2013年3月号
特集

物流の「見える化」最新版 第1部 収益の見える化 解説 全販売チャネルの最適化が焦点に

物流の 見える化 特集 最新版 マルチチャネルからオムニチャネルへ  「オムニチャネル」への対応がSCMの最新テーマ に浮上している。
「オムニ」とは「すべて:all」を意 味するラテン語だ。
従来のマルチチャネル販売が、そ れぞれ独立した販売チャネルを並列して走らせていた のに対し、オムニチャネル販売はあらゆるメディアを 通じて全方位的に顧客と結び付くことを目指す。
 米有力百貨店のメイシーズ( Macy's)は二〇一一 年にオムニチャネル企業への変身を宣言し、業態の革 新に本格的に乗り出した。
新たな物流センターを立ち 上げ、RFIDを活用して店頭在庫とセンター在庫 を一元管理。
多様なチャネルのオーダーに迅速に対応 して在庫を引き当て出荷するロジスティクスを構築し た。
店舗における接客にもモバイル端末を導入。
バー チャルとリアルを融合させたサービスで顧客満足度の 向上を図った。
 その結果、同社のネット通販事業の売り上げは飛 躍的に拡大し、同時に既存店売上を伸ばすことにも 成功した。
これを皮切りに他の大手小売業も揃って オムニチャネルへの対応に本腰を入れ始めている。
 ただし、その実施にはサプライチェーンの再構築が 必要だ。
調達先には当然協力が要請される。
ベンダー 在庫にオーダーを引き当て顧客に直送するドロップシ ッピングへの対応を始め、小売りとメーカーの協働に よる販売計画・需要予測・在庫補充、いわゆる「C PFR」の高度化が求められる。
 リアルタイムの在庫情報とオーダー情報から販売計 画、生産計画、計画の進捗に至るまで全てを見える 化して共有することがその前提になる。
気の短い消 費者を満足させるためにメーカーは工場倉庫に小分け 出荷機能を整備して二四時間稼働させる必要が出て MARCH 2013  16 全販売チャネルの最適化が焦点に  現場の問題点をあぶり出すために始まった「見える化」は、 オペレーションの把握からリアルタイムの在庫ステータス 管理へと進み、現在は多様化した販売チャネルを統合管 理するSCMの鍵にその役割を拡大している。
何をいくら でどのチャネルで販売すれば良いのか。
収益の見える化 が答えを教えてくれる。
          (大矢昌浩) 第1部 収益の見える化 解説 くるかもしれない。
 しかし、マルチチャネルはメーカーも同様だ。
法人 向け営業や流通業者を介した間接販売のほか、ネッ ト通販やメーカー直営店など、販売方法の選択肢は 多様化している。
どのチャネルで何をいくらで売るの か。
どのオーダーを優先して、どの在庫に引き当てる のか。
その判断次第で業績が大きく左右される。
 SCMパッケージ大手のJDAソフトウェア・ジャ パンの鈴木洋史社長は「米国のSCM業界ではオム ニチャネルに対応した収益の見える化が現在、最もホ ットなトピックになっている。
従来はB to Bビジネス の在庫配分か、せいぜい航空チケットのプライシング 程度に限られていた収益最大化の仕組みがB to Cに も適用されるようになってきた」と言う。
 販売価格を下げれば、単位当たりの利益は減るが、 販売量は増える。
ただし、在庫には限りがある。
こ のトレードオフを最適化するために、一部の航空会社 は需要と在庫(空席)の動きに合わせてネット上での 販売価格を調整し利益を最大にするリアルタイムプラ イシングと呼ばれる仕組みを導入している。
 サプライヤーと組み立てメーカー間の取引において も、サプライヤー側でオーダーの優先順位を判断し、 引き当てを最適化する仕組みが普及している。
しか し、店頭販売を含めた多様なチャネルで販売される商 品の価格と需要のトレードオフを制約条件下で最適化 するのは、これまでは難しかった。
情報通信技術と SCMの進化によってそれが可能になってきた。
 「日本でも取り組みは既に始まっている。
競合商品 の市場価格の動きを見て、メーカーが自社製品の価格 や在庫の配分をコントロールし、利益を最大化するシ ステムが、この春ぐらいから本格的に動き出す」と 鈴木社長。
