2013年1月号
keyperson

「日本こそS&OPを必要としている」 トム・ウォレス 米トム・ウォレス&カンパニー代表

JANUARY 2013  6 いうより博打になってしまう。
これが 今の日本企業の課題ではないかと思い ます。
全体計画をもっとしっかりと回 せるプロセスを経営に組み込んでいか ないともはや立ち行かない。
そのため に日本でもS&OPが注目されてきた のだと思います。
──S&OPの具体的なプロセスと は? ウォレス 典型的な毎月のルーティン を説明しましょう。
S&OPは次の五 ステップを踏んで進めて行きます。
「? データ収集」、「?需要計画」、「?供 給計画」、「?会議準備」、「?幹部会 議(最終判断)」です。
 まず「?データ収集」では、実需、 供給、商品リスト、在庫などの数値と、 統計的な予測値、ワークシート(表) などを各部署が用意します。
それらを 基に「?需要計画」と「?供給計画」 が立てられます。
需給予測はこの時点 でコンセンサスとして、いったんマネ ジメント層の承認も受けます。
 そして次の「?会議準備」のステッ プで、その需給予測に原料供給や生産 能力、各種制限なども考慮したうえで、 最終的に幹部会議に提出するための資 料、つまり決定事項や複数のシナリオ、 提案などを作成します。
このステップ ?から?が、S&OPで一番大変な部 分と言えるでしょう。
S&OPの5つのステップ ──「S&OP(Sales & Operations Planning)」は分かりにくいコンセプト です。
まずは、その意味から整理した いと思います。
ウォレス アメリカでは一〇年ほど前 まで、需要予測のための手法を全て 「S&OP」と呼ぶ傾向がありました。
一時期はマスタースケジューリングも カンバン方式も全てがそう呼ばれ、具 体的に何を指しているのか分かりにく くなってしまっていたのです。
そこで 私はあえて「エグゼクティブS&OP」 という言葉を使うことにしました。
 そのエグゼクティブS&OP、つま り本来のS&OPとは、会社全体の 中・長期的戦略を立てるためのツール です。
個別製品の需給バランス調整で はなく、よりマネジメント層に焦点を 絞り、財務も含めたうえで全体的な戦 略・方針・リスク管理の計画を立てる ための手法です。
 S&OPはSCMのプロセスである だけでなく、マーケティング、セール ス、財務、生産、開発など全てを含む 総合マネジメントプロセスです。
会社 の大きな戦略と、個別具体的な戦術の ちょうど中間に位置する存在ですね。
マーゴリス 新しい技術を開発して、 製品に投入した。
工場は計画通りに 稼働し、製品を完璧に作った。
でも、 「結局いくつ生産する必要があったの か」という根本のところで間違い、作 りすぎた。
「こんなに必要ない」と気 付いたときには、すでに生産は終わっ ていた。
そうならないためにどうする か。
それが、S&OPの根本です。
郡司 日本企業の場合、それを「KK D」に頼ってきた。
つまり、経験(K) と勘(K)と度胸(D)で、そこそこ 上手く全体計画を回してきたところが あります。
しかし、ビジネスが今のよ うにグローバルに広がると、さすがの 経験も勘も働かない。
結果的に度胸と トム・ウォレス 米トム・ウォレス&カンパニー代表 「日本こそS&OPを必要としている」  オハイオ州立大学の名誉フェローでS&OPの世界的権威と して知られるトム・ウォレス氏が二〇一二年十二月に来日した。
同氏を囲んで、米スティールウェッジ社のグレン・マーゴリスC EO、そして野村総合研究所の二人のコンサルタントが、日本 企業におけるS&OPの導入を議論した。
《座談会出席者》 ●トム・ウォレス  米トム・ウォレス&カンパニー 代表(文中ウォレス) ●グレン・マーゴリス  米スティールウェッジ ソフトウ エアCEO(同・マーゴリス) ●郡司浩太郎  野村総合研究所 上席コンサル タント(同・郡司) ●中川宏之  野村総合研究所 グループマネ ージャー(同・中川) ●司会 本誌・渡邉一樹 7  JANUARY 2013  最後の「?幹部会議」ではこれら に基づいた決断が下されます。
この段 階では、議論の前提となる需給予測の 数値やシナリオが共有されているため、 幹部達は素早く判断が下せます。
