2012年2月号
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「スピード経営で環境変化に対応する」 石崎哲 近鉄エクスプレス 社長
FEBRUARY 2012 4
ります。
一一年三月期は海外の業績が 好調だったこともあり、海外営業利益 の構成比は七〇%を超えました」 ──身軽さゆえの失敗はありませんで したか。
「それはいくつか(笑)。
やはり打率 一〇割はあり得ない。
ただ、引くべき ときは早く引くので、決断を先延ばし にしたために、傷が広がるということ にはなりません」 ──この数年、これまで変化の緩やか だった国内の物流業界でもM&Aが活 発になりつつあります。
その中でも近 鉄エクスプレスは動かず、自主独立を 貫き、自立成長を続けています。
「次々とM&Aを重ねて規模を拡大す るというのは一つの手法として有効だ と思います。
我々にしてもM&Aの検 討は続けています。
ただし、M&Aで 本当にシナジー効果を得られるのかは 慎重に検討しなければなりません。
特 に海外では物流会社の資産は商圏だけ というケースが多い。
買収後に元のオ ーナーが商圏を持って会社を去り、せ っかく買った株式が紙くずになると いうリスクがある。
そこで当社は〇九 年にタイの物流会社を買収しましたが、 まずは株式の六〇%を取得し、三年か けて買い増すという方法をとりました」 ──KWE特有のDNAがM&Aを阻 害しているところもあるのでは。
常に先頭を走る ──リーマンショック後の業績をどう 評価していますか。
「業績が落ち込み、かなり苦しい思 いをしましたが、一年程度で回復基 調に乗ることができました。
中期経営 計画の初年度に当たる二〇一一年三月 期は当初目標を上回り、売上高二六 七六億円、経常利益一二八億円を上 げています。
中計の最終年度、一三 年三月期の目標も売上高三二二〇億 円、経常利益一五〇億円に上方修正 し、過去最高業績を目指しています」 ──業績堅調の理由は? 「環境変化に早め早めに手を打ったの が効いたと感じています。
航空貨物の 荷動きはリーマンショック以前の〇八 年夏頃から鈍っていました。
そこで当 社は事業環境が悪化する可能性が高い と判断し、よそよりも一足早くコスト 削減プロジェクトに着手しました。
日 本単体で三〇億円、国内外の関係会 社で三五億円、合計六五億円の削減 目標を設定した上で、人件費、施設費、 事務費など内訳を示して数値を落とし 込んでいきました」 ──なぜ他社よりも早く動けたのでし ょう。
「常に半年先、一年先の状況を読み、 早めに手を打っておくというのは当社 に脈々と流れるDNAです。
昔から当 社には意思決定を早くする、すぐにア クションを起こす、結論をすぐに出す という身軽さがありました。
会社の 規模は大きくなっても、指揮命令系統 が明確で、トップの意思が伝わりやす い、トップの判断をすぐに実行するこ とができる点は変わっていません。
ト ップが判断の方向性さえ間違えなけれ ば、そうした機敏さは今のような環境 ではプラスだと考えています」 「同時に、現場からはさまざまな意 見を吸い上げています。
社員には仕事 のアイデアを自分で考え、それを会社 の中で自分の言葉できっちり表現する ようにと常日頃指示しています。
その アイデアに上司がゴーサインを出せば 実行に移す」 「例えば海外展開です。
一九六九年 に香港と米国に現地法人を設立して以 来、当社は同業他社に先行してグロー バル・ネットワークの整備を進めまし た。
香港法人は日系荷主からの引き合 いをきっかけに作りましたが、最初は 荷主が一社しかいない状態だった。
そ れでも将来を見据えて海外に進出する という決断をすぐに下した。
結果、今 では連結営業利益のうち、海外営業 利益の構成比は業界でも高い水準にあ 石崎哲 近鉄エクスプレス 社長 「スピード経営で環境変化に対応する」 世界経済の変調をいち早く予測、大規模なコスト削減を断行する ことでダメージを最小限に抑えた。
同時にこれまで手薄だった東南 アジアの強化を進めるなど、将来への布石も着々と打っている。
環 境の変化に柔軟に対応するスピードを武器に、二〇一三年三月期に は過去最高業績の更新を目指す。
(聞き手・大矢昌浩、梶原幸絵) 5 FEBRUARY 2012 「臆病だという批判もあるかもしれま せん。
それでもわれわれとしては会社 の文化をできるだけ守り、文化に合っ た会社であればM&Aの対象とし、そ うでなければ止めるというはっきりと した方針を持っています。
