間違っていた」 富士通ほど大規模な企業になると、三カ月 という短期間で複雑なシステムを作ることが できる。
日本中から技術者を集めてパーツを 作り、最終的にそれを組み合わせて全体で動 くようにしたのである。
ところが、こうした システム構築の結果、「あるパーツを手直し すると、いちいち全体として動くかをテスト MARCH 2004 38 ブックワンのサイト「bk1」 39 MARCH 2004 しなければならなくなってしまった。
システ ムの開発コストが常にバカ高くなり、うっか り手直しもできない」(同) その窮状を象徴しているのが、芥川賞の発 表を受けて売り上げが減少したり、一日のう ちで売り上げがピークになる時間帯が、利用 者の本来のニーズに応えられないためにどん どずれていくという事態だった。
石井社長は、 「今さら遅いと言われるかもしれないが、まず はシステムを再構築するしかない。
そうしな ければ、在庫の面で当社が持っている優位性 すら有効にきかない」という。
在庫と配送で持つ独自の強み 情報システムさえ再構築すれば、まだ勝ち 目はあるという石井社長の自信には裏付けが ある。
オンライン書店にとって柱の一つであ る物流上の強みがそれだ。
確かにブックワン の持つ物流の仕組みは、トップのアマゾンといえども簡単には凌駕できそうにない。
現在のブックワンは、同社の筆頭株主でも ある図書館流通センター(TRC)と、在庫 機能と出荷機能をほぼ完全に共有している。
実はこのことこそが発足時のブックワンが注 目を集めた理由の一つなのだが、石井社長は TRCの会長職を兼務している。
そして、実 質的に石井社長が育て上げてきたTRCとい う会社は、全国の公共図書館の約七割に本を 供給する出版流通業界の有力企業だ。
一九七九年に設立されたTRCは、図書館 に押し寄せた情報化の波に乗って成長した。
かつて図書館で行われていたカードによる書 籍検索は、時代とともに徐々にコンピュータ に置き換えられてきたわけだが、そのために は情報を検索する仕組みが不可欠だった。
T RCは八〇年代初めに大手取次のトーハンと 組んで「TRC MARC」という書誌デー タベースを開発、これを全国の図書館に普及 させることに成功した。
現在のTRCは、トーハンや日本出版販売 (日販)、大阪屋などの取次五社から仕入れた 本を、全国の図書館に通信販売している。
出 版社が新刊書を発売するのとほぼ同時に、T RCが発行する『週刊新刊全点案内』という 通販カタログで、新刊書の表紙写真や価格、 版型、内容などを図書館に紹介する。
利用者 である図書館は、このカタログにあるバーコ ードをスキャンするだけで必要な新刊を購入 できる仕組みだ。
さらにTRCは、図書館に納品する書籍に 特有の作業として、透明ビニールのカバーを かけたり、図書館で利用するバーコードシー ルを事前に添付する業務も手掛けている。
書 籍を購入した図書館が、すぐに書架に並べら れるように流通加工を施しているわけだ。
従来はそれぞれの図書館が手掛けていたこ うした作業を集約し、効率化したことで、T RCは図書館向け書籍販売の世界の独占企 業になった。
業界プラットフォーム事業の典 型的な成功事例といえる。
TRCの二〇〇三 年三月期の業績は、売上高二五〇億円に対 して経常利益一八億円。
薄利多売が当たり前 の出版流通の世界では、かなり高い利益率を 確保している。
もはや多くの図書館がTRC なくして成り立たないと言われるほど、この 分野での存在感は大きい。
TRCには累計で二二〇万タイトルに及ぶ 書誌データベースと、ブックワンの発足時に 改めて強化した出荷機能がある。
そして埼玉 県の志木(新刊用)と新座(旧刊用)の二つ の倉庫には、合計で五万タイトル、一二〇万 冊の自社在庫を持つ。
他に取次のバックヤー ドも利用しており、こうした機能を一方的に 他者に頼らざるをえないオンライン書店に比 べたブックワンのアドバンテージは歴然とし ている。
というのも、自社物流センターと自社在庫 を前提にグローバル展開を続けてきたアマゾ TRCの「志木ブックナリー」 MARCH 2004 40 ンだが、日本ではこの原則を曲げている。
