2012年2月号
ケース
ケース
カルソニックカンセイ 改善活動 開発担当者を中心に改善専任部隊を組織年間百数十億円に上るコスト削減を実現
FEBRUARY 2012 54
開発担当者が工場に常駐
日産自動車系の大手部品会社、カルソニ
ックカンセイがV字回復を果たしている。
同 社の業績は二〇〇八年秋のリーマン・ショッ クの影響で〇九年三月期に急落した。
連結売 上高が約二割減り、一六七億円の営業損失 を計上した。
記録が残っている過去四〇年間 で初の赤字転落だった。
それが一一年三月期には一転、一九五億 円の営業利益を確保するまでに復活した。
日 産の生産台数が大きく伸びたことで売上高が 回復したことも事実だが、それだけではな い。
〇九年四月から全社で展開した改善活 動、「MTCR」(モノツクリ・トータル・コ スト・リダクション)の貢献が大きかった。
実際、赤字に転落した翌年の一〇年三月 期には、売上高が続落したにもかかわらず営 業損失を五七億円に圧縮している。
聖域を 設けずにコスト削減に取り組んだ結果だった。
現在、グローバルMTCR推進本部長として この改善活動を牽引している藤崎彰常務執行 役員は、すでに「年間百数十億円のコスト削 減効果につながっている」と胸を張る。
カルソニックカンセイのMTCRには、他 の会社の改善活動とは異なるいくつかの特徴 がある。
何より興味深いのは、活動の中心 を開発部門が担っている点だ。
〇九年四月に 「MTCR特別推進本部」を立ち上げたとき は約一〇〇人の専任組織を発足させたが、メ ンバーの大半が設計部門の出身者だった。
「全体の四分の三が開発部門、四分の一が 生産技術の出身で、この構成は今も変わって いない。
彼らが現場を見ながら改善活動を進 めている。
現在、日本だけでもこのうち三一 人のスタッフが工場に常駐している。
これは われわれのようなメーカーでは非常に珍しい。
MTCR活動の最大の肝だ」と藤崎常務は説 明する。
MTCR活動が対象としている領域はきわ めて広い。
サプライチェーン全域にわたる物 流の最適化から購買に至るまで、カルソニッ クカンセイの生産活動に伴う変動費すべてを 視野に入れている。
そして、いかなるテーマの改善でも、その 活動がどれだけの効果につながるのか財務的 な目標値を掲げて取り組むことを大原則とし ている。
その効果も毎月、経理部門が評価す る。
こうした数値を共有しながら活動を進め ている点もMTCRの特徴の一つだ。
問題解決のアプローチについては次の三点 に強くこだわってきた。
?「三現主義」に基 づく徹底した現場主義、?部門の壁にこだわ リーマン・ショック後に急落した業績を回復するた め、独自の改善活動をスタートさせた。
開発部門が 中心になって、製品アイテム数の削減や物流ネットワ ークの見直し、工場の労務費の削減など、生産活動 にかかわるあらゆる変動費を対象にムダを排除した。
すでに年間百数十億円に上るコスト削減効果を生み 出している。
改善活動 カルソニックカンセイ 開発担当者を中心に改善専任部隊を組織 年間百数十億円に上るコスト削減を実現 グローバルMTCR推進本部 長を務める藤崎彰常務執行 役員 55 FEBRUARY 2012 らないクロス・ファンクション、そして?ト ップマネジメントによるステアリング・コミ ッティの駆使、である。
机上で論理を振り回すのではなく、実際に ?現場?で?現物?を見ながら、?現実?を 踏まえて課題に対処していく「三現主義」は、 日本のものづくりの強みとして広く知られて いる。
だがこれを口で言うだけでなく、開発 部門のメンバーの多くを工場に常駐させると ころまで徹底している事例は多くない。
クロス・ファンクションについては、親会 社が一九九九年から「日産リバイバルプラン」 に取り組んだときに採用した「CFT(クロ ス・ファンクショナル・チーム)」の考え方を 踏襲している。
日産のCFTは四〇才代の中 堅社員が中心となって、既存の組織が陥りが ちだった部門最適を脱し、全体最適を実現す るための?あるべき姿?を描き出した。
カルソニックカンセイでも、既存の組織の 枠にとらわれずにMTCR活動を進めている。
現場で発生する不都合は、その原因の多くが 前後の工程に潜んでいる。
そこにメスを入れ ていくうえでクロス・ファンクションの考え 方が重要な役割を果たしてきた。