社員には会 社の文化を伝承してもらいたいという 思いがある。
純血主義に近いところが あるかもしれません」 ──景気低迷による業界再編について はどのように見ていますか。
「国内では少しずつ動きが出てくる でしょう。
市場がシュリンクしている 状況なので、海外進出に出遅れたフォ ワーダーはここにきて苦しくなってい ます。
日系物流業者が外資に買収され た例もある。
国内ばかりでなく、世界 的に再び再編が起こる可能性も考えら れます。
グローバルで確固たるネット 売り上げ、利益、ネットワークともに 他社より優っていると自負しています。
特に中国には一九八〇年代半ばに駐在 員を派遣し、九六年には現地法人を設 立しました。
国際物流だけでなく、中 国国内の物流についても顧客のニーズ に応え、他社に先駆けてネットワーク を広げてきた」 「これに対して東南アジアでは出遅れ た感がある。
シンガポールとマレーシ アでは他社に引けをとることはありま せん。
しかし、それ以外の地域につい ては他社に比べて弱い部分があるため、 タイやベトナム、インドネシア、フィ リピン、インドなどで他社に追いつく ための策を打ち、できるだけ速いスピ ードで強化します。
東アジアと東南ア ジアの両輪が回らなければアジア全体 をうまく回すことはできません」 「足元を見直し、弱みを強化する考 えです。
環境の良くない今だからこそ、 次の一手を真剣に考えられる。
ピンチ をチャンスに変えていきます」 ワークを持ち、航空、海上、ロジステ ィクスの三つの機能を一貫して提供で きなければ、生き残れない時代になっ ているためです」 ──現在のKWEの収益構成は航空貨 物に偏っています。
「海上貨物やロジスティクスへと収益 基盤を広げ、うまくバランスをとって いく。
荷主にとって航空輸送は緊急時 に突発的に行うもので、輸送と言えば 基本的には海上輸送です。
特に、アジ ア域内では航空輸送をビジネスの切り 口とするのは無理がある。
海上輸送か らアプローチをかけていかなければな りません。
輸送モードとして航空と海 上、常に同じレベルでのサービスメニ ューを持っておく必要があります」 「ロジスティクスは流通加工やディス トリビューションなどの機能によって、 他社と差別化するための武器になりま す。
荷主からも、ロジスティクスも含 めたドア・ツー・ドアの一貫した取り 扱いを求められています。
新規業務 の開拓に当たっては、総合的に提案し た方がお客さまにはインパクトがあり、 可能性が広がると考えています」 「もう一つの当社の課題はお客さま の業種がエレクトロニクス関係に偏っ ていることです。
これを是正しようと いう考えは以前からあり、エレクトロ ニクス関連貨物の比率は大きく下がっ ているとはいえ、日本発の航空輸出で はまだ五〇%程度を占めています。
当 面は自動車関連やヘルスケア、テキス タイルなどがターゲットです。
安定的 な伸びが予想され、かつ、価格競争に 巻き込まれにくい。
海上輸送の拡大に もつながります」 ピンチをチャンスに変える ──足元の状況は。
「昨年の半ば頃から物量が落ちてき ています。
今年も海上貨物も含めた 全体的な荷動きとしては期待できませ ん。
地域別に見ると、一番回復が遅れ るのは欧州でしょう。
米国はそれほど 悲観的になる必要はないと考えていま す。
日本については、物量がこれ以上 に下がるということはないと思います が、上がっていく要素も見えない」 「期待をかけているのはやはりアジア です。
中国の今年のGDP成長率は八 %を切る予想されていますが、政治の 力が大きいため、それほど心配するこ とはないと思います。
人件費の上昇に よって生産を中国からシフトする動き についても、アジア全体で見れば、イ ンドネシアやベトナムなどがその受け 皿になっています」 ──このところKWEは中国に投資を 集中していました。
「中国を含めた東アジアについては いしざき・さとし 1973年3月慶應義塾大学 卒業、同年4月近鉄エクス プレス入社。
香港法人への 出向、輸入営業部長などを 経て、2003年6月、取締 役に就任。
07年6月専務 取締役、09年6月より現職。
1950年4月1日生まれ。
3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 160 140 120 100 80 60 40 20 0 単位:億円 連結業績の推移 08/3 09/3 10/3 11/3 12/3 (予想) 12/3 (計画)〈月期〉 経常利益(右軸) 売上高(左軸)
