2013年1月号
3PL再入門
3PL再入門
第1回 ロジスティクスの定義が変わった
3PL 再 入門
梶田ひかる 高崎商科大学 特任教授
トランコム(株) ロジスティクスソリューションアドバイザー
《第 回》
ロジスティクス管理は、サプライチェーン管理、
物流システム管理、オペレーション管理の3つの階
層に分けられる。
このうちサプライチェーン管理は 外部委託ができない。
3PLの本質は、物流システム 管理の委託にある。
そのように定義を明確化するこ とで、成功の道が見えてくる。
JANUARY 2013 46 物流の語源「PD」はもはや死語に サードパーティーロジスティクス(3PL) が日本に登場してから既に十余年が経つ。
し かしながら、いまだに手放しで「上手くいっ ている」と評価できる事例は少ない。
3PL についての正しい理解が、荷主企業、物流事 業者の双方に欠けていることがその主な原因 だと筆者は考えている。
米国では3PLが登場するまで、倉庫施設 の賃貸業者はいても純粋な営業倉庫事業者 が事実上、存在しなかった。
倉庫業務はメー カーの自社運営か、もしくは流通業者が担い、 運送事業者は輸送に特化していた。
それに対 して日本では、古くから倉庫と輸送の双方を 同一事業者に委託する契約方法が採られてき た。
そのため、荷主企業は3PLという新たな 業態に対して、それまでよりも広範囲のアウト ソーシングが可能になるとの期待を持った。
と りわけ物流子会社を保有する企業では、本社 の物流管理部門を廃止し、全ての物流管理機 能を人ごと物流子会社に移管し、3PLとし て委託する事例が多く現れた。
現在そのような企業の多くが本社に物流管 理部門を復活させている。
しかし、その企業 が長年培ってきたノウハウは既に途切れてしま っている。
他部署から新たに異動してきたメ ンバーによって構成された新・物流部は、自 社の物流の現状を調査するところからスタート するしかない。
一方の物流事業者も3PLの登場によって、 受託範囲が広がり、ビジネスが拡大することを 期待した。
現場で日々、在庫の動きや受注締 め後の緊急注文、過剰な納品サービスなどの実 態に接していれば、荷主のビジネスのどこに無 駄があるのかはよく分かる。
物流のプロとし て、より深く荷主の懐に入り込めると考える のも無理はなかった。
そのようなことから、物流業全体の市場拡 大策として、官公庁や業界団体による3PL への進出支援も多く行われた。
しかしながら 現実には、3PLに進出した事業者は一部に 留まっており、順調に利益を拡大している事 業者ともなるとさらに限られる。
このような混乱を招いた背景には、ロジス ティクスについての認識不足があると思われる。
日本企業においてロジスティクス管理の概念が 誤解されてしまったことで、3PL導入時の 荷主側の体制も欧米企業のそれとは全く異な るかたちになってしまった。
SCMやロジスティクス管理の定義は、米 国SCMプロフェッショナル協議会(CSCM P)のものが世界的に広く使われている。
そ の定義は頻繁に見直されていて、最新版は以 下の通りである。
(いずれも筆者訳) ●SCM──SCMは、購買・調達、コンバ ージョンおよびすべてのロジスティクス管理 活動の計画および管理を含む。
これにはサ 1 ロジスティクスの定義が変わった 新連載 47 JANUARY 2013 プライヤー、中間事業者、アウトソーサー、 販売先などの取引先との調整と協働も含ま れている点は重要である。
本質的にSCM は社内および会社間で行われる供給と需要 の管理を統合する ●ロジスティクス管理──ロジスティクス管理 はSCMの一部であり、顧客の要求に応え るための製品、サービスおよびそれに関連 する情報の、発生地点から消費地点までの 効率的、効果的な動脈および静脈のフロー と保管を計画・実施・統制することである ここで注目すべきは、ロジスティクスの定義 がほぼ物流と同様に読み取れるようになったこ とである。
この定義を広く捉えれば、「発生地 点」とは原材料の生産地、「消費地」は消費者 がその製品もしくはサービスを使用するところ と捉えられる。
物流に代わってロジスティクス という言葉が導入された経緯からすれば、こ の広義の捉え方が本来であれば正しいはずだ。