経営層が強力に活動を後押し MTCR活動が結果を残せたのは、トップ マネジメントが参画するステアリング・コミ ッティの後押しがあったことも大きい。
経営 層が本気で取り組まない改善活動は一過性に なりがちだ。
人事異動で担当役員や部門長が 変わったとたんに失速してしまう。
その点、カルソニックカンセイで〇九年四 月から一貫してこの活動を主導してきたのは、 代表取締役副社長執行役員で開発本部長の 真行寺茂夫氏だ。
スタート時の副本部長には、 生産本部長である副社長と、購買本部長の 専務が就任。
開発本部副本部長の藤崎常務 が実務面から進めていくというマネジメント 体制を組んだ。
もちろん最高経営責任者の呉 文精社長も全面的に協力した。
現在も毎月一回開いているMTCRのステ アリング・コミッティには、呉社長、真行寺 副社長、藤崎常務、そしてものづくりにかか わる部門の責任者すべてが出席する。
現場で 何が起こっているのか。
どういった対策を講 じ、進捗状況はどうなっているのか。
経営層 の積極的な関与が結果につながってきた。
活動を牽引する真行寺副社長と藤崎常務の 二人には共通の職務経験がある。
真行寺氏は、 日産で購買担当の常務執行役員を務めたのを 最後に、〇八年四月にカルソニックカンセイ の副社長に転じた。
日産では長らく内製部品 の開発に携わった経験をもつ。
一方の藤崎氏 も、カルソニックカンセイで内製の標準品の 開発をずっと担当してきた。
カルソニックカンセイの業績と在庫の推移(連結) 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 -2,000 01 /3 02 /3 03 /3 04 /3 05 /3 06 /3 07 /3 08 /3 09 /3 10 /3 11 /3 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 棚卸資産回転日数(日) 連結売上高(億円) 営業利益(千万円) 棚卸資産回転日数(日) (月期) 2009 年4 月から正式にスタートしたMTCR活動の経緯 2008 2009 2010 2011 2012 MTCR 活動 ■ リーマン・ショックからのV字回復に貢献 ■ それ以前からの財務体質強化に貢献 リーマン・ショック グローバル MTCR 推進本部 2009 年4月〜 暫定組織として設立 2011 年4月〜 恒久組織化 MTCR=Monotsukuri Total Cost Reduction MTCR=MonoTsukuri Challenge Runner MTCR特別推進本部 FEBRUARY 2012 56 藤崎常務は振り返る。
「標準品のコストを 毎年五%下げていくのは非常に厳しい。
徹底 的にトータルコストで見ていくしかなかった。
設計が工場に入っていき、必要であればサプ ライヤーともやりとりをする。
そういう手法 でコストを下げてきた歴史を私も真行寺も知 っている。
だからこそMTCR活動を同様の やり方で一気に進めることができた」 もっともMTCR特別推進本部は活動の実 行部隊ではない。
あくまで改善の推進役であ り、日常の実務を担っているのは既存の機能 部門だ。
いかにトップレベルで旗を振っても、 実務部門がその気にならなければ成果は望め ない。
そして組織横断型の活動は、時として 実務部門の頭越しに進めることになり、現場 との衝突を発生させてしまう。
カルソニックカンセイでも、工場をはじめ とする現場は当初、活動に距離を置いていた という。
MTCR特別推進本部で藤崎氏を 補佐してきた高崎浩美主管は、真行寺副社 長や藤崎常務のような職務経験がなかったこ ともあって、最初は彼らが指摘する現場のム ダすら十分に理解できなかった。
この状況で 改善を進めるには現場の協力が欠かせなかっ たのだが、これが簡単ではなかった。
「とにかく困っていることを聞いてこいと 言われて工場に通った。
しかし工場の担当者 は『また上から目線で何かやれと言いにきた のか』という状態。
三カ月ぐらい経ったとき、 図面を少し直して現場で作業しやすくなるよ ライチェーンを実現していった。
MTCR特別推進本部で物流関連の効率 化に携わってきた鈴木重道主管も、当初は現 場の警戒心を解くことに苦労したという。
