2012年2月号
ケース
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英BTグループ 欧米SCM会議? 自社のRFID活用で得たノウハウを外販可視化ソリューションが中核事業に成長
FEBRUARY 2012 58
SCMソリューションを事業の柱に
イギリスの国営通信事業者、旧ブリティッ
シュ・テレコミュニケーションズが民営化さ
れたのは一九八〇年代のことです。
その準備 段階の八〇年に「ブリティッシュ・テレコム」 という略称が導入され、八四年にイギリス政 府は株式の約五〇%を売却しました。
さらに 九一年には社名を現在のBTグループに変更 しています。
当社の民営化以降、イギリスでは通信事業 の自由化が段階的に進みました。
その結果、 新規参入業者との競争が激しくなり、当社に とって電話・通信事業以外の新たな経営の柱 を育てることが喫緊の課題となりました。
その過程で当社は、情報システムの運営や 情報処理という点で当社が競争優位にあるこ とに気付き、またそれによって企業からの要 望に応えられると判断しました。
そこで九〇 年代から、企業ごとに業務を請け負うかたち の情報処理サービスを開始しました。
二〇〇〇年代に入ってからは、この部門を さらに強化するため、情報関連企業やコンサ ルティング企業を買収して、この分野におけ る優秀な人材の確保とノウハウの蓄積を進め ました。
それを〇七年の組織改革の時に「B Tグローバル・サービシーズ(BTGS)」と いう事業部門として統合しました。
現在のBTGSの顧客数は約七〇〇〇社 で、ユニリーバやマークス&スペンサー、ス ペインの乳製品大手「練乳パスカル・グルー プ(Grupo Leche Pascual)」などを主要顧客 としています。
また製造業や流通企業に次ぐ顧客層とし て、各国の政府機関や金融機関にもソリュー ションを提供しています。
その代表例の一つ に、イギリス国営の国民保健サービス(通称、 NHS= National Health Service)が挙げら れます。
ロンドンを中心とするイギリス南部 の計八〇カ所のNHSの組織に対し、延べ一 七〇万人の医療従事者が、患者によりよい医 療サービスを提供できるようにサポートして います。
現在、BTGSはBT全体の売上高の四 割を占める中核部門となっています。
二〇一 一年には、金額にして七三億ポンドの業務を 受注しました。
前年比一〇%増です。
ただ し、同業他社との競争が激しい分野であるた め、BTGSがBT全体のEBITDA( ≒ 英通信大手BT(ブリティッシュ・テレコム)の 事業部門、BTグローバル・サービシーズは、RFID やバーコードを使って顧客企業のサプライチェーン に可視性を与えることをメーンのソリューションと している。
現在、同社は英国内外に約7000社の顧 客を抱え、その売り上げはBT全体の4割を占める に至っている。
同部門のゼネラルマネージャー・キ ース・シェリー氏がその軌跡を語る。
欧米SCM会議? 英BTグループ 自社のRFID活用で得たノウハウを外販 可視化ソリューションが中核事業に成長 会社名 BTグループ 創業 1846 年 民営化 1982 年 本社 イギリス ロンドン 最高経営責任者 イアン・リビングストン 株式上場 ロンドン証券市場 ニューヨーク証券市場 売上高 200 億7600万ポンド (2 兆2485 億1200万円) 最終利益 15 億400万ポンド (1774 億7200万円) 従業員数 9万2600人 (注1)いずれも2011年度の数字 (注2)1ポンド=118 円で換算 ブリティッシュ・テレコム会社概要 59 FEBRUARY 2012 営業利益)に占める割合は、今のところ約一 〇%にとどまっています(図1)。
BTGSのサービスメニューは、?ネット ワークに対するITサービス、?コミュニケ ーション手段の統合、?顧客関係管理(CR M)、?ネットワークの安全管理、?データセ ンター・サービスに大きく分けられます。
