2012年2月号
SOLE

民間航空機の整備コスト削減メーカーが主導しSCMを構築

79  FEBRUARY 2012  二〇一一年十二月のフォーラムで は、「民間航空機の整備コストとSC M」をテーマに講演を行った。
民間航 空会社にとって、航空機の整備コス トは最も大きな費用項目の一つであ る。
航空機の品質を落とさずに、如 何に整備費を低く抑えるかが経営を 左右する。
航空会社の整備コスト削 減への取り組み、航空機メーカーの主 導するSCMの構築等、フォーラム での講演要旨を報告する。
(JALエアロ・コンサルティング  小林哲也専務取締役) 航空会社の三大コスト  民間航空会社は装置産業であり、 その費用の殆どを固定費(機材費、人 件費、システム費用)と準固定費(燃 油費・着陸料・整備費)が占めてい る。
航空会社は航空機を運航し続け る限り、常にそれらの費用は発生す る上、新機材への投資も続けなけれ ばならない。
 その一方で、航空業界はテロや感 染症、景気の影響をもろに被るため、 収入の変動が大きい。
更に、近年は 原油価格の高騰で燃油費が増加して おり、大きな負担になっている。
こ うした中で、他社との競争に勝ち残る ためには、管理可能費(自らの意思 で管理可能な費用:主に人件費、整 備費)を出来るだけ安く抑える必要 が生じている。
 民間航空会社の費用のうち、最も 大きな費用は人件費と燃油費であり、 その次を整備費が占めている。
国際 航空運送協会(IATA)によると、 航空会社の全費用のうち、人件費の 占める比率は二七%(全民間航空会 社の二〇一〇年の平均値。
以下同)、 燃油費の比率は二四%、整備費が十 三%となっている。
従って、民間航 空会社の経営にとっては、航空機の 品質を落とさずに、如何に燃油費や 人件費、整備費を低く抑えるかが鍵 となるため、燃費の良い航空機への更 新、業務効率化システムの導入、整 備の内製/委託の適正化、整備部品 (補用品)在庫の適正化を積極的に進 めている。
 因みに、最近のLCC(Low Cost Carrier)と呼ばれる航空会社は、管 理可能なコストを出来るだけ抑え (Low Cost)、提供するサービスを最 小限にとどめることによって、低運 賃で多くの旅客を集客し、利益を生む 構造を作り出している。
しかし、整 備については航空法の規制を受けるた め、安全を犠牲に費用を抑えるよう なことはできない。
このため、整備 に必要な施設設備を出来るだけ持た ず、安価で高品質な整備サービスを 提供しているMRO(Maintenance and Repair Overhaul)会社に整備を 委託し、低い整備費を達成している。
 日本においては大手航空会社系の MRO会社しか存在しないため、日 本のLCCは海外に整備を委託する ことになり、大手航空会社より整備 比は割高となっているが、その分人 件費を抑制し、費用を抑えているの が実態である(図1)。
整備費の構造と削減努力  整備費は、直接整備費と間接整備 費の二つに分けられる。
直接整備費 は整備人件(直接工数)費、整備 材料費、整備委託費が主なものであ り、間接整備費としては、施設設備 費、訓練費、整備システム費、間接 人件(間接工数)費、総務管理費な どがある。
 航空会社間では整備コスト削減の ための情報交換が行われており、そ の活動の一つがIATAの下部組織 「MCTF(Maintenance Cost Task Force)」である。
現在、MCTFに は三四の航空会社が加盟し、整備費 の削減と航空機の信頼性向上を目的 として、メーカーや監督官庁(航空 当局)に対する提言などを行ってい る。
例えば、実際の整備で発見され る不具合の状況に基づき、整備要目 SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics 民間航空機の整備コスト削減 メーカーが主導しSCMを構築 図1 大手と新興エアラインの費用構成比 JAL/ANA SKY 燃油費 23% 空港使用料 人件費 17% 8% 機材費 12% 整備費 6% 整備費 12% その他 34% 燃油費 28% 空港使用料 13% 機材費 17% 人件費 13% その他 17% 出所:AIR FORUM「航空と文化」、航空経営研究所 FEBRUARY 2012  80 如何に削減するかが重要な鍵となる。
どの機材でも整備費の半分以上を占 めるのが、整備材料費であるからだ。
 航空機は非常に高価であるため、 稼働率を可能な限り上げ、欠航(AO G=Aircraft On Ground)による逸 失利益を最小限にしなければならない。
いつ、どこで、どのような故障が発 生しても、それを修理し運航スケジュ LCCの米国内シ ェアは三〇%以上 を占めており、そ れらの航空会社は 委託整備に依存し ているため、委託 整備費の占める割 合が増えてきてい ると思われる。
ま た、最近はメーカ ーでしかできない エンジン修理が多 く、必然的に整 備委託は増えるこ ととなる。
従って、 安く高品質の整備 を提供できるMR O会社に委託する ことが、整備費削 減には重要となる。
 次に、一時間飛 行当たり整備人件 費の年度推移(図 6)を見てみると、やはりLCCで あるサウスウェスト航空等では五〇〜 八〇ドルと、他の航空会社に比べて 低い。