そ れが、ある製品を生産する工場を見直し、物 流の移動距離を圧倒的に短縮するという改善 を実践してみせたことを契機に、SCM部門 との協業関係が動きだした。
「作る場所を変えたり、過剰梱包を見直す ことによって物流を合理化していくアイデア が現場にはたくさんある。
しかし、ある工場 の仕事を取り上げて、違う工場で作るような うにしてあげたのをきっかけに、ようやく変 わりはじめた。
ここを見直してほしい、この 点を変えてほしいといった話がどんどん出て くるようになった」と高崎主管は言う。
従来の同社の生産現場には、上流工程に何 かを要求しても意味がないと言わんばかりの ムードが蔓延していた。
それが開発部門の人 間が自ら工場に足を運び、実際に要望に応え てみせることで少しずつ変化してきた。
MT CRの担当者が潤滑剤の役割を果たすことで、 部門間を隔てる壁が崩れはじめた。
「運ばない」ことで物流を合理化 赤字転落からのリカバリーを目標としてい たMTCRにとって、物流費の削減は大きな ポイントだった。
この分野の活動は、実務部 隊であるSCM部門と共同で進めた。
物流を合理化するために打ち出したキーワ ードは「運ばない」「まとめて運ぶ」「倉庫を減 らす」「過剰梱包を見直す」などシンプルなも のばかり。
それでもSCM部門だけでは解決 できなかった課題に、MTCRが積極的に関 与していくことで効率化が進んだ。
その成果は、国内に二七カ所あった倉庫を 二年間で一四カ所まで減らしたことに端的に あらわれている。
また、調達物流の効率化も 購買部門を巻き込んで進めた。
サプライヤー から調達する物品の輸送ルートを詳細に洗い 出し、現地調達率の向上などで「運ばない」 ことを実践。
?地産地消?を原則とするサプ 三現主義に基づいてムダを排除するMTCR活動 ■Cross functionでの改善活動(根本対策) 客先から生産現場まで全てのものつくりに関わるプロセスに 三現主義でフィードバックして、現場からムダが排除される 客先 設計検討 工程検討 生産 出荷 客先工場 課題 常駐チーム ものつくりベスト 種類削減 基準の明確化 種類削減 工程不良 三現主義 現場・現物・現実 パッケージ 仕様変更図面変更冶具変更 対策 設備 サプライヤ 道のり倉庫 SNP ムダ ムダ ムダ ムダ ムダ 57 FEBRUARY 2012 スパーツの半減に取り組んだ。
日産と相談し ながら、部品の共通化などを設計にまで遡っ て進めることでアイテム数を大胆に減らした。
ここでもMTCRが折衝の矢面に立った。
コスト削減からものづくりの強化へ MTCR活動は段階的に対象領域を拡大 してきた。
一年目は日本国内を対象にムダの 排除に取り組んだ。
二年目からは活動の場を 海外へと広げ、現地調達率の向上など根本的 な施策によって物流コストを減らしていった。
こうして常にスコープを拡大しつづけること で?ネタ切れ?に直面することもなく成果を 出しつづけてきた。
三年目を迎えた一一年四月には、活動が 第二段階に入ったという判断から組織の恒久 化に踏み切った。
同時に、それまでMTC R(= Monotsukuri Total Cost Reduction) としていた活動の名称を、M T C R(= MonoTsukuri Challenge Runner)に置き換 えた。
すでに浸透していた略称はそのままで、業 績の悪化をリカバリーするためのコスト削減 という活動のゴールを、将来を見据えた企業 体質の強化へとシフトした。
「当初われわれ の活動にはものづくりの競争力を強化すると いう物差しはなかった。
だが今は一番になる ため、金メダルを獲るための活動としてMT CRに取り組んでいる」と藤崎常務。
活動の位置づけが進化するのに伴い、MT CR特別推進本部が担う役割も変化してきた。
活動の中核を担っているのは依然として開発 部門だが、MTCRの専従になった人材でも 二年間で出身母体に戻すことを原則としてい る。
現場の経験を開発業務にフィードバック することで、従来のように発生したムダを刈 り取るのではなく、上流工程でムダを発生さ せないようになることを期待している。
最近は人材教育も強く意識している。
藤 崎常務は現在、「?ブラックベルト?のように 活動の推進者を評価する仕組みをつくれない かと考えている」と明かす。