とくにRFIDやバーコードを使った顧客 の業務効率化を主なソリューションとしていま す。
そのノウハウは、当社が自身のサプライ チェーン業務改革を通して獲得したものです。
BTは世界一万七〇〇〇社のサプライヤー から製品を調達し、その対価として年間一一 〇億ポンド超を支払っています。
現在、サプ ライヤーの多くは中国企業です。
彼等と長年 にわたり取引を続けていくためには、「倫理 的な外注(ethical sourcing)」という考え方 が必要になってきます。
当社はサプライヤー を選ぶ際に、環境への配慮や従業員への福利 厚生、安全面への配慮といった項目を選考基 準に含めています。
さらには実際に当社の担 当者がサプライヤーの現場を訪問しその実態 を把握しています。
当社にはまた、イギリスだけで約三万人 のエンジニアが働いています。
それに加えて、 ロジスティクス業務専門の社員を約二〇〇〇 人抱えています。
専用車両も約六〇〇台を 所有しています。
ロジスティクスに関わる人 員は、ここ数年で半減することができました。
それが年間六〇〇〇万ポンドというコスト削 減に大きく寄与しました。
在庫も減らしました。
自社で抱える在庫の 金額を二億ポンド分に抑制し、それまでBT が抱えていた在庫をサプライヤーの負担にし てもらいました。
これは単に在庫をサプライ ヤーに押し付けたということではありません。
BTのサプライチェーン上の可視性を高めるこ とで、どの製品を、いつまでに、どこに運び 込めばいいのかを明確にしたことでそれが可 能になりました。
つまり、可視性を高めるこ とで、モノの流れをスムーズにして、在庫量 を減らしたのです。
「可視性」こそが最重要課題 一連の取り組みを通して当社は、サプライ チェーンを効率的に運営するには、次の六つ の要素を一つの輪のように回転させる必要が あると考えるようになりました。
その六つの 要素とはすなわち「在庫管理」「スピードと正 確さ」「コスト」「持続可能性(Sustainability)」 「偽造品対策と収縮包装」「可視性と弾力性」 です(図2)。
「在庫管理」においては、在庫水準の正確 な把握と、精度の高い需要予測が求められま す。
「スピードと正確さ」では、POS(販 売時点情報)に迅速に対応することで運賃の 割高なグルーページ(日本の特別積み合わせ 貨物輸送に相当)や宅配便の使用を抑えるこ とができます。
正確な作業によって誤配など の後処理にかかる費用も削減されます。
「コスト」の面で一番大きいのは、人件費 です。
紙を使った手作業を極力なくして、コ 図1 売上高と営業利益の比率(2011 年度) 売上高EBITDA BTグローバル・サービシーズ BTリテール BTホールセール オープンリーチ(通信接続料) 40% 37% 16% 7% 10% 31% 23% 36% 図2 SCMにおける6つの要素 在庫管理 スピード&正確さ コスト 持続可能性 収縮包装 偽造品対策と 可視性と弾力性 SCMの良し悪しが利益率に影響 FEBRUARY 2012 60 ンピューターに置き換えることで、コストを 大きく削減することができます。
また近年は「持続可能性」が注目を集めて います。
平たく言えば環境対策ですが、でき るだけ輸送業務を効率化して、二酸化炭素排 出量を削減することに取り組んでいます。
「偽 造品対策と収縮包装」では、工場から出荷す るときに製品に収縮包装を施すことで、製品 の盗難や偽造品の混入を防ぎ、販売機会の損 失をなくし、顧客満足度を高めることができ ます。
そして最後に挙げる「可視性と弾力性」が、 サプライチェーンの中では一番重要な要素だ と考えています。
どの製品がいつ、どこにあ るのかを見えるようにする必要があるわけで すが、これを全ての原材料、半製品、完成品 について把握するのは決して容易ではありま せん。
しかし「可視性」が低ければ、十分な 顧客へのサービスが行えず、コスト高となり、 市場の変化についていけません。
そこでBTは、工場の生産から店舗への搬 入までの六段階でRFID(ICタグ)をス キャンして、すべてのモノの動きをリアルタイ ムで一元管理する体制を構築しました(図3)。
