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佐高 信
経済評論家
JANUARY 2013 72
いま、日本の貿易総額の対米比率は一割で、
香港と台湾を含む中国とのそれが三割を占
めている。 それを考えると、石原慎太郎が
火遊び的にブチ上げた尖閣諸島購入発言の
愚かさがクローズアップされる。
『現代思想』十二月号の野中大樹の「『南』
へと向かう八重山」はそのことを具体的に
教える。
「石原さんも変なことしてくれたよ」
沖縄県八重山諸島の石垣島でマンゴー栽
培をやっている島田長政はこう嘆き、
「はっきり言って迷惑な話だよ。 石垣の住
民にとってあの島が誰のものかなんて関係な
い。 何もなかったところにわざわざ事を荒
立てた。 尖閣諸島に上陸でもしなきゃ注目
されない政治家がやっているんでしょ。 政
治家とちがって一般の人は?不労所得?を
得ようとは思っていませんよ」と続けた。
沖縄、とくに八重山諸島と台湾は戦前か
ら長い交流をしてきたし、深い関係を築い
ている。 ある意味では、日本との関係より
台湾とのそれの方が濃いとも言えるのである。
石原発言による中国との関係悪化はそこ
に亀裂を入れた。
「この地に住んでいない人が島にやってき
て政治的な活動をしているのは甚だ迷惑です。
こういう問題に国が出てくるとややこしく
なるし、地域で問題を解決しようという機
運が醸成されにくくなる」
やはり石垣島でガソリンスタンドやホテル
などを経営する大浜一郎はこう語り、
「国は言うべき事は言う必要がありますが、
問題解決の方策が見えないまま出てくると、
余計に問題が大きくなる。 過激なことをや
らないと立場を保てない人が、勝手な宣伝
をする。 こういう時だからこそ地域レベル
での交流を醸成する必要があります」
と腹立たし気に言葉を継いだという。
石原発言に押されて政府は国有化せざる
を得なくなり、それがさらに事態を悪化させた。
事前に国有化の非公式な釈明をしておか
なかった民主党政権の未熟さが石原の愚劣
さに輪をかけてしまったのである。
大浜も島田も、いわゆる「革新」の立場
に立つ人ではない。 保守の人間が石原らを「尖
閣諸島に上陸でもしなきゃ注目されない政
治家」とか、「過激なことをやらないと立場
を保てない人」と批判していることに注目
すべきだろう。 そもそも、島田は台湾から
石垣島に移住した台湾人二世である。 マン
ゴー栽培はじめ、石垣島の農業は台湾人が
教えたものだ。 それで、今年の夏に「台湾
農業者入植顕彰碑」の除幕式が行われている。
「台湾(小琉球)と沖縄(大琉球)は兄弟
のようなものだよ」
こうも語る島田は、沖縄にオスプレイが強
行配備されたことについて、
「俺は台湾人だけど、日本人は沖縄人を同
じ日本国民とは思ってないんじゃないか」
と指摘したという。
また、石原が「シナや台湾の船が領海侵
犯を繰り返しているが、地元の零細漁民を
助ける」と主張しているのを、八重山漁協
の上原亀一は迷惑がり、
「尖閣近海で領海侵犯等違法漁業を行う中
国漁船は少ないですよ。 特に二〇一〇年に
起きた、中国漁船と巡視船の衝突事件以降
はね。 漁師は魚を捕り、それを売って暮ら
しているわけだからトラブルが起きるような
場所には行きたくないわけよ。 それは中国
の漁民も同じじゃないですか。 政治がこう
いう状況だから、お互いに気を遣って船を
出していますよ」
と言ったという。
こうした声を聴く耳を石原は持っていない。
『沖縄タイムス』の社長だった新川明は、
国有化された尖閣諸島を本来の帰属先で
ある沖縄(琉球)に無条件で譲渡した上で、
中国や台湾との共同管理をと提案している。
寝た子を起こした石原慎太郎の尖閣購入発言
過激なポーズで立場を保つ愚劣な政治家たち
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