2012年3月号
ケース

米チキータ・ブランズ・インターナショナル 欧米SCM会議? バナナのグローバルSCMで100年の蓄積欧州のフルーツ飲料事業ではS&OP活用

MARCH 2012  50 中・南米発欧州行きのSCMフロー  「チキータ」といえば、多くの人がバナナを 思い浮かべることと思います。
現在もチキー タ・ブランズ・インターナショナルの売り上 げの三分の二近くはバナナの生産・販売が占 めていますが、そのほかにも我々はカットフ ルーツやカット野菜、アボカドやパイナップル といった商品を取り扱っています(図1)。
 チキータの創業は一八七〇年に遡ります。
アメリカ人の船乗りでビジネスマンだったロレ ンゾー・ダウ・ベーカーが、船長としてジャ マイカに行った際、現地の一〇〇カ所以上の バナナ農園を買い取ったのが、その始まりで した。
そこから現在のチキータ社が形作られ ていき、一九〇三年にニューヨーク証券取引 所に上場を果たしています。
 しかし、その後、時代が経つに連れ、バナ ナはありふれた商品となり、市場での競争が 激しくなっていきました。
そのこともあって、 チキータの業績は九〇年代後半に大きく悪化 します。
そして二〇〇二年には「チャプター 11 (連邦倒産法第 11 章)」を申請する事態に 陥りました(図2)。
 しかし、そこから当社は会社再建に取り組 み、翌〇三年に大規模なリストラと業務の大 幅な効率化を実施しました。
これによって当 社は再び黒字化を果たし、財務体質を立て直 すことができました。
 とはいえ、バナナが成熟した、利益率の低 い商品であることは今でも変わりはありませ ん。
そのため、バナナの生産業と卸売業を兼 ねる当社はこれまで、サプライチェーンを効 率化することで、市場におけるスピードの向 上とコスト削減を両立させることに努めてき ました。
 本日の講演では、我々の欧州におけるバナ ナのSCMの取り組みと、それに加えて〇六 年から欧州において新規事業として展開して いる「スムージー(凍らせた果物や野菜など を使ったシャーベット状の飲み物)」事業のS CMについて、これまでの道のりと今後の課 題をお話ししたいと思います。
 チキータにとって、優れた業務プロセスを 組み立てることは、バナナの品質を保証する うえで欠かせない要素です。
バナナの最大の 特徴は、長期間にわたる保存ができないこと です。
従って、バナナのSCM業務は常に時 間との戦いであり、バナナをベストコンディシ ョンで小売業者に届けることがその役割とな  バナナの生産と卸売を主業とする米食品大手の チキータ・ブランズ・インターナショナルは、2006 年に欧州でフルーツ飲料事業を立ち上げた。
そこで はバナナとはまったく異なるサプライチェーンを組 み立てる必要があった。
同社と仏食品大手のダノン が2010年に合弁で設立したダノン・チキータ・フ ルーツ社でSCMを担当するシャーロット・ノリガッ ト氏が、その取り組みを語る。
欧米SCM会議? 米チキータ・ブランズ・インターナショナル バナナのグローバルSCMで100年の蓄積 欧州のフルーツ飲料事業ではS&OP活用 会社名 チキータ・ブランズ・インターナショナル 創業 1899 年 本社 アメリカ・オハイオ州シンシナティ 最高経営責任者 フェルナンド・アギュイレ 株式上場 ニューヨーク証券取引所(1903 年) 売上高 32 億2700万ドル(2452 億5200万円) 最終利益 5700万ドル(43 億3200万円) 従業員数 約2 万1000人 (注1)いずれも2010 年度の数字 (注2)1ドル=76 円で換算 チキータ組織概要 図1 部門別の売上高比率 2010 年度 32 億2700 万ドル バナナ 60% その他 サラダや 8.1% ヘルシー・スナックなど 31.8% 51  MARCH 2012 ります。
 基本的に我々はバナナを中央アメリカや南 米の赤道付近の国々で生産しています。
赤道 付近のバナナ農園は、一年のうち九カ月〜一 〇カ月にわたってバナナを生産することがで きます。