物 流の現場作業には日本通運を使い、自社在庫 の品揃えについても現状ではまだ限定的なレ ベルにとどまっている。
購読者の六割がメール便を利用 注文を受けてから届けるまでのリードタイ ムの長短は、オンライン書店が顧客の支持を 獲得するうえで重要な要素だ。
短いリードタ イムを望む顧客ニーズに応るためには、出荷 機能まで備えた物流センターを構え、そこに 市場ニーズにあった品揃えの自社在庫を持つ ことが必須条件になる。
通常、オンライン書店は、商品の在庫状況 を三〜五段階程度に分けてサイト上で告知し ている。
ブックワンの場合は、本の?発送時 間〞として「二四時間」、「二〜三日」、「一〜 二週間」の三段階で表示している。
「二四時 間」というのは自社在庫があって即座に出荷 できる本、「二〜三日」は提携している取次 に在庫がある本、「一〜二週間」というのは 確認できる在庫がないため新たに出版社に発 注する本を指す。
ブックワンの配送パートナーはスタート時 からヤマト運輸だが、宅配便を使った有料配 送と、二〜三日後にメール便で届ける無料配 送を使い分けている。
創業時から強くこだわ ってきた当日配送では、関東地域(一都六 県)の利用者から午前一〇時三〇分までに受 注した分を、その日のうちに宅配便(送料二 五〇円)で届けている。
当日配送分については、志木の物流センタ ーで十一時までにピッキングと梱包を済ませ た商品を、自らヤマト運輸の東京主管支店 (有明)に持ち込む。
「志木の周辺にもヤマト の拠点はあるが、そこに持ち込むとかえって 締め時間が早くなってしまう。
当日配送便の 出発の最も遅い有明であれば、十三時くらい までに持ち込めば一四時出発の便に間に合 う」と、ブックワンの運用チームで出荷管理 を担当している森俊輔さんは説明する。
一見、何のことはないサービスだが、豊富 な自社在庫と自前の出荷機能を持っているブ ックワンならではの差別化戦略といえる。
宅 配コストについても、ヤマトにとって最重要 顧客の一社である日経BP社がブックワンに 出資している関係もあって、かなり有利な条 件を引き出すことに成功している模様だ。
オンライン書店にとって商品を届ける配送 コストは、経営に大きなインパクトを与える 要因だ。
すべての荷物に対して発生するため 売上高にほぼ比例して負担が増え、システム 投資のようなスケールメリットは働きにくい。
こうした事情があるにもかかわらず、再販 制があるために本の値引き販売をしない日本 では、オンライン書店が消費者から収受する 配送料の安さを競い合ってきた。
二〇〇〇年 くらいまで本の宅配コストは、ブックサービ スが当時掲げていた一回三八〇円というのが 一つの目安になっていた。
ところがブックワ ンがスタート時に会員獲得のために二カ月間 の送料無料キャンペーンを張ったことで風向 きが変わった。
その後は体力勝負ともいえる 値下げ競争を繰り広げることになった。
現在のオンライン書店の宅配料金は、一回 当たり二〇〇〜二五〇円、購入金額が一五 〇〇円以上であれば無料、代引き手数料は別 途二〇〇〜三〇〇円程度というのが一般的だ。
宅配便とメール便を使い分けているブックワ ンでは、当日もしくは翌日配送の宅配便を指 定すれば二五〇円。
とくに宅配便利用の指定 がなければメール便で無料配送している。
創業当初のブックワンは宅配便しか使って いなかった。
だが前掲の値下げ競争に加え、 メール便のサービスレベルが急速に拡充され て、しかも不在時にポストに投函して欲しい という利用者からの要望も増えてきたことか ら、二〇〇二年一〇月からは宅配便を指定し てこない限りメール便で対応するように方針 を変えた。
現状ではヤマトのメール便の規格 (縦横厚さの合計が七〇センチ以内。
重量一 キロ以内)に納まる本は、すべてこの配送網 ブックワンで出荷管理を担当す る森俊輔さん 41 MARCH 2004 を使って届けている。
「当初はクレームもあった。