ブラックベルト とは、品質管理手法であるシックス・シグマ 活動を推進する有資格者に与えられる名称だ。
とくに海外では、人事評価の仕組みなどを整 えることで活動を底上げできるとみている。
ただし藤崎常務は、活動の成果はMTCR を推進している人に帰属するものではないと 強調する。
「われわれは活動を活性化する触 媒みたいなもの。
実行もするし、リードもす るし、データベースを作って経験の共有もす る。
しかし、実際の改善活動は機能部門が手 掛けている。
われわれは実務部門にできない ことをみつくろって手伝っているだけ。
あく までMTCRの主役は彼らだ」 最近ではサプライヤーとの協業を深化させ るため、取引先の業務に入り込んでMTCR 活動を進めるケースも出てきた。
開発部門が 主導する改善活動がさらに広がっている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 変更は現場ではなかなかできない。
そうした 課題をわれわれが調整することによって信頼 関係を構築していった」 販売物流の分野では、主力の販売先である 日産を巻き込んで活動を展開した。
日産に納 入頻度の見直しを持ちかけ、中継拠点の削減 につなげた。
これが前述した国内倉庫の半減 という結果につながった。
梱包改善による合理化も積極的に実施した。
海外工場から顧客にコンプレッサーを納品す る際、従来はトラックの荷台の上部に中途半 端なデッドスペースが生まれていた。
これを 上流工程に遡って製品の梱包を見直すリバー ス・エンジニアリングの手法で、一枚のパレ ットに載せられる製品の段数を五段から六段 に変更。
積載率を劇的に向上させた。
別の事例では、必要以上に厳重に施されて いた梱包を見直して、一つの箱に収まる製品 の数を一八個から三〇個に増やした。
製品に キズがつくのを恐れるあまり過剰梱包に陥っ ていた点に改善の余地があった。
とりわけ大きな成果につながったのは、サ ービスパーツのアイテム数の削減だった。
部 品メーカーが管理すべき補修部品のアイテム 数は、何も手立てを講じなければ自動車メー カーが新車種を作るたびに増えてしまう。
在 庫やオペレーションの手間も右肩上がりで増 えていく。
物流部門にとっては延々とコスト アップがつづくことになる。
この負担を軽減するため、〇九年にサービ
同 社の業績は二〇〇八年秋のリーマン・ショッ クの影響で〇九年三月期に急落した。
連結売 上高が約二割減り、一六七億円の営業損失 を計上した。
記録が残っている過去四〇年間 で初の赤字転落だった。
それが一一年三月期には一転、一九五億 円の営業利益を確保するまでに復活した。
日 産の生産台数が大きく伸びたことで売上高が 回復したことも事実だが、それだけではな い。
〇九年四月から全社で展開した改善活 動、「MTCR」(モノツクリ・トータル・コ スト・リダクション)の貢献が大きかった。
実際、赤字に転落した翌年の一〇年三月 期には、売上高が続落したにもかかわらず営 業損失を五七億円に圧縮している。
聖域を 設けずにコスト削減に取り組んだ結果だった。
現在、グローバルMTCR推進本部長として この改善活動を牽引している藤崎彰常務執行 役員は、すでに「年間百数十億円のコスト削 減効果につながっている」と胸を張る。
カルソニックカンセイのMTCRには、他 の会社の改善活動とは異なるいくつかの特徴 がある。
何より興味深いのは、活動の中心 を開発部門が担っている点だ。
〇九年四月に 「MTCR特別推進本部」を立ち上げたとき は約一〇〇人の専任組織を発足させたが、メ ンバーの大半が設計部門の出身者だった。
「全体の四分の三が開発部門、四分の一が 生産技術の出身で、この構成は今も変わって いない。
彼らが現場を見ながら改善活動を進 めている。
現在、日本だけでもこのうち三一 人のスタッフが工場に常駐している。
これは われわれのようなメーカーでは非常に珍しい。
MTCR活動の最大の肝だ」と藤崎常務は説 明する。
MTCR活動が対象としている領域はきわ めて広い。
サプライチェーン全域にわたる物 流の最適化から購買に至るまで、カルソニッ クカンセイの生産活動に伴う変動費すべてを 視野に入れている。
そして、いかなるテーマの改善でも、その 活動がどれだけの効果につながるのか財務的 な目標値を掲げて取り組むことを大原則とし ている。