これによって我々はムダを極力排除し、利益 の増加に貢献することができました。
マークス&スペンサーのICタグ活用 BTGSの最大の顧客の一つに、マーク ス&スペンサーがあります。
イギリス国内に約 幹業務システム)が異なっていることが最大 の問題でした。
SAPやオラクルなどの大手 ベンダーのソフトの他に、レッドプレイリー (RedPrairie)などの中堅ベンダーのソフトを 使っている納入業者もありました(図4)。
六〇〇店舗、海外に約 三〇〇店舗を展開する大 手チェーンストアです。
〇四年にマークス&ス ペンサーは、販売するす べての衣料品にICタグ を取り付けるという構想 を立案しました。
それに よって可視性を高め、売 上高の増加と業務の効率 化、顧客満足度の向上 につなげようという狙い でした。
そのビジョンと して「すべての顧客がほ しい衣料品を手にするた めに、正しい店舗が、正 しい洋服を、正しいタイ ミング」で持つことを同 社は掲げました。
まずは納入実績が豊富 で、IT能力にも優れた 納入業者を選び、マーク ス&スペンサーに納入す る衣料品には全てICタ グを付けるように協力を 求めました。
その結果、二〇カ国の二〇の納 入業者の計四〇カ所の工場で、実験的にRF IDの運用を開始することになりました。
しかし、そこで技術的な問題に直面します。
納入業者によって使用しているERP(基 図3 6 段階でモノの動きを把握 図4 異なるERP のデータを統合管理 利害関係者 6 5 4 3 2 1 製品が店舗に 届けられ、 不要なものは 返品される 小売りのDCで 店舗ごとに 仕分けされ 配送される 製品が英国の 空港や港に 到着し、小売りの DCに配送される コンテナを 飛行機や 船につみかえる パレットごと コンテナに積まれ トラック輸送 海外の サプライヤー の工場で製品が 箱づめされる 6 5 4 3 2 1 エクスペデットレッドプレーリーエア・ロジスティクス プラットフォームSavi オラクルSAP 61 FEBRUARY 2012 りつつあります。
スペインの乳製品最大手「練乳パスカル・ グループ」では、三〇〇種類に及ぶ全ての乳 製品のパッケージにICタグをつけて、一八 万カ所の小売店舗に納入しています。
同社は スペイン全土に一八カ所の工場を持ち、二二 カ所の物流センターを構えています。
パスカルの狙いは、ロジスティクス費用の 軽減と、顧客満足度の向上、利益の上昇でし た。
特にそれまで、配送全体の七%あった誤 配・遅配の比率を、RFIDを使って二%に まで下げることを目標にしました。
誤配といっても、間違って多く納品してし まった場合には、小売り側も大目に見てくれ ます。
受け取りを拒否されることは滅多にあ りません。
しかし、たとえ牛乳一本でも注文 した商品が足りない場合には、その一本のた めに急送便を仕立てて、もう一度納入しなけ ればならなくなります。
どうにかしてそうしたムダな費用を削減し たいとパスカルは考えていました。
そしてそ の手段として、RFIDを使って、工場から 小売りの店舗までの可視性を高めようと考え、 BTGSに業務支援を依頼したのです。
トレーサビリティーをバーコードで 当社が支援するのはRFIDによる業務だ けではありません。
コカコーラやハインツな どに食料品用の缶を納入しているヨーロッパ の大手製罐メーカー向けソリューションでは、 バーコードを使ってサプライチェーンの可視性 を高めるという業務を請け負いました。
ヨーロッパで食品トレーサビリティーに関す る法令が施行されたことを受けて、そのメー カーは工場から出荷した製品が、どうやって 店舗に届いたのか、またどういう経路を通っ て返品として戻ってきたのか、全ての記録を たどれるようにする必要がありました。
しかし、取り扱っているのは単価の安い中 間財であり、RFIDを導入するほどの余裕 はありませんでした。
そこで、それまで使っ ていたバーコードシステムをそのまま利用する ことにしました。
