2012年3月号
特集
特集
第1部 目指せアジアの物流メジャー DHL ジャパン──BtoBからB to Cに事業領域を拡大 DHLジャパン 山川丈人 社長
MARCH 2012 26
DHL ジャパン
──BtoBからB to Cに事業領域を拡大
成長のエンジンをアジアと見定め、大規模投資を
重ねてきた。
欧州の金融危機に直面しても、その 方針は変わらない。
アジアでインターネット通販の BtoC貨物が増加しているのに対応し、現在、ネッ トワークのカスタマイズを検討している。
アジアへの投資を継続 ──ドイツポストDHLのお膝元の欧州で、経済危 機が叫ばれています。
「マクロ経済の指標を見ると確かに経済は傷んで います。
しかし、実際に欧州でビジネスをしている 同僚や顧客企業の方に話を聞くと、彼らは日本で騒 がれているほど深刻には捉えていない。
例えばギリシャ 危機が欧州全体に飛び火して、今すぐにでも危機的 な状況に陥ると考えている人は私の周りにはそう多 くはいません」 ──DHLとしてもそこまで悲観的ではない? 「もちろん本社の経営層はセンシティブに見ている でしょうが、必ずしも欧州の景気動向とDHLのビ ジネスが一〇〇%リンクするわけではありません。
実際、昨年十一月、十二月の荷動きは決して悪くな かった。
確かに景気が減速すれば最終製品の荷動き は鈍ります。
しかしDHLは景気の波を受けにくい 書類や緊急部品なども多く取り扱っています」 「また、一般的な企業は景気後退期に在庫を圧縮 ようという動きを見せますが、そうなれば在庫が足 りなくなって緊急輸送を求めるシーンも増えてくる。
必然的にエクスプレス事業に対する引き合いも増える。
当社にとってはビジネス機会が増える側面もあるの です」 ──しかし欧州危機が業績に無関係とは考えられま せん。
「今やDHLグループの稼ぎ頭、成長のエンジンは アジアにシフトしています。
そのアジアでは引き続 き経済成長が続いている。
DHLのビジネスも順調 に推移していて、アジアでナンバーワンの座を確保 しています。
欧州の景気が多少もたついたとしても、 アジアが健全である限り、DHLグループに与える 影響は深刻なものにはなりません」 ──新興国投資の行き過ぎを見直すという動きはあ りませんか。
昨年、DHLは中国の国内宅配事業か ら撤退しています。
「その件について、私は答える立場にはありませんが、 DHLの強みを活かせるインターナショナルの部分 により特化しようという姿勢の一環だと理解してい ます。
決してアジアに対するコミットメントが減退し たわけではありません」 「実際、アジアに対するコミットメントには一貫し て非常に強いものがあります。
二〇〇〇年から〇七 年の間に、アジア太平洋地区で二二億ドル規模のイ ンフラ投資を実施してきました。
〇八年には香港セ ントラルアジアハブを拡張し、インドのバンガロール にエアターミナルを開設しています。
〇九年には韓 国および台湾にゲートウェイを新設しました」 「昨年六月には一億ユーロを投じ、日本発着を含 むエアネットワークを拡大しています。
貨物搭載量 一〇〇トンの航空機三機を、東京─香港間、シンガ ポール─香港間、上海─香港間といった基幹路線に 投入しました。
これによって貨物搭載量が約二倍に なった。
特に日中間のルートは日本および世界経済 にとって最重要路線です。
両市場間のアクセスをよ り強力にサポートすることで、荷主の利便性の向上 に貢献していきます」 「今夏には上海にアジアで二つ目となるハブを開設 します。
八万八〇〇〇?の敷地に、総床面積五万 七〇〇〇?の仕分け施設や六五〇〇?のオフィス施 設などをオープンします。
これは既存の上海ゲートウェ イ施設の数倍にもおよぶ規模です。
総投資額は約一・ 四億ユーロに及びます」 DHLジャパン 山川丈人 社長 第1部 目指せアジアの物流メジャー 27 MARCH 2012 ──中国のS・F・エクスプレス(順豊)やオース トラリアのトールグループ、そして日本のOCSなど、 アジア圏を対象とする国際宅配企業が増えています。