その効果も毎月、経理部門が評価す る。
こうした数値を共有しながら活動を進め ている点もMTCRの特徴の一つだ。
問題解決のアプローチについては次の三点 に強くこだわってきた。
?「三現主義」に基 づく徹底した現場主義、?部門の壁にこだわ リーマン・ショック後に急落した業績を回復するた め、独自の改善活動をスタートさせた。
開発部門が 中心になって、製品アイテム数の削減や物流ネットワ ークの見直し、工場の労務費の削減など、生産活動 にかかわるあらゆる変動費を対象にムダを排除した。
すでに年間百数十億円に上るコスト削減効果を生み 出している。
改善活動 カルソニックカンセイ 開発担当者を中心に改善専任部隊を組織 年間百数十億円に上るコスト削減を実現 グローバルMTCR推進本部 長を務める藤崎彰常務執行 役員 55 FEBRUARY 2012 らないクロス・ファンクション、そして?ト ップマネジメントによるステアリング・コミ ッティの駆使、である。
机上で論理を振り回すのではなく、実際に ?現場?で?現物?を見ながら、?現実?を 踏まえて課題に対処していく「三現主義」は、 日本のものづくりの強みとして広く知られて いる。
だがこれを口で言うだけでなく、開発 部門のメンバーの多くを工場に常駐させると ころまで徹底している事例は多くない。
クロス・ファンクションについては、親会 社が一九九九年から「日産リバイバルプラン」 に取り組んだときに採用した「CFT(クロ ス・ファンクショナル・チーム)」の考え方を 踏襲している。
日産のCFTは四〇才代の中 堅社員が中心となって、既存の組織が陥りが ちだった部門最適を脱し、全体最適を実現す るための?あるべき姿?を描き出した。
カルソニックカンセイでも、既存の組織の 枠にとらわれずにMTCR活動を進めている。
現場で発生する不都合は、その原因の多くが 前後の工程に潜んでいる。
そこにメスを入れ ていくうえでクロス・ファンクションの考え 方が重要な役割を果たしてきた。
経営層が強力に活動を後押し MTCR活動が結果を残せたのは、トップ マネジメントが参画するステアリング・コミ ッティの後押しがあったことも大きい。
経営 層が本気で取り組まない改善活動は一過性に なりがちだ。
人事異動で担当役員や部門長が 変わったとたんに失速してしまう。
その点、カルソニックカンセイで〇九年四 月から一貫してこの活動を主導してきたのは、 代表取締役副社長執行役員で開発本部長の 真行寺茂夫氏だ。
スタート時の副本部長には、 生産本部長である副社長と、購買本部長の 専務が就任。
開発本部副本部長の藤崎常務 が実務面から進めていくというマネジメント 体制を組んだ。
もちろん最高経営責任者の呉 文精社長も全面的に協力した。
現在も毎月一回開いているMTCRのステ アリング・コミッティには、呉社長、真行寺 副社長、藤崎常務、そしてものづくりにかか わる部門の責任者すべてが出席する。
現場で 何が起こっているのか。
どういった対策を講 じ、進捗状況はどうなっているのか。
経営層 の積極的な関与が結果につながってきた。
活動を牽引する真行寺副社長と藤崎常務の 二人には共通の職務経験がある。
真行寺氏は、 日産で購買担当の常務執行役員を務めたのを 最後に、〇八年四月にカルソニックカンセイ の副社長に転じた。
日産では長らく内製部品 の開発に携わった経験をもつ。
一方の藤崎氏 も、カルソニックカンセイで内製の標準品の 開発をずっと担当してきた。
カルソニックカンセイの業績と在庫の推移(連結) 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 -2,000 01 /3 02 /3 03 /3 04 /3 05 /3 06 /3 07 /3 08 /3 09 /3 10 /3 11 /3 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 棚卸資産回転日数(日) 連結売上高(億円) 営業利益(千万円) 棚卸資産回転日数(日) (月期) 2009 年4 月から正式にスタートしたMTCR活動の経緯 2008 2009 2010 2011 2012 MTCR 活動 ■ リーマン・ショックからのV字回復に貢献 ■ それ以前からの財務体質強化に貢献 リーマン・ショック グローバル MTCR 推進本部 2009 年4月〜 暫定組織として設立 2011 年4月〜 恒久組織化 MTCR=Monotsukuri Total Cost Reduction MTCR=MonoTsukuri Challenge Runner MTCR特別推進本部 FEBRUARY 2012 56 藤崎常務は振り返る。