ただ、どの航空会社も人件費 削減努力をしているため、全体的に は抑えられていることが分かる。
整備材料費の削減が鍵  整備費の削減には、整備材料費を (いつ、どのような整備を、どのよう に行うかを定めたもの)について整 備間隔の延長等を提言したり、航空 機のシステムや装備品の改善(SB= Service Bulletinという改修仕様書の 発行等)を促している。
 また、米国では航空会社の運航状 況と各種コストについてはU.S.D OT(米運輸省)への報告が義務付 けられており、整備費のモニターが行 なわれている。
整備費のモニターには、 保有航空機の種類と機数、保有航空 機間の共通性、航空機の年間飛行時 間/サイクル、航空機の使用頻度と 機齢、整備材料費と人件費、整備委 託費等のデータが必要であり、それら のデータに基づいて航空会社間で協議、 アドバイスし合う体制が整っている。
 図2に米国における民間航空会社 の整備費の内訳を示す。
エンジン整 備費は整備費全体の約三〇%、整備 委託費は全体の約四〇%と、この二 つが高い比率を占めている。
 図3は航空機の型式別の整備費で ある。
大きな機体程、また古い型式 程、整備費が高い。
意外と双発機(エ ンジン二基を備えている飛行機)の整 備費が高いのは、エンジン整備費の占 める割合が大きく、双発機のエンジ ンは四発機のエンジンより大型なため である。
因みに、B777のエンジ ンのオーバーホール費用は一台当たり 五億円以上なのに対して、B747 ─400の場合には二億円程度となっ ている。
どのような型式の航空機を 使用するかは、航空会社にとって費 用の面では非常に重要なことである。
 図4は、一席当たり一マイル飛行 するのにどの程度の整備費が必要と なるかの年間推移を米国航空会社別 に示している。
LCCのサウスウェス ト航空や、その子会社であるエアトラ ン航空が〇・五〜〇・九セントと他 の航空会社に比べて低いが、全体的 に最近は増加傾向にある。
 その要因としては、整備委託費用 の増加が挙げられる(図5)。
現在、 図2 米国航空会社の整備コストの構成 16% 22% 18% 40% 20% 15% 32% 17% 20% Market Segments in 2008 Cost Elements in 2008 Line Base Component Engine Overhead Labor Material Outsource Overhead 図3 機種別整備コスト(1 機当たり) Major US Carriers - Maintenance Cost per Aircraft( 2007) 1000 100 10 1 8,000,000 7,000,000 6,000,000 5,000,000 4,000,000 3,000,000 2,000,000 1,000,000 0 B747Classic B777 B747-400 A300 B757 B767 A330 B737Classic A320F B717 MD80 DC9 B737NG MD90 EMB190 20.6 8.6 12.4 18.1 14 12.8 15 8.2 6.1 3.6 18 36.5 6.5 12.2 1.3 Fleet Age (years) 2 127 527 520 584 436 672 16 32 260 104 37 97 46 34 14MS Number of aircraft Million US$ / aircraft Cost per aircraft Fleet Fleet Age 出所:Form 41 81  FEBRUARY 2012 ールを確保するために、 ある程度の修理用交換 部品を整備基地だけで はなく寄港地にも準備 しておかなければなら ない。
また、取卸され た部品の整備工場では、 いち早く故障箇所を修 理し、交換用部品を 在庫に戻す必要がある。
 そうした修理用部品 の在庫金額は非常に大 きく、全世界の民間 航空機用修理部品の 在庫額は〇九年で四七 〇億米ドル(三兆六一 九〇億円)に達してい る。
現在、世界の運 航機数が約一万九〇 図4 米国航空会社ASM 当たり整備コストのTrend Major US Carriers - Cost per ASM 1.60 ASM:Available Seat Mile/提供座席×運航マイル 1.40 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 AirTran US Cents Alaska America West American Continental Delta Hawaiian Northwest Southwest Jet Blue US Airways United 出所:Form 41 Form41 Major US Carriers - Total Maintenance Cost by Cost Element 12.00 10.00 8.00 6.00 4.00 2.00 0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 図5 米国航空会社整備コストの構成とTrend Overhead Outsourced Labor Material 出所:Form 41 Billion US$ 250 200 150 100 50 0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 図6 Labor Cost Major US Carriers - Labor Cost per Flight Hour US$ / Flight Hour Alaska America West American Continental Delta Hawaiian Northwest Jet Blue Southwest United AirTran US Airways 出所:Form 41 FEBRUARY 2012  82 に部品在庫量を少 なくするかである。
