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MARCH 2012 24
ヤマトホールディングス
──「サービスドライバー」をアジアに移植
2013年度までにアジア約10カ国で宅急便ネットワークを構
築する。 自社航空貨物機による幹線輸送を武器にするインテ
グレーターとは対照的に、ラストワンマイルの集配サービスを
海外事業でも競争力の核と位置付けている。 そのために日本
の宅急便と同じ「サービスドライバー」を現地に移植する。
グローバル事業戦略を大きく転換
──二〇一〇年一月に上海とシンガポール、一一年
二月に香港、一一年九月にマレーシアに進出するなど、
宅急便のグローバル化を推し進めています。
「以前の当社のグローバル事業とは、日本と海外を
結ぶ物流でした。 あくまでも起点は日本の宅急便で、
そこから放射線状に海外に伸びていくかたちです。
それに対して現在は、アジア各地に、宅急便のネッ
トワークそのものを移植するかたちでグローバル化
を進めています」
「きっかけは台湾でした。 二〇〇〇年に現地にパー
トナーと合弁を設立し、宅急便事業を開始しました。
といっても海外にネットワークを張るのは初めてだっ
たので当社の出資比率は一〇%に抑え、ブランドや
ノウハウを提供するかたちで進出しました。 これが
成功した。 それを受けて〇八年にヤマト運輸に現在
のグローバル営業部を設け、宅急便の輸出に本格的
に乗り出しました。 現在は四カ国で展開していますが、
一三年度までにアジア約一〇カ国に拡大する計画です」
──通常の物流企業の海外進出モデルとは大きく異
なります。
「その通りです。 フォワーディングや通関、完成品
や部品輸送、引越しといった通常の海外事業の顧客
は、基本的に日系企業であり日本人です。 一方、宅
急便事業の顧客はその国の方々です。 現地の肌感覚
が何より大事になるので、徹底的なローカライゼー
ションが不可欠です。 その国の経済状況や国民性を
細かく把握しておく必要がある。 中国とシンガポー
ルとマレーシアを十把一絡げで語ることはできません。
世界共通のやり方では通用しないんです」
「通常の海外物流事業とは規制やライセンスの面で
も違いがあります。 フォワーディングや輸出入関連
の仕事であれば、どの国でも外資に対する規制は緩
い。 しかし、宅急便はドメスティック産業です。 そ
の国の産業保護政策にどうしても大きく左右される」
──ネットワークを自社で構築するには時間も初期
コストもかかります。 事業としてのリスクも高い。
「最初に台湾でノウハウ提供から入ったのは、そう
いったことを見極めるためでもありました。 一連の
経験や社内議論の中から導き出された一つの答とし
て、集配密度の高いエリアから進出するという戦略
を立てました。 実際、日本以外で全国展開している
のは国土の狭いシンガポールだけです。 中国本土は
上海市、マレーシアはクランバレー、ペナン、ジョホー
ルバルの三エリア、香港も面積の限定された島です。
いきなり全国網を目指すのではなく、まずはその国
の主要エリアに進出し、土台を築いていく」
──どれほどの時間軸で収益を見ているのですか。
「初期投資が必要なネットワーク事業ですので、一
定期間の赤字は見込んでいます。 収穫期はその国の
状況によって変わってきますが、台湾が一つのモデ
ルになる。 台湾はスタートから七年で単年度黒字を
達成し、一〇年で累損を解消した。 これよりは前倒
ししたいと考えています。 具体的には五〜七年程度
のスパンで累損の解消を目指しています」
新興国で日本並みの品質のネットワークビジネ
スをペイさせるのは難しいように思えます。
「需要自体が旺盛であることに疑いはありません。
ただ、それだけでは十分で無いのも事実です。 構築
したネットワークにコストが合っていなければいけ
ません。 そのためにも日本人比率を下げる必要があ
る。 今はサービスドライバー(SD)を教育するた
めに一定数の日本人を現地に置いていますが、それ
ヤマトHD 成井隆太郎 経営戦略担当シニアマネージャー
第1部 目指せアジアの物流メジャー
25 MARCH 2012
を中国であれば中国人が教えていく仕組みに変えて
いく。 同時に、SDの生産性を上げていく。 海外事
業を見ていて痛感するのが、日本のSDの勤勉さで
す。 日本と同じレベルまでSDの生産性を高めるの
は並大抵のことではありません。 しかし、それを実
現できれば黒字化は十分可能です」
──その国でシェアを取ることも重要なのでは?
「日本のように成熟した市場であればシェアは重
要です。 日本ではかつて“動物戦争”と呼ばれるほ
どに宅配便のブランドが乱立しましたが、市場が成
熟するにつれて集約されていきました。 そうなった
時にはシェアがモノを言いますが、アジアの大半の
国はまだそのタイミングではありません。 需要が急
拡大している環境ではシェアよりも自分自身の成長
が大事です。 ライバルを意識するよりも荷物を可能
な限り集め、売り上げを増やしていきます」
──日本の宅急便はC
to
Cを前提に設計されていま
すが、アジアの宅配便需要は圧倒的にB
to
Cです。
「確かにアジアではC
to
Cの荷物はまだほとんど
ありません。 メーンの荷主は通販会社ですから、当
社もアジアではB
to
Cを前提にネットワークを設計
しています。 とはいっても、当社にはC
to
Cの文化
が深く根付いている。 それを全く無視したビジネス
設計というのはなかなか難しい。 現状ではC
to
Cの
要素をかなり多く含んだネットワークになっています。
とくに『FromC』の部分に関しては、実態に対
してやや過剰な投資になる傾向がある。 これは今後
見直す必要があるかもしれません」
──クールやコレクトなど、海外でも日本同様のサー
ビスメニューを最初から提供しています。 それだけ
初期投資が重くなるのになぜ?
「差別化が必要だと判断しているからです。 実際、
上海ではクールとコレクトが大きな武器になってい
ます。 日本では宅急便全体に占めるクールの比率が
十二〜十三%、コレクトは七〜八%ですが、上海で
はそれより遙かに比率が高い」
──単価についてはどうですか。
「これも日本とは全く違った目で見なければいけ
ません。 日本では宅急便の定価はずっと上がってい
ない。 しかし、新興国では毎年見直すのが常識です。
人件費や燃料費が著しく上がっていく中で、単価を
据え置いていたらたちまち事業が成り立たなくなる。
しかし日本人の管理者はそういったマネジメントに
慣れていない。 人件費コストだけでなく、マネジメ
ント自体にも、やはり現地化が必要なのです」
インテグレーターとは競合しない
──何が成功のキーになると考えていますか。
「SDに尽きます。 宅急便の輸出とは、SDを教
育するノウハウの輸出と言い換えても過言ではあり
ません。 買い物をした人が荷物を受け取る時、SD
の対応が良ければ、それはそのまま荷主への評価に
直結し、次の買い物にも繋がる。 そうなれば当社の
荷物も増える。 この好循環を築く必要がある」
──インテグレーターとも競合しない?
「彼らが航空幹線輸送に投資しているのに対して、
当社はラストワンマイルの物流に投資をしています。
航空機に大規模投資をするつもりはありません。 ビ
ジネスモデルもインテグレーターはB to Bがメーンで、
ターゲットとなる荷物も書類や緊急パーツなどに絞っ
ています。 当社とは棲み分けている。 競合するとい
うより、むしろ各国の宅配部分で当社がお手伝いで
きるのではと考えています。 当社のライバルはやは
り各地の地場宅配会社です」
マレーシアは3エリアで展開。 海外では初となる都市間運行にも挑む
物流大手の
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