「標準品のコストを 毎年五%下げていくのは非常に厳しい。
徹底 的にトータルコストで見ていくしかなかった。
設計が工場に入っていき、必要であればサプ ライヤーともやりとりをする。
そういう手法 でコストを下げてきた歴史を私も真行寺も知 っている。
だからこそMTCR活動を同様の やり方で一気に進めることができた」 もっともMTCR特別推進本部は活動の実 行部隊ではない。
あくまで改善の推進役であ り、日常の実務を担っているのは既存の機能 部門だ。
いかにトップレベルで旗を振っても、 実務部門がその気にならなければ成果は望め ない。
そして組織横断型の活動は、時として 実務部門の頭越しに進めることになり、現場 との衝突を発生させてしまう。
カルソニックカンセイでも、工場をはじめ とする現場は当初、活動に距離を置いていた という。
MTCR特別推進本部で藤崎氏を 補佐してきた高崎浩美主管は、真行寺副社 長や藤崎常務のような職務経験がなかったこ ともあって、最初は彼らが指摘する現場のム ダすら十分に理解できなかった。
この状況で 改善を進めるには現場の協力が欠かせなかっ たのだが、これが簡単ではなかった。
「とにかく困っていることを聞いてこいと 言われて工場に通った。
しかし工場の担当者 は『また上から目線で何かやれと言いにきた のか』という状態。
三カ月ぐらい経ったとき、 図面を少し直して現場で作業しやすくなるよ ライチェーンを実現していった。
MTCR特別推進本部で物流関連の効率 化に携わってきた鈴木重道主管も、当初は現 場の警戒心を解くことに苦労したという。
そ れが、ある製品を生産する工場を見直し、物 流の移動距離を圧倒的に短縮するという改善 を実践してみせたことを契機に、SCM部門 との協業関係が動きだした。
「作る場所を変えたり、過剰梱包を見直す ことによって物流を合理化していくアイデア が現場にはたくさんある。
しかし、ある工場 の仕事を取り上げて、違う工場で作るような うにしてあげたのをきっかけに、ようやく変 わりはじめた。
ここを見直してほしい、この 点を変えてほしいといった話がどんどん出て くるようになった」と高崎主管は言う。
従来の同社の生産現場には、上流工程に何 かを要求しても意味がないと言わんばかりの ムードが蔓延していた。
それが開発部門の人 間が自ら工場に足を運び、実際に要望に応え てみせることで少しずつ変化してきた。
MT CRの担当者が潤滑剤の役割を果たすことで、 部門間を隔てる壁が崩れはじめた。
「運ばない」ことで物流を合理化 赤字転落からのリカバリーを目標としてい たMTCRにとって、物流費の削減は大きな ポイントだった。
この分野の活動は、実務部 隊であるSCM部門と共同で進めた。
物流を合理化するために打ち出したキーワ ードは「運ばない」「まとめて運ぶ」「倉庫を減 らす」「過剰梱包を見直す」などシンプルなも のばかり。
それでもSCM部門だけでは解決 できなかった課題に、MTCRが積極的に関 与していくことで効率化が進んだ。
その成果は、国内に二七カ所あった倉庫を 二年間で一四カ所まで減らしたことに端的に あらわれている。
また、調達物流の効率化も 購買部門を巻き込んで進めた。
サプライヤー から調達する物品の輸送ルートを詳細に洗い 出し、現地調達率の向上などで「運ばない」 ことを実践。
?地産地消?を原則とするサプ 三現主義に基づいてムダを排除するMTCR活動 ■Cross functionでの改善活動(根本対策) 客先から生産現場まで全てのものつくりに関わるプロセスに 三現主義でフィードバックして、現場からムダが排除される 客先 設計検討 工程検討 生産 出荷 客先工場 課題 常駐チーム ものつくりベスト 種類削減 基準の明確化 種類削減 工程不良 三現主義 現場・現物・現実 パッケージ 仕様変更図面変更冶具変更 対策 設備 サプライヤ 道のり倉庫 SNP ムダ ムダ ムダ ムダ ムダ 57 FEBRUARY 2012 スパーツの半減に取り組んだ。