そのために、航空 会社はメンバー航空 会社間で予備部品 をプールし、自由に 貸し借りする「IA TP(International Airlines Technical Pool)」と呼ばれる仕 組みを運用しており、 現在、航空会社一 〇九社と航空機メ ーカーを含めた三一 社等が参加している。
 部品調達にか かる時間(Lead Time)や部品修理 にかかる時間(TA T =Turn Around Time)の短縮に向 けては、最近では民 間航空機メーカーが SCMの考えを取り 入れた部品調達シ ステムや整備供給シ ステムを構築し、整 備材料費削減が可 能であることを売り にして航空機を売り こむ動きが出てきて いる。
 その結果は航空機メーカーから「R SPL(Recommended Spare Parts List)」として航空会社に定期的(約 六〇日毎)に提供され、航空会社は 航空機の納入前から必要な部品を調 達できるようにしている。
航空機の 受渡し時には、その航空機にどのよ うな型式の部品が搭載されているか を示す「Readiness Log」という書類 が渡され、部品の互換性等も分かる ようになっている。
 航空機の受渡し後も、航空機メー カーは部品の信頼性改善のため、航 空機の製造過程で色々な改修指示 書( P R R =Production Rapid Revision、RR=Revision Record、 MC=Master Change等)を発行す る(図8)。
航空会社はそれらの最新 情報を常にメーカーより入手し、航空 機に取り付けられた部品と予備部品 との互換性が損なわれないように常 にモニターをしている。
 既に就航した航空機に対しても、 日々の整備においては、メーカーの発 行するSB等により部品の改修が行 われ、このモニター活動は航空機が退 役するまで一生続くことになる。
こ れを怠れば無駄な在庫部品を抱えるこ ととなり、整備費が増加してしまう。
VMIで修理部品在庫を削減  整備材料費を削減するには、如何 〇〇機であることから、一機当たり 約二五〇万米ドルを保有しているこ とになる。
今後、民間航空機の機数 は全世界で年平均 三・六%伸びると 予想されているので、この数字は更 に増えて行くことになる。
 因みに、日本の某航空会社の予備 部品在庫高は、保有航空機数一四一 機に対して一三五一億円(簿価八七 〇億円)、一機当たりの在庫額は約九 億五八〇〇万円であり、全世界平均 より相当余分に在庫を抱えているこ とになる。
 これらの修理用予備部品在庫を常 に適正に保つためには、消費された 部品を常に補充する必要があり、そ の年間購入額は大手航空会社では一 社当たり五〇〇〜一〇〇〇億円に 上る。
例えば日本の某航空会社では、 年間購入品目は約一〇万点、購入額 は約六〇〇億円となっている。
これ が、整備材料費である。
 図7は、二〇一一年五月にSOL E日本支部で実施した「民間航空機 の整備計画策定と実践」と題した講演 の際に、民間航空機の一生として説明 した資料を使って、航空機の一生と部 品の関係を表したものである。
メーカ ーと航空会社は航空機の設計段階から、 その航空機を円滑に運航するために必 要な予備部品の種類と数について検討 する。
図7 航空機の一生と部品? 図8 航空機の一生と部品? メーカーエアライン メーカーエアライン マーケットリサーチ ローンチングへの参加 設計への要求 整備プログラム検討 初号機デリバリー 設計開始 エアライン要求の反映 製造開始 マニュアル類設定 整備プログラム検討 試験飛行開始 型式証明取得 量産体制 耐空証明取得 新型機への欲求 -5 -3 -1 0 BFE ON DOCK X/U/V-FILE 初号機デリバリー耐空証明取得 エアラインの航空経験 法による規制 Side Letter, PRR, RR, MC SB,Daily Maint., etc 退役 SB 発行 ICA 改定 自社の航空経験 国内法による規制 ワーキング・ トギャーザー 改修 航空経験と改修の蓄積による 安全性/信頼性の向上 新鋭機の開発による競争力低下 経年化による品質低下、整備費増 メーカーの役割は航空機を 売ることだけでなく、退役ま で耐空性を維持できるようサ ポートすること エアラインの安全性・ 信頼性向上の努力は 退役まで続く RSPL:60日毎 Readiness Log 83  FEBRUARY 2012  図9はボーイング社が提供してい る航空機予備品調達SCMプログラ ム「I M M(Integrated Material Management)」である。