アジアにおける競争環境に変化は感じますか。
「我々としても注目はしていますが、まだ彼らは ビジネスを始めたばかりなので判断材料が少な過ぎ ます。
ただし、新規参入が増えるということは市場 にとって健全なことだと思います」 ──脅威ではない? 「例えばある競合相手が赤字覚悟の価格攻勢をし かけてくれば、一部の顧客は一時的に当社から離れ るかもしれません。
しかし、限られた自社フレーター しかない彼らにそれが継続できるとは思えません。
自社フレーターのコスト優位性は圧倒的です。
しかも、 この商売はあらゆるエリアで、質の高いサービスを 永続的に提供できなければ生き残ることはできない。
そのためにはインフラの他に、ブランド戦略や人材 教育が必要になります。
それには莫大なコストと長 い時間がかかる。
買収によってネットワークだけを 手にすれば済むという話でもありません。
DHLは アジアで四〇年にわたってビジネスを展開してきま した。
一朝一夕に他社が真似できるものではないと 自負しています」 B to C物流への対応策を検討 ──アジアでは国際通販、つまりB to Cの貨物が 伸びています。
一方、DHLのエクスプレス事業は B to Bの貨物を対象に設計されています。
「B to Cの荷物はアジアだけでなく、グローバル全 体で伸びています。
我々としても積極的に取り込ん でいく方針です。
現状はできる範囲で対応していま すが、今後は体制を少しチューニングする必要がある。
例えばB to B用の大型車で個人宅へ配送するのは不 便なので、小型車に変えていく。
さらに自社だけで 網羅するのではなく、 to Cに強い企業との提携も視 野に入れています。
個人とのフェイス to フェイスの 部分をどう効率化するかなども検討しています」 ──TNTがロジスティクス事業から撤退したよう に、ここ数年で他のインテグレーターは事業の選択 と集中を進めています。
それに対してDHLはエク スプレス、フォワーディング、ロジスティクスとフル ラインでサービスを揃えている。
利益率の低いロジ スティクス事業を整理せずに、あえて温存しておく 理由は? 「私が答えられる範囲を超えた質問ですが、DH Lグループが目指しているのは世界ナンバーワンの ロジスティクス企業です。
世界中のあらゆる場所で、 全てのニーズに応えていく。
もちろん、利益率や採 算性が悪ければ改善していく必要がありますが、顧 客の声を疎かにすることはできません」 ──フルラインで事業を展開していても、シナジー 効果があるようには見えません。
「三つの柱があることは大きな武器です。
例えば 日本ではエクスプレスの営業社員の数が最も多いの ですが、彼らは他の二つの事業のことも頭に入れて フィールドワークをしている。
顧客に対して最善の 提案ができるし、顧客にとっても一つの窓口であら ゆるサービスを受けることができるという利便性が ある。
また、グローバルでは自動車やヘルスケアな どの主要産業あるいは特定の主要顧客に対して全事 業に横串を刺してサービスを提供する組織があります。
そこでは三事業が有機的に機能し、顧客からの支持 を得ている。
単一事業だけでは広がりも深みも出て きません」 新たに貨物機を投入し、アジア航路を増強 北アジアハブの完成イメージ図。
最新の仕分け装置も導入される シンシナティ─香港─バーレーン間でB777を3機投入 北アジアハブを上海に開設予定 A300-600GF 貨物機2機を、北京−香港およびマ ニラ─香港路線に再投入し、 輸送力を88%増加 1 億ユーロを投資し、搭載量100トンのB747-400 型BCF 3 機を3つの基幹路線(東京─香港、シン ガポール─香港、上海─香港)で使用開始 近年の主なアジア投資 2008 年 2009 年 2011 年6月 2011 年8月 2012 年下半期 内容 香港セントラルアジアハブ拡張 インドのバンガロールにエアターミナル開設 韓国および台湾にゲートウェイ新設 時期 物流大手の 特集