日産と相談し ながら、部品の共通化などを設計にまで遡っ て進めることでアイテム数を大胆に減らした。
ここでもMTCRが折衝の矢面に立った。
コスト削減からものづくりの強化へ MTCR活動は段階的に対象領域を拡大 してきた。
一年目は日本国内を対象にムダの 排除に取り組んだ。
二年目からは活動の場を 海外へと広げ、現地調達率の向上など根本的 な施策によって物流コストを減らしていった。
こうして常にスコープを拡大しつづけること で?ネタ切れ?に直面することもなく成果を 出しつづけてきた。
三年目を迎えた一一年四月には、活動が 第二段階に入ったという判断から組織の恒久 化に踏み切った。
同時に、それまでMTC R(= Monotsukuri Total Cost Reduction) としていた活動の名称を、M T C R(= MonoTsukuri Challenge Runner)に置き換 えた。
すでに浸透していた略称はそのままで、業 績の悪化をリカバリーするためのコスト削減 という活動のゴールを、将来を見据えた企業 体質の強化へとシフトした。
「当初われわれ の活動にはものづくりの競争力を強化すると いう物差しはなかった。
だが今は一番になる ため、金メダルを獲るための活動としてMT CRに取り組んでいる」と藤崎常務。
活動の位置づけが進化するのに伴い、MT CR特別推進本部が担う役割も変化してきた。
活動の中核を担っているのは依然として開発 部門だが、MTCRの専従になった人材でも 二年間で出身母体に戻すことを原則としてい る。
現場の経験を開発業務にフィードバック することで、従来のように発生したムダを刈 り取るのではなく、上流工程でムダを発生さ せないようになることを期待している。
最近は人材教育も強く意識している。
藤 崎常務は現在、「?ブラックベルト?のように 活動の推進者を評価する仕組みをつくれない かと考えている」と明かす。
ブラックベルト とは、品質管理手法であるシックス・シグマ 活動を推進する有資格者に与えられる名称だ。
とくに海外では、人事評価の仕組みなどを整 えることで活動を底上げできるとみている。
ただし藤崎常務は、活動の成果はMTCR を推進している人に帰属するものではないと 強調する。
「われわれは活動を活性化する触 媒みたいなもの。
実行もするし、リードもす るし、データベースを作って経験の共有もす る。
しかし、実際の改善活動は機能部門が手 掛けている。
われわれは実務部門にできない ことをみつくろって手伝っているだけ。
あく までMTCRの主役は彼らだ」 最近ではサプライヤーとの協業を深化させ るため、取引先の業務に入り込んでMTCR 活動を進めるケースも出てきた。
開発部門が 主導する改善活動がさらに広がっている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 変更は現場ではなかなかできない。
そうした 課題をわれわれが調整することによって信頼 関係を構築していった」 販売物流の分野では、主力の販売先である 日産を巻き込んで活動を展開した。
日産に納 入頻度の見直しを持ちかけ、中継拠点の削減 につなげた。
これが前述した国内倉庫の半減 という結果につながった。
梱包改善による合理化も積極的に実施した。
海外工場から顧客にコンプレッサーを納品す る際、従来はトラックの荷台の上部に中途半 端なデッドスペースが生まれていた。
これを 上流工程に遡って製品の梱包を見直すリバー ス・エンジニアリングの手法で、一枚のパレ ットに載せられる製品の段数を五段から六段 に変更。
積載率を劇的に向上させた。
別の事例では、必要以上に厳重に施されて いた梱包を見直して、一つの箱に収まる製品 の数を一八個から三〇個に増やした。
製品に キズがつくのを恐れるあまり過剰梱包に陥っ ていた点に改善の余地があった。
とりわけ大きな成果につながったのは、サ ービスパーツのアイテム数の削減だった。
部 品メーカーが管理すべき補修部品のアイテム 数は、何も手立てを講じなければ自動車メー カーが新車種を作るたびに増えてしまう。
在 庫やオペレーションの手間も右肩上がりで増 えていく。
物流部門にとっては延々とコスト アップがつづくことになる。
この負担を軽減するため、〇九年にサービ