航空会社の 部品消費、供給業者での配備・物流 管理、部品メーカーでの製造に関わる 情報を一元的に管理することで、納 期短縮や在庫削減によるコスト削減 を目指している。
 IMMでは、ボーイング社は航空 機の予備部品を自社の資産として航 空会社のストアに在庫し、航空会社 側は使用した分だけ部品代を支払う VMI方式をとっている。
航空会社 にとってはコスト削減効果が高いこと から、参加航空会社はB777の運 航会社を始め、次世代中型ジェット 機のB787の運航予定会社も加わ り、一〇数社に及んでいる。
 また、民間航空機メーカーは、以 前は単に航空機部品提供会社や整備 委託先、運航・整備訓練提供会社を 航空会社に紹介するだけに留まって いたが、今ではSCMの考え方に基 づき、航空機メ ーカー自らがそ れらのサービスの 一元的な窓口と なり、様々なサ ービスを提供し ている。
その一 例がボーイング社 の「B787用 Gold Car e」というシステ ムである(図10 )。
新型式の航空機 を導入した場合、 航空会社は、そ の航空機の整備 を自社で行うた めに、整備に必 要な設備器材を 購入する必要が ある。
しかしこ のシステムに参 加すれば、その 様な初期投資を することなく新型航空機を導入出来 ることになる。
 民間航空会社は様々な手段を活用 して整備費削減に努力している。
こ れに対して、航空機メーカーは単に高 品質で性能のよい航空機を製造するだ けではなく、航空機が就航し退役す るまでのLife Time Cost を抑える努力を続けることで、競合 他社との差別化を図っている。
次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは2月16日(木)シム トップスの伊藤昭仁シニアソリューション アーキテクトによる講演「個別受注生産の 『見える化』の仕組み」を予定している。
こ のフォーラムは年間計画に基づいて運用し ているが、単月のみの参加も可能。
1回の 参加費は6,000円。
ご希望の方は事務局 (s-sogabe@mbb.nifty.ne.jp)までお問 い合わせ下さい。
図9 SCM(IMM)について 現在IMM On-Site Functions IMM Global ・Located with customers ・Demand Planning ・Inventory Management ・R/O Services Management ・Replenishment Management KLM IMM On-Site Teams IMM Network Suppliers(Parts and R/O Services) Honeywell(OEM) Aviall CAS Spares UFE Aerospace Satair Hamilton Sundstrand Avio-Diepen IMM Global Functions ・Planning & Collaboration ・Global Operations ・systems Integration ・Network Supplier Mngmnt ・Global Logistics Mngmnt ・Quality Assurance ・Human Resources ・Parts/Services Engineering ・Finance and Accounting ・Communications ・Product Development ・Contracts JAL JTA Delta Air Tran ANA 787 Customers Singapore Ryanair 図10 整備のSCMについて 現在のBoeing 社のGOLD CARE Traditional GOLD CARE Airlines Airlines MROs MROs Suppliers Suppliers Boeing Boeing 出所:Boeing Manuals Processes Training Tools, GSE Facilities Inventory Manuals Processes Training Tools, GSE Facilities Inventory ・Inefficient ・Overcapacity ・Redundant ・Expensive ・Efficient Optimized infrastructure ・Value Chain Alignment ※ S O L E(The International Society of Logistics:ロジスティクス学会)は一九六〇年 代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本 部を置き、会員は五一カ国・三〇〇〇〜三五 〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎月「フォーラ ム」を開催し、講演、研究発表、現場見学な どを通じてロジスティクス・マネジメントに関 する活発な意見交換、議論を行っている。

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