そのメーカーは買収を重ねて企業規模を拡 大してきたため、同じ企業内でありながら、 複数のシステムやソフトが混在するという混 沌とした状況にありました。
それを整理・統 合し、バーコードによる安価かつ容易な方法 で、トレーサビリティーを本社で一括管理で きるシステムを構築しました。
我々BTGSが目指しているのは、その企 業の条件に合った形で、必要な情報処理能力 を実現することです。
それには必ずしもすべ ての企業がRFIDのような高価なツールを 使う必要はないと考えています。
(ジャーナリスト 横田増生) フォーマットの異なる情報を一つにまとめ、 どの納入業者も同じようにシステムを運用で きるようにすることが、BTGSに与えられ た大きな使命の一つでした。
そして我々はそ れをやり遂げました。
現在、マークス&スペンサーの十一カ所の 物流センターにICタグの読み取り装置が備 えられています。
そこを経由して年間二億五 〇〇〇万着の洋服がイギリスの主要一二〇店 舗に運び込まれ、ICタグを付けた状態で店 頭に陳列されています。
ICタグの使用規模 としては恐らく世界一だと思います。
また店舗では、一時間当たり一〇〇〇着 のICタグを読み込むことが可能です。
販売 データは、すぐにマークス&スペンサーの関 連部門や、納入業者にフィードバックされま す。
それに基づいて新たな発注が行われる仕 組みをBTGSが構築しました。
POSデー タが、次の発注に直結するようになったわけ です。
この仕組みによって、マークス&スペ ンサーは年間数億ポンドに上る売上増を実現 したと評価されています。
こうしたPOSデータを活用した発注シス テムの利点は、売り上げ機会の損失を避けら れることに加え、不良在庫を抱えるリスクを 大きく減らせる点にあります。
これまでRFIDの利用は、タグの値段の 問題もあって、衣料品などの比較的、付加価 値の高い商品に限定されるというのが、業界 の?常識?でした。
しかし、その常識も変わ (注)この原稿は、二〇一一年六月にドイツ・ベルリンで行われ た「ヨーロッパSCM&ロジスティクス・サミット」のセミ ナーの講義内容をセミナーの主催者であるWTGイベント から掲載についての承諾を得た上で、該当企業のホームペ ージから最新の財務情報などを加えて再編集したものです。
その準備 段階の八〇年に「ブリティッシュ・テレコム」 という略称が導入され、八四年にイギリス政 府は株式の約五〇%を売却しました。
さらに 九一年には社名を現在のBTグループに変更 しています。
当社の民営化以降、イギリスでは通信事業 の自由化が段階的に進みました。
その結果、 新規参入業者との競争が激しくなり、当社に とって電話・通信事業以外の新たな経営の柱 を育てることが喫緊の課題となりました。
その過程で当社は、情報システムの運営や 情報処理という点で当社が競争優位にあるこ とに気付き、またそれによって企業からの要 望に応えられると判断しました。
そこで九〇 年代から、企業ごとに業務を請け負うかたち の情報処理サービスを開始しました。
二〇〇〇年代に入ってからは、この部門を さらに強化するため、情報関連企業やコンサ ルティング企業を買収して、この分野におけ る優秀な人材の確保とノウハウの蓄積を進め ました。
それを〇七年の組織改革の時に「B Tグローバル・サービシーズ(BTGS)」と いう事業部門として統合しました。
現在のBTGSの顧客数は約七〇〇〇社 で、ユニリーバやマークス&スペンサー、ス ペインの乳製品大手「練乳パスカル・グルー プ(Grupo Leche Pascual)」などを主要顧客 としています。
また製造業や流通企業に次ぐ顧客層とし て、各国の政府機関や金融機関にもソリュー ションを提供しています。
その代表例の一つ に、イギリス国営の国民保健サービス(通称、 NHS= National Health Service)が挙げら れます。
ロンドンを中心とするイギリス南部 の計八〇カ所のNHSの組織に対し、延べ一 七〇万人の医療従事者が、患者によりよい医 療サービスを提供できるようにサポートして います。