私が これまで見てきたS&OP導入企業で は、この幹部会議の時間は月平均一・ 五時間にすぎません。
──S&OPを導入するといったい何 が変わるのでしょうか。
ウォレス まずは需給のバランスが取 れますね。
さらには需給計画に財務的 な側面を統合できます。
つまり、ビジ ネスを運営するために必要な数字が一 セットで済むようになるのです。
営業 部門の数字と、財務部門の数字、生 産現場の数字がバラバラな企業と比べ ると、経営のバランスが圧倒的に良く なります。
 数値化できるメリットとして、例え を、現場レベルでかなり上手く回して きたことが逆に裏目に出ている気がし ます。
また日本では各部門の合意を得 ることを「握る」という言葉で表した りします。
企業風土にもよりますが、 一定規模以上の企業であれば、社長が 一言話して、営業のトップとサービス のトップが人間関係で「握って」部門 間の調整を図るというのはよくある話 です。
 しかし、ビジネスが世界に拡大し、 かつここまで変化の激しい状況になる と、現場の頑張りや阿吽の呼吸だけで は回らなくなってくる。
その部分を改 めて、数字をベースにもっと合理的に 経営を考えようというのが、日本企業 にとってのS&OPの意味合いではな いでしょうか。
中川 日本でも欧米並みにエグゼクテ ィブが「責任を取る」という傾向は出 てきました。
しかし、それに必要なだ けの権限が、エグゼクティブに与えら れていない。
実態として権限が現場に 集中しています。
責任と権限のバラン スを取るうえで、S&OPは日本企業 にぴったりとはまると思います。
マーゴリス なぜ今、日本企業にS& OPが必要なのか、私はちょっと違っ た角度から説明したいと思います。
日 本企業はこれまで長らく、生産計画を 重視する戦略で成功してきました。
し ばカスタマーサービスのレベルや工場 の生産性が上がり、在庫、リードタイ ム、開発期間などが低減できます。
そ れと同時に数字には現れないメリット も沢山あります。
例えばチームワーク や社内のコミュニケーションが向上し ます。
一つ一つの決断や財務計画の質 も上がります。
 そしてS&OPの一番のメリットは、 そうやって決めた計画の実現可能性を 向上させるという点です。
なぜなら、 計画には既に社内全体の意見が反映さ れていて、なぜ、どのように経営判断 が行われたのか、明確な説明が可能だ からです。
計画はより効果的に素早く、 安全に実現され、会社全体の展望も見 えやすくなるでしょう。
日本企業の課題 ──お話を伺っていると、S&OPの 導入には、かなりのチームワークが必 要だと感じます。
ウォレス それは順序が逆ですね。
チ ームワークは協力することで、結果的 に生まれてくるのです。
S&OPには 協力作業が不可欠ですから、きちんと 導入すればチームワークは必ず向上し ます。
 逆に、S&OPを導入するのに一番 大変な部分は、マインドセットを変え られるかどうかです。
以前フォード自 動車でリーン生産方式の導入を担った ピーター・タッシは「悪習や争いが横行 している工場を蘇らせるのは、一から 工場を立ち上げるより難しい」と言い ましたが、それと同じです。
S&OP を導入するための要素にはツール、プ ロセス、マインドセットの三つがあり ますが、そのうちマインドセットが一 番重要な部分です。
──欧米はもちろん新興国の企業と比 べても、日本はS&OPの導入がかな り遅れているように見えます。
郡司 日本企業はSCMや需給調整 グレン・マーゴリス 米スティールウェッジCEO 典型的な毎月のS&OP ルーティン ウォレス氏作成 Step 5 幹部会議 Step 4 会議準備 Step 3 供給計画 Step 2 需要計画 Step 1 データ収集 困難な部分 最終決断と 計画アップデート 資源所要量と生産限界 実需要、供給、商品リスト& 在庫+機械的な予測とワークシート(表) マネジャー承認済のコンセンサス予測 決定、提案、シナリオ、 協議事項など 月末 JANUARY 2013  8 かし今は生産のグローバリゼーション が進み、需要が乱高下するようになり ました。
東日本大震災やタイの洪水の ような突発的な事態にも対応しなけれ ばなりません。
それにはより機能的な 合意形成のスタイルを確立する必要が あります。
そのソリューションがS& OPなんです。