欧州の金融危機に直面しても、その 方針は変わらない。
アジアでインターネット通販の BtoC貨物が増加しているのに対応し、現在、ネッ トワークのカスタマイズを検討している。
アジアへの投資を継続 ──ドイツポストDHLのお膝元の欧州で、経済危 機が叫ばれています。
「マクロ経済の指標を見ると確かに経済は傷んで います。
しかし、実際に欧州でビジネスをしている 同僚や顧客企業の方に話を聞くと、彼らは日本で騒 がれているほど深刻には捉えていない。
例えばギリシャ 危機が欧州全体に飛び火して、今すぐにでも危機的 な状況に陥ると考えている人は私の周りにはそう多 くはいません」 ──DHLとしてもそこまで悲観的ではない? 「もちろん本社の経営層はセンシティブに見ている でしょうが、必ずしも欧州の景気動向とDHLのビ ジネスが一〇〇%リンクするわけではありません。
実際、昨年十一月、十二月の荷動きは決して悪くな かった。
確かに景気が減速すれば最終製品の荷動き は鈍ります。
しかしDHLは景気の波を受けにくい 書類や緊急部品なども多く取り扱っています」 「また、一般的な企業は景気後退期に在庫を圧縮 ようという動きを見せますが、そうなれば在庫が足 りなくなって緊急輸送を求めるシーンも増えてくる。
必然的にエクスプレス事業に対する引き合いも増える。
当社にとってはビジネス機会が増える側面もあるの です」 ──しかし欧州危機が業績に無関係とは考えられま せん。
「今やDHLグループの稼ぎ頭、成長のエンジンは アジアにシフトしています。
そのアジアでは引き続 き経済成長が続いている。
DHLのビジネスも順調 に推移していて、アジアでナンバーワンの座を確保 しています。
欧州の景気が多少もたついたとしても、 アジアが健全である限り、DHLグループに与える 影響は深刻なものにはなりません」 ──新興国投資の行き過ぎを見直すという動きはあ りませんか。
昨年、DHLは中国の国内宅配事業か ら撤退しています。
「その件について、私は答える立場にはありませんが、 DHLの強みを活かせるインターナショナルの部分 により特化しようという姿勢の一環だと理解してい ます。
決してアジアに対するコミットメントが減退し たわけではありません」 「実際、アジアに対するコミットメントには一貫し て非常に強いものがあります。
二〇〇〇年から〇七 年の間に、アジア太平洋地区で二二億ドル規模のイ ンフラ投資を実施してきました。
〇八年には香港セ ントラルアジアハブを拡張し、インドのバンガロール にエアターミナルを開設しています。
〇九年には韓 国および台湾にゲートウェイを新設しました」 「昨年六月には一億ユーロを投じ、日本発着を含 むエアネットワークを拡大しています。
貨物搭載量 一〇〇トンの航空機三機を、東京─香港間、シンガ ポール─香港間、上海─香港間といった基幹路線に 投入しました。
これによって貨物搭載量が約二倍に なった。
特に日中間のルートは日本および世界経済 にとって最重要路線です。
両市場間のアクセスをよ り強力にサポートすることで、荷主の利便性の向上 に貢献していきます」 「今夏には上海にアジアで二つ目となるハブを開設 します。
八万八〇〇〇?の敷地に、総床面積五万 七〇〇〇?の仕分け施設や六五〇〇?のオフィス施 設などをオープンします。
これは既存の上海ゲートウェ イ施設の数倍にもおよぶ規模です。
総投資額は約一・ 四億ユーロに及びます」 DHLジャパン 山川丈人 社長 第1部 目指せアジアの物流メジャー 27 MARCH 2012 ──中国のS・F・エクスプレス(順豊)やオース トラリアのトールグループ、そして日本のOCSなど、 アジア圏を対象とする国際宅配企業が増えています。
アジアにおける競争環境に変化は感じますか。
