2013年3月号
特集
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第2部 在庫の見える化 10年掛けたSCM高度化の到達点──リコー
MARCH 2013 24
ていた。
ところが 月中に販売側から 「足りない。
もっと 増産してくれ」と いう要請が頻繁に 舞い込む。
そのた びに臨時作業が発 生して当初の計画 を修正しなければ ならない。
計画通 りに作れば作った で、今度は大量の 在庫が余ってしまう。
欠品と過剰在庫が同時に発 生していた。
どうやったらこの問題を解決できるのか。
試み に国内のアイテム別の日々の入出庫データを使って その推移をグラフ化してみると、それまで月単位で まとめていた時には明確に認識していなかった問 題が、一目瞭然だった。
入庫が出庫よりも明らか に多い。
それでも日別の波動が極端に動くアイテム は頻繁に品不足が起きる。
日次で在庫を管理すれば大幅な在庫削減と欠品 率の改善を両立できるはずだった。
ただし、その ためにはアイテム別のグローバル在庫を日次で把握 する仕組みが必要だ。
当時からリコーは世界四〇数 カ国に販売会社を置いていた。
その全ての在庫を日 次で把握できない限り生産計画に反映できない。
数百億を投じて世界的にERPを導入し、可視 化も一気に実現するという構想もあった。
ただし、 それにはERPに合わせて業務プロセスを標準化 し、製品や部品のコード体系も全世界で統一しな ければならない。
そうすればBPRが実現すると 完成品とモジュール品を統合管理 図1はリコーが二〇〇九年に刷新したグローバル 在庫可視化システム「グローバルインベントリービ ューアー(GIV)」の画面イメージだ。
現時点か ら前後五カ月間にわたる完成品とモジュール品の在 庫の動きを一目で把握することができる。
完成品とモジュール品それぞれについて、「トラ ック移動中」「域間移動中」「輸出港」「集約工場」 「消費地工場」に区分したステータス別在庫量と、 その所有権、オーダーの引き当てが済んでいるかを 色分けしている。
また図中の青線はトータル在庫の理想値、赤とオ レンジの線はそれぞれ上限値と下限値を表してい る。
実際の在庫量がその幅を超えて放置されてい た場合には、本社のSCM推進室がその原因を分 析して関連部署に修正を促し、正常値に戻るよう にコントロールする。
在庫量が上下限の幅に収まっていても、販社在 庫の割合が大きくなっている場合は要注意だ。
需 要以上に在庫を抱え込んでいる可能性がある。
現 地に事情を確認して、問題があれば滞留在庫にな る前に手を打つ。
この仕組みのおかげで同社の在庫量はリーマンシ ョックによる需要の急落に直面した〇九年度、一 〇年度も安定して推移した。
同業他社が連結ベー スの棚卸資産回転期間を四カ月近くまで膨らませ たのとは対照的に、リコーのそれは一・七カ月程 度に収まった。
「GIVがなければ、こうはいかな かっただろう」と冨元克昌SCM推進室長は言う。
同社の在庫可視化の取り組みは一〇年以上前に 遡る。
当時の生産現場は、月次計画に基づいて動い 10年掛けたSCM高度化の到達点 ──リコー 10 年掛けてグローバルな在庫可視化システムを育 てあげた。
ERP やパッケージに業務を合わせるとい うアプローチは取らなかった。
試行錯誤の末に、効 果的な仕組みを低コストで構築することができた。
在庫回転率は年を追うごとに向上していった。
(渡邉一樹) 冨元克昌SCM 推進室長 SCM推進室の蒲俊介 シニアマネジメント 第2部 在庫の見える化 25 MARCH 2013 コンサルティング会社はアピールするが、仕事のや り方を強制的に変えろという指令に各地の現場は 素直に従うはずもない。
なかなか進捗しない改革に業を煮やした当時の トップはERPの導入は時期尚早と判断した。
そ れに代えて、必要に応じて最小限のシステムを自社 開発し、その成果を世界に広げる「ファーストラン ナー方式」でSCMの高度化を進めていくことに 決めた。
SCMの革新に終わりはない 実際、二〇〇〇年に稼働したGIVの最初のバ ージョンの開発費はわずか二一〇〇万円に過ぎな かった。