欧州市場向けのバナナは、主にコス タリカやパナマ、エクアドル、コロンビアと いった国々で生 産されていま す。
 それを消費 地である北米 や欧州へと運 ばなければな りません。
そ のためバナナ の生産・卸売 事業には、ロ ジスティクス の面において、 多大な設備投 資が必要とな ります。
自社 運営のバナナ 農園から、専 用の港まで自 分で鉄道を敷 き、バナナに 特化した貨物 船を運航させ て、消費地まで運ぶのです。
 チキータは、専用の貨物船が港を出港する 三日前にバナナを収穫します。
そして貨物船 が生産国を出港して、欧州の港に着くまで平 均で十三日かかります。
輸送中のバナナは十 三℃に温度管理し、成熟を抑えるために酸素 を二〜五%のレベルに保っています。
 この十三℃という温度は、同業他社と比べ るとやや高めです。
しかし、これは当社が長 年積み上げてきたノウハウによってたどり着い たバナナの適温なのです。
そして現在も我々 はSCMのノウハウを、少しずつではありま すが、向上し続けています。
 欧州の港で荷揚げされたバナナは、チキー タが欧州に所有する十一カ所の「成熟センタ ー」か、あるいは当社の顧客である小売業者 が所有する「成熟センター」へと運ばれます。
 欧州で荷揚げしたバナナの三分の一は自社 の「成熟センター」で成熟させます。
個別の 小売業者の要望に応え、通常なら五〜六日で 成熟するバナナの過程を遅らせることもあり ます。
バナナがいったん黄色く成熟した後は、 四日のうちに販売しなければならないからで す。
成熟の過程を、小売業者の販売のタイミ ングに合わせる必要があるのです。
 バナナのSCM部門の主な業務は、週ごと の荷揚量と成熟の度合いと、小売業者からの 需要を一致させることにあります。
ある小売 業者が、バナナの大規模な特売を計画してい るときなどは、事前に注意深く準備を進める 必要が出てきます。
対卸売価格SCMコストは二五%超  バナナのSCMにおいて、チキータは二つ の大切な指標を持っています。
それは、コス トとスピードです。
バナナの卸売価格に占め るサプライチェーンコストは二五%以上を占 めています。
どれだけサプライチェーンを効 率化するかによって、利益率に大きな差が出 てきます。
またスピードについては、より新 鮮なバナナをより迅速に届けることが、ライ バルとの競争条件になります。
 たとえば、当社の貨物船は、パナマ産のバ ナナを、スウェーデンまで十二日かけて運び、 そこからさらにドイツに寄港して、そしてパ ナマへと戻ります。
通常、他社はパナマから ドイツに貨物船を直行させて、そこからヨー ロッパ中にトラックで輸送しています。
しか し、それよりも当社のように二カ所でバナナ の荷降ろしをした方が、スピードが速くなる のです。
 スピードを考えるうえで難しいのは、そこ に柔軟性という要素も加味しなければならな いことです。
バナナの生産には、台風や洪水 などの予測不可能な気象条件も影響してきま す。
それを勘案して、サプライチェーンに柔 軟性をもたせる必要があります。
天災が起こ った際には、調達先となる生産地や、貨物船 のルートを素早く柔軟に変更することが不可 欠となります。
図2 業績の推移 売上高 最終利益(損益) 売上高 最終利益(損益) 1999 年 2,555,799 ▲58,382 2000 年 2,253,770 ▲94,867 2001 年 2,242,261 ▲118,768 2002 年(注) 1,140,024 13,195 2003 年 2,613,548 99,206 2004 年 3,071,456 55,402 2005 年 3,904,361 131,440 2006 年 4,499,084 ▲95,520 2007 年 4,662,785 ▲49,041 2008 年 3,609,371 ▲328,695 2009 年 3,470,435 90,491 2010 年 3,227,432 57,355 (注)2002 年は決算期変更による9カ月の変則決算。