一一年三月期は海外の業績が 好調だったこともあり、海外営業利益 の構成比は七〇%を超えました」 ──身軽さゆえの失敗はありませんで したか。
「それはいくつか(笑)。
やはり打率 一〇割はあり得ない。
ただ、引くべき ときは早く引くので、決断を先延ばし にしたために、傷が広がるということ にはなりません」 ──この数年、これまで変化の緩やか だった国内の物流業界でもM&Aが活 発になりつつあります。
その中でも近 鉄エクスプレスは動かず、自主独立を 貫き、自立成長を続けています。
「次々とM&Aを重ねて規模を拡大す るというのは一つの手法として有効だ と思います。
我々にしてもM&Aの検 討は続けています。
ただし、M&Aで 本当にシナジー効果を得られるのかは 慎重に検討しなければなりません。
特 に海外では物流会社の資産は商圏だけ というケースが多い。
買収後に元のオ ーナーが商圏を持って会社を去り、せ っかく買った株式が紙くずになると いうリスクがある。
そこで当社は〇九 年にタイの物流会社を買収しましたが、 まずは株式の六〇%を取得し、三年か けて買い増すという方法をとりました」 ──KWE特有のDNAがM&Aを阻 害しているところもあるのでは。
常に先頭を走る ──リーマンショック後の業績をどう 評価していますか。
「業績が落ち込み、かなり苦しい思 いをしましたが、一年程度で回復基 調に乗ることができました。
中期経営 計画の初年度に当たる二〇一一年三月 期は当初目標を上回り、売上高二六 七六億円、経常利益一二八億円を上 げています。
中計の最終年度、一三 年三月期の目標も売上高三二二〇億 円、経常利益一五〇億円に上方修正 し、過去最高業績を目指しています」 ──業績堅調の理由は? 「環境変化に早め早めに手を打ったの が効いたと感じています。
航空貨物の 荷動きはリーマンショック以前の〇八 年夏頃から鈍っていました。
そこで当 社は事業環境が悪化する可能性が高い と判断し、よそよりも一足早くコスト 削減プロジェクトに着手しました。
日 本単体で三〇億円、国内外の関係会 社で三五億円、合計六五億円の削減 目標を設定した上で、人件費、施設費、 事務費など内訳を示して数値を落とし 込んでいきました」 ──なぜ他社よりも早く動けたのでし ょう。
「常に半年先、一年先の状況を読み、 早めに手を打っておくというのは当社 に脈々と流れるDNAです。
昔から当 社には意思決定を早くする、すぐにア クションを起こす、結論をすぐに出す という身軽さがありました。
会社の 規模は大きくなっても、指揮命令系統 が明確で、トップの意思が伝わりやす い、トップの判断をすぐに実行するこ とができる点は変わっていません。
ト ップが判断の方向性さえ間違えなけれ ば、そうした機敏さは今のような環境 ではプラスだと考えています」 「同時に、現場からはさまざまな意 見を吸い上げています。
社員には仕事 のアイデアを自分で考え、それを会社 の中で自分の言葉できっちり表現する ようにと常日頃指示しています。
その アイデアに上司がゴーサインを出せば 実行に移す」 「例えば海外展開です。
一九六九年 に香港と米国に現地法人を設立して以 来、当社は同業他社に先行してグロー バル・ネットワークの整備を進めまし た。
香港法人は日系荷主からの引き合 いをきっかけに作りましたが、最初は 荷主が一社しかいない状態だった。
そ れでも将来を見据えて海外に進出する という決断をすぐに下した。
結果、今 では連結営業利益のうち、海外営業 利益の構成比は業界でも高い水準にあ 石崎哲 近鉄エクスプレス 社長 「スピード経営で環境変化に対応する」 世界経済の変調をいち早く予測、大規模なコスト削減を断行する ことでダメージを最小限に抑えた。
同時にこれまで手薄だった東南 アジアの強化を進めるなど、将来への布石も着々と打っている。
環 境の変化に柔軟に対応するスピードを武器に、二〇一三年三月期に は過去最高業績の更新を目指す。
(聞き手・大矢昌浩、梶原幸絵) 5 FEBRUARY 2012 「臆病だという批判もあるかもしれま せん。
それでもわれわれとしては会社 の文化をできるだけ守り、文化に合っ た会社であればM&Aの対象とし、そ うでなければ止めるというはっきりと した方針を持っています。
社員には会 社の文化を伝承してもらいたいという 思いがある。