 S&OPを実行するためにはまず、 社内の情報を整理・標準化し、共有す る必要があります。
特に需要・生産の ネットワークがグローバル化し、取り 扱う通貨単位も複数で、それらが激し く変動する今、大企業にとって情報を 標準化しS&OPを導入するのはとて も複雑な作業で、大きな挑戦と言える でしょう。
 しかし、だからこそ、状況変化に対 応して素早く代替案を出したり、前も って違うシナリオを構築したりする必 要があるとも言えます。
企業はこれま でERPなどに投資をしてきたわけで すが、ERPはいわば基礎です。
決断 を下すためには、そこから素早く情報 を引き出し、判断材料として定量化し、 移行型やパターンを見いだす必要があ ります。
全社員に経営者の視点を 郡司 日本企業は現場に対して、見 える化を徹底的に教育します。
ところ ルーツ、つまり同じデータを基に作っ た同じプランから出てくる。
一つのプ ランを、それぞれの部門が違う形に翻 訳するのですね。
 P&Gの元副会長は「S&OPを 導入する前、P&Gではそれぞれの部 門が好き勝手な数字を使っていた。
そ のため、需要の急増、供給停止など の問題が起きた時には、最初の二〜三 日をどの数字を基に考えるかという議 論に費やしていた」と話していました。
今はもうそんな馬鹿なことはしません。
無駄な議論に使っていた時間がなくな り、短期間で問題を解決できるように なりました。
──S&OPという言葉は使っていな くても、製販統合なら既にやっている と考えている日本企業も多いのでは。
中川 我々野村総研が行ったアンケー トでも、「製販の連携、モノづくりの が可視化されたデータを見て何をする のかが明確ではない。
非常に労力を掛 けて、細かい所まで可視化して、色々 な数字、係数を集めて並べるけれども、 結局経営がそれを見るのは月一回で 「今月は良かった。
以上」とか、「今月 は悪かった。
誰の責任だ」と、悪者探 しのツールになってしまっている。
要 するに、日本企業の見える化というの は、実績・過去の見える化なんですね。
将来を見通すという観点が欠けている。
 また、先ほど「握る」という言葉 で表現しましたが、日本企業にももち ろん合意形成はあるわけです。
しかし、 それぞれの合意の整合性が取れていな い。
例えば営業部門と生産部門が在庫 削減で合意している一方で、開発部門 では新商品を投入するから在庫を増や せと言っている。
それぞれは決して間 違っていないのに、全体としてはちぐ はぐになってしまっている。
ウォレス 合意形成についてですが、 S&OPはそもそも協調のためのツー ルです。
一九七〇年代後半に、S& OPを生み出した経営者の言葉を紹介 しましょう。
「S&OPによって、経 営陣や営業、オペレーション、財務な ど、会社のスタッフ全員が私のメガネ を通して会社のビジネスを見ることが できるようになった」。
つまり、同じ数 字を共有しているので、相手の立場で 考えやすくなるのです。
営業・生産・ 財務などが、それぞれバラバラの数字 を見ていては、うまくは行きません。
 S&OPを導入すれば、サイロ型の マネジメント(たこつぼ思考)は消え ます。
企業内のキープレーヤーが視点 を共有することで、一つの合意済みの プランが生まれるのです。
もちろん決 定に同意できなければ、皆の前で違う 意見を述べる権利があります。
しかし、 その上で大勢が決したら、反対者もそ れに従わなければいけません。
 その結果、財務、営業、生産など 各部門でバラバラのプランを持つとい うようなことはなくなります。
それ ぞれの部門は、同じプランを別の単位 で表すことになります。
例えば財務で は「円」、営業では「出荷数」「ケース 数」、生産部門では「操業時間」「トン 数」・・・・。
しかし、それらは全て同じ 野村総研 郡司浩太郎氏 野村総研 中川宏之氏 9  JANUARY 2013 最適化をやっていますか」という問い に「やっている」と答える企業が多数 いました。
実際、SCMに取り組んで いる企業はかなり多い。
ところが、そ こにお金、収益という観点を絡めた瞬 間に、「概念は分かるけど、できませ ん」となってしまう。
 S&OP導入のためには財務や新製 品開発の部門を絡め、「全体的な視点 が必要だ」という議論を始める必要が あります。