また同年の「チャプター11」の申請時には、 3 億9782 万ドルの最終損失を計上 (単位:1000 ドル) MARCH 2012  52  今日のバナナのSCMにおける課題は、そ の可視性を高めることにあります。
そのため に我々はSCM上の情報を使って貨物を追跡 するシステムを構築中です。
これが稼働すれ ば、バレット単位でバナナを追跡することが できるようになり、在庫管理がより効率化さ れます。
欧州でフルーツ飲料事業が拡大  チキータが新規事業として「スムージー」の 生産・販売を、欧州で始めたのは〇六年のこ とです。
立ち上げ当初の段階では、対象国は ベルギーのみ、取り扱う製品も三種類だけで した。
しかし〇七年にはドイツとオーストリ アが販売エリアに加わり、取り扱い製品は四 種類に増えました。
 さらに〇八年、〇九年と販売する国を広げ ていって、一〇年にはフランスでの販売を開 始しました。
これによってスムージー事業を 展開するエリアは欧州十三カ国に広がりまし た。
そして取り扱う製品は、SKU(最少在 庫単位)で数えて約一〇〇種類となりました (図3)。
 スムージー事業の売り上げは、今のところ 欧州全体の売り上げの一〇%にも届きません。
しかし、そのSCMは、チキータの主力商品 であるバナナのそれとはまったく違うものと なりました。
バナナと比べた時の大きな違い の一つは、スムージーにはバナナよりもはる かに高い可視性が必要になる点です。
また販 り場に製品が並ぶ期間を延ばすことが重要だ と考えました。
それまでスムージーは、チキ ータのサプライチェーン上に最大一〇日以上 にわたり滞留していました。
これを平均五日 に短縮することを目指しました。
 そのために必要となったのが、「S&OP (Sales and Operations :生産、販売、物流 の総合による効率化手法)」の活用でした。
 S&OPを活用するために、三つのステッ プを踏みました。
最初のステップでは、信頼 できる販売情報と、生産、在庫に関するデー タを統一しました。
二番目のステップではそ のデータを基に、具体的な対策を立案しまし た。
そして三番目のステップではソフトウエ アやコンサルティング会社を利用して計画を実 践に移しました。
 最初のステップである「データの統一」に ついては、各国から上がってくるデータを同 じ内容と様式にそろえることから始めました。
日時や個数、リードタイム、プロモーション 売先となる小売店の顔触れも、季節波動もバ ナナとは大きく異なります。
加えて、スムー ジーは小売店で特売の対象にされることが多 く、その対策も必要でした。
 ベルギーで事業を立ち上げた当初は、一つ の工場に一つの物流センター、そこから小売 りへ輸送するという単純なモデルでした。
し かし十三カ国に広がった現在、工場は三カ所 に、物流センターは五カ所に増えました。
 〇九年にチキータの本社は、スムージー事 業のSCM部門に三つの課題を与えました。
一つは売り上げの拡大、二つ目は顧客満足度 の向上、三つ目は業務の効率化による利益率 の向上です。
 売上高と顧客満足度の二つを高めるだけ ならば、在庫を多く抱えればいいわけですが、 それでは企業として一番大切な利益が得られ ません。
そのため具体的には、それまで一 〇%を超えていた売れ残り製品の比率を一% 以下に抑えながら、つまり売上高に対する在 庫の比率を下げながら、売上高と顧客満足度 を同時に高めていく必要がありました。
 スムージーの有効保存期間は基本的に約三 〇日です。
ただし、製品の種類や、国ごとの 安全基準によっても有効保存期間は異なって きます。
このことがスムージーのSCMを複 雑にする一つの要因となっています。