現在、BTGSはBT全体の売上高の四 割を占める中核部門となっています。
二〇一 一年には、金額にして七三億ポンドの業務を 受注しました。
前年比一〇%増です。
ただ し、同業他社との競争が激しい分野であるた め、BTGSがBT全体のEBITDA( ≒ 英通信大手BT(ブリティッシュ・テレコム)の 事業部門、BTグローバル・サービシーズは、RFID やバーコードを使って顧客企業のサプライチェーン に可視性を与えることをメーンのソリューションと している。
現在、同社は英国内外に約7000社の顧 客を抱え、その売り上げはBT全体の4割を占める に至っている。
同部門のゼネラルマネージャー・キ ース・シェリー氏がその軌跡を語る。
欧米SCM会議? 英BTグループ 自社のRFID活用で得たノウハウを外販 可視化ソリューションが中核事業に成長 会社名 BTグループ 創業 1846 年 民営化 1982 年 本社 イギリス ロンドン 最高経営責任者 イアン・リビングストン 株式上場 ロンドン証券市場 ニューヨーク証券市場 売上高 200 億7600万ポンド (2 兆2485 億1200万円) 最終利益 15 億400万ポンド (1774 億7200万円) 従業員数 9万2600人 (注1)いずれも2011年度の数字 (注2)1ポンド=118 円で換算 ブリティッシュ・テレコム会社概要 59 FEBRUARY 2012 営業利益)に占める割合は、今のところ約一 〇%にとどまっています(図1)。
BTGSのサービスメニューは、?ネット ワークに対するITサービス、?コミュニケ ーション手段の統合、?顧客関係管理(CR M)、?ネットワークの安全管理、?データセ ンター・サービスに大きく分けられます。
とくにRFIDやバーコードを使った顧客 の業務効率化を主なソリューションとしていま す。
そのノウハウは、当社が自身のサプライ チェーン業務改革を通して獲得したものです。
BTは世界一万七〇〇〇社のサプライヤー から製品を調達し、その対価として年間一一 〇億ポンド超を支払っています。
現在、サプ ライヤーの多くは中国企業です。
彼等と長年 にわたり取引を続けていくためには、「倫理 的な外注(ethical sourcing)」という考え方 が必要になってきます。
当社はサプライヤー を選ぶ際に、環境への配慮や従業員への福利 厚生、安全面への配慮といった項目を選考基 準に含めています。
さらには実際に当社の担 当者がサプライヤーの現場を訪問しその実態 を把握しています。
当社にはまた、イギリスだけで約三万人 のエンジニアが働いています。
それに加えて、 ロジスティクス業務専門の社員を約二〇〇〇 人抱えています。
専用車両も約六〇〇台を 所有しています。
ロジスティクスに関わる人 員は、ここ数年で半減することができました。
それが年間六〇〇〇万ポンドというコスト削 減に大きく寄与しました。
在庫も減らしました。
自社で抱える在庫の 金額を二億ポンド分に抑制し、それまでBT が抱えていた在庫をサプライヤーの負担にし てもらいました。
これは単に在庫をサプライ ヤーに押し付けたということではありません。
BTのサプライチェーン上の可視性を高めるこ とで、どの製品を、いつまでに、どこに運び 込めばいいのかを明確にしたことでそれが可 能になりました。
つまり、可視性を高めるこ とで、モノの流れをスムーズにして、在庫量 を減らしたのです。
「可視性」こそが最重要課題 一連の取り組みを通して当社は、サプライ チェーンを効率的に運営するには、次の六つ の要素を一つの輪のように回転させる必要が あると考えるようになりました。
その六つの 要素とはすなわち「在庫管理」「スピードと正 確さ」「コスト」「持続可能性(Sustainability)」 「偽造品対策と収縮包装」「可視性と弾力性」 です(図2)。
「在庫管理」においては、在庫水準の正確 な把握と、精度の高い需要予測が求められま す。
「スピードと正確さ」では、POS(販 売時点情報)に迅速に対応することで運賃の 割高なグルーページ(日本の特別積み合わせ 貨物輸送に相当)や宅配便の使用を抑えるこ とができます。