各地の業務系システムに大がかりな変更は 加えず、既存の「案件管理データベース」のデータ を本社に持ってくるシンプルな仕組みだ。
システムの根幹部分は三カ月で一気に作り上げ た。
だが、グローバルのデータ定義を統一し、マス ター管理をするには時間が掛かる。
そこでまずは 国内だけで、対象製品も絞り込んだ形で運用を開 始、在庫が見えることのメリットを示す実績を作っ た。
「GIVの必要性自体を可視化して、いったん成 果を示したことで、同じ仕組みを海外に展開する ハードルを大きく下げることができた」と蒲俊介S CM推進室シニアマネジメントは当時を振り返る。
経営層の強力なリーダーシップもあって、〇三年に は日米欧の九〇%の在庫を二日後には把握できる 体制が出来上がった。
GIV以外にも自社製品の部品仕入れ先との間 で発注情報や設計情報を共有する「ラベンダーネッ ト」や、大型商談情報を製販で素早く共有する仕 組みなどの立ち上がりに伴い在庫回転率は年を追 うごとに上昇していった。
GIV自身も進化を続けた。
この間に同社の製 造工程は大きく変化した。
その一つとして最終組 み立て工程を後ろ倒しにして完成品在庫を減らす 延期(ポストポーン)戦略を実施した。
アジアから欧州に海上輸送すれば一カ月以上の リードタイムが掛かる。
製品が消費地に到着した頃 には需要は変化している。
そのため部品のモジュー ル化を進めて「集約工場」で集中生産し、半製品 のまま消費地まで運んで現地の「消費地工場」で 組み立てる体制に移行した。
「モジュラー・ビルド・アンド・リプリニッシュメ ント(MB&R)」と名付けたこの生産体制によっ て、モジュール品の在庫と完成品の在庫の統合管理 という問題が新たに浮上した。
これに対応したバ ージョンアップが冒頭に紹介したGIVの刷新だ。
さらに現在はプリンタートナーなどのサプライ品の 可視化システムも稼働させている。
それでも課題は残っている。
蒲シニアマネジメン トは「サプライ品のシステムは完成したばかりで、 現状は水平展開をかけている最中」と気を引き締 める。
システムが出来上がっても、日々のオペレー ションに使われて各部門が連携しない限り効果は 出ない。
SCM推進室の仕事の半分はそのための 調整役だ。
冨元室長は「これまでもどこかにお手本があっ たわけではなく、試行錯誤を重ねながら、次々に 直面する問題を一つひとつ潰してきた。
足下では BCPの観点からサプライヤーの在庫をどう把握す るかという問題が持ち上がっている。
SCMが完成 するということはない」と覚悟を決めている。
特集 物流の 見える化 最新版 図1 グローバル在庫可視化システム「GIV」の画面イメージ 拠点条件 欧州 最新実績日の180日前から120日後まで閲覧可能です。
期間は変更後、必ず確定ボタンを押して下さい。
最新実績日:2011/02/06 期間 2011年1月7日 〜 2011年5月7日 製品条件 MFP−SBU → A.マシン本体 → 全てモデルA 出所:リコー資料より作成 5,000 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 -500 1月7 日 2月3 日 2月6 日 2月9 日 3月2 日 3月5 日 3月8 日 4月1 日 4月4 日 4月7 日 5月1 日 5月4 日 5月7 日 1月 10 日 1月 13 日 1月 16 日 1月 19 日 1月 22 日 1月 25 日 1月 28 日 1月 31 日 2月 12 日 2月 15 日 2月 18 日 2月 21 日 2月 24 日 2月 27 日 3月 11 日 3月 14 日 3月 17 日 3月 20 日 3月 23 日 3月 26 日 3月 29 日 4月 10 日 4月 13 日 4月 16 日 4月 19 日 4月 22 日 4月 25 日 4月 28 日 確定 半完成品の 移動中在庫と 半完成品の 工場内在庫と 前後5カ月間の 完成品の 工場内在庫が表示される 完成品の 移動中在庫と 完成品の 販社在庫と 最新実績日 狙い値(販社_ 製品) 下限値(総量) 狙い値(総量) 上限値(総量) 販社出庫数月間累計 集約工場_ 未引当 集約工場_MB&R 移動中_MB&R 輸出港_ 未引当 輸出港_MB&R 域間移動中_MB&R 消費地工場_MB&R 消費地工場_ 製品 移動中_ 製品 販社_ 製品