 チキータは、製品が自社のサプライチェー ン上にとどまる時間をできるだけ短くするこ とで、小売側が販売に使える期間、つまり売 図3 欧州でのスムージー事業の拡大 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 事業開始国 ベルギー ドイツ、オーストリア スペイン、スイス、オランダ、 デンマーク、スウェーデン イタリア、チェコ、 フィンランド、ノルウェー フランス 53  MARCH 2012 数や料金などが含まれます。
「データ入力は一度だけ」  二番目のステップとして具体的な対策を考 えることが改めて課題になったのは、SKU や顧客数が増え、それに有効保存期間の違い や小売側の特売などの要素が絡み合い、SC Mが複雑になったためです。
そこで、そうし た情報をすべてエクセル上で管理できるよう にしようと考えました。
その狙いは、次のよ うに整理できます(図4)。
?複雑な業務を効率的に運営する ?データの可視性を高め、それを販売・営業 などに使える情報に変換する ?サプライチェーンに関わる人員が、お互い がデータを正確に理解しあっているのかと 心配することなく、そのデータをどのよう に使えばいいかということを考える環境を つくる ?データから作られた情報を行動へと移すこ とができるようにする  そうしたことを実現するツールとしてオ ラクルの二つのソフトウエアを利用しました。
需要サイドでは「オラクル・バリュー・チェ ーン・Demantra」、供給サイドでは 「オラクル・プロダクション&ディストリビュ ーション・プランニング」です。
生鮮食品部 門のSCM業務に関しては、市販のソフトウ エアの種類が限られており、その中から実績 のあるオラクルを選びました。
 こうしたソフトウエアを利用する時に、大 切なことは「入力は一度だけ」にすることで す。
別の場所で、別の人間が、二度、三度と、 同じ業務に関する数字を入力することになれ ば、作業のムダが発生するだけでなく、入力 ミスにより複数の数字が混在することになり、 情報の共有化や意思決定の大きな妨げとなり ます。
そのため我々は、入力を一度だけに限 定し、そのデータをチキータ全社のほかサプラ イヤーや小売業者などの取引先とも共有する ようにしました。
 しかし、そうした業務プロセスを実践に移 すに当たっては、細かい作業変更や、改革ノ ウハウが必要になることから、コンサルティ ング企業の「メタチェーン(MetaCha in)」社をパートナーに選んで、情報の統合 を進めました。
 一連の取り組みの結果、スムージー事業に おける情報の共有化や意思決定のスピードは 格段に向上しました。
その間に、フランスの 大手食品メーカーのダノンがスムージー事業 に出資する話もまとまり、一〇年から我々は ダノンとのジョイント・ベンチャー企業とな り、社名も「ダノン・チキータ・フルーツ」に 変わりました。
 当面、我々はSCM業務の成果を会社の上 層部に報告する際の手順や方法を統一するこ とや、毎月の会議の方法を統一することなど を主な課題としています。
(ジャーナリスト 横田増生) などの入力するデータの項目を共通化したの です。
 次にはバックオフィスによるサポートを強 化しました。
データの入力やクレーム処理、 個々の顧客とのコミュニケーションは、それぞ れの営業部門が行うのではなく、一カ所で集 中して行うことにしました。
その次には、顧 客やサプライヤー、物流センターで使用する マスターデータを正確にすることに努めまし た。
マスターデータには、注文時のアイテム 図4 具体的なアプローチ SCMが複雑になる要素 SKU の増加 顧客の増加 有効保存期間の管理 ネットワーク作り 特売への対応 すべてのデータを エクセルにまとめる 新しい業務プロセスと ソフトウェアの導入 ・複雑な業務を効率的にこなす ・データの可視性を高め、それ を有用な“ 情報”に変換する ・お互いがデータを理解してい るのかという不安を取り除き、 データの有効活用に力を注げ る環境を作る ・情報を行動に移す 〈目的〉

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