正確な作業によって誤配など の後処理にかかる費用も削減されます。
「コスト」の面で一番大きいのは、人件費 です。
紙を使った手作業を極力なくして、コ 図1 売上高と営業利益の比率(2011 年度) 売上高EBITDA BTグローバル・サービシーズ BTリテール BTホールセール オープンリーチ(通信接続料) 40% 37% 16% 7% 10% 31% 23% 36% 図2 SCMにおける6つの要素 在庫管理 スピード&正確さ コスト 持続可能性 収縮包装 偽造品対策と 可視性と弾力性 SCMの良し悪しが利益率に影響 FEBRUARY 2012 60 ンピューターに置き換えることで、コストを 大きく削減することができます。
また近年は「持続可能性」が注目を集めて います。
平たく言えば環境対策ですが、でき るだけ輸送業務を効率化して、二酸化炭素排 出量を削減することに取り組んでいます。
「偽 造品対策と収縮包装」では、工場から出荷す るときに製品に収縮包装を施すことで、製品 の盗難や偽造品の混入を防ぎ、販売機会の損 失をなくし、顧客満足度を高めることができ ます。
そして最後に挙げる「可視性と弾力性」が、 サプライチェーンの中では一番重要な要素だ と考えています。
どの製品がいつ、どこにあ るのかを見えるようにする必要があるわけで すが、これを全ての原材料、半製品、完成品 について把握するのは決して容易ではありま せん。
しかし「可視性」が低ければ、十分な 顧客へのサービスが行えず、コスト高となり、 市場の変化についていけません。
そこでBTは、工場の生産から店舗への搬 入までの六段階でRFID(ICタグ)をス キャンして、すべてのモノの動きをリアルタイ ムで一元管理する体制を構築しました(図3)。
これによって我々はムダを極力排除し、利益 の増加に貢献することができました。
マークス&スペンサーのICタグ活用 BTGSの最大の顧客の一つに、マーク ス&スペンサーがあります。
イギリス国内に約 幹業務システム)が異なっていることが最大 の問題でした。
SAPやオラクルなどの大手 ベンダーのソフトの他に、レッドプレイリー (RedPrairie)などの中堅ベンダーのソフトを 使っている納入業者もありました(図4)。
六〇〇店舗、海外に約 三〇〇店舗を展開する大 手チェーンストアです。
〇四年にマークス&ス ペンサーは、販売するす べての衣料品にICタグ を取り付けるという構想 を立案しました。
それに よって可視性を高め、売 上高の増加と業務の効率 化、顧客満足度の向上 につなげようという狙い でした。
そのビジョンと して「すべての顧客がほ しい衣料品を手にするた めに、正しい店舗が、正 しい洋服を、正しいタイ ミング」で持つことを同 社は掲げました。
まずは納入実績が豊富 で、IT能力にも優れた 納入業者を選び、マーク ス&スペンサーに納入す る衣料品には全てICタ グを付けるように協力を 求めました。
その結果、二〇カ国の二〇の納 入業者の計四〇カ所の工場で、実験的にRF IDの運用を開始することになりました。
しかし、そこで技術的な問題に直面します。
納入業者によって使用しているERP(基 図3 6 段階でモノの動きを把握 図4 異なるERP のデータを統合管理 利害関係者 6 5 4 3 2 1 製品が店舗に 届けられ、 不要なものは 返品される 小売りのDCで 店舗ごとに 仕分けされ 配送される 製品が英国の 空港や港に 到着し、小売りの DCに配送される コンテナを 飛行機や 船につみかえる パレットごと コンテナに積まれ トラック輸送 海外の サプライヤー の工場で製品が 箱づめされる 6 5 4 3 2 1 エクスペデットレッドプレーリーエア・ロジスティクス プラットフォームSavi オラクルSAP 61 FEBRUARY 2012 りつつあります。
スペインの乳製品最大手「練乳パスカル・ グループ」では、三〇〇種類に及ぶ全ての乳 製品のパッケージにICタグをつけて、一八 万カ所の小売店舗に納入しています。