一番の問題は 宅配便と違って、メール便はいつ到着するか 明確な回答をできないこと。
ヤマトの配達完 了データに不備があって、実際には届いてい ないのに表示上は配送済みとなっていたこと も過去にはあった。
基本的には専用袋をドア ノブに引っかけるのだが、配送員の方への認 知も徹底していなかったため、ポストに入ら ない商品を立てかけて置いてきたりしたこと がトラブルになった」(森さん) こうしたトラブルは現在はほとんどなくな った。
全出荷実績に占めるメール便の割合は、 すでに約六割に上る。
商品を手渡さないメー ル便では紛失事故も発生するが、その確率は 極めて低い。
紛失時に商品を再発送すること まで考えても、メール便の方がコストパフォ ーマンスが高いのだという。
システム修正後のスピードが勝負 日本のオンライン書店は現在、リアル書店 のシェアを侵食しながら全体としては急成長 している。
システム面の問題を抱えるブック ワンでさえ、前年比三割増の勢いで売り上げ を伸ばしている。
首位のアマゾンがより急速 に拡大していることもあって、オンライン書 店全体では前年比五割増を越すペースで成長 しているとみられる。
七年連続で市場の縮小 が続いている書籍業界では出色の存在だ。
ただ現在のオンライン書店の市場規模を推 定四〇〇億円としても、約九〇〇〇億円の書籍市場に締めるシェアはまだ五%にも満たな い。
ここに日本のオンライン書店が直面してい る厳しい現実がある。
五%程度のシェアでは、日販やトーハンな どの大手取次がオンライン書店専用に設置し ている物流センターの生産性向上には限界が ある。
しかも書籍全体の返品率が相変わらず 四割前後で高止まりしている状況では、オン ライン書店の返品率が格段に低いことも大し た意味を持たない。
アマゾンが海外でやって いるように、オンライン書店が版元から有利 な仕入れ条件を引き出すのは現状では簡単で はない。
こうした状況を考えていくと、日本の書籍 流通に風穴を空ける可能性を秘めているオン ライン書店は、圧倒的な勢いでシェアを拡大 しているアマゾンと、TRCと一体的に動く ブックワンの二社しか現状では見当たらない ことが分かる。
その他のオンライン書店の売 上高がブックワンの数倍あるとしても、バッ クヤードを取次に依存していたり、従来のビ ジネスモデルの延長線上にある限り、既存の 出版流通のあり方を左右できる可能性は小さ いはずだ。
石井社長は、「リアル書店とネット書店の 補完関係は八五対一五くらい、つまり現状の 書籍市場の規模から推定すると、ネット書店 全体の売上高は一三〇〇億円くらいでピーク になると見ている。
市場が飽和状態になる前 にブックワンとしては早くシステムを立て直 す必要がある。
そのうえで物流をもっと整備 し、広く適正在庫を持つことでアマゾンとも 勝負していきたい」と強調する。
その視線の 先には、既存の出版流通を変え得る能力を備 えたビジネスモデルが明確にある。
ただし、ブックワンに残された時間はそう 長くない。
二〇〇二年六月の株主総会で同社 は一五億以上の累積損失を一掃している。
資 本準備金一〇億円を取り崩し、創業時に一〇 億円だった資本金を五〇%減資することで資 金をひねり出した。
その後、再び五億円を増 資して現在に至っているが、このような経緯 を考えると更なる足踏みは許されまい。
また、アマゾンが日本で自社在庫を充実さ せられなかった最大の理由は、その前提とし て和書に関する購買データの蓄積がなかった ためと思われる。
だが進出から三年を経て、 それなりの経験は積んできた。
アマゾンが本 気で日本の書籍流通を変えるつもりなのであ れば、そろそろ買い取りによる自社在庫の強 化と、それによる出版社への値引き交渉を本 格化しても不思議はない。
オンライン書店は、もはや完全に日本の消 費者に受け入れられた。
一昔前のビジネスモ デルの優位性をめぐる空騒ぎとは異なる、本 質的なサプライチェーン競争の段階へと踏み 出しつつある。
この市場における勝者の動向 しだいで、日本の出版流通はかつてない変化 の波に襲われることになる。
(岡山宏之)