「我々としても注目はしていますが、まだ彼らは ビジネスを始めたばかりなので判断材料が少な過ぎ ます。
ただし、新規参入が増えるということは市場 にとって健全なことだと思います」 ──脅威ではない? 「例えばある競合相手が赤字覚悟の価格攻勢をし かけてくれば、一部の顧客は一時的に当社から離れ るかもしれません。
しかし、限られた自社フレーター しかない彼らにそれが継続できるとは思えません。
自社フレーターのコスト優位性は圧倒的です。
しかも、 この商売はあらゆるエリアで、質の高いサービスを 永続的に提供できなければ生き残ることはできない。
そのためにはインフラの他に、ブランド戦略や人材 教育が必要になります。
それには莫大なコストと長 い時間がかかる。
買収によってネットワークだけを 手にすれば済むという話でもありません。
DHLは アジアで四〇年にわたってビジネスを展開してきま した。
一朝一夕に他社が真似できるものではないと 自負しています」 B to C物流への対応策を検討 ──アジアでは国際通販、つまりB to Cの貨物が 伸びています。
一方、DHLのエクスプレス事業は B to Bの貨物を対象に設計されています。
「B to Cの荷物はアジアだけでなく、グローバル全 体で伸びています。
我々としても積極的に取り込ん でいく方針です。
現状はできる範囲で対応していま すが、今後は体制を少しチューニングする必要がある。
例えばB to B用の大型車で個人宅へ配送するのは不 便なので、小型車に変えていく。
さらに自社だけで 網羅するのではなく、 to Cに強い企業との提携も視 野に入れています。
個人とのフェイス to フェイスの 部分をどう効率化するかなども検討しています」 ──TNTがロジスティクス事業から撤退したよう に、ここ数年で他のインテグレーターは事業の選択 と集中を進めています。
それに対してDHLはエク スプレス、フォワーディング、ロジスティクスとフル ラインでサービスを揃えている。
利益率の低いロジ スティクス事業を整理せずに、あえて温存しておく 理由は? 「私が答えられる範囲を超えた質問ですが、DH Lグループが目指しているのは世界ナンバーワンの ロジスティクス企業です。
世界中のあらゆる場所で、 全てのニーズに応えていく。
もちろん、利益率や採 算性が悪ければ改善していく必要がありますが、顧 客の声を疎かにすることはできません」 ──フルラインで事業を展開していても、シナジー 効果があるようには見えません。
「三つの柱があることは大きな武器です。
例えば 日本ではエクスプレスの営業社員の数が最も多いの ですが、彼らは他の二つの事業のことも頭に入れて フィールドワークをしている。
顧客に対して最善の 提案ができるし、顧客にとっても一つの窓口であら ゆるサービスを受けることができるという利便性が ある。
また、グローバルでは自動車やヘルスケアな どの主要産業あるいは特定の主要顧客に対して全事 業に横串を刺してサービスを提供する組織があります。
そこでは三事業が有機的に機能し、顧客からの支持 を得ている。
単一事業だけでは広がりも深みも出て きません」 新たに貨物機を投入し、アジア航路を増強 北アジアハブの完成イメージ図。
最新の仕分け装置も導入される シンシナティ─香港─バーレーン間でB777を3機投入 北アジアハブを上海に開設予定 A300-600GF 貨物機2機を、北京−香港およびマ ニラ─香港路線に再投入し、 輸送力を88%増加 1 億ユーロを投資し、搭載量100トンのB747-400 型BCF 3 機を3つの基幹路線(東京─香港、シン ガポール─香港、上海─香港)で使用開始 近年の主なアジア投資 2008 年 2009 年 2011 年6月 2011 年8月 2012 年下半期 内容 香港セントラルアジアハブ拡張 インドのバンガロールにエアターミナル開設 韓国および台湾にゲートウェイ新設 時期 物流大手の 特集