しかしながら狭義に捉えれば、「発生地点」と は荷物の生ずるところであり、「消費地」は届 け先を指しているとも読み取れる。
一方のSCMは、明確に、購買・調達から 完成品に至る一連の生産活動およびロジスティ クスをその範囲としているところが興味深い。
これは在庫適正化を意識したものと考えられ る。
定義がこのように変わった背景として、英 語圏でロジスティクスという用語が日本で言う 物流と同義で使われるようになってきたこと を指摘できる。
日本語の「物流」の語源となった「Physical Distribution」はもはや死語であり、それに代 わって「ロジスティクス」が輸送や倉庫業務を 指す言葉として使われるようになってきている。
物流業は、英語ではロジスティクスサービス提 供者(LSP: Logistics Service Provider) なのである。
そこでCSCMPは混乱を避けるため、S CMの定義内に在庫適正化に関わる機能を明 示したのであろう。
ロジスティクス管理の三つの階層 実際、在庫の適正化は物流の対象範囲のみ では実現できない。
在庫レベルは調達量、生産 数、販売方法に影響を受ける。
その最適化に は、調達、生産、営業部門にまで踏み込んで 在庫量とコストを検討する必要がある。
関連する部門はそればかりではない。
例え ば「DFL(Design For Logistics:ロジステ ィクスに配慮した設計)」と呼ばれる取り組み では、製品開発部門の領域にも踏み込まざる を得ない。
生産計画の確定を可能な限り販売時点に引 き付ける。
そのために中間製品や半製品を並 行して作って生産リードタイムを短縮する。
部 品や中間製品の標準化を進めて、製品の最終 仕様を決定する工程を、できるだけ販売時点 に近付ける。
あるいは個装のサイズをパレット 規格から逆算して設定し、輸送時の積載効率 を上げる、といった取り組みである。
このような方策を実施するには、社内の複 数部門を俯瞰して問題の所在とそのコストイン パクトを指摘し、関連部門を動かさなければな らない。
それを可能とする権限が統括責任者 には必要になる。
それゆえに、「CLO(ロジスティクス統括執 行役員)」を置くべきだとの指摘が一時期、日 本でも盛んであった。
さらに現在は、海外の大 手消費財メーカーなどで「CSCMO(SCM 統括執行役員)」を設けるケースも増えている。
図1 ロジスティクス管理の階層 サプライチェーン管理 物流システム管理 デイリーオペレーション管理 実作業 輸送・荷役 ●流通全体での在庫適正化および全社コ スト低減に向けた企業内および取引先も 含めた施策の検討と組織間調整 ●物流システムの企画 ●物流システムの構築 ●問題点の特定とその改善 ●作業要員の手配 ●作業計画の作成と指示 ●作業要員の勤怠、生産性、健康等の管理 このようなトップレベルの権限を必要とする 業務を社外に委託するのは困難である。
つまり、 SCMはアウトソーシングできない。
在庫適正 化や物流コストの低減をまるまる3PLに任せ られるというビジョンは幻想だったのである。
ロジスティクス管理の定義がこのように変わ り、新たにSCMが旧来のロジスティクス管理 の範囲であった在庫適正化のための管理範囲 を明示化することになった理由はどこにあるの であろうか。
そして日本において3PLに物流 部門機能をまるごと任せられると誤認させた のは何故であろうか。
広義のロジスティクス管理が実は三つの階層 に分かれていたことが、その原因であったと 筆者は考えている。
三つの階層とはすなわち、 「サプライチェーン管理」、「物流システム管理」、 そして「デイリーオペレーション管理」である (図1)。
このうちサプライチェーン管理の階層では需 給管理および全社コスト低減に向けた施策の検 討と組織間調整を行う。
これが旧来は拡大的 なロジスティクス管理の最上層に位置付けられ ていたが、改定された定義ではサプライチェー ン管理に含まれることになった。
日本ではSCM部門の管理対象を需給のみ としているところが多いが、欧米ではロジステ ィクスもその管掌下に置くのが一般的である。
そこでは前述のように、開発部門の設計方法、 取引先との契約条件などに踏み込み、在庫適 正化やコスト低減の施策を考え、関係する部門 と調整し、それを実施している。