ところが 月中に販売側から 「足りない。
もっと 増産してくれ」と いう要請が頻繁に 舞い込む。
そのた びに臨時作業が発 生して当初の計画 を修正しなければ ならない。
計画通 りに作れば作った で、今度は大量の 在庫が余ってしまう。
欠品と過剰在庫が同時に発 生していた。
どうやったらこの問題を解決できるのか。
試み に国内のアイテム別の日々の入出庫データを使って その推移をグラフ化してみると、それまで月単位で まとめていた時には明確に認識していなかった問 題が、一目瞭然だった。
入庫が出庫よりも明らか に多い。
それでも日別の波動が極端に動くアイテム は頻繁に品不足が起きる。
日次で在庫を管理すれば大幅な在庫削減と欠品 率の改善を両立できるはずだった。
ただし、その ためにはアイテム別のグローバル在庫を日次で把握 する仕組みが必要だ。
当時からリコーは世界四〇数 カ国に販売会社を置いていた。
その全ての在庫を日 次で把握できない限り生産計画に反映できない。
数百億を投じて世界的にERPを導入し、可視 化も一気に実現するという構想もあった。
ただし、 それにはERPに合わせて業務プロセスを標準化 し、製品や部品のコード体系も全世界で統一しな ければならない。
そうすればBPRが実現すると 完成品とモジュール品を統合管理 図1はリコーが二〇〇九年に刷新したグローバル 在庫可視化システム「グローバルインベントリービ ューアー(GIV)」の画面イメージだ。
現時点か ら前後五カ月間にわたる完成品とモジュール品の在 庫の動きを一目で把握することができる。
完成品とモジュール品それぞれについて、「トラ ック移動中」「域間移動中」「輸出港」「集約工場」 「消費地工場」に区分したステータス別在庫量と、 その所有権、オーダーの引き当てが済んでいるかを 色分けしている。
また図中の青線はトータル在庫の理想値、赤とオ レンジの線はそれぞれ上限値と下限値を表してい る。
実際の在庫量がその幅を超えて放置されてい た場合には、本社のSCM推進室がその原因を分 析して関連部署に修正を促し、正常値に戻るよう にコントロールする。
在庫量が上下限の幅に収まっていても、販社在 庫の割合が大きくなっている場合は要注意だ。
需 要以上に在庫を抱え込んでいる可能性がある。
現 地に事情を確認して、問題があれば滞留在庫にな る前に手を打つ。
この仕組みのおかげで同社の在庫量はリーマンシ ョックによる需要の急落に直面した〇九年度、一 〇年度も安定して推移した。
同業他社が連結ベー スの棚卸資産回転期間を四カ月近くまで膨らませ たのとは対照的に、リコーのそれは一・七カ月程 度に収まった。
「GIVがなければ、こうはいかな かっただろう」と冨元克昌SCM推進室長は言う。
同社の在庫可視化の取り組みは一〇年以上前に 遡る。
当時の生産現場は、月次計画に基づいて動い 10年掛けたSCM高度化の到達点 ──リコー 10 年掛けてグローバルな在庫可視化システムを育 てあげた。
ERP やパッケージに業務を合わせるとい うアプローチは取らなかった。
試行錯誤の末に、効 果的な仕組みを低コストで構築することができた。
在庫回転率は年を追うごとに向上していった。
(渡邉一樹) 冨元克昌SCM 推進室長 SCM推進室の蒲俊介 シニアマネジメント 第2部 在庫の見える化 25 MARCH 2013 コンサルティング会社はアピールするが、仕事のや り方を強制的に変えろという指令に各地の現場は 素直に従うはずもない。
なかなか進捗しない改革に業を煮やした当時の トップはERPの導入は時期尚早と判断した。
そ れに代えて、必要に応じて最小限のシステムを自社 開発し、その成果を世界に広げる「ファーストラン ナー方式」でSCMの高度化を進めていくことに 決めた。
SCMの革新に終わりはない 実際、二〇〇〇年に稼働したGIVの最初のバ ージョンの開発費はわずか二一〇〇万円に過ぎな かった。
各地の業務系システムに大がかりな変更は 加えず、既存の「案件管理データベース」のデータ を本社に持ってくるシンプルな仕組みだ。