同社は スペイン全土に一八カ所の工場を持ち、二二 カ所の物流センターを構えています。
パスカルの狙いは、ロジスティクス費用の 軽減と、顧客満足度の向上、利益の上昇でし た。
特にそれまで、配送全体の七%あった誤 配・遅配の比率を、RFIDを使って二%に まで下げることを目標にしました。
誤配といっても、間違って多く納品してし まった場合には、小売り側も大目に見てくれ ます。
受け取りを拒否されることは滅多にあ りません。
しかし、たとえ牛乳一本でも注文 した商品が足りない場合には、その一本のた めに急送便を仕立てて、もう一度納入しなけ ればならなくなります。
どうにかしてそうしたムダな費用を削減し たいとパスカルは考えていました。
そしてそ の手段として、RFIDを使って、工場から 小売りの店舗までの可視性を高めようと考え、 BTGSに業務支援を依頼したのです。
トレーサビリティーをバーコードで 当社が支援するのはRFIDによる業務だ けではありません。
コカコーラやハインツな どに食料品用の缶を納入しているヨーロッパ の大手製罐メーカー向けソリューションでは、 バーコードを使ってサプライチェーンの可視性 を高めるという業務を請け負いました。
ヨーロッパで食品トレーサビリティーに関す る法令が施行されたことを受けて、そのメー カーは工場から出荷した製品が、どうやって 店舗に届いたのか、またどういう経路を通っ て返品として戻ってきたのか、全ての記録を たどれるようにする必要がありました。
しかし、取り扱っているのは単価の安い中 間財であり、RFIDを導入するほどの余裕 はありませんでした。
そこで、それまで使っ ていたバーコードシステムをそのまま利用する ことにしました。
そのメーカーは買収を重ねて企業規模を拡 大してきたため、同じ企業内でありながら、 複数のシステムやソフトが混在するという混 沌とした状況にありました。
それを整理・統 合し、バーコードによる安価かつ容易な方法 で、トレーサビリティーを本社で一括管理で きるシステムを構築しました。
我々BTGSが目指しているのは、その企 業の条件に合った形で、必要な情報処理能力 を実現することです。
それには必ずしもすべ ての企業がRFIDのような高価なツールを 使う必要はないと考えています。
(ジャーナリスト 横田増生) フォーマットの異なる情報を一つにまとめ、 どの納入業者も同じようにシステムを運用で きるようにすることが、BTGSに与えられ た大きな使命の一つでした。
そして我々はそ れをやり遂げました。
現在、マークス&スペンサーの十一カ所の 物流センターにICタグの読み取り装置が備 えられています。
そこを経由して年間二億五 〇〇〇万着の洋服がイギリスの主要一二〇店 舗に運び込まれ、ICタグを付けた状態で店 頭に陳列されています。
ICタグの使用規模 としては恐らく世界一だと思います。
また店舗では、一時間当たり一〇〇〇着 のICタグを読み込むことが可能です。
販売 データは、すぐにマークス&スペンサーの関 連部門や、納入業者にフィードバックされま す。
それに基づいて新たな発注が行われる仕 組みをBTGSが構築しました。
POSデー タが、次の発注に直結するようになったわけ です。
この仕組みによって、マークス&スペ ンサーは年間数億ポンドに上る売上増を実現 したと評価されています。
こうしたPOSデータを活用した発注シス テムの利点は、売り上げ機会の損失を避けら れることに加え、不良在庫を抱えるリスクを 大きく減らせる点にあります。
これまでRFIDの利用は、タグの値段の 問題もあって、衣料品などの比較的、付加価 値の高い商品に限定されるというのが、業界 の?常識?でした。
しかし、その常識も変わ (注)この原稿は、二〇一一年六月にドイツ・ベルリンで行われ た「ヨーロッパSCM&ロジスティクス・サミット」のセミ ナーの講義内容をセミナーの主催者であるWTGイベント から掲載についての承諾を得た上で、該当企業のホームペ ージから最新の財務情報などを加えて再編集したものです。