他部門の業 務プロセスに口を出してそれを改善させる役割 を担えるだけの人材となると、適材を見つける のは難しい。
しかしながら、今や部門単独で実施できる コスト低減はあらかたやり尽くしてしまった感 がある。
激化する一方の市場競争を生き残る ためには、聖域を設けずに部門横断の改善に 踏み込まなければならない段階に来ている。
一方、ロジスティクス管理の三つ目の階層、 デイリーオペレーション管理は、物流事業者が 従来から得意としてきた分野である。
よほど 作業管理に長けた荷主企業でない限り、物流 事業者に業務を委託した方が、コストは低減す る。
過去に筆者が行った調査でも、デイリーオ ペレーション管理は荷主企業が行うより物流事 業者が行った方が、生産性が高いという結果が 出ている。
3PLの階層 問題となるのは、その中間にある物流システ ム管理の階層である。
これは、それまで明確 にその存在が意識されてこなかった階層と言え る。
ちなみに、ここで言うシステムとは情報シ ステムのことではなく、物流全体の仕組みを指 している。
そして3PLとは物流システム管理 を包括的に外部に委託することだと筆者は定義 している(図2)。
もっと狭義の定義もある。
米国の消費財製 品安全改良法(二〇〇八)は、3PLを次の ように定義している。
「製品の所有者ではない 者で、通常の業務の中で、製品を受け取り、保 管し、輸送する者」。
こうなると、日本におけ る一般的な物流業と差がなくなってしまうが、 米国には倉庫業という業種がないことを前提と すれば納得がいく。
この定義はさておき、「輸 送と倉庫業務の統合化」が3PLと従来型物 流業務委託との違いであろう。
3PL以前の物流業務委託は、たとえ輸送 および倉庫業務を一つの事業者にまとめて委託 したとしても、全体の物流システムを考え、そ の生産性を調査し、改善を考えるのは荷主側 の仕事であった。
仮に物流事業者が新たなシス テムを企画・提案して、その通りにシステムが 構築されたとしても、運用開始後に生産性を チェックし、コスト低減を考えるのは荷主側の 業務だった。
JANUARY 2013 48 3PL 再 入門 図2 3PLの業務委託範囲 荷主企業の業務範囲 3PLの業務委託範囲 サプライチェーン管理 物流システム管理 デイリーオペレーション管理 実作業 輸送・荷役 3PLでは、そのような物流システムのPD CA(Plan −Do −Check −Action)、つまり カイゼン活動までが委託される。
さらにはシス テムコストが当初の想定よりも膨らんでしまっ た場合の金額的リスクまで3PL事業者に移る 点が、従来型物流委託との違いである。
物流事業者にとって、物流システムのPD CAやカイゼン活動は、従来の業務受託におい ては求められることのなかった役割であり、そ れを定常的に行ってきた事業者は稀である。
し かし、それができて初めて、物流事業者は3 PL事業に進出できるのである。
またコストリスクの移管には、ある程度の資 本力も要求される。
大規模なシステムになるほ ど、安定稼働までに掛かる受託事業者側のコ スト負担は大きくなる。
それゆえに、3PLに 本格的に進出できる事業者には中堅以上の規 模が必要になる。
実際、荷主企業が3PL事 業者を選定する際にも、応札企業の事業規模 をチェックすることが多い。
これらのことから次のことが言える。
物流事業者にとって3PL事業は、従来業 務の拡張ではないということである。
どれだけ デイリーオペレーション管理のノウハウを持っ ていようが、物流事業者は物流システム管理を これまで経験してこなかったと考えたほうが良 い。
容易な参入はリスクが大きい。
地道かつ継 続的に生産性や品質の調査とカイゼン活動に取 り組み、ノウハウを蓄積することが参入の条件 であることをよく認識すべきだ。
一方、荷主企業は、3PL事業者を選定す る際に、その資本力とともに、現場改善の取 り組み実績を見る必要がある。
提案書におけ る見積もり根拠の数値の細かさは一つの判断基 準となり得る。
細かく数値を掴んでいる企業は、 生産性や品質を細かくチェックしていることを 意味するからだ。