純血主義に近いところが あるかもしれません」 ──景気低迷による業界再編について はどのように見ていますか。
「国内では少しずつ動きが出てくる でしょう。
市場がシュリンクしている 状況なので、海外進出に出遅れたフォ ワーダーはここにきて苦しくなってい ます。
日系物流業者が外資に買収され た例もある。
国内ばかりでなく、世界 的に再び再編が起こる可能性も考えら れます。
グローバルで確固たるネット 売り上げ、利益、ネットワークともに 他社より優っていると自負しています。
特に中国には一九八〇年代半ばに駐在 員を派遣し、九六年には現地法人を設 立しました。
国際物流だけでなく、中 国国内の物流についても顧客のニーズ に応え、他社に先駆けてネットワーク を広げてきた」 「これに対して東南アジアでは出遅れ た感がある。
シンガポールとマレーシ アでは他社に引けをとることはありま せん。
しかし、それ以外の地域につい ては他社に比べて弱い部分があるため、 タイやベトナム、インドネシア、フィ リピン、インドなどで他社に追いつく ための策を打ち、できるだけ速いスピ ードで強化します。
東アジアと東南ア ジアの両輪が回らなければアジア全体 をうまく回すことはできません」 「足元を見直し、弱みを強化する考 えです。
環境の良くない今だからこそ、 次の一手を真剣に考えられる。
ピンチ をチャンスに変えていきます」 ワークを持ち、航空、海上、ロジステ ィクスの三つの機能を一貫して提供で きなければ、生き残れない時代になっ ているためです」 ──現在のKWEの収益構成は航空貨 物に偏っています。
「海上貨物やロジスティクスへと収益 基盤を広げ、うまくバランスをとって いく。
荷主にとって航空輸送は緊急時 に突発的に行うもので、輸送と言えば 基本的には海上輸送です。
特に、アジ ア域内では航空輸送をビジネスの切り 口とするのは無理がある。
海上輸送か らアプローチをかけていかなければな りません。
輸送モードとして航空と海 上、常に同じレベルでのサービスメニ ューを持っておく必要があります」 「ロジスティクスは流通加工やディス トリビューションなどの機能によって、 他社と差別化するための武器になりま す。
荷主からも、ロジスティクスも含 めたドア・ツー・ドアの一貫した取り 扱いを求められています。
新規業務 の開拓に当たっては、総合的に提案し た方がお客さまにはインパクトがあり、 可能性が広がると考えています」 「もう一つの当社の課題はお客さま の業種がエレクトロニクス関係に偏っ ていることです。
これを是正しようと いう考えは以前からあり、エレクトロ ニクス関連貨物の比率は大きく下がっ ているとはいえ、日本発の航空輸出で はまだ五〇%程度を占めています。
当 面は自動車関連やヘルスケア、テキス タイルなどがターゲットです。
安定的 な伸びが予想され、かつ、価格競争に 巻き込まれにくい。
海上輸送の拡大に もつながります」 ピンチをチャンスに変える ──足元の状況は。
「昨年の半ば頃から物量が落ちてき ています。
今年も海上貨物も含めた 全体的な荷動きとしては期待できませ ん。
地域別に見ると、一番回復が遅れ るのは欧州でしょう。
米国はそれほど 悲観的になる必要はないと考えていま す。
日本については、物量がこれ以上 に下がるということはないと思います が、上がっていく要素も見えない」 「期待をかけているのはやはりアジア です。
中国の今年のGDP成長率は八 %を切る予想されていますが、政治の 力が大きいため、それほど心配するこ とはないと思います。
人件費の上昇に よって生産を中国からシフトする動き についても、アジア全体で見れば、イ ンドネシアやベトナムなどがその受け 皿になっています」 ──このところKWEは中国に投資を 集中していました。
「中国を含めた東アジアについては いしざき・さとし 1973年3月慶應義塾大学 卒業、同年4月近鉄エクス プレス入社。
香港法人への 出向、輸入営業部長などを 経て、2003年6月、取締 役に就任。
07年6月専務 取締役、09年6月より現職。
1950年4月1日生まれ。
3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 160 140 120 100 80 60 40 20 0 単位:億円 連結業績の推移 08/3 09/3 10/3 11/3 12/3 (予想) 12/3 (計画)〈月期〉 経常利益(右軸) 売上高(左軸)