システムの根幹部分は三カ月で一気に作り上げ た。
だが、グローバルのデータ定義を統一し、マス ター管理をするには時間が掛かる。
そこでまずは 国内だけで、対象製品も絞り込んだ形で運用を開 始、在庫が見えることのメリットを示す実績を作っ た。
「GIVの必要性自体を可視化して、いったん成 果を示したことで、同じ仕組みを海外に展開する ハードルを大きく下げることができた」と蒲俊介S CM推進室シニアマネジメントは当時を振り返る。
経営層の強力なリーダーシップもあって、〇三年に は日米欧の九〇%の在庫を二日後には把握できる 体制が出来上がった。
GIV以外にも自社製品の部品仕入れ先との間 で発注情報や設計情報を共有する「ラベンダーネッ ト」や、大型商談情報を製販で素早く共有する仕 組みなどの立ち上がりに伴い在庫回転率は年を追 うごとに上昇していった。
GIV自身も進化を続けた。
この間に同社の製 造工程は大きく変化した。
その一つとして最終組 み立て工程を後ろ倒しにして完成品在庫を減らす 延期(ポストポーン)戦略を実施した。
アジアから欧州に海上輸送すれば一カ月以上の リードタイムが掛かる。
製品が消費地に到着した頃 には需要は変化している。
そのため部品のモジュー ル化を進めて「集約工場」で集中生産し、半製品 のまま消費地まで運んで現地の「消費地工場」で 組み立てる体制に移行した。
「モジュラー・ビルド・アンド・リプリニッシュメ ント(MB&R)」と名付けたこの生産体制によっ て、モジュール品の在庫と完成品の在庫の統合管理 という問題が新たに浮上した。
これに対応したバ ージョンアップが冒頭に紹介したGIVの刷新だ。
さらに現在はプリンタートナーなどのサプライ品の 可視化システムも稼働させている。
それでも課題は残っている。
蒲シニアマネジメン トは「サプライ品のシステムは完成したばかりで、 現状は水平展開をかけている最中」と気を引き締 める。
システムが出来上がっても、日々のオペレー ションに使われて各部門が連携しない限り効果は 出ない。
SCM推進室の仕事の半分はそのための 調整役だ。
冨元室長は「これまでもどこかにお手本があっ たわけではなく、試行錯誤を重ねながら、次々に 直面する問題を一つひとつ潰してきた。
足下では BCPの観点からサプライヤーの在庫をどう把握す るかという問題が持ち上がっている。
SCMが完成 するということはない」と覚悟を決めている。
特集 物流の 見える化 最新版 図1 グローバル在庫可視化システム「GIV」の画面イメージ 拠点条件 欧州 最新実績日の180日前から120日後まで閲覧可能です。
期間は変更後、必ず確定ボタンを押して下さい。
最新実績日:2011/02/06 期間 2011年1月7日 〜 2011年5月7日 製品条件 MFP−SBU → A.マシン本体 → 全てモデルA 出所:リコー資料より作成 5,000 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 -500 1月7 日 2月3 日 2月6 日 2月9 日 3月2 日 3月5 日 3月8 日 4月1 日 4月4 日 4月7 日 5月1 日 5月4 日 5月7 日 1月 10 日 1月 13 日 1月 16 日 1月 19 日 1月 22 日 1月 25 日 1月 28 日 1月 31 日 2月 12 日 2月 15 日 2月 18 日 2月 21 日 2月 24 日 2月 27 日 3月 11 日 3月 14 日 3月 17 日 3月 20 日 3月 23 日 3月 26 日 3月 29 日 4月 10 日 4月 13 日 4月 16 日 4月 19 日 4月 22 日 4月 25 日 4月 28 日 確定 半完成品の 移動中在庫と 半完成品の 工場内在庫と 前後5カ月間の 完成品の 工場内在庫が表示される 完成品の 移動中在庫と 完成品の 販社在庫と 最新実績日 狙い値(販社_ 製品) 下限値(総量) 狙い値(総量) 上限値(総量) 販社出庫数月間累計 集約工場_ 未引当 集約工場_MB&R 移動中_MB&R 輸出港_ 未引当 輸出港_MB&R 域間移動中_MB&R 消費地工場_MB&R 消費地工場_ 製品 移動中_ 製品 販社_ 製品