その参加者の多くが「手の 届きそうな範囲だ」と考えるようにな って、初めてプロジェクトが動き出す。
 段階を飛ばすと、SCMをより高度 化しようとか、予測精度を上げよう とかいう話になりがちで、そうすると 「もうやったことがある」とか「効果 があるのか」という議論が始まってし まう。
そこをひも解いて次のステップ はこれで、だからやりましょうという 話をしないといけない。
郡司 新たに戦略商品を立ち上げると いったプロジェクトであれば、日本企 業はむしろ得意なんです。
プロジェク トマネージャーが居て、各部門から人 間を引っ張ってきて、期間限定でガッ と立ち上げる。
現場力の強みを活かし たオペレーションです。
ところが、組 織全体のマネジメントになるとそれが できない。
 では、そういう企業にS&OPをど Pのコンセプトが響きやすい印象を受 けています。
一番分かりやすいのは自 動車ですね。
またニッチ商品のメーカ ーでも、その商品がグローバルでトッ プだったりすると、感度がいい。
比較 的シンプルなビジネスを世界展開して いる会社の方が、S&OPの大切さを トップも理解しやすいのでしょう。
一 方で複雑な経営をしているコングロマ リットでは三〜五年先になるかもしれ ません。
ウォレス ただし、S&OPは決して 特定の企業だけに適した手法ではない ことは、指摘しておきたいですね。
化 学薬品、包装メーカー、航空機メーカ ー、自動車メーカーなど、様々な業種 の企業が規模に関わらずS&OPを導 入し、成功しています。
五つのステッ プや人々の行動変化など、根本的な部 分での違いはありません。
う導入していくのか。
これは我々自身 の悩みでもあるのですが、まず誰に話 を持って行くのかという、その対象が 見つかりにくい。
究極的には社長だと 思うのですが、日本では外部の人間が 社長にアイデアを持って行って、「さあ やろう」とはなかなかならない。
シンプルだから強い 中川 日本は現場を大事にします。
そ してS&OPの肝になる計画業務には、 現場で表計算ソフトを使って人手で処 理している部分がかなり残っています。
それをトップが把握できていない。
実 際には誰が計画を作っていて、そこに どのようなノウハウが隠れているのか が分からない。
そのために明確な指示 が出しにくいところがあります。
マーゴリス 情報統合、特に人間の頭 の中にある計画を引き出して統合する ためには、非常にフレキシブルな作業 が必要でしょう。
そういった日次・週 次計画の情報を丁寧にすくい上げて、 プランを作り上げていくということに なると、プロジェクトを完遂すること が非常に難しくなります。
まずは戦略 部門の情報収集から開始し、少しずつ 詳細な部分に手を伸ばしていくべきで しょう。
ウォレス その通りです。
細部に特化 して考え過ぎです。
マインドセットの 変更というのは、もうちょっと大きな 点を考える所から始まります。
S&O Pの仕組みそのものは非常にシンプル です。
私の十三歳の孫娘でも、数時間 で理解できます。
 またキーパーソンは特定の部門の人 間である必要はありません。
キーパー ソンとなるのに重要なのは、むしろ他 人と上手くやっていく力(people skill) です。
色々な参加者を巻き込んで、そ の各々が意欲的に取り組むことが重要 なのです。
MRPの創始者の一人でも あるオリバー・ワイトは「洗練を突き 詰めれば、単純さに至る」と話してい ました。
シンプルだからこそ強力なの です。
──日本でのS&OPは、どんな企業 から浸透していきそうですか。
中川 一つの商品が経営の屋台骨にな っているようなメーカーには、S&O トム・ウォレス氏 Thomas F. Wallace(トム・ウォレス)  S&OPの世界的権威で、関連する数 多くの本を執筆。
開催したワークショッ プへの参加者は累計1万人以上。
ボー イングやギネス、ホンダ、マイクロソフ ト、ファイザー、P&Gといった企業への コンサルタントも行った。
現在は米オハ イオ州立大学Center for Operational Excellence(COE)名誉研究員である と同時に、S&OPのソリューションプロ バイダー、スティールウェッジ社で特別顧 問を務めている。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから