2013年1月号
特別レポート

中国の先進物流センターを見る 大阪産業大学 経営学部 商学科 特任教授 浜崎章洋大阪市立大学 商学部 特任講師 宮崎崇将

JANUARY 2013  50 英大手スーパー テスコ社 エコフレンドリーな巨大センター  テスコ(Tesco)はイギリス最大手の食品スーパ ーである。
欧州のほか、中国、韓国、トルコなど、 世界一四カ国に約五四〇〇店舗を構えている。
中 国ではハイパーマーケット九六店舗、コンビニエン スストア(CVS)十二店舗を展開している。
 今回、視察したのは、上海からバスで約二時間、 浙江省にある「嘉善エコ物流中心」だ。
倉庫面積 約五万五〇〇〇?、土地総面積二三万六六九六? という巨大な物流センターで、二〇一一年七月に 開設された。
 グロサリー商品(食品・雑貨類)と家電など非 食品、計二万一六八四SKU( Stock Keeping Unit :最小管理単位)を取り扱っている。
その 内訳は、グロサリーが八三〇六SKU、非食品が 一万三三七八SKUである。
また取扱数量は平均 週六〇万ケースである。
 同センターは在庫型のDC(ディストリビューシ ョン・センター)と通過型のTC(トランスファ ー・センター)の併用型で、華東地区のハイパーマ ーケット五三店舗(物量の九五%)とCVS十二 店舗(同五%)への配送をカバーしている。
 そのほか、瀋陽、天津など他の四つの地域の物 流センターへの横持ち輸送、自社プライベートブラ ンド(PB)商品の全国への出荷、ネットショッ プ最大手のタオバオ(淘宝)へのベビー用品の供給 などを行っている。
 なお、同センターは庫内の写真撮影が禁止され ていたため、誌面では外観しか紹介できないのが 残念なのだが、オペレーション自体は日本の小売業 の物流センターと大きな違いはない。
 入荷の処理には、ハンディターミナルを利用し、 商品分野別にケース単位あるいはパレット単位で保 管、在庫はWMS(倉庫管理システム)で管理さ れている。
このWMSは、英国など他の物流セン ターと同一のシステムを世界共通で利用している。
 ここまでの説明だけだと、「確かに規模は大きい が、一般的な小売業の物流センターと変わらない な」と感じる読者も多いだろう。
以下に同センタ ーの先進的な部分を紹介する。
 このセンターでは、?電力消費の節約、?節水、 ?発電(太陽光、地熱)、?その他(緑化、LE Dなど)──を通じて環境負荷軽減に取り組んで いる。
具体的には、従来型の物流センターとの比 較で、使用エネルギー四五%減、水使用量四〇% 減、CO2排出量三五%減を実現したという。
 庫内には天窓が設けられていて昼間は電気をつ けていなくても明るい。
男性用トイレは無水小便 器で雨水を溜めて利用している。
このように書く と、ケチくさい現場を想像されるかも知れないが、 食堂は洒落たカフェテリアのようにきれいで、休憩 中国の先進物流センターを見る  中国の先進的な流通センターを紹介する。
筆者ら は日本小売業協会主催の中国物流視察団のコーディ ネーターとして、2012 年3 月に北京・上海周辺の最 新物流施設を見学して回った。
そのうち特徴的な5 つのセンターについて、施設とオペレーションの概要 を解説する。
大阪産業大学 経営学部 商学科 特任教授 浜崎章洋 大阪市立大学 商学部 特任講師 宮崎崇将 特別レポート テスコ・エコ物流センター (庫内撮影禁止のため外観のみ) 室は広く卓球台もあり従業員やスタッフへの福利 厚生は行き届いている。
 今回、我々日本の視察団はテスコ中国の新入社 員約三〇人と一緒に同センターを見学することに なった。
案内してくれたのはアメリカの大学を卒 業したというテスコ中国の広報担当で、二〇代半 ばの中国人女性社員であった。
 当初の予定では、中国語での説明を我々のツア ーの同行通訳者が中国語から日本語に通訳する予 定であった。
ところがこの通訳者、普段は観光旅 行者向けの通訳をしているようで、ビジネスのこ とも物流のことも理解度が低く機能しなかった。
 そこで急遽広報担当者は英語で説明をすること になったのだが、驚いたことにテスコ中国の新入 社員の誰ひとりとして慌てる様子がない。
聞けば、 全員英語が堪能であるという。
我々オジサンたち は、額に汗をしながらお互い分からないところを 補完し合い、なんとか難を乗り切ったのであった。
納品代行ベンチャー 北京衆誠一家物流 物流を「サービス業」と位置付ける  北京衆誠一家物流は、元百貨店のバイヤーの趙 氏が一〇年前に起業した物流ベンチャー企業であ る。
同社は、日本でもおなじみの欧米等の高級ブ ランド品の輸入アパレル・靴を取り扱う3PL事業 者で、日本の物流で言うところの「百貨店向けの 納品代行業務」を行っている。
 創業社長が百貨店に勤務していた時、仕入先の アパレルのメーカーや商社が、物流と納品に困って いることを目の当たりにし、「これは商機だ!」と 直感したのが、アパレル物流の3PLを起業した きっかけという。
 企業規模は年商一億五〇〇〇万元(約二〇億 円)で、相当に収益性は高いようであった。
従業 員数は約六〇人。
内訳はドライバーが約一〇人、庫 内作業員が約三〇人、残りは管理者および顧客サ ービス(アパレル商社へ出荷状況や在庫の連絡)で ある。
 視察した物流センターは、倉庫面積約五〇〇〇 ?、取扱商品数は最大で七〇万ピース、最小で 三〇万ピースという。
顧客はアパレル商社で、納品 先は百貨店、GMSのテナント、専門店など、北 京市内の約七〇店舗である。
 特に靴の取り扱いを得意としており、北京市内 の販売量の三分の一を同社が取り扱っているとい う。
顧客である商社が当該ブランドの中国総代理 店の場合は、北京市内だけでなく、宅配便等を利 用して全国出荷も行っている。
 業務内容は、日本で言うところのアパレル倉庫 と百貨店向け納品代行である。
海上コンテナで輸 入されたものを荷受し、検品・検針を行った後、 値札付けや個別包装、中国語ラベルの添付などの 流通加工業務を行う。
保管、ピッキング、アソー トなどの作業後、店別に荷揃えをして自社車両で 店舗へ納品するといったものである。
 同センターの注目点はサービス品質である。
中 国の物流現場を見学した経験がある人は多いと思 うが、その誰もが日本の物流センターと比較して 「二〇年以上は遅れている」と感じているのでは ないだろうか。
理由は、整理・整頓・清掃の「3 S」ができていない、荷扱いが乱暴、ドライバー の服装がランニングシャツに半ズボンで草履履きな ど、数え上げればキリがない。
 ところが、本センターでは、そのような違和感 は全くなかった。
庫内の作業員の服装や態度はと ても良く、またドライバーの服装もきちっとして いた。
これは、商品が高級ブランド品であること、 納品先が百貨店等であることから、社長が物流を 「作業」ではなく「サービス業」と捉えて、従業員 の身なりや教育に力を入れているためだ。
 また、同社の特徴としてITに力を入れている 点が挙げられる。
自社開発したWMSを用いて顧 客や店舗と発注、発注管理、欠品管理、在庫確認 などのデータ交換を行っている。
庫内では、在庫 管理、ロケーション管理、売上管理などを行って いる。
 配送は自社開発の運行管理システム(TMS) を利用している。
納品車両にGPSが搭載されて おり、いま市内のどこを走っているかリアルタイム で管理している。
納品先の百貨店等から納品時間 の問い合わせがあれば、本社のオペレーターがパソ コンの画面を見て回答する。
 余談ながら、配送にはトラックではなくワンボッ クス車を利用している。
北京市内はデイタイムに トラックの流入規制があるため、宅配便のトラッ 51  JANUARY 2013 北京衆誠一家物流の現場事務所 ハンディターミナルを持って説明する創業者張氏 JANUARY 2013  52 ク以外は入れない。
よって、百貨店への納品代行 は、ワンボックス車の後部座席を取り払った車両を 利用している。
一車両に積載できる量は二パレッ ト分くらい。
よって、納品量が多い日は、物流セ ンターと店舗をピストン輸送している。
 中国における大学での物流の高等専門教育は急 拡大している。
例えば、大学の物流学科数は四〇〇 を超え毎年三万人が卒業しているという。
一方で、 現場スタッフの体系的な教育はまだ行われていな い。
その必要性すら十分に認識されていないと思 われる。
 しかし、今回訪問した北京衆誠一家物流のよう に、ベンチャー企業が、物流を作業ではなく「サ ービス業」として捉え、現場スタッフの躾や教育を 行い、同業他社との差別化を図り成長することに より、物流の現場教育の重要性が注目されること を期待している。
化粧品センター 上海頂通物流 康師傅の子会社を伊藤忠が3PL化  上海頂通物流有限公司は、頂通(開曼島)控股 有限公司の地域法人のひとつで、一九九八年に中 国の大手食品事業グループ康師傅(カンシーフ)の 物流子会社として設立された。
二〇〇四年に伊藤 忠商事が投資を行い経営に参画し、現在は伊藤忠 商事の中国物流子会社となっている。
余談ながら、 康師傅は台湾の即席めんの企業という印象が強い が、いまや飲料や菓子等まで手広く扱う総合食品 メーカーに成長している。
 視察したセンターの倉庫面積は二万三〇〇〇?、 従業員数は二八八名(管理・事務三七名、現場 二五一名)である。
一階が倉庫で、二階で流通加 工が行われている。
主な取扱商品は日本の大手化粧 品会社の化粧品で、日本から輸入されたものを中国 全土に出荷している。
取扱製品数は約三〇〇〇S KU、販促品約四〇〇〇SKUである。
一日の入 荷量は約九〇パレットで出荷量は六〇〇〇ケース、 物流の波動は大きく最大出荷数量は一万五〇〇〇 ケースという。
 倉庫はWMSで管理しており、毎日循環棚卸を 行い、月末に実地棚卸する。
輸入品は、建物の二 階で中国国内の各種法令に対応したラベル貼付な どの流通加工に四〇人程度が従事している。
 出荷は、総量ピッキングの後に種まきする場合 と、オーダーごとにハンディターミナルを使用して ピースピッキングする場合の二通りある。
当初はデ ジタル・ピッキング・システム(DPS)を使用し ていたが、物量の増加に対応できないため、無線 ハンディターミナルに切り替えた。
ピッキング後は、 検品・梱包エリアにて別のスタッフにより検品を行 い梱包する。
 WMSやハンディターミナルなどITを活用しバ ラ出荷を行うなど、業務内容は日本の化粧品物流 センターとほぼ同じ。
また、ロケーションの表示や 掲示物は現場スタッフからの提案もある。
 日本の物流センターとの違いは、通路が広めに 確保されていることである。
これは、物量の増加 に伴い、入出荷量の増加や作業員の増員に備えて いるためだ。
経済が停滞し市場が縮小傾向にある 日本とは対照的に、増加する物量の対応に追われ るという課題に苦慮していることが感じられた。
通販物流センター 住商国際物流 日本人スタッフが品質を管理  次に住商国際物流有限公司を紹介する。
同社は、 住友商事の物流を担う住商グローバルロジスティク スの中国現地法人である。
従業員数は二七〇人、 車両三〇台、中国国内に一六カ所の物流センター を保有する。
 見学したセンターは、延べ床面積約一万五〇〇〇 ?(含む検品センター四〇〇〇?)、土地総面積 四万五〇〇〇?である。
敷地内には検品作業員の 社員寮もある。
一階は倉庫で、建材eコマース(現 地企業)、日系通販の中国ネット通販事業、新規の eコマースの荷主で三分割されている。
二階は検 品センターと事務所である。
従業員数は約一八〇 人である。
 アパレルや雑貨の検品作業は八人/ライン× 十三ラインで行われ、金属探知機による検針が行 われている。
靴など金属が使用されている一部の 製品に関してはX線による検針を実施している。
 スタッフは全員帽子を着用しているが、一般ス タッフは白色、各ラインのリーダーはピンク色、複 数ラインを統括しているリーダーは赤色と、スタッ フのスキルを「見える化」している。
上海頂通物流有限公司 化粧品に中国流通用のラベルを貼る流通加工を 実施  女性ばかりの中に一人、年配の日本人スタッフ がおられた。
その方は、日本の物流現場でアパレ ルの検品を長年にわたってされてきた大ベテラン で、娘のようなスタッフ達を指導するために退職 後に同社に入社、上海に赴任されたという。
 そういえば、以前はよく「中国の検針は信用で きないから日本でも再度実施しているんだ」とい った声を耳にしたが最近は聞かなくなった。
日本 人のベテランスタッフによる指導が功を奏し、また 現地スタッフの努力の積み重ねの上に信頼できる 検品業務が可能になっているのだろう。
 さて、同センターでは、検品・検針後の異物混 入を防ぐため、最終の検針後の商品を壁の向こう 側の別室に保管している。
その部屋に入室が許さ れているのは一部の管理者のみで、入退室は監視 員がチェックしている。
その他、指紋認証機によ る出退勤の管理、はさみなど検品作業に関する器 具の定位置化管理など、非常に厳格なセキュリテ ィーが敷かれていた。
 不具合が見つかった商品はメーカーに返品せず、 同センター内にてメーカーから派遣された職人が修 復する。
その結果、工場と物流センターを行き来 する不良品と良品の物量が激減するとともに、納 期順守率が飛躍的に向上した。
 同センターでは、日本の店舗向けのアソート業務 も実施している。
以前は、輸入後に日本側で実施 していた検品・検針、アソートを輸出側の中国で 実施することにより、コストとリードタイムの削減 を実現している。
日系物流企業 阿迪納市場営銷策劃 DM事業から物流業務に領域を拡大  阿迪納市場営銷策劃有限公司は、ダイレクトメ ール(DM)の企画、印刷、発送などを手掛ける 株式会社アテナ(本社東京)の中国現地法人とし て二〇〇五年に事業を開始した。
今回訪問したの は、上海にある同社のフルフィルメントセンターだ。
 ショッピングモールの運営会社タオバオのECサ イト向けの小口物流、日系メーカーの販促資材(カ タログやパンフレットなど)の保管・発送、日系外 食チェーンの店舗内の備品(箸、紙ナプキンなど) の保管・発送などの物流業務を受託している。
 同社はもともと日本でDMや販促資材の企画・ 作成・発送、キャンペーン支援などからスタート し、その後、DMや販促資材の発送代行など物流 業務に事業展開したこともあり、中国でも単なる 物流業務代行だけでなく「顧客の販売をサポート するマーケティング+物流代行」という付加価値サ ービスで評価されているようだ。
現地市場進出のポイント  今回、訪問した物流センターはどこも物量が驚 くほど多かった。
街には活気が溢れており、大勢 の家族連れなどで賑わう週末のショッピングモール の光景はとりわけ印象的であった。
 しかし、市場の大きさや経済成長に惹かれて日 本の物流会社が中国進出を安易に計画実行するの は危険である。
これは中国だけでなく、タイ、ベ トナム、インドネシアなど経済発展の期待が高まる 他の新興国に対しても言えることであろう。
 このところ中国では賃金が毎年一五%程度のペ ースで上昇している。
五年で賃金が倍になる計算 だ。
さらに春節と呼ばれる新年の休暇時に帰省し たスタッフのうち、二〇〜三〇%は休暇後に職場 に戻らず退職するというのも、物流にとって頭の 痛い問題だ。
 人件費の上昇、ガソリンなど燃料の高騰にも関 わらず、トラックの運賃は据え置かれている。
その ためか、郊外にある都市間を結ぶ幹線道路はデコ ボコしてバスの乗り心地が悪かった。
理由をバスの 運転手に聞くと、トラックを指差し「過積載」と 説明してくれた。
事実確認はできていないが、ま ったくのデタラメではないであろう。
 日本の国内市場に見切りをつけて、現地に進出 するだけでは成功はできないように思う。
特に輸 送や保管などの単機能だけの場合は、現地資本の 物流会社と価格競争しなければならない。
今回紹 介したような複合的な物流サービス、日本で実施 しているが中国にはない物流サービスを提供する ことがポイントではないだろうか。
経営者や担当 者は、ぜひ現地現物に触れて経営判断していただ きたい。
 最後になったが、本稿で紹介した物流センター をご案内いただいた方々に、この場をお借りして 御礼申し上げたい。
53  JANUARY 2013 特別レポート 住商国際物流有限公司 検針機を通過した商品はガラス張りの向こう側 の部屋で管理

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