外部委託の優位性 物流システムの企画には、新技術の活用や運 賃相場、法改正などの最新動向を常に把握し ておくことに加えて、工学的な知識が必要と なってくる。
最適拠点配置や最適輸送ルートの選定とい った物流システムの骨格を決める手法は、一九 六〇年代頃からオペレーションズリサーチ(O R)の分野で盛んに研究されてきた。
生産性 の捉え方、作業改善の方法、業務フローの設 計と見直しなども、インダストリアル・エンジ ニアリング(IE)の分野で多くの手法が開発 されている。
近年では情報通信技術の活用も進んでいる。
新センターの建築が伴うのであれば土木・建築、 輸送・荷役機器については機械工学の知識が あった方が望ましい。
その全てを備えた人材を 求めるのは欲張り過ぎでも、工学的な考え方が 身に付いている人材が物流システムの企画には どうしても必要だ。
実際、成功している3P L事業者には、理工系人材が目立つ。
また物流ノウハウは多くの物流システムを経 験することで蓄積される。
複数の業種、様々 な企業の物流システムを手掛けることでアイデ アの抽出が増える。
そして稼動後の様々なトラ ブルとその解決を経験し、より良いシステムを 構築できるようになっていく。
このような人材を荷主企業が企業内で育成 するには限界がある。
物流システムの大規模な 改革は大企業であっても数年に一回のペースで しか経験できない。
中堅以下の企業となればキ ャリア育成の機会はさらに限定される。
サプラ イチェーン管理も十分に確立されていない。
そ うした企業こそ、3PLを活用すべきである。
専門家のノウハウを利用することで、納品条 件を満たし、かつローコストな物流システムを 構築することが期待できる。
そして荷主企業 はサプライチェーン管理に本腰を入れる。
それ が望ましい姿だと筆者は考えている。
49 JANUARY 2013 梶田ひかる(かじた・ひかる) 1981年、南カリフォルニア大学OR理学 修士取得。
同年、日本アイ・ビー・エム入 社、91年、日通総合研究所入社。
2001年、 デロイトトーマツコンサルティング入社(現 アビームコンサルティング)。
11年4月、高 崎商科大学商学部特任教授。
同月、トラ ンコム(株)のロジスティクスアドバイザーに 就任。
現在に至る。
中央職業能力開発協 会「ロジスティクス管理2級・3級」のテ キスト共同監修のほかSCM関連の著書多数。
このうちサプライチェーン管理は 外部委託ができない。
3PLの本質は、物流システム 管理の委託にある。
そのように定義を明確化するこ とで、成功の道が見えてくる。
JANUARY 2013 46 物流の語源「PD」はもはや死語に サードパーティーロジスティクス(3PL) が日本に登場してから既に十余年が経つ。
し かしながら、いまだに手放しで「上手くいっ ている」と評価できる事例は少ない。
3PL についての正しい理解が、荷主企業、物流事 業者の双方に欠けていることがその主な原因 だと筆者は考えている。
米国では3PLが登場するまで、倉庫施設 の賃貸業者はいても純粋な営業倉庫事業者 が事実上、存在しなかった。
倉庫業務はメー カーの自社運営か、もしくは流通業者が担い、 運送事業者は輸送に特化していた。
それに対 して日本では、古くから倉庫と輸送の双方を 同一事業者に委託する契約方法が採られてき た。
そのため、荷主企業は3PLという新たな 業態に対して、それまでよりも広範囲のアウト ソーシングが可能になるとの期待を持った。
と りわけ物流子会社を保有する企業では、本社 の物流管理部門を廃止し、全ての物流管理機 能を人ごと物流子会社に移管し、3PLとし て委託する事例が多く現れた。
現在そのような企業の多くが本社に物流管 理部門を復活させている。
しかし、その企業 が長年培ってきたノウハウは既に途切れてしま っている。
他部署から新たに異動してきたメ ンバーによって構成された新・物流部は、自 社の物流の現状を調査するところからスタート するしかない。
一方の物流事業者も3PLの登場によって、 受託範囲が広がり、ビジネスが拡大することを 期待した。
現場で日々、在庫の動きや受注締 め後の緊急注文、過剰な納品サービスなどの実 態に接していれば、荷主のビジネスのどこに無 駄があるのかはよく分かる。
物流のプロとし て、より深く荷主の懐に入り込めると考える のも無理はなかった。
そのようなことから、物流業全体の市場拡 大策として、官公庁や業界団体による3PL への進出支援も多く行われた。
しかしながら 現実には、3PLに進出した事業者は一部に 留まっており、順調に利益を拡大している事 業者ともなるとさらに限られる。
このような混乱を招いた背景には、ロジス ティクスについての認識不足があると思われる。
日本企業においてロジスティクス管理の概念が 誤解されてしまったことで、3PL導入時の 荷主側の体制も欧米企業のそれとは全く異な るかたちになってしまった。
SCMやロジスティクス管理の定義は、米 国SCMプロフェッショナル協議会(CSCM P)のものが世界的に広く使われている。
そ の定義は頻繁に見直されていて、最新版は以 下の通りである。
(いずれも筆者訳) ●SCM──SCMは、購買・調達、コンバ ージョンおよびすべてのロジスティクス管理 活動の計画および管理を含む。
これにはサ 1 ロジスティクスの定義が変わった 新連載 47 JANUARY 2013 プライヤー、中間事業者、アウトソーサー、 販売先などの取引先との調整と協働も含ま れている点は重要である。
本質的にSCM は社内および会社間で行われる供給と需要 の管理を統合する ●ロジスティクス管理──ロジスティクス管理 はSCMの一部であり、顧客の要求に応え るための製品、サービスおよびそれに関連 する情報の、発生地点から消費地点までの 効率的、効果的な動脈および静脈のフロー と保管を計画・実施・統制することである ここで注目すべきは、ロジスティクスの定義 がほぼ物流と同様に読み取れるようになったこ とである。
この定義を広く捉えれば、「発生地 点」とは原材料の生産地、「消費地」は消費者 がその製品もしくはサービスを使用するところ と捉えられる。
物流に代わってロジスティクス という言葉が導入された経緯からすれば、こ の広義の捉え方が本来であれば正しいはずだ。
しかしながら狭義に捉えれば、「発生地点」と は荷物の生ずるところであり、「消費地」は届 け先を指しているとも読み取れる。
一方のSCMは、明確に、購買・調達から 完成品に至る一連の生産活動およびロジスティ クスをその範囲としているところが興味深い。
これは在庫適正化を意識したものと考えられ る。
定義がこのように変わった背景として、英 語圏でロジスティクスという用語が日本で言う 物流と同義で使われるようになってきたこと を指摘できる。
日本語の「物流」の語源となった「Physical Distribution」はもはや死語であり、それに代 わって「ロジスティクス」が輸送や倉庫業務を 指す言葉として使われるようになってきている。
物流業は、英語ではロジスティクスサービス提 供者(LSP: Logistics Service Provider) なのである。
そこでCSCMPは混乱を避けるため、S CMの定義内に在庫適正化に関わる機能を明 示したのであろう。
ロジスティクス管理の三つの階層 実際、在庫の適正化は物流の対象範囲のみ では実現できない。
在庫レベルは調達量、生産 数、販売方法に影響を受ける。
その最適化に は、調達、生産、営業部門にまで踏み込んで 在庫量とコストを検討する必要がある。
関連する部門はそればかりではない。
例え ば「DFL(Design For Logistics:ロジステ ィクスに配慮した設計)」と呼ばれる取り組み では、製品開発部門の領域にも踏み込まざる を得ない。
生産計画の確定を可能な限り販売時点に引 き付ける。
そのために中間製品や半製品を並 行して作って生産リードタイムを短縮する。
部 品や中間製品の標準化を進めて、製品の最終 仕様を決定する工程を、できるだけ販売時点 に近付ける。
あるいは個装のサイズをパレット 規格から逆算して設定し、輸送時の積載効率 を上げる、といった取り組みである。
このような方策を実施するには、社内の複 数部門を俯瞰して問題の所在とそのコストイン パクトを指摘し、関連部門を動かさなければな らない。
それを可能とする権限が統括責任者 には必要になる。
それゆえに、「CLO(ロジスティクス統括執 行役員)」を置くべきだとの指摘が一時期、日 本でも盛んであった。
さらに現在は、海外の大 手消費財メーカーなどで「CSCMO(SCM 統括執行役員)」を設けるケースも増えている。
図1 ロジスティクス管理の階層 サプライチェーン管理 物流システム管理 デイリーオペレーション管理 実作業 輸送・荷役 ●流通全体での在庫適正化および全社コ スト低減に向けた企業内および取引先も 含めた施策の検討と組織間調整 ●物流システムの企画 ●物流システムの構築 ●問題点の特定とその改善 ●作業要員の手配 ●作業計画の作成と指示 ●作業要員の勤怠、生産性、健康等の管理 このようなトップレベルの権限を必要とする 業務を社外に委託するのは困難である。
つまり、 SCMはアウトソーシングできない。
在庫適正 化や物流コストの低減をまるまる3PLに任せ られるというビジョンは幻想だったのである。
ロジスティクス管理の定義がこのように変わ り、新たにSCMが旧来のロジスティクス管理 の範囲であった在庫適正化のための管理範囲 を明示化することになった理由はどこにあるの であろうか。
そして日本において3PLに物流 部門機能をまるごと任せられると誤認させた のは何故であろうか。
広義のロジスティクス管理が実は三つの階層 に分かれていたことが、その原因であったと 筆者は考えている。
三つの階層とはすなわち、 「サプライチェーン管理」、「物流システム管理」、 そして「デイリーオペレーション管理」である (図1)。
このうちサプライチェーン管理の階層では需 給管理および全社コスト低減に向けた施策の検 討と組織間調整を行う。
これが旧来は拡大的 なロジスティクス管理の最上層に位置付けられ ていたが、改定された定義ではサプライチェー ン管理に含まれることになった。
日本ではSCM部門の管理対象を需給のみ としているところが多いが、欧米ではロジステ ィクスもその管掌下に置くのが一般的である。
そこでは前述のように、開発部門の設計方法、 取引先との契約条件などに踏み込み、在庫適 正化やコスト低減の施策を考え、関係する部門 と調整し、それを実施している。
他部門の業 務プロセスに口を出してそれを改善させる役割 を担えるだけの人材となると、適材を見つける のは難しい。
しかしながら、今や部門単独で実施できる コスト低減はあらかたやり尽くしてしまった感 がある。
激化する一方の市場競争を生き残る ためには、聖域を設けずに部門横断の改善に 踏み込まなければならない段階に来ている。
一方、ロジスティクス管理の三つ目の階層、 デイリーオペレーション管理は、物流事業者が 従来から得意としてきた分野である。
よほど 作業管理に長けた荷主企業でない限り、物流 事業者に業務を委託した方が、コストは低減す る。
過去に筆者が行った調査でも、デイリーオ ペレーション管理は荷主企業が行うより物流事 業者が行った方が、生産性が高いという結果が 出ている。
3PLの階層 問題となるのは、その中間にある物流システ ム管理の階層である。
これは、それまで明確 にその存在が意識されてこなかった階層と言え る。
ちなみに、ここで言うシステムとは情報シ ステムのことではなく、物流全体の仕組みを指 している。
そして3PLとは物流システム管理 を包括的に外部に委託することだと筆者は定義 している(図2)。
もっと狭義の定義もある。
米国の消費財製 品安全改良法(二〇〇八)は、3PLを次の ように定義している。
「製品の所有者ではない 者で、通常の業務の中で、製品を受け取り、保 管し、輸送する者」。
こうなると、日本におけ る一般的な物流業と差がなくなってしまうが、 米国には倉庫業という業種がないことを前提と すれば納得がいく。
この定義はさておき、「輸 送と倉庫業務の統合化」が3PLと従来型物 流業務委託との違いであろう。
3PL以前の物流業務委託は、たとえ輸送 および倉庫業務を一つの事業者にまとめて委託 したとしても、全体の物流システムを考え、そ の生産性を調査し、改善を考えるのは荷主側 の仕事であった。
仮に物流事業者が新たなシス テムを企画・提案して、その通りにシステムが 構築されたとしても、運用開始後に生産性を チェックし、コスト低減を考えるのは荷主側の 業務だった。
JANUARY 2013 48 3PL 再 入門 図2 3PLの業務委託範囲 荷主企業の業務範囲 3PLの業務委託範囲 サプライチェーン管理 物流システム管理 デイリーオペレーション管理 実作業 輸送・荷役 3PLでは、そのような物流システムのPD CA(Plan −Do −Check −Action)、つまり カイゼン活動までが委託される。
さらにはシス テムコストが当初の想定よりも膨らんでしまっ た場合の金額的リスクまで3PL事業者に移る 点が、従来型物流委託との違いである。
物流事業者にとって、物流システムのPD CAやカイゼン活動は、従来の業務受託におい ては求められることのなかった役割であり、そ れを定常的に行ってきた事業者は稀である。
し かし、それができて初めて、物流事業者は3 PL事業に進出できるのである。
またコストリスクの移管には、ある程度の資 本力も要求される。
大規模なシステムになるほ ど、安定稼働までに掛かる受託事業者側のコ スト負担は大きくなる。
それゆえに、3PLに 本格的に進出できる事業者には中堅以上の規 模が必要になる。
実際、荷主企業が3PL事 業者を選定する際にも、応札企業の事業規模 をチェックすることが多い。
これらのことから次のことが言える。
物流事業者にとって3PL事業は、従来業 務の拡張ではないということである。
どれだけ デイリーオペレーション管理のノウハウを持っ ていようが、物流事業者は物流システム管理を これまで経験してこなかったと考えたほうが良 い。
容易な参入はリスクが大きい。
地道かつ継 続的に生産性や品質の調査とカイゼン活動に取 り組み、ノウハウを蓄積することが参入の条件 であることをよく認識すべきだ。
一方、荷主企業は、3PL事業者を選定す る際に、その資本力とともに、現場改善の取 り組み実績を見る必要がある。
提案書におけ る見積もり根拠の数値の細かさは一つの判断基 準となり得る。
細かく数値を掴んでいる企業は、 生産性や品質を細かくチェックしていることを 意味するからだ。
外部委託の優位性 物流システムの企画には、新技術の活用や運 賃相場、法改正などの最新動向を常に把握し ておくことに加えて、工学的な知識が必要と なってくる。
最適拠点配置や最適輸送ルートの選定とい った物流システムの骨格を決める手法は、一九 六〇年代頃からオペレーションズリサーチ(O R)の分野で盛んに研究されてきた。
生産性 の捉え方、作業改善の方法、業務フローの設 計と見直しなども、インダストリアル・エンジ ニアリング(IE)の分野で多くの手法が開発 されている。
近年では情報通信技術の活用も進んでいる。
新センターの建築が伴うのであれば土木・建築、 輸送・荷役機器については機械工学の知識が あった方が望ましい。
その全てを備えた人材を 求めるのは欲張り過ぎでも、工学的な考え方が 身に付いている人材が物流システムの企画には どうしても必要だ。
実際、成功している3P L事業者には、理工系人材が目立つ。
また物流ノウハウは多くの物流システムを経 験することで蓄積される。
複数の業種、様々 な企業の物流システムを手掛けることでアイデ アの抽出が増える。
そして稼動後の様々なトラ ブルとその解決を経験し、より良いシステムを 構築できるようになっていく。
このような人材を荷主企業が企業内で育成 するには限界がある。
物流システムの大規模な 改革は大企業であっても数年に一回のペースで しか経験できない。
中堅以下の企業となればキ ャリア育成の機会はさらに限定される。
サプラ イチェーン管理も十分に確立されていない。
そ うした企業こそ、3PLを活用すべきである。
専門家のノウハウを利用することで、納品条 件を満たし、かつローコストな物流システムを 構築することが期待できる。
そして荷主企業 はサプライチェーン管理に本腰を入れる。
それ が望ましい姿だと筆者は考えている。
49 JANUARY 2013 梶田ひかる(かじた・ひかる) 1981年、南カリフォルニア大学OR理学 修士取得。
同年、日本アイ・ビー・エム入 社、91年、日通総合研究所入社。
2001年、 デロイトトーマツコンサルティング入社(現 アビームコンサルティング)。
11年4月、高 崎商科大学商学部特任教授。
同月、トラ ンコム(株)のロジスティクスアドバイザーに 就任。
現在に至る。
中央職業能力開発協 会「ロジスティクス管理2級・3級」のテ キスト共同監修のほかSCM関連の著書多数。