見える化の最先端だ。
17  MARCH 2013 見える化の前にやることがある Jコスト研究所 田中正知 代表 たなか・まさとも 一九四一年生まれ。
六七年名古 屋大学大学院修了、トヨタ自動車工業に入社。
九三年 本社生産調査部長に就き、協力会社へのトヨタ生産方 式の指導などを担当。
九五〜二〇〇〇年物流管理部 長。
〇〇〜〇七年ものつくり大学教授(現在は名誉 教授)。
〇七年にJコスト研究所を設立し、リードタイ ム短縮が収益向上に繋がることを実証する「Jコスト 論」の普及などに尽力している。
著書に『考えるトヨ タの現場』(ビジネス社)、『「トヨタ流」現場の人づく り』(日刊工業新聞社)など。
Interview  そもそも何のために「見える化」しなければいけな いのか。
荷物が確実に素早く届くという信頼性が低い から、輸送の経過を見る必要が出てくる。
物流会社も 荷主も、見える化にコストや労力を費やす前に、リー ドタイム短縮と物流品質向上の大原則に取り組むのが 先決だ。
それこそがトヨタ方式の原点だ。
 大事なのは、何のために見るのか。
どうしてそれが 見えなければいけないのか、常に原点に立ち帰ること だ。
物流を「見える化」するのは、そのスピードが遅 いからだ。
あるいは信頼性が無いからであって、確実 にすぐ届くことが分かっているのであれば、誰もいち いち輸送の経過など見ようとはしない。
 物流会社は見える化にお金を掛ける余裕があるくら いなら、どうやったら早く確実に運べるのかをもっと 考えるべきだ。
庫内作業にしても、なぜピッキングと ソーティングが両方要るのか。
到着した荷物を順番に 箱に入れるだけで済まないのか。
商品を一時保管して 寝かしておくのはなぜなのか。
どうして検品が必要な のか。
理由をもう一度よく考えてみたらいい。
 ところがほとんどの物流会社には営業と現場スタッフ しかいない。
メーカーにしても同じようなものだ。
私 は一九九五年から二〇〇〇年までトヨタ自動車で物流 管理部長をやっていたが、その頃から何も進歩してい ない。
ロジスティクスという面ではむしろ後退してい るところさえある。
 メーカーは物流会社に料金を安くしろと言うばかり ではなく、双方がリード タイムの話から始めない といけない。
それなのに コストの話から入る。
値 段ありきで交渉を始める からおかしくなる。
 コストを優先すれば当 然リードタイムは伸びてしまう。
飛行機なら二日半で 運べるところでも船なら四〇日掛かる。
それだけ道中 に多くの在庫を抱えれば、売れなくなれば資金繰りが 苦しくなって当たり前だ。
環境の変化に対応できなく なってしまう。
経営トップも担当者もそういう計算が 分かっていない。
 荷主も物流会社も、見える化の前に、リードタイム短 縮と品質向上に取り組むべきだ。
それこそがトヨタ式の 原点だ。
そうすることでお客が助かる。
自分も儲かる ようになる。
あるべき姿にどう近付けるかが問題であっ て、それが無ければどれだけ見えてもしようがない。
 在庫にしてもメーカーに必要なのは、物流会社がハ ンドリングしている在庫ではなく、販売店やブローカー の在庫だ。
本当に欲しいのは最終ユーザーが買ったと いう証拠だ。
メーカーは売り切ったつもりでいる。
と ころが問屋や小売店に在庫が溜まっていれば、いずれ それが返ってくる。
それで儲かるはずがない。
 そのためメーカーはPOS情報を喉から手が出るほ ど欲しい。
ところが、これは小売業者が出してくれな い。
自動車の場合、B to Cでも毎月の新車登録で一応 実需は掴める。
タイムリーではないものの新車の在庫 がどれだけあるのか把握できる。
しかし、家電や一般 消費財は全く実需が見えない。
業者間取引も分からな い。
それが把握できるようになるのであれば、確かに 見える化も意味が出てくるだろう。
     (談)

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