2013年1月号
特集

解説 まずは“フォーナイン”を目指せ 日本ロジファクトリー 青木正一 代表

 現実的な目標値を定める  日用雑貨品卸最大手のパルタックは納品精度を 事業拡大の武器にしてきた。
その水準は今や九九・ 九九九%(ファイブナイン)にも達している。
そ して現在は一〇〇万分の一(PPM: Parts Per Million)を目指し、さらなるオペレーションの高 度化に取り組んでいる。
世界にも例のないレベル であろう。
 物流品質は当然ながら高いほうがいい。
ミスゼ ロが理想である。
しかしながら、パルタックのよ うにPPMを目指すというのは、多くの企業にと って現実的ではない。
 現場の実態を無視してPPMレベルの目標を設定 し、実際には三〇〇〜三〇〇〇PPMで右往左往 している会社を筆者は何度も目にしてきたが、時 期尚早と言わざるを得ない。
高い目標値を設定し ても、その実現に向けた具体策の落とし込みがで きなければ、KPI(重要業績評価指標)の数値 を算定するだけで終わってしまう。
 PPMレベルは通常の改善活動だけでは達成で きない。
一〇億円規模のマテハン投資がどうしても 必要になる。
パルタックのように“強い物流”を武 器にしようとする会社や、医薬・医療品など、コ ストパフォーマンスよりも品質を優先しなければな らないケースを除けば、投資を回収するのは困難 だ。
 PPMより一段下の「一〇万分の一〜一〇万分 の四」レベルでさえ、バーコード管理システムはも ちろんのこと、『DAS(デジタル・アソーティン グ・システム)』や『PAS(ピース・アソーティ ング・システム)』などの重装備の自動化機器が不 可欠になってくる。
 結論から言えば、多くの現場にとっては「フォー ナイン(九九・九九%)」すなわち「一万分の一」 の納品精度が現実的な目標値になると筆者は考え ている。
フォーナインは、それを実現できれば十 分に物流品質を顧客にアピールできる水準である。
投資とのバランスも良く、多くの現場にとって最適 な目標値となるはずだ。
 納品精度を算出する時のベースとなる管理単位 についても、段階的に取り組むのが現実的であろ う。
センター・倉庫内のオペレーションの品質は本 来であれば「注文行数」、輸配送なら「納品件数」 が管理の基本単位になるが、センター改善の初期 段階では一くくりに「出荷件数」からスタートさ せても効果は挙がるものである。
 KPIとしては、当初は「誤出荷(率)」をチェ ックして、フォーナインを達成した段階で「誤出庫 (率)」に基づく管理へと移行するのが効果的であ る。
 ちなみに「誤出荷(率)」とは客先での納品や 検品段階で発覚した数量間違い、製・商品違いな どで最終的に顧客クレームとなったミスの割合であ る。
これに対して「誤出庫(率)」は顧客クレーム になる前の段階、出荷時点の自社検品で、これら の間違いやミスを発見した割合を指す。
 通常、クレームを発生させる原因となるのは、セ ンター・倉庫クレームが四〇%前後、輸・配送品 質が六〇%前後というのが筆者の実感である。
こ の中に問題を発生させた原因や責任の所在を突き 止められず、「不明」として処理されるクレームが それぞれの一〇%以上を占める。
ただし、そこに JANUARY 2013  18 まずは“フォーナイン”を目指せ 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  トップクラスの企業は今や100 万分の1(PPM)レベル の納品精度を目指している。
しかし、現場の実態を無視し て背伸びし過ぎた目標値を掲げても改善は進まない。
多く の現場にとっては“フォーナイン(99.99%)”が現実的な 目標になる。
それを達成できれば十分に物流品質を顧客に アピールできる。
解 説 特集 は納品時の検品の間違いや発注ミスなど、納品先 や営業部門もしくは荷主側に責任のあるクレームが 多く含まれている。
 なお企業規模の大小は物流品質とは無関係であ る。
東証一部の大手メーカーでも物流品質につい ては何のKPIも持たない会社がある一方、中小 企業でも「誤出庫」をKPIに採用し、実績のフ ィードバックと改善を重ねることで、顧客クレーム に繋がる「誤出荷」を「誤出庫」の一〇分の一に 留めている会社がある。
 ただし、そうした場合でもKPIの達成自体が 目的化してしまうことには注意が必要だ。
物流サ ービスの善し悪しを判断するのは、あくまで顧客 である。
 物流品質が上がると通常は顧客の方から「御社 の物流は良くなりましたね」とか「弊社の評価基 準で一〇ポイント上がりましたよ」などと敏感に反 応してくるものだ。
しかし、物流に関する意識が 低かったり、ベンダーの品質管理をおろそかにし ている顧客はそのこと自体に気付かない。
その場 合には、こちらからアクションを起こして品質向上 の効果をアピールするべきだ。
 物流品質の種類とKPI  物流品質は大きく、センター・倉庫内における 品質と、輸配送品質の二つに分けられる。
このう ちセンター・倉庫内の品質を示す最も代表的なKP Iが、「在庫差異(率)」である。
帳簿上(システ ム上)の在庫と実際の在庫の差異を、アイテム数 と在庫金額の二つの面からチェックする。
 センター内の品質はさらに、「?作業品質」、「? 保管品質」、「?環境品質」の三つに落とし込める。
「?作業品質」とは、ピッキングやラベル貼り、積 み付けといった作業の品質を指す。
「数量間違い」 「製・商品間違い」「伝票・ラベル間違い」「日付間 違い」などがその主な管理項目となる。
 さらには、フォークリフトによる製品の突き刺し や、落下による「庫内破損」、ケース・カートン・ バラの間違いによる「ロット間違い」、「格納遅れ・ 忘れ」、欠品による「製・商品不足」、カゴ車・パ レットへの「積み付け間違い」、EOSデータの未 受信や出荷指示データの未送信による「データ未 送受信」など、その会社の業種・業態、現場の運 営形態に合わせた管理項目の設定が必要になる。
 「?保管品質」はラックやネステナーなどのマテハ ンを使ったロケーション、レイア ウト、先入れ先出し、元箱(バラ 商品をピッキングする箱)管理な ど、製・商品のストックされてい る状態を示す。
保管の在り方は後 工程に大きな影響を及ぼすため、 「?作業品質」と密接に関係する ことになる。
 そして「?環境品質」とは、庫 内の温度・湿度管理、防塵、照 明など、保管している在庫の品 質維持や作業品質に大きな影響 を与えるセンター・倉庫の設備、 機能を指す。
 一方の輸配送品質もまた、「? 作業品質」、「?運行品質」、「? 環境品質」の三つに細分化でき る。
輸配送における「?作業品 質」は、積み込み、積み付け、固 定、荷卸し、納品、搬入といっ たドライバーの荷扱い作業によっ て品質が決まる。
 「?運行品質」は、急ブレーキ、 急ハンドルなど、ドライバーの運 転・運行技術に起因する破損や 19  JANUARY 2013 サービス内容と目標値(例) 項カテゴリーサービス内容評価指標の詳細目標値 1 2 3 4 本来業務 保管現品の先入れ先出し徹底 入庫時間の厳守(15:00 迄) 出庫・出荷時間の厳守(15:00 迄の受注に関しては当日出荷) 在庫差異率→定期的な棚卸しを実施し、報告する 配送 梱包・出荷 変更依頼 問合せ 新サービス コスト 品質 集計報告 発生報告 改善業務 報告業務 付帯業務 〈件数〉〈金額〉〈要求事項〉 ●1 件 ●10 件未満 ●10 件以上 5 千円以下 5 万円以下 5 万円以上 弁済&報告 弁済&是正報告 弁済+○○協議の上是正処置 商品の破損・汚損(保管中)→発生都度に報告と是正を実施する 決められたL/Tを順守する 商品の破損・汚損(配送中)→発生都度に報告と是正を実施する 誤出荷率→発生都度に報告と是正を実施する 商品の破損・汚損(梱包中)→発生都度に報告と是正を実施する 住所変更、出荷便変更は15:00 迄対応する 営業、特約店からの問い合わせは17:00 迄対応する 新サービス及び改善の定期的な提案 物流サービスのCD計画について施策の提示と進捗状況の月次報 告会を実施する 品質の向上に対する施策の提示と進捗状況の報告会を実施する 物流クレーム及び問合せ件数・内容の報告 納品先より直接クレーム(破損・遅延・誤配送・紛失etc) 100%順守 100%順守 100%順守 1PPM以下 1 件以内/月 100%順守 1 件以内/月 1PPM以下 1 件以内/月 100%順守 100%順守 1 件/月 予算との誤差 5%以内 1 回/ 半期 5 営業日以内 発生から 2 時間以内 JANUARY 2013  20 てしまうことが往々にして起きる。
その結果、作 業指示はおろか、誰がどんな作業を行っているか も分からない状態になってしまう。
全体を見渡し、 間違った作業をチェックする機能を失えば当然、品 質は低下する。
生産性を追うことで品質を低下さ せてしまう典型的なパターンである。
 ある物流子会社の現場では、コストと品質のど ちらを優先させるべきか、上層部の考えを改めて 確認し、品質を優先させるという基本方針を固め、 そして現場リーダーの六人に作業禁止令を出した。
そのため作業コストは上がったものの、ミスが減っ たことでリカバリーのための費用が低減しトータル コストを維持することができた。
製・商品知識の欠如  メーカー物流を受託している3PL会社でミスが 多発していた。
調べてみると、業務委託先の作業 スタッフが製・商品のロケーションを中途半端に記 憶していることが原因だった。
バーコード管理を行 っていないフロアで、思い込みでピッキングするこ とでミスを招いていた。
ダンボール(外装)に示さ れている「天地」や「段積み制限」などの注意事 項もお構いなしであった。
 製・商品を単なる「荷物」として扱っていれば、 品質は良くならないのは当たり前である。
作業の 基本を教えることなく、すぐにシフトに組み込め ば、いつまで経っても素人集団のままである。
 そこで現場スタッフに対して一〜三カ月間の研修 期間を設定することにした。
修得すべき内容をチ ェックリスト化し、一項目ずつ教育・指導を実施し ている。
現在は一方的な講義の段階だが、簡易テ ストの実施を準備中である。
限切れを招くといった弊害も出てきている。
 改善活動のポイント  これらのKPIを改善していく上でのポイント を、これまで筆者が携わってきた事例を基に以下 に解説する。
定着しないパート・アルバイト  多能工化やローテーション制が機能していない現 場では、担当者が変わることで作業レベルが振り 出しに戻ってしまう。
ドライバーに関しても同じこ とが言える。
これを著者は「スイッチングリスク」 と呼んでいる。
 この問題を解決するため、ある広域地場物流会 社はパート・アルバイトの募集・選考方法の見直 しを行った。
従来は面接時に履歴書を持参させて、 その場で採用可否を決め、三〇分程度の業務説明 と見学だけで現場に投入していた。
 これを改め、事前に履歴書の書き方、内容、顔 写真の貼り方などから、応募者の資質・性格をチ ェックし、書類審査をパスしたものだけに面接試 験を行うようにした。
さらに業務説明、見学時間 を二倍の六〇分に増やし、楽な作業だけではなく、 きつい作業の実態も見せるようにした。
 採用のハードルを少し上げただけだが、それによ って定着率の改善と品質の底上げを実現した。
現場リーダー(旗振り役)の不在  どんな現場にも、リーダーに任命されている人物 はいる。
しかし、庫内作業費の予算が厳しくなる と帳尻を合わせるためにリーダー自らが作業に入っ 荷崩れなど。
そして「?環境品質」は予期できな い道路渋滞や天候の急激な変化、高速道路の閉鎖 など“外部環境”によって遅延などを引き起こす 要因を指している。
 具体的なKPIとしては「破損・濡損・汚損」、 「誤配」、「早着・遅配」、「積み込み間違い」などが 挙げられる。
特別積合便(路線便と宅配便)を使 う場合は、これらに加えて「口割れ(まとめて出 荷した同じ納品先向けの製・商品が複数回に分け て納品されること)」「未着」「引取り」などもKP Iに入ってくる。
 ただし、輸配送品質の管理は、センター・倉庫 内の管理と比べて、「その他」に分類されるクレー ムが多いことに注意する必要がある。
特に、ドライ バーの身だしなみ、あいさつ、声の掛け忘れ、駐 停車場所の不具合など、ドライバーのマナーに関す るクレーム(マナークレーム)が多い。
 また卸売業をはじめ中間流通においては「納品 率」が最大のKPIになる。
卸に求められる五つの 機能、すなわち⑴品揃え機能、⑵ロット調整機能、 ⑶ファイナンス機能、⑷リテールサポート機能、そし て⑸物流機能のすべてが「納品率」に集約される。
 納品率の向上は、メーカーとの連携による欠品 対策、発注点管理による適正在庫、リードタイム の厳守などに重点が置かれる。
現在、競争の激し いカテゴリーでは完納の一〇〇%に限りなく近い九 八〜九九%の納品率が条件にされている。
 それを割り込むと大きなペナルティーが課せられ ることから、メーカーが一般的には七日分に設定 されている委託在庫量の基準値を超えて、卸のセ ンターに納品するケースが増えており、保管能力の オーバーフローで作業品質の低下や在庫品の日付期 21  JANUARY 2013 特集 ットの回収などを契約時に明記しなかったことで クレームになる。
 業務委託に当たって正式に契約書を締結してい るケースでも、業務内容の詳細については触れら れていないことが多い。
ましてや品質に関して明 確な数値を設定しているケースは稀だ。
 そのような場合は、荷主、納品先との「連絡会 議」を設け、先方と当方の温度差、ギャップを確 業務契約内容の不備  物流会社の現場で荷主や納品先から腑に落ちな いクレームが続くことがある。
その多くは業務受託 の開始時に業務の内容や役割分担を曖昧にしたこ とが原因である。
納品先が「やってもらって当然」 と思い込んでいる時間外出荷や棚卸し業務、パレ 認し、次善策を検討する必要がある。
業務範囲を 明確にして、それぞれの要請に対応するのかしな いのかを決定し、対応する場合には有償か無償か の合意を得なければならない。
 それでも問題が解決しない場合は、契約書とは 別に「サービスレベル・アグリーメント(SLA)」 を締結するべきだ。
イレギュラー時の対処方法、在 庫管理精度の数値目標、システムトラブルを含めた ミス・クレーム時の対処方法と数値目標、弁済内容 など、受託業務全般に関わる広義の「品質」、「サ ービスレベル」をSLAに明文化する。
 通常、SLAは委託者(荷主)が受託者(物流 会社)に対して提示、締結するものだが、ボタン の掛け違いによるクレームが常態化している場合に は、物流会社側から荷主に提示するのが有効であ る。
 筆者の知る限り、物流品質に関しては、驚くほ ど多くの課題が未着手のまま放置されている。
継 続的なコストダウン活動が、継続的な品質の低下を 招いてしまっているケースも多い。
それだけ改善余 地は大きい。
差別化のチャンスである。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経て、 89年に船井総合研究所入社。
物流開発チーム・ トラックチームチーフを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代表に就任。
現 在に至る。
主な著書に『経営のテコ入れは物 流改善から』(明日香出版社)、『物流のしくみ』 (同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE SLA 報告書(例) サービスレベル・アグリーメント近況報告書 報告日 . / / サービス測定期間 平成 年 月 日〜 平成 年 月 日 ◆報告先 ●●●● ○○工場 ◆報告元 ○○○○運送(株) ○○○支店 ◆サービスレベル達成状況 責任者 担当者 責任者 担当者 《その他コメント》 項番サービス項目今回の実績値 目標値 達成状況 ○△× (基準) 前回の実施値 (参考) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 16 14 15 判定コメント 100% 100% 100% 1PPM 以下 1 件以内/月 100% 1 件以内/月 1PPM 以下 1 件以内/月 100% 100% 1 件以内/月 予算差異5% 以内 1 回/ 半期 5 営業日以内 発生から2 時間 以内 先入れ先出し順守率 入庫時間順守率 出庫・出荷時間順守率 在庫差異率 製品の破損・汚損(保管中) 配送L/T 順守率 製品の破損・汚損(配送中) 誤出荷率 製品の破損・汚損率(梱包注) 変更依頼順守率 問合せ順守率 新サービス及び改善提案 CD 進捗率 品質向上施策の報告会 物流クレーム報告 納品先より直接クレーム